バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

46 / 97
第四十五話

「──というわけで、よろしくお願いしますね。学園長」

 

「ああ、希望を叶えるのが賞品なわけだからきっちり調べてみるよ。それにしても、妙なこともあるもんだねえ」

 

 一時間ほど前の試合で3連続トップを取った僕はその賞品として学園長に例の扉を調べるよう依頼したのだ。

 

 学園長も快く引き受けてくれるようだし。そんで僕は例の扉の写った写真を渡した。

 

「今スキャンして熱感知や超音波を働かせた時の映像を見たけど、物質構造については別段普通の扉と変わりないのに、驚いたことに妙なものを発生させてるね」

 

「妙なもの?」

 

「具体的なことは調べないことにはわからんが、召喚獣を実体化させる際の召喚フィールドに似たようなものさ」

 

「召喚フィールドと? じゃあ、アレも何か召喚するような役割があるんでしょうか?」

 

「それも、調べないことにはなんとも言えんさ。まあ、何かわかったら連絡してやるよ。早速調査をしておいてやるから、邪魔しないでさっさと出て行きな。これから忙しくなるんだからね」

 

「は~い」

 

 相変わらずの口の聞き方だったが、まあ忙しくなるのは間違ってないだろうし、用は済んだのだから僕は学園長室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

「ふう……さって、みんなは何処にいるかなっと」

 

 試合が終わった直後に会おうとしたんだけど、みんなが何故か用事ができたからと言って僕から避けるように行ったんだよな。

 

 だから僕は先に学園長室へ行って用事を済ませたんだよね。一体何でだろう? 僕、みんなを怒らせるようなこと言っただろうか?

 

 とにかく、まずはみんなを見つけて学園長に言ったこと報告しないとね。それと、ななかちゃんに……今の僕の気持ちを。

 

「あ、いたいた。明久君!」

 

「ん? ななかちゃん!」

 

 考えた傍から向こうから来てくれた。ちょうどよかった。今なら2人キリだし、言うならこの瞬間しかない。

 

「ななかちゃん、実は──」

 

「おい、明久」

 

「ん? 義之?」

 

 ななかちゃんに気持ちを告白しようとしたところで義之が飛び出してきて僕の腕を掴んできた。

 

「悪い、ちょっと来てくれ。話があるから」

 

「え? ちょっと待って。僕は今ななかちゃんに言っておきたいことが……」

 

「あれ? 小恋、どうしたの?」

 

「あ、その……ごめん、ななか! ちょっとついてきて!」

 

「え? 小恋? どうしたの!?」

 

 ななかちゃんも小恋ちゃんに引っ張られてどこかに連れて行かれた。

 

「とにかく、来るんだ!」

 

「えぇ!? ちょ、義之!?」

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、連れてきたようね」

 

「あの……どうしてここに? というか、何で僕縛られてるの?」

 

 僕は義之に屋上へ連れて行かれ、何故かそこで待っていたみんなに縄で縛られたのだ。

 

「う~ん……何でっていうと、拷も──調教のために」

 

「ちょっと待って! 今、拷問って言いかけてなかった!? 僕これから何をされるの!? ていうか、僕は君を怒らせるようなことした!?」

 

「改めてわかったけど、明久君って……本当に乙女心に鈍感だよね」

 

「その辺り、兄さんと似通ってますね」

 

「だから何が!? ていうか、音姫さんも由夢ちゃんもどうしたんですか!? こんな状況放っておくんですか!?」

 

「まあ、恨むなら恨めばいいわよ。出来る限り早く済ませられるよう努力はするから」

 

「高坂さん? その、手をボキボキ鳴らしながら近づかれるととても怖いのですが」

 

「はぁ……あまりこういうのは気が進みませんが、あなたのそのバカな頭を治すことが出来るなら我が国の拷問方法を使ってでも……」

 

「今拷問って言った! 完璧拷問って言った! ていうかムラサキさん! その手に持ってる鞭って何!? 柄の方に何やらいくつものボタンが見えるんですけど! どんな機能が付いてるのそれ!?」

 

「吉井……今こそお前の頭をかち割ってバカな方向に考えがいかないようにしてやっから。ついでに可愛い少女に囲まれてることについての恨みも晴らさせてもらうぜ」

 

「渉に至ってはもう隠す気ないよね! 普通に嫉妬で僕を殺す気だよね!?」

 

 一体本当にどうなってるんだ!? 僕、みんなを怒らせるようなことしたの!?

 

 そして渉、君はFFF団に染まりかけてるよ!?

 

「ちょ、ちょっと待って! 僕、ななかちゃんに言っておきたいことあるんだけど」

 

「明久、それはこれが済んだ後でもいいだろ?」

 

「義之までどうしちゃったの!? みんな僕を殺そうとしてるんだよ!? ていうか早く言わないともう2度とこんな機会訪れそうにないのに!」

 

 ななかちゃんが向こうに帰ってしまうからかもということもそうだけど、何の邪魔も入らずに言えるのがいつになるのかわからないというのが大半だ。

 

「……ちょっといいかしら? 白河さんに何を言うのかしら?」

 

「え? えっと……昨日言った通り、ななかちゃんにお礼と……ちょっとね」

 

 最後のあたりで目線を逸らす。流石に告白してきます、なんて言える筈がない。

 

「……はぁ、取り越し苦労だったみたいね」

 

「ほぇ? 何のこと?」

 

「義之、もう放していいわ」

 

「え? でも、これから……」

 

「いいから」

 

「お、おう……」

 

 何かよくわからないけど、杏ちゃんが義之に指示して僕の縄を解いてくれた。

 

「ふう……いきなり拉致して拷問しようとするからびっくりしたよ」

 

「そりゃあ、あんたが変な勘違いをしてたからね」

 

「勘違いって?」

 

「……もういいわ。それより、白河さんなら小恋と体育館裏にいるはずよ。すぐに行ってきなさい」

 

「あ、うん。それじゃあ」

 

「ええ。幸運を祈ってるわ。……あなたに春が訪れるといいわね」

 

「それじゃあ行ってきます!」

 

 見破られてる! 杏ちゃんには完全に見破られてる! 流石は雪村流暗記術の使い手! 僕の嘘は全てお見通しだったか!

 

 僕はこれ以上掘り下げられたくないのでダッシュで屋上を後にしてななかちゃんのいる体育館裏へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明久が屋上を去る前に、杏が妙なことを言ったな。

 

「杏……今の言葉って、どういうことだ?」

 

 さっきのはまるで明久が誰かに告白しようとしているかのような感じだったが。

 

「よくはわからないけど……あのバカもようやく吹っ切れたっぽいわね」

 

「え? 何々? それって、もしかしてもしかして?」

 

「ええ。そのもしかしてね」

 

 杏と茜が盛り上がってるが、こっちは状況についていけない。

 

「えっと……それって、明久君……」

 

「ようやく、気づいたんですか?」

 

「え? 明久が、気づいた? 白河の気持ちに!?」

 

 まさか、とてもそんな風には見えなかったぞ。

 

「いいえ。相も変わらず気づいてないでしょうね。あのバカ」

 

「え? じゃあ、なんで……」

 

「勘違いはそのままだけど、どうやらどこかで白河さんに対する気持ちが特別な方向に切り替わったみたいね」

 

「いや、どこで!? いつの間に!?」

 

「知るわけないでしょ。あのバカの考えてることなんて。ま、何にしても後はあいつがちゃんと白河さんに告白すれば万事解決ね」

 

「そ、そうか……」

 

 俺達のここまでの苦労を返せとあいつに言いたいところだが、あの2人が両思いだというのがわかったのは幸いだ。

 

 後はあいつがこのまま白河に告白して、ずっと2人一緒に暮らすことを決意してくれればもう言うことはない。

 

「さて、行くわよ」

 

「へ? 何処にだ?」

 

 杏が何処かへ行こうと促すが、何処で何をする気だ?

 

「決まってるでしょ。このまま告白したとしても、あの2人やFFF団が邪魔しないとも限らないでしょ。いいえ、高確率で来るわね」

 

「あぁ……」

 

 確かに。あの3人やあのFFF団とやらいう集団が何処から明久の告白を聞きつけて現れるのか全く予想がつかない。

 

「だから、それを防ぐための人員は、必要よね?」

 

「おい、杏。それって、あいつらのボディーガードを称したただの覗きじゃねえか?」

 

「人聞きが悪いわね。用心のためよ」

 

「いや、わからなくはねえが……人の必死の告白を覗き見するのはな……」

 

「何言ってるのよ。既に白河さんの告白を目撃してるんだから、今更1人や2人の告白を覗いたって変わらないでしょ」

 

「今あっさり覗きって認めたよな」

 

「いいから。なんとしてもあの2人に邪魔が入らないようにキッチリ監視するわよ」

 

「いや、だからって……」

 

「い、行こう弟君。絶対にあの2人をくっつけなきゃ」

 

「そ、そうですね……明久さんが逃げ出さないとも限りませんし……」

 

「2人も何言ってるんだよ」

 

 音姉も由夢も既に興味津々だった。駄目だ。乙女モードになったこの2人を止める術が俺にはない。

 

「よ~っし! 吉井と白河がくっつくように俺らでサポートするぜぇ!」

 

「はいはい。肝心な所でヘマをしないよう気をつけなさいよね」

 

「おうよ!」

 

「……もういいよ」

 

 駄目だ。もうやじうま根性丸出しのこいつらを止めることは俺にはできない。

 

 すまん明久。この件が終わったら俺が詫びをしておくよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……体育館裏だったね」

 

 僕は杏ちゃんの言った通り、体育館裏へと向かっていった。

 

 だが、油断はしない。問題は常に僕の後を追けている。

 

 まずは誰にも見つからないように行動する。特にFクラスのみんなには絶対に目撃されないよう細心の注意を払う。

 

 僕の姿を目撃されて妙な勘ぐりでもされたら下手をすれば二度と告白するチャンスが来ないかもしれない。

 

 もちろん告白する時の光景を目撃されても一緒だ。ひとりでも目撃されればそれがたちまち他のメンバーにも広がって僕は死よりも恐ろしい目に会うだろう。

 

 だから行く時も言葉を口にするのにもかなりの慎重さが必要になる。

 

 ともかく、ここまでは誰とも会っていない。どうやらほとんどの人は大会の方が気になって席をはずせないようだ。

 

 賞品が賞品なのだし、参加者が多いのも理由だろう。観戦だけの人も恐らく華のある女子のいる方へ向かってる人も多いだろう。

 

 参加者の中に割と美人な人も多かったわけだし。それに、美波が女子の人気を集中させてるから女子の通行者も少ない。

 

 本人は嫌がるだろうけど、美波の人気に感謝しよう。

 

 僕はななかちゃんがいるだろう体育館に着いた。そこでは小恋ちゃんと会話しているななかちゃんの姿が見えた。

 

 相変わらずやたらと激しいスキンシップで小恋ちゃんにくっつきながらアレコレ話をしているようだ。

 

 ああいう姿を見ているとほっとする自分がいるって改めて実感する。ようやくわかった、自分の気持ち。

 

 それを改めて自覚しながら僕はななかちゃんのもとへ向かって歩んでいった。

 

「あ、明久君」

 

 向こうが僕の存在に気づいたのか、手を振っていた。

 

「あ、明久君。今はその……」

 

「ごめん、小恋ちゃん……ちょっとばかりななかちゃんに言いたいことがあるから」

 

「私に言いたい事?」

 

 ななかちゃんは首を傾げ、何故か小恋ちゃんはどうしようかという風に慌てていた。

 

 何か僕に言われたらマズイことでもあるのだろうか? 小恋ちゃんにとって都合の悪いようなものはないと思うけど。

 

 それからしばらくオロオロしていたが、ある方向を見ると急に動きを止めた。

 

 何かあるの? 僕は小恋ちゃんの視線を追ってみるが、特に怪しいものはないと思う。

 

「あ、えっと……じゃあ、私は席を外すね」

 

「え? ななかちゃんに用があったんじゃないの?」

 

「あ、あ~……うん、今なくなったみたいだから」

 

「はい?」

 

 小恋ちゃんの日本語がちょっと変な気がする。一体どういうことだろうか?

 

「じゃ、じゃあ……私はこれで」

 

 小恋ちゃんはそのまま何処かへと駆け出していった。なんかやたらと速いな。

 

「で、明久君。話って何?」

 

「あ、そうだった……」

 

 そうだ。僕の本来の目的はこっちだ。今こそ言うんだ。僕の気持ちを。

 

 僕はななかちゃんと向き合った。最初に出会ったのは僕が初音島に来たばかりの時だった。

 

 当時はなんとなく明るくて、マイペースで、なんとも楽しそうな娘だなと思っていた。親しくなった今でもそんな風に思っている。

 

 しかし、ななかちゃんにだって僕達の知らない顔だってあるだろう。ななかちゃんのモテっぷりに嫉妬した女の子の虐めのこともあって、そこでななかちゃんが見せた顔。

 

 あの顔は今でも覚えている。普段は心の底から楽しそうに過ごしているけど、彼女だって普通の女の子だ。悩みくらいあってもおかしくない。

 

 アレを見るまでは僕も全く気づいていなかった。彼女の悩みに。そして、僕は何もできない自分を憎いと思った。

 

 それでも、ななかちゃんはそんな僕の心境を知っていつもの笑顔で振舞って、僕に接してくれてた。

 

 その時からどうかななかちゃんがずっと笑顔で過ごせるように頑張りたいと思い始めたのかもしれない。

 

 だから、その第一歩のために……例え、断られても、僕は君のために何かしたい。それを、今言葉に……。

 

「な、ななかちゃん」

 

「ん?」

 

 ななかちゃんが無垢な表情で首を傾げる。

 

 もう少し……もう少しで口に出せそうなんだ。耐えろ僕。そして今こそ告げろ、この気持ち。

 

「僕、僕は……」

 

「うんうん」

 

 くっ……さっさと出ろ、この言葉。

 

「僕は、ななかちゃんのことが──」」

 

『吉井! 少々来てもらいたいのだが!』

 

「『『『ななかちゃんのことが本気で好きです!!』』』」

 

 …………あれ? 何か僕の声にエコーがかかっていたような気がしたけど? それに、鉄人の声が聞こえたような……。

 

「え? その、明久君……?」

 

 その疑問の前に、目の前のことだ。僕は今やっと告白することができた。

 

 後はななかちゃんの気持ちなんだけど……。

 

「えと……本当に、私でいいの?」

 

「も、もちろんだよ! 本音を言えば、僕はななかちゃんを笑顔にしたい! 傍にいたい! これは心の底からの言葉だよ!」

 

「えっと……あの人達じゃなくて、私?」

 

「あの人達って……姫路さん達のこと? 何で姫路さん達が出るかわからないけど、僕はななかちゃんのことが好きだ! だから、僕とお付き合いください!」

 

 僕は頭を下げていた。告白で願望形で言うのはどうかと思うけど、願わくばと思わずにはいられなかった。

 

 果たして、ななかちゃんの答えは……。

 

「その……っ」

 

 ななかちゃんの瞳からは、涙が出ていた。

 

「え!? な、ななかちゃん!? 何……ひょっとして泣く程嫌だった!?」

 

 なんてこった! 笑顔にするどころか泣かせるなんてバカか僕は!

 

「ち、違うよ……だって、嘘みたいだもん……」

 

「な、何が……?」

 

「明久君が……私と、付き合ってくれる……なんて」

 

 ……付き合って、くれる(・・・)? なんか、ななかちゃんが僕と付き合うことを望んでいたというような言い方だ。

 

「えっと……言っておくと、嘘じゃないよ。その……今までなんとなく楽しいなって思っただけだと思ったけど……今日のゲーム中かな? ちょっとムカつくことがあって。ななかちゃんのこと、友達のこと……侮辱した奴がいたんだ」

 

 もちろん、あの常村変態だ。

 

「その時に、自分の本当の気持ちに気づいた。でも、なんとなく……言葉にするのが怖かったんだ。断られるんじゃないかって」

 

「断る、わけないよ。ていうか、昨日のゲームでも告白してたじゃん。私……」

 

「へ?」

 

 ちょっと待ってほしい。今聞き捨てならない言葉を聞いた気がする。

 

「えっと……昨日のゲームでって……アレって、モノホンの告白だったの!?」

 

 ええぇぇぇぇ!? アレって、ホンマもんの恋愛シチュエーションだったのぉ!?

 

「ぷっ! 何だと思ってたの? 明久君てば」

 

「ああ、その……」

 

 まさか、アレが僕を気遣ってとかじゃなく、本当の告白だったとは思わなかった。

 

 でも、その事実を改めて知ったら、恥ずかしいと同時にすごく嬉しくなった。

 

「あ、その……じゃあ、僕と、その……付き合ってくれますか?」

 

「うん。どうか、よろしくお願いします」

 

「こ、こちらこそ、よろし──」

 

『『『吉井ぃぃぃぃ────っ!!!』』』

 

 っ!? い、今のは、FFF団の嫉妬の咆哮!?

 

『吉井の奴、あんな可愛い娘に告白した挙句、付き合うだってぇ!?』

 

『ふざけんな! ジェントルマンの俺を差し置いて何でブサイクの吉井の告白が通るんだよ!?』

 

『俺、密かに彼女を狙ってたのに……』

 

『キャア──っ! こんな所で、大胆!』

 

『駄目だよ! アキちゃ──吉井君には、坂本君という素敵な人がいるのに!』

 

 な、何故か僕の告白が一気に全校中に広がってFFF団からは嫉妬の言葉が、女子からは羨望の言葉が。最後のは若干違うけど。

 

「ていうか、ちょっと待って! 何でいきなりバレてるの!?」

 

『あ~、その……なんだ、吉井。スマン』

 

「へ?」

 

 真上から声がしたかと思って視線を上へ向けると、体育館の屋上のディスプレイに鉄人が映っていた。

 

「って、何で鉄人が!?」

 

『西村先生と呼べと言っているだろうが。いや、その……愛しき娘への愛の告白を叫ぶのはいいが、それはもう少し遅めの時間を選ぶべきだと思うんだ』

 

「ていうか、何で僕の告白が全校に!?」

 

『いや、学園長のお達しでお前を呼ぼうとディスプレイを通信機代わりに使ってお前を呼ぼうとしたのだが、その際にまさかその子に告白していようとは思わなかった』

 

「そんな機能あるわけ!? ていうか、何でピンポイントで僕が体育館裏にいるのがわかるの!?」

 

『ああ、お前の召喚獣だけは観察処分者仕様だからな。その使用者の位置情報を知るためにと召喚大会中はお前の情報がこっちにわかるよう学園長が改良したのだ』

 

「ババアの仕業かああぁぁぁぁ!!」

 

 あのババアが! こんな大事な時までも僕の邪魔をするとは、やはり僕を不幸のどん底に陥れる気かあの妖怪は!

 

『ああ、とりあえず……観察処分者のお前にやってもらいたいことがあるので、至急中庭の方に来てもらいたい』

 

「待って! その前に僕の保身を! このままじゃ僕は死よりも恐ろしい目に会ってしまいます!」

 

『むう……まあ、それも高校ならではの青春だ。頑張って出来立ての恋人とその困難を乗り切ってこい。ま、頑張ることだな』

 

 その言葉を最後にディスプレイの画面が消えた。最後に見た鉄人の今までにないくらいニヤついた顔が印象に残った。

 

「おのれ鉄人! 僕が苦境にいると知っての狼藉か! やはり卒業式の日に伝説の木の下で釘バットを持って貴様を待ってやる!」

 

「斬新な告白だね~」

 

「怖いこと言わないでよ! 僕の好きなのはななかちゃんだけだよ!」

 

「はいはい。わかったからさっさと行きなさい」

 

「へ?」

 

 いきなり第三者の声が聞こえたかと思うと、そこには何故か杏ちゃんや義之、他のみんなも揃っていた。

 

 ていうか、いつから? まさか……。

 

「まさか……みんなして、覗いてたの?」

 

 僕が言うと音姫さんと由夢ちゃん、小恋ちゃんが目を逸していた。ていうか、全員で覗いてたのか。

 

「スマン、明久。最初は俺も止めたんだが……」

 

「やっぱさ、気になるじゃん?」

 

 渉がお茶目な仕草で舌を出しながら言うけど、ハッキリ言って気持ち悪かった。

 

「ま、とりあえず告白は成功したんだからあんたはさっさと行くべきところに行って、その後は青春をたっぷり堪能しなさい。あんたの行動で取りこぼしたものは私達がなんとかしておくから」

 

 色々言っておきたいことはあるけど、このままここにいるのは危険すぎる。

 

 ここは杏ちゃんの言う通り、まずは鉄人の所に行って速攻用事を片付けてからななかちゃんと色んな所に行こう。

 

「じゃあ、行こう! ななかちゃん!」

 

「うわっ!」

 

 僕はななかちゃんをお姫様だっこの状態で抱えながらその場から駆け出していった。

 

 これからの生活が更に前途多難になった気がするけど、今までのような不幸感はもうなくなった気がする。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。