Muv-luv Over World   作:明石明

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どうもこんばんわ、給料日を目前にして無駄にテンションが上がってきた作者です。

さて。いつもと比べて早めの投稿ですが、勢いとノリの成分が非常に強いです。
所々で妙な描写や矛盾があるかもしれませんが、ご指摘いただければ可能な限り修正を試みます。

それでは本編第26話、どうぞご覧ください。


第26話

アラスカ湾 プトレマイオス2 零の私室

 

 

 中央司令部及び通信センターの奪取、テロリストの拘束並びにBETAの殲滅が一通り完了し、俺たちオーバーワールドは一度トレミーへと帰還していた。

 本来ならユーコン基地に残って本来の目的である挨拶をすませようと思ったのだが、流石にまだごたごたしている中でそれは無理があると判断し先に休息を取ることにした。

 出撃した全員に休息を与え、俺は霞の労いを受けながら報告のために香月博士へと通信を繋げた。

 ただの報告なら別にブリッジでもよかったが、今回の報告にはもう一つ機密性が高いものが含まれている。

 

 

『――なるほど。とりあえずお疲れさまとだけ言っておくわ、特にレッドシフトなんてものを止めてくれたとにね』

 

「あれの存在が公になったことで米国が少しはおとなしくなってくれればいいのですが、同時に各国へ交渉のカードを与えることになってしまいました」

 

『いずれ公表しなきゃならない問題だったし、逆に今回の事件を利用して名前を挙げられたと思えばまだマシね。少なくともテロリストとBETAを圧倒したって結果を出しているし』

 

「あとは早めに表へ立つ、ということか……」

 

 

 もう少し先……出来ればクーデターを完全に抑え込んでから出たかったが、仕方ないか。

 

 

「それと、もう一つの報告ですが――」

 

 

 言葉を区切り、ちらっと霞へ目をやる。

 不思議そうに首を傾げる霞だが、これはこの子にも関係していることだ。

 

 

「――ユーコン基地で第3計画の遺児2名がいるとの情報を入手、その内一名と接触しました」

 

「っ!?」『なんですって!?』

 

 

 驚きのあまり息を呑む霞と声に出して驚く博士。部屋は防音使用なので漏れることはないが、かなりの声量だな。

 

 

「ソ連軍腕利きの衛士、紅の姉妹と言う名で呼ばれている二人です。一人はクリスカ・ビャーチェノワ、もう一人はイーニァ・シェスチナという名前です」

 

 

 シェスチナという名前に霞は愕然とし、博士は深いため息をついた。

 

 

『社の姉妹に当たるってワケね。――で、あんたはどうしたいの?』

 

「可能ならばこちらに引き込んで、あとは自由にさせたいところですね。何故ソ連が彼女たちを創ったのかはわかりませんが、少なくとも何かの実験、もしくは計画のためだけに生み出された可能性が高いと思われます。最も、それだけに脱走や強奪されたときに備えて何らかの処置が施されている可能性が非常に高いですが」

 

 

 確かクリスカは特殊な蛋白か何かを摂取しないと死んでしまって、イーニァは特定人物がそばにいないと暴走だったか。

 蛋白の成分なんかはGステーションの医療施設を使えば何とかなるかもしれないし、特定人物はクリスカとユウヤが該当していたはずだ。

 ユウヤはXFJ計画の筆頭テストパイロットだからイーニァが来ても問題はないが、クリスカを残すなどという愚かな選択肢は存在しない。二人揃ってなきゃ彼女たちは100%以上の力を発揮できないのだからな。どうしたものか――――

 

 

「――博士」

 

『ん? どうしたの、社』

 

 

 不意に声をあげた霞。その顔は、何かを決意したかのよな表情だった。

 そしてその口から飛び出した言葉に、俺と博士は驚かされることとなった。

 

 

『社、本気なの?』

 

「はい」

 

「……俺が言うのもなんだが、大丈夫か?」

 

「それでもです」

 

 

 ……どうやらこの子、想像した以上に頑固者のようだな。

 

 

『……ハァ、神林』

 

「はい」

 

『手助け、してやってくれる?』

 

「全力で助力させていただきますよ」

 

 

 そのやり取りを聞き、霞が力強く頷く。

 責任重大ってレベルじゃないな、こりゃ。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地 アルゴス試験小隊ブリーフィングルーム

 

 

 テロが終息した翌日、零は再びアルゴス試験小隊の元に訪れていた。

 今回は当初の目的+αだけなので、デルタカイではなく輸送機に乗ってここまで来た。

 

 

「さて、改めて自己紹介をしよう。 国連軍横浜基地所属、独立機動遊撃部隊『オーバーワールド』隊長にして特別開発部門開発長の神林 零 臨時中佐だ。民間協力者なので正確には軍人ではないが、よろしく頼む」

 

 

 集められた面々に向かい、敬礼しながらそう説明する。

 この場に集められたのはXFJ計画の責任者である唯依と試験を担当しているアルゴス小隊、そして関係会社のハイネマンだ。

 その中で代表として唯依が一歩前に進み、ピシッと敬礼する。

 

 

「XFJ計画の責任者、篁 唯依 中尉です。昨日は助けていただき、感謝します」

 

「気にすることはない、俺たちはできることをしただけだからな。 では本題に入るわけだが、巌谷中佐から話は聞いているか?」

 

「はっ、XFJ計画はアルゴス試験小隊と共にユーコン基地から横浜基地へ移転して不知火・弐型の試験を行うと伺っております」

 

 

 無事に話は通っていることに安心し、他の面々からも特に反論が上がってこないことを確認して話を繋げる。

 

 

「その通りだ。 そちらの準備が整い次第、アルゴス小隊は不知火・弐型を伴って横浜基地へ向かってもらう。なお、並行して行われているF-15・ACTVの実証試験も横浜で行う。ハイネマン氏もよろしいか?」

 

「私も特に問題はありません。ただ、中佐に個人的にお願いしたいことがあります」

 

「フム、今のうちに聞いておきたいところですが、残念ながらこちらに少々時間がない。続きは横浜基地に来た時で構いませんかな?」

 

「十分です」

 

「ありがとうございます。 ……では、今この場で簡単に聞きいておきたいことはあるか?」

 

 

 ざっと全体を見渡すと、真っ直ぐに挙げられた手が一つあった。

 ユウヤ・ブリッジスである。

 

 

「ブリッジス少尉だな。なにが訊きたい?」

 

「……中佐、あなたが搭乗していた戦術機――『蒼炎の翼』は一体なんですか?」

 

 

 その質問に、この場にいた全員が耳を傾けた。

 まあ今さら隠そうとしたところで大した意味もなさないが、ある程度は教えてやるか。

 

 

「あれは戦術機とは全く違う概念で設計されたモビルスーツというものだ。そして俺が乗っていたあの機体はガンダムデルタカイと言い、関節から吐き出される蒼い炎は特殊なシステムを起動させたときにのみ発生するものだ」

 

「戦術機とは全く違う概念……」

 

「それほどの技術を中佐はどこで得たのですか?」

 

「今はまだ教えられないが、近いうちに教えてやる――っと、悪いが今日はここまでだ。続きは合流したときにしよう」

 

 

 時計に目をやり次の予定のために話を切る。

 まだいろいろ知りたそうな顔をする面々だが、横浜に行けばまた話が聞けると割り切りその場はお開きとなった。

 ブリーフィングルームを後にした零は表に待機していた車に乗り込み、運転手に次の行き先を告げる。

 車に揺られること十分。たどり着いたのは急遽用意された留置所である。

 投降してきたテロリストとその協力者がここに押し込められており、警備の人間もかなりの数がいた。

 そんな場所で零はある人物に会うため受付へ向かい、面会室に通される。

 やがてやってきたのは顔に少しそばかすがある茶髪の女性――ナタリー・デュクレールだった。

 

 

「一日ぶりだが……気分はどうだ?」

 

「悪くはないわ。むしろスッキリしてる」

 

 

 その言葉通り、彼女の顔からは悲観的な感情は見受けられなかった。

 

 

「改心したとはいえ、テロに加担した事実は変わらない。しばらくは不自由な生活になるだろうが、しっかりと罪を償って出てくるといい」

 

「あら? 初めて会ったはずなのにどうしてそこまで気にかけてくれるのかしら?」

 

「大した理由じゃない。アルゴス小隊の連中に君を会わせたいという俺の自己満足だからな」

 

 

 前世で悲しい別れをしたタリサたちを知っているため、せめて自分が介入したこの世界では笑っていられる場所を作りたいと考えていた。

 そう言われては少し恥ずかしいのか、ナタリーは苦笑いでその言葉を受け止める。

 

 

「ま、問題なく出所したら俺の部隊の食事係として雇ってやってもいいぞ」

 

「考えておくわ。――ありがとうございます、中佐さん」

 

 

 感謝の言葉を受け取り、もう話すことはないだろうと零は席を立つと、ふと思い出す。

 

 

「最後に一つ聞きたいんだが、テロ実行犯にいたヴァレンタインって奴がどうなったか知ってるか?」

 

「あの人なら私の隣の部屋で妹と一緒にいるわ。ヴァレンタインは味方に殺されそうになったところをドーゥル中尉に助けられて、妹は自爆しかけたところを崔中尉に止められたそうよ」

 

 

 その返答を聞き、零は意外そうな表情をした。

 歴史通りならヴァレンタインことメリエム・ザーナーは中央司令部で味方に殺され、妹のジゼルことウーズレム・ザーナーは亦菲を巻き添えにしようとして自爆することになっている。

 

――俺の介入が遠回しに彼女たちの未来を変えたのか?

 

 そんな思考に至るも、過程はどうあれ彼女たちが生き残った事実だけわかったので零はそれ以上考えるのをやめて留置所を後にする。

 

 

「さてと。今日一番の大仕事といきますか」

 

 

 一度大きく伸びをして最後の問題を片づけるべく零は一度乗ってきた輸送機へ戻ることにした。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地 特別会議室

 

 

 大画面のモニターの明かりだけで照らされた薄暗い会議室の中に3つの人影があった。

 一人は男性で、二人は少し背の開きがある少女たちだ。

 ソ連陸軍イーダル試験小隊指揮官のイェージー・サンダークと、『紅の姉妹』の二つ名を持つクリスカ・ビャーチェノワとイーニァ・シェスチナの3名はある男から呼び出しを受けてこの場所にやってきていた。

 本来ならサンダークは突っぱねて終わらせるつもりだったが、相手が自分より階級が上の中佐であり、あの『蒼炎の翼』だと聞いて呼び出しに応じざるを得なかった。

 『蒼炎の翼』の実力は先のテロ事件でよく見させてもらっていた。

 圧倒的な火力に凄まじいまでの機動力と反応速度。そしてあの宙を舞う自動砲台のようなもの。

 あれほど尋常じゃない力を振るわれては是非ともその技術の一端を手に入れたいところだが、いかんせん狙いが読めないでいた。

 直接顔を合わせたクリスカはただの人間ではないと評しており、サンダークもその理由を聞いて同じ思いを抱いた。

 

――リーディングが聞かない人間となると、その時点でただの人間ではない。横浜基地所属と言っていたらしいが、そうだとすればあの計画の関係者の可能性が非常に高い。だとすれば狙いはこの二人か? しかし仮にそうだとしても、何故今頃になって……。

 

 サンダークが一人物思いにふけっていると、不意にイーニァが顔を上げる。

 その反応を見てクリスカが何事かと思うと、彼女もその異変に気付いた。

 

 

「――お待たせして申し訳ない」

 

 

 現れたのは国連軍の制服を纏った『蒼炎の翼』の衛士、神林 零だ。ここまではクリスカもわかった。だが扉の向こうにまだ一人、不思議な感覚を持つ人物が感じられた。

 

 

「国連軍横浜基地所属、神林 零 臨時中佐だ」

 

「ソ連陸軍、イェージー・サンダーク中尉です」

 

「クリスカ・ビャーチェノワ少尉です」

 

「い、イーニァ・シェスチナ少尉、です」

 

 

 それぞれが自己紹介をすましたのを見計らい零は話を続ける。

 

 

「呼びだしておきながら重ね重ね申し訳ないが、こちらも少しスケジュールが押しているので早速本題に入らせてもらう」

 

 

 自然な動作で手近な椅子に腰かけたのを見計らい、サンダークも対面に座る。

 

 

「既に察しているかもしれないので単刀直入にいかせてもらうが、こちらの要望はその二人を横浜基地に引き取らせてもらうことだ」

 

 

その一言にクリスカとイーニァが警戒し、サンダークは予想通りと言った風にポーカーフェイスで対応する。

 

 

「それは彼女たちが凄腕の衛士だからでしょうか? だとすればあれほどの機体を有する中佐にはそれほど重要なことではないのでは?」

 

「確かに彼女たちの腕前は素晴らしい。しかし、こちらが欲しいのはそれだけが理由ではない。少なくとも俺はだがな」

 

「では、なにがお望みで?」

 

「――アルゴス試験小隊」

 

「む?」

 

 

 出てきた言葉に不意を突かれ、サンダークは怪訝な声を上げる。一方クリスカとイーニァは反射的にユウヤの顔を思い浮かべ、無意識のうちに言いようのない焦燥感に駆られた。

 

 

「近日中に彼らは横浜基地に移動し、そこで不知火・弐型の試験を行うことになっている」

 

「ユウヤが!?」

 

 

 突然の一言にイーニァが反応する。クリスカも彼女を抑えつつも、内心では少なからず動揺していた。

 

 

「そうですか。 それで、アルゴス小隊の異動が我々にとって何の問題があると?」

 

「――フ、随分と余裕だな。ブリッジス少尉が抜けることで彼女たちの精神面にどのような影響が出るかもわからないというのに」

 

 

 予想外の発言に思わず片眉が吊り上がる。

 そして同時に気付く。

 零の雰囲気が、明らかに変わっていることに。

 

 

「どういうことでしょうか?」

 

「とぼけても無駄だ。いま彼女たちが力を振るえているのは彼の存在があればこそだ。その精神的支えと言ってもおかしくないものが抜ければ、少なからず力を落とすことになるぞ」

 

「何を根拠に――」

 

「シェスチナ少尉の暴走を防ぐための人物に、彼を入れたのは諸刃の剣だったということだ」

 

 

 決定的な一言を突きつけられ、ついにサンダークの表情が歪んだ。

 同時にイーニァが脅え、クリスカが射殺すような眼で零を睨む。

 

 

「……どこでその情報を?」

 

「こんな言葉を知っているか? 『漏れない情報などない』とな。どこかしらに必ず穴はあるということだ」

 

「…………」

 

 

 クリスカの視線を意に介さないように零は「さて、最初の引き取らせてもらう話の理由だが」と話を区切る。

 

 

「簡単に言ってしまえば、俺の理由としてはアルゴス小隊――もっと言えばユウヤ・ブリッジスを連れていくから一緒にその二人も連れて行きたいということだ。これはそちらとしても悪い話ではないはずだ。先ほどあげた能力の低下を防ぐことができ、逆にさらなる向上を見込むことができる。まあさすがにそれでは釣り合いが取れないからこちらとしてもある程度のフォローはさせてもらうが、それでもまだそちらにプラスの要素が強いと思うぞ」

 

「……具体的には?」

 

「そうだな。ソ連という土地柄らしくこちらがもつ寒冷地仕様戦術機の技術提供、及びこちらが保有するフォアグリップ兼用マガジンとグレネード弾を備えた寒冷地用マシンガンでどうだ? 俺の機体を見ればわかると思うが、こちらは貴官らが所有するものとは全く違う技術を保有している。その技術の一端を得るということは、十分にリターンが多いと思うが?」

 

「……確かに、未知の技術を他国より先に得られるというのは大きいですな。 しかしそれがあなたの理由と言うことは、他にも彼女たちを連れていきた理由があるということですかな?」

 

 

 その質問に、零が待っていたと言わんばかりの笑みを浮かべる。

 

 

「そうだ。俺が彼女たちを連れていきたい理由は、少なからずアルゴス小隊のモチベーションが絡むためだ。そしてもう一つの理由は、彼女にある」

 

「彼女?」

 

 

 サンダークが訊き返したところで零は一度席を立ち、廊下で待機していたもう一人を呼び込む。

 

 

「な!?」

 

「え!?」

 

 

 その姿を見たクリスカとイーニァは驚きのあまり声をあげ、サンダークは愕然とした表情で彼女を見た。

 

 

「紹介しよう。横浜基地所属の――」

 

「――社 霞、です」

 

 

 二人と同一の存在であり、かつてイーニァと同じシェスチナの名を持っていた銀髪の少女がそこにいた。




第26話、いかがでしたでしょうか?

ナタリー引き込みフラグを立てました。
あと以前から質問のあった妹ちゃんの話ですがご安心を、生存しております。
どうやって生き残ったのかは姉と一緒に時間があるときに番外編にでも書かせてもらいます。
イーニァ! やっと喋れたよ!
なお、今回サンダーク中尉の交渉に挙げたのはジムの寒冷地仕様です。
どんな状態でソ連に送られるかは次回明らかになります。(誰も完品とはいっていない


さて次回のテーマは『霞、一世一代の大交渉』『艦長候補発見?』『いざ、横浜へ』の3本です。

それでは皆様、また次回にお会いしましょう。

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