Muv-luv Over World   作:明石明

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どうもこんにちは、最近フルブでエピオンが楽しいと思っている作者です。

通算UA50000突破&お気に入り800突破。
本当に感謝感謝です。
比較的早く仕上がりました、第12話です。
今回はようやくA-01部隊が出て来ます。
と言っても後半に少しですが。
今日は番外編のシャイニング祭りに沙霧大尉が追加されました。
のいぢんさん、ネタ提供ありがとうございました。

それでは、本編第12話をどうぞ。


第12話

国連軍横浜基地 正面昇降口

 

 

 月詠真那は正面にいる――所属は違えど――自分より高い階級の男たち、白銀 武と神林 零に鋭い視線を向けたまま口を開く。

 

 

「斯衛を通じて貴官らの話を聞かせていただいた。その上であえて言わせていただく」

 

 

 一呼吸置き、真那の目つきがさらに鋭くなる。

 

 

「我々はまだ貴官らを信用していない。いくら殿下や紅蓮大将が信頼しようと、我々は貴官らを最も警戒すべき人間として対応させていただく」

 

 

 彼女自身この二人が別の世界からやってきて、その片方がここに限りなく近い世界に希望を与えたなどという情報はどうでもよかった。

 ただ得体の知れぬ彼らが自分たちの主に近づくのが気に入らなかったのだ。

 

――こちらが一方的に否定しているのは認めよう。しかし、全ては冥夜様を思えばこそ。

 

 

「ふむ。なら一つ言わせていただく」

 

 

 そんな真那の放つ剣呑な気をしれっと無視し、零は続ける。

 

 

「警戒するのは勝手だが、そちらが懸念していること行うのはまずあり得ない。ま、俺たちがそう言ったところで信用してもらえるとも思えないが、それならそれで納得してもらえるだけの信用を得るまでだ」

 

「好きにされるといい。だが冥夜様に万が一のことがあれば――」

 

「そんなことは絶対にしませんし、させませんよ。月詠中尉」

 

 

 力強く、そしてただならぬ決意を感じる声が真那の発言を遮る。

 

 

「冥夜だけじゃない。俺の周りにいる誰にも悲しい思いはさせませんし、傷つけさせたりもしません。それこそが、俺のやるべきことであり、この場にいる理由です」

 

 

 自らの胸に拳を当てハッキリと宣言する武。

 その想いに感化され、零も一度頷く。

 

 

「俺も武と同じだ、中尉。戦場で彼女たちを死なせる気はさらさらないし、それ以外でも手を出したりはしない」

 

「宣言するだけなら何とでもできます。ここでそのようなことを宣言されたとて、それを納得させるだけの実績がなければ理解を得るのは到底不可能では?」

 

「その実績をこれから俺たちは積み上げていくんですよ。そしてその成果は、中尉も十分納得してもらえると信じています」

 

「……なら、いつか拝見させていただきましょう。その成果とやらを」

 

 

 疑心に満ちた目で二人から視線を逸らし、真那は部下たちを連れて主の元へと向かった。

 

 

 

国連軍横浜基地 正面昇降口

 

 

 先に殿下と会合していたおかげか、割とあっさり話が終わったな。

 真那さんたちが去って行くのを見届け、武が口を開く。

 

 

「あー、いつになってもあの視線には慣れねぇ」

 

「隙あらば切るを地で行く目だったな。 しかし、あれだけ大口叩いたんだ。早急にXM3だけでも完成させる必要があるな」

 

 

 最速で明日、それに合わせて幾つかのプランを博士に提出するか。

 

 

「そう言えば、そっちの開発はどうなってるんだ? やっぱり新しい戦術機とか考えてるのか?」

 

「新規開発は時間がないからほとんど諦めてるが、改造プランなら割とあるぞ――そうだ、ちょっと来い。お前の意見を聞きたかったんだ」

 

 

 その場から屋上へ移動すると誰もいないことを確認しトレミーから持ち出した端末を取り出す。

 空間にデータを映し出すと武が子供のようにはしゃいだが、スルーして目的のデータを選択する。

 

 

「これは……不知火? 足回りとか肩に見慣れないものがあるけど、形的には増設したスラスターか?」

 

「ああ。A-01――伊隅ヴァルキリーズ向けに機動力を強化させたもので、推進力は従来のものに比べ15%増し。担架システムを有した専用バックパックを装備させるとさらに20%増しだ。開発コードは不知火・旋風」

 

 

 脚部はリゼルを、肩のところはジェガンを参考にして開発。バックパックもデスティニーの仕様を流用したことで担架システムをそのまま残せた上に跳躍ユニットを外すこともなかった。

 胸部に取り付ける予定だったスラスターは形状の問題と、肩スラスターの推力を上げることで同等の効果を得られることからひとまず見送りに。

 C.Eのバッテリー技術を流用することで稼働時間も飛躍的に上昇し、間接部もMFの技術を使い強化。さらにマグネットコーティングを施すことで反応速度も上げている。

 基本武装に関しては頭部にバルカンポッドを取り付け、近接武器にアーマーシュナイダーとビームサーベル。射撃兵装はグレネードも撃てる複合ビームマシンガンか、同じくグレネードも撃てる複合100ミリマシンガンを選べる。

 さらに専用シールドの表面には耐ビームコーティングを施し、裏面にはビームキャノンとグレネードランチャーを選んで搭載出来るようにした。

 全体的に少し図体が大きくなったが、それを補う機動力と今までの戦術機とは次元の違う兵装を搭載したおかげでシミュレート上で行ったF-22とのキルレシオは6?8。つまり、この不知火・旋風――長いから旋風でいいか――を落とすにはアメリカの最新鋭機であるラプターを最低でも6体必要とするのだ。

 しかもこれを操るのがトップエース級ならさらに5倍は跳ね上がると予想している。

 ちなみに興味本位で俺のガンダムとラプターを比べたら開発者が発狂しかねない数値になったので見なかったことにした。

 

 

「すごいな。これが数機あるだけで間違いなく戦況が大きく変わるぞ」

 

「おいおい、これだけで驚いてくれるなよ。後衛組は単騎で最低でも数百のBETAを押し返す武装を持たせるつもりなんだからな」

 

 

 後衛組には戦況打破のためにZガンダムのハイメガランチャーやGP-02のビームバズーカ、ストライクガンダムの高インパルス砲『アグニ』と言った長距離射程で高火力の武装を持たせるつもりだ。

 後はさっき挙げた装備でも届かないような遠距離の敵を狙撃するためのロングレンジ・ビーム・ライフルや、面制圧向けに多連装ミサイルランチャーもいいだろう。

 

 

「増設スラスターは今から開発しても全員分揃えるまで時間がかかるから、まずは基本兵装だけでも揃えて慣熟訓練をさせる」

 

「なら明日の朝にXM3のバク取りを終わらせて、それからシミュレーターでA-01に使ってもらうか」

 

「その前に一度、お前はXM3を乗せた実機でA-01部隊の相手をしてくれ。その方がより興味を持たれるだろうし、OSの有用性も理解してくれる。それから慣熟を始めて、慣れた頃を見計らって武装の慣熟も叩き込む」

 

 

 XM3に慣れるまで少し時間を食うだろうし、武装の用意と調整を考えれば日程的には十分いいだろ。この二つがある程度慣れてもらったところでまた起爆剤を投入し、徐々に教導のレベルも上げていく。

 その間に207訓練部隊の総合技術演習があるはずだから、それで全員が合格すれば二つの部隊を並行して鍛えることが出来る。

 

 

「――あ、そうだ。 武、お前に一つ頼み事をしたい」

 

 

 次の段階へに進む時間は、確実に迫ってきていた。

 

 

 

国連軍横浜基地 PX

 

 

 夜明けと共に実施していたXM3のバク取りとデータ収集が先ほど完了し、成果を香月博士に提出した俺は少し遅めの昼食を取りに来ていた。

 武と霞は一足先に食事を終え、今頃は屋上かシリンダー室にいるだろう。

 

 

「中佐。相席してもよろしいか?」

 

 

 正面からそんな声とともに、トレーを持った顔に大きな傷がある金髪と茶色の癖っ毛が目に入った。

 グラハム・エーカーとニール・ディランディである。

 

 

「ああ、ちょうどよかった。2人に話があったんだ」

 

「話? 例の部隊参加についてか?」

 

 

 促されて座りながら、ニールは以前の話を思い出す。

 

 

「当たらずも遠からずだな。勧誘の際に俺の本拠地に招待すると話したのは覚えているか? 明日から5日間、VIPを招待する予定が組まれてな。それに合わせて2人も招待したい。無論、VIPの方も了承されている」

 

「なるほど。では以前の言葉通り、その印象で協力するか否かを決断してよろしいか?」

 

「それで構わない。当日はこちらから遣いを出すから、そいつの指示に従って動いてくれ。本来なら俺が迎えに行くところだが、俺は受け入れ準備のため一足先に基地を離れないといけない」

 

 

 グラハムの言葉に肯定しつつ、昨日の内容を思い返しながら詳しい時間と集合場所を伝える。

 

 

「――以上が明日のスケジュールだ。何か聞きたいことはあるか?」

 

「……では、一つ尋ねてもよろしいか?」

 

 

 神妙な顔つきになったグラハムがPX内を一瞥する。

 

 

「中佐。何故この基地はこれほどまでに緩いのですか?」

 

 

 その一言が、何についてなのかすぐに分かった。それは、俺自身も懸念していることだからだ。

 

 

「それについては幾つか目星をつけてあるが、俺の中でとりわけ大きな理由としては敵が滅多にこないことだな。 なまじ攻めてこられないものだから基地の連中は後方基地のように油断し、実践経験が乏しいにも関わらず自分の力を過信しすぎている。無論、俺たちのように現状を憂いて危機感を抱いている者もいる。だが残念なことに、全員の意識を同じレベルまで引き上げるための有効な手段がないのもまた現状だ」

 

「理由が分かっているのに対策の目処がない、か。いっそのこと、本物のBETAでも連れてきたらどうだ?」

 

「――確かに意識は変わるだろうが、それで戦力が減ったら元も子もない」

 

 

 ニールから飛び出た発言に思わず動揺しかけたが、どうにか抑え込むことに成功する。あれはS級阻止項目の一つだ、連れてこようものならその瞬間まりもちゃんの死亡フラグが確立してしま……う?

 そこまで考えたところで、ふと一つの考えが浮かんだ。内容としては単純だが、使い時がドンピシャなら高い効果を発揮しそうだ。

 

 

「……基地の空気に関してはなんとかしよう。とりあえず、二人は明日のことだけ頭に入れておいてくれ」

 

 

 二人から了解と返事をもらい、俺は残りの飯をさっさと片付けてPXを後にする。

 先ほど通って来た道を逆走し、その部屋にたどり着く。

 

 

「香月博士、失礼します」

 

 

 やって来たのは地下19階、香月博士の研究室である。彼女は最後に退室した時と変わらず、端末に向かって難しい顔をしていた。

 

 

「あら、神林じゃない。どうかしたの?」

 

「一つ、博士に提案がありまして」

 

 

 俺は先ほど思いついたことの概要を説明する。内容が内容なので、博士も少し真剣に耳を傾けている。

 

 

「――と言うことなんですが、どうでしょう? 試すだけでも価値はあるかと」

 

「なるほどね。確かにリスクが少なくやることも単純。しかもメリットしかない上にうまくいけば効果は大きく変化する……いいわ、司令と一部の人間には伝えておくから、あんたは実行する直前になったらあたしに連絡をよこしなさい」

 

「ありがとうございます」

 

 

 博士の許可は得た。後は本当にタイミングの問題だな。

 

 

「それと、さっき受け取ったXM3のデータ。特に問題なかったから実機に搭載の指示を出しておいたわよ。今夜のA-01の訓練には間に合うはずだから、もしやるなら白銀にいつでも行けるように言っといて」

 

「お、了解です。 ついでにA-01のシミュレーターにも適応させておいてください。明日から慣熟訓練に入ってもらえれば、こっちに戻ってくる頃にはそれなりに扱えるようになっているはずですから」

 

「で、また白銀を投入ってわけね」

 

 

 理解の早い上司で助かる。

 その後は簡単な打ち合わせと、現在上がっている改造プランを適応させるための試験機をどうするかの意見交換で時間が過ぎていった。

 

 

 

国連軍横浜基地 近郊 A-01部隊専用演習場

 

 

 夜の帳が下りた廃墟に佇む複数の巨大な影。

 それは全て国連カラーのブルーで染まった日本帝国の戦術機、不知火だ。その左肩には二振りの剣を持つ戦乙女が描かれていた。香月夕呼直属A-01部隊、通称『伊隅ヴァルキリーズ』の機体である。

 その名の通り部隊の衛士は全て女性で構成されているが、この日本帝国でも間違いなく5本の指に入る実力を持っている。

 その指揮官であり部隊名に名を連ねた隊長、伊隅みちる大尉は機体の中で少し前に言われた上官の言葉を思い返していた。

 

 

『今日の訓練は中止よ。ちょっと相手をしてもらいたい奴がいるから』

 

 

 たったこれだけだ。どんな奴がどんな機体で来るかも教えられず、時間が来るまで待機と言われた。

 しかしどのような相手が来ようと、自分たちは全力で対応するだけだ。

 

 

『ヴァルキリーマムよりヴァルキリーズへ。まもなくターゲットが現れます。戦闘準備へ移行してください』

 

 

 コマンドポストの涼宮遙より通信が入り、全員が思い思いに返信する。

 やがてレーダーに赤いマーカーが点灯し、演習場に敵機が現れたことを知らせた。

 

 

『伊隅、聞こえる?』

 

「は、通信は良好です」

 

 

 直属の上司――香月夕呼から通信が入り、みちるはキビキビと答える。

 

 

『今回の演習はその不知火1機に全員で相手をして勝利すること。以上よ』

 

『不知火1機に全員でって、そんなの圧勝で終わるに決まってるじゃないですか』

 

 

 夕呼の説明に速瀬水月が少し呆れ気味に発言するが、みちるも声に出さずとも同じことを思っていた。

 だがあの上官が無駄なことをするはずがないのはよく知っている。

 つまり、この演習には何かそうするだけの理由があると言うことだ。

 

 

「了解しました。 ――ヴァルキリー1より各機へ。相手はたったの1機だが、油断するなよ。何せ博士が用意した相手だ。軽い気持ちで当たると痛い目を見るぞ」

 

『『『了解』』』

 

 

 全員から返信を受け、みちるは再び相手を見る。

 機体は自分たちと同じ国連カラーの不知火。装備の印象から突撃前衛――ヴァルキリー2の水月と同じ装備だ。

 どの部隊でも突撃前衛、特に突撃前衛長はエースと呼ばれるだけの実力があり、もし相手が相当腕の立つ者なら勝利はすれど辛勝……最悪の場合なら敗北もあり得る。

 

――私は指揮官だ、気負いすぎるわけにはいかない。

 

 みちるは意識を切り替え、静かに開始の合図を待った。

 

 

 

国連軍横浜基地 近郊 A-01部隊専用演習場

 

 

 武の搭乗した不知火がトレーラーから立ち上がり演習場内に進入すると、データリンクされた端末のIFFに敵対表示の赤いマーカーが7つ点灯した。

 一瞬なんで7つと頭を捻ったが、BETAの新潟上陸の際に脱落した先人たちだと思い当たり合点がついた。

 

 

「武。相手は戦力差7倍の強者揃いだ」

 

『ああ、しかもその内の3人は全くの未知数だ。 けどーー』

 

 

 不知火から駆動音が一際大きく嘶き、特徴的なメインセンサーに光が走る。

 

 

『――俄然燃えて来た!』

 

 

 気迫は十分。しかもXM3と言う力も加わった今、武に恐れるものは何もなかった。

 

 

『じゃ、そろそろ始めるわよ』

 

 

 博士の通信が聞こえ、俺は最後にと武へ通信を繋いだ。

 

 

「武」

 

『なんだ?』

 

「蹴散らしてこい」

 

『おうよ!』

 

『――各機、状況開始しなさい』

 

 

 博士の合図と共に、8機の不知火が同時に動いた。




約2週間ぶりの投稿となりました第12話、いかがでしたか?
やっと不知火の改造プランを出すことができました。
本編で暴れるのはまだ先ですが、楽しみで仕方ありません。
さて次回はヴァルキリーズとの対決です。
戦闘描写がちゃんと書けるか心配ですが、頑張ります。

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