バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

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第四十三話

 

「う~……体が滅茶苦茶痛い……」

 

「そりゃあな……フィードバックとやらを背負った状態であんな攻撃を何度も喰らえば、そりゃあそうなるに決まってるだろ」

 

 僕の隣で義之が呆れたように僕を見下ろしていた。

 

 僕は今保健室で全身に湿布を貼った状態でベッドに寝転がっていた。

 

 すごろく大会の1回戦。どうにかギリギリでトップを勝ち取ったものの、代償が大きく、僕は所々炎症や切り傷を作った。

 

 オマケに召喚獣が激しく動いたことの疲労や打撲も多かったので全身ボロボロの状態だった。

 

「人間以上の身体能力であちこち動き回り、人間以上の身体能力を誇る召喚獣の打撃、斬撃……普通の人間だったら死ぬわね」

 

「杏ちゃん、そんな他人事みたいに……」

 

「ええ、他人事だもの」

 

 杏ちゃんはいつものように冷ややかな言葉をかけてくる。

 

「でも本当にすごいよね~、明久君って」

 

「そ、そう?」

 

 茜ちゃんが前に出てきて僕を褒めてくれた。それだったら、頑張った甲斐があったかな。

 

「うん。後先考えずにただ走る姿、かっこよかったかな?」

 

「ねえ、これって褒められてる?」

 

「いや、ほぼ馬鹿にされてるぞ」

 

「…………」

 

 前言撤回。頑張ったというのに、僕に降り注がれる幸が少なすぎる。

 

「でも、茜の言う通り、明久君は後先考えなさすぎだよ。そりゃあ、私達のために頑張ってくれてるのはわかるけど……それで明久君がこれからも大怪我するかと思うと心配で」

 

「う~ん……嬉しいんだけど、観察処分者だから多少の怪我は仕方ないと思うんだけどね」

 

 僕だってできれば怪我なんてないようにしてくれればいいと何度も思ったことあるけど、こればっかりはもう学園の措置なので僕個人の意見ではどうにもならないのだ。

 

「それでも、明久君の場合が過ぎます! 今後はあんな無茶な戦い方をしないこと!」

 

「いや、ああでもしなくちゃ高得点の人には勝てな……」

 

「い・い・で・す・ね?」

 

「……はい」

 

 音姫さん、誰もが見惚れるくらいの笑顔なのにすごく怖い。

 

 こういう顔をしている音姫さんには決して逆らってはいけないと本能が警報を鳴らしていた。

 

「まあ、幸いというべきですか、明久さんの次のゲームまでは間がありますからしばらく休めますね」

 

「うん。……あ、そういえば、ななかちゃんは?」

 

「白河なら、もう次のゲームが始まる頃じゃないか? ついさっきここに寄る前にすぐ次のゲームが始まりますって教師が報告しに来たから」

 

「ありゃりゃ……休む暇もないなんて」

 

 ついさっきゲームしたばかりだというのに、もう次のゲームか。

 

 ただのすごろく大会ならともかく、これは召喚獣を使った大会だからね。召喚獣を使うのは結構集中力がいるからかなり精神的な疲れが残りやすい。

 

 僕の場合は心身共にだけど。ななかちゃんもまだ初心者なので精神的な疲労の度合いは同級生の何割増というくらいだろう。

 

「まあ、そっちの方は渉やまゆきさん達が行ってるから」

 

「うん……ここでじっとしてるのも落ち着かないから、僕達もななかちゃんの応援行かない?」

 

「いや、お前体……」

 

「歩くくらいならなんてことないよ。それに観戦は基本座るだけだし。それならね」

 

「……どうする?」

 

 義之は音姫さんに尋ねる。

 

 こういう時に一番過保護なのは音姫だ。だから音姫さんから許可さえもらえればいいんだけど。

 

 音姫さんは少し考えてから、

 

「……うん、それくらいなら。でも、あまり無理な運動はしないようにね?」

 

 絶対だからねと指を突きつけて念を押された。まあ、僕が無茶した結果だから仕方ないんだけどね。

 

「わかりました」

 

 とりあえず無茶しないと約束して僕達はななかちゃんの観戦へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じゃあ、第2回戦……ちゃっちゃと始めるよ』

 

 学園長先生のアナウンスで第2回戦が始まった。

 

 もちろん、私も既に位置についている。今回のステージはこの学園のプールだった。

 

 そして、私の相手になる人……うち2人は見ない顔だったけど、最後のひとりには……

 

「絶対……負けないんだから」

 

 島田さんだった。

 

 島田さんは私を親の敵でも見るような目でじっと睨んでいた。

 

 多分、明久君絡みだと思うけど、この人や、明久君の周囲の人達の彼に対する暴力をなんとかしたい。

 

 そのためにこの大会に登録したんだから。勉強は辛かったけど……。

 

 だから、私もなんとしても3連続トップを目指してる。明久君にかかる負担が軽くなるように。

 

『さて、早速2回戦開始だ。全員ルーレットを回してちゃっちゃとゲームを進めな』

 

 学園長先生が再びアナウンスでゲームを進行させ、ルーレットが回った。

 

 うん。最初は私だった。私は早速ルーレットを回してルートを進んでいく。

 

 止まって設備を買うかどうかを聞かれたけど、最初の半分は設備を買わずに進めていくことにした。

 

 まずはここで全員がどうやってゲームを進めていくのかを見る方針で行くとゲーム前に決めた。

 

 他のみんなはまず安い設備に手を伸ばして着々と設備レベルを上げる方針でいくみたい。

 

 それで高い設備を買った人がいたら試召戦争で奪いに行く感じかな。私はあまり点数もないし、明久君のような操作技術もないから今はみんなと同じく安い設備を揃えることにする。

 

 そうやってゲームを進めていき、時々チェックポイントで補充試験を受けてどうにか万全の状態を作って今は凌いでいる。

 

 そうしてゲームはもう半分も進んでいった。未だに誰も試召戦争を仕掛けてこない。更に設備のレベルも今の所どの参加者も差はない。

 

 それに、1回戦で私がかかったミステリアスな条件にはまだ誰も引っかかっていない。所々でルーレットの目が特定の数字になったり倍になったりという程度のものでゲームに多大な影響を及ぼすような条件は出ていない。

 

 そんな状態でここまで僅差のままゲームが進行していた。でも、ここから一気に空気が変わった。

 

「じゃあ、白河だっけ……アンタに勝負を仕掛けるわ」

 

 私の名前が呼ばれ、振り向くと島田さんが私を睨みながら勝負を仕掛けてきた。

 

 とうとう来た。この大会で初めての試召戦争。そして、初めてこの人と戦うんだ。

 

 一応、この大会が始まる前に召喚獣の操作の練習をしていたから多少は形になってると思うけど、試召戦争の経験はこの人が圧倒的に上だ。

 

 普通なら経験のない私は逃げた方がいいだろうけど、この大会じゃ逃げることは許されないから私は戦うしかない。ううん。元々逃げる気なんてない。

 

「……受けます」

 

「よろしい! 教科は選択、承認!」

 

 西村先生が教科を決めて召喚フィールドを展開した。

 

「「召喚(サモン)!」」

 

 ゲームによくあるワードを自分の口で言うと、目の前に幾何学模様が描かれ、そこから3頭身ほどの私の生き写しのような生き物が出てきた。

 

 ちなみに私の召喚獣の装備はゲームに出る白魔道士のような服と手には宝石が散りばめられた杖だった。

 

 自分の分身みたいなものだけど、見ててなんとなく和むと思ったけど、今はそんな感想を抱いている余裕はなかった。今は目の前のことに集中しないと。

 

 深呼吸して前を向くと召喚獣の真上には明久君の時のように点数が表示されていた。

 

『 科目:選択  来客 白河ななか 176点 VS Fクラス 島田美波 89点 』

 

 どうにか今回点数では勝ってるみたい。選択では私は音楽を選んだから割と問題が多く解けた。

 

 明久君が言うからには、この点数はBクラス並みって言ってたから結構高めだと思う。

 

「行くわよ!」

 

 でも、島田さんは点数差に全くひるまず、速攻を仕掛けてきた。

 

 咄嗟のことで反応が遅れ、どうにか島田さんの攻撃を躱したものの、点数が削られてしまった。

 

『 科目:選択  来客 白河ななか 131点 VS Fクラス 島田美波 89点 』

 

「ん……」

 

 更に追撃をかけようとした島田さんの攻撃を明久君から聞いた回避方法、サイドステップや空中への退避などで避ける。

 

 明久君からは無理に攻撃していかず、まずは回避に専念した方がいいって言ってた。相手は島田さんだから、この戦法は正解だと思う。

 

「チョロチョロすんじゃないわよ!」

 

 島田さんは私の回避行動に腹をたてながら召喚獣を突っ込ませるけど、動きが素人の私から見てもあまりに一直線的なので私でも簡単に回避できる。

 

 私は召喚獣を縦へ横へと移動させ、時々弱めの攻撃を当てて島田さんの点数を削っていく。

 

『 科目:選択  来客 白河ななか 131点 VS Fクラス 島田美波 62点 』

 

「……何で、何でアンタはウチの邪魔をすんのよ!」

 

 戦っている最中、島田さんが怒鳴りながら聞いてきた。

 

「アンタとアキは別に何の関係もないでしょ! それなのに……」

 

 島田さんの言葉に私は友達だからと返そうと思ってやめた。

 

 友達だからといって、あまり人の深い所には踏み込むのは本当に友達なのかという疑問もだけど、それだけでこの人が納得するとは思えなかった。

 

 明久君も、島田さん達に日頃から暴力を振るわれ続けてもそれでも友達だと認識している。

 

 どれだけ酷い目に会っても明久君は友達だと思っているのに、みんなは明久君にずっと暴力を振るい続けている。

 

 私達の世界でも、そりゃあふざけて追いかけたり時々スキンシップと称しての叩き合いもあったりするけど、この人達のはもうそんな次元じゃない。

 

 どう見ても明久君を心底殺したそうに見えるこの状況を止めたいと思ってる。でも、この人達は残念だけど言葉で止まるような人達じゃない。

 

 この大会が始まってから人通りの多い中を色んな人達に触れて気持ちを読んだけど、この学園のみんなに共通するのは思い込みが激しいこと。

 

 特にこの人達は勝手に変な結論を述べて、その後は理不尽な理由による暴力。いくら他人が止めてもあそこまで一直線になるともう誰が何を言っても無理だと思う。

 

 そんな人が納得する答えなんて、今の私には見つからなかった。

 

『 科目:選択  来客 白河ななか 106点 VS Fクラス 島田美波 62点 』

 

「っ……!」

 

 島田さんの言葉に気を取られてしまった所為で召喚獣の動きが鈍り、島田さんの攻撃が当たってしまった。

 

 私は再び目の前の戦いに集中して回避行動を中心に島田さんに攻撃を加える。

 

「大体アンタはアキの何なのよ! アキが突然いなくなってからようやく戻ってきたかと思えば、アンタ達が傍にいて! アンタ、アキの何処を見て傍にいんのよ!」

 

 最後の言葉はむしろこっちが言いたかった。そっちこそ、明久君の何を見て勝手な結論をつけているのか。

 

 それと考えた。私が明久君の何を見て傍にいるのか。

 

 最初は……私が文化祭に誘われた時のことだった。突然知らない人がうちの男子を止めて出てきたから驚いちゃった。

 

 制服も違うのに、風紀委員と誰でもわかる嘘を言ったり、突然妙な行動を取るから最初は変な人かと思った。

 

 でも、最初に挨拶した時点で明久君がいい人だってなんとなく感じた。いつもなら一言二言話して相手に触れて、その人の中身を知ってから接し方を考えるんだけど……。

 

 明久君の場合は、最初から考える必要がなかった。明久君の中身を考えるまでもなくいつも小恋といる時と同じ……ううん、それ以上に自分の中身を出したつもりだった。

 

 その後で時々明久君の中身を見ても、それは表裏ほとんど関係ないくらいひとつに纏まっていた。

 

 私と手芸部の人達から逃げる時も、女の子のストラップを壊した人達に襲いかかった時も、そのストラップを取り戻そうとした時も、その他日常でだって、明久君は心にある言葉を何一つ偽っていなかった。

 

 もちろん、偽ろうとした時もあるみたいだけど、大抵は自爆という形で口に出しちゃうから面白いと思った。

 

 誰よりも徹底して正直で、まっすぐで、強くて、何より優しさを持った彼ともっともっと楽しい日常を送りたいと思った。

 

 明久君と一緒だから毎日が以前よりもずっと楽しく思えた。全部、明久君がいたから。

 

「ななかちゃん! その調子!」

 

「え……」

 

 気づけば、ステージの外で明久君が応援しているのが見えた。

 

 1回戦のフィードバックによるダメージが残って保健室に行ってたはずだけど、見に来てくれたんだ。

 

 自分が怪我してるっていうのに、それがまるで何もないように振舞っている。

 

 文化祭の時もあんなだったな。誰かのために、自分が傷つく道を選んで、その後はなんてことない顔をしていつも通りに振舞う。

 

 自分に限ったことじゃないのがわかってても、それが明久君だから。それを見てるのが自分のことのように嬉しくなる。

 

「アキ……キッチリお仕置きする必要がありそうね……」

 

「何度も言ってるけど、絶対にさせないよ!」

 

 私は再び気を引き締めて召喚獣を操作してまた一撃入れる。

 

『 科目:選択  来客 白河ななか 106点 VS Fクラス 島田美波 56点 』

 

「っ……何よ……何でアンタはウチの邪魔すんのよ!」

 

 再び来る……島田さんの問い。ちょっとした言葉でも言えば襲いかかってくるかもしれないと思うほど怖い空気があの人の周囲を囲んでいる。

 

 それでも、迷うことはない。ただ一言、自分の本音を言えばいいだけ。

 

「私は……私は、明久君が好きだから!」

 

 言った。そして、周囲を一瞬の沈黙が支配した。何処か遠くで『え?』と誰かが声を漏らした気がしたけど、そんなことを気にするつもりはなかった。

 

 ただ、自分の口で、自分の心にあった言葉を声にしただけだから。

 

「な、なななななな、なんですってぇ!?」

 

 私の言葉に島田さんはワナワナと震えて叫んだ。

 

「だから、絶対に勝ちたい! これ以上明久君に傷ついてほしくないから!」

 

「な、何よ! アレはアキが悪いんでしょ! 大体、アキが好きだっていうなら何でアキが他の女といても普通でいられるのよ!」

 

「……私は、明久君が笑ってくれればいい。ただ正直でいてくれればいいよ。明久君が、これからも自分を偽らないで、私に笑ってくれるなら……それでいいから」

 

 これは本当のこと。もちろん、好きだから自分と結ばれてほしいとも思っている。

 

 でも、明久君が決めた人なら……誰であっても邪魔をするつもりもない。明久君が今までどおり、何の偽りもない笑顔で接してくれるなら、私もそれに釣られて正直でいられるから。

 

 だから、私は明久君に幸せになってほしいから、この大会で勝って、少しでも力になってあげたいから。バカだけど……まっすぐで優しい、彼の助けになりたいから。

 

「行って!」

 

 私は召喚獣を突撃させ、島田さんの召喚獣を突き飛ばした。それにより、更に召喚獣の点数を減らす。

 

『 科目:選択  来客 白河ななか 98点 VS Fクラス 島田美波 32点 』

 

「もう、少し!」

 

 後少しで島田さんに勝つことができる。時間切れを待つつもりはない。

 

 島田さんとは今回の勝負で決着をつけたい。勝って、明久君に対する暴力を止めてもらわないと。

 

「っ……負けるわけ、ないでしょ!」

 

『 科目:選択  来客 白河ななか 54点 VS Fクラス 島田美波 32点 』

 

 追撃を入れようとしたところに島田さんの思わぬ反撃でかなり点数が削れてしまった。

 

 オマケに体勢が崩れてすぐには立て直せそうにない。

 

「隙だらけよ!」

 

『 科目:選択  来客 白河ななか 29点 VS Fクラス 島田美波 32点 』

 

「う……」

 

「これで、形勢逆転よ」

 

 私の召喚獣の目の前で島田さんの召喚獣が自分の勝利は揺るがないとアピールするようにサーベルを突きつける。

 

 このままじゃ負ける……ここで負けたらまた明久君の状況は悪くなっちゃう。

 

 でも、ここで立ち上がろうとしても島田さんの召喚獣は容赦なく私の召喚獣にトドメを刺そうとする。

 

 なら時間切れ? 駄目。それじゃあ自分の本当の気持ちを言ってまで必死に頑張った意味がない。

 

 なんとしてもここで勝たなくちゃ何も変わらない。

 

「トドメよ!」

 

 島田さんの召喚獣がサーベルを振りかぶって私の召喚獣にトドメを刺そうとした。

 

 振りかぶりが大きいものの、武器がサーベルだからか、島田さんの召喚獣の力が元々高いからか、かなりの速さで刀身が私の召喚獣に迫ってきた。

 

 このままじゃ私の召喚獣は戦死してしまう。かといって、これを避けきる自信はない。ここで取れる行動となると、

 

「なっ!?」

 

『 科目:選択  来客 白河ななか 11点 VS Fクラス 島田美波 0点 』

 

 一瞬で決着がついた。

 

「なん……何で?」

 

「召喚獣って……身体のつくりも人間のものを再現してつくってたんだって。だから、人間と同じように急所だって存在する。心臓や頭を貫かれれば一発で戦死も有り得るんだよ」

 

 私の取った行動は『肉を斬らせて骨を断つ』。召喚獣の体を少しだけずらして致命傷を避け、最後の一撃に全力を注いで島田さんの召喚獣の心臓目掛けて杖の先を突き立てた。

 

 それによってギリギリの勝利を取った。1回戦の明久君の行動を見習って見よう見まねでやっただけだけど……やっぱり思ったことを行動してみるもんだね。

 

「アンタ……何で召喚獣のこと……」

 

「あ、これ教えてくれたの……明久君なんだ」

 

「…………」

 

「そのね……島田さんの気持ちはわからないでもないよ。明久君って、誰に対しても優しいから……オマケにすっごく鈍いし。これでも結構アピールしてたつもりなんだけどな~」

 

 それでもちょっと恥ずかしがるところ留まりだからなんだかなぁと思う。

 

「でも、それが明久君だから。すごくバカだけど……純粋で、優しいんだ。だから……もう明久君に酷いことをするのはやめて」

 

「…………ふん!」

 

 しばらく間を置いて島田さんはそっぽを向いたまま離れた。

 

 少しは……わかってくれたかな?

 

「この勝負! 白河ななかの勝利!」

 

 この後もすごろくゲームは進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 結果だけいうと、私は2位で終わっちゃった。

 

 最後辺りまではいいところいってたんだけど、最後にBクラスの人と運悪く対戦することになってしまった。

 

 教科は数学。もちろん、私の苦手科目のひとつなので点数は低い。対して向こうはBクラスだから結構点数が高かったために勝負にならなかった。

 

 その勝負で一番いい設備を持って行かれたのが要因で私はトップを取ることはできなかった。

 

「あ、ななか……」

 

 ステージを出ると小恋達が駆け寄ってきて私を見た。

 

「あはは、ごめんね。結局負けちゃった」

 

「う、ううん! そんなことないよ! すっごくかっこよかったよ!」

 

「ほんと、今日のななかちゃん、しびれたわ~」

 

「ええ。あそこで学園のアイドルである白河さんが大声で告白をするんだもの。みんな驚いてたわね」

 

「う……」

 

 今思い出してみると本当に大胆なことしちゃったな、私。

 

 穴があったら入りたいって言葉が脳裏に浮かんできた。本当にそうしたいくらい恥ずかしいよ。

 

「まあ安心して。私達は応援してるから。……だというのに、当の本人と言えば……」

 

 当の本人。そういえば、明久君はどこにいるんだろう。

 

「……あそこよ」

 

 明久君を探していることに気づいた高坂先輩が観客席の方を指差した。

 

「………………」

 

「おい! 明久よ! いい加減目を覚ますのじゃ!」

 

「おーい! 明久! ……駄目だ。完全に意識がないぞ」

 

「オーバーヒートを起こしたのじゃな。全く……明久はこういう不測の事態に弱いからの」

 

「いや、だからってここまでなるか?」

 

「むう、こうなると……ス~……いい加減に起きんか馬鹿者!」

 

「うわ! 鉄人!? わわ!」

 

「ようやく気づいたのかの? 明久」

 

「あれ? 秀吉? ここは?」

 

「忘れたのか? お主はここで白河の勇姿を眺めておったじゃろう」

 

「勇姿……~~~~っ!」

 

「明久!? これでもかってくらい顔が赤くなってるぞ!? オマケに頭から煙出してないかお前! そんな調子で大会大丈夫か!?」

 

「だ、だだだ大丈夫だよ! 今僕かなり頭の回転早くなってる気がするし!」

 

「それは錯覚というものじゃ。その前にまず現実に目を向けて──」

 

「えっと……まず物質中の光の速さを求めるにはc……つまり3.00x10 (8)m/s。そこにλ、すなわち波長の……」

 

「マズイぞ! これはとんでもなく重症じゃ!」

 

「え? でも、正解だと……」

 

「それじゃあ、僕は今のうちに補充済ませとくから!」

 

「ちょ、明久!?」

 

 明久君はそのまま逃げるように補充試験へと向かっていった。

 

「…………」

 

「全く……やっとの思いで白河さんが告白したっていうのに、あのバカ」

 

「明久君って、意外とヘタレだったんだ」

 

「吉井君……」

 

「……私の必死の告白って」

 

 やっとの思いで自分の本心を告白したのに、当の本人は逃げちゃって。

 

 でも、これはこれで脈はあるって考えてもいいのかな。うん、もう告白しちゃったんだから、近いうちに絶対答え聞かせてもらおっか。

 

 絶対に逃がさないからね、明久君。

 

 ちなみに、その後で明久君が3回戦に出て、今までにないくらいの点数を持って圧勝し、2連続でトップを取ったようです。

 


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