バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

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第十七話

 

 昼休み……。

 

 朝はエライ目に会った。転校生らしい美少女とぶつかり、事故とはいえ姉さんに聞かれれば死刑は免れない事をしてしまい、頬にビンタを受けた。

 

 今度あの娘に会ったら謝っておかなきゃね。さて、今その話は置いといて僕達は食堂へと足を運んだ。

 

「なんつーか、大盛況だな。相変わらず」

 

「超人気だよね。この学園の食堂って」

 

「所詮、我々学生は経済ヒエラルキーの最下層に位置しているわけだからな。安い! 早い! 美味くない! の三拍子揃った学食に人が集まるのは自然の流れだよ」

 

「切ない話だな」

 

「ていうか最後のひとつはあまりにも食堂の人に失礼だと思うよ」

 

 いくら早く安いものでも味がよくなきゃ人はこないでしょ。

 

 しかし、ごく稀に高いメニューや遅いメニューもあるし、天文学的確率で雄二が以前取ったような超美味なメニューだって出る時もあるといえばある。

 

 そんな人間の感情のように移ろいやすい、気まぐれな人間味あふれるこの食堂が人気な理由はそこにあるのかもしれない。

 

「あ~、たまには職人技を遺憾なく発揮した薄切りのじゃなくて、ジューシーな肉が食いてー!」

 

「だったらバイトでもしたらどうだ?」

 

「そんでもって焼肉屋とか行ってさ」

 

「学生の本文は学問です」

 

「お前が言っても何の説得力もねぇな」

 

「授業でも『地球の温暖化について』ってタイトルだったのに、君が述べたのはたこ焼き屋のことだけじゃん」

 

 午前中の戯矢利尊(ギャリソン)先生から『地球と温暖化について』というレポートを課題に出され、渉は失礼ながら小学生にも劣るのではないかというほどのレポートだった。

 

 先生からはC-という評価を出された。ついでと言ってはなんだが、杏ちゃんも杏ちゃんでとんでもないレポートだった。

 

 言ってる事は正論なんだけど、どこか脅迫じみたものだった。そのおかげか、クラスのみんなはあの授業をきっかけにささやかなエコロジーを心がけるようになったとか。

 

「うっせ。それよか、お前ら今日は何にすんだ?」

 

「「素うどん」」

 

 渉の質問に僕と義之が同時に答えた。

 

「うっわ。学食の中でも最もお買い得プライス商品かよ。わびしい奴らだなー」

 

「学園の学食が安いと言っても頻繁に使えばそりゃあお金だって減るよ」

 

 お弁当を作るのもアリかもしれないけど、最近は雄二達も住み着いてるわけだから弁当を作ろうとすればもちろんみんなの分も作らなければならなくなる。

 

 義之や音姫さんも手伝えばできないことはないだろうけど、それでもかなり手間はかかるだろう。

 

 おまけに食費だって馬鹿にならない。特に雄二の食欲には驚かされる。

 

「で、そういうお前は何だ?」

 

「スープ ウィズ ウ・ダンヌ」

 

「何なの、ウ・ダンヌって?」

 

「めちゃくちゃ発音が変だってことくらい、勉強してない俺でもわかるぞ」

 

 巻き舌でよくわからない単語を発した。まあ、スープと素うどんだってことはわかるけど。

 

「つうわけで、素うどんみっつ用意してくるから、お前らは席取っといてくれ」

 

「了解」

 

「3人分の席かぁ」

 

 そんなに大勢座れるようなスペースがあるかどうか。これだけの大盛況なわけだからね。

 

 そんなで僕と義之は左右に分かれて席を探しに。板橋君はメニューを取って行きにと役割分担して作業をはじめる。

 

 短い昼休みなのだから、効率よく過ごさないと時間が勿体無くなるからね。

 

「んっと、どこか空いてるかな?」

 

 キョロキョロと辺りを見回しながら人ごみを避けて空席を探し回る。

 

 本当に大盛況な事で。一人分の席はあるにはあるのだが、元々集団活動する人間が多いのか、そこに座ろうとする人はあまり見当たらない。

 

 どうにか3人分座れる席がないかな?

 

「……あ、ラッキー。一箇所見つけた」

 

 ちょうどいい所に4人分はあるスペースを見つけることができた。僕は急いでそちらへと歩いていった。

 

「あら、明久さん?」

 

「ありゃ、由夢ちゃん」

 

「こんな所でお会いするなんて、奇遇ですね」

 

「そうだね。普段はこんな所で会うことなんてないから」

 

 まさか由夢ちゃんとこんな所で会うとは思わなかったよ。

 

「あっと、席の確保が先だった。相席いいかな? 義之と渉も来るけど」

 

「はい、どうぞ」

 

 僕は由夢ちゃんの隣を確保してから義之を視線で探し、

 

「いたいた。義之、席確保したよー」

 

 義之を呼んで数秒もするとやや駆け足でこちらへと駆け寄ってきた。

 

「おぉ、マジで見つけるとはな──ってか、由夢の隣かよ」

 

「あら、私が隣では何か不満ですか?」

 

 義之のつまらなそうな口調に由夢ちゃんが口調を刺々しくして言う。

 

「いや、そういうわけじゃねえが。とりあえず相席させてもらうぞ。後は渉がこっちに来るのを待って──うげっ!?」

 

 義之が由夢ちゃんの隣に座ろうとすると、正面──正確には由夢ちゃんの向かいに座っていた少女と目が合った。

 

「ちっ!」

 

 隣から聞こえてくる舌打ちの音。隣を見ると、青いショートヘアーに牛柄の帽子を被り、長く紅いマフラーを首に巻きつけた少女が座っていた。

 

 その少女は義之の姿を認識すると顔中に嫌悪感が広がっていた。まるでかたきでも見るように。てか、よく見たら僕にも同様の視線を向けているような。僕この娘に何かしたっけ?

 

「あら? もしかして、お二人はお知り合いでしたか?」

 

 そういえば、義之もこの娘を見てまずったと言ったような反応をしていた。

 

「あ、いや、知り合いってわけじゃないけど、一度会った事があって。名前だってまだ知らないし」

 

 どうやら一度会ったみたいだが、名前までは知らないようだ。にしても何か妙な反応だな。

 

「そうですか。えっと、こちらは天枷美夏さん。今日、私達のクラスに転入してきたの」

 

 どうやらムッツリーニが仕入れてきた転校生のうち2年の方に入ってきたのがこの娘のようだ。

 

「…………」

 

「で、今天枷さんの隣にいる方が一学年上の3年生の吉井明久さん。そして、私の隣にいるのが同じく3年生の桜内義之。私の兄みたいなものかな」

 

「…………」

 

 天枷さんは無言で無視を決め込んでいた。なんだか、彼女の纏っている空気がものすごく冷たい。

 

「あ、あははは……」

 

 由夢ちゃんもどうしたらいいかわからず、乾いた笑みを浮かべていた。

 

 それから義之に寄りかかって耳元で会話を始めた。

 

「(ちょっと兄さん、一体天枷さんに何したのよ?)」

 

「(い、いや……特に何も)」

 

「(じゃあ、何で天枷さん、あんなに不機嫌そうなのよ?)」

 

「(そ、その件に関してはノーコメントとさせていただきたい)」

 

「(じゃあ、原因知ってるってことじゃん。一体何したの?)」

 

「(……聞かないでくれ。頼むから)」

 

 それから義之は何を聞いても口をつぐんだまま何も答えなかった。どうやらこれ以上は話す気はなさそうだ。

 

 しかし、どうすればいいか。義之と天枷さんの間に何があったのかは知らないが、このままこの冷たい空気の中で食事しなきゃいけないのかな。

 

 どうにか場を和ませる事はできないかな?

 

「明久がそのブサイク面を詫びて自殺すれば少しは改善されんじゃね?」

 

「なるほど。それなら早速屋上に──って、なるか馬鹿雄二!」

 

 僕が真剣に考え事をしていたというのに、横からバカバカしい言葉を投げかけたのは雄二だった。

 

「よっ。どこか座れる場所がないかと探してちょうどいいところにここが空いてたからな。それに、見慣れない奴もいるしな」

 

 そう言って雄二は天枷さんを一瞥した。天枷さんは雄二の視線を受けて不愉快そうに顔を歪めた。

 

 まあ、こんなゴリラ顔に見られていい気分にならない気持ちはわかる。

 

「で、こいつは?」

 

「天枷美夏さん。ムッツリーニが言ってたもう一方の転入生だよ」

 

「ああ、なるほどな。……で? 何でこいつはこんなに不機嫌そうなんだよ?」

 

「それがわかればそもそもこんな気まずい状況にはならないと思うんだけど」

 

 一体何故彼女はあんなにも不機嫌そうな顔をしているのだろうか? 理由がわからないだけにどう対処すればいいかわからない。

 

「おお! 待たせたな! ちゃんと席確保してきたか?」

 

 僕のそんな悩みを他所に渉が素うどん3つを乗せたトレイを持って歩いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 ただ黙々と食事を続ける僕ら6人。この場には食器を鳴らす音しか聞こえない。

 

 食事を始めてはや10分。それまで一言も会話はなかった。なんというか、気まずいことこの上ない。

 

 いつもなら美少女相手に会話盛りだくさんの渉もどうにか場を盛り上げようと天枷さんにアタックを試みたが、ことごとく無視され、常時ハイテンションの彼もすっかり諦めて気落ちしている。

 

 義之も気まずそうにただうどんを啜っている。由夢ちゃんはなんとかしてと言いたそうに義之を見ている。雄二はどうでもよさそうにただ食事を進めている。

 

 駄目だ。とても居たたまれないというか、これ以上こんな冷たい空気の中にいたらどうにかなっちゃいそうだ。

 

 とりあえず、食事後でも何か一言くらい喋れればと僕は手の動きを早めて1秒でも早く食事を終わらせようとした。

 

 それと同時に天枷さんが箸を置いた。

 

「ごちそうさま」

 

 礼儀正しく両手を合わせて一言。それから脇に置いてあった鞄を引き寄せて中からバナナを取り出した。

 

 ……ていうかバナナ? 何故にバナナ? 自前でバナナを持ってくるって。

 

「あの、天枷さんって……バナナ好きなの?」

 

 ビシリッ! と、空気に罅が入った音が聞こえたような気がした。

 

 あれ? なんか余計空気が重くなった気がするんだけど?

 

「……貴様、今なんと言った?」

 

 気の所為じゃなかった。確実に重くなっている。天枷さんの声にものすごい怒気が篭っている。

 

 あれ? なんで彼女さっきよりも険悪な表情をしているの?

 

「え、えと……バナナ、好きじゃないの?」

 

「……貴様」

 

 何で!? どうして彼女こんなに怒ってるの!? 僕何かマズイことでも言った!?

 

 そんな頓敵な事を言ったつもりはないけど。

 

 助けを求めようと視線を移すが、義之も由夢ちゃんも板橋君も視線を泳がせて我関せずな態度をとっているし、雄二に至っては面白そうに僕を眺めている。

 

 駄目だ。この場に味方はいない。

 

「どこの誰がバナナなんぞを好き好んで食べようかぁぁっ!」

 

 バンッ!

 

 天枷さんはテーブルを叩きつけて僕を睨みつけてきた。

 

 ええぇぇぇぇ……。何で僕怒られてるの? そしてそんな事いうならなんでこの場にバナナなんかを持ってきてるの?

 

「貴様は知らないようだから一度だけ言ってやる。美夏にはな、この世界で嫌いなものがふたつだけある。たったふたつだけな」

 

 そう言って一泊置いて僕と、義之に視線を移しながら、

 

「ひとつはもちろん貴様達人間。そしてもうひとつが……バナナだ」

 

 右手に握っているバナナを恨めしそうに睨みつけながら言った。

 

「できることならこの世界上からバナナなんてものを──」

 

 ──ピコン、ピコン、ピコン。

 

 突然、彼女の腕時計からアラームのような電子音が鳴り響いた。

 

「ちぃぃ! バナナミンがっ!」

 

 彼女は舌打ちするとバナナの皮を剥いてすごい勢いで齧り付く。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 一心不乱に。ただひたすら。不機嫌な顔をしながら。バナナを食べている。

 

「(えっと、雄二。これ一体何? 何で嫌いとか言いながらバナナを食べてるの? それにバナナミンって何?)」

 

「(知るか。どっかの電波な奴じゃねえのか? 人間が嫌いって、自分は人間じゃないとでも言いたいのかって話だ。それにバナナミンなんて単語、俺は聞いたこともねえ)」

 

 雄二も彼女の取る行動には若干引いているようで口の端が時々ぴくりと動いていた。

 

「(おい、由夢。天枷ってどんな奴なんだ?)」

 

「(わ、私に聞かないでよ)」

 

「(だってお前クラスメイ──)」

 

 ──ピンポンパンポーン。

 

『えー、2年1組の天枷美夏さん、3年3組桜内義之君。至急保健室まで来てください』

 

 天井に設置されたスピーカーから保健室の水越先生の声が聞こえてきた。

 

『繰り返します。2年1組の天枷美夏さん、3年3組桜内義之君、至急保健室まで来てください』

 

 明らかに狙ったように放送を流して義之と天枷さんはとある事情で関係有りという事を公表していた。

 

「ふんっ!」

 

 放送を聞いて天枷さんは不機嫌そうに、仕方ないように立ち上がって保健室へと向かっていった。

 

「おい、お前も呼ばれてるぞ」

 

「わかってるよ」

 

「また何かやらかしたんですか?」

 

 由夢ちゃんがジト目で義之を睨んだ。

 

「大体、兄さんと天枷さんの間で一体何があったんです? 天枷さん、明らかにおかしかったし」

 

「確かに。お前一体何やったんだ?」

 

「べ、別に何もないよ」

 

「そういえば、全校集会の前に妙な痣作ってきた時あったけど、それと何か関係あるの?」

 

「何だ? 面白そうな情報持ってるな。どうなんだ? 桜内」

 

「そういえば、杉並と戻ってきた時痣つくってたよな。土屋も杉並も妙にイキイキしていたし」

 

「じゃあ、俺は呼ばれてるからな」

 

 義之は僕らから逃げるように保健室へと向かって去っていった。

 

 う~ん。やっぱりあの態度、何かあったんだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、今回は何をやらかしたわけ?」

 

「は?」

 

 その日の夜、俺達は芳乃家で鍋を食べていた。

 

 それなりに大きい鍋ふたつ用意していつものメンバーで食卓を囲い、熱くなった野菜や肉を器に移して食べる。

 

 そして夕食を食べながらクリパについて盛り上がっていたところに音姉が話題を変えてきた。

 

「お昼よお昼。水越先生に呼ばれてたよね?」

 

「あ、いや……別に音姉が心配するようなことはしてないよ」

 

 別に音姉が思ったような事はしていない。事情はかなり複雑ではあるが。

 

「…………」

 

「…………」

 

 音姉と由夢も疑わしそうな目で俺を見てる。こりゃ完全に信じてないな。

 

「そういえば放送で桜内の名前の他にもうひとりおったようじゃが、その者と何かあったのかの?」

 

「ああ、あの天枷って女か」

 

 坂本の余計な一言に音姉が過敏に反応した。

 

「坂本君、その天枷さんって誰?」

 

「今日、私のクラスに転入してきた可愛い女の子」

 

 何故か可愛いという部分を強調していた。おま、音姉にそういう事を言ったら。

 

「可愛い女の子……ね。へ~」

 

 ほらみろ、音姉が不機嫌になったじゃねえか。

 

「なんか、2人共知り合いっぽかったよね」

 

「知り合い? 今日転校してきたのに? 不思議だな~?」

 

 2人のプレッシャーが強くなって明久達は巻き込まれないように黙々と食事をすすめていた。この薄情者共が。

 

「で、なんで」

 

「天枷さんと一緒に」

 

「水越先生に呼び出されて」

 

「仕事を頼まれたわけ?」

 

「いや~、あの、その……」

 

 2人の息の合ったコンビネーションと強いプレッシャーに俺は完全に気圧されていた。

 

 怖ぇよ。音姉だけでも相当のプレッシャーなのに、由夢も加わって相乗効果生んでやがるし。地獄だ。

 

「そ、その……彼女は帰国子女だから、面倒見て欲しいって頼まれて」

 

「何で弟君に?」

 

「そ、そりゃ、ほら。俺、英語の成績いいからさ。英国紳士並に」

 

「Could you pass me the soy,please?」

 

「…………」

 

「はい、お醤油」

 

「ありがと」

 

「…………」

 

 これだから頭のいいやつって嫌いだ。こういうところで逃げ場所を崩してくんだから。

 

「ま、別にいいけどね。兄さんと天枷さんが内緒で何していようが、妹の私には関係ないし」

 

 こいつ、自分から言い出しやがった癖に勝手に勘違いして話を切りやがった。

 

 まあ、このまま地獄の時間が伸びるよりはマシなんだけどさ。

 

「でも、兄さんの妹だって事が恥ずかしくなるような真似だけは勘弁してね」

 

「いや、そもそもお前ら実の兄妹じゃねえだろ」

 

「あれだよ? セクハラは犯罪だからね?」

 

「しないよ!」

 

 どんだけ信用がないんだ俺は。

 

「義之、色々大変だね」

 

「そういうんなら、さっさと助けてほしかったぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……ダルい」

 

 俺は部屋に戻ってすぐにベッドで横になった。

 

 話が終えてからしばらくしてさくらさんが帰ってきてあれこれ好き放題言われることになった。

 

 嘘をつくときの癖とかあったのか、俺って。今度由夢あたりにバレないように練習しておくか。

 

「さて……」

 

 ベッドにうつぶせになった状態で鞄から書類を取り出して目を通す。

 

 昼休みに呼び出された時、水越先生から渡された天枷の取り扱い説明書だった。

 

 『HM-A06型 Minatsu』。

 

 拍子にはそんなタイトルがでかでかと書かれていた。これと目次にある写真を見ればロボットなんだなって思うが、脳裏に浮かぶアイツの姿は人間と全く相違がない。

 

 あのむっとした表情に睨みつける視線に怒鳴り声。笑った所は見たことないが、あれがロボットだなんてとっても思えなかった。

 

 ロボットなら市販で売られているμなどしか知らない。人間そっくりではあるが、あまり感情のない目に機械的な作業のこなしぶりからまだロボットだとわかる方だ。

 

 それから俺はぺらぺらとページを捲って天枷のことを調べた。そこに書かれているのは天枷のスペックや注意事項など。

 

「えっと、身長が151cmで体重が36kg」

 

 ふ~ん。ロボットの癖して軽いんだな。あの体の中身はどんな素材で出来てるんだろうな。

 

 ここまで軽いんだから鉄とは違うんだろう。特に皮膚の部分。

 

 そんで、スリーサイズが上から72、50、75と。

 

「なんか、すごくいけないことをしている気分だ」

 

「確かに」

 

 そんで、動力がソーラーパワーとゼンマイ……。

 

「って、ゼンマイ!?」

 

「ゼンマイってあのゼンマイか?」

 

「ブリキのおもちゃ?」

 

 ソーラーパワーならまだわかるが、ゼンマイって。ま、そっちはあくまで緊急用の補助動力源だろう。いちいちゼンマイ自分で巻いて歩くアイツの姿が想像できない。

 

 それから一番重要なのが、バナナミン。……バナナミンって何だ? 確か、昼休みにも明久に対してそんな言葉口走ってた気がするが。

 

「えっと、人工頭脳を効率よく作動させるために必要なエネルギーであり、それはバナナから摂取することで安定することができる」

 

「ようは人間でいうブドウ糖みたいなものかな?」

 

 んで、バナナミンを切らせると、脳制御機能に負荷がかかり、熱暴走を起こす可能性がある。

 

 そのために、8時間に一回はバナナを摂取する必要がある……か。

 

「なるほど。だから昼休み嫌いだとかなんだとか言いながらバナナを食べていたんだ」

 

「あのわけのわからないワードはそういうことだったわけか」

 

「うむ。儂はその場にいなかったから知らぬが、よもやこれが桜内の挙動不審の理由じゃったか」

 

「ん?」

 

 待て。さっきから俺以外に誰かの声がちらちら聞こえてくる気がするんだが。

 

 まさか……。俺は恐る恐る後ろを振り返った。

 

「よっ」

 

「ごめん」

 

「桜内の行動がえらい気になっての」

 

「のあああぁぁぁぁ!?」

 

 そこにいたのは明久に坂本、木下の3人だった。こいつら、今の全部見てたのか!? 聞いてたのか!?

 

「ま、ままままま、待てお前ら! これはだな!」

 

「これは?」

 

「こ、これは……50年くらい前のゲーム攻略本であって──」

 

「嘘ならもう少しまともな事を言え」

 

「明久でもそこまでバレバレの嘘はつかんじゃろう」

 

「秀吉、僕でもって何? 僕だって嘘ならもう少しまともな嘘をつくよ」

 

「「どの口が言うか」」

 

「…………」

 

 駄目だ。完璧に退路を絶たれた。こいつらにはもう下手な嘘は通じねえ。

 

「ともかく義之。あの天枷さんはロボットで、君はそれがバレないように水越先生に頼まれた。そういう感じ?」

 

「…………」

 

 もうこうなったら絞っちまうか。どっちみちここまで見られたらごまかしはきかねえ。俺は明久達に天枷の事情を説明した。

 

「うむ」

 

「なるほどな」

 

「嫌いなものを食べないと生きていけない身体。その身体は彼女の嫌いな人間によって作られたもの。そりゃあ人間嫌いにもなるよ」

 

「まあ、そういうわけだからさ。この事は……」

 

「わかってる。誰にも言わないよ。こんな事知られたらまた同じ事の繰り返しになっちゃうし」

 

「うむ。儂らも出来る限りの助力はするぞい」

 

「まあ、あの女が下手なこと言わなければいいが」

 

 そんな感じで、明久達が味方になって共に天枷の秘密を守りぬくという誓いを立てた。

 

 その後で水越先生に明久達にバレた事を報告して小一時間説教を喰らったのは余談だ。

 


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