バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

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第三十話

 

「じゃあ、この人達がことりの言ってた……」

 

「未来の風見学園からやってきた人達なの……?」

 

「そうなの」

 

 ことりさんが連れてきた2人の女子生徒が物珍しそうに僕達を見る。

 

「えっと……どうも」

 

「ふ~ん……」

 

「大変だねぇ」

 

「いえ、それほどでも……」

 

「あ、紹介しますね。こちら、私のお友達で森川知子ちゃん。通称『ともちゃん』です」

 

「よろしく」

 

「それから、こっちが同じくお友達の佐伯加奈子ちゃん。通称『みっくん』」

 

「よろしくね」

 

「よろしく……」

 

 ともちゃんの方はなんとなくわかるけど、みっくんと呼ばれてる少女はなんでその愛称なんだろう?

 

 本名とは一文字も関係ない気がするけど……。まあ、こっちにもムッツリーニなんて本名とはなんの関連もないあだ名で呼ばれてる奴もいるから別にそこに触れることはないか。

 

「じゃあ、こっちも一通り紹介するか」

 

「そうだね」

 

「お願いね」

 

 それから現代……て、こっちの人達から見れば未来から来たのだから未来組ということで。で、未来組のメンバーの紹介が始まった。

 

「えっと……まず、俺の名前は桜内義之。未来の風見学園じゃ付属の3年な」

 

「タメか。こういう場合、同い年として扱うべきなのか、年下として扱うべきか……」

 

「もうタメ扱いでいいんじゃない? 実際にはみんなまだ生まれてないんでしょ?」

 

 生まれてないというか、年の数からすると義之達の両親だってまだ存在してない。

 

「まあ、とにかく普通にしてくれた方がいいかな?」

 

「だよね。私達も、お婆ちゃん扱いされたらたまらないし」

 

「そりゃ~そうだ」

 

 僕達と同い年のお婆ちゃん…………改めて見るとシュールだよねぇ、今のこの状況って。

 

「まあ、時代についてはこの際置いといて……次行くか」

 

「うん。あ、僕は吉井明久。義之とはクラスメートだよ」

 

「よろしくね」

 

「で、手っ取り早く、まずは僕の親友の、木下秀吉」

 

「木下秀吉じゃ。クラスは2組じゃ」

 

「変わった喋り方をするわね」

 

「女の子にしては結構珍しいわね」

 

「何度も間違えられとるが、儂は男じゃぞ」

 

「「え!? 男の子だったの!?」」

 

「…………」

 

 2人が同時に声を上げて驚くと秀吉が膝を落として落ち込んでいた。

 

「ともちゃん、みっくん……」

 

「ああ、ごめん……」

 

「工藤君以上に女の子っぽい容姿してたからつい……」

 

「えっと……秀吉の方は後でなんとかするとして、次行こう。同じく親友のムッツ……もとい、土屋康太」

 

「……よろしく」

 

「えっと……今明らかにムッツリって言いかけてなかった?」

 

「気の所為です」

 

 どうせムッツリーニの本性はすぐバレるだろうけど、自己紹介の段階でわざわざそれを明かすことはないだろう。

 

「そして、最後に坂本雄二」

 

「おう。そこの世界一のバカの世話役みたいなもんだ」

 

「誰が世界一のバカだ:、このゴリラ」

 

「誰がゴリラだ、女装マニア」

 

「うっさいよ拷問専門のドMが!」

 

「あはは……結構、仲いいね」

 

「よ、よろしくね……」

 

 ほらみろ。お前のゴリラみたいな容姿で2人が若干引いてるじゃないか。

 

「さて、日も暮れそうだからどんどん行くか。俺達の時代の生徒会長の朝倉音姫と妹の由夢。俺の姉弟みたいなもんかな」

 

「よろしく」

 

「よろしくお願いします」

 

「ん? 朝倉……?」

 

「で、生徒会副会長の高坂まゆきさんと、王女のエリカ・ムラサキ」

 

「やっほー」

 

「初めまして、エリカ・ムラサキです」

 

「王女様って……」

 

「未来の風見学園って、どんな所なんだろう?」

 

 王女様が出た辺りで2人がひそひそ話しだした。まあ、流石にこっちにまで王女様が転校なんてことはないか。

 

「んで、俺の友人メンバーに入って……ことりさんの親戚に当たるらしい、白河ななか」

 

「白河ななかでっす。よろしく」

 

「おお、言われてみれば、どことなくことりに似てるような」

 

「そうかな? 雰囲気とかは全然違う気もするけど」

 

「えへへ、なんか照れますな」

 

「次に、俺の幼馴染の月島小恋」

 

「つ、月島です。よろしく」

 

「よろしく~♪」

 

「それからうちの作戦参謀的な存在の雪村杏」

 

「よろしく」

 

「うわ、ちっちゃくて可愛い! 色白い」

 

「清楚って感じするよね~」

 

「ふふ、ありがと」

 

「……第一印象ってのは、あくまで第一印象でしかないよな」

 

 渉の呟きに同意して頷いた男性陣だった。

 

「それから、こっちの……色んな意味で豊満なのが花咲茜」

 

「ちょっと義之君、それどういう紹介?」

 

「弟君?」

 

「兄さん……不潔です」

 

「って、うわ……これ、本物?」

 

「と、とりあえず、拝んだ方がいいんじゃない?」

 

「そ、そうだね」

 

 ともちゃんとみっくんは神社のお参りみたく茜ちゃんの胸に向かって2回拍手を打って頭を下げる。

 

「うむ、くるしゅうない」

 

「はは~」

 

 なんのコントだって思うなぁ。

 

「で、こいつは板橋渉」

 

「とも! 風見学園のジェントルマンこと板橋でっす!」

 

 若干舞い上がった状態で渉が自己紹介した。ていうか、彼がジェントルマンって……。

 

 渉の性格を知ってるみんなは微妙な顔をした。

 

「よ、よろしく」

 

「また、えらくテンションの高いのが来たね……」

 

「自分、軽音部に所属してドラムなどを叩いております。以後、お見知りおきを!」

 

「へえ、ドラムを?」

 

「ある意味、典型的かも……」

 

 何だか2人が渉のドラムという言葉に食いついた感じだ。ひょっとしたら彼女達も音楽をかじったりするのだろうか。

 

「で、最後に──」

 

「杉並だ」

 

「す、杉並?」

 

「なんだか、そっくりすぎるんだけど……ひょっとして、あの杉並君とも何か関係が?」

 

「さ、さぁ……そこまでは……」

 

 こっちの時代にも杉並君がいるのか。こっちの杉並君はどんな感じなんだろう?

 

「そんな奴のことなど知ったことではない。俺の前に俺はなく、また後にも俺というものはない。俺は俺だ。以後、よろしく」

 

「はあ……」

 

「と、ともかくよろしく」

 

 とりあえず、これで全員分の紹介は終わった。

 

「それで?」

 

「え?」

 

「ことりからは大雑把に聞いてはいるんだけど、何が起きたとか、詳しくは……」

 

「だから、その辺りを詳しく教えてくれないかな、なんて」

 

「ああ、うん。実は──」

 

 義之がこれまでの事を簡潔に説明した。

 

「──というわけで、俺達は未来に帰れなくなってしまったというわけだ」

 

「なるほどねぇ」

 

「なんか、可哀想」

 

「え? 信じてくれるの?」

 

 流石にことりさんのようにはいかないと覚悟していたのか、義之が意外そうな顔をした。

 

「まあ、ことりからはなんとなく聞いてたし……」

 

「それに、ことりが嘘なんてつくはずないし」

 

 どうやらことりさんはかなりの信頼を得ているようだ。こういった時には本当にありがたい人徳だ。

 

「みんなの力になれるかどうかはわからないけど、協力させてもらうね」

 

「食べ物とか持ってきてあげるから」

 

「本当に!?」

 

 ありがたい。最大の問題である食べ物の問題が一気に解決できた。

 

「ありがとう」

 

「いい人達だね」

 

「ことりの親戚なら家族も同然。困った事があったらいつでも言ってね」

 

「不安だったでしょ? 私が同じような立場だったら多分、すぐにくじけちゃったと思うし」

 

「おお、なんか百万の仲間を得た思いだぜぇ」

 

 渉が拳を震わせながら感動していた。こういう人達が協力してくれるのは僕としても嬉しい限りだ。

 

「では、早速だがこの2人にもこの時代の事を色々聞かせてもらわねば」

 

 

 

 

 

 

 杉並君がともちゃんとみっくんに色々聞くうちに夜になり、僕達は音楽室へと入った。

 

 ここに来るまでに軽く調査活動もやったけど、やはり解明に至るものはなかった。

 

 だが、今回はどうしても試してみたいものがひとつあった。

 

 それは、この繰り返しの原理だ。同じ日が繰り返すというのなら日付が変わる瞬間はどうなるのか。それを調べることになった。

 

 そのために、こっちの時代でこの時代をおぼろげにだが把握している数少ない人間のことりさんも一緒に泊まってもらうことになった。

 

 この時代の人間がループする時の感覚がどうなってるのか、今夜実証されるということだ。

 

「悪いな。こんな時間まで」

 

「えっと、ところでことりさんのご両親とか、心配してないかな?」

 

「はい。クリパの準備で泊まると言っておきましたから」

 

 それからは沈黙が続いた。全員少し緊張した様子で音楽室で無言の時間を過ごした。

 

「んが~~~……ぐおぉ~~~~……」

 

 ……睡魔に負けた渉を除けば。

 

「暢気な奴なだ、あいつ……」

 

「あはは……」

 

 なんていうか、こういう時に大物だなって思うよね、渉って。

 

「それにしても、携帯が使えないのって不便ですね」

 

「まあ、一応時計代わりには使ってるけど」

 

「こういう時、いかに俺達が現代文明の利器に依存してるか思い知らされるよな」

 

「確かに、これだけで原始時代に戻った気分になるよね」

 

 ここが過去の世界ならなおさら退化した気がするよ。

 

「やっぱり時代が違うと使えないんですかね?」

 

「そりゃあそうだろ。契約してる会社にもよるが、俺達がいた時代はほとんどコンパクト化してるものが多いからこっちじゃ対応してる機種がないんだろ」

 

 ことりさんの言葉に雄二が答える。確かに、まだ未確認の携帯を認識するものがこの時代にないんじゃね。

 

「ひとつ言うと、俺の携帯は見事に通信が可能だぞ」

 

「そっか……それはすごいね。…………は?」

 

 今、杉並君はなんて言った? 自分の携帯は通信可能?

 

 はっとして杉並君の手にある携帯を覗くと本当に圏外の文字はなく、アンテナマークが立っていた。

 

「杉並、これ、どうやって……?」

 

「特殊な方法でこの時代の電波をキャッチし、適合変換した信号を送っているのだ。簡単に言えば、小判鮫のように電波へ便乗しているわけだな」

 

「すごい……よくわからないけど、普通に使えるってこと?」

 

 感心した音姫さんが杉並君に問う。

 

「無論、通話やメールなどお手のものだぞ」

 

「……ちなみに俺も」

 

 こういう時のムッツリーニと杉並君はものすごいハイスペックなんだなと実感するよ。

 

「ということは、私達の時代の携帯とも連絡が可能なわけですか?」

 

「……そうもいかない」

 

 ことりさんの言葉にムッツリーニは首を振って否定した。

 

「何でさ?」

 

「うむ。やはり機種が問題なのか、通信相手は我々の時代の端末に限られるわけだ」

 

 要するに現在圏外になっている僕達の携帯しか使えないというわけか。意味ないじゃん。

 

「ん? 待って、ムッツリーニ。それなら僕達の携帯も通話可能になるんじゃないの?」

 

「……可能ではある」

 

「なら、頼むよムッツリーニ。せめて僕達の間でだけでも通話できるように」

 

「確かに。ずっと飾りとしてつけておくのもな」

 

「うむ。是非とも頼みたいのじゃが」

 

「……少し時間はかかるが、待ってろ」

 

 そう言ってムッツリーニは僕達の携帯を持って別の部屋へ移動した。

 

「それにしても、みなさんの時代の携帯って、とても薄いんですね」

 

「そう? これくらいは普通……って、それは僕達が未来の人間だからか」

 

 そういえば、こっちは大体平成が始まって間もないんだっけ。

 

 逆に義之達のいる時代は僕達にとっては未来だけど。

 

「それに、スライドとか回転もするなんて、いかにも未来って感じがします」

 

「機能も、パソコンがそのまま入ってるようなものですよ。大抵のことはできますから」

 

「携帯にパソコンが? なんか、すごすぎて想像できないです……」

 

「まあ、今は圏外なので、ほとんどのサービスは受けられませんけど」

 

 こういう時人間の技術の進歩というのを痛感するよね。

 

「……とと、そろそろ時間だな」

 

「え? まだ日付が変わるまで時間はあるけど?」

 

「吉井、変わらないのは日付だけではない。耳を澄ませ」

 

「へ?」

 

 杉並君に言われるがまま耳を澄ませると、突然校舎の外から爆発音が響いた。

 

「ば、爆発!?」

 

「何があったのじゃ?」

 

「ふむ……やはり、昨日と同じ時間だな」

 

「昨日……そうか。そういえばそうだった」

 

 そういえば、よく思い出すと昨日もこの時間に爆発が起きた気がする。

 

「やっぱり気の所為じゃなかったんですね。毎日、クリパの設備が破壊されてる気がするって感じたのは」

 

「いや、昨日ことりさんだってこれ確認したはずじゃ?」

 

「え? ……あ、そういえば。ごめんなさい、やっぱりその辺りの記憶がどうも曖昧で。不思議なことなんですけど、昨日だったのか今日だったのか、それとも夢だったのか、夜明けになると自信がなくなって」

 

 まあ、普段でも人の記憶というものは頼りにならないものだからね。

 

「それにしても……こんな無粋な真似をする輩とは、何者なんでしょう?」

 

「そうね。こういう時、真っ先に杉並を疑いたくなるんだけど……」

 

「あいにくだが、俺はずっとここにいたぞ」

 

 確かに、こんな奇怪な行動するのは杉並君以外考えられないが、実際彼はここにいたのだからこの時代の誰かということになる。

 

「私、やっぱりあれは杉並君の仕業だと思うんです」

 

「は? しかし、杉並はずっとここにおったぞい?」

 

「いえ、そうではなく……この時代にもいるんですよ。杉並君が」

 

「は? この時代にも?」

 

「…………じゃあ、ひょっとして」

 

「義之?」

 

「実は……最初この時代に来た時、妙に杉並にそっくりの男に会ってさ。顔はそれほどじゃねえが、雰囲気とか性格はまさしく杉並そのものだったぞ」

 

「え? じゃあ、本当にこの時代にも杉並君が?」

 

 まさか、この時代の風見学園にも杉並君の血縁がいたとは。それも、寸分も違わない性質を持って。

 

「なあ、この時代の杉並も、ああいう芸当が得意なのか?」

 

「はい。私達の知る限りじゃ、杉並君以外ありえません」

 

「うわ、なにそれ……杉並が2人って、冗談じゃなくなったわけ?」

 

「考えただけでも目眩がしますわ……」

 

 杉並君が2人……確かにとんでもない事態だ。更にこちらの杉並君は僕達の敵と考えるべきだね。

 

 まあ、向こうの時代でも立場上、杉並君は敵なんだけどさ。

 

「見てなさいよ、こっちの杉並! 必ずとっ捕まえてやるからね!」

 

「ええ、杉並はひとりで十分ですわ」

 

 高坂さんとムラサキさんがこちらの時代の杉並に対する対抗心を燃やす中、ななかちゃんがポケットから携帯を取り出して画面を見る。

 

「ねえ、そろそろ時間だよ」

 

 全員がそれぞれ携帯を取り出して画面にある時刻に注目する。

 

「……明久、雄二、秀吉。こっちも終わった」

 

 ちょうどいいところに僕達の携帯も通話可能にできたのか、ムッツリーニが僕達の携帯を渡してきた。

 

 僕達もそれぞれ携帯を取って時刻を見る。

 

「ことりさん、今何日の何時何分かわかる?」

 

「えっと……12月22日の11時59分です」

 

 今のところことりさんの時間に対する認識が変わる様子はないようだ。

 

「もうすぐ1日が変わるよ。……10秒前」

 

「9……」

 

「8……」

 

「7……」

 

 ななかちゃんや雪月花のみんながカウントダウンを開始する。

 

「6……」

 

「5……」

 

「4……」

 

 生徒会メンバーも続いてカウントダウンする。

 

「3……」

 

「2……」

 

「1……今!」

 

「よし、ことりさん、今は何日ですか?」

 

「はい、22日になりましたね」

 

 義之の質問にことりさんがはっきりと答える。

 

「あ……」

 

「これは……」

 

 うん。これはもう間違いないだろう。

 

「えっと、ことりさん……さっきは何日だった?」

 

「ですから、21日でしたよね? みなさんもそう言ってたじゃないですか?」

 

「え? 本当にそう思ってるの?」

 

 そう言ってななかちゃんがことりさんの手を握った。

 

「……ちょっと心配」

 

 手を握ってから数秒、苦い顔をして首を振った。

 

「では、白河ことり嬢と一緒に昨日の出来事のおさらいといこう」

 

 杉並君が仕切って昨日のおさらいを始めた。

 

「ええ、覚えてます」

 

「でも、22日が繰り返されるってことで、ことりさんが俺達に相談してきたんですよ?」

 

「そんな気はするんですけど……ごめんなさい、やっぱり実感がなくて」

 

「では、一昨日の話もしてみるか……」

 

 それから一昨日の出来事についてもおさらいした。

 

「はい。でも、それって確か、昨日の出来事のはずじゃ……?」

 

「でも、ことりさんと会ったのが昨日なら、昨日の昼間ともちゃんとみっくんと会った時のはどうなるの?」

 

「それもそうですね。変だなぁ、とは思うんですけど」

 

「これ……どうなってるの?」

 

「とりあえず、日付が変わった瞬間に認識が変わってしまうみたいね」

 

「記憶も意識も連続してるのに、認識だけが変わってしまう、というわけか」

 

「記憶があるっつうのに、日付の認識だけは変わるんだな」

 

 杏ちゃん、杉並君、雄二がうんうんと頷きながら呟いた。

 

「でも、それだと昨日や一昨日の出来事はどうなるの? 昨日や一昨日も同じ昨日の記憶になったら色々とややこしいことにならない?」

 

「明久の言うとおりじゃ。どれもこれも昨日の出来事と記憶しては、色々と矛盾が生じるのではないかの?」

 

「いや、認識そのものがすり替わっちまってるから、特別思い返そうとしない限り、記憶の時系列に矛盾があること自体気づけないんだろ」

 

「おかしいなと思っても、それ以上考えることはなくなるってこと?」

 

「自覚してるこっちの時代の白河ですらこれなんだ。ほとんどの連中は気づいていないだろ。多少おかしいなと思ってる奴もいなくはないだろうが、所詮そこ止まりだな」

 

 なんとなく、桜が年中満開という事実を不思議なままにしている島の人間特有の考え方も影響している気がするんだけど。

 

 まあ、不思議だなと思うことを考えないようにしてそのままにしておくことに関しては僕らも他人のことは言えないんだけど。

 

「でもでも、なら何で私達はしっかり覚えてるの?」

 

「そうね。私達はこっちに来てから3回目の22日だって認識してるのにね」

 

「不思議ですわ」

 

 確かに、そんなすごい力が何で僕達に降りかかってこないのか。

 

「確証はないが、俺達が他の時代からやってきたということと関係があるのだろうな」

 

 うん。やっぱりそうなるよね。今のところ特別な力もない僕達に共通するのは未来から来たってことだから。

 

「でも、やっぱり今日は22日だと思います。それで、昨日が21日で……」

 

「ほう……。して、その根拠は?」

 

「今日が本来なら23日だった、というなら、クリパの準備はみんなほとんど終わってるんじゃないですかね?」

 

「あのな、それはさっきのあの爆発が…………ちょっと待て」

 

 ことりさんに何か言いかけた雄二が怪訝な顔をした。

 

 そして杉並君と杏ちゃんも顔を見合わせた。どうしたのだろうか?

 

「なるほど」

 

「そういうことか」

 

「……だとすると、色々と納得いくぜ」

 

 杏ちゃん、杉並君、雄二が納得したのか、笑みを浮かべていた。当然、ほかのメンバーはわかるはずもない。

 

「納得って、一体なんのことよ?」

 

 高坂さんが3人に問いかけた。

 

「わからないか?」

 

「えっと……音姉、わかるか?」

 

「う、ううん……」

 

「昨日の夜、そして先程……ことり嬢の話によればその前の日も続いていた破壊活動。それに今のことり嬢の言葉」

 

「言葉? 言葉って何?」

 

 小恋ちゃんが首を傾げながら杉並君に尋ねる。

 

「クリパの準備が終わっていないから22日。そう言っていただろう」

 

「正確には『今日が本来なら23日だった、というなら、クリパの準備はみんなほとんど終わっているんじゃないですかね?』よ」

 

 杉並君の言葉に記憶力のいい雪村さんが一字一句違わずに補足した。

 

 しかし、その言葉に一体何があるのだろうか? 23日ならクリパの準備がほとんど終わってるんじゃないかって言われても、サボってる人がいればまだかかることだってあるでしょう。

 

 そうでなかったら誰かが妨害でもしない限り……っ!

 

「そうか、一日が繰り返される原因と繰り返されてるという結果……因果の逆転!」

 

「お、明久の癖にいい所に気がついたな」

 

「え、どういうこと?」

 

「言葉の通りよ」

 

「杏ちゃん、わからないから聞いてるんだけど~」

 

「要するにだ。クリパの準備が終わってないから22日……逆に言えば準備が終わらなければ23日になりえないってわけだ」

 

「けどさ、坂本。準備は毎日続いてるし、認識が変わるだけで、品物は変わるわけじゃないんだから、いつか準備は終わるだろ?」

 

「義之、そんなことには決してならないよ」

 

「は? どういうことだよ?」

 

「準備をいくら進めても多分無駄。どれだけ準備したところで時刻が変わる少し前には……」

 

「時刻が変わる前……あっ!」

 

 そこで義之や他のメンバーも思い至ったようだ。

 

 そう。時刻をリセットするための一番のキーは、22日が繰り返される前のあの爆発による破壊活動だ。

 

「どうやら全員理解したようだな。そう、22日が続くことを望み、準備を妨害している人間が確実にいる」

 

「そういうことになるな」

 

「私も杉並の意見に賛成ね」

 

「けどさ、準備が終わらないから日付が変わらないなんて……」

 

「そんなありえない話って思うだろうけど……実際こんな不可思議としか言い様のない状況なんだ。もうこの際みんなのいう常識は捨てた方がいいと思う」

 

「吉井の言う通りだ同士桜内。もう少し柔軟な発想を持て」

 

 義之も渋った顔をしたが、やがてわかったよとため息混じりに呟いた。

 

「あの、とりあえず話を纏めると……クリパの本番を迎えたくない人がいるからあんな破壊活動が起こってるってことですか?」

 

「うむ、朝倉妹。そうかもしれんということに過ぎんが、もしくは……」

 

「準備期間だけを延々と楽しんでいる人間がいるか、か」

 

「そういうことだ、同士桜内」

 

「こんな変な世界、誰が好きで望むっていうんでしょうか?」

 

「パーティーは本番よりも準備している時の方が楽しいという人間もいるだろう? 別にそれほどおかしな感情でもないさ」

 

「確かに、本番は始まってしまえば後はただ終わりに向けて歩んでしまうだけですからね。みんなでパーティーの準備をしている時が一番楽しいという感情は理解できますわ」

 

 文月学園じゃただ面倒くさいから真面目にやることはなかったけど、昨年・中学……その頃の学園祭を控えた準備期間は確かに楽しいと感じていた。

 

 だからそういった感覚が決してわからないわけじゃない。

 

「まあ、結局のところこれは単なる仮説でしかねえけどな」

 

「でも、そうなれば僕達がこれからやることは、決まってるよね?」

 

 僕は自分でもわかるくらいニヤけた顔で全員を見た。そして、全員がコクリと頷いた。

 

「そうと決まれば……」

 

「じゃの」

 

「……(コクッ)」

 

 いつものメンバーとも顔を合わせて、拳を握り、

 

「明日は……ゲリラ戦だ!」

 

 決意を言葉にして僕は声高らかに宣言した。

 


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