Muv-luv Over World   作:明石明

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どうもこんばんわ。
古本を買い漁りすぎて本棚がオーバーフローしてしまった作者です。

さて、本編第16話です。
正直言って難産でした。
ひとまずやりたかったフラグやネタは書くことが出来ましたが、後半のグダグダ感は否めません。

兎も角本編第16話、どうぞごゆっくりご覧ください。


第16話

Gステーション MS製造プラント

 

 

 ものすごく久しぶりに来た気がするが、実際にはまだ一月も経っていないんだよな。

 案内用の車を動かしながらふとそんなことを思う。

 遂に重役の方々を本拠地であるGステーションに招待出来た俺は4つの製造プラントが直結しているセントラルシリンダー――長いのでセントラルと呼称することにした――にて宿泊用の施設へ案内し、再び移動してこのMSプラントにやって来ていた。

 もう一台の車には武を運転手に据え、搭載された無線機から俺の声が聞こえる様になっている。

 

 

「――あちらが不知火改造計画、不知火・旋風の製造ラインです。こちらのMSに使用されているバッテリー技術を使い戦闘継続可能時間を大幅に延長。肩、脚部のスラスター増設に加え専用バックパックにより機動力と推進力を強化。武装も頭部にバルカンポッドを装備し、ライフルやサーベル、複合シールドはビームと実弾もしくは実体剣を選択可能。もちろん従来の突撃砲や長刀も使用可能です。そしてOSは現在横浜基地にて試験的に実装されている白銀大尉が考案した新OS、XM3を標準搭載します。XM3につきましては先にお渡しした資料をご参照ください。 現在この旋風の配備予定については横浜基地の一部の部隊のみとなっていますが、兵装のダウングレードで帝国陸軍へ提供する用意があります」

 

 

 俺の説明に――一部を除いて――周りから感嘆の声が上がる。特に巌谷中佐は技術者としての血が騒ぐのか、食い入る様に旋風のパーツを眺めていた。

 そこからさらに以前一般兵向けに考案し、修正を加えた撃震・轟火の製造スペースへ移動する。

 胴体と頭部は従来の撃震と同じだが、修正段階で新たに脚部でドムの技術を使いホバー走行が可能となり、腕はヘビーアームズ改(EW版からTV版に変更した)の物を使い肩からマイクロミサイルを射出出来るようにした。無論XM3標準搭載なので敵に回したら撃震とは思えない速度で移動しながら両肩からミサイルをばら撒いてくるという非常に恐ろしい相手になるだろう。

 戦闘継続可能時間についても一般兵向けということであえて旋風より20%ほど短くしたが、従来の戦術機と比較すれば十分すぎるほど長い活動時間を得ている。

 専用装備としてツインガトリングかミサイルランチャーを選んで装備可能で、担架システムを排除して背面から前方に伸びるレールガンを2門設置。

 近接武器はヘビーアームズを流用しているので右腕にはアーミーナイフを最初から搭載。さらに万が一の時に備え左腕をパージすると伸縮するヒートロッドが使用可能。さらに自由に使える短刀としてアーマーシュナイダーを脇腹に2本所持している。

 火力だけなら旋風より強いが、弾切れになったら著しく戦闘力が低下。しかも機体が重いのでいざという時に跳躍ユニットを使用しても素早く跳躍が出来ず、真下からの奇襲にめっぽう弱いという欠点がある。

 佐渡ヶ島攻略を想定した場合は海神と共に上陸地点を確保して一度帰投、大増援の出現を確認次第再出撃といった使い方が有効だろう。

 後は装備をガトリングから突撃砲や長刀に変えるなりして前線に出張ってもいいな。無論、さっき挙げた欠点に注意しながらという条件付きだが。

 

 

「旋風に轟火、そして新OS。いずれも素晴らしい物だ。君たちがもっと早く現れてくれていればと心底思うよ」

 

「心中お察しします、巌谷中佐。 せめて新OSがあれば、私も部下を死なせることはなかったはずなのですが」

 

「全くだ。これだけでどれだけの衛士が助かることか」

 

 

 面と向かって評価されることに慣れていないのだろう、ミラー越しで照れたように頬をかく武が見えた。

 その後は武装製造ラインを紹介し、続いて戦艦プラントと資材プラント、最後に食料プラントを案内する。

 なお現在製造している武装は一般兵向けとA-01専用に分けており、一般兵向けには180mmキャノン砲、ハイパーバズーカ(単発と拡散の2種)、リニアライフル、100mmマシンガン、ハンドロケットランチャー、アーマーシュナイダーを。

 そしてA-01には一般兵装に加えビームライフル、ビームマシンガン、ビームバズーカ、ソニックブレイドやアーマーシュナイダーのように振動で切断出来るようにした試作長刀を配備する予定だ。

 なお戦艦プラントでは宇宙での旗艦として運用する予定のラー・カイラムを紹介し、資材プラントではガンダニュウム合金にルナ・チタニウム、サイコフレームに擬似太陽炉を紹介した。

 ちなみに現在稼動している戦艦はトレミーの他にアルビオンとガランシェール、フリーデン2の3隻だけである。いつになるかは未定だが、月まではどうにか奪取しておきたいからな。母艦はあるに越したことはない。

 資材に関しても本来なら大量に生産して揃えたいところだが、ルナ・チタニウムは兎も角ガンダニュウム合金はMS一機分の量を作るのに半月。サイコフレームもνガンダムやサザビーに使うくらいの量を揃えるのに1ヶ月はかかるらしい。しかもユニコーンみたいなフルサイコフレームならさらに3倍近い時間を要することとなる。

 資材を揃えるだけでこれだ、そこから開発ともなればさらに時間がかかることだろう。あとPS装甲系はバッテリーの問題から除外、ラミネートコーティングもビームコーティングがレーザーに対しても有効なのか確認出来るまで保留だ。

 そういった未確認データを消化するため一度何処かの戦場に向かう必要があるのだが、それはまた旋風が組み上がった時にでも考えよう。

 一通りプラントの紹介を済ませ、俺たちはこれからの話をすべくセントラルのメインコントロールルームに移動した。

 

 

「さて、帝都城でもお伝えしました通り私は今日ご紹介した技術の一部を日本帝国に提供する用意があります。提供させていただく物は主にビーム兵器以外になりますが、ご依頼があれば可能な限りのことはさせていただきます」

 

「ビーム以外? 何故だ?」

 

「実弾は兎も角、あれは純粋に威力が強すぎる。もし他国に技術が流出して解析に成功されたら……最悪の場合、銃口がBETAではなく人類に向けられるかもしれないからです。なので自分の目の届く範囲で運用したいのです」

 

 

 俺の言わんとしていることを把握したのか、月詠大尉は「なるほど」と小さく頷いた。

 

 

「そしてこちらが要求するのは日本帝国領内にプトレマイオス2の整備ドックの建造許可、帝国からの人材提供、後は……非常時における帝国領内での独立活動権限をいただければ」

 

「わかりました。ご要望に応えられるよう尽力させていただきます」

 

「感謝します。詳しい目録と締結書はまとめ次第お持ちしますので、それまではごゆるりと見学してください。他の皆様も立ち入り禁止区域以外は見学していただいて結構ですので、ご自由にどうぞ」

 

 

 その後殿下たちを宿泊施設に送り届け、俺は今回の話をまとめるべくまたメインコントロールルームの近くにある自分の部屋へと向かった。

 

 

 

Gステーション セントラルシリンダー 零の私室

 

 

 今回提供する目録と締結書をまとめ終えて一息ついていると、背後の扉が開き誰かが入室して来た。

 

 

「零ー、今大丈夫か?」

 

「なんだ武――っと、社もいたか。どうした?」

 

 

 椅子ごと体を動かして向き合うと、霞が一歩前に出る。

 

 

「神林さん。丸いのをもらえませんか?」

 

「は? 丸いの?」

 

「ハロだよ。霞は自分用のハロが欲しいみたいなんだ」

 

「ああ、なるほど」

 

 

 トレミーでやたらとハロを眺めていたと思ったら、そう言うことか。

 

 

「ダメ、ですか?」

 

 

 理解すると霞から向けられる視線が期待に満ちた純粋な子供のそれになる。しきりに動くうさ耳が彼女の心境を表しているみたいだ。

 うむ、こんな上目遣いでお願いされたら断った俺が悪役だな。

 当然、断る気はさらさら無いが。

 

 

「わかった、専用のハロを作ってやる。何か入れて欲しい機能とかあるか?」

 

「ありがとうございます。機能はお任せします」

 

「ん、了解した。完成したら教えるから、しばらく待ってくれ。一月もあれば出来るはずだ」

 

「はい。お願いします」

 

 

 小さく礼をし、嬉しそうな足取りで退室する霞。これは全力でプレゼントしてやるしか無いな。

 

 

「武もいるか? ついでで良ければ作るぞ」

 

「俺はいいや。それより頼んだぜ」

 

 

 そう言い残して武は霞の後を追った。

 よし、では早速霞専用ハロの仕様を――

 

 

「神林中佐、少しいいかね?」

 

「っと、巌谷中佐。どうしました?」

 

 

 新たな来客の対応をすべく椅子から立ち上がり応接スペースに促しソファーに座りつつ尋ねると、巌谷中佐は真剣な眼差しを向ける。

 

 

「中佐。以前不知火の改修計画として出向している部下について話したのを覚えているかね?」

 

「確か初めてお会いした時に帝都城で言ってましたね。ガンダムの映像が送られて来たと」

 

「ああ。それでその部下を中佐の元に置きたいのだが、どうだろうか?」

 

 

 ……なんですと?

 流れからして中佐の部下ってどう考えても唯依姫だろ? それが俺の下に来る?

 

 

「彼女は優秀だ。衛士としても開発者としても、そしてなにより嫁に出しても全く恥ずかしくない器量よしだ。無論、簡単に嫁に出したりはしないがな」

 

「は、はあ」

 

 

 親バカ混じりの話を流しつつ、脳内で素早く思案する。

 別に唯依姫に来られて困ることはないが、アルゴス小隊――特にユウヤ・ブリッジスとの関係が終了してしまう可能性がある。俺としては原作コンビを尊重したいが、優秀な人材は欲しい。この問題をどうにか全部まとめて解決する方法は――――そうだ、全部まとめてしまえばいいんだ。

 

 

「巌谷中佐。ならば部下の方と一緒にその不知火の試験部隊もこちらに呼んでもらえませんか?」

 

「む、どういうことかね?」

 

「不知火の改修計画を丸ごと横浜でやってしまうんですよ。現状のままなら別にいいですけど、いずれXM3は世界中に配布されます。そうなれば必然的に新たな問題が発生してしまいます。なのでそれを今のうちに解消して、次の開発に繋げようということです。そしてそのついでというわけではありませんが、戦闘データも収集して行こうというわけです。それに試験部隊の人たちもせっかく自分たちが取り組んで愛着も湧いてきた機体をいきなり持って行かれては、とてもじゃありませんが納得できないでしょう」

 

 

 そう、これを口実にアルゴス小隊のみなさんには横浜に来てもらおうと言う訳だ。

 原作コンビのまま部隊を変えず試験も継続。うむ、完璧だ。

 

 

「後は個人的なお願いとして、その不知火の強化設計をやらせてもらえませんか? 無論、試験部隊が横浜に来ると言う前提でですが」

 

「こちらとしてはその申し出は嬉しい限りだが、いいのかね?」

 

「構いませんよ。旋風とはまた違う強化を試すだけですし、外部に漏れて困るような仕組みでもありません」

 

「ふむ、了解した。手配してみよう」

 

 

 満足いく答えが得られたのか、巌谷中佐はその後笑顔で退室して行った。

 さて、中佐にああ言った手前、早速弍型の強化プランをまとめよう。それから改めて霞のハロを――。

 そう勇んで再度端末にむかおうとしたところで、再び扉が開いた。

 

 

「失礼します、神林中佐」

 

「――おや? お一人ですか、殿下」

 

 

 次に現れたのは殿下である。ただしお側役の月詠大尉がおらず、それだけで妙に珍しさが増した。

 

 

「実はお願いがあって参ったのですが、よろしいでしょうか?」

 

「……ふむ、お伺いしましょう」

 

 

 先ほど立った応接スペースに戻り、再びソファーに腰掛ける。

 殿下が座ったのを確認し、口を開く。

 

 

「それで、一体どの様な願いで――」

 

 

 言いかけたところで、殿下が人差し指を立てて俺の口元まで持って来る。

 

 

「その様な言葉使いは不要です。今は政威大将軍としてではなく、個人の願いのために来たのですから。それに、武様が『零は他の人がいなければ身分や階級を気にしないだろう』と申していました。ですから私のことも、中佐の話しやすい話し方でお願いします」

 

 

 武の奴、いつの間にかそんなことを言ったのか。しかし向こうがそれでいいなら乗らせてもらうか。

 

 

「了解した。では二人の時は悠陽と呼ばせてもらおう。俺のことは好きに呼んでくれて構わない」

 

「ありがとうございます、零様」

 

 

 ……う、うーむ、年下の女の子に様付けで呼ばれるのがこれほど落ち着かないとは。

 なんと言うか、照れくさくてむず痒い。

 

 

「それで、お願いってなんだ?」

 

「はい。実は――MSを一機作っていただきたいのです」

 

「……何のためにだ?」

 

「零様も武様の話を聞いてご存知とは思いますが、私には記録上存在しない双子の妹がいます」

 

「……そう言うことか」

 

 

 原作で冥夜に武御雷を送った様に、この世界ではMSを送ろうと言うわけか。

 

 

「長き年月で定められた風習や伝統で出会うことが叶わないのなら、せめて機体だけでも贈りたいのです」

 

 

 妹には会いたい、でもしきたりが……。目の前で語る彼女からそんなジレンマが感じられた。

 だから俺は、思ったままを口にする。

 

 

「ならば、叶えてしまえばいい」

 

「え?」

 

「長年の伝統や風習を捻じ曲げて、妹に会いに行けばいい。確かに伝統や風習は大切だろう。けどな、それに縛られて肝心なところで後悔するならそれはもはや足枷、家名という呪いだ。座して世界は変わらない、変えられない。自らの足で行動し、変えるための歯車を動かす必要がある。それが伝統や風習を壊す結果になったとしてもだ」

 

「し、しかし、御先祖が歩んで来た道を私だけ踏み外すと言うのは――」

 

「――煌武院 悠陽!」

 

「は、はいっ!」

 

 

 少し大きく名前を呼び、真っ直ぐに問いかける。

 

 

「君は一体何がしたい? 煌武院家の人間として動きたいのか? 冥夜の姉である悠陽として動きたいのか? 君が心の底から願うのはどっちだ?」

 

 

 その言葉を受けた悠陽は一度胸に手を当てる。しばらくそうしていると、意を決したように力強い瞳をこちらに向けた。

 

 

「――会いたい。私は、ただ一人の姉の悠陽として、ただ一人の妹である冥夜に会いたいです!」

 

「……わかった。ならば俺は悠陽の願い、それを叶えるためにひとつ手助けをしよう」

 

 

 先ほどまで座っていた机から例の封筒を取り出し、悠陽に手渡す。

 

 

「零様、これは……」

 

「現在帝国内部にいる君の障害だ。悠陽、君の願いを叶えるためにもまずは周りを固めて立つ必要がある。それには足場作りに必要な一手が入っている。どう使うかは月詠大尉や鎧衣課長と相談して決めるといい」

 

「……はいっ」

 

「それと機体に関してはしばらく待ってくれ。作るのは兎も角、乗り手の技量が未知数だ。どう言った機体がいいか把握出来たら取り掛からせてもらう」

 

「わかりました。それと、ありがとうございます、零様」

 

 

 深々と頭を下げようとした悠陽の肩を叩いて動作を中断させる。

 

 

「それは全部終わってからでいい。 ただし、必ず叶えることが絶対条件だぞ」

 

「……ふふ」

 

「なんだ、何か可笑しかったか?」

 

 

 いきなり笑われて何事かと思うと、悠陽が口を開く。

 

 

「零様、まるで妹を気遣うお兄様ですよ」

 

「……兄貴? 俺が?」

 

「はい。零様みたいな方がお兄様だったら私は大歓迎ですよ」

 

「…………」

 

 

 な、なんてことを笑顔で言うんだこの娘は……。

 嬉しいより恥ずかしい気持ちの方が大きいぞ。

 

 

「と、兎も角、こちらも出来る限り協力は惜しまない。まずは明日に目録と締結書を確認してくれ」

 

「わかりました。お兄様」

 

「……頼む、出来ればその呼び方もやめてくれ」

 

 

 結局、懇願するも悠陽は俺のことをお兄様と呼ぶことをやめようとはしなかった。

 二人きりの時だけと宣言してくれたのが唯一の救いだろうか。

 

 

 

Gステーション 某所

 

 

「ふっふっふっ……いいネタが手に入ったわ」

 

「いやはや、この映像を撮るのは苦労しましたよ。一度見つかった通気口が2回目に全く気付かれずに通用したのはまさに僥倖でした」

 

「初めて来た施設の通気口を移動して来た鎧衣課長って……」

 

「ハロ……楽しみです」




第16話、いかがでしたでしょうか?

旋風と轟火の公開とTE組の合流フラグ、地味にこれが書きたかった……!
ちなみに殿下とは恋人ではなく義兄義妹フラグが建設されました。
ヒロインだと思った? 残念! 義妹でした!
真のヒロインはまだまだ先になると思われます。早く出したいなぁ……。
さて、次回は地球への帰還を予定しています。
早ければもう次にTE組が合流するかも。
相変わらず投稿は未定ですが、気長にお待ちください。

それではまた次回にお会いしましょう。

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