さて、第19話で予告した通り第19話の執筆に影響を及ぼした唐突に思い付いたネタを投稿します。
この話では零が何故かISの世界へ渡ってしまいました。なお、本人にISの知識はありません。
ちなみにサブタイの一部は某ガンダム掲示板のSSから流用しました。(分かる人いるかな
時系列は佐渡島攻略後になるので本編から見ればまだ先の話ですが、本編とは本当にまっっっったく関係ありません。
無論、飛ばしていただいても何の支障もありません。(そもそもこれから進められる気がしない。
それでは始まってしまいます、番外伝。どうぞご覧ください。
「――ぬ、頭が痛い……」
頭にガンガン響く鈍い痛みと、まぶたの裏を刺激する光りを目覚ましに覚醒する。そして視界に飛び込んで来たのは――一面の森。
「……は? どう言うことだ?」
確か昨夜はPXで佐渡島奪還の戦勝パーティーがあって、アルゴス小隊と飲み比べ対決をしてたら狂犬化した神宮寺軍曹が泡吹いてる武を抱えて乱入して来て……ダメだ、そこから先の記憶がない。
この頭痛から察するに過剰な量の酒を無理やり呑まされて撃沈したのだろうが、それでも森にいる理由がわからない。
「誰かのイタズラか? やりかねないのは調子に乗ったタリサか真咲少尉あたりだが、葉月や伊隅大尉が黙ってない筈だ」
それに横浜基地近郊にこんな森はないし、さっきから変な感覚がする。
国連軍の制服が妙に大きい気がするし、立ち上がってみれば視点が少し低くなったような……。
チャリ
「ん? なんだ」
いま落とした物を拾い上げると、それはδの刻印がされたシルバーリングだった。
こんな物を持っていた覚えはないが、俺から落ちたのならたぶん俺の持ち物なのだろう。
とりあえずそれをポケットに押し込み、どうしたものかと思案する。
「動くな」
突然女性の声が上がるとともに、真後ろから冷たい切っ先を突きつけられたのを感じる。
ぬかった、二日酔いと妙な感覚を気にして後ろを取られるとは。
抵抗する意思がないことを示すため両手を上げ手のひらを見せるが、相手の警戒が解かれる気配はない。
「お前は何者だ? どうやってこの学園のセキュリティを掻い潜ってここまで入り込んだ?」
「何者か、か……名前は神林 零。国連軍横浜基地所属、特別開発部門開発長、兼独立機動遊撃部隊『オーバーワールド』隊長。階級は臨時中佐。この場には気がついたらいたとしか言いようがない」
虚偽なく真実を伝えるも、返って来たのは沈黙。
それが少し続くと、冷たい感覚が少し離れた。
「頭の後ろで手を組んで、ゆっくりとこちらを向け」
素直に従い振り向くと、気の強そうなスーツ姿の女性が刀を構え品定めするように俺を見ていた。
「神林と言ったな。お前、正気か?」
「少なくとも生殺与奪を握られているにも関わらず、ふざけた回答をする精神は持ち合わせていないつもりだが」
「……なるほどな」
「こちらからも質問させていただく。ここを学園と言っていたが、もしや白陵大付属柊学園か?」
「白陵大付属? ここはIS学園だ」
……む? IS学園?
「それに先ほど国連軍横浜基地と言っていたが、横浜には国連軍の基地などないぞ」
「……は?」
「む?」
なんだ? 微妙に話が噛み合っていない?
「失礼、一つ確認したいのだが――BETAと言うものを知っているか?」
「ベータ? α、βのベータか?」
……ああ、ようやく合点がついた。
「やれやれ、面倒なことになってしまったようだ」
「何かわかったようだが、どうやら普通じゃない状況のようだな」
「出来る範囲で説明させていただく。何処か静かに話せる場所はないか? あと、危害を加える気はさらさら無いので後ろの人にも銃を下ろさせてくれ」
「っ!」
目の前から鋭い視線を、後ろから驚いたような空気を感じる。
振り向いた時点で狙われているような感覚があったのだが、当たりのようだ。
「お前は本当に何者だ? 生身でISのロックオンを見破るなど普通ではないぞ」
「今は特殊な経歴を持つ軍人、とだけ言っておこうか」
IS学園 地下格納庫
道中に織斑千冬と名乗ったスーツの女性はこのIS学園の教師であり、校内で不審なエネルギー反応を検知して後ろから俺を狙っていた山田真耶教諭とともに赴むくとそこに俺がいたとのことらしい。
そのまま地下の格納庫に連れて来られ、正面の織斑教諭が用意されたパイプ椅子に腰掛けている俺を身下ろし、後方で山田教諭が待機していた。
あと織斑教諭の後方にある物体が妙に気になって仕方ない。
「では、なにが聞きたい? 機密に触れないことなら可能な限り情報提供しよう」
「ならハッキリと答えてもらおう。お前は何者だ?」
3度目の質問。現状についておおよその検討がついているのでぼかして話す必要もないだろう。
「まず始めに、俺はこの世界の人間ではない」
そう切り出して語るのはあの地獄のような世界のことだ。
持ち合わせの端末などを使って淡々と説明していったが、少し内容がグロかったためか途中から山田教諭が俺の座っていた椅子のお世話になった。
俺? 床で胡座かいてるよ。
「地球外起源種と人類の存亡を賭けた戦争か。まるでSF小説だな」
「たがこっちはノンフィクションで人や国、究極的には星を救おうとしている。散っていった魂に報いるため、人類の明日を守るためにな」
イマイチ信じきれていない織斑教諭だが、まあ無理もないかもしれないな。
「さて、今度はこちらの質問だ。――ISとはなんだ?」
「ISとは日本で開発された『インフィニット・ストラトス』と言う宇宙開発を目指した飛行パワード・スーツの総称で、それを纏うことにより現代兵器を遥かに凌駕する性能を発揮する。そしてISは基本的に女性にしか起動させることが出来ないため、この世界での女尊男卑の風潮を決定付ける一因となった」
「なるほど。女性にしか扱えないから『女性=強力なISを使える=男より強い』という図式が出来上がったわけか」
さしずめ、このIS学園とはそのISの操縦者を育成する教育機関なのだろう。しかも、女性しか扱えないのなら学生も女子しかいないとみた。
それはさておき、ISを使う女性のヒエラルキーが上位に来るのは自然なことだろう。
しかしこの流れはISを使わない、むしろ全く無縁の女性まで自分は強いんだぞという間違った意識を持つ一因に繋がっているはずだ。
だが――――
「――さっきの言い方では、その限りで無いことがあるみたいだな」
「聡いな。その通りだ、女性しか扱えないという話は少し前までの話。その常識が覆り、世界的なニュースとして流れたのが世界初の男性IS適合者の出現だ」
やはりな。
男性の適合者が出現したことにより、男でもISを扱える可能性が僅かながら出て来たわけだ。
今はまだ数が少ないのだろうが、その数がこれから増えて行けばパワーバランスは対等、もしくは再び逆転するということもあり得る。
「概ね理解した。 ところで現実的な話として、俺はこれからどうなる?」
「本来なら不法侵入者として拘束するところだが、事情が事情だ。それ以前に、お前はこれからどうするつもりだ」
「あの世界へ戻るに決まっている。非常に重要な作戦がすぐそこまで控えているんだ。時間軸にどんな影響が出るかわからないが、戻らないという選択肢は存在しない」
「ふむ。戻るのは勝手だが、どうやって戻るつもりだ?」
「これから探して行くさ。もしこの世界に俺が知り得る中で最も信頼出来る科学者と同一の存在がいれば、元の世界に帰れる可能性はさらに上がる」
技術レベルで見てもEXTRAの世界より高いここならより確実に帰れるだろうし、ISの技術から新しい開発のきっかけが得られるかもしれない。
「――ところでずっと気になっていたんだが、織斑教諭の後方にあるあれはなんだ?」
「ん? ああ、アレは量産型IS『打鉄』だ。整備を終えたものらしいが、片付けるのを忘れたようだな」
「ふむ、アレがか……。少し見せていただけないか?」
「……まあ、いいだろう」
少しの間を経て織斑教諭から許可をいただき、打鉄の側に寄る。
ふむ、これを纏って空を飛ぶのか。
もっとスマートな姿を想像していたが、待機状態がこうなだけで装備すればまた別の姿になるのか?
頭の中でいろいろ考察しながら触れてみると、
「っ!? なんだ!?」
突如、打鉄から淡い光が溢れ出した。
「まさか、起動したのか!?」
「か、神林さん! ポケットが!」
山田教諭の言葉で反射的にポケットへ目をやると、そこから光が溢れ出していた。
「――これは、あの時の指輪!?」
取り出した光の根源は森の中で拾ったδの刻印が施された銀色の指輪。
それがひとりでに浮き上がり、一際大きな光とともに全体的にグレーの人型へと姿を変えた。
右手にはスマートな銃身のライフルがあり、左腕には丸みを帯びたスマートなシールド。
赤いツインアイの頭部に特徴的な脚部のスラスターと背部のバインダー。
右肩にはオーバーワールドの部隊エンブレムである地球の上にOWの文字と俺のコールナンバーを示す0の数字。
そして左肩には俺のパーソナルエンブレムであるδマークと下に小さく書かれたZEROの文字。
愛機ガンダムデルタカイの開発ベースになった試作可変機――――
「……デルタプラス」
IS学園 格納庫 管制室
織斑教諭に調査してもらった結果、あの指輪はIS版デルタプラスの待機形態であり、搭乗者に俺のデータが登録されていたとのことだ。
無論、俺がそんなことを把握などしているわけもなく、織斑教諭の質問には分からないと回答するしかなかった。
「――で、俺の処遇はどうなる? 未登録ISの不正所持容疑で拘束か?」
「本来ならそれが妥当なところだが、残念ながらお前は普通じゃないのでな。いま上の人間に指示を仰いでいるから少し待て」
なるほど、山田教諭がなかなか戻らないのはそういうことか。
「しっかし、別の世界に跳ばされてみれば二人目の男性IS操縦者になるとはな」
自嘲気味に皮肉って何気無く部屋を見回すと不意に鏡が目に止まり、思わず目を見張る。
ここ数ヶ月で見慣れた弓兵の顔ではなく、その面影を残して若くしたような顔がそこにあった。
「……若返った、だと」
「どうした、妙な汗が出ているぞ」
織斑教諭になんでもないと答え、俺はそれ以上深く考えるのをやめた。
原因不明の世界移動に女性しか扱えないはずのISを起動&所持なんてことがあったんだ。なら若返りなんてことがあっても不思議じゃないはずだ。
「織斑先生、お待たせしました」
しばらくして山田教諭がバインダーを胸に抱いて現れる。織斑教諭はそれを受け取り、片眉を吊り上げる。
「これが、委員会の正式な決定で間違いないのか?」
「はい」
返答を受け、織斑教諭はやや考え込むとバインダーをこちらに差し出した。
「喜べ、お前の処遇が決まった」
「その様子では少し複雑な結果になったようだが――む?」
受け取ったバインダーに挟まれている用紙の一文を見て、俺は怪訝な声を上げる。
一度じっくり読み、二度目にざっと読み返して織斑教諭に尋ねる。
「織斑教諭。君の上司たちは本気か? ある程度は何を狙っているか分かるが、あまりにも大胆ではないか?」
「言わんとしていることは分かる。だがこれはお前にとってもメリットが大きいと思うが?」
「…………」
確かにメリットは大きい。
しかし、簡単にこんな決定を下せるのだろうか?
だがこの後ろ盾があればしばらくは自由が効くのも事実。
怪しさは拭いきれないが――――
しばらく考え込み、俺は一度頷いて告げる。
IS学園 教室 1年1組
入学式を終え、割り当てられた教室へ新入生の少女たちが入っていく。
しかしその人波の視線は、本来ならこの場にいるのがあり得ない存在へと向けられていた。
だが皆それについて言及はしない。
何故ならそれは世界的ニュースの中心になった人物だからだ。
――……い、居づらい。
世界で初めて男性でありながらISを動かした少年、織斑一夏は四方八方から向けられる視線を一身に浴びて気まずい汗を垂れ流す。
親友曰く、彼は『女子校であるこの学園に入学出来たお前は神に選ばれた存在』だと男友達から評されているが、本人からすればそんなことは一切ない。
今にでも大声で「俺は動物園のパンダじゃないんだぞぉぉぉぉ!!」と叫びたいくらいだった。
――助けてくれよ、箒ぃ。
視線の先では小学校の時に転校した幼馴染の女の子、篠ノ之 箒が我関せずといった風に副担任の山田真耶の話を聞いていた。
――神も仏もないのかよチクショウ!
「……ん、織斑くん!」
「ぇあっ!?」
突然名前を呼ばれ妙な声を上げながら前を向くと、先ほどまで教壇にいた真耶が苦笑いで机の前にきていた。
「お、驚かせてごめんね。みんなに自己紹介してもらってるんだけど、『あ』から始まって次は織斑くんの番なの。自己紹介、してくれるかな? ダメかな?」
少し困ったような顔でお願いされ、一夏は周りからの視線がさらに強くなったのを感じながら腹を括る。
「~~っえー、織斑一夏です。よろしくお願いします」
そこまで口にしたところでさらに強くなる視線。居心地の悪いことこの上ない。
一度深呼吸をし、一夏は決意とともに言い放つ。
「――――以上ですっ!」
ドッ!!!!
全員がズッコケた。
「え!? なんで――ごふっ!?」
理解出来なく狼狽する一夏に出席簿が叩き込まれる。
叩き込んだ本人は呆れたように実弟を見下ろしていた。
「全く。挨拶もまともに出来んのか、馬鹿者が」
「げぇ!? 千冬姉!?」
スパァン!!
容赦ない出席簿の第二撃が放たれた。
「織斑先生と呼べ。あと人を関羽のように呼ぶな」
「ス、スンマセン……」
一夏が着席したのを見届け、姉であり担任である織斑千冬は教壇に立つ。
「諸君、私が担任の織斑千冬だ。私の仕事は君たちを一年間で使い物になる操縦者に鍛え上げることだ。私は無駄なことを教える気はない。上を目指すならよく話を聞いて理解しろ。出来ないことは出来るまで指導してやる。なお逆らっても構わないが、言うことくらいは聞いておけ」
よく響く声で千冬の挨拶が終わると共に、一部を除いた生徒たちの声が爆発した。
「キャァァァァァァァァァ!! 千冬様!! 本物の千冬様よぉぉぉぉ!!」
「嗚呼、こんなに近くで千冬様を見られるなんて……! 我が生涯、もはや一片の悔いなし!!」
「千冬様! 貴女のことがずっと好きでした! 付き合ってください! そして出来れば合体してください!」
「お願いです! 罵ってください!! 養豚場の豚でも見るかのように冷たい目で!!」
「おい、後半ふざけんな」
喧騒の中で唐突に聞こえた声にツッコミを入れずにはいられない一夏。
しかしそのつぶやきも止むことを知らない絶叫の渦に飲み込まれて消えていく。
「毎年思うが、どうして私のクラスにはこんな馬鹿共が集まる。嫌がらせか?」
呆れて真耶に同意を求めるも、彼女は彼女で苦笑いを浮かべるだけだった。
「話はまだ終わってないぞ! 良い加減静かにしろ!!」
一喝。
それだけで教室は水を打ったように静まり返った。
――すげぇ、さすが千冬姉だな。
一夏が内心でそんなことを思っていると、真耶が深呼吸をして口を開いた。
「では時間もないので自己紹介はここまでにしますが、最後に転入生を紹介します!」
『……は?』
間の抜けた声があたりから漏れる。
それもそうだ、入学初日でいきなり転入生などあり得るのだろうか。
「それでは、どうぞ入ってきてください」
合図と共に扉が開き、新たな人物が入室すると一部を除いた全員が息を飲んだ。
一夏よりは若干低いが女子より高い身長。
しかし特注された男子用の制服を纏ったその姿は、衝撃を与えるには十分すぎた。
「神林 零だ。昨日付けで世界二人目の男性IS操縦者として認定され、本日よりIS学園に籍を置くことになった。よろしく頼む」
転入生、神林 零は朗々と宣言しながら8年ぶりの高校生活を異世界で開始した。
やってしまいました番外伝、いかがでしたでしょうか?
もしかしたら今後またこんな番外ネタが作られるかもしれませんが、その時はお好みでご覧ください。
え、そんなことより本編を書けって?
書いてますヨ! ついででネタが浮かんじゃって衝動が描いたどうしようもないストーリーを抑えられないだけデスから!
それはさておき、次回はちゃんと本編に戻りますのでこれからもよろしくお願いします。
それではまた次回にお会いしましょう。
追記
このあとがきを書いている途中で改造したばかりの響改が3-1にて直撃を受け一撃で轟沈してしまいました……。
俺が先を急いだばっかりに……。
すまぬ、響……。
本当に、すまない…………。