バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

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第四十四話

 

「はあ……」

 

 家に着いてから僕は翌日の戦いになんとしても勝つために勉強をしていた。残り1回勝てば3連続トップを取ったことにより、望みをひとつ叶えてもらえるからだ。

 

 今日の2回戦の戦いぶりは中々手応えバッチリだった。オマケに点数もいい具合に伸びたし。

 

 その調子で勉強をすれば明日もいい点数を出せるかと思い、勉強することにした。歴史系はもちろん、他の教科も大分いい具合に進んで高1後半くらいのものも理解できるようにはなった。

 

 だが、今日は勉強があまり進まない。手が動かず、ため息ばかりが溢れる。

 

 その理由は今日のアレだ。

 

『私は……私は、明久君が好きだから!』

 

 今日のななかちゃんの2回戦。その試合中、ななかちゃんが叫んだ僕に対する告白。

 

「……~~~~~~っ!?」

 

 駄目だっ! 思い出したらまた顔が熱くなってきた。僕はベッドに飛びついてのたうち回っていた。

 

 ……うん。これ以上はやめよう。見る人が見たら変人だと思われてしまうような奇怪な行動だ。

 

 ていうか、アレは夢なのではないかと未だに実感が沸かない。いや、なんというか、現状を受け止めきれないというか。

 

「……痛い」

 

 試しに自分の頬を抓ってみたら痛かった。いや、今は現実でも、昼間のことは夢だって可能性も……

 

 ♪♪♪~♪♪♪♪♪♪~♪♪~

 

 あ、メールが来たみたい。差出人は……杏ちゃん? 要件は……現実を見ろ?

 

 なんだかピンポイントで今の僕の心境を察してメールを送ってきたようだ。

 

 要件の下の本文は…………音声だけ? 僕は携帯を操作して音声を再生する。

 

『私は……私は、明久君が好きだから!』

 

「ふおおぉぉぉぉ!?」

 

 危ない! こんなのが姉さんに聞かれた日には僕の存在はこの世から塵ひとつ残さず消されてしまうだろう。

 

 しかし、同時に昼間のアレが現実だと認識した瞬間だった。本当に僕は聞いてたんだ……ななかちゃんの告白。

 

『私は、明久君が笑ってくれればいい。ただ正直でいてくれればいいよ。明久君が、これからも自分を偽らないで、私に笑ってくれるなら……それでいいから』

 

 正直言って……ああ言ってくれたのは本当に嬉しかった。僕のことをそんな風に思って、口に出して言ってくれる人がいたのが。

 

 今まで僕の周りの女の子と言えば、僕を嫌っている人が大半だったからなぁ。まあ、嫌ってる原因を作ってるのが雄二時々僕の行動ってなわけだから仕方ないんだけど。

 

 好きって言った人と言えば玉野さんもいたけど……うん、アレは数に入らないよね。僕自身を好きでいる感じじゃないし、正直思い出したくない。

 

 ともかく、色々身の毛がよだつほどのことを思い出したおかげで頭も冷えて冷静な思考もできるようになった。

 

 昼間の告白は現実。ななかちゃんは僕を好きだと言ってくれた。これは杏ちゃんのメールのおかげで事実だというのはわかった。

 

 ……けど、本当に僕でいいのか? それに、ななかちゃんは本当に僕が好きなのか?

 

 ななかちゃんは優しい娘だ。だから、アレは僕を美波達の暴力の手から逃れさせようとしてああ言ったのではないか?

 

 だから公衆の面前でもああやって叫んでわざと自分に周囲の視線を集中させて僕を助けようとした。……うん! きっとそうだ!

 

 ♪♪♪♪~

 

 おっと。今度は電話だ。相手は……また杏ちゃんか。

 

 僕は通話ボタンを押してスピーカーを耳に当てた。

 

『ちゃお、明久』

 

「あ、杏ちゃん。どうしたの?」

 

『ちょっと勉強の進み具合がどうかを聞きたいのと……昼間の白河さんの告白を思い出してのたうち回っていたかを是非とも聞きたいわね』

 

「後半のが絶対本音だよね!? ていうか、なんでわかるの!? ひょっとして何処かから見てる!? それとも僕の部屋に監視カメラか盗聴器でも仕掛けてる!?」

 

『ただの予想よ。ま、当たってるみたいだし……あんたの行動って、わかりやすいから』

 

「う~……僕って、そんなにわかりやすい?」

 

『ええ。恐らく、園児でもあんたの行動パターンは3日と立たないうちに把握されるくらいね』

 

 そこまで単純じゃないやい。

 

「ああ、そういえば昼間の件なんだけど。ななかちゃんにお礼言っておいて」

 

『あら。そういうってことは、白河さんの好意に……』

 

「うん。僕を助けるためにあんな大それたことを言ってくれたんでしょ? 相当の勇気だったんだろうね、僕を助けるためとはいえ、あんなことを本気みたいに大声で言うんだもん」

 

『……何の話をしてるの?』

 

「え? だからななかちゃんのアレって、僕をみんなの暴力から助けるための芝居でしょ? いやあ、理解するのにやたら時間かかったよ。僕なんかにアイドルと謳われている彼女が告白なんてありえないよね」

 

 いきなりの事だったから状況を把握するのに滅茶苦茶時間がかかっちゃったよ。

 

「だから、ななかちゃんにお礼言っておいて」

 

『…………』

 

「ん? 杏ちゃん?」

 

『……茜、そこにあるの。そう……それ持ってきて』

 

『え? ちょ、杏!? そんなもの何に使う気!?』

 

 電話の向こうで杏ちゃんが茜ちゃんに何か指示を送っているようだ。同時に小恋ちゃんの慌てる声も聞こえた。

 

 一体何だろうと待機して何秒かたった時だった。

 

 ギイイイイィィィィィ!!

 

「ぎいぃゃぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 耳元で奇怪な轟音が鳴り響いていた。僕の鼓膜もスピーカーも爆発するのではないかと思うくらいとんでもない音だった。

 

「ぁ……か……」

 

『……つくづく思ってたけど、あんたって本当にバカなのね』

 

 その言葉を最後に杏ちゃんは通話を切った。い、一体何だったのだろうか?

 

 僕、杏ちゃんを怒らせるようなことでもしたんだろうか? 心当たりはないけど、明日謝った方がいいかな?

 

 とりあえず、この調子じゃ電話をかけても無視されそうだし、義之達の手を煩わせるわけにもいかないからこのことは自分でどうにかしよう。

 

 さて、頭も冷えたことだし、明日に向けて勉強でもするか。

 

『アキ君。もしよければ私が睡眠時間を削ってでも裸の個人授業でも──』

 

「断固拒否します!」

 

 まずは安全地帯を作らなければいけないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、どうした杏? なんか、滅茶苦茶でかい音が響いていたんだが」

 

 今日も翔子さんの家で泊まっていた俺達だが、俺と渉で暇つぶしに将棋を打っていた際、ものすごい轟音が響いたので何事だと思って杏のもとへ駆け寄った。

 

 そして、来てみれば杏の手には携帯とドリルがあった。

 

「……何でドリル片手に携帯を操作してるんだ? ていうか、誰かへ嫌がらせでもしてたのか?」

 

 携帯持ってドリルを……考えられるのは通話中にドリルを間近で作動させたという事以外想像できない。

 

 きっと受信側は相当の苦痛を味わっただろうな。

 

「義之……えっと、その……」

 

「ああ、明久がバカな勘違いしてたからお仕置きしただけよ」

 

「明久が?」

 

 どうやら電話の相手は明久だったようだ。しかし、明久がどうかしたのだろうか。

 

「明久がどうしたって?」

 

 渉も気になって杏に問いかけた。

 

「……昼間の告白の件よ」

 

「ああ、白河の……」

 

 今思い出してもアレは相当のものだったな。数は少なかったとはいえ、観戦していた奴らの前であんな大それたことを言ったのだから。

 

「アレか……くぅ~! 吉井の奴、一丁前にリードしてやがって~。これで独り身は俺とお前だけだな」

 

「くっつくな、鬱陶しい」

 

 渉が身体をくねらせながら近づいてきた。正直ウザイ。

 

「……あのバカ、白河さんの告白を自分を助けるための芝居だって勘違いしてるわ」

 

「「…………は?」」

 

 え? 今杏はなんて言ったんだ?

 

「杏? もう一度言ってくれないか? 明久は何だって?」

 

 渉も信じられないという風に再度杏に尋ねる。

 

「だから、明久……あのバカは勘違いしてるのよ。白河さんの告白を、自分の理不尽な暴力から助け出すための芝居だって」

 

「し、芝居?」

 

 ちょ、あの必死の告白が芝居だと思ってるのか、明久の奴……。

 

「あんの野郎……白河に告白されたのも許さねえが、その告白をよりにもよってなんて方向に勘違いしてんだ。明久の奴、一発ぶん殴っておくか!?」

 

「わ、渉君、落ち着いて!」

 

 拳を力いっぱい握って今にも明久のもとへ駆け出しそうな渉を小恋が必死に止めていた。

 

 しかし、流石の俺も呆れるの一言だ。あの状況下でも白河は目いっぱい勇気を振り絞って告白したっていうのに、まさかそれをただの人助けの芝居だと勘違いしてやがるとは。

 

「まったく……女心に鈍感なのにも限度があるだろう」

 

「……今回はあえてツッコまないでおくわ。それよりあのバカをどうするかね」

 

 杏の前半の一言が気になるが、事態が事態だけに今はその事を追求する時じゃない。

 

 俺も杏の言葉に頷いて真剣に明久の勘違いをどう正すかについて考えることにした。

 

「いっそ何発か殴ってわからせるか?」

 

「渉君、それじゃああの人達のやってることと変わらないよ」

 

 まったくもって小恋の言う通りだ。あの人達と同じことをやったら本末転倒というか、明久を更にバカにさせるだけなのでは……。

 

「あ、ひょっとして……」

 

「義之君? 何か思いついたの?」

 

「あ、いや……そういうわけじゃないんだが、明久のその勘違いって、明久の今までの日常が深く関係してるんじゃねえのか?」

 

「……ああ、そういうこと。確かに考えられるわね、あのバカなら」

 

「え? 何? どういうこと?」

 

 俺の言葉に杏は理解したようだが、その他3名は首を傾げていた。

 

「これは俺の予想に過ぎないんだが……多分明久は今まで姫路さんや美波さん、それに玲さんから数々の暴力や暴言を受けた所為で『自分を好いてくれる女の子はいない』、『自分はどうあっても女の子に嫌われる生き物なんだ』と根っこの深い部分まで思い込みが浸透しているんじゃないかって思ってるんだが」

 

「……あぁ」

 

 ここまで言って小恋や茜も納得したように見合わせた。

 

「こんなところにまであの3人の影響が強く出るって……今までどんだけ暴力を受けてたんだアイツは」

 

 美少女に目がないはずの渉でさえ、この状況にひどく呆れていた。

 

「でも、結局どうするの? これじゃあ……」

 

「そこは、どうにかして明久に理解させるしかないな。とにかくまずはアイツにどうやって理解させるかを考えるべきだ」

 

 俺の言葉に全員頷き、白河を除いた他のメンバーを集わせてどうやって明久に白河の気持ちを理解させられるかの会議を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふあ~~……」

 

 翌日、僕は眠気を抑えながら学園へと来ていた。

 

 昨日は姉さんを部屋に入れないための対策をしている所為で時間をロスしたから徹夜で勉強していた。

 

 おかげで睡眠時間が若干足りないため、結構眠気がきている。

 

 まあ、補充試験でも手応えは割といい方だったので、多少の眠気は我慢して今は大会に集中しよう。

 

 さて、いよいよ3回目のすごろく。今回の対戦相手は誰かなと。

 

「アキちゃ──吉井君! 今日はなんとしても勝たせてもらいます」

 

「…………」

 

 かなりキツイ戦いになりそうだ。よりにもよって玉野さんもこの大会に参加していたなんて。

 

 えっと……あとの2人は……。

 

「げっ! 吉井!?」

 

「テメェ、行方不明じゃなかったのかよ!」

 

「あ、へんた……常夏変態でしたっけ?」

 

「「響きが似てるからって先輩と変態を間違えんな! それとまとめてんじゃねえ!」」

 

 うるさいなぁ……この2人の怒鳴り声でも目が完全に覚めない。むしろ不快だった。

 

「ん? 待てよ。お前がいるってことは、ここに木下……俺の太陽が!?」

 

 モヒカン先輩……確か、常村って名前だっけ? まあどうでもいいけど。僕がいるからには秀吉も来てるだろうと観客席を見回した。

 

「いた! よう、木下! 俺の愛しの太陽!」

 

 モヒカン先輩が秀吉にラブコールを贈るとそれを受けた秀吉は吐き気を催した。

 

 ああなるくらいなんだからいい加減諦めたらいいのに。それと、秀吉は男ですよ先輩。

 

『さて、集まったね。それじゃあ、各ステージの試合、始めるよ』

 

 ババア長のアナウンスが切れると同時に試合の合図が学園内全域に鳴り響き、2日目のすごろく大会が始まった。

 

 そうえば、さっきからすごい視線を感じるよね。主に観客席から。

 

 見ると、観客席からななかちゃんを除いた全員がすごい僕を睨んでる。僕、みんなに何かしたかな?

 

 ななかちゃんは……うん、いつも通りだね。杏ちゃん、ちゃんとお礼伝えてくれたのかな。

 

 いやあ、ななかちゃんには感謝感激雨あられだよ。僕を守るためにあんな風に言ったんだから。

 

 まあ、後でFFF団からの制裁という名の処刑が待ち構えているだろうけど、女子からの感心は少しは軽減できるだろうから前よりはちょっとマシになれたかな。

 

「……い……よし……!」

 

 FFF団の方に関してはこれまでと変わらないだろうから、あっちの対策さえなんとかすれば後は姉さんだけだろう。

 

 これが終わって、みんなをあっちの世界に帰すことができたらゆっくり考えておこう。

 

「おい、聞いてんのか吉井!」

 

「ん? 夏川変態でしたっけ? どうしました?」

 

「だから先輩と変態を間違えてんじゃねえ! さっきからお前に勝負を申し込んでんだろうが!」

 

「え?」

 

「吉井君。早く呼び出してくれないと敵前逃亡とみなして失格にしなければなりませんが」

 

「え? あ、はい。やりますやります!」

 

 どうやらぼうっとしてる間にオートパイロット状態でゲームを進行させてたようで常村変態の呼びかけに気づけなかったようだ。

 

 今になって自分の設備を確認すると……ありゃ、いい具合に設備が揃ってるな。オマケに一ヶ所高ランクのエリア占拠に成功してるのがあるし。

 

 どうやら常村先輩は高ランクのエリア占拠を崩そうと勝負を仕掛けてきたっぽいな。

 

「おい、さっさと始めるぞ!」

 

「はいはいっと」

 

「では、教科は日本史でいきます。試召戦争承認します」

 

 日本史か。僕の得意科目だ。日本史は特に重視して勉強したからな。

 

 もちろん、受験生だからには常村先輩も結構勉強したはずだ。点数がどこまで伸びてるか。

 

「それじゃあ俺から行くぜ。召喚(サモン)!」

 

 ポン、と弾けるような音と共に先輩の足元から召喚獣が現れた。

 

『 科目:日本史  Aクラス 常村勇作 316点 』

 

 予想通り、先輩もかなりの力をつけてきた。以前は200ちょっとだったのが、100も力をつけて再び立ちはだかってきたのだ。

 

「おら、どうした? さっさと召喚しろよ。ビビっちまったか? まあ、無理ねえよ。お前の200手前の点数と違ってかなりの差だからな」

 

 先輩が何か言ってるな。まったく……こっちだっていつまでも同じ状態ってわけにはいかないんですよ。

 

「こっちだって……」

 

「あ?」

 

「こっちだって、どうしても勝たなきゃいけない理由があるんですからね! 召喚(サモン)!」

 

 僕の足元からも召喚獣が現れ、その頭上に点数が表示される。

 

『 科目:日本史  Fクラス 吉井明久 408点 』

 

「なっ!? 何だその点数は!? テメェ、ついにカンニングでもしたか!」

 

「んなわけないでしょ。正真正銘僕の点数ですよ。日本史は特に勉強しておきましたからね。大体、補充試験の監督は鉄人なんですからカンニングなんてできるわけがないでしょ」

 

「くっ! 甞めてんじゃねえよ、Fクラスが!」

 

「しゃあ!」

 

 僕と常村先輩の死闘が始まった。

 

 点数でも勝ってるし、操作技術にも割と自信はある。まずはじっくり点数を減らしにかかるぞ。

 

『 科目:日本史  Fクラス 吉井明久 408点 VS Aクラス 常村勇作 265点 』

 

 すごい。ちょっと隙を突いて一撃喰らわせただけでかなり点数を減らせてる。

 

 召喚獣の点数が高いだけでこうも攻撃力が違ってくるとは。先輩の召喚獣が反撃しようとチャクラムのような武器を振るってくるけど、そんな単純な攻撃法じゃ僕を捕らえることはできない。

 

 僕は召喚獣を紙一重で躱せるように位置を微妙にずらし、先輩の召喚獣が通り過ぎた瞬間を狙って反撃する。

 

『 科目:日本史  Fクラス 吉井明久 408点 VS Aクラス 常村勇作 212点 』

 

 いける。この分ならじっくり構えれば確実に勝てる。

 

「くっ! テメェ、やっぱり反則してんじゃねえのか! どう考えたってそれがお前の点数なわけねえだろうが!」

 

「自分の思い通りに事が進まないからって、見苦しいですよ。先輩」

 

 怒鳴りながらも召喚獣を操作して攻撃を加えてくるが、誰かと話しながら避けるくらいは造作もない。

 

「……そういえば、聞いたんだけどよ」

 

「ほぇ? 何です?」

 

 常村先輩が気持ち悪い笑みを浮かべながら僕に話しかけてきた。今度は何を企んでるのだろうか?

 

「お前、何処の生徒かはわからねえが、中学生に告白されたらしいじゃねえか!」

 

「なっ!?」

 

「そらよ!」

 

『 科目:日本史  Fクラス 吉井明久 327点 VS Aクラス 常村勇作 212点 』

 

「くっ!」

 

 マズった。一瞬の隙を突かれて点数をかなり削られてしまった。

 

「所詮噂だと思ったが、その様子じゃ本当みてえだな。随分なもの好きがいたじゃねえか。お前のどこに惚れたんだか」

 

「く……この!」

 

『 科目:日本史  Fクラス 吉井明久 314点 VS Aクラス 常村勇作 199点 』

 

 僕も負けずに反撃をし、先輩もさっきのような一直線な動きでなく、ヒット&アウェイの戦法をとってきた。

 

「あ~あ……あの女もどんな神経してんだか。このバカに惚れただぁ? 一体このバカのどこがいいんだか」

 

「…………」

 

 それに関しては別に反論する気はない。

 

 僕のようなバカに惚れる人なんているわけないし、アレはななかちゃんが僕を助けるための芝居なのだから。

 

 でも、そう考えるとなんだか妙に胸が苦しくなる。ななかちゃんの行為は嬉しい筈なのに、なんでかアレが芝居だと考えると息苦しくなる。

 

「ハッ! お前が好きだとか、そいつも相当のバカなんじゃねえのか!」

 

「っ!?」

 

 今こいつ、なんて言ったんだ、あのモヒカン野郎は。ななかちゃんが……バカ?

 

「カスの仲間はカスってか? 一丁前に見た目はよくても中身は空っぽじゃあ、特に手を出したくもねえな。ていうか、『私は、明久君が笑ってくれればいい』? どこのメルヘンだよ!」

 

「……おい」

 

「あ? なんだ──って、おぉう!?」

 

 モヒカン野郎が僕を見て一瞬驚いたようだけど、そんなことはどうでもいい。

 

「テメェ……これ以上その汚え口を開くな。すぐにカタをつけてやるよ! 二重召喚(ダブル)!」

 

 久々に使う。この白金の腕輪。この腕輪は召喚獣に二重召喚という特殊な能力を与えるものだ。

 

『 科目:日本史  Fクラス 吉井明久 314点×2 』

 

 このように、自分の召喚獣を2体に増やすことができる。ただし、自分の召喚獣が2体出るからには両方自分で操らなければならないため、かなり使い勝手の悪いものだ。

 

 でも、僕にはその2体の召喚獣を両方操れるほどの操作技術がある。

 

「喰らえ!」

 

『 科目:日本史  Fクラス 吉井明久 314点×2 VS Aクラス 常村勇作 127点 』

 

「ぐ……くそ!」

 

 モヒカン野郎は2体の召喚獣に攻めあぐねており、防御するだけで手いっぱいの状態となった。

 

「う、嘘だろ! なんで俺がこんなクズに!」

 

「……先輩、あんたの最大の敗因はただひとつだ」

 

「な、何がだ!」

 

「……僕の……僕の大切な人を侮辱したことだ!」

 

 そうだ。今気づいた。僕は、ななかちゃんが好きなんだ。

 

 アレが例え演技であろうと、あの言葉は本当に嬉しかった。僕のことを思って言ってくれたのが、僕のために勇気を出してくれたのが嬉しかった。

 

 だから、そんな人を侮辱したこのモヒカン野郎だけはどうしても許せない!

 

「くっ……の、野郎! Fクラスの癖に!」

 

「これで終わりにしてやる! 武器具現(リアライズ)!」

 

 これが僕の召喚獣の腕輪の能力。点数を消費することによって別の武器を具現化し、それを利用することができる。

 

『 科目:日本史  Fクラス 吉井明久 246点 VS Aクラス 常村勇作 127点 』

 

 僕の召喚獣、主獣の方には槍と片手剣を持たせ、副獣の方には少し小さめのバックラーと棍棒を持たせてモヒカン野郎の召喚獣へ突っ込ませる。

 

 モヒカン野郎の攻撃は主に副獣の方に防がせ、武器を封じさせたところに主獣の方が重い攻撃を仕掛けるというシンプルな戦法だ。

 

「ぐ……この! Fクラスのクズ野郎の分際で!」

 

「トドメだああぁぁぁぁ!」

 

 モヒカン野郎との試召戦争は呆気無く終わった。

 

『 科目:日本史  Fクラス 吉井明久 211 VS Aクラス 常村勇作 0点 』

 

「ええ……この勝負、Fクラス吉井明久君の勝利です」

 

 モヒカン野郎は敗北を知るとその場で地団駄を踏んだ。

 

「くそ! 俺がこんなバカに負けるとは!」

 

「さて、この勝負は僕が勝ちました。この勝負では出してませんでしたが、できれば僕の言うことをひとつ聞いてくれませんか?」

 

「な、何をさせる気だテメェ……」

 

「別にやばいことはさせませんよ。ただ、これが終わった後でななかちゃんに向けて言った言葉を訂正してくれればいいだけですよ」

 

「そ、それだけでいいのかよ?」

 

「ええ。あんたに対する罰は先生達が考えてくれるでしょうから」

 

「あ? どういうことだテメェ」

 

 ……このモヒカン野郎……僕でもわかることに全く気づいていないのか。

 

「先輩、聞いてませんか? この大会は他の教育会の方達にも見せるためのものだって」

 

「それが何だ?」

 

「そのためにこの学園中の先生達がこの大会を見ているんですよ」

 

「だから、それがどうだってんだ!?」

 

「まったく……要するに、あんたの内申点はほぼゼロになったと言ってもいいってこと」

 

「なっ!?」

 

「そりゃそうでしょ。教育者が周りにいるこんな所であれだけの暴言を吐いたんだから、ひとりくらいそれを聞いてる教師がいたって不思議じゃないよ。現にそこに福村先生がいるし」

 

「ぐ……テメェ……」

 

 モヒカン野郎が僕を睨んできているけど、どうでもいい。

 

「言っておくけど、これは先輩の自業自得ですよ。前の清涼祭での妨害といい、お化け屋敷の件といい、今回といい、これは先輩が起こしたことなんですから、自分で責任を取るのは当たり前ですよ。

 そもそも僕の大切な人をあれだけ侮辱しておいたんだ。この程度で済んだだけで感謝すれこそ恨まれる覚えはないよ」

 

「ぐ……」

 

「じゃ、勝負に負けたんですから先輩は1回休みですね。じゃ、次は僕の番なんで」

 

 その後もゲームは続き、僕の日本史の点数を見たからか、無闇に試召戦争を仕掛けることがなくなり、他のプレイヤーは買取を中心に設備を集めた。

 

 僕はこれ以上ないくらいにポテンシャルが高まってるので買い取られた高い設備のマスに来たら即戦争を仕掛け、その設備を勝ち取った。

 

 それを何回か繰り返し、僕の設備レベルが一定値を越えたのでターン制限が終わる前に僕の勝利によってこのゲームは幕を切った。

 

 うん。やっと自分の気持ちに気づいたわけだから……ダメ元で試してみるか。僕はそう決心してみんなのもとへ駆け出していった。

 


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