少年が転生して二年。彼は今日、箱庭総合病院に来ていた。
「兄さん、兄さん」
「何だ、咲」
今の彼の名前は須木奈佐木 和。ジャンプNEXT!、H.24年WINTERに掲載されためだかボックス外伝、グッドルーザー球磨川にて初登場。"操作令状"のスキルホルダーであり、めだかボックス本編には第132箱「これぞ青春」にてアイドルとして登場。【キヲテラエ】のバンド勝負で人吉 善吉らと対決、小説版グッドルーザー球磨川では語り部を務め、めだかボックス完結後にジャンプNEXT!、H.25年SUMMERに掲載されたグッドルーザー球磨川完結編にて混沌より這い寄るマイナス、球磨川 禊との最終対決が明かされた彼女、須木奈佐木 咲の双子の兄として生をうけた。
「何で私たち病院に来てるの?」
箱庭総合病院。めだかボックスの主人公、黒神 めだかと、彼女に文字通り心身ともに尽くし、捧げ、彼女に生きる道を与えたもう一人の主人公、人吉善吉が出会った場所であり、加えて彼女と球磨川禊が出会った場所でもある。さらに言うならば、"『不知火不知』編"の最終対決の舞台となった。
「さあ。なんで箱庭病院に来たのか、の方が俺は気になるけど」
黒神 めだかを始めとした数多くの異常と通常を分別する施設である箱庭病院。(まだないが)スキルがある(恐らく)通常の咲が、箱庭病院に来る理由はない。――とすると。
「(俺がいるからか……)」
和は望んだ転生特典に"自身を異常にする"はないが、それに至る要素が一つあるのを思い出した。自身を異常にすることは望んでいないが、異常性は望んだのだ。
「須木奈佐木くーん! 七番検査室に入ってくれるー?」
「……呼ばれたな。行ってくるよ」
「うん……大丈夫だよね?」
「ああ」
不安になった先が自分の服の裾を握るのを見て、優しく笑って頭を撫でてやる。すると咲はフニャリと少しはにかみながら笑った。
「失礼します」
「やあ、和くん。いらっしゃい。久しぶりだね、元気だった?」
扉を開けた先にはめだかボックスに送り込んだあの青年がいた。普通ここは人吉 瞳がいるんじゃないかと一瞬考えたが、主人公勢の二つ上、原作時高三生ということは、今は彼女は妊娠期間中、もしくは出産前後なのだと思い至った。
(……あれ?とすると黒神 鳩はまだ生きてるのか?)
黒神めだかの誕生日も人吉善吉の誕生日も明かされていないため時期は不明だが、何となくそろそろだろうと推測する。
「うん。二人ともまだ生まれてないぜ」
ナチュラルに心を読まれて何事もなかったかのように返される。何故ここにいるのか尋ねると、「おもしろそうだったから」と返ってきて殴りたくなった。
「まあもちろんそれだけじゃないぜ。君にあげた異常性と過負荷と言葉はもう使える、ということを知らせに来たんだ。夢に現れるのもおもしろそうかなと思ったんだけど、めだかボックスには僕様じゃない人外がいるからね。まだ封印もされてないし」
直接会いに来たなら僕様の全力を惜しみなく使えるしね、と朗らかに笑った。
人外。それは間違いなく二人の悪平等を指すのだろうが、この場合は主に安心院 なじみのことをいっているのだと和は分かっていた。……まあ彼女がいるならば、もれなく彼も付いてくるのだろうが。
安心院なじみ。「平等なだけの人外」を自負する人外である悪平等。球磨川禊に惚れられ、「可愛過ぎた」ことで顔を剥がされた後に彼の過負荷、大嘘憑きと却本作りで封印された。生徒会戦挙編にて顔を曝し、黒神めだかの後継者編にて再登場。7932兆1354億4152万3222個の異常性と4925兆9165億2611万0643個の過負荷、合わせて1京2858兆0519億6763万3865個のスキルの持ち主である。後に「シミュレーテッドリアリティ」という精神病を抱えていると判明、作中随一のメタ発言者だ。
そして彼、不知火 半纏。「ただそこにいるだけの人外」である悪平等。黒神めだかの後継者編にて初登場したが、顔バレは不知火不知編にて行われた。常に安心院なじみのそばに控え、のちにその正体が彼女のバックアップであることが明かされた。「スキルを作るスキル」の持ち主で、ドリンクバーが大好物という意外な事実が判明。デカい図体に似合わず可愛らしくストローで飲む姿がとても印象に残った。
悪平等自体は七億人、すなわち人類の実に十%が悪平等であるのに、総生徒数が千人を超える箱庭学園には彼女たちを除き二人だけ、すなわち二年十一組所属、保健委員長の赤 青黄と二年十三組担任の啝ノ浦 さなぎの二人のみだ。人類の十人に一人が悪平等というそのありえなさに、厨二病患者の多くが『僕/俺/私 も悪平等なんじゃ……』と思ったのではないだろうか。
そんなことを考えていると、目の前の青年が口を開いた。
「今日は君の性質を決めようかと思ってね」
性質、すなわち通常か特別か、異常か過負荷か、はたまた悪平等か。どれにするか、ということだろう。
しかし和はすでに誕生してしまっている。異常は生まれながらにして異常なのではないだろうか、と疑問に思った。
「いや一概にそうとも言い切れないよ。ほら、古賀 いたみや鶴御崎 山海なんかも異常だろう? 悪平等なら希望が丘 水晶がいたじゃないか」
……そう言われてみればそうだった。黒神 真黒も幼少期は善吉と何ら変わりない普通の子供と書かれていたし、後天的な異常もいるのだと考え直した。
「――さて、本題だ。どれにする? ……否。何になる?」
――ふむ。元の世界では間違いなく通常だった俺だが、せっかく第二の人生を送っているんだ。少し位は楽しみたい。俺は原作時三年生なんだし、クラスメートを考えるとしたら――
そこまで考えて、和は顔を上げて口を開いた。
「――異常で」
「……ふむ。構わないんだね?」
「ああ」
「……そうか。では――」
そう言って青年が取り出したのは――八つのサイコロ。
「振ってみてくれ。どうなるかは僕様にも分からないからね」
「分かった」
そしてサイコロを手に取り――振った。
☆ ☆ ☆
須木奈佐木和が退出した後、検査室内では青年、アガミネが優雅に紅茶を飲んでいた。その目線の先は、先ほど和が振ったサイコロに向けられている。
「フム。雲仙 冥利は同じ数が揃い、黒神めだかは積み重なる。そして須木奈佐木和は――並ぶのか」
テーブルの上には、一番上に赤い星がそろった、見事な直方体が完成していた。