バカとダ・カーポと桜色の学園生活   作:慈信

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第十一話

 俺は坂本雄二。文月学園2年Fクラスの代表を務めている極普通の──

 

『くぉら坂本──っ! 霧島さんと自宅でお見合いとぁどういう事だぁ!』

 

 ……普通の──

 

『しかもそれだけでなく、姫路さんや島田を愛人にだとぉ!?』

 

『許さん! ぶっ殺す!』

 

『いや! むしろ殺す事すら生ぬるい!』

 

 ……平凡な──

 

『雄二、浮気は許さない』

 

 …………だぁもう! 何がどうしてこうなってるんだ!?

 

 明久が居なくなってもう一ヶ月半くらいは経っている。

 

 あいつがいなくなったことで姫路や島田が悲し……まず、何故か何処か人知れずに女と仲良くなってるのではと怒り全開の毎日だ。

 

 噂じゃアイツは家出したって事になって今行方不明になっていた。

 

 それであの2人や明久の姉ちゃんや家族もその行方を追っているが、そんなもんは普通警察に任せるものだと思うんだが、あいつらは何としても明久を見つけ出して制裁を加えたいと意気込んでいる。

 

 それで見つけられた日には俺もその光景を是非とも見てみたいところだ。

 

『雄二……浮気をした罰として私の家で泊まり。今夜は帰さない』

 

『霧島さんの家で泊まりだと!? そして帰さない…………坂本! 貴様、遂に霧島さんの身体をその毒牙で!』

 

『『『ゆ~る~さ~ん~!!』』』

 

 って、んな事より今はこの状況をどう逃げ延びるかだ! 翔子の所為で状況が更に危うくなりやがった!

 

 俺は全力で走って今最も隠れるのに向いている場所へ向かった。ほんのちょっとの時間稼ぎにしかならないかもしれないが、あそこなら逃げるための道具だって多少は揃えられる筈だ!

 

 そして俺は曲がり角で一気に加速して目的の場所の周囲を見回した。

 

 しめた! 窓に隙間が出来ている!

 

 俺は迷わずその窓の隙間目掛けて跳躍し、一瞬のうちに窓を開け、身体を通ると足を使って勢い良く窓を締めた。

 

 そして気配を絶つ事数秒間。窓の外を警戒するが、どうやら奴らは俺が近くに隠れてると知らず別の所へと走り去ったようだ。

 

 よし、これで難は逃れたな。後は……

 

「雄二、何をやっとるのじゃ? ここはAクラスじゃぞ?」

 

 ここAクラスの連中に納得するような説明の仕方なんだが。

 

「その言葉そっくり返すぞ、秀吉。というか、何でメイド姿で縛られてんだお前は?」

 

 見ればAクラスのロビースペースに設置されてるソファーの上で親友の1人、木下秀吉がメイド姿で縛られている光景が目の前に広がっていた。

 

 普段は男らしく男らしくなんて言っておきながら平気で女装をやっておいて、本当に男として見られたいのだろうか。

 

 その所為で翔子がお前に敵意を抱き、更に近づけば浮気だのなんだの勝手な事言って理不尽な御仕置きを受けるのだから。

 

 とはいえ、最近俺もこいつが本当に男なのかどうか自信がなくなってきつつあるのは余談だ。

 

「うむ……クラスの連中が演劇部の連中から借りてきたからと儂にメイドの演技を披露して欲しいと言われての。それでメイド姿で演技しているところを姉上に見つかってしまっての」

 

 それで木下姉に捕まり、連行されて今に至るってわけか。事情は理解した。

 

「……(カシャッ! カシャカシャ!)」

 

「ムッツリーニ。お前は当然のように秀吉の写真を撮ってないで秀吉の縄解くなりしろ」

 

「っ!?(ブンブンブン!)」

 

 その傍では既に見慣れた身体中黒タイツ姿のムッツリーニこと土屋康太が秀吉のメイドコスチューム束縛プレイの瞬間をとらえている姿があった。

 

 性に関することに置いて一切の妥協を許さず、底が見えない実力を発揮し、しかしその変態っぷりを決して表に出さない(しかし周囲にはバレバレだが)寡黙なる性職者、ムッツリーニの名で有名な俺の親友だ。

 

「しかし雄二、お主がここに来たということは……大方クラスの連中か霧島から逃げてきたのかの?」

 

「……両方だ」

 

 たくっ。あいつらは他人の話を全く聞かないから質が悪いぜ。

 

「全く……少しは静かにできないのかね、君達は?」

 

 俺が頭痛で悩まされているところに声をかけたのは学年次席の秀才、久保利光だった。

 

「ふう……君達Fクラスは、姫路さんといい島田さんといい……問題を起こす生徒が多過ぎる」

 

「それはスマンな。明久の不始末の所為で」

 

「それと吉井君は関係ないだろう。彼がいなくなってもこの有様。いや、彼がいなくなったことで更に悪化しつつあると言っていい。あぁ……吉井君、僕は君の苦しみを理解してあげられなかった。そのために君を失う事になるなんて……許してくれ吉井君っ!」

 

「おい……話が脱線してんぞ」

 

 聞いての通り、こいつは明久の事が好きである同性愛者でもある。

 

 明久が同性愛が似合いそうではあるのは事実なのだが、あいつの何処をそんなに気に入ってるのかが俺には理解できん。

 

 しかし、明久が行方不明になったという点については少し気がかりな事がある。

 

 俺は胸ポケットにしまっておいた物を取り出した。

 

「うむ? 雄二よ、それはなんじゃ?」

 

 ムッツリーニに開放してもらった秀吉が未だにメイド服の姿のままで俺に近寄ってきた。

 

「……何に見える?」

 

「……桜、かのぅ?」

 

「そうだ。桜だ。造花じゃなく、本物の……な」

 

「造花じゃないじゃと? しかし、今は秋……いや、冬になろうというこの季節に……」

 

「そうだ。不自然極まりない。だが、これは明らかに桜の花だ。しかも、一ヶ月半も経つっつうのに一向に枯れる気配もない」

 

「一ヶ月半……明久がいなくなった日かの?」

 

「あぁ」

 

 そう。明久の姿を見失った時、偶然この桜を見つけた。

 

 つい今の時期に桜なんて珍しいと思って拾ったまましまっておいたんだが、こう何時まで経っても枯れないとなるとどうしても不思議に思える。

 

 そして、もうひとつ気になることがある。

 

「お前ら……あの日の朝、明久が夢を見たってのは覚えてるか? それはどんなだった?」

 

「う~む……綺麗な女が大勢おったという話かの?」

 

「夢とはいえ……羨ましい」

 

「違う! その夢の舞台だ!」

 

 俺の持ってる物を見せているっていうのに、なんでこいつらはそっちに話を持っていく?

 

「舞台……確か、周囲が桜色の光景……というところじゃったかの?」

 

「そうだ。桜の咲き誇る小さな島……明久はそう言ってた」

 

「しかし、それは夢の話じゃないのかの?」

 

「だが、明久がいなくなった後でこんなもんを落としていったのがどうにもな……」

 

 普通なら夢は所詮ただの夢だと笑うが、何時までも枯れない桜をこの目にすると明久の夢の話がどうしても頭から離れなくなっちまう。

 

「何っ!? それは吉井君の落し物!? つまり、それは吉井君が肌身離さず持っていた大切な……それを手放してでも吉井君はこの学園を決別して──」

 

「さて、俺はもう帰るとしよう」

 

 久保が何か言ってるが、正直付き合ってられん。くれたきゃくれてやりたいところだが、俺にはこいつの実体が妙に気になる。

 

 しばらくはこいつをじっくり観察してみるとするか。

 

 俺はAクラスを出ていく前に翔子の鞄を漁った。たく……予想通り俺んちの実印とスペアキーを揃えてやがる。

 

 犯人はおふくろの仕業だろう。息子の人生何だと思ってやがるんだ。

 

 それを回収すると俺は辺りを警戒しながらAクラスを出ていった。

 

「あ、おっきなお兄ちゃん!」

 

「ん? あぁ、チビッコじゃねえか」

 

 Aクラスを出ると茶髪にツインテールを垂らした少女、島田の妹の葉月がぴょこぴょこと可愛らしい擬音がでるような足取りで俺に近づいてきた。

 

「何だ? 島田にでも会ってきたのか?」

 

「いえ、馬鹿なお兄ちゃんがいないかどうか来たんですが……やっぱりいませんか」

 

「わりぃな。未だに行方不明だ」

 

 明久の行方を探している者の中で最も純粋に心配しているというならこの子だけだろうな。

 

 明久の事を未来の婿だとか言ってる辺り、純粋に明久の事が好きなんだろう。流石は小学生以下の知能レベルを持つ馬鹿。ガキにはモテモテだな。

 

「はぅ……馬鹿なお兄ちゃん、何処にいるんでしょう?」

 

「そうだなぁ」

 

 俺はチビッコの頭を撫でながら適当に答える。何の手掛かりもない今の状態じゃ手のだしようがないし、探す気にもなれない。

 

 ムッツリーニの情報網でもあれ以来、明久の姿が消えたように誰からも明久の事を見たという奴はいなかった。

 

 町中世界一馬鹿な男として有名な明久が誰にも覚えられずに町を抜けるなんて事ができるはずがない事実がある以上、不可解な点も多い。

 

 本当に明久の夢の話が何か関係してんのか?

 

「ふぅ……やっと普通の制服に着替えられたのじゃ。お? 葉月ちゃんではないか」

 

「……久しぶり」

 

「あ、演劇のお姉ちゃんにカメラのお兄ちゃん! お久しぶりです!」

 

「うむ。お姉ちゃんに会いに来たのかの?」

 

「……今はFクラスの教室」

 

「いや、チビッコは明久が戻ってるんじゃないかと見に来たらしいぞ」

 

「……そうか。スマンのう。儂らも探しておるのじゃが、一向に見つからんのじゃ」

 

「……すまない」

 

「はぅ……」

 

 秀吉とムッツリーニの報告にチビッコは肩を落とした。

 

「お姉ちゃん、家でも馬鹿なお兄ちゃんの事を心配してたです。馬鹿なお兄ちゃんが何処にいるのかとか……見つけたら話す事がいっぱいあるとか」

 

 2つとも恐らく、明久を殺す気満々の状態で言った台詞だろうが、まだ邪悪な世界に踏み込んだ事のないチビッコにとってはそれが明久を心配しているように見えるそうだ。

 

 まあ、そう思わせておいた方が幸せだろう。俺にとっても。

 

「しかし、本当に明久は何処におるのじゃろうか?」

 

「……摩訶不思議」

 

「ああ、吉井君……」

 

 やはりこの2人も明久の行方不明には不安があるらしい。最後の1人は余計な気もするが。

 

「ていうか、何でお前がここにいるんだ久保」

 

「いや……やはり吉井君を探すなら君達と行動を共にしていた方が見つかるかと思ってね。彼の親友である君達なら」

 

「……勝手にしろ」

 

「そこで違うと言わんあたり、雄二も明久の事を心配しとるわけかの」

 

「……素直じゃない」

 

「おっきなお兄ちゃん優しいです」

 

 うっせえ、一言多いんだよお前らは。そんな事を心の中で呟いていた時だった。

 

「雄二、浮気の罰で婚姻届に判を……」

 

「さらばっ!」

 

 何時の間にか背後に立っていた翔子の存在を確認するや否や、俺は早速逃走した。

 

「……逃がさない」

 

「だぁ!? 翔子の顔が小さい子にお見せできねえ形相に! 秀吉、ムッツリーニ! チビッコの目を覆ったまま逃げろ!」

 

「む、承知した!」

 

「……異端審問会は他人の幸せを──」

 

「後で聖典(エロ本)を何冊か譲ってやる!」

 

「……交渉成立」

 

「毎度の事ながら君達はどんな間柄なんだい?」

 

 そんなのはもう今更だ。俺は秘蔵のコレクションの一部を犠牲にムッツリーニを味方に引きずり込んでそのまま逃走を心掛ける。

 

「木下だけでなく、土屋や久保、島田の妹を囲んでの浮気……許さない」

 

「お前の目は節穴か! これをどう見たら浮気の現場に見えるんだよ! そしてお前とは付き合ってすらいねえだろ!」

 

 何で俺の周囲はどいつもこいつも俺を同性愛趣味の変態にしたがるんだよ。

 

 忌々しいが、明久の気持ちが痛い程にわかる。

 

 くそっ……俺は俺の野望を実現したいってのに、俺の周囲の人間は染心だらけの馬鹿に、勉強ができるだけの馬鹿揃いだし、常識もへったくれもないし、他人の話なんか聞きやしねえ。

 

 一体全体何で俺がこんな目に合わなきゃいけねえんだよ。

 

「くそっ……何処か遠くの小さな島国にでも行ってひっそりとできりゃあ」

 

 そう愚痴ったところで現状なんて変えられる筈がないと思った時だった。

 

 俺の目の前で、桜の花びらが舞ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

「……んお?」

 

 目が覚めると、俺は何時も通りベッドの上で寝ていた。

 

「ん……ふぁ~~」

 

 俺はベッドの上で背伸びをするとだるい身体を動かし、ベッドから離れた。

 

「ふぅ……今朝はこれまた妙な夢だったな」

 

 ついさっきまで見た妙な夢を頭に浮かべながら窓の外を眺めた。

 

 ここで言うと、俺には他人の夢を見る力がある。何故そんな力があるのかはわからないが、とにかく俺は他人の夢を見る事ができる。

 

 それは誰かがヒーローになったり、その人が主人公になっての恋物語だったりと、どんな夢かは見る人によって異なる。

 

 そしてそれは俺が望んで見れるものではなく、他人の意識が勝手に俺の中に流れ込んでくるようで、そして俺はそれを他人の夢だと実感しながらただ観賞するだけ。

 

 最後に、その夢を見た後はひどい眠気とだるさが身体を覆うという特にこれといった使い道もない力だった。

 

『義之~! そろそろ朝ごはんだから下りてきなよ!』

 

 ベッドから起き上がってからぼーっとしてたところに明久から声がかかった。

 

「おう、すぐ着替える」

 

 俺は適当に返事をしてから制服に着替え、何時も通りの朝ごはんを食べてから全員で登校した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、この前のテストの結果を返すぞ」

 

 午前の授業の終わりの頃、担当教師からテストの結果の返却ときた。

 

 俺達はついこの間中間テストを終えてその結果が発表されるのが今日だった。

 

「だぁ~……やっぱ駄目かぁ」

 

「あ、渉も結果悪かった?」

 

「ん、明久もか?」

 

「うん。歴史以外は」

 

「ん? どれどれ……うおっ! 歴史はすごい高得点なのに、それ意外が俺よりちょっと高いレベルだな」

 

「でも、全体的に駄目な渉よりはずっとマシよね」

 

「……(ず~ん)」

 

 全員が自分のテストの結果を見て落ち込んだり平然としたりほっとしたりと反応は様々だった。

 

「義之君は……いつもよりはいいけど、それでも低めね」

 

「覗くなよ」

 

 横から茜が俺の答案用紙を覗き込んできた。

 

「ははは……音姫さんから教わったっていうのに、この結果じゃねぇ……」

 

「何っ!? お前、音姫先輩からの個人授業を!? まさか、同じ家に住んでいる義之もか!?」

 

「お前が言うと、イヤらしい意味にしか聞こえないから黙れ」

 

 さっきまで落ち込んだっていうのにもう復活してやがるし。切り替えの早い奴だ。

 

「俺は正直あまりやる気なかったが、明久はそれなりにやる気出たからどうにかこの結果につなげられたんだ。最初なんかすげえ酷かったぜ」

 

「酷かったって、どんな風にだ?」

 

「三角形の面積の求め方を長方形の面積の求め方とごっちゃにするくらい」

 

「「「…………」」」

 

「見ないで! そんな目で僕を見ないで!」

 

 全員から可哀想なものを見る目で見つめられ、明久は涙目でのたうち回っていた。

 

「明久君、流石にそれは……」

 

「なんというか……」

 

「そんなの俺でもわかるぜ」

 

「あら、渉にはわかるかしら?」

 

「馬鹿にすんなよ! 底辺×高さだろ!?」

 

「ええ。そこに割ることの2を付ければ完璧ね」

 

「「「…………」」」

 

「見ないで! そんな目で俺を見ないで!」

 

 渉も当初の明久と同レベルだったようだ。

 

「俺はいいんだよ! このワイルドなルックスがあるんだからちょっと勉強ができないくらいなんてことねえ!」

 

 ちょっとなのか? そして、お前の見た目の何処がワイルドなんだよ。

 

「明久なんて、そこらの小学生に馬鹿なお兄ちゃん呼ばわりされそうじゃねえか」

 

「全く失礼な! そんな呼ばれ方なんてされたことなんか──」

 

『馬鹿なお兄ちゃん、いらっしゃいますか~!?』

 

「「「…………」」」

 

「されたことない、と……思いたい」

 

 本当に呼ばれた事あんのかよ。なんかちょっと明久が可哀想に思えてきたな。

 

 ……あれ? 何か、引っかかる所があるんだが。

 

「……あれ? 今の声、何処かで……」

 

 明久も今の馬鹿なお兄ちゃん呼ばわりした声の事が気になったようだ。何故か外から聞こえたみたいだが。

 

 俺達は外を見ると、校門辺りでツインテールに縛った髪を垂らした小さな女の子がぴょこぴょこ飛び跳ねていた。

 

 その傍には何人かが何処かの制服を着ていた。しかも、全員制服がダボダボと来たもんだ。まるで最初に出会った明久の格好みたいだ。

 

「何なんだ? あれは……」

 

「葉月ちゃん!? それに雄二達まで!?」

 

 校門の人影を見ると明久が声を上げて驚いた。

 

「明久、知り合いなのか?」

 

「う、うん。親友と友人の妹……ごめん! ちょっと行ってくる!」

 

「あ、おい明久!?」

 

 明久は教室を出ると猛スピードで駆け出し、十秒もすると既に校庭まで出ていた。

 

『あ、馬鹿なお兄ちゃん!』

 

『ぐふっ!? あ、久しぶり葉月ちゃん。でも、どうしてここに?』

 

 校庭に出ると小さな女の子が明久にタックルをかませてきた(本人は抱きついたつもりなんだろう)。

 

『ぬ、本当に明久なのか!?』

 

『吉井君!』

 

『……見つけた』

 

『おう、明久!』

 

『雄二! みんな!』

 

 明久が後ろに控えてる人影を確認すると爽やかな顔で駆け出した。

 

『雄二~~!』

 

『明久~~!』

 

 雄二と呼ばれた男も爽やかな顔で明久に向かって駆け出してきた。

 

「なんか明久君、すごい喜んでる」

 

「事情はさっぱりだが、そりゃあ親友と久しぶりの再開だもんな」

 

 別れてから一ヶ月半は経ってるんだ。そりゃあ、喜びもするだろう。

 

 そう思ってから窓の外を眺めると──

 

『雄二! 貴様よくもあの時僕を死地へと追い込もうとしやがったな!』

 

『黙れ! テメェがいなくなったおかげで俺の身が危うい事になったんだぞ!』

 

『自業自得だろ! この赤ゴリラがっ!』

 

『誰がゴリラだ世界一のバカがっ!』

 

 さっきの爽やかな雰囲気は何処へ行ったのやら、急に喧嘩が始まっていた。

 

『テメェのおかげで俺は翔子に危うく無理やり婚姻届に判を押してアイツの家に転がる事になったところで──』

 

『嫉妬が可能にした暗殺拳の極致を思い知れぇ!』

 

『うおっ!? テメェ、何しやがる!』

 

『黙れっ! 人が殺されそうになっている時に呑気に美人と同棲の話を進めやがって!』

 

『ふざけんな! アレは翔子が勝手に言ってるだけだ! 俺はまだ何もしていねえ!』

 

『そんなんだから同性愛の似合う変態なんて噂が流れるんだろ! いつもそれに僕を巻き込みやがって! おかげで姫路さんや美波だけでなく、数多の生徒から誤解を受けてるじゃないか!』

 

『その言葉そっくり返してやろうじゃねえか! 同性愛だけじゃなく、根本並みに女装趣味の変態の癖しやがって!』

 

『貴様、言ってはいけないことを……こうなったら積もりに積もったこの恨みをここで晴らしてやろうじゃないか!』

 

『上等だ! こうなったら本気で相手してやろうじゃねえか!』

 

『ふわぁ、馬鹿なお兄ちゃん達……相変わらず仲良しさんです』

 

 それから何故かストリートファイトみたいな喧嘩をおっぱじめやがった。うわ、明久達の動きが全然見えねえ。

 

 下手すればプロ級だぞ、あれ。

 

「義之……あれ、親友……なのか? 本当に?」

 

「……俺に聞かないでくれ」

 

 一体何がどうなってるのやら。俺達はただ明久達の喧嘩を遠くから眺めるだけだった。

 

 その喧嘩は音姉とまゆきさんが駆けつけてくるまで続いたのだった。

 


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