IS<インフィニット・ストラトス>―Deus Ex Machina   作:ネコッテ

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第100話 楯無、代表やめるってよ

 レヴィアタン撃破から翌日。私は<レヴィアタン>の回収に駆り出されていた。

 他の生徒たちは自室待機が命じられていたけど、人手不足だということで、だ。

 

「ご苦労さま」

 

 一通り、作業を終えた私が、野外テントで休憩を取っているとロリーナがやってきた。

 頭には「安全第一」のヘルメット。手にはタブレット端末。

 学園の被害状況を確認していたのだろう。「被害は?」と私はたずねた。

 

「酷いものよ。第7アリーナは壊滅。施設被害が100カ所以上。そのうち30以上は利用不可能な状態よ。復旧には時間がかかりそうね。しばらく授業は再開できそうにないわ」

「あんな大きいものが暴れまわったんですものね。で、カリキュラムの遅延はどうするんです?」

 

 生徒には「学校が休みになってハッピー」なんて思う者もいるかもしれない。だが、学園側としては必要な知識や技術を習得させられないまま、卒業させるわけにはいかない。

 

「そのことだけど、ロキから提案があったわ。IS企業が生徒たちの面倒を見てくれるそうよ」

 

 <亡国機業(ファントムタスク)>は、多国籍企業複合体。IS企業の最大手と言われる<ナイトソード>、<ワルキューレ・ウェポン>、<ジョゼスターフ>、<ヴェーラ・アスカロノフ>、<上海飛甲装工業公司>を傘下に置いている。その<亡国機業(ファントムタスク)>を牛耳るロキならできないことじゃなかった。

 

「もともとは襲撃事件に対する補償だったのだけどね。復旧作業の間、生徒たちにはIS企業ないし機関で働いてもらって、ISの世界をその目で見てもらおうと思うの」

就労体験(インターシップ)ってやつですか」

 

 座学に関しては自宅学習やEラーニングという形で補修できる。だが、実習となれば実機や施設が必要になる。なにより、“百聞は一見にしかず”というし、自分たちが卒業後どういう場所で働くのか、経験するいい機会になる。

 

「じゃあ、その間は休校ですか」

「ええ、安全面を考慮して、生徒たちには一時帰宅の命令が下されるわ」

 

 「そうですか」と言って私は、決闘が終わってから考えていたことを口にした。

 

「よければ、私もしばらく休みをもらっていいですか」

 

 今回の事件を経て、思うところがあった私はそう申し出た。

 私はずっと母親の願いを叶えるために戦ってきた。でも、それは母の望みじゃないだろうと姉は言った。母の望みはあなたの幸せ、だと。なら、私の幸せとは何か。一度、ゆっくりと考えようと思っていた。

 私の申し出にロリーナは「わかったわ」と朗らかに微笑む。

 

「すみません、忙しいときに、こんなことを言って」

 

 この時期に戦線を離脱してよいものか。やはり身勝手すぎるか。

 いまさら恐縮する私の髪を、ロリーナが撫でる。

 

「あら、私たち大人を見くびらないで。<デウス・エクス・マキナ>はあなたが抜けた程度で揺らいでしまうような脆弱な組織でもなければ、そんな弱い大人たちの集まりでもないわ」

 

 私は自分の思い上がりを恥じた。

 

「あなたは本当に戦い通しだった。この機会に一度ゆっくり休んでいらっしゃい。なんなら、そのまま戻ってこなくても大丈夫よ」

 

 邪険にされているわけじゃなく、思いやりの言葉であることは、すぐにわかった。

 <リデル>は代用が利かない要員につけられるコードネーム。私も自分の重要性を承知している。そんな私が他にやりたいことを見つけたとしても、心残りなく組織を去れるように背中を押してくれているのだ。

 うれしかった。

 けど、自分の幸せを見つけられたとしても、完全にココから去れるだろうか、とも思う。

 <デウス・エクス・マキナ>は母の願いを叶えるための場所でもあり、同時に贖罪の場所でもあったから。そう、親友殺しの罪を償うための。母の願いを姉に託せたけど、償いは誰かに託せない。私がやらなければならない。

 

(私はいつになったら、普通に戻れるんでしょかね)

 

 私が人知れず苦笑いをこぼすと、ロリーナが心配そう様子を伺ってきた。

 

「どうしたの?」

 

 私は慌てて「いえ」と首を左右に振った。

 

「じゃあしばらく、ゆっくりさせてもらいます」

 

 

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 専用機<レヴィアタン>の撃破後、その残骸から救出されたフォルテ・サファイアは、ここ医療区画に搬入された。その1004号室。専用機の暴走により意識を失っていたフォルテ・サファイアは目を覚ました。

 

「よ、目が覚めたか」

 

 いまだにはっきりしない意識と記憶のまま、病室内を見渡すと、知った顔を見つけた。

 金色の髪を後頭部で結んだ勝気そうな娘――ダリル・ケイシーだ。その彼女の声を聞き混濁していた記憶が鮮明に蘇った。

 

「どうしてッスか……」

 

 衰弱したようなか細い声でファルテは恋人に言った。

 裏切りの理由(わけ)を問われたダリル・ケーシーは悪びれた様子もなく答えた。

 

「ソフィア風に言えば、あたしは裏切ってなんかいない、欺いただけさ。あたしはレイン・ミューゼル。ロキに命じられて、<リリス>に潜入していた亡国機業のスパイってやつさ」

「じゃあ、最初からッスか」

「ああ、誰かに諭されたり、心変わりしたわけじゃねーよ。おまえへ近づいたのは<リリス>に潜入するためだ」

 

 自分を利用するために恋人のふりをしていた。既に分かっていたはずなのに、改めて彼女の口から聴くと堪えた。本当に彼女が、ダリルが、好きだったのだ。

 

「で、どうするよ」

 

 傷心で俯いていたフォルテは、ダリルの顔を見た。

 いまだ記憶が混濁していた彼女は自分が置かれている立場をよく理解できていなかった。

 

「<レヴィアタン>は破壊した。おまえが<リリス>の構成員だってことは、仲間のみんなが知ってる。いまのおまえはいわゆる“捕虜”ってやつさ。今まで通りの生活はもう送れない」

「送れないなら、なんで『どうする』なんて訊くんスか?」

「ここの連中は人がいい連中ばかりだ。おまえの返答次第では、待遇を考えてやるってよ。金輪際、<リリス>に加担しないってんなら、今までどおり生活を送っていいそうだ。ただし、監視付きではあるけどな。逆に従えないってんなら、禁固も辞さない構えだ」

「それは<お母さま>を裏切れってことスか!?」

 

 悲鳴に似た声音でフォルテは言った。

 かつて父親から虐待を受け、逃げ出した自分を拾ってくれた人が<お母さま>だった。

 構成員がリリスを<お母さま>と呼ぶのは、人類がたった一人の女性――リリスの胎から生まれたことに由来する。だが、フォルテにとって<お母さま>は尊大な意味での“母”ではなく、身近な女性としての“母”だった。与えてもらえなかった愛情をくれたそんな人物を裏切れなんて。

 

「できないっすよ、そんな、お母様を悲しませるようなこと」

「いいや、存外そんなことはないサ」

 

 そんな声がしてフォルテは隣のベッドを見やる。

 ガラッと開いたカーテンの先にいた人物は、隻眼隻手の女性アリーシャだった。

 

「なんで、アリーシャがここにいるんスか」

「おまえさんと一緒。戦いに敗れたのさ。――で、相手側の条件を呑んだ」

 

 条件。<リリス>に加担しないかわりに、自由を得たのか。

 

「お母様を裏切ったんスか!?」

「そうなるかもねぇ。でも、悩んで、考えて、決めたのなら、あの人は怒らないサ」

「逆に立場ある大人の裏切りには厳しいけどね」

 

 と、アリーシャがうしろにいた、もう一人の女性が言った。

 ブルネットの気品ある佇まい。<リリス>創立の一家、その末裔にして幹部のロゼンダだった。

 

「立場ある大人の裏切りは悪意に満ちている。裏切りっていうのは、欲や力ほしさで仲間に盾突くこと。嫉妬に狂い、力欲しさに<ヴェルフェゴール>を奪った私のような人間を裏切り者っていうのよ。――でも、好きな人と添い遂げたいがために組織を抜けるなら、それはきっと裏切りとはいわないわ」

 

 自分の気持ちを見透かしたようなロゼンダの言葉に、フォルテは頬を赤めた。

 その心地よい熱が「自分がどうしたいか」教えてくれる。自分はダリルと一緒にいたい。

 

「『血は争えない』ッスね」

 

 唐突にそんなことを言ったフォルテに、ダリルは「どういう意味だ」と首をかしげた。

 

「私にも母親はいたッス。その母は父に逆らえない人だったッス」

 

 だから、父親に命じられるがまま母はフォルテに暴力をふるいつづけた。

 「ごめんなさい。ごめんなさい」と謝りながら。

 

「幼かったころは判らなかったけれど、いまならわかるッス。母は父を愛していた。愛していたから、父に逆らえなかった」

 

 好きな人のためなら、何もかも捧げられる。

 何もかも捨てられる。

 命もかけられる。

 どこかの物語で、だれかがそう言った。

 フォルテもそう思う。

 何もかも捧げられて、何もかも捨てられて、命もかけられるなら、

 

 ――その人は我が子も捨てられるのだろうと。

 

 愛は人を勇敢にするが、愚かにもする。母の父への愛は、彼女を愚か者にした。

 そして、いま自分は母と同じ愚かなおろかな選択をしようとしている。

 恩人に背を向け、好きな人と添い遂げるという、選択を。

 

「いいや、愚かだなんて、そんなことはねえよ。それをあたしが証明してやる。おまえを幸せにして、ばばあになっても胸を張っていられるような人生にしてやる。おまえをその気にさせた責任と、――この恋心にかけて」

 

 ダリルはフォルテの手を取った。一度は自分を利用した女性の言葉なのに、どうしようもなく、その言葉が嬉しかった。騙されてもいいとさえ思えるほどに。

 

「わかったっす。だから、もう燃やそうとしないでくださいッスすね?」

「そいつは無理だ。あたしは燃え上がるような恋がしたい」

 

 そういって、フォルテを抱き寄せる。

 見せつけられた、大人二人はやれやれという顔を互いに見せ合った。

 

「ほんと、愛っていうのは厄介な感情サね」

 

 裏切られて、燃やされかけて、それでも二人は許鞘に戻ってしまった。

 こちらの事情なんてお構いなしに突き動かそうとする愛というパワーに、恐ろしさと頼もしさをアリーシャは二人を見て感じた。

 

「そうね。愛は権力にまさる。だからこそ、愛する相手を見誤らないようにしないといけない」

「ダメな男にひっかかると女は不幸になるというのは、たぶんその通りなんだろうねぇ」

「そう、恋に生きた女の物語が、悲劇になるか喜劇になるか、そのカギを握っているのは相手よ。アーリィも男選びには注意なさいね」

「その心配なら無用さ。坊やならきっと私を幸せにしてくれるさ」

 

 アリーシャは無き腕を見る。そこにあった幻肢痛はもうない。彼が自分を縛っていた呪いから、解き放ってくれたから。数多の男が消せなかった痛みを彼は取り除いた。その彼なら、今はすべてを捧げてもいいと思えている。

 彼女もまたフォルテと同じ“愛”に翻弄される愚かな女性の一人だった。

 

「そう。でも、坊やって?」

「私の旦那候補は10以上も年下なのさ」

 

 ロゼンダは驚いたように目を開いた。10以上も下ということは未成年。

 

「は、犯罪だわ」

「おや、おまえさんは言ったさ。愛は権力に優るって。なら法だって越えられるさ」

 

 あははは、と全く歳の差を気にしていないアリーシャにロゼンダは唖然とする。

 そして一人「やっぱり愛って罪だわぁ」とぼやいた。

 

 

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 IS学園生徒会室。その応接机に置かれたガスコンロの上では、鍋がコトコトと火にかけられていた。温められたボルシチを囲むのは、楯無と簪、そしてソフィアの三人だ。ソフィアはよそったボルシチにサワークリームを乗っけると、更識姉妹にそれを振る舞った。

 

「……ホフホフ、おいしい、ね。おねえちゃん」

「うん、おいしいわね、簪ちゃん」

 

 簪がほっこりした笑顔を見せると、楯無もにこやかに微笑んだ。

 確かにボルシチはおいしかったけれど、昔のような姉妹に戻れたことが楯無をいっそう笑顔にしていた。簪も抱えていた胸の内をさらけ出したことで、どこか清々しい様子だ。その二人に今までのような確執は感じられない。

 これも背中を押してくれたアリスのおかげだと簪は思う。彼女が背中を押してくれなければ、いまもきっとウジウジしていた。そして影ながら協力してくれていたソフィアにも感謝は尽きない。

 

「そうそう、あなたたちって知り合いだったの?」

「……うん。でも、直接会うのは今日が初めて。……ソフィアさんとはSNSで知り合ったの。……そこでロシア代表だったソフィアさんに“お姉ちゃんの力になってほしい”ってお願いして」

「なるほど、そういうことだったのね。たぶん、あなたの方が“楯無”に向いてるんじゃない?」

「そそそ、そんなことないよッ。わたしなんて、機械いじりぐらいしか取り柄がないし……」

「むしろ、それがいいの。あなたは自分に何ができて、何ができないのか、知っている。だから、他に頼むことができる。自分の弱さを知り、受け入れ、頼ること。それが“楯無”にとって大事なのよ」

 

 更識の強みは「ひとたらし」。弱みは家族運営ゆえに規模が小さいこと。更識は自分の強みを活かし、弱みを補うことで、生き残ってきた組織だ。楯無に必要な素養はアウトソースに長けていること。

 

「でも、私は自分の才能に託けて一人で何でもしようとしてきた。一人で全部背負いこむ人間は、組織の長に向いていない。でも、あなたは違う。あなたは自分にできないことを、他にアウトソースできる。あなたには楯無の素質があると思うの。――どう、やってみる?」

 

 つまり、自分に代わって家長を継いでみるか、と。

 簪は千切れんばかりに首を横に振り回した。素質を認められたとはいえ、荷が重すぎる。

 

「……む、無理だから……。わ、わたしだって、最初は全部一人でやっていたんだよ。……それにアウトソースっていっても、相手は“システム”だし、お姉ちゃんみたいな人を惹きつける魅力もないから」

 

 姉は妹の反応を予想していたように「ふふふ」と笑った。

 

「そうね、あなたは人見知りなところをすこし直した方がいいかもしれないわね。――じゃあ、もうすこしがんばってみるわ。で、にしてもよ、ソフィア。あなた、よく簪ちゃんの依頼を引き受けたわね」

 

 ソフィアには、簪の依頼を聞くメリットがない。

 ソフィアは「ん?」と簪がもってきたパンケーキから口を離した。

 

これ(パン)のためさ」

 

 楯無は猫みたいな目で、嫌疑のまなざしを向けた。

 ソフィアは肩をすくめてから、真剣な表情で更識姉妹を見直す。

 

「というのはウソで、オレが依頼を受けたのは、更識とコネクションを気づくためだ」

 

 足許に置いてあったジェラルミンケースを取出し、テーブルの上で開いた。

 紙の資料に、いくつかのメディア機器。楯無が速読で目を通していく。そして内容を理解し、驚きの眼差しでソフィアを見る。

 

「こいつは“ロシアの恥部”さ」

 

 姉ほど語学が堪能じゃない簪は姉に「何が書いてあるの?」と訊いた。

 

「1999年のモスクワで起こった爆破テロ。これがロシア政府の自作自演だったことに関する内容よ。もしかして、これ全部、ロシア政府がもみ消してきた事件に関する資料なの?」

「ああそうだ。全部裏を取ってある」

「ならとんでもない機密文章じゃない。なんでこんな重要なものを私たちに?」

「ありふれた内容で恐縮だが、復讐のためさ。――年間13人。失踪や変死しているジャーナリストの数だ。なぜ“そうなったか”は、もう語る必要もないだろう。実はオレの母さんもジャーナリストだった。母さんはそこにあるモスクワ爆弾テロがチェチェン侵攻のお題目作りだったことを掴み、公表しようとした」

「それで消された……」

「ああ。強姦殺人に見立てた、な。オレは自分の母親が嬲られ、殺される現場を目撃した。以来さ。オレはセックスで何も感じなくなった」

 

 彼女は心因性の不感症を患っている。

 ロシアの行った隠ぺい工作が、その原因となるトラウマを彼女に植え付けた。

 

「その復讐もここで完結する」

 

 ソフィアはケースを閉じ、楯無へ滑らす。

 

「でも、そうすれば、あなたは祖国を売ることに……」

「そうだな。オレは売国奴になる。だが、それでいい。――楯無、東洋には忠を尽くすという言葉があるだろ。オレはオレに忠を尽くすんだ。そして、これからは仲間のために忠を尽くす」

 

 ソフィアには迷いなく楯無を見つめた。楯無しはその覚悟を受け取った。

 

「そう、わかった。じゃあ、これ、譲り受けるわ」

 

 そして成果として、日本政府に差し出す。

 そうすれば、日本政府からお墨付きがもらえる。更識は次代まで安泰だろう。

 

「となると、もう私がロシアに潜伏する必要性はなくなっちゃうのよね」

 

 更識が自由国籍でロシア国籍を習得していたのも、ロシア代表を務めていたのも、すべては日本政府に忠誠を誓う任務の一環だった。その任務が完了したなら、もう彼女がロシア代表を続ける意味はない。

 

「代表をやめるのか?」

「そうなるかしら。もともと、代表、家長、生徒会長の三足わらじは大変だったし。でも、今回<リリス>って組織の力を目の当たりにして、専用機(ちから)は必要だと思う」

「だが、代表をやめたら、スポンサー契約も打ち切りになる。ミステリアス・レイディはもう使えないぞ」

 

 <ミステリアス・レイディ>はロシアのIS企業<ヴェーラ社>が有する機体。この企業とスポンサー契約を結んでいたから彼女は<ミステリアス・レイディ>を受領できた。代表をやめれば返却しなければならない。

 

「そこでよ、簪ちゃん」楯無は妹へ向き直り「あなたに私の新しい専用機を開発してほしいの」

 

 簪は目を見開く。

 

「……わたしが、お姉ちゃんの専用機を?」

「そう、あなたの技術を見込んでよ。ダメかしら?」

 

 簪の表情が花開く。それは簪がずっと待ち望んでいた言葉だった。姉に認められたくでずっと努力してきた。それがいまようやく実を結んだのだ。簪は立ち上がらずにはいられなかった。

 

「……わたしでよかったら、やらせてほしい!」

「じゃあ、お願いするわ。資金はこちらでなんとかするから。人材はあなたに任せるわ」

「……あ、でもコアはどうするの」

 

 「それなら大丈夫」と楯無は<ミステリアス・レイディ>のストレージからコアを取り出した。

 かつてロシアの秘密都市で手に入れたコア。すなわち<ゴーレム(ナルヴィⅡ)>のコアだ。

 

「いいでしょ、ソフィア」

「ああ、好きにするといい。ロキもいまさら返せとは言わないよ」

「あいつのそういう女々っちくないところ助かるわ。じゃあ決まりね。これはあなたに渡しておくわ。さっそく取り掛かって。私はまず防衛相高官に報告をして、ロシア代表の後任を選別して、辞退を表明して……」

「……わたしも人を集めて、設計して」

「でもまずは」

「……うん、まずは」

 

 更識姉妹は顔を見合わせ、空いた皿をソフィアに差し出した。

 

『おかわり!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――IS学園、屋上

「あの姉妹、うまくいったようだよ」

「そうか、そうか。刀菜ちゃんもようやく簪ちゃんの気持ちに気づけたんやね~」

「妹に専用機を開発してもらうんだとさ。簪もずいぶんと意気込んでるよ」

「ソフィアはんには礼をいわんとなぁ。簪ちゃんのお願い聞いてくれておおきにな」

「あなたとそういう契約だったからな。それに、オレもこうして復讐を果たせたし、あなたとのコネも手に入れられた。<黒鼠>の筆頭であるあなたと」

「あらまぁ~、よう知っとるね」

「狼は鼻が利くのさ。あなたからオレと同じ匂いがしたんで、調べさせてもらったよ」

「隅に置けへんなぁ。ま、似た者同士、仲良くやりましょや。何かあったらうちおいで。匿ったるさかい」

「じゃあ、前金を払っておこう。渡した<ロシアの恥部>を手に入れたがっている奴がいる」

「ほぉ、誰や」

 

「ルーゼンブルク王国、第七王女・アイリス・トワイライト・ルーゼンブルク」

 

 




次章は9月中旬ぐらい。
では、ここまで読んで下さってありがとうございました。

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