バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

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第九十四話

 

 5月5日……。今日がやっと祭りの本番だ。

 

 ここまで本当に大変だった。自分のクラスの出し物の準備、バンドの練習やサプライズの準備など。

 

 ほんの数日だったので、外観の出来はそんなにいいものではないが、どうにかさくらさんを迎えても恥ずかしくない程度にはできあがったと思う。

 

 後は義之が今回のパーティーの主役を連れて来るのを待つばかりだ。

 

 そう思ってると、校門の方が騒がしくなってきた。

 

 見ると、義之がさくらさんを連れてきてるのが見えた。ようやくおいでなすったか。

 

 その様子は瞬く間に全員に知れ渡り、すぐに校庭へ集合がかけられた。そしてグラウンドには到底収まりきらないほどの人で溢れかえり、その分は階段や空き教室などにも待機してもらったりもしていた。

 

 ここまで来ていよいよ主役の登場。朝礼台の上にはちょこんと、昔と変わらない姿のさくらさんが立っていた。

 

『えー……コホン……。実は、ついさっきこのことを知らされたばかりで何も心の準備ができていませんでした』

 

 さくらさんのスピーチが始まり、ゆっくりと間を取りながら紡がれていく言葉をみんな静かに聞き入っていた。

 

『連休中の……本当に短い期間なのに、パッと見ただけでもみんながものすごく頑張ったのが良く判るよ! みんな、すごいね!』

 

「「「おおおおおおおおぉぉぉぉ!!」」」

 

 さくらさんのお褒めの言葉に、全校から大歓声が湧き上がる。

 

『ボクのために、ありがとう!』

 

 さくらさんがペコリ、と頭を下げる。

 

『今日は、思いっきり楽しませてもらうよ! パーティーは、みんなで作るものだからね。みんなも、盛り上がってね!』

 

「「「おおおおおおおおぉぉぉぉ!!」」」

 

『レッツ スタート ザ パーティー!』

 

「「「おおおおおおおおぉぉぉぉ!!」」」

 

 さくらさんの言葉と再び上がる大歓声を合図に、さくらさんの回帰祝いのパーティーの幕が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です。大盛り上りですよ」

 

 俺は挨拶を終えたさくらさんを迎えにいった。

 

「ボクもすごくワクワクしてるからさ。みんなと分かり合いたいしね。もう美味しそうなものや楽しそうなものがそこかしこにあるよ! 全部全部、ひとつ残らず見て回りたいから、ほら行こう行こう!」

 

 そうして俺はさくらさんに引っ張られながらも、今日の主役のエスコートを始める。

 

 

 

 

 

 

「うわー、本当にすごいねー。短期間でこれだけ準備するの、かなり大変だったでしょ?」

 

「大変は大変でしたけど……でも、それ以上にみんな楽しそうでしたよ。さくらさんのためにって気持ちもありましたし、久しぶりに学生時代の気持ちにも戻れましたから」

 

 まあ、本当に学生時代に戻ったように、羽目を外して昔みたいに杉並を捕獲せんと生徒会との奮闘もあったし、また懲りずに『空飛ぶ自転車』を飛ばそうとするのを生徒会に止められたりと、ここまで学生時代を再現せんでもよかったのだが。

 

「にゃはは、そうなんだ。楽しんで準備してくれたんだね、よかったぁ」

 

 さくらさんがくすぐったそうに笑う。その笑顔のためにここまで準備したってもんなんだ。

 

 これを見れば例え今までの労働に不満だった奴がいても、祭りをやった甲斐があると言うだろう。

 

「で、色んな出し物があるけど、義之君のクラスは何してるの?」

 

「あ~、えっと……うちのクラスはですね……」

 

 今になって思えば、勢い任せで『セクシーコスプレパーティー』にしちゃったけど、あそこにさくらさんを連れていっていいのだろうか?

 

 内容だけでもかなりレアな上に、『私たちももう大人なんだし、学生時代よりもっとアダルトに攻めないとね』なんて言い出したので、内容が更にグレートアップされてもおかしくない。

 

 俺は生徒会の手伝いやバンドの練習に、秘密の作業に集中してたおかげで内容の変わりようは知らない。

 

 これはしばらく様子見した方がいいかもしれない。流石に健全な道から大幅に外れることはしないと思うが、あいつらのことだからここは慎重にいった方がいいだろう。

 

「まあ、見に行くのが早いか。じゃあ、早速行こう行こう!」

 

「え、マジですか!?」

 

「マジだよ、早く早く!」

 

 さくらさんに引っ張られ、俺はかつての教室へと連れていかれたのだった。

 

「いややっぱその、もうちょっと様子を見てからの方が……」

 

「あはは、おもしろそうだからいーじゃない! えーっと、この辺だったかな?」

 

「そ、そっちより、最初は屋台を見て回りませんか? チョコバナナとか、甘いお菓子のお店がたくさんありますし!」

 

「くっくっく……旦那ァ……ウチの店を素通りするたぁ、随分と罪だねぇ?」

 

 どうにかここから離れられないかと策を弄しているのに、背後から渉が現れて悪質な客引きを始めやがった。

 

「い、いや、俺たちはしばらく……」

 

「ちいっと覗いてってくださいよぉ! 旦那好みのい~娘が揃ってやすから!」

 

 お前はどこのヤクザだよって思ったが、こっちは今それどころじゃない

 

「ええい、知らん! 悪いが、ここはしばらくナシで──」

 

「よーこそ、芳乃さくら嬢。お待ちしておりましたよ」

 

 ここで更に厄介な奴が来やがった。

 

「あー杉並君! にゃはっ、来ちゃったよ♪」

 

「芳乃さくら嬢は実に運がいい。ちょうど今からスペシャルタイムが始まるところだったんです」

 

「本当? やったー! 義之君、入ろう、入ろう♪」

 

「いや、その前にスペシャルタイムって何だ?」

 

 そんなサービスを導入したなんて、俺は聞いてないぞ?

 

「いいから、たったと入る! ご新規2名様お入りー!」

 

「「「「いらっしゃいませ~~~~♪」」」」

 

「うおぅ!?」

 

 コスプレするとわかってはいたが、こうして並ぶとなんとも壮観だ。

 

 着てるものがバラバラだからなんとも言えない鮮やかさが眩しいくらいだ。

 

「あははは、みんなすごい格好してるねー!」

 

「はいー♪ コスプレパーティーですから~♪」

 

「う~~……こ、こんな格好で芳乃学園長にお会いすることになるなんて……くぅ~」

 

「委員長、それ言わないでよ。余計恥ずかしくなるからー」

 

「月島さんは上着た状態の水着だからまだいいでしょ! 私の格好なんか最悪よ!」

 

「そんなことないわ。見事な女王様の雰囲気が全身から溢れ出てるわ」

 

「私からすれば、それ褒め言葉じゃないから!」

 

「にゃはは、みんなすごい似合ってるよ。かわいいー!」

 

「あはは、ありがとうございますー」

 

「芳乃先生、ゆっくりと楽しんでいってください。これは来店記念のクッキーです」

 

「わー、ありがとー!」

 

「デザートや飲み物メニューもありますから、お好きなのを選んでください」

 

「ただいまスペシャルメニューとなって、すべて無料となっておりますので」

 

「わ、タダなの? すごいね、義之君」

 

「そ、そうですね」

 

 なるほど、さくらさん限定のサービスだったのな。店員の格好以外は大丈夫そうだ。

 

 まあ、思わず身構えちゃったけど、今回はさくらさんが主役のパーティーなので、さくらさんに対しては全てが無料で楽しめるというサービスを導入してるわけなので金欠で特定の店のメニューが楽しめなくなるようなことはない。

 

「メニューも美味しそうなのがいっぱいある。ここは……カフェ屋さん?」

 

「いえ、マッサージ屋さんです♪」

 

 ちょっと待て! そんなのはこれっぽっちも聞いてないぞ! ていうか、マッサージ屋だったらこの種類豊富なメニューは一体何なんだよ!

 

「では、早速当店スペシャルマッサージに2名様ご案内で~す♪ では、サービスお願いしまーす♪」

 

「は~い!」

 

 それから奥からメイド服を着た美人が出てきた。なのだが……。

 

「あれ? うちのクラスにあんな人いたか?」

 

 よくよく思い返してみるが、全く思い当たる人物がいない。いくら年を経たからって、学生時代から思いっきり顔貌が変わるなんてまずないと思うが。

 

「ん~……どっかで見たような~」

 

 さくらさんも小首を傾げながら記憶を辿ってるのだろうが、思い当たる人がいないようだ。マジで誰なんだ?

 

「ほらほら~♪ この際、ぶっちゃけたら~?」

 

「…………僕です」

 

 そう言って美人さんは自身の長い髪の毛を取った。否、あれはカツラか。ていうか……。

 

「……明久?」

 

「……あい」

 

「えーっ!? 明久君だったの!? ビックリ!」

 

 さくらさんが大げさに両手を上げてびっくりの度合いを表現した。俺も、度合いを表そうとすればそうしていただろう。

 

「お、お前……何で、女装?」

 

「……セクシーコスプレパーティーなんだから、素質ある奴は女装してサービスしろって杏ちゃんが……」

 

「そ、そうか……」

 

 そういえば、こいつの女装の素質はかつての体育祭で実証済みだったな。

 

「すごーい! とっても可愛いよ、明ひ──明子ちゃん♪」

 

「わ~♪ 明子ちゃんですか~!」

 

「じゃあ、あなたはここでは『吉井明子』で決定ね」

 

「やめてええええぇぇぇぇ!!」

 

 明久が頭を抱えて悲鳴を上げた。ああ、その……ドンマイだ、明久。

 

 俺は床に泣き崩れる明久に合掌した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからもさくらさんとはあちこちの店を回ったりした。

 

 由夢や音姉のクラスの出し物など、身内や知り合いのいるクラスを中心に回り、バンドも終えた。

 

 いやあ、またギターやろうかと本気で思った。何処でミスるか生きた心地がしなかったし。さくらさんは満足したようだが……。

 

 バンドも終えてようやく体育館から出ようとした時だった。

 

『レディース・アーンド・ジェントルメーン! 卒業生及び、在校生の皆々様、大変長らくお待たせしました!』

 

 体育館に杉並の声が響いた。遂に動き出したか……。

 

 あいつ、今度は何を始める気だ?

 

『皆さん、このパーティーを楽しんでおられるでしょうか? 芳乃さくら嬢の回帰、進路の都合上別れた仲間との再会、告白せずじまいのあの人との運命の再会など、淡い色の青春の再来に歓喜の声を上げる者もいよう!』

 

 スピーカーからそんな話を聞かされ、体育館内に残ってる生徒たちがバンドの時と同様に盛り上がる。

 

『だが、皆々様! これでもまぁだぁ、足りないとは思わないか! 気の合う共と語らい、話に華を咲かせるのもいいが、このパーティーにも華を咲かせたいとは思わんか!』

 

 杉並のまどろっこしい言い方に館内の生徒たちが何だ何だと囁き始める。

 

『特に男子諸君は思うだろう。かつてこの学園に咲いた花々を……色とりどりの衣装に身を包んだ乙女たちを!』

 

 その言葉に会場内にはまさか、という空気が広がった。

 

『そう! 今、ここに再び開こうではないか。風見学園の祭典のメインイベントと言っても過言ではない……卒業生及び在校生を交えた奇跡のイベント、飛びっきりスペシャルなミスコンを!』

 

『『『うおおおぉぉぉぉぉぉぉ!?』』』

 

『では、ミスコンを始める前に司会の板橋渉からの選手紹介を始めたいと思います!』

 

「はーい! バトンタッチされて、じゃじゃじゃじゃーん! 司会を任されました、自称風見学園の夢見るロマンチックイケメンボーイ、板橋渉! みんな拍手!」

 

『『『おおおぉぉぉぉぉ!』』』

 

 夢見るっていうか、お前の場合は妄想だろうが。

 

「さあ、始める前に質問ひとーつ! こんなのは聞くまでもないだろうが……みんな、綺麗な女の子は好きかぁー!?」

 

『『『好きだああああぁぁぁぁ!!』』』

 

 渉の質問に、館内の観客全員が声高らかに応えた。

 

「だろだろ! そして今回ここに、みんな大好き、綺麗で、可愛い、時に妖しい……そんな様々な女性がこのステージに上がるんだ! みんな……嬉しいだろぉー!?」

 

『『『当然だああああぁぁぁぁ!!』』』

 

「さて、前置きはここまでにして……今世最大のイベントと言っても過言ではない、卒業生と在校生全ての可愛い女の子をお呼びしました。守ってあげたくなる可愛いあの子、お姉さまにしたい理想の年上の女性。時々キツイけど、根っこは優しいツンデレの彼女。それぞれ違ったタイプの女性が大勢参加しますので、みんな盛り上がってこうぜ!」

 

『『『おおおおぉぉぉぉ!!』』』

 

「さてさて! もう、みんな待ちきれないだろうからとっとと参加選手の紹介に移りましょいや!」

 

 観客の熱を煽るだけ煽ってようやく紹介が始まる。これだけの熱は当分冷めることはないだろう。

 

 アイツをこの手のイベントの司会にしたのは適材適所だな。アイツ、こういったイベントめっちゃ好きだし。

 

「ではでは、ミスコン参加者の紹介いきまーす! まず一人目! 卒業しても尚、その名を残している風見学園を代表する才色兼備を体現する完全無欠の元生徒会長、朝倉音姫──っ!」

 

『『『うおおおぉぉぉぉぉ!! 生徒会長ぉぉぉぉ!!』』』

 

「あはは、もう生徒会長じゃないけど……よろしくお願いします」

 

「──って、音姉っ!?」

 

「あらら……音姫ちゃん、出るんだ」

 

 最初からまさかの紹介メンバー……音姉がミスコンに出てるなどとは。

 

 このミスコンが開催されることだってかなりの驚きだったというのに、更に予想外の出来事が重なった。

 

「続きまして、清楚で可憐、かつて風見学園の妹を務めてくれた、朝倉由夢ぇぇぇぇ!」

 

『『『ふぉおおぉぉぉぉ!! 由夢ちゃああぁぁぁぁん!!』』』

 

「あはは、随分と……照れますね」

 

「って、由夢までぇ!?」

 

 普段ならこんな行事なんてかったるいで済ませるようなあいつまで参加するって……杉並の奴、どんな手を使って?

 

「どんどん行くぜぇ! キュートなルックスに最高の歌声。かつて学園が誇ったスーパーアイドル、白河ななかぁ!」

 

『『『ななかちゃああああぁぁぁぁん!!』』』

 

『『『ぜひとも、もう一度歌を────っ!!』』』

 

『『『そして俺たちの愛を────!!』』』

 

「あはは。みんなやっほ──! 白河ななかでーす! 好きなのは歌と看護! ただいま恋人と絶賛お楽しみ中です!」

 

『『『ぐほっ!』』』

 

 白河の最後の一言で、彼女のファンが一気に崩れ落ちた。哀れだ……。

 

「続いて、おっとり普通の……だが、だからこそ魅力的な美少女、月島小恋ぉぉぉぉ!」

 

『『『待ってましたああああぁぁぁぁ!!』』』

 

「あはは、月島でーす」

 

「月島あああぁぁぁぁぁ!!」

 

 いや、司会者が歓声上げてどうすんだよ。

 

「さて、まだまだいるぜぇ! 我ら男子の夢をその胸に詰めた魅惑のボディーの持ち主、花咲茜ぇ!」

 

『『『わーっ! わーっ! 乳っ! 乳っ! 顔、埋めたい──!』』』

 

「んもー、茜さんの魅力はそこだけじゃないよ。色んな部分でみんなを悩殺しちゃうから♪」

 

『『『ハラショ────ッ!!』』』

 

 茜にも彼氏がいるって言ったらあいつら、どんな顔をするんだろうな。

 

「続いて、狙った獲物は逃がさねえ。地獄に咲いたマッドロリータ、雪村杏ぅぅぅぅ!」

 

『『『うおおおおおぉぉぉぉぉ!!』』』

 

『『『ぜひ、踏んでくださいぃぃぃぃ!!』』』

 

 ドMの変態ばかりか、この会場にいる奴は……。

 

「次に真面目なメガネがクールビューティー。だが、時折見せる笑顔にハートをズギュンと打ち抜かれるぞ、我らの永遠の委員長、沢井麻耶! 通称、マーヤー様ぁ!」

 

『『『マーヤー様ぁぁぁぁ!!』』』

 

「こらぁ! マーヤー様ゆーなぁ!」

 

「委員長まで……」

 

 あの真面目な委員長まで参加するとは、本当にどんな手を使ったんだ杉並は。

 

「野郎ども、まだ終わりじゃねえぜ! 次行くぞぉ! 元気が魅力のパワフル美少女、牛柄帽子がチャームポイント、天枷美夏ぅ!」

 

『『『キタァァァァ! バナナ少女ぉぉぉぉ!!』』』

 

『俺、毎日バナナ食べてますぅ!』

 

「あはは。そうだ、健康のために、ドンドンバナナを食え!」

 

「いや、意味がわからん」

 

 もう、誰が来ても驚かんぞ……。

 

「まだまだぁ! 杉並を超えるため、卒業した今も走り続ける非公式新聞部の永遠の宿敵、元生徒会副会長にて、疾風怒濤のハイジャンパー、高坂まゆきだああぁぁぁぁ!」

 

「やっほー!」

 

『『『きゃ────! お姉さま────っ!!』』』

 

「なんとぉ! 女子の黄色い声援が多数を占めているぅ! よっ! おっとこ前っ!」

 

「誰が男前だぁ!」

 

 前言撤回……まさか、どう考えても杉並が何か企んで開催しただろうミスコンにあの人が出るとは……。

 

 あの人がミスコンに出たら誰が騒動を止めるんだよ。

 

「さて、今代在校生にとって真打ちとも言える、絶対可憐のお姫様、エリカ・ムラサキ──っ!」

 

『『『姫様ぁぁぁぁ!! 是非俺たちをしもべにぃぃぃぃ!!』』』

 

『というか、わたくしめをお城にご招待してええぇぇぇぇ!』

 

「うふふ、皆さん、よろしくお願いしますわ」

 

「現生徒会長まで参加って……本当にどうなるんだ、このミスコン……」

 

 それからもかつてのミスコン経験者の名前がどんどん並んでいく。もう30人は越えたな。

 

「そして最後に……和服の似合う黒髪ロング、寡黙な絶世の美女、霧島翔子ぉぉぉぉ!」

 

『『『うおおおおぉぉぉぉぉ!!』』』

 

「……は、『雄二にしか興味がない』とのことで、残念ながら不参加でしたぁ」

 

『『『えええぇぇぇぇぇ!!』』』

 

 霧島が参加しないことがわかると、会場から一気にブーイングの嵐だ。

 

「だが、これだけでもう腹パンクするだろう! この女性の方々が、その美貌をお前らに見せつけてくれるぜぇ! どうだお前ら、嬉しいかぁ!」

 

『『『当然だああああぁぁぁぁ!!』』』

 

「さあさあ! 選手紹介も済んだところで、いよいよ皆様お待ちかね! ミスコンの始まりだぁ! ちなみに審査は2回に分けられ行われます! 2回に分けられてると言っておりますが……審査はどちらもファッションアピール! ただしぃ……1回目が通常のファッションに加え、特技かチャームポイントのアピールときまして……1回目の投票で厳選され、勝ち残った女性たちは、2回目で……なんと水着だあああぁぁぁ!」

 

『『『おおおおおぉぉぉぉぉ!!』』』

 

「もう水着の審査が待ち遠しいか、みんなぁ! だが、物事には順序があんだ。ここはみんなも観客として真面目に魅力溢れる女性たちのためにじっくり待って、華を着飾った女性の姿を眼に焼き付ける準備をしてろ!」

 

『『『うおおおおぉぉぉぉぉ!!』』』

 

「つうわけで! 早速、くじ引きで順序を決めたところで、なんと最初から大本命と言っても過言ではない! かつて我らが誇り、学園のスーパーアイドルの白河ななかだぁ! やっぱりこの子がいなきゃミスコンは始まらねぇ!」

 

「こんにちはー! 白河ななかでーす!」

 

 なんとも白河らしい軽い挨拶だった。ちなみに衣装は和服だった。

 

「なんと! 和服! 和服です! ザ・和服! 日本が誇る清楚で慎ましい晴れ晴れしい衣装で登場です!」

 

『『『な・な・か! な・な・か! な・な・か!』』』

 

 自然と湧き上がるななかコール。まだ登場したばかりだというに、盛り上がりは既にトップスピードだ。

 

「えへへ。これ、両親が正月の時に用意してくれたものです。いやあ、着物って、正月以外に着ることって中々ないんですよね。で、そのままってのももったいないので今回着てみました。でも、ちょっと帯が苦しい」

 

『ジャパンビューティー!』

 

「さて、ここで問題です。この審査で私がアピールするのはなんでしょうか? 正解は歌です!」

 

 観客が答えるのも待たず、本人が正解を言った。それに観客たちがドッと笑った。

 

「では、時間も押しているので早速今日のサポートをしてくれる方を呼びましょう! マイダーリンこと吉井明久君でーす!」

 

「ちょっとななかちゃん! その紹介は恥ずかしすぎる!」

 

 舞台の脇から顔を赤くした明久がキーボードを引きずって出てきた。

 

『『『死ね! 吉井明久ぁ!』』』

 

『よくも俺たちのななかちゃんを独り占めしてくれたなぁ!』

 

『ななかちゃん、よこせぇ!』

 

「ゴラァ! 今言ったの誰だぁ! 喧嘩なら買ってやるからこっち来いやぁ!」

 

 明久が登場して会場の男子たちからブーイングの嵐。そして、喧嘩売ってるし。

 

「にゃはは……相変わらず賑やかだねぇ、明久君は」

 

「あはは……」

 

 賑やかで済ませていいものかどうか。

 

「明久君、準備はいいかな?」

 

「いつでもどうぞ!」

 

「ていうことでみんな! 最初から飛ばすから、ついてきてね!」

 

『『『おおおおぉぉぉぉぉ!!』』』

 

「では、聞いてください! 『きらきら星をあげる』!」

 

 それから明久のキーボードから流れる旋律を始め、白河の歌声が館内に響き渡る。

 

「みんなー! ありがとう!」

 

 歌声がなり止むと同時に今度は拍手の音が響き渡り、ななかのアピールタイムが終了する。これじゃあ、ミスコンというよりもライブだな。

 

 拍手の音と共に白河と明久が舞台袖へと引っ込んでいった。

 

 序盤からかなり盛り上がってるな。これなら次のアピールタイムも楽しめそうだ。

 

「白河ななかさん、ありがとうございました。それでは、熱狂冷めやらぬ中ではございますが、次の方に登場していただきましょう! ところで皆様ぁ……可愛い女の子は好きですかぁ?」

 

『『『好きだあああぁぁぁぁ!!』』』

 

「毒舌な女の子は好きですかぁ?」

 

『『『好きだあああぁぁぁぁ!!』』』

 

「このミスコン、様々な趣味嗜好をお持ちの皆様のご期待に応えるべく、色々なタイプの女性をご用意させていただいております! それでは、2番手はこの方。ミステリアスな毒舌美少女、雪村杏さんのご登場です!」

 

 盛り上がった観客の拍手と共に杏が舞台袖から飄々と現れた。

 

「雪村杏です」

 

「なんと! あの悪魔も真っ青な毒舌を発する雪村杏さんが、まさかの天使の衣装!?」

 

『杏様あああぁぁぁぁ!』

 

 なんだかんだで、杏も結構人気あったんだよなぁ。しかし、まさかあいつが天使とは……あいつの性格を知ってる故にとんでもないギャップ感が。

 

「好きにアピールをしていいとのことだけど、私が好きにやると生徒会とかに怒られそうなので今回は控えめに」

 

『『『えええぇぇぇぇ!?』』』

 

 観客席から残念そうな声が響く。ていうか、止められなかったら何をする気だったんだ。

 

「だから、今日は普段あまりやらないことに挑戦してアピールをしたいと思うの。てことで渉、例のものを」

 

「ほ、本当にいいのか?」

 

 どっから用意してきたのか、両手に何かを持った渉が恐る恐る杏に問う。

 

「ごちゃごちゃ言ってないで、早く持ってきなさい」

 

「ははっ! かしこまりました!」

 

 あのやりとりは仕込みなのか、素なのか、ともかく会場にまた笑いが溢れた。

 

 そして、渉が持ってきたもの。それは……

 

「激辛カレーよ」

 

 何故にカレーだという疑問と見た目からして辛そうという疑問が会場内で浮かび上がっていく。

 

「実は私、辛いものが苦手なの。普段は食べないこの激辛料理を食べて、普段は見せないギャップ萌えってやつを感じてもらうわ」

 

 杏にしてはドMな挑戦だった。

 

「では、いただきます」

 

 会場内の杏に対する心配そうな視線を他所に、杏がカレーを一口。

 

「あむ……むぐ…………っ! もう……無理」

 

 あの杏が涙目になっていた。

 

『『『ふぉおおぉぉぉぉぉぉ!?』』』

 

『『『可愛いいいいぃぃぃぃぃ!!』』』

 

「い、以上……雪村杏でした」

 

「雪村杏さん、ありがとうございました! いやぁ、学生時代でも見せたことのない貴重なシーンを見せてもらいました! 彼女の勇気に、今一度。盛大な拍手をお願いします!」

 

 会場内に再び拍手の音が響いた。あれはすごい。

 

 狙ったとはいえ、自分の身を削るようなアピールをよく選んだものだ。その甲斐あってか、かなりの人気を集めた。

 

 天使の衣装にしたのはあのギャップ萌えを狙ったからか。俺も一瞬クラっと来たぞ。

 

「さて、お次は何が来るのか。その豪快な走りでことごとく女心を虜にした学園きってのスプリンター及びハイジャンパー! 高坂まゆきさんだあああぁぁぁぁ!」

 

「いよっ! お待たせしましたあああぁぁぁぁ!」

 

「なんとおおおぉぉぉぉ! 紹介のまんま、彼女の衣装は陸上のユニフォームだああぁぁぁぁ! なんとも爽やかなスタイル!」

 

『『『きゃあああぁぁぁぁ! お姉様あああぁぁぁぁぁ!!』』』

 

「おっとー、一気に女子からの黄色い歓声だー!」

 

 白河や杏たちとは違う、女性人気が高いのが彼女の強みだろう。

 

「えー、今回の衣装なんですけど、色々悩んで、結局これにしました。やっぱり、こういった格好が一番自分らしいっていうか、素の自分でいられるんで。ま、ミスコンで着るには色気はないけどね」

 

『『『カッコイイからいいんです────っ!』』』

 

「あはは、ありがと。さて、アピールの方なんだけど……ここじゃあ、棒高跳びも100mはおろか、50mもできないしね。だから、ちょっとした体操技でも披露することにしました」

 

「おお! なんとも高坂まゆきさんらしいアピールポイント! 女子たちから高い期待が寄せられること間違いなしぃ!」

 

 確かに、会場内の女子たちが思いっきり期待の眼差しを舞台に向けている。

 

 まゆき先輩は舞台袖まで移動すると、数メートル助走をつけ、両足でダン、と踏み込み、勢いを殺さないまま側転、バック転、三宙半ひねりを披露した。

 

「お見事! 皆様、ダイナミックな技を披露した高坂まゆきさんに盛大な拍手を!」

 

 会場が震えんばかりの拍手の嵐が鳴り響いていく。

 

「ありがとー! 以上、高坂まゆきでしたー!」

 

 女子からの黄色い声援を受けながら舞台袖へと引っ込んでいくまゆき先輩。

 

「すごい人気だったなあ、まゆき先輩」

 

「うむ。制服でなく、あの姿で追いかけられてたら……すぐに掴まってしまいそうな気がするのは、何故だ」

 

 いつの間にか隣に来ていた杉並がそんなことをつぶやいていた。

 

「ははは、何気にすごい効果だな。まゆき先輩に伝えておくよ」

 

「余計なことは言わんでよい」

 

 もう、卒業してるんだから時効だと思うんだけどなぁ。いや、まだパーティーは終わってないんだからまだ有効期限かな。後でこっそり教えてやるかね。

 

「さて、皆さん。そーろーそーろー、セクシーな美女を拝みたいと思いませんか?」

 

『『『思う思ーう!!!』』』

 

 幾人かの女子を紹介してから渉がまた観客の心を誘導して盛り上げる。

 

「特に男子生徒はそう思ってますよね!?」

 

『『『当たり前だぁ!』』』

 

「では、行きましょう! お次は、我らが男子の理想のボディを持つ美少女、花咲茜さんに登場していただきましょう! では、花咲茜さん。オン・ステージ!」

 

「はいは~い! 花咲茜でーす! 今日はよろしくね~!」

 

『『『わ────っ!!』』』

 

「なんとっ! 花咲茜さんはチャイナドレス! それも、ミニスカバージョンッ!!」

 

 あちこちから黄色い歓声が。あいつも、男女問わず人気者だな。

 

「本来なら、ここで勝ち残るために水着っていうのが定番なんだろうけど、それは2次審査までお預けなんだよねー」

 

『『『そんなああああぁぁぁぁぁ!!』』』

 

 男子たちが嘆いているが、どうせあいつが残ればまた見られるんだ。

 

 こういったイベントであいつが予選落ちみたいな場面が想像できない。

 

「ちくしょう……誰だよ。審査を2回に分けた奴……」

 

 なんで司会のお前が悔しがってるんだよ!

 

「実は~、こう見えても私ってお料理とか裁縫が得意なんだよ? 知ってた?」

 

『『『もちろん、知ってまーす!』』』

 

「本当かな~?」

 

 そんなやり取りもあって、会場内の空気がまた沸騰する。

 

「だから今日は……お料理を作ってきました~。みんな、食べたい~?」

 

『『『食べたーい!』』』

 

「それじゃあ、代表として私の愛しの秀吉君に食べてもらいま~す!」

 

『『『何ぃぃぃぃぃぃ!?』』』

 

 茜が愛しのという言葉を発すると、男子たちの怒号が乱れ飛ぶ。

 

「では秀吉君、どうぞ」

 

「う、うむ」

 

 木下が舞台袖から出ると、会場内が一気に静まり、代わりにヒソヒソと話し声が聞こえてきた。

 

『あれ? あの人……女?』

 

『いや、制服は男子のだし……』

 

『そういえば聞いたことあるぞ。少し昔、演劇部のホープって言われてた超天才の部員が演劇部を引っ張ってたって……』

 

『その人の役は常に女性で……下手な女優よりよっぽど演技力あるって評判だった』

 

『それが……彼、いや……彼女?』

 

「待つのじゃ! 話が思いっきり聞こえとるぞ! 儂は正真正銘の男じゃ!」

 

 木下の女性疑惑は未だ根強く残っているようで。同情するぜ。

 

「では花咲茜さん、お持ちいただいた料理の発表をお願いします!」

 

「じゃじゃーん! 肉じゃがです!」

 

 そうして登場した肉じゃが。端っこのここにまでその匂いが漂ってくるぜ。

 

「うおおおおぉぉぉぉぉ! これはまたうまそうな匂いだぁ!」

 

「で、では……いただこう」

 

 そして木下は用意された箸で肉じゃがを一口食す。

 

「……うむ!? これは……肉とじゃがいもに少々たまねぎというごく普通の料理構成じゃというに、このうまさはなんじゃ!?」

 

「これは、花咲茜さんの料理大絶賛! つか、俺も食いてええぇぇぇぇ!」

 

「もしも私がこのミスコンで勝った暁には、皆に私の手料理を食べさせてあげるから、応援よろしくね♪」

 

 勝たせたかったら、自分に投票しろっていう魂胆か。流石茜……抜かりない。

 

「以上、花咲茜さんありがとうございました! 司会の立場でありがなら、彼女の手料理を食べるために彼女に投票したくなっちゃいますなぁ! くううぅぅぅぅ!」

 

 ちゃんと司会の仕事しろよ、渉。

 

「さてさて、ミスコンもいよいよ中盤戦……だなんて思ってる方がいらっしゃいますか?

 言っておくが、まだまだ序盤だぁ! プロローグなんだよ! みんな、わかってるよな!?」

 

『『『当然だぁ』』』

 

『この風見学園のミスコンがこれで半分も言ったなんて言う奴はいねえ!』

 

『まだ俺の推しの人が出てないのに、そんな寝言抜かすかぁ!』

 

「結構っ! ではお次に移りましょう! ……と言いたいとこだが、参加人数が多いからなぁ。それに、時間もお昼に差し掛かる頃。まだ祭りの店回ってない奴もいるだろうし……腹が減っては戦はできねえからな。参加する女子たちの英気を養う意味でも、ここらで一旦休憩を挟みたいと思います! 続きは、午後の1時からスタートとします。それまではみんなもメシ喰って次の闘いに備えろ! まだまだミスコンの本当の素晴らしさはこれからだ!」

 

『『『おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!』』』

 

 この調子じゃ休憩でもみんなの熱は冷めそうにないな。

 

 俺も続きが見たいって思うし、次まで俺たちも何か食べとくか。まだ先は長そうだし。

 

 俺はさくらさんを連れて再びセクシーパジャマパーティーへと足を運んだ。あそこのマッサージはリラックスに丁度いいとのことで。

 

 さくらさんはそうなんだろうけど……俺にとってあそこはもう地獄なんですよ。

 

 食事をしてからのマッサージ中、俺は杏と茜の手による足裏グリグリと背中サスサスという天国と地獄の板挟みを味わった。

 


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