バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

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第四十話

 

「さて、これより第2回異世界脱出会議を始めようではないか!」

 

 場所は文月学園の屋上。会議をするにはここがうってつけだと言う坂本のお墨付きで俺達はここで会議をすることになった。

 

 しかし、ここにその坂本はいない。杏に聞いたところ、今まで一緒にいられなかった時間の埋め合わせだとかで霧島さんにスタンガンで気絶させられて何処かに連れてかれたという話だった。

 

 まあ、色々ツッコミ所は多いが、こっちの世界で一々ツッコんでばかりいたら気力体力が保たない。

 

「で、この世界の脱出とは言うが杉並、今回のは別に異常やしいものが見当たらないんだぞ。何かの条件を揃えろとか言われてどうにかなるものか?」

 

「ふむ。それについてはまだよくわかってはいないが、可能性としては2つ程の予想があるな。まずひとつ目に、あの扉がある程度時間を置いて開くかどうかだ」

 

「まあ、前は条件が揃うまで消えていたのに、今回は残ったままだしね」

 

「……ちなみに今朝扉が残ってるのかは確認済みだ」

 

 土屋がデジカメを操作して俺達に見せつける。

 

 表示されてる時間を見ると、どうやらまだ残ったままのようだ。

 

「ふたつ目に、また条件を揃えなければならないかどうかだ。今回は世界の異常と言えるようなものがないのだからその条件を探すのは前回よりも遥かに厳しいだろう」

 

「確かに。あのFFF団とやらがいること以外は平和そのものだしのう」

 

「あれが平和の一部とは到底思えないがな」

 

 あのFFF団といい、明久の姉さんといい、あの2人といい、色々問題の多すぎる世界だった。

 

「その条件というのがこの世界の住人である吉井達を置いていく……となれば、些か寂しいものだがな。折角の最高級ミステリーの結晶を目の前にしてそれを置いて帰りたくはないしな」

 

「そうだよ! それは絶対に嫌!」

 

 杉並の言葉に白河が声を上げて同意した。まあ、昨日今日であんなものを目の前にしちゃあ、明久をこの世界に置いていきたくはないだろうな。

 

 外でも暴力による地獄。家でも姉によるDV。そしてその後には更にカオスな母親だっている。

 

 あんな奴らが説得でどうこうできるとはとても思えなかった。

 

「確かに、それはちょっと嫌かな」

 

「それに……あんな問題だらけの環境に放っておいたら、今度こそ死んじゃうかもしれませんし」

 

「ていうか、あの環境で今まで生きていたことさえ不思議だわ」

 

「あはは、本当にね」

 

「明久、お前の事だぞ」

 

 その地獄の渦によって一番被害を受けてるのは多分明久だろう。

 

「というか、お前もなんとかする事を考えた方がいいと思うぞ。あんなされるがままに暴力を受けてばっかで、少しは主張してもバチは当たらないと思うが」

 

 ていうかむしろバチが当たるべきなのは明久に暴力を振るってる人達だと思う。

 

「ん~……姉さんのはともかく、美波や姫路さんに関しては、僕にも悪いところがあると思うから。結構2人を怒らせてばっかで……まあ、女の子の前で他の女の子に目移りしたりなんだりしたらそれはね……」

 

「……お前、本気で言ってるのか?」

 

「え? 違うの?」

 

 明久は心底不思議そうに首を傾げた。

 

 いや、いくら友達だからって、ただ他の女子と一緒にいるだけであんな理不尽な暴力受けて、それを毎回受けて自分に非があると思ってるのか。

 

 ……明久も明久でこの世界に毒されてる気がする。

 

「……とりあえず、前と同じように手掛かりがないか調べてみよう。何グループかに分けてその中にひとりずつ文月学園の人を入れよう」

 

「そうだね。こっちの事知ってるのって、この中じゃ僕と秀吉、ムッツリーニと……霧島さんに連れてかれた雄二くらいだし」

 

「では、諸君。次こそ我らが故郷へ戻れるよう頑張ろうではないか。では行くぞ同志土屋。この世界のミステリーを是非とも」

 

「……任せろ(グッ!)」

 

 土屋がガッツポーズを決め、杉並と共に猛スピードでその場を去っていった。

 

 ていうか、チームはチームだが、もう少し人数の割り当てを考えてほしかった。

 

「さて、僕はどのチームに入ろうか……」

 

「じゃあ吉井。あんたあたしらの方入りなよ。ここら辺なら色々知ってそうだし、いざとなれば体張って色々してくれそうだから」

 

「え? 体を張ってって……一体何に対して……」

 

「ほら、行くわよ。今は一分一秒も惜しいところなんだから」

 

「いや、ちょ……できればお手柔らかに」

 

 明久は高坂さんに引きずられ、そっちに杏や茜、白河にムラサキが行った。

 

「……明久、強く生きろよ」

 

 渉が明久に向かって合掌をしていた。以前は自分が同じ目にあったがために明久に同情したようだ。

 

「……さて、俺達も行くか。……と、その前に木下、聞いていいか?」

 

「ぬ? 何じゃ?」

 

「いや、あの2人の事なんだけどさ……」

 

「あの2人……姫路と島田のことかの?」

 

「そう。あの2人……明久のこと何だと思ってるんだ?」

 

「ぬ? あの2人は明久に惚れておるのじゃが……わからんかの?」

 

 それを聞いて俺を含め、その場にいる全員が信じられないといった表情をした。

 

「惚れ……好きってことか?」

 

「うむ。明久は全く気づかんがの」

 

「いや、たかだか他の女子といるだけで関節外したり殴殺しかけたり、正直お前が言わなきゃ……いや、例え言ったところで端から見れば明久を憎んでるようにしか見えないぞ」

 

「……すまぬ。言われてみれば儂も否定できん」

 

 あの2人の日頃の行いを思い出したのか、苦い顔で謝った。

 

「それに明久もなんだが……あいつ、あんな酷い仕打ちを受けても自分に非があるって思い込んでるのは?」

 

「むぅ……まあ、島田に関しては普段からぽろりと痛烈な本音を出してる結果なのじゃが、姫路に関しては……うむ、よくよく思い出してみれば姫路も似たりよったりじゃの」

 

 多少女子にとってダメージな言葉を発したことはあるみたいだ。

 

「だが、それを入れてもあれは明らかに暴力が過ぎるだろ。教師は何も言わないのか?」

 

「むぅ……教師に言っても恐らく無駄じゃろう。元よりFクラスでは日常茶飯事じゃし、島田はともかく、姫路は優等生として通っておるからの。対して明久は観察処分者じゃ。誰も明久の意見を聞こうとはせんじゃろ」

 

「な……」

 

 絶句してしまった。もう悪循環しかないじゃねえか。

 

「あの、教育機関としてその待遇はおかしくない? 成績が優秀なだけで優遇を受けて、その……下位の人ばかり……というか、明久君ばかり痛い目を見て」

 

「うむ……それがこの学園のシステムじゃからの。それに何故かこの学園では女子の方が力関係が勝っておっての」

 

 木下が遠くを見るような目をして呟いた。

 

「女尊男卑の学校って……よく教育委員会で問題になりませんでしたね」

 

 由夢がため息混じりに呟く。もう狙ってるかのように明久にとって悪い地獄ばかりじゃねえか。

 

 しかも、好きだとかなんだとか言いながらあの過剰暴力。

 

「えっと……とりあえず、その話は後で考えるとして、あの2人が吉井を好きになった理由は?」

 

 渉が話題を変えて木下に尋ねた。それは俺も聞きたいと思っていた。

 

 好きになったからには何か理由はあるはずだ。

 

「むぅ……大部分がただの予想でしかないものであれば話すが……」

 

「頼む。ついでにこれまでの明久のこの学園での生活も含めて説明頼む」

 

「うむ」

 

 それから木下が入学してから2年の秋までの明久の生活を説明した。

 

「……と、儂がわかるのはこれくらいかの」

 

「……なるほど。美波さんの方は帰国して間もない頃に明久が国境問題関係なく接したのがきっかけ。更に清涼祭で誘拐まがいの事件で助けてもらったり告白に近い言葉をくれたりして明久に好意を寄せてる。それで、姫路さんが小学生の頃から明久を好きだった。……ますますあの暴力に訴えるのがわからん」

 

 これだけ明久に優しくされて返すのがほとんど暴力って……報われないにも程があるだろう。

 

 まあ、時々いい雰囲気だったところもあったにはあったが……大部分が暴力の連続で本当に明久を好きなのかますますわからん。

 

「理由はわかったけど……それなのにまるで自分の物のようにしてる限り、いつまでたっても同じことの繰り返しなんじゃ?」

 

 小恋が恐る恐る木下に言った。

 

「むぅ……姫路ならまだ交渉できるかもしれんが、島田共々となるとまず無理じゃのう。自分の非をわかっておらんようじゃしの」

 

「そう……」

 

「はぁ~……どうにか少しでも明久の望む方向に傾いてくれないかねえ? あの2人に明久に手を出すなって約束とか……」

 

「しても守る気ゼロだと思うぜ。あの調子じゃ」

 

 ななかと一緒にいるというだけで骨を折ってくるような人だ。約束ごときで止まるとは思えない。

 

「でも、このままじゃ明久君の毎日が地獄になっちゃうよ……」

 

「いっそのこと、転校でもできればいいんだけど……」

 

「あのお姉さんがとても許すとは思えませんね」

 

 確かに。転校しようにもまず家族に相談をしなければならない。

 

 あの玲さんを説得するのもレベル1で最終ボスを倒そうとするくらいに難しいのに、更に後には玲さん以上に酷いと思われる母親もいるんだ。

 

 そんな人達に転校を促すなんて不可能に等しい。

 

「八方塞がりだ……。こりゃ是が非関係なく無理やりにでも明久を連れていった方がいいんじゃないか?」

 

「いや、方法はなくもないと思うが?」

 

「……久保?」

 

 明久の周囲の環境に改めて呆れているところに久保が扉を開けて出てきた。

 

「いや、吉井君達がここにいると聞いてね。今は吉井君はいないのかい?」

 

「ああ、今俺達が元の世界に戻るための手掛かりをな」

 

「ああ、そうだったね。しかし、何も手掛かりのない状態ではかなり難しいだろう。と、それより吉井君が暴力を受けてると言ったね?」

 

 久保がメガネを指先で持ち上げ、鋭い目つきで木下に尋ねた。

 

「う、うむ……あまりにもそれが日常的になっておって本人も諦めとるのか、誰にも言わんかったが……」

 

「そうか……。何故……何故それを僕に相談してくれなかったのか? 君は僕が吉井君に対する愛情を知らないのかい?」

 

 久保の言葉に一瞬寒気のようなものを覚えた瞬間だった。

 

「い、いや……お主が明久のことを考えておるのは知ってるぞい。その、決して仲間はずれにしようということではないのじゃ」

 

「うむ……まあ、それについてはまた今度聞き出そう」

 

「う、うむ……そういえば、久保はさっき何を言いかけておったのじゃ? 明久の窮地を救う方法があったかの?」

 

「む、そうだったな。いや、ここに来る前に校舎の壁にこの紙が張り出されていたのでね。全校生徒に配布されていたものらしいので、僕も先日一枚もらったんだ」

 

 そう言って久保は一枚の紙を俺達に見せた。

 

 そこに書かれていたのは──

 

 

 

 

 

 

 

「『新・試召戦争 ドキドキ・ワクワクすごろく大会』?」

 

 僕は高坂さん達と手掛かりを探しにまず校舎を回っていると廊下の壁にあった張り紙に目がいった。

 

 そこに書かれていたのは新しいルールが追加された試召戦争の大会が後日開かれるというものだった。

 

「試召戦争って、確か召喚獣を使って戦うって言ってたアレよね?」

 

「はい。でも、新しいルールかぁ……」

 

 目先の事も大事だけど、なんとなく気になっちゃう大会だった。

 

 あのババアが主催者なのだから、きっとまた何か自慢するためのものなんだろうなぁ。

 

「えっと……召喚獣と召喚者をひとつの駒として扱い、それぞれに架空の通貨を与える」

 

「なんだか人生ゲームみたいな感じだねぇ」

 

 杏ちゃんがルールを読み上げて茜ちゃんが呟く。

 

 確かに今の一言だけだとまるで人生ゲームみたいだ。だが、あのババアのことだからそれだけじゃないはずだ。

 

「その架空の通貨で各備品を集めていき、また……その備品は召喚獣を戦わせて奪うこともできます」

 

 次にムラサキさんの説明。その辺りは前の試召戦争と変わらないみたいだね。

 

「ちなみに、今回の試召戦争はクラス対抗ではなく、4人組の個人戦になります」

 

「個人戦かぁ……なら、クラスは関係なしってことだね」

 

「更に、トップを3回連続で取れば賞品がもらえるらしいですわ」

 

「賞品?」

 

 ムラサキさんの説明の中にひとつだけ気になるワードが出てきて僕は張り紙の文を凝視する。

 

「えっと……賞品はトップを取った者の望むもの。つまり、何でも好きなものをもらえるってこと?」

 

「だとしたら、随分太っ腹な学園長なのね。生徒の望むもの……だなんて」

 

「これで自分の世界へ帰れるように……なんてできたら最高だったんだけどね」

 

「でも、やらない手はないよね。もしかしたら、試召戦争をやってるうちに手掛かりが転がりこんでくるかもしれないしね。元々オカルトな要素も入っているだけに、何が起こるかわからないし、もしかしたら試召戦争があの扉を開けるきっかけになるかもしれないしね」

 

「ま、聞いたところ科学の範疇じゃおさまらないものと聞かれれば今のところこの学園の試験召喚システムくらいだし……いいんじゃないかしら?」

 

 杏ちゃんも僕の意見に賛成してくれてるみたいだし、そうなればこの大会に出てみる価値はある。

 

 それに、個人的に賞品というのも気になるし。

 

「そうと決まれば、早速聞いてみるとするか」

 

「聞くって……誰に何を?」

 

「もちろん、学園長にこの試召戦争のことをさ!」

 

 僕はみんなを案内して学園長室前までやってきた。さて早速、

 

「学園長!」

 

 聞き込み開始といきますか。

 

「って、明久君……ノックは──」

 

「やれやれ、このバカが。入る時はノックをして返事を待てと言っただろ?」

 

 学園長室に入れば以前と変わりない妖怪の姿をした老婆が机と向かい合っていた。

 

「……って、あんたかい。随分見なかったが、突然どうしたんだね? それに、あんただけじゃないね」

 

 学園長が後ろにいるななかちゃん達を見る。

 

「あはは……」

 

「こ、こんにちは……」

 

「……で? 雁首そろえてどうしたんだい? まあ、ここに来る理由となれば、後日開かれる試召戦争の賞品のことだろうけどね」

 

「その通りです! で、早速なんですけど……もらえるのは、本当にその人が望むものならなんでもってことですか?」

 

「学生に分相応なものならね」

 

「聞きますけど、それって物以外じゃ駄目ですか? 例えば、観察処分者を取り消すだとか……」

 

「それは無理な話だね。アレはあんたのような大バカのための処分なんだ。おいそれと取り消すなんてできるわけないよ」

 

「まあ、今のは例えってだけですけど……だったら、あるものを調べてもらいたいんですけど……それじゃあ駄目ですか?」

 

 僕が言うと、学園長は意外なものを見る目で僕を見つめた。

 

「へぇ……てっきりあんたは観察処分者独特のフィードバックをなんとかするかと思ってたが……どういう風の吹き回しだい? 大体、何を調べろっていうのさ?」

 

「それはまたいずれってことで……どうなんですか?」

 

「それくらいなら、考えてやらんでもないが……この大会はバカが勝ち抜くのは無理さね」

 

 確かに。クラス規模の試召戦争とは違って個人戦ともなれば点数の高い人の方が圧倒的に有利だ。

 

「やってられない事はない。どんだけバカだって、勝機はある筈!」

 

 自分より点数の高い人を相手なんて今までだって何度も経験してるんだ。今更上位クラスの生徒と当たったって怖気づくなんてことはない。

 

「ふ~ん……。まあ、あんたがそういうなら勝手にやりな。参加は自由だしね」

 

 いつものように興味もない風に言って学園長は机に向き直った。

 

「それじゃあ、聞くことは聞けたし、明日に備えて僕は勉強でも──」

 

「見つけたわよアキ!」

 

「明久君!」

 

「…………」

 

 いざ明日に備えて勉強しようとした矢先にまたしても地獄が向こうから駆けつけてきた。神様、あんた僕のこと嫌いだろ。

 

「アキ、いい加減正直に吐きなさい!」

 

「明久君!」

 

 いまだに僕と一方的な(ころし)あいをしようと鬼も閻魔も真っ青になって逃げるだろう形相で僕に近づいてくる姫路さんと美波。

 

 やっぱり僕は相当2人にも神様にも嫌われてるみたいだ。

 

 姫路さんと美波が僕に襲いかかろうとしたが、僕と2人の間にななかちゃんが割って入ってきた。

 

「また……そこをどきなさいよ。ウチはアキにお仕置きするのよ!」

 

「どいてください、明久君にはお仕置きが必要なんです!」

 

「お仕置きおしおきって、あなた達がやってるのはただのイジメだよ! 明久君はあなた達のものじゃないんだよ!」

 

「何よ! あんたには関係ないでしょ!」

 

「あるなしとかそんな問題じゃないでしょ!」

 

「わぁ~! 2人共落ち着いて!」

 

「やめなバカ共っ!」

 

 また3人が喧嘩になると意外なことに学園長が阻止に入った。

 

「あんたら、ここを何だと思ってるんだい。あたしゃ、忙しいんだよ。喧嘩なら他所でやりな」

 

 うん、決して暴力を止めようとしているわけではなかった。

 

「学園長! それよりも先に2人の暴力に関して言うことはないんですか!」

 

 ななかちゃんが学園長に向かって2人の行動について大声で問うた。

 

「知らんさね。こんな些事にいちいち付き合ってやる義理はこっちにはないさね。それよりあたしも忙しいんだよ。さっさと出ていきな」

 

 本当、なんでこんな妖怪が教育界で生きていけるのだろうか。

 

「……じゃあ、私もその試召戦争に参加します! 自由なら私が参加してもいいですよね!」

 

 ななかちゃんがとんでもないことを言いだした。

 

「ちょ、ななかちゃん!? 君はそもそもこの学園の生徒じゃないし、第一中学3年……」

 

「ほう、それはいい考えさね。うん、構わんさ」

 

「いいの!?」

 

 何故か許可出してるよ、このババア長は!

 

「どうせ年齢が違ったってテストの範囲は学年相応に組み立てるんだ。中学生だろうが、小学生だろうが、大したハンデはないさね」

 

 確かに、学校全体でやる以上学年の違う人達だって大勢いるはずだ。ならばそこにななかちゃんを入れてもある意味問題は、ないのか?

 

「それに、学園外の生徒が召喚獣を使うというのもいいし、そこのジャリン娘の外見ならいい宣伝になるからちょうどいいさね」

 

 結局本音はそれか。

 

「じゃあ、私がトップを取れれば、明久君の周囲の問題をどうにかしてくれますよね?」

 

「考えてもいいが、それにはトップを取らなきゃいけないよ」

 

「構いません」

 

「ちょっと待ちなさいよ! いきなり勝手なこと決めて、何なのよ!」

 

 ななかちゃんの参加も決まったかと思うと、再び美波が怒鳴りかけてきた。

 

「勝手なのはそっちだよ。明久君の言葉も聞かないで勝手に変な結論を出して明久君に暴力を振るって。明久君は優しいからなんにも言ってないみたいだけど、私……あなた達のことは許せない」

 

「っ! 偉そうにしないでよ!」

 

 ななかちゃんの言葉に美波の堪忍袋の尾が切れたのか、ななかちゃんに向けて手を振り上げた。

 

 パア──ン!

 

 学園長室になんとも見事だとしか言い様のない音が響いた。

 

「……つぅ」

 

「あ、明久君?」

 

「なによアキ! 邪魔しないでよ!」

 

 ななかちゃんを庇って僕は美波のビンタを受けた。関節技ほどじゃないにしろ、やっぱり攻撃力は高いなぁ。

 

「美波、とりあえず落ち着きなよ。それと、みんなに対して暴力はやめてくれない? 彼女達だって、僕の友達だから、そういうの嫌なんだよね」

 

「何よ……いきなり出てきて、アキと馴れ馴れしくして、アキはその人達に騙されてるだけでしょ!」

 

「……あのね、美波」

 

 今のは流石に聞き捨てならない。

 

「そうです! 明久君の周りに女の子がいっぱいだなんて、何かの陰謀でしかありません!」

 

「……姫路さん」

 

「そうよ! アキをこれ以上変な奴らの傍には置けないわよ!」

 

「……してよ」

 

「もうこれ以上明久君を変な──」

 

「2人共、いい加減にしてよ!」

 

 僕が怒鳴ったのに恐怖したのか、意外に思ったのか、どっちかはわからないけど、2人も後ろにいるみんなも、あの学園長も驚いて無言状態になっていた。

 

「僕のことは別にいいよ。そりゃあ、みんなに何も言わずに消えた僕だって悪いと思ってるよ。でも、彼女達だって僕の大切な友達なんだよ! まだ大して話もしてないのに勝手な想像でそんなこと言わないでよ!」

 

 言ってからかなり息があがった。女の子に向かって怒鳴るなんて慣れないことをしたからだろうか。

 

 とにかく僕はこれ以上この場にいたくなかった。

 

「……ごめん。失礼しました、学園長。みんなも行こう。義之達にも明日のこと相談しなきゃだし」

 

「あ、そ、そうね……行きましょ」

 

 僕の言葉に一瞬遅れて高坂さんが頷き、僕達は学園長室を後にした。

 

 途中で後ろから恨みがましい台詞が聞こえた気がするけど、正直今はどうでもいいとすら思っていた。こんな感情を女子に吐き出すなんて、初めてだよ。

 


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