楽しみにしていた方はお待たせしました、第31話の修正版です。
息抜きにこの作品の外伝を書こうとしたところ筆が進んだので投降に踏み切りました。
このまま勢いに乗りたいところですが、Jumperの続編を優先しているので連載は以前と変わらず遅めのものとなります。
続きが仕上がり次第投稿となりますので、どうか気長にお待ちください。
それでは、本編第31話、どうぞご覧ください。
国連軍横浜基地 シミュレータールーム
「うおおおおおお!!」
「はああああああ!!」
二機の旋風が互いに跳躍ユニットとスラスターを全開にして長刀を振るい、激しく火花を散らす。
距離がゼロになったのをいいことに、武は頭部に備え付けられたバルカンポッドを打ち込む。相手もそれを読んでいたのか、一瞬力を込めて押し込んだ後すぐさま跳躍ユニットと肩スラスターを使い後退するとお返しのようにバルカンをばら撒く。
逃がさないとばかりに背中の担架から100mmマシンガンを取り出し追撃に移行。しかしあちらも接近を許さないようにバズーカを構えると拡散弾頭を連射する。
「そんな散弾、効かねえよ!」
細かいダメージが入るものの致命的には程遠いことを確認し、武は強引に突っ込みながらマシンガンを噴かす。
「甘い!」
バズーカをずらして武の足元に向けてさらに四連射。前半二発は拡散弾頭だったが、最後の二発は通常弾頭だ。
「ヤベェ!?」
拡散ではないとわかった瞬間とっさに機体を右へ回転させることで通常弾頭を回避すると、相手の旋風――零の機体がその隙をついて下段に構えた長刀を手に最短距離を突っ込んできていた。
普通に前後左右へ逃げても危険だと判断し、武はバックステップを踏みながら跳躍ユニットを噴かせることで機体を斜め後ろに回避させる。
零の長刀は上に逃げようとする武を捕らえようと切り上げられるが、わずかに間に合わず空しく空を切る。
ここで攻めなければイチニアシブを取れないと悟った武は跳躍ユニットの向きを180度切り替え、さらにバックパックバーニアの出力も全開にして突っ込む。
返す刀で一気に斬り伏せようとする零だが、それより早く武のタックルが直撃。同時にアラートが鳴り響く。
「ここでパワーダウンだと!? 不味い!」
予想外の事態に対応しようとするが、鈍くなった零の旋風は搭乗者の思うように動けずシースから抜かれたアーマーシュナイダーで管制ユニットを貫かれる。
『神林中佐、管制ユニット大破。勝者、白銀大尉です』
まりもの声が響き、先ほどまで動いていた筐体から強化装備を纏った零と武が姿を現す。
「最後のタックル、俺が前に模擬戦で使った手を参考にしたか?」
「まあな。いやー、アレと比べたら推進力が格段に劣るからうまく行くかわからなかったけど、運も実力ってな。それに戦術機は俺の土俵だからそうそう負けられねえよ」
前回の戦いを思い返しながらそう返し、二人は観戦モニターの前で固まっていた少女たちの元へやってくる。
「今の戦いを見てもらった通り、新OSであるXM3にタイムラグよる硬直なんてものは存在せず、そのOSをフルに活用することを前提に設計された不知火・旋風がいつかお前たちの乗機となる機体だ。もちろん訓練次第で俺たちがやったような軌道もできるし、自分のモノにできれば戦術の幅も大きく向上するはずだ。難しく思えるかもしれないが、お前たちならできると俺は信じているぞ」
「「「はい!!」」」
「よし、じゃあまずは涼宮と委員長、柏木と冥夜、高原と彩峰が搭乗してくれ。 軍曹、少しの間お願いします」
それだけ告げて強化装備から着替えるべく武と零は更衣室へ移動し、道中で先ほどの模擬戦で気づいたことを話し合う。
「やっぱりBETAの小型種ならともかく、戦術機や大型の敵には散弾の弾頭は効果が薄そうだな。ゴリ押しで突破できちまう」
「牽制や短距離の面制圧という点では使えるんだがな。他にも衝撃をもらった時に発生したパワーダウンの対策を重点的にするべきだな。戦闘中に能力の低下なんて、致命的以外の何物でもない」
「あとさ、旋風にグレネード系の武装を装備できないか? 前にプトレマイオスでジェガンとかリ・ガズィのデータ見た時サイドアーマーにあったのを見てよさそうと思ったんだけど」
「グレネードか……後付けのパーツでなら脚部とかに組み込めそうだが、シールドグレネードじゃダメか?」
「いや、それも考えたんだけどさ、ポジションによってはシールドが邪魔になるだろ? だったら最初から機体に搭載してって思ったんだ」
「なるほど、それなら了解だ。ちょっとウチの連中と話し合ってみる」
頭の中でフルアーマーユニコーンガンダムや腕部にグレネードを搭載したゼータガンダムと似たような武装を思い描きながら制服に着替え、武と別れた零はさっそく今の話をまとめて片桐たちに持ち込もうと執務室へ足を向けた。
国連軍横浜基地 神林零の執務室
「……で、相変わらず何をしているんですか? 鎧衣課長」
「ニュージーランドの珍しい菓子が手に入りましてね、中佐におすそ分けしようと持ってきた次第ですよ」
そう言ってニュージーランド饅頭なる怪しさ全開の物を差し出す鎧衣課長に俺は頭を抱えた。ニュージーランドのものだというのなら、なぜ包装は日本語なんだ。
無論こんなものを渡すためにわざわざ来たわけではないのだろうが、こうもあっさり侵入されては自室のセキュリティに不安を覚えてしまう。仮にも最重要機密に相当するものがあるというのにな。
「それで、今回はどのようなご用件で?」
「ええ、アフリカ南部の原住民に伝わる興味深い儀式について――おっと中佐、話の途中に銃と通信機はとてもじゃないが穏やかではありませんな」
「ご安心を、香月博士からあなたに対してのみ特別に許可をいただいておりますので。構えてもらいたくないのなら早く本題をお願いします」
「おお、怖い怖い」
こちらの脅しにワザとらしく肩を竦め、鎧衣課長はどこからともなくA4サイズの茶封筒を取り出す。
「ここ最近の戦術研究会の情報です。ご覧になっていただければわかると思いますが、急激に物資や人員が流れている傾向がわかりました」
「――ということは」
「はい。白銀大尉の言っていたように、米国の諜報員が接触し便宜を図ったと考えるのが妥当でしょう。でなければ、わずか数日でこの勢力の伸ばし方は説明がつきません。無論、別の勢力がパトロンになった可能性も捨てきれませんがね」
「その線は薄いでしょう。余程の理由がない限りクーデターを煽って得を得ようとするのは、それ以上に高いリスクを負うことになりますからね」
米国からしたらそんなリスクを負ってでも明星作戦で失った極東での発言力を高めて第5計画を推し進めたいのだろう。
当然ながら、俺がいる以上そんなことはさせないつもりだがな。
「情報、感謝します。これを基に対策を練らせてもらいますよ」
「お役に立てて何よりで。では私は一度帰らせていただきますが、何か言伝などはありますか?」
「そうですね…………珠瀬事務次官に、次回の国連総会で自分を出させてもらえないか訊いていただけますか?」
「ほう……了解しました。一週間以内にお返事できるよう努力しましょう」
「頼みます」
それだけ告げると鎧衣課長は堂々と退室し、部屋には資料と土産の菓子だけが残された。
さっそく資料を広げるとクーデター軍が発足されてからの情報がグラフなどを用いてきめ細かに記されており、始めはほとんど横ばいだった物資等がある日を境に右肩上がりに上昇している。そりゃもう不自然にだ。
おそらくこの頃に諜報員の接触があったのだろう、こうしてみると不自然なまでに勢力を伸ばしているな。
沙霧大尉がこういう情報を事細かにチェックしていれば裏の事情に感づいているかもしれないが、それならそれで鎧衣課長が何か言ってきたはずだ。何もなかったことを見れば、おそらくまだ気づいていないのだろう。
説得は武に任せるとして、宣言した通りにお膳立てはしてやらんとな。
「問題は山積みだが、やってやるさ」
呟き、おもむろに残された饅頭を口に放り込む。
PXで扱っている饅頭と大差ない微妙な味が口の中に広がるのだった。
国連軍横浜基地 港
「あ゛ーっ、やっと到着した」
「船旅は死ぬほど暇だったしな。体が鈍っちまう」
アラスカのユーコン基地にて不知火改修計画――XFJ計画を担当していたアルゴス試験小隊の衛士、タリサ・マナンダルとヴァレリア・ジアコーザは陸に降り立つなり体のコリをほぐし始める。
続いてXFJ計画の責任者である篁 唯依に衛士のステラ・ブレーメルも船から降りると、初めて訪れる基地に目をやる。
「横浜基地……あまり良い噂は聞かないけど、こうしてみると至って普通ですね」
「あちらのシートで覆われている場所は、おそらく神林中佐が指揮する特別開発部門の敷地だろう。しかし海を含めた港全体まで覆うとは、余程大きな機密を抱えているようだな」
二人がそんな考察をしている中、アルゴス小隊の中で最後に降り立ったユウヤ・ブリッジスは少し複雑な心境で日本の大地を踏みしめる。
「……ここが、親父の国か」
自分が今、母を残して失踪した父親の国にいると思うと共に、自身に流れる日本人の血がどこか哀愁のようなものを感じさせる。
母親は父を素晴らしい人だと言っていたが、幼いころに経験した人種差別が原因で日本が嫌いになった。しかし唯依と接するうちにその認識を改めることができ、今ではへそ曲がりながらも日本を認めるようになった。
「しっかし、あの二人まで来るとは予想外だったな。やっぱあの中佐が絡んでるのかね?」
ユウヤの隣に立ったヴィンセント・ローウェルの視線の先には、本来自分たちと行動するのがあり得ない二人の少女――
途中、イーニァがユウヤに気付くとひまわりのような笑顔を咲かせ、無邪気に手を振る。
それが自分に向けられたものだと悟るや否や、ユウヤも口元を緩めて手を振り返す。
「仲がよろしいことで」
「うるせえ。 それより、中佐はまだ来てないのか?」
ぶっきらぼうな返事をする相方にヴィンセントが肩を竦めていると、零が呼び寄せた最後の男が横浜基地の敷地を踏みしめた。
「……なかなか面白い面子がそろっているな」
先のテロ事件で見知った顔ばかりだと、今回やってきた中で最も高い階級を持つグルーデック・エイノアは心の中でつぶやく。
よくもまあこれだけのメンバーを集めたものだと、グルーデックはこちらに向かってやってくる男を見ながらこれからの期待を抑えられずにはいられなかった。
「ようこそ、国連軍横浜基地へ。我々は貴官らを歓迎する」
独立機動遊撃部隊『オーバーワールド』のメンバーを引き連れ、隊長である零は敬礼と共に笑みを浮かべた。
第31話、いかがでしたでしょうか?
Jumperを優先しつつこちらも書き進めていこうと思います。
出来れば再び凍結という事態に陥らないよう努力しますので、どうか今後ともよろしくお願いします。
それでは、今回はこのあたりで。
また次回の投稿でお会いしましょう。