「全く………何度私を失望させれば気がすむのかしらねー人形」
………ここは………どこ?………また、変な夢?
僕の目の前は、真っ暗闇だ。そこから、声が聞こえてくる。体はいつもと同じく動かなかった。
「………何度も言っているよ………私は、もう何も壊したくないよ………殺してよ………壊してよ………」
………え?口が勝手に動いてる?それに、声も少し僕とは違う………?
「あらあら、人形に、終わりなんてあると思ってるのかしらー?人形は壊れても直されるわよーあなたもよく知ってるでしょー後これ言うの何回目ー?」
「それでも………終わりを望んでもいいでしょ、このヒステリッうぐぁっ!!!」
また、勝手に口が動いて喋っている途中で、闇から足が出てきて腹にめり込む。
痛みが………ある。これは………夢なんだろうか。
「言ったでしょーあなたは、私のお・に・ん・ぎ・ょ・う♪私の玩具なの♪だーかーらーあなたは抵抗出来ないの。言われた事には従いなさいよー?」
「………絶対いぐぎゃあっ!!」
再び、足が飛んできて腹に当たった。
………痛い、なんで?
「ちょうどいいわねー。調教ついでにあなたの体、改造しちゃいましょー♪腕も足ももう無いんだからー次は………あっ、血を抜いても生きれるようにしちゃいましょう!切られても死なない………んんー!私の好奇心が疼くわー♪」
………なんなんだ、この人?狂ってる………おかしいよ!
『た………す……………け…………て………』
………夢での僕の出す声?どこから?
『た…………す……………け………て……………』
………っ、どこ!?どこにいるの!?いるんだったら答えてよ!!
『お………ね………………が………………だ……………れ……………か……………』
だから………だからっ!!
「君はどこにいるんだよっ!!」
目が覚めた………いつもにまして、怖い夢だった。
僕が………人形?
右手を視界に写して握ったり開いたりする。すると………
自分の右腕が、一瞬、赤黒い何かに見えた。
「っ!!………っ、なんなんだ今のは?」
『さて、と………ほらほらー人形ちゃーん?いつも通りのお仕事よー?』
っ!この声はあの夢の中で暗闇からした声!?何処か………ら?
『今回のターゲットはねー!大富豪のエグネルよ♪』
視界に、ノイズみたいなものが写りはじめている。自分の部屋の光景に、まるで別の光景が乗っかっている様にな光景が見える。いや、正確には右目だけ変な光景が写っている。左目の視界は正常だ。
右目の視界は赤いノイズの様な物でほとんど埋め尽くされて見えないが、その中で唯一鮮明に写って見えるものがあった。それは、人の顔だ。
「嘘………だよね?」
『一週間以内に殺したならオッケー!頑張りなさぁい♪』
「ねぇ………嘘なんだよね!?」
その視界に写っている人に僕は問いかける。その人は、黒い髪に整った輪郭、そして青い目。
その人は………
「嘘だと言ってよ!永琳さん!!」
視界に写っているのは、、狂っているとしか表せない様な表情をしている、僕の、義理の姉だった。
「うるさいわよ、さっきから………」
「っ!」
左目の視界に、永琳さんが写った。僕を起こしにきたのかな………
「珍しいわよ?私より遅く起きるなんて………怖い夢でも見たの?」
「う、うん………」
………ダメだ。さっきの光景が、頭から離れない………!
「晴?………?ちょっと、動かないで」
「ふえっ?うひゃぁっ!!」
右目が相変わらずノイズまみれで見えないから視界が狭い。
だから急に近付いてきた永琳さんに反応できなかった。
「あなた………右目、どうしたの?紅く染まってるわよ………」
「………えっ?………鏡持ってない?」
「手鏡ならあるわよ」
僕は永琳さんから手鏡を受け取って確認する。
………本当だ。右目が紅く染まってる………
「………ねえ、晴。最近何かおかしな事はなかった?」
「おかしな事?………」
僕は永琳さんに変な夢を見ることを話そうとして………止めた。
もしも、あの右目から見えたあの狂っているとしか言えない人が、永琳さん本人だったら。僕は、なんだか踏みとどまるべきところを越えてしまいそうだからだ。
あれは、夢なんかじゃない………どこかで僕はそんなことを考えていた。
「ごめん、特にないよ。ただ、右目だけが何も見えないんだ………」
「右目が………見えない?ふむ………とりあえずスキャンして調べてみましょうか。スキャン用の機材はうちには置いてないわ。私は今日も仕事だし、それが終わったらあなたの右目、研究所で調べましょう」
「う、うん………あれ?そういえば朝食はどうしたの?」
今の時間は午前10時。朝食をとるには遅い時間だ。僕が起きなかったから………永琳さん、食べてないよね………?
「失礼ね。私が作ったに決まってるじゃ………なんで泣くの?」
「よかった………ようやく家事の1つは出来るようになったんだ………」
「失礼ね!………『動かないで』」
永琳さんが、『動かないで』と、力を込めた様に発言した。それと同時に僕の体は、動かなくなる………
っ!しまった!永琳さんに身体を改造されたときに動きを止めれる様にされてたんだ………!
まさ、か………あの夢の………
「全く………少しは私をみくびらないでよ?………私が仕事に行くまで時間あるし、お仕置き、しよっか?関節技を覚えたから覚悟しなさい」
続きじゃなかった。でも………
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」
地獄だった。
数時間後
「………と、いうことがあったのですよ」
「ふーん。まっ、関節技を教えたのは私だけどそんなことに使ってるんだ、永琳って………」
お前のせいか、ぐーや。僕ら………まあ、ぐーやと僕はならんで通りを歩いていた。
ちなみにぐーやと呼ばれるのはもう諦めたそうです。
「というか………『緊急事態!助けて!』とか端末にメールを送ってきたから心配だったのに。行ってみれば『好きなブティックが急に一人何個とかのセールを始めて、それでたくさん買いたいから手伝え』という普通の内容じゃないかぐーや」
「それでも緊急事態とか言わないとあなた来ないでしょー?ほら、お詫びに昼食おごったじゃない。これで勘弁、ね?」
可愛くウィンクされても。というかどうやって僕のメアド知ったのさ。
「そんなのハッキングでちょちょいのちょいよ………あっ」
「それ犯罪じゃないのかなぁ?というかプライバシーの侵害だよねぇ………?」
静かに僕は怒りを燃やす。その怒りの矛先は誰でもない、ぐーやに向けていた。
「え、ちょっ、ごめん!何か1つ言うこと聞いてあげるから!後私がハッキングしても罪には問われないです」
なんで?
「私の後ろには永琳がいるからよっぽどの秘密を覗かない限りは問題ないの。それにこの技術で犯罪の検挙にも協力してるから、ある程度はお咎め無しなのよ」
「ふーん………あ、何か1つ言うこと聞いてあげるって言わなかった?」
「え?言ったけど。内容によっては断るからね?後、明日の昼食を作ってくれたらいいわよ」
なんか地味にケチだなぁ………
でも、何でもか………あの夢について相談してもいいかもしれない。永琳には内緒………にしてくれるかはわからないけど。
なら………ある程度話そう。
「じゃあさ、1つ質問してもいい?あっ、話の内容少し馬鹿らしいかもしれないから永琳には内緒でね?」
「へぇ………いいじゃない、秘密の相談ってわけ?お姉さんに話してみなさい?」
「なんでぐーやがお姉さんなのさ」
「私一応あなたより年上なのよ?今は30歳くらい」
………えっ?………あっ、そうか!この世界の人間って僕の世界の人間よりも長生きするんだった……!
30歳でも………まあ、不思議じゃないか。
「まあ、ぐーや=お姉さん説は却下するとして。本題に入るけど………ドッペルゲンガーって、いると思う?」
僕は、あの夢での永琳さんが偽物………つまり、ドッペルゲンガーではないのかと思っていた。SFみたいに、あれはクローンだったりするのかもしれないから。
でもあれが本人だったなら………僕は、どうすればいいんだろうか。
「えー?恋愛話かと思ってたのに………つまらないわねー。というか、どうしてそんな話をするのよ?」
「えっと………前世で見た人にこの世界で見た人ですごい似ている人がいたから、もしかするとドッペルゲンガーかな?って思ったんだ」
もちろん、これは嘘だ………あれ?
そこまで考えたところで、僕の頭の中に一つの光景が、浮かび上がって来た。
昔、前世で公園を散歩していたときに見かけたゲートボールをしている人達の光景だ。
そこには、衣服が違っていたけど、ヴィータさんがいた………
………あれ?何で忘れてたんだ、僕。
というか、それなら嘘じゃないじゃん。本当のことだ………
まあ、今は後回しだ。
「ふーん………まあ、多分だけどドッペルゲンガーの前にあなたの言ったその質問の理由について私の考えを言わせてもらうわね。その二人、前世で会った人物とこの世界で会った人物は多分『平行世界』上での同一人物じゃないかしら?」
………『平行世界』?
「ああ、知らないわよね?『平行世界』っていうのは簡単な話、私達のいる世界に限りなく近い別の世界の事よ」
「限りなく近い………別の世界?ということはどこかがこの世界とは違うっていうこと?」
「そう。少し違うだけなら私の髪の毛が一本多いだけとか、大きく違ってたら人間がみんな獣だったりとか色々違ってる。ただ『平行世界』 は理論の域を出てない話だけどね。ここからの話は『平行世界がある』と仮定した話なんだけど、晴の前世の世界が、私のいる世界より『文明が遅れてるだけ』の平行世界だと考えれば………そこに同じ人物がいても不思議じゃないんじゃないかしら?」
「なるほど、ね………じゃあ、結局ドッペルゲンガーはいるのかな?」
「私は平行世界があるとするならいると思ってるわ。私の予想なんだけど、ドッペルゲンガーって、『平行世界から追い出された自分』じゃないかって思ってるわ」
平行世界から追い出された………自分?
「そう。人間は死んだりしたらその世界から消えるようなものでしょ?だけど、その世界から消えたのは世界から追い出されただけで平行世界に行ったとしたら、その平行世界にも自分がいるかもしれないでしょ?」
「確かにいるかもしれないね」
「そう。だから平行世界の自分を消して、その世界の住民になりすまそうとする………それがドッペルゲンガーじゃないかしら?」
………なるほど。大体わかった。
「ぐーやは中2病だね」
「なんでよっ!?」
だってよくわからない。複雑すぎるよ。そこまで考えてたら中2病としか思えないし。
「くっ、言ってくれるわね………いいわ、今度わかりやすくして説明してやるわ!じゃあね!」
「うん、またね、ぐーや」
僕は走り出したぐーやを見送った………あ、お金渡してないや。
また今度でいいかな………
「ニャー」
………ん、足元に猫?いつの間に………
「………スンスン………ぷいっ」
猫は僕の匂いを嗅ぐとそっぽを向けて路地裏の方に行った………
というかなんでそっぽをむいたんだろう………腹が立ってきた。捕まえてやる!
そう思って追いかけたのが………僕の運命を変えた。
子猫を追いかける途中何回か見失ったけど、勘でなんとか追いついていた。
だけど………
「………完全に見失った………」
もう限界かな?………気を落とした僕は家に帰ろうと振り向いた瞬間、何かにぶつかった。
「うわっ!す、すいませ………」
絶句した。僕がぶつかったのは血の気のない、人形のような少女で、肩にはあの子猫がいた。黒いローブで隠れていて少ししか見えないけど、少女の四肢は赤黒い金属で覆われているように見えた。
その少女の顔は………
「ぼ、僕………?」
髪型こそ違うけど、僕の顔にそっくりだった。
あの平行世界の話は一応オリジナルです。なんか被ったりしてたらすいません。