更新に1年以上もかかってしまい本当に申し訳ありません。
ただ自分でも今何を書こうとしているのかわからなくなっておりまして、今一度整理すべきか本気で悩んでおります。
とりあえず今回は思いつくまま深夜テンションで筆を執って更新を図ったので文法やらなんやらで変なところがあるかもしれませんが、どうか生暖かい目で見てやってください。
それでは本編第37話です。どうぞ。
国連軍横浜基地 PX
零がグルーデックにプトレマイオス2の説明をしている頃、ユウヤたちアルゴス小隊の面々は基地の把握を兼ねて朝食を取りに来ていた。
「うっめえええ! ユーコン基地の飯とは段違いだ!」
国連軍の基地だから同じ合成食材のはずなのにとこぼしながらタリサが初めて食す日本料理に歓声を上げる。
昨日に零の用意していた食事(プトレマイオス2に積んでいたサンドイッチなど)が天然ものだったことから、PXの食事もさぞすごいのだろうと思っていた。だが実際にはほかの基地と同じ合成食材のものだと知り「そんなうまい話はないか」と肩を落とした。しかし食べてみれば天然ものではないのはわかるが、これは本当に合成食材なのかと疑ってしまいそうなほど旨かった。
他のメンバーも同様の感想を抱く中、一人別の感覚を受けたものがいた。
(……なんか、妙に懐かしさを感じる……。親父の――俺の日本人としての血がそう感じさせるのか?)
合成サバ煮定食を租借しながらユウヤはそう思う。横浜基地の肝っ玉母さんの料理は、彼に流れる日本人の血にまで郷愁の念を感じさせるのだった。
「それで、今日はどうする? 一応中佐からは今日までゆっくりしていいって言われてるけどよ」
VGの言葉で現実に戻され、口の中のものを嚥下してユウヤは答える。
「午前中は施設の把握に専念して、午後からはシミュレーターを使わせてもらえないか中佐に掛け合おう。仕様や映像を見てからも思ったが、あの新OS、相当なじゃじゃ馬だぞ」
「反応速度が30%増しなんでしょ? 間違いなく軽く動かしただけでも大きく動くわよ」
零から告げられた弐型の――いや、これからの戦術機に標準搭載されるXM3の内容を思い出しながらステラも同意する。
ちなみに彼らの知らぬことだが、事実初めてXM3に触れたA-01の面々は旧OSとの性能差に対応できず不覚にも転倒してしまう場面があったのは余談である。
「あとは『キャンセル』、『コンボ』、『先行入力』だったな。正直、『キャンセル』だけでも革命的だと思うぜ。なんせ、動作直後の硬直を取られて死んだ衛士はごまんといるんだからよ」
「けど今のOSに慣れちまったアタシらからすればちょっと面倒だよな。システムが根本的に変わるから、それに合わせて癖も直さねーと」
「そういう点でいえば今の訓練兵はラッキーね。最初から新しいOSで取り組めるんだから、余計な癖に気をつけなくていいし」
ステラの言葉に三人は頷いて同意を示す。
既に現行OSを使い込んでいる自分たちと比べ、訓練兵たちはこれから戦術機を学んでいくのだ。余計なことを気にしないで言い分、XM3に慣れるのも必然的に早いといえよう。
「そうだ! どうせなら訓練兵のシミュレーターでものぞいてみるか? 間違いなく新OSで訓練してるはずだし」
タリサの提案にVGが面白そうに笑みを浮かべる。
「そりゃいい。ついでに教官がいい女だったら最高だ」
「あら、男かもしれないじゃない。前に聞いたけど、中尉が訓練兵だったころは強面の男性が教官だったらしいわ」
「おいおい、冷めること言うなよ。 ――ユウヤはどっちだと思う?」
「どうでもいい。それに、どの道基地内を回るつもりなんだ。シミュレーターもその時のぞいてみればいいだろ」
VGの言葉を一蹴しながら食事を終え、一足先に食器の返却に向かう。その様子にタリサたちも手早く食事を済ませ後に続く。
現在、彼らが行き来することを許されているのは横浜基地の地上ほぼ全域と地下の限られたフロアのみ。そこでユウヤはまず範囲の狭い地下部分から上にあがって把握していこうと考えた。
基地の地下部分はハイヴの構造を利用していると聞いているので、少なからず興味もあった。
仲間とともに移動をしていると周りから少なからず視線を感じるが、それはユウヤがアメリカ人だからというよりは見たことない人物がいるといった反応のものだ。
日本人は先のG弾投下が原因でアメリカ人を心底毛嫌いしていると思っていたユウヤからすれば少々拍子抜けだったが、日本国内だろうがここが国連軍の基地である以上、そういったことはまずないのだろうと自己完結で納得する。
そんな中、下層から上がっていく途中でまさに訓練兵たちがシミュレーター訓練に励んでいる現場に遭遇する。
部屋にいる人間のほぼ全員が女性であることに、VGか「ヒューッ」と口笛を上げる。
「見目麗しい少女たちの訓練兵用強化服とは、なんとも初々しいねぇ」
「チョビならあの中に混ざってても違和感なさそうだな」
「おいユウヤ! それってどういう意味だよ!」
「そのままの意味じゃないかしら。 それにしても。まだぎこちないけどよく動かしてるじゃない」
モニターの中ではまだまだ拙い動きが目立つ吹雪が跳躍ユニットのブースターをふかしながら突撃砲を手にターゲットを狙っている様子が映し出されており、新OSの性能を抜きにしても衛士としての素質の高さが窺えた。
そんな会話――というよりタリサの大声がきっかけだろう――が聞こえたのか、教官と思われる人物の一人がユウヤたちの存在に気づく。
その人物がつけている大尉の階級章が目に留まり、ユウヤたちは上官だとわかるや否や反射的に敬礼をする。
一方、もう一人の教官と訓練兵たちも自分たち以外の人間――しかも正規兵――が訓練の様子を見ていることに気づくとすぐさま姿勢を正して敬礼。
妙な光景が出来上がったことに苦笑し、大尉の教官が声をかける。
「すいません、どちら様ですか?」
「自分たちはアルゴス試験小隊の者です。――自分はユウヤ・ブリッジス少尉。昨日、神林中佐の命を受けアラスカのユーコン基地からこの基地に着任し、現在は基地内把握のために行動をしていました」
「同じくアルゴス試験小隊所属、タリサ・マナンダル少尉です」
「ヴァレリオ・ジアコーザ少尉であります」
「ステラ・ブレーメル少尉です」
「ああ、あなたたちが零の言ってた……。俺はこの207訓練部隊の教官をしている白銀武です。こっちは同じく教官の神宮司まりも軍曹」
ユウヤたちの自己紹介を受けて同じように自己紹介をした大尉の教官――武の言葉に気になるものを感じ、ユウヤは思わず尋ねる。
「あの、大尉。中佐を呼び捨てにするんですか?」
「確かに階級的に見れば明らかにまずいですけど、基本的に俺と中佐は対等の関係です。締めるときはしっかり締めますけど、それ以外では基本的に呼び捨てですよ」
「……そ、そうですか」
基本的に対等であるという言葉にアルゴス小隊の面々は驚きを隠せない。
何せ零本人が自分は別世界の人間であると公表しているのだ。階級に差があるにもかかわらず対等の立場というのなら、目の前の男は実はとんでもないポジションの人間なのではと勘ぐってしまう。
「そうだ。もう聞いてると思うんですけど、少尉たちは新OSについてどう思いますか?」
尋ねる武に、まずステラが答える。
「現行のOSに慣れ切った現場の衛士からすれば、癖を修正する手間を除けば非常に革命的なものだと思います」
「中佐からTYPE-94の模擬戦も見せてもらいましたけど、現場の人間からすれば硬直がないってだけでも垂涎の代物ですよ」
「個人的には新OS積んだ94の機動が変態的過ぎて機体のほうが先に駄目になるんじゃないかって思いましたけど」
「倒立反転からの垂直降下に戦術機でのバレルロール。衛士の実力もあるんでしょうが、現役の機体であれだけ動けるなら、機体が無事な限り戦術の幅が圧倒的に広がるかと」
4人の意見にふむふむと頷き、武は考える素振りを見せるとまりもに小さく話しかける。
僅かな話し合いで何かがまとまったのか、武はユウヤたちに尋ねる。
「少尉たち、この後何か予定とかありますか?」
「基地の把握をした後にシミュレーターを使わせてもらえないか中佐に確認すること以外は、何も」
「なら丁度いい。少し動かしてみませんか――」
そういって武は後ろでいまだ稼働しているシミュレーターを指出す。
「――件の新OS、XM3を」
本編第37話、いかがでしたか?
もし次回の投稿に取り掛かれた場合はユウヤたちがXM3に四苦八苦したり、武の変態機動に度肝を抜かれたりするシーンがあると思います。
他の作品の更新や新しいネタなどで次回更新が本当にいつになるかわかりませんが、楽しみにしていただいてる方がいるので少しずつ頑張っていこうかと思います。
とりあえず、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。