バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

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第四十六話

 

「ごぉ……」

 

「く、吉井の奴……」

 

「絶対に……殺す……」

 

 明久が告白し、白河と両思いになれたことは本当に幸いだった。

 

 これで問題のひとつ目は解決したのだが……まだ問題はほかにも色々ある。

 

 まずひとつ目に、目の前で撃沈しているこのFFF団だ。ちなみに撃沈している理由はまゆきさんだ。

 

 まゆきさんが翔子さんの家からスタンガンやら警棒やらを拝借してそれをFFF団のみんなに向けて使用した。

 

 もう戦っている時のまゆきさん、完全に無双状態だったな。FFF団がひとり、またひとりとどんどん宙へ向けて殴り飛ばされたり投げ飛ばされたりだったし。

 

 ていうか、まゆきさんどんだけ強いんだよ。それと、まゆきさんに渡したスタンガンやら警棒やらが何故霧島さんの家にあったのかすごく気になる。

 

「ふう……とりあえずこんなところかしら」

 

 まゆきさんは手に持ってるスタンガンと棒をしまって満足げな表情をしていた。

 

 こういう問題児を撃破している時のまゆきさんは水を得た魚状態というか、滅茶苦茶輝いてる。

 

 とりあえず、FFF団の方はなんとかなった。残る問題は、

 

「明久君、何処に行ったのデスカ?」

 

「アキィ~……もう腕を折るだけじゃすまないんだから」

 

 あの2人だ。さっきから黒いオーラ背負って明久を探していた。ていうか、目が完全にイってる気が……。

 

「あ、あんたら!」

 

 そして、向こうがこっちを見ると颯爽と駆けてきた。ていうか、姫路さんは病弱って明久が言ってなかったか?

 

 あの足の速さを見るとそんな設定がまるで嘘のように思えるのだが。

 

「あんたら、アキを見なかった?」

 

「みなさん、明久君を見ませんでした?」

 

「さっき西村先生の所に行ったのは知ってるが、あの様子じゃもう用事は済んで別の所に移動したんじゃないのか? それに、例え知ってたとしても、殺人事件が起こりそうだから絶対に言いたくない」

 

 この2人ならそんな事件に発展してもおかしくはない。

 

「失礼ね。屋上から縄で縛り付けたアキを突き落とすだけよ」

 

「それはもう、十二分に殺人事件だから!」

 

 本当……この人達の傍にいて今までよく生きてたよ、明久。

 

 ともかく、これを聞いたら尚更この2人を明久に近寄らせるわけにはいかない。

 

 近づけた瞬間、白河もろともタダでは済まないのは目に見えてる。どうにかこの2人を止められないかとアイディアを模索していた時だった。

 

「ふぅ……お困りのようなら、助けてやるが?」

 

「どわぁ!? 杉並、お前今までどこにいたんだよ!」

 

 何処からかいつものように手品の如く最初からその場にいたかのように杉並が現れた。

 

「いや、この文月学園のことを色々調べててな。うむ、ここが中々セキュリティが固くてな。情報を集めるだけでも苦労したぞ」

 

「お前の経験談はいいから、この状況なんとかしろよ」

 

「ふ~む……あまり女子を傷つけるのは良心が咎めるが、まあ同士桜内の頼みであればしょうがない」

 

 では、と杉並は2人に向き直っていつもの振る舞いを始めた。

 

「な、何よあんた?」

 

 突然の杉並の登場に2人が警戒心を抱いていた。まあ、初対面じゃ誰だって警戒心は抱くよな。

 

「ふむ……まず、姫路瑞希と言ったかな?」

 

「は、はい? えと、何で私の名前……」

 

「先日から始まったすごろく大会の出場者の顔と名前とある程度の経歴は粗方調べさせてもらった。そして、俺は杉並だ。さて、自己紹介はここまでにして、姫路……君は振り分け試験の際、高熱を出して途中退席したらしいな?」

 

「何でお前がそれを知ってるんだよ?」

 

「それくらい、調べようと思えば誰だって調べられる」

 

 こいつは単体でどこまでの情報力を誇るのやら。相変わらず謎の多い奴だ。

 

「さて、その試験で君は途中退席をしたが、その時に同士吉井が一緒になって保健室へ連れていったそうだな?」

 

 それは聞いてなかった。木下から聞いたのはあくまで姫路が途中退席してFクラスに落ち、更に体調不良な彼女をAクラス相当の設備の中で勉強させるのが理由で試召戦争を始めたってだけだからな。

 

「は、はい……」

 

「そして、その後でFクラスに入り、早速同士吉井は試召戦争を起こした。その理由は君がFクラスの環境に合わないから君のレベル相応の設備を用意しようという吉井の優しさあってこそだ。わかってるな?」

 

「はい……」

 

「それから、清涼祭で姫路。君の転校を阻止するために同士吉井も必死だったようだな」

 

 木下の話では、その時は姫路さんのお父さんが娘の体調不良を心配して転校を勧めていたんだったな。

 

 それはまあ、親としては当然の発想だと思うが。

 

「そして、清涼祭で誘拐まがいの事件があったそうだな」

 

 そんなことまで知ってるのかよ。確か、表沙汰にはなってなかった筈なんだが。

 

「清涼祭で君達と島田妹が攫われ、不良達の魔の手が迫った時、間一髪で同士吉井が駆けつけ、その後も援軍が来てどうにか無事に切り抜けられたようだな」

 

 その事件について聞いた時は俺も危なかったなと思った。下手をすれば警察沙汰なのだから。

 

「その他にも色々あったな。お化け屋敷の時や2回目の試召戦争の時も。君達は幾度も同士吉井に助けられたようだが?」

 

「そ、それは……」

 

「それがどうしたのよ!」

 

「……ふう、ここまで言って尚わからんか」

 

 杉並が呆れたようにため息をついて再び姫路さんと美波さんに向き直る。

 

「ハッキリ言っておこう。君達に、同士吉井にお仕置きする権利などありはない」

 

 杉並の言葉に2人は驚いたような表情をした。いや、普通に考えて当然だと思うのだが。

 

「な、何でよ!」

 

「何でもなにもないだろう。あの2人は互いに告白し、気持ちを伝えた上で付き合うことを決めたのだ。そこに他者が踏み込むのはルール違反というものだ」

 

 おお、今回の杉並は何だか輝いて見えるぞ。

 

「それは……」

 

「でも!」

 

「でも、何だ? 吉井には女子と付き合う権利がないとでも? それとも、自分と付き合わなくてはならないという決まりでもあるか? ここまで言ってもまだ勘違いをしているようならハッキリ言った方がよさそうだ。今ここに告げよう、君達は……君達の想いは最後まで同士吉井には届かなかったということだ。そして、白河が告白した時点で君達は既に負けていたということだ」

 

 杉並の言葉に2人がショックを受けた。

 

「まあ、こればかりは俺からは自業自得としか言えんな。島田、君は普段から同士吉井に暴力を振りすぎたのが原因だ」

 

「な、何よ! アレはアキが……」

 

「確かに、聞いたところ吉井は君を女として扱ってない時もあるみたいだな。ただ、それはそもそも君の行動が原因だ。その暴力さえなければ少しは変わったかもしれんのだがな。それから姫路、君も同様だ。自分の気持ちを伝えているわけでもないのに吉井が他の女子といるだけで暴力を振るったばかりに吉井は君達に恋愛感情どころか、一種の恐怖心を持ってしまったのだ。そうなったのは君達の行動の結果だ。そうしてスタートラインを下げたのは君達なのだから誰かが応援したところで恐らく無駄だっただろう」

 

「「…………」」

 

「まあ、そういうわけで……あの2人はようやく互いの気持ちに気づき、今幸福な状態なのだ。邪魔をすれば余計に君達の地位を下げる結果になるぞ」

 

「「…………」」

 

 2人は何も反応がない。杉並の言葉が相当堪えたようだ。

 

「ふう、ひとまずはこんなところか」

 

「杉並、お前すげえな……」

 

「今回は素直に感心しましたわ」

 

「いつもこれくらい人助けをしてくれれば生徒会としても大助かりなんだけどねぇ」

 

「ハッハッハ! それは言わん約束であろう!」

 

 口に出したらこいつは調子に乗りそうだが、今回ばかりは素直に感謝しておく。

 

「で、この人達はどうするんだ?」

 

「しばらくは放っておけ。下手に何か言っても逆効果になるだけだ。今は自分で考えさせるべきだ」

 

「そうか……」

 

「まあ、今回は杉並に賛成ね。あの子達も今回ので反省してくれればいいんだけど……」

 

 まゆきさんは元より考える時間を与えるつもりだったようだが、不安は隠せないようだ。

 

 まあ、あの人達の行動がアレだったのだから無理もないんだが。

 

「とりあえず、障害はなくなったのだから吉井達にも報告するわよ」

 

「お、そうだな。そんで、せめて明久にアレコレ質問攻めして恥辱の制裁を与えてやるぜ」

 

「渉、その手をやめろ。折角幸せの絶頂に辿り着いたというのに台無しにさせる気か」

 

 とりあえず、障害の大半を駆逐した後、俺達は明久達と合流した。

 

 

 

 

 

 

 

 すごろく大会で3連続トップを取った翌日、僕は霧島さんの家で目覚めた。

 

 何故霧島さんの家で寝泊まっていたかというと、昨日3連続トップを取った祝いとして霧島さんの家でパーティをすることになったのだ。

 

 出来れば我が家でやりたかったけど、予算の都合と姉さんの事と家の広さが十分でないためと姉さんの事があって霧島さんに頼み込んでやらせてもらったのだ。

 

 姉さんについては大事な事だから2回言わせてもらった。

 

 パーティの時はななかちゃんとカレカノになった時のこととか、僕がななかちゃんを特別視した時の詳しい事とか色々質問攻めにあった上に、ななかちゃんと一緒になってアレしろコレしろとか色々恥ずかしい注文もして騒がしい夜だったよ。

 

 まあ、楽しかったからいいんだけどさ。

 

 とりあえず、幸せなのはいいんだけど……

 

「姉さんとか、姫路さんとか……色々問題が山積みなんだよな」

 

 そうだ。ななかちゃんと両想いになれたことにはしゃいでて忘れてたけど、最大の難関がまだ残ってたんだ。

 

 主にあの3人が僕に彼女ができたと知れば確実に僕を殺りに来るのは明白だ。

 

 どうすればいいものかと悩んでいた時だった。僕の携帯に誰かから電話がかかってきた。

 

「はい、もしもし?」

 

『吉井かい? ちょっと頼みたいことがあるんだが』

 

「何の用でしょうか? ババア長」

 

『はぁ……いい加減その呼び方をやめてくれないもんかねぇ。まあ、今はそこを指摘する余裕がないんだ。今すぐ学園に来な』

 

「は? 一体何で……」

 

『いいから来な。3度も言わないよ』

 

 そう言って僕の疑問も聞かずにババア長は電話を切った。

 

「……一体何だろう?」

 

 何やらいつもと違ってちょっと慌ただしい感じの声音だった気がするけど。

 

 色々疑問に思うことはあるけど、アレでも一応学園の長なのだから来いと言われたからには行くしかあるまい。

 

 僕はすぐに身支度を整えて学園へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、僕を呼び出したのは何故ですか?」

 

「その前に、あたしが呼んだのはあんただけの筈なんだけどねぇ……。何でこいつらまで連れてきたんだい?」

 

 学園長は俺達に視線を向けてため息をついていた。

 

 明久が学園長に急に呼ばれたというからもしかしたらあの扉のことかと気になって杏達が率先して着いていった。

 

 そして今に至るというわけだ。

 

「それで、何で呼び出されたんですか? もしかして、扉の事ですか?」

 

 明久の言葉に学園長はあ~、と微妙な表情を浮かべながら視線を泳がせていた。

 

「まあ、半分はそうさね。あの扉についてはもう少しでどうにかなりそうなとこまでいったんだが……」

 

「本当ですか!?」

 

 学園長の言葉に俺達の周囲の空気が一気に明るくなりかけたのだが、

 

「その扉の解析に後一歩のところまでいった反動なのかどうなのか、この学園の試験召喚システムに異常が発生したんだよ」

 

「……はい? 試験召喚システムに?」

 

 学園長の言葉に明久が疑問で返した。

 

「ああ。吉井には言ったが、あの扉から出る奇妙な反応は試験召喚システムが発生させる召喚フィールドと似たものさね。それがわかってからは試験召喚システムに基づいたあらゆる方法を試して、今回ようやくあの扉の解析が完全に終わるかと思った時にあの扉から出る反応が試験召喚システムに侵入して異常を発生させてしまったんだよ」

 

「その、異常っていうのは?」

 

 音姉が学園長に問いかける。

 

「召喚獣の暴走だよ。召喚フィールドがあちこちで展開したりしてその上物理干渉のオマケ付きだから危険なものに成り代わってね。だから吉井、あんたにはこれから暴走した試験召喚システムを止める手伝いをしてもらわなくちゃならないんだよ」

 

「手伝いって……僕はこのシステムのことなんてロクに知りませんよ? 修理なんか無理ですよ」

 

「あんたにそんな高度で繊細なことはさせやしないよ。あんたは暴走召喚獣をかいくぐってサーバールームの扉を開けてほしいのさ」

 

「サーバールームの扉を?」

 

「ああ。暴走した際、学園中のセキュリティシステムにも異常が発生したようでサーバールームの扉が開かなくなったのさ」

 

「でも、それだったら誰かに手伝ってもらうよりも電源を落としたり多少の危険を承知で壁を壊すかでもすれば……」

 

 音姉がもっともな意見を言ったが、学園長は首を横に振って音姉の意見を否定する。

 

「残念だが、電源を落とそうにも無停電電源装置があるから主電源を落としても一ヶ月は稼働するさね。それに、壁破壊の案もいただけないね。来週には先日のすごろく大会のPVと試験召喚システムを紹介するためにお偉いさん方が来訪するから派手なことは極力控えたいんだよ」

 

「なるほど。お披露目の時に壁に穴が空いてるなんていくらなんでも非常識だもんね」

 

 確かに。お偉いさんの前でそんな失態をさらしたらこの学園の存続は危ういことになるだろうな。

 

「だからその修理のためにあんたを呼んだのさ。システムのコアに近い教師用召喚獣は完全にフリーズしきって召喚が不可能な状態になってるんだ。でもその点、観察処分者の召喚獣はシステムの別領域で走ってるから他の生徒達と違って暴走の影響を受けなかったようだよ」

 

「なるほど。その上僕の召喚獣は物理干渉があるから」

 

「その通りさ。不具合のある教師フィールドを使っても、まともに召喚することはまずできないだろうから──」

 

「俺が呼ばれたってわけか」

 

 学園長の台詞の途中で第三者の声が聞こえ、振り向くと学園長室の扉から坂本や木下、土屋、翔子さんに姫路さん、美波さんが入ってきた。

 

「雄二、みんな」

 

「話は途中からだが聞かせてもらったぞ。とにかく俺の白金の腕輪を使って召喚フィールドを発生させ、明久の召喚獣を使ってシステムの回復を謀るってわけだな」

 

「ああ。しっかり頼んだよ」

 

「はい。あ、その前に回復試験受けさせてくれませんか? 大会後から一度も受けてないので」

 

「そうだね。しっかり点を取って作戦を実行しな」

 

「うぃーっす」

 

 明久は学園長室から出ていき、回復試験へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よし、早速作戦スタートだね』

 

『それはいいが、どうやってサーバールームまで向かうんだ? 確かサーバールームへ続く扉は堅く閉じてるんだろ?』

 

 視聴覚室にある大型モニターの向こうで明久がやる気になっていると、坂本が学園長に問うた。

 

 言われてみれば明久の召喚獣は物理干渉とやらで他の召喚獣と違って壁を通り抜けることができないとか言ってたっけな。

 

「それは扉の前にある通気孔を通っていくんだよ」

 

『なるほど、召喚獣ならあそこは簡単に通れるね。でも、召喚獣だけ行かせても何処に何があるかさっぱりじゃ──』

 

『これを使え』

 

『って、ムッツリーニ! いつの間に!? ていうか、これは?』

 

『送信機とカメラ。カメラは召喚獣の頭に取り付けておけ』

 

『了解』

 

「相変わらず、土屋は何処からあんなもんを購入してるんだよ」

 

 まあ、その用意周到さがここで発揮されてるから何も言えないんだが。

 

「それで、私達はどうすればいいの?」

 

「何もやることないじゃ~ん」

 

「まあ、召喚獣とかさっぱりだもんな、俺ら」

 

 俺達は召喚獣のことはてんで何も知らないので何をどうすればいいかなどわかるはずもなかった。

 

「あんた達はそこにある端末を操作してあいつに道順などを教えて先に進ませてやりな。何しろ通気孔からサーバールームまでは迷路のように入り組んでるからね」

 

「わかりました」

 

 学園長に指示され、俺達も机の上に並んであった端末を開いて画面を見た。

 

 でも、難しい言葉ばかりで何がなんだかさっぱりわからん。

 

「えっと、これどうすればいいんですか?」

 

「別に大した操作はいらないよ。それぞれの端末に載っている生徒の召喚獣がどこにいるかを見てやればいい。案内の方はうちの生徒にやらせるよ」

 

「は、はい」

 

 とりあえず、ここからは気を引き締めていかないとな。

 

「で、吉井。ちゃんと聞こえてるかい?」

 

『え~……あ、うん。聞こえてま~す』

 

「なら坂本、召喚フィールドを起動させな」

 

『あいよ。起動(アウェイクン)!』

 

 画面の向こうで坂本が召喚フィールドを発生させた。

 

『それじゃあ、召喚(サモン)!』

 

 明久は召喚獣を出現させ、土屋からもらったカメラを召喚獣の頭に括りつけると召喚獣は通気孔の中へと入っていった。

 

「……明久、調子はどうだ?」

 

『えっと……うん、中はちゃんと見えてるよ』

 

 どうやら土屋からもらったカメラはうまく作動してるみたいだ。

 

『それで、この後はどうすれば?』

 

「後は他の奴らが案内するから、そいつらの指示に従って進みな」

 

『了解』

 

 それから明久は召喚獣を操作して通気孔を進んでいく。

 

「召喚獣、通気孔へ入りました」

 

「進路……クリアね」

 

「よし、明久。そのまま直進だ」

 

『了解』

 

 俺達は通気孔に入った明久の召喚獣の進路を見ながら召喚者の明久に指示を送って導いていた。

 

「3m先を右に曲がって、次の十字路を左じゃ」

 

「あ、明久君。そっちだと別の空間に出ちゃうよ」

 

『ああもう、ややこしいな。なんでこう迷路みたいになってるわけ?』

 

「セキュリティの一種さね」

 

 ビー! ビー! ビー!

 

「って、何だ!? なんかいきなり警報が鳴ったぞ!?」

 

 突然警報らしいものが鳴り響いた。まさかエマージェンシー!? 何かあったのか!?

 

『だああぁぁぁぁ!? 何か……何か体が痺れるんだけど!? ていうか、召喚獣の点数が徐々に減ってるんだけど!?』

 

「どうやらそこ……毒の沼地みたいよ。早く出ないとすぐに0点になっちゃうわよ」

 

『何でそんなのがあんだよ!?』

 

「セキュリティの一種だよ」

 

「こういった危険地帯も迂回した方がいいね。明久君、次の角を右に行って」

 

『りょ、了解……』

 

 明久は痺れた状態で召喚獣を操作して別の通路を歩かせた。

 

『あ、何か明かりが見えてきたよ!』

 

「よーし、いいぞ明久。そのまま進んでいけ」

 

『うん。…………あれ? 何だろ?』

 

「どうした? 明久」

 

『何か、急に空間が変わったような……』

 

 明久が正面に何か異常を見つけたようだ。一体なん……っ!?

 

「明久! EクラスとDクラスの召喚獣、2体ずつ来るぞ!」

 

 言うや否や、明久の召喚獣の正面で幾何学模様が展開して召喚獣が現れた。

 

『 科目:現代国語  Fクラス 吉井明久 84点 VS Eクラス 93点&85点 & Dクラス 112点&98点 』

 

 明久の召喚獣の正面に4体の召喚獣が現れ、明久の召喚獣に襲いかかった。

 

「吉井! 4対1は不利よ! 今は退避──」

 

『いや、いける!』

 

 明久はまゆきさんの言葉を無視して4体の召喚獣に向かってまっすぐ突っ込んでいった。

 

 そして一瞬のうちに木刀をひと振りふた振り、更に回数振って通り過ぎた時には4体の召喚獣を倒していた。

 

「す、すご……」

 

「自分より点数が勝っている召喚獣4体も相手に、すごいですね……」

 

 由夢の言う通り、明久の召喚獣の操作技術はなんともすごい。上級のゲーマーの腕を見ているみたいだ。

 

「よし! 召喚獣撃破! そのまま進め!」

 

『了解!』

 

「待って! まだもう2体召喚獣が……これって!?」

 

 音姉が驚いていると、明久の正面に更に2つの幾何学模様が描かれ、そこから更に2体召喚獣が現れた。その召喚獣は、

 

『 科目:現代国語  Fクラス 吉井明久 84点 VS Fクラス 姫路瑞希 432点 & 島田美波 9点 』

 

『ひ、姫路さんに美波!?』

 

「気をつけて! 攻撃が来る!」

 

 音姉が叫んだ瞬間、姫路さんの召喚獣が明久の召喚獣に向けて大剣を振り下ろしてきた。

 

『うおおぉぉぉぉ!?』

 

「姫路! 島田! コントロールは出来ねえのか!?」

 

「駄目! 無理!」

 

「逃げてください! 明久君!」

 

『くっ! このぉ!』

 

 明久はどうにか姫路さんの猛攻を回避するが、その先には美波さんの召喚獣が待ち構えていた。

 

 美波さんの召喚獣が鞭を振るい、明久の召喚獣を縛って床に叩きつける。

 

『がぁ!』

 

「明久!」

 

 明久の召喚獣は縛られたまま、美波さんの召喚獣の攻撃になす術もなくただ受けるだけだった。

 

『ぐぅ! があっ!』

 

「吉井!」

 

「吉井君!」

 

「明久君!」

 

 更にそこに姫路さんの召喚獣も加わって今度は大剣でなく、鈍器で明久の召喚獣を痛めつけていた。

 

『がああぁぁぁぁ! や、やめて! 美波! 姫路さん!』

 

「……あのさ、アレ……本当にコントロールできないんだよな?」

 

 渉が疑惑の篭った目で姫路さんと美波さんを見ていた。

 

「ちょっと! 何よその目は!?」

 

「そうです! 冤罪です!」

 

「と、言ってもなぁ……」

 

「普段の行動とデジャヴがありすぎるぞい」

 

 木下の言う通り、あの2人が明久に暴行を加えてる現場を見たことはないが、実行すればあんな感じじゃないと思えてしまう。

 

 というより、木下が言ってることが本当なら、あの2人は普段から明久にああいった暴力を振るってたということか。

 

「ちょ、姫路さんの召喚獣の腕輪が光ってる!?」

 

「げっ!? ありゃあ、熱線を打つ気か!?」

 

「熱線!? ただでさえ姫路さんの点数がかなり高いのに加えて熱線、それに明久はフィードバックが!」

 

「明久君、逃げて!」

 

「……駄目ね。身動きが取れないわ」

 

『そ、そんな! ねえ! やめて、やめてよ! 姫路さん……姫路さああぁぁぁん!!』

 

 明久の懇願の声も虚しく、姫路さんの召喚獣は熱線を放ち、明久の召喚獣は塵に還った。

 

「…………明久の召喚獣、戦死」

 

『戦死者は補習~』

 

『こんな扱い、あんまりだああぁぁぁぁ!!』

 

「あ、何か生き返ったっぽい」

 

「フィードバックで相当やられた筈だよな? 明久の奴」

 

「ま、回復力だけが取り柄だからな。あのバカは」

 

 坂本が辺り前のように言った。フィードバックを体験してない俺にはわからんが、見てるだけで相当痛そうだったと思うが。

 

「にしても、作戦失敗ね」

 

「はぁ……仕切り直しさね」

 

 杏の言葉に、学園長がため息混じりに呟いた。

 

「で、明久が補習を終えるまでどうするんだ?」

 

「とりあえず……さっきまでの戦闘を改めて確認して次の作戦でも決める?」

 

 小恋の言葉に全員が頷いた。とりあえず、何もしないよりはその方がいいだろう。

 

「あ、でしたら……ついでに食事にでもしましょうか?」

 

「お、なんかうまそうなサンドイッチ」

 

 俺たちが作戦会議をしようとしたところに姫路さんが結構な量のサンドイッチを出してきた。

 

「今朝学園長が緊急事態だからといって、もしかしたら時間がかかるかと思いまして、サンドイッチを作ってきました」

 

「おっしゃラッキー! 女子高生の手料理ぃ!」

 

 渉が嬉々として姫路さんの手作りサンドイッチを手に持って口へ運ぼうとしていた。

 

 …………待て。姫路さんの……手作りサンドイッチ(・・・・・・・・・)

 

 明久の話だと、確か姫路さんは……。

 

「ま、待て板橋! その手を止めろ!」

 

 俺が姫路さんの料理の腕の事を思い出すと同時に坂本が渉を止めようとしていた。

 

 だが、時既に遅く、渉はサンドイッチを口に含んだ。

 

「なんだよ坂本、大声出して……ふ~ん、パンを使ってるくせにザラザラした触感にレモンのような強烈なすっぱさととんでもない辛味が混ざり合い、ドロドロした野菜のようなものの香りが口の中で独特のハーモニーを──ごはぁ!?」

 

「渉ぅぅぅぅ!?」

 

「きゃああぁぁぁぁ! 渉君が、渉君が倒れたぁぁぁぁ!」

 

 姫路さんのサンドイッチを口にし、聞いただけで気持ち悪くなるような感想と共に奇妙な声を上げて渉が倒れ込んだ。

 

「まずい! 秀吉、ムッツリーニ! 急いでAEDと点滴だ! 急げ!」

 

「もう持ってきておる!」

 

「……殺菌用のお茶も完璧!」

 

「よし! すぐに蘇生にかかる! 始めろ!」

 

「承知した!」

 

「……合点!」

 

 それからすぐに坂本たちが渉に治療を施し、一命を取り留めた。いや、下手なレスキュー隊よりもすごいんじゃね、お前ら。

 

『姫路さん……あのサンドイッチは何かしら?』

 

『え、あの……音姫さん?』

 

『あのサンドイッチ、何を入れたのかな~?』

 

『え……その、隠し味に硝酸と塩酸を……』

 

『姫路さん……薬品は調味料じゃないんだよ~? それに、味見だってね~?』

 

『あ、味見はその……太るので……』

 

『……姫路さん』

 

『……は、はい』

 

『ちょっとそこに正座なさい!』

 

『はい!』

 

 向こうでは音姉が姫路さんを叱ってる姿があった。相手を正座にした状態での音姉の説教は恐ろしいからなぁ……。

 

 まあ、今回は姫路さんの自業自得だけど。それにしても、ああも簡単に人の命を奪いかねない料理を明久たちは口にしていたのか。

 

 何度も思ったけど、あいつら……今までよく生きてたな。


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