Muv-luv Over World   作:明石明

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どうもこんばんわ、休みを失いなかなかなくならない疲労に悩まされている作者です。

さて、いよいよユーコンテロ事件も終わりです。(というか終わらせました
いろいろとコメントしたいところではありますが、それはあとがきの方へ載せさせていただきます。

それでは本編第25話、どうぞご覧ください。


第25話

国連軍 アラスカユーコン基地

 

 

「おいおい、何だってお前がこっちにくるんだよ。まあ、障害を早い段階で始末できると思えばそれはいいのかもしれないが」

 

 

 モニター正面の機体に映し出された黒っぽいグレーの機体をみて思わず声をあげる。

 Su-47E『ビェールクト』。搭乗者は間違いなく恭順派(建前)の元軍人、クリストファー少佐だろう。

 原作を見てても何がしたかったのかイマイチ理解できなかったが、とりあえずあの機体を使ってクリスカとイーニァを手駒にしようとしてドラゴンボールのパラガスみたいな最後を遂げていたな。

 それはさておき、こうして敵の指揮官が自ら出張ってきてくれたんだ。

 ラーストチカやファルクラムがそれなりにいるが、大した障害でもない。

 

 

「オーバー0から各機。正面のあからさまな機体は敵指揮官の可能性が高い。あれを叩けば敵は総崩れになるだろうが、見ての通り数だけはそれなりにそろっている」

 

『敵は我々を包囲するように部隊を動かしていますが、どうします? 左右どちらかから切り崩して攻めてみますか?』

 

『ですが大尉、後でもしものことがあった場合を考えると先に敵指揮官機を撃墜した方がよくないですか?』

 

 

 二人の発言を聞き、この後の出来事を思い出す。

 正直、ここでクリストファーを墜としてしまえばあとはもうなにも無いに等しい。

 せいぜいインフィニティーズがやってきて残存BETAやテロリストを始末。同じく爆撃機がBETAを潰しまわるくらいしか残っちゃいない。クリスカ、イーニァの暴走もビェールクトの管制ユニットをあとかたもなく潰せば問題ないだろう。

 個人的にはあの二人を軍の研究素材という檻から解いて、好きなように生きてもらいたいところだがな。

 

 

「……それは今考えるべきことじゃないな」

 

『中佐?』

 

「なんでもない。それより作戦についてだが、小早川の言ったように敵指揮官を最優先に倒す。ただし――」

 

 

 グリップを握り直し、二人から飛び出てくるであろう言葉と表情を予想しながらそれを告げる。

 

 

「――仕掛けるのは俺だけだ。お前たちは他のテロリストを始末してくれ」

 

 

 ウィンドに映し出された二人の顔が、予想通り驚愕へと変わった。

 

 

『ふ、ふざけているんですか!? 部隊長がたった一人で敵指揮官に突っ込むなんて、いくらその機体がすごくても自殺行為に等しいじゃないですか!』

 

『そうです! それに単機で行ったとしてもその取り回しの悪いライフルではいざという時にやられる可能性が!』

 

「心配するな、俺にはまだとっておきの切り札が残っている。それこそ初見だったりただの衛士ではまず対応できないようなものだ」

 

『ですが!』

 

「作戦に変更はない。それに、お前たちが他のテロリストを減らしてくれればそれだけ俺の方も楽になるんだ。――頼んだぞ」

 

 

 流石にこれ以上は何を言ってもきかないと察したのか、二人はそれぞれ「了解」と答えて通信を切った。

 

 

「さて。いくぜ、相棒」

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地

 

 

 包囲網を突破してきた機体を見て、クリストファーは唇を喜悦に歪めた。

 

 

「そうだ! 貴様とやりたかったのだ!」

 

 

 目の前に現れた機体に向けてオープンチャンネルを開くと同時に突撃砲を構え、随伴のファルクラム10機と共に一斉射を行う。

 「フン」と鼻を鳴らして回避しながら零もオープンチャンネルを開き、クリストファーたちへ呼びかける。

 

 

「撃たれてから言うのもなんだが、一応通告する。これ以上の抵抗は無意味だ、おとなしく投降して然るべき場所で罰を受けろ」

 

「ハッ! 貴様がその機体を置いて死んでくれるなら少しは考えてやってもいいぞ!」

 

「阿呆が。どこの世界にテロリストを投降させるために自ら死を選んで自分の愛機をくれてやる馬鹿がいる?」

 

「ならば答えはNOだ! 貴様を殺して機体をいただくとしよう! あの小娘どもよりよっぽど面白そうだからなぁ!」

 

 

 随伴機を含めた全11機の戦術機が一斉に動き出し、デルタカイを追い詰めようとあらゆる方向から突撃砲を乱射する。

 それを回避しながら零もロング・メガ・バスターで反撃を試みるが、連携の取れた攻撃が動きを制限してなかなか撃てないでいた。

 

 

「貴様の戦いは見させてもらった! そのライフルとシールドの砲門を使わせなければ、残るのは頭部のバルカンしかない! さあ、いつまで避けられるかな!?」

 

「……そうか。そう思っているのならお前の負けだ」

 

 

 クリストファーの強気な発言を聞き、零は不敵に笑いその武器に告げる。

 

 

「――いけ、ファンネル!」

 

 

 バインダーに取りついていた二つのコの字型のもの――プロト・フィン・ファンネルが零の命令に応え起動する。

 バインダーから離れた二つのファンネルはそれぞれ独自に宙を舞い、零の命ずるままの機動を描く。

 そして見たことのないモノを目の当たりにしたテロリストたちは突然飛びまわり始めたそれに動揺し、攻撃の手を止めてしまった。

 

 

「そこ!」

 

 

 そんな絶好の隙を零が見逃すはずもなく、彼の指示を受けたファンネルたちがその砲門から拡散したビームを吐き出し数機のファルクラムを爆散させる。

 同時に出来た余裕を使いロング・メガ・バスターで射線軸が重なった敵機をまとめて撃墜する。

 

 

「な、なんだあれは!?」

 

「自動砲台の一種だってのか!?」

 

「落ち着け貴様ら! 撃ってくるなら撃ち落とせばいいだけだ!」

 

 

 クリストファーの一喝で混乱しかけたテロリストが少し冷静さを取り戻し、自在に舞うファンネルに銃口を向ける。しかし、その行動はもっとも自由にしてはいけない男に時間を与える結果となってしまった。

 

 

「俺を前にして余所見とは、ずいぶんと余裕だな」

 

 

 オープンチャンネルから響く余裕ぶった声に一番早く気づいたクリストファーがふと目をやると、いつの間にか地上に降りてシールドのハイメガキャノンを空に向けて構えるガンダムデルタカイがそこにいた。

 

 

「っ! 全機、離脱しろ!」

 

「させるか!」

 

 

 離脱しながら命令を飛ばすクリストファーだがまともに対応できた者はおらず、ファルクラムは全て光りの中へと消えて爆発した。

 他の2機の相手に向かった20機のラストーチカをこちらに呼び戻そうとするが、そちらもすでに7割近くがやられており全滅までそう時間がかからないのが窺えた。

 

――ば、馬鹿な!? たった……たった数分で俺の部隊が全滅だと!?

 

 

「これでお前を守るものはなくなった。と言うより、機体性能の差が大きすぎるからこうなることは目に見えていたがな。 さあ、最後通告だ。おとなしく投降しろ」

 

「ふざけるなっ! この俺が、こんなところでやられるわけがない!」

 

 

 左手の突撃砲を乱射しながら右手のモーターブレードを起動させ斬りかかる。

 それを見ながら零は「ふむ」と呟き、スラスターを噴かせて難なく避けてみせファンネルとロング・メガ・バスターでロックオンだけして様子を眺めた。

 管制ユニット内でロックオン警告のアラートが鳴り響く中、クリストファーはロックオンを振り切ろうと跳躍ユニットを全開にする。

 しかし、いくら機動を細かくしてもロックオンが外れることはなく、アラートがジリジリと精神を削って行った。

 そこでクリストファーは気づく。相手はロックオンをかけ続けるだけで攻撃をしてこようとはしない。

 つまり、遊ばれているということに。

 

 

「き、貴様ぁ! 俺をおちょくっているのか!? 何故撃って来んのだ!」

 

「おちょくっているからに決まっているだろ。いい加減認めろ、お前は既に詰んでいるんだ。解放されたBETAも俺の部隊が始末して、お前たちが奪った戦術機は確実にその数を減らしている。紅の姉妹を手に入れようとしていたみたいだが、あれはお前ごときが御せるものではない」

 

「! 貴様、どこまで知っている!?」

 

「さてな。知っていることしか知らない、と言えば納得するか?」

 

「納得できるかぁ!」

 

 

 しびれを切らして機体をデルタカイへ向け、ロックオンを承知で突撃砲を撃ちまくる。しかしファンネルが背後から機体を破壊しない程度の威力で攻撃し、ビェールクトが大きく揺さぶられる。

 

 

「さて。あきらめてもらおうとここまでやってきたが、どうやらお前は諦めが悪い上に今後を考慮しても百害あって一利なしの敵だ。悪いが、遠慮はしない」

 

 

 冷たく言い放ち、ロング・メガ・バスターが管制ユニットをロックオンする。

 

 

「く……くそがあああぁぁぁ!!」

 

 

 なおも抵抗の意思を見せるクリストファーだが、桃色の軌跡が管制ユニットを貫き、数秒置いて機体が爆発した。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地

 

 

「……あっけなさすぎる最期だったな。ともかく、敵指揮官は潰れた。他も時間の問題だろう」

 

 

 放出していたファンネルを再びバインダーへ戻しながら俺はレーダーやモニターに目をやりつつ最後の処理事項を確認する。

 BETAも数が減ってきているからそろそろ打ち止めだろうし、テロリストは頭を潰したからもう終わりだ。あとは中央司令部と情報センターを奪還すれば全部終了だが、一番の問題は――

 

 

「やっぱ、ここに介入したことだろうな」

 

 

 今回の件でレッドシフトやBETAの極秘研究が公になったはずだからアメリカやソ連は動きにくくなるだろうが、それでも黙っちゃいないだろう。特に第5計画の連中が。

 民間協力者とはいえ国連に属している以上間違いなく命令系統への組み込みを命令してくるだろうし、最悪の場合は全技術の接収を要求してくるだろう。

 それを防ぐには圧倒的戦力差を見せつけ牽制する必要があるのだが、生憎とそこまでインパクトのある機体は俺のデルタカイしかない。

 MA……それもデストロイやサイコガンダムのような、見た目的にも威圧できる機体があれば少しは黙らせることができるだろうが、今から開発したらどれくらいの時間がかかることか。

 ひとまずこれは保留にして、トレミーに戻ってから考えよう……って、あーそうだ。俺が不在の代理艦長の手配もしないとな。俺が前線に出張る以上いつまでも艦長席にいられないわけだし。

 またデータベースを洗い直すか。まだ調べていない名前もあったはずだし。

 しかし、やることが山積みだな。けど泣き言なんて吐いてる暇もなさそうだ。

 

 

「とりあえず、葉月たちをつれて唯依姫と合流するか。覗いている連中も、あの戦いを見た後なら下手にしかけては来ないだろうし」

 

 

 ちらっと視線を感じる方へメインカメラを動かし、最大望遠で4機のF-22を確認する。

 光線級を始末し終えたのかこちらへ向かっていたようだが、俺を見ているのが窺える。

 そのうちの一機をじっと見つめるが、特にどうこうするつもりもないので放置することを決定し、俺は葉月たちの方へ機体を動かした。

 

 

 

国連軍 アラスカユーコン基地 近郊

 

 

 ユーコン基地から少し離れた場所でそれを見ていた米国陸軍第65戦闘教導団『インフィニティーズ』のレオン・クゼは知らぬうちに冷や汗を流していた。

 機体の特性と位置から気づかれる可能性は皆無だったというのに、その機体は間違いなく自分を見ていた。

 距離など関係なく、そこにいるというのを知っていたかのように。

 

――ステルスを看破できる機体か? いや、それにしては機体にしても装備にしても異常過ぎる。何者だ、あの機体の衛士は。

 

 

『レオン、どうしたの?』

 

 

 同僚のシャロン・エイムに声をかけられはっと気を取り直す。どうやら先ほどのことが衝撃的すぎて意識が若干飛んでいたようだ。

 

 

「なんでもない。それより、あの左肩にデルタマークが入った白い戦術機を見たか?」

 

『ええ。あれが噂の『蒼炎の翼』ってやつかしら? 蒼い炎なんて一度も出さなかったけど』

 

『異常な機体であるということは、さっきの戦闘でも十分に理解させられたがな』

 

『まったくです。しかもあの羽みたいなのについている物、どういう原理で空を飛んでいるんでしょう』

 

 

 隊長のキース・ブレイザーに同意し、気になったことを口にするガイロス・マクラウド。

 その話を元に思い返すと、確かにあのコの字型の物は一番謎だった。

 あんなものがどうして空を飛び、砲撃を放つことができるのか。いくら考えたところでわからないものはわからないと行き当たり、レオンはそれ以上考えるのをやめた。

 

 

『さあ。美味いところはあの機体に持っていかれてしまったが、我々が受けた任務はまだ終わっちゃいない。いくぞ』

 

『『「了解」』』

 

 

 ブレイザーの言葉に返答し、4機のラプターはユーコン基地へ向けて跳躍ユニットを噴出させた。

 

 

 

 

 かくしてオリジナルから外れた歴史は終息へ向かい、間もなく奇跡的な結果でその幕を下ろした。




本編第25話、いかがでしたでしょうか?

クリストファー少佐との戦闘はもっと書こうかなとも思ったのですが、機体性能の差がありすぎて伸ばしすぎたら逆に不自然になってしまうので割愛させていただきました。(合掌

さて、次回は事後処理もそこそこに済ませてようやく横浜へ帰還する予定です。
頑張れば軟弱ものとのやり取りが書けそうです。そこを早く書いてみたいです、主に没シーンを。(オイ

それでは、作者の体力がそろそろマズイので今回はこのあたりで失礼します。
この作品を読んでくれている読者様に感謝しつつ、また次回にお会いしましょう。



追記
作者、たった今気づきました。
今日は純夏の誕生日だということを。
あいにく天候はよろしくない作者の地元ですが、お祝いにんなこと関係ねーぜ!

と言うわけでHappybirthday、純夏!

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