Muv-luv Over World   作:明石明

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どうも、こちらではお久しぶりです。
最近クロノトリガーの作品が筆の進みがいいのでそっちに集中していた作者です。

散々待たせたクセに内容はいつもと比べ割と短めとなっています。
今回の内容を大まかにまとめると「00ユニットの漏えい問題」「存在の公表に当たって」「新しい人材」の三つとなります。ただ最後の内容はものすごい短いですが。

ともかく、本編第30話、どうぞご覧ください。


第30話

国連軍横浜基地 地下19F 香月夕呼の研究室

 

 博士の部屋に足を踏み入れるなり目に飛び込んできたのは、あからさまに疲れたように椅子へ体を預けている博士の姿だった。

 

 

「……ん、神林じゃない」

 

「だいぶお疲れのようですが、休めてますか?」

 

「そんな暇はないわよ。それより何の用?」

 

「俺の存在公表についての相談と、00ユニットの情報漏えい防止策の相談――「策があるの!?」――うお!?」

 

 

 突然立ち上がるや否や襟首を引っつかんで問いただされ、思わず手にした資料を落としそうになるがどうにかそれは阻止する。

 どうやらちょうど防止策に頭を悩ましていたようだ。

 

 

「さ、策といっても、素人目線のものなので参考になるかはわかりませんが」

 

「かまわないわ。話してみなさい」

 

 

 解放され制服を正し、手にしていた資料を手渡す。資料の内容は情報漏えい策を簡単にまとめたものだ。

 

 

「現状での提案策は二つ。00ユニット――鑑純夏には武の調律が終了次第、真っ先に反応炉をハッキングして通信機能を破壊(クラック)してもらいます。ただ万全を期すためにも武には起動してから72時間以内に調律を完了させてもらう必要があります」

 

「それは情報が流出するかも、という可能性を確実に潰すためかしら?」

 

「そう受け取ってもらって構いません。製作段階でODL漬けにされてはいますが、真っさらな彼女から回収できる情報は皆無。しかし起動してからは内容にかかわらず情報を得ていくので、次の浄化作業では重要なものが流出する可能性がある。それを防ぐためにも武にはがんばってもらうというわけです」

 

 

 特にここには本来あるはずのない技術が存在している。それで得られたアドバンテージをみすみす潰されては今まで以上に苦戦を強いられることは間違いないだろう。

 せっかく対抗策のないビーム兵器を持ち込んだのにそれを封じられては意味がない。しかし現状で一番確実性が高いのがクラッキングなのだ。原作で武が調律にかけた時間がどれくらいだったかは思い出せないが、少なくとも三日で終わりはしなかったはずだ。

 

 

「それで、もうひとつはこのODLストックかしら?」

 

「はい。これは先ほど説明した調律が間に合わなかった場合の予備案のようなものなのですが、今のうちにODLを大量に抽出し保管、甲一号を潰すまで反応炉を使わず別の装置で浄化作業を行うというものです」

 

「発想としてはありかもしれないけど難しいわね。反応炉無しで浄化作業はできないし、代わりの装置を作ろうにも時間がなさ過ぎる」

 

「Gステーションの整備ならあるいはとも思うのですが、浄化の度に裏側に移動していたらそれこそ時間の無駄ですしね」

 

「同等の整備を地上に設けれない?」

 

「こちらも時間的に厳しいかと。せめて地球からもう少し近い位置にGステーションがあれば話は別なんですが」

 

 

 そうそう都合のいい方向には流れないか。

 少し分の悪い賭けではあるが、他に有効な策が思いつかないのもまた事実。ならば現段階ではこれをメインに据えつつ、00ユニット完成まで新しい手段を模索するしかない。

 

 

「あたしも他に方法がないか考えてみるけど、今の状況では機能破壊が最善の策みたいね。一応、ODLストックの案についても方法は探してみるわ」

 

「ではひとまずこの方向で行きましょう。 ……ところで、肝心の織姫の具合はどうですか?」

 

「概ね順調よ。あと半月もあれば起動段階にこぎつけられるわ。白銀にも教えてあるから別に教えなくていいわよ」

 

「了解です。それともう一つの件なんですが……」

 

「……そうね、そっちもあったのよね」

 

 

 頭が痛いと言いたそうにもう一つの話、存在公表について話を始める。

 

 

「前回のアラスカ基地防衛において俺の存在を晒してしまったので、この機会に国連を通して公表しようと思っています」

 

「技術をよこせってあちこちうるさくなりそうね……。それについてはどうするつもりなの?」

 

「なんだかんだ理由をつけて引き延ばしますよ。できることなら、オリジナルハイヴを攻略するまでね」

 

 

 あそこさえ落としてしまえばあとは楽だ。対策を取られる心配はなくなるし第5計画も凍結に持ち込めるだろう。無論、簡単に持ち込めるわけがないのでいくつか手札を切らせてもらうがな。

 

 

「第5計画の連中には『バビロン作戦』の穴をトコトン追求させてもらいますよ。と言うより、G弾そのものが既に効かなくなっている可能性が非常に高いんですけどね」

 

「効かなくなってる? …………まさか」

 

 

 博士も同じ回答に気づいたらしく、俺は笑みを持ってそれにこたえる。

 

 

「なるほど。確証がないことではあるけど、可能性としては十分すぎるものね」

 

「ただこれを話す時には00ユニットが稼働状態であることが望ましいんですよね理由は――「反応炉から読み取った情報にG弾に対する対策があったと言えるから、かしら?」――ご明察」

 

 

 普通に言うだけでは効果は薄いが、第4計画の成果によって得られた情報ということならこれ以上ない信憑性があり、連中にとっても決して無視して良い情報ではなくなる。

 

 

「わかったわ、00ユニットの完成を急がせましょう。……ちなみに聞かせてもらいたいんだけど、もし今あんたの部隊でオリジナルハイヴを落とせと言われたらできると思う?」

 

「……正直、微妙と言わざるを得ませんね。いくら機体の性能が他の戦術機と比べて図抜けているといっても、結局動かしているのは人間です。フェイズ3くらいまでなら可能でしょうが、今のうちの部隊だけだとそれ以上は難しいです」

 

 

 これは最終的に全員脱落することなく帰還するという条件を加えた場合に限っての予測だが、もし帰還の条件がなければ成功率はまだマシになるだろう。

 もちろん、そんな条件を認めはしないがな。

 だが、もし別の条件があるなら――

 

 

「……ありがとう、参考になったわ」

 

「それは何より。では――っと、それと近々うちの部隊に戦艦クルーとして新しい人材を引き入れる予定です」

 

「ん、わかったわ。前にも言ったけど、背後関係の洗い出しは入念にしなさい」

 

「心得ています。それでは」

 

 

 お辞儀をひとつ残して部屋を後にし自室へ戻りながら先ほどの博士の質問を反芻する。

 今、俺の部隊でオリジナルハイヴを落とせと言われたらできるかどうか。これについてはさっき博士に答えた通りだ。

 

 ――だが、攻略にかかるのが俺だけならばまた話が変わってくる。

 

 結論からいえば攻略は可能かもしれない。

 俺のガンダムは女神様のおかげで燃費が大幅に向上したので活動時間はもちろん、武装の消費エネルギーが大きく低下した。機動力や推進剤についても同様なので、僚機がいない状況ならかなりのペースで進行が可能のはずだ。

 これを聞くだけなら普通に単機で攻略が可能ではと思うが、問題は俺自身だ。

 いくらかなりのペースで進行できるとしても、パイロットにかかる精神的負担がどれほどなのか皆目見当がつかない。

 原作の武たちがカシュガルハイヴに突入してから『あ号標的』を撃破するまでどれくらいかかったかわからないが、何時間も化け物の海を突っ切ろうとするのはそれだけで嫌になる。

 しかもハイヴ内では上からも降ってくるとなれば余計に気を張らなければならず、結果として疲労が蓄積されていく。

 ハイメガキャノンで一掃しながらだと余計に時間がかかるし、そもそも単機で何十万……いや、下手をしたら百万もの敵を相手にしてたら余計に疲労がたまってしまうだろう。

 

 

「……やめよう。考えるだけで頭が痛い」

 

 

 ともかく現状の俺の部隊だけでの突破は無理だし、単機での攻略もリスクが高すぎる。

 こんなことを気にするくらいなら今の戦力を強化して確実に攻略できるであろうところまで育てた方がよほど建設的だ。

 さしずめその第一歩として、候補のメンバーを横浜基地に呼び出すとしよう。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地

 

 先ほど基地司令より手渡された命令書とある映像を眺めながら、グルーデック・エイノアは考えていた。

 先日発生したテロの後始末がようやく沈静化の兆しを見せたと思ったら突然極東国連軍基地の横浜へ向かい、神林中佐と会談しろと言うものだ。

 いきなり見知らぬ日本人に会ってこいと言われ流石に不審に思い調べたところ、この神林と言う中佐は先日ここのテロを治めた一人で、都市伝説の一つと思われた謎の戦術機『蒼炎の翼』のパイロットだと言う噂もあった。

 自分は部下によってシェルターに押し込まれたためその活躍を直接目にすることはなかったが、今見ている映像では見たことのない戦術機が聞いたこともない武装を用いてBETAを一掃し、テロリストを制圧して行く姿があった。

 これだけでも彼の興味は強く惹かれ、同時に自分が軍に身を置いた目的に一番近いと確信する。

 

 

「……いいだろう。BETAを殲滅できるなら、どこへだって行ってやる」

 

 

 写真立てに写るもう戻らぬ妻子に強く誓い、彼は横浜へ向かうべく準備を始めるのだった。




第30話、いかがでしたでしょうか。

今回はどうにか投稿できましたが、やはり今後しばらくはもう一作のSSに集中したいと思います。
楽しみにしていただいている読者の方々には大変申し訳ありませんが、どうかお付き合いください。

それでは、また次回にお会いしましょう。

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