バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

90 / 97
第八十九話

 

 霧に覆われた世界に桜の花びらが舞っている。

 

 たくさんの祈りが込められ、たくさんの想いに彩られ、たくさんの希望で満ち満ちた、薄紅色の花びら……。

 

 ひらり、はらりと、霧に霞む夜に舞い、風に踊り、ゆっくりと地上に落ちていく。

 

 世界は、いつだって綺麗で、優しくて、楽しいものばかりとは限らない。

 

 辛いことも、苦しいことも、悲しいことも、痛いことも、歯がゆいことも、泣きたいことも、苛立たしいことも、黒いことも。

 

 色んなことがあって、迷い、惑い、戸惑い、間違い、時には立ち止まり、振り返り、引き返し、また迷う。

 

 けれど、ボクたちは前に進み続ける。その先にあるのはきっと希望だから。

 

 楽しいことがたくさん待っているはずだから。だから、前に進んでいく。

 

 そんな前向きな想いが、夢が、ボクの中に入っていって、それが大きな希望の花を咲かせた。

 

 こんなにも大それた魔法を見れたのは、これで2度目(・・・)

 

 もういつの話だったか、そんな大それた魔法を使う人だいたな。

 

 その人は魔法使いじゃないけど……その心から発せられる想いはものすごく大きなものだった。

 

 あの優しさで、何人の心を救うことができたんだろうか。

 

 ボクの脳裏には、大切な人の顔が浮かんでいる。ボクの大切な人の笑顔。

 

 彼は、あの笑顔を守ってくれた。そしてボクも、きっとあの子たちに会える。

 

 だからこそ、ボクはこの世界に導かれたのかもしれない。

 

「さあ、ボクの居場所(おうち)に帰ろう」

 

 そう声に出した瞬間、ボクの身体がふわっと浮かぶような浮遊感に包まれた。

 

 意識は徐々に薄らいでいく。

 

 最後にボクの目の前に見えたのは、この世界でできたボクの大切な人達だった。

 

「***、****、**、**、*……**、**、**、**、そして**……バイバイ」

 

 みんなと同じ時を共にできないことや、ボクの居場所(おうち)を見せてあげられないことが残念だった。

 

 でも、これ以上を望むのは贅沢すぎるかもしれない。

 

 それから、ボクの意識が光の中に吸い込まれるような気がした。

 

 意識が薄れていく中、みんなの声が聞こえた気がした。

 

「ん、んん……」

 

 最初に感じたのは懐かしい匂いだった。

 

 海から運ばれた潮の香りと、地面から立ち上る土の匂いと、春を感じさせる桜の香り。

 

 続いて視界が広がり、世界に色が戻る。音が耳に届く。

 

 足元には地面をしっかりと踏みしめる感触。胸いっぱいに空気を吸い込んで、周囲を見回した。

 

 それは見慣れた景色。色んなことがあった、大切な想いの残る、ボクの居場所だ。

 

 桜が多いことで有名な初音島の中でもとりわけ桜が群生しているこの場所。

 

「どうやら、ちゃんと帰ってこれたみたいだ」

 

 そして、ボクが無事帰ってこれたということは、あっちもうまくいったということなのだろう。

 

 そして不思議に思った。

 

「あれ? なんで君はここにいるの?」

 

 目の前には周りのものと比べてひときわ大きな桜が立っていた。

 

 確かボクはこの桜を枯らせ、更に……って、そうか。あれは飽く迄……だったね。

 

 よく見れば雄大な姿の中にはほんの少し、本当に僅かしか願いを叶える力が残っていなかった。

 

 けれど、ほんの僅かとはいえ、まだ残っていたのか。

 

 この程度で起こせるものはほんの囁かな奇跡だけだ。例えば、春以外の季節にも花を咲かせるだけの小さな奇跡。

 

 でも、それで十分だと思う。一年中桜が咲いているなんてのはやっぱりすごく素敵なことだし。

 

 魔法なんてものに頼らなくても、人が幸せな未来を望む力はとてもすごいことだっていうのは、もう知ってるから。

 

「もし、いつの日か……あの約束を叶える機会があったら、その時は飛びっきりの花を咲かせてね」

 

 ぽん、ぽんと、優しく木の幹を叩く。それはずっと自分を見守ってくれたこの木をねぎらうように。

 

 そして、弱かった過去の自分に別れを告げるように。

 

「さてと、ではおうちに帰るとしますか」

 

 そう呟いて振りかえったところでボクは目を見開いた。

 

 遠くから駆けてくる小さな影。何かを叫びながら近づいてくる。

 

 すごく嬉しくて、本当に嬉しくて、ボクは思わず駆け出す。

 

 それが誰だかなんて確認するまでもなかった。一目見ただけですぐに誰だかわかったから。

 

 それはボクがこれまでずっと会いたかった人だから。

 

「さくらさーん!」

 

 その人の声がボクの耳に届く。その声を聞いて、近づくにつれその姿がハッキリとわかって、ボクは全身を投げ出した。

 

 ぽん、という衝撃が走ると同時に愛しい温もりと懐かしい匂いを感じた。そして、

 

「お帰りなさい、さくらさん」

 

 優しい言葉が降ってきた。見上げると、眩い夕焼けの光の中で、ボクの宝物の笑顔が輝いていた。

 

 言いたかったことはたくさんある。積もる話も山ほどあるし、たくさんお話もしたいし聞かせてほしい。

 

 でも、とりあえず一言だけ。ボクは万感の想いを込めてその言葉を口にする。

 

「うん、ただいま。義之君」

 

 この一言で、ようやく戻って来れたんだと実感できた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ピリリりりり!

 

「ん? こんな時間に電話?」

 

 僕はベッドに置いてあった携帯を手にとって通話ボタンを押した。

 

 着信相手は……義之か。

 

「はい、もしもし?」

 

『よう、明久。今、大丈夫か?」

 

「うん。これから風呂にって思ってたけど。随分久しぶりだね」

 

『そうか? えっと……前に電話で話したの、どれくらい前だったか?』

 

「正月には直接会ったし、由夢ちゃんの卒業は本人宛だったから……電話だと軽く3ヶ月はいってるね」

 

『そんなにか……そっちは学生としてだけじゃなくて、腕試しという意味でも時間が取りにくいからな。お前、雑誌にも名前が出てるくらいだからな』

 

「そっちの雑誌にも出てるんだ……僕の名前」

 

『そりゃあ、お前の料理なら当然だと思うぜ。慎さんだって、お前の名前を見る度真っ先に取材に行きたいって言ってたし』

 

「あはは……そこまで言われると……でも、由夢ちゃんが卒業したってことは、もう僕らは卒業2年か。早いもんだな~」

 

『確かに……』

 

 2年前、僕らは風見学園を卒業した。そして、同時にそれぞれの進路に進むことになった。

 

 親友である雄二は霧島さんと共に本島の一流大学を受験して合格し、そこでかなりの上位を勝ち取ってるもよう。

 

 ついでに言うと、卒業と同時にようやくくっついた。随分時間かかったじゃないかと思って雄二に色々言うと本人曰く、『何年も待たせたんだから、告白の手順くらい俺の計画通りにやらせろよ』とのこと。

 

 意外とロマンを大切にしてるんだなと、僕や義之たちもあの時は意外すぎて呆けていたよなぁ。

 

 それから2人は同じ大学で経営学を重視して勉強を続けている。どうやらこっちで腕のいい実業家になって大きな会社というか、財閥を築きあげていくと張り切っているようだ。

 

 あの2人ならそこらへん、実現できそうだ。

 

 次に秀吉はやはり演劇専門の学校へ行った。そっちは入学当初からかなり期待の声が上がっているもよう。

 

 まあ、秀吉ならすぐにでもプロになれそうだものね。

 

 そしてムッツリーニ……こと、康太。あいつは進学はせず、独自に写真を撮ってあらゆる方面で活躍してるようだ。

 

 色んな場所や人々を撮る時もあれば、事件の証拠になり得るものまで撮って名を上げている。こっちも結構な所からお呼びがかかってると聞いてる。

 

 他にも色々聞いたりしてるが、今はそこまで多く語るのは断念しよう。

 

 でも、もうひとつ挙げると、今話してる義之の進路は就職。確か、天枷研究所で働いているようだ。

 

 別にそれ関連の役職に憧れてたわけじゃないが、彼はさくらさんが留守中は自分があの家を守ると意気込んで初音島に残る決心をしていた。

 

 それを聞いた水越先生が天枷研究所に口利きをしてくれ、義之を採用してくれたそうだ。

 

 以前の天枷さんをフォローした実績のこともあったからか、承諾は簡単に進んだらしい。

 

『……と、話し込んじまったな。今日はビッグニュースがあって、とりあえず伝えようと思って』

 

「ビッグニュース?」

 

『さくらさんが、帰ってきたんだよ』

 

 義之の言葉を聞いて、僕は一瞬携帯を落としてしまいそうになった。

 

「え……? 帰ってきた……さくらさん、が?」

 

『ああ。今日枯れない桜の所に行ってみたら、そこにさくらさんがいたんだよ』

 

「そっか……戻ってきたんだ! よかったじゃん!」

 

『まあな。で、どうする? 何なら、代わるか?』

 

「いや、今はいいよ。どうせなら直接顔合わせて話したいから」

 

『そうか。となると、次これそうなのは……ゴールデンウィークか?』

 

「そうなるね。その時はななかちゃんやみんなも一緒に連れて行くよ」

 

『ああ。みんなも元気してるか?』

 

「うん。たまにみんなで集まって遊ぶ時もあるし。さくらさんが戻ってきたって聞いたらみんな喜ぶよ」

 

『じゃあ、次に会うのはゴールデンウィークかな?』

 

「うん。じゃあ、また。あ、それと……さくらさんが帰ってきたんなら、目いっぱい恩返ししなくちゃだね」

 

『……ああ。わかってるよ』

 

「僕たちも戻ってきたら、さくらさんのお帰りなさいパーティーしなきゃだね」

 

『さっき音姉にも電話で言われたよ。ついでにビッグニュースなしでも電話してきてくれってな』

 

「あはは……音姫さんも相変わらずみたいだね」

 

『音姉も5月の頭に帰ってくるっていうから……帰ってきた時が怖いよ』

 

「あの人、会えなかった分を一気に爆発させて甘やかしにくるからね」

 

 以前、長期の休みでロンドンから戻ってきた時は本当にすごかった。

 

 学生時代の時なんて目じゃないくらい、些細なことでも世話を焼きたがるから。

 

 掃除や料理に洗濯はおろか、ひどい時は耳掃除や一緒にお風呂なんてこともしたようだ。

 

「じゃあ、また。さくらさんに会えるの、楽しみにしてるって言っといて」

 

『ああ。それじゃあな』

 

 それから通話を切った。そうか……ようやく帰ってきたんだ。

 

 僕が付属3年の時の3学期辺りか……枯れない桜を枯らせてからその副作用みたいなことの処理のために、長い間僕らのもとを離れてしまっていた。

 

 けど、帰ってきたということは、さくらさんは役目を終えたということだろう。

 

 これからは、家族との時間をゆっくりと過ごせるということだろうか。

 

「よかったね、義之」

 

 それから僕は風呂に入り、早くゴールデンウィークにならないかなと期待に胸を躍らせながらベッドに入った。

 

 無論、寝入るのにかなりの時間を要してしまったが、それは仕方のないことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ピリリりり!

 

 土曜日の朝、僕の携帯から着信音が鳴り響いた。

 

 着信相手を見ると、相手はななかちゃんだった。相手を見ると僕はすぐに起き上がって通話ボタンを押す。

 

「はい、もしもし」

 

『もしもし、明久君?』

 

「おはよう。ずいぶん早い時間にかけてきたね」

 

『もう9時だけどね。それより明久君、ゴールデンウィークの件は知ってるよね?』

 

「ああ、うん。義之に聞いてからホームページも確認したけど、随分と無茶しようとしたね」

 

『そりゃあ、芳乃先生が帰ってきたんだもん。明久君だって、家族みたいなもんでしょ?』

 

「まあね」

 

『それで、ゴールデンウィークのことでちょっと話したいことがあるからグループチャット開いてくれるかな? もう小恋に義之君、板橋君も入ってるはずだから』

 

「了解」

 

 僕は通話を切ってすぐにインターネット電話サービスアプリを起動した。

 

 モニターには既に渉と義之が画面に映って会話を始めていた。

 

『無言で電話切るとかひどいから! つか、ボケに対して放置って一番キツイから!』

 

『ちゃんと通話切断ってツッコミをしてやっただろ?』

 

『ツッコミが高度すぎるだろ! それで喜ぶのは俺かドMくらいだろうが!』

 

 それって、自分がドMだって公言してるも同然だよね。ていうか、どんなボケかましたら通話切断なんてツッコミに出るんだろう。

 

『あはは、相変わらずだね。義之君と板橋君』

 

『何年たっても変わってなくて、安心するやら呆れるやら』

 

 次いでななかちゃんと小恋ちゃんが会話に加わってきた。

 

「まあ、これがいいんじゃない?」

 

『あれ? 白河、髪切ったんだ?』

 

『そうだよ。って、髪切ってから義之君と話すの初めてだっけ?』

 

「ああ、ななかちゃんは顔合わせるの半年ぶりくらいになるっけ?」

 

『げ……もうそんなに経つのか。でも、なんでいきなり切ったんだ? まさか、明久に捨てられたとか?』

 

「なわけないでしょうが」

 

 冗談でも僕がななかちゃんにそんなことするとでも思うか。

 

『そうじゃなくて……あたしが看護系の勉強してるのは知ってるでしょ? 当然、実習とかだってあるから清潔感第一ってわけよ』

 

「僕も半年前にデートで待ち合わせた時に現れたのがショートカットにしたななかちゃんだったからビックリしたよ」

 

『あの時の明久君、30分は固まってたもんね~』

 

『そりゃあ、自分の彼女がいきなり髪短くしてたら驚くわな』

 

「本人はラクチンになったからって言ったけど。まあ、それでも似合ってるからいいんだけど」

 

『そうそう。短くても可愛いからズルいんだよ、ななかは』

 

 小恋ちゃんが羨ましそうに呟いて、ななかちゃんが困ったように笑う。

 

『逆に月島は、髪が伸びてきたよな』

 

「うん。随分大人っぽい気がする」

 

『む~……それって、あたしがいつまでも子供っぽいってこと?』

 

「いや、そうじゃなくて。見た目の感じでっていうか……」

 

『あはは……周りの友達も、落ち着いた感じの娘が多いから。私もそんな風にしたいなって。へ、変かな?』

 

『そんなことない! 月島なら、どんな髪型だって似合うから!』

 

 渉は相変わらず、小恋ちゃんに猛烈なアタックをかけてるなぁ。

 

『あはは、ありがと。義之はどう思う?』

 

『うん、似合ってるよ。ちょっと大人っぽくなったって思う』

 

『そ、そっか。よかった』

 

 小恋ちゃんも、義之に対する想いは変わってない様子。この微笑ましい空気も久しぶりだ。

 

 ていうか、今になっても義之は気づかないのか。

 

『俺は俺は! 俺もちょっとだけ、髪型いじってみたんだけどよ』

 

『見分けつかないし、興味もないから知らん』

 

 バッサリ言ったね。態度が小恋ちゃんに対する時とまるで違う。

 

『まったく義之ちゃんは照れちゃって。本命だけは素直に褒めることができないとか、本当ツンデレだな』

 

『で、早速本題に入りたいんだけど』

 

『って、スルーかよ! また俺のボケはスルーなのかよ!』

 

『ゴールデンウィークの企画でしょ? 杉並君もまた思い切ったことを考えたよね』

 

 ゴールデンウィークの企画……さくらさんが帰ってきたことを素早く察知した杉並君がゴールデンエイジ時代、僕たちが付属3年の頃に在学していた生徒たちを集めてさくらさんの回帰祝いをしようという企画。

 

 言葉だけいえば魅力的だけど、その際の人数と規模がすごい。

 

 人数もだけど、クリパ並の祭りにしようってんだからそりゃまたとんでもない無茶な企画というものだ。

 

 一応みんなの都合もあるから自主参加製ってことにしてるけど。

 

『って、白河まで流してるし!』

 

『渉君、うるさい』

 

『しょぼーん……』

 

「あはは、ドンマイ渉」

 

『俺を慰めてくれるのは、明久だけだぜ……』

 

 この流れも久しぶりだな。みんなこれを楽しんでるだけなんだろうけど……渉の落ち込みだけは本物な気がする。

 

 まあ、話題転換すればすぐに復活するだろうけど。

 

『で、本当に本題に入るけど、みんな参加してくれるか? 急に決まったことだから、もしかしたら予定入っちゃってるかもしれないけど』

 

 全く、何を言っちゃってるのか義之は。そう言おうと口を開こうとしたが、

 

『んなもん参加するに決まってるだろ。こんな面白そうな企画、他の予定キャンセルしてでも参加するよ!』

 

 渉が先行して企画に参加することを告げた。

 

 そりゃそうだ。考えたのがあの杉並君だから普通の祭りにできるかどうか不安だが、むしろ逆にそれが面白そうなことになりそうだから参加もする。

 

 大学に入ったり、社会人になったりすれば中高の時のようにバカ騒ぎできることなんてまずないから、あの時の学生生活が懐かしく感じるからね。

 

『あれ? 板橋君にキャンセルするような予定あるんだ?』

 

「そういえば、たまにみんなで遊ぶけど、渉は基本ひとりブラブラだった気が」

 

『い、一応あるって。男連中と遊園地行ったり、男連中とカラオケしたり、男連中とゲームしたり』

 

「『『『…………』』』」

 

『って、なんでみんな優しそうな目で俺を見るんだよ! 楽しそうな予定でいっぱいだろ!』

 

 いや、確かに楽しそうと言えばそうなんだけど……同時に寂しいものも感じてしまう。

 

『見事に華の欠片もないな……』

 

『うるせえよ!』

 

 義之も容赦ないねぇ。

 

『で、小恋と白河はどうだ?』

 

『私も参加するよ。旅行のお誘いとか色々もらったけど、どれもイマイチ乗り気じゃなかったから。みんなにも会えるし、こっちのイベントの方が断然おもしろそうだもんね』

 

『うん、私も参加する。杏や茜にも久しぶりに会いたいもん』

 

『で、明久は?』

 

「もちろん参加するよ。今度の料理コンテストに参加しようと思ってたけど、参加希望出す前でよかったよ」

 

『いいのか? コンテスト出てまた上位取れば卒業後とか色々有利になるだろ?』

 

「コンテストなんてまた次があるんだし。それよりも大事なのはこっちでしょ」

 

『じゃあ、みんな参加ってことでいいな?』

 

「『『『もちろん!』』』」

 

『で、更に相談なんだけど、せっかくのイベントで、しかも俺たち5人が久しぶりに集まるんだから──』

 

『皆まで言うな、義之ちゃん。もちろん、わかってるさ』

 

 このメンツでやることと言ったら、もうアレしかないでしょ。

 

『でも、私……もう随分と練習してないから、上手にできるかどうかわかんないよ?』

 

『それは俺も一緒だって。けど、お祭りするんだったら盛り上げないともったいないだろう?』

 

『私、人前で歌うのはあんまり得意じゃないんだけどな。まあ、この際仕方ないか。一丁ひとつ、盛り上げるとしますか』

 

 話は決まったようだ。僕たち全員笑みを浮かべ、

 

『一日限定、俺たちのバンドの復活だ。とびっきりのいいライブにしようぜ!』

 

「合点だ! 集まったら猛練習だ! 気合入れていくよ!」

 

『『『『おー!』』』』

 

 僕たちは声を揃えた。さて、次のゴールデンウィークが本当に楽しみだ。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。