TS転生だとしても、絶対に諦めない。   作:聖@ひじりん

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指摘があったので、4話を4月4日に修正しました。 直に前書きを消します。


7話『新しい出会い』

 故郷での生活は、実に早く終わりを迎えた。

 

 初日に帰って来た時にやりたい事をまとめ、一週間で消化しようと考えていたのにも関わらず、3日で終了。一応、ギリギリまで滞在したけど、もっぱら友達にセクハラしていた。

 

 メンチとの約束と、その子たちとは肉体関係がないので本当に軽いセクハラまでだったけど、中々楽しかった。

 

 そして、帰郷を終えて天空闘技場に到着。荷物の整理でピンクのリュックサック変わった鞄を背負いながら、2222号室の自室に戻って来た。

 

 ちなみに、服装は相変わらず白のミニワンピース。クローゼットを開けたら、全てこれに変わっていた。間違いなく母の仕業。

 

 で、何となく統一させようと手持ちだったロング丈は家に置いてきて、全てミニになっている。

 

 ……まあ、この世界にはちょっと特殊なルールが存在する。

 

 それは、人間の服装への意識だ。

 

 これは恐らく、指定した世界が二次元である事から出来たルールだけど、全員、あんまり服装が変わらない。

 

 確かに、ファッション雑誌は存在するし、絶対に変わらない訳でもない。

 

 ただ、やっぱり同じに感じる。

 

 一度気になって、その理由を母や色々な人に聞き、返って来たのはほとんど同じ答えで──『同じ服をまとめ買いするのが普通でしょ?』 との事。

 

 それを聞いて、ネットで色々と情報を調べても、やっぱり同じ様な意見のみ。

 

 元の世界だと考えられないけど、同じ服でいいならそれはそれで楽だと思った。それに、変えてもいいと思ってる人は服装を変える事もあるらしい。

 

 この事について初めはかなり考えたけど、それがこの世界のルールと考えたら納得がいったのでそれ以上は考えていない。

 

 実際、無意識の内に同じ物をセットで買う事があったし。

 

「さてと、試合まで残り30分ね」 

 

 リュックを置いて、仰向けでベッドに寝転び、目を閉じる。

 

 対戦者は特に調べてない。念での戦いは少し久し振りになるけど、ここのレベルで負ける気がしない。

 

 念を覚えたてのゴンやキルアが余裕で倒せるレベルが……誰か忘れたけど独楽とか能面とかだと考えると、天空闘技場の念使いは大した事がないはず。

 

 フロアマスターも恐らくその程度のレベルなんじゃないかと推測している。

 

 もしかしたら本物が混じってるかも知れないけど、そもそも本物はここで戦う事はないと思う。

 

 戦闘狂なら来る可能性はあっても、ここのレベルを見ると興が覚めて帰るだろうし。ヒソカはヒソカで、戦いに来たというより、品定めの為に来ているんだと思う。 

 

 ぶっちゃけ、私が天空闘技場に来た理由はあっても、200階クラスで戦う意味はない。

 

 一応250階の人に挑んで、何となく所持権を獲得しようと考えているけど、要らないと言えば要らない。

 

 私の実力がどれだけあるのかは理解しているし、能力の強さも原作中で最強じゃないかと思う。

 

 自分でハーレムを形成し守る。その為に強さを欲した前の私が必死になって最強の能力を考え、女神の手によって最高の体とセンスを貰った。

 

 それをしっかりと鍛え、自分の物にして、数々の修羅場を余裕で回避して来た私は、普通に王様にも届くはずだ。

 

 だからと言ってそれを悪用する事も理由もないんだけど。

 

「……とりあえず、向かいましょうか」

 

 考えていたら、時間がそこそこ経過していたので、222階に向かい控室で待機する。

 

「リナ選手、そろそろ時間です。控室を出て左の通路を真っ直ぐ進んで下さい」

 

「ん、了解」

 

 係員に呼ばれて、指示の通り通路を進む。薄暗い通路に入った所で、奥から光が差し込む。恐らく、ゲートが開き始めた。

 

 なるほど、こんな感じなのね。ちょっとした裏側を知れて嬉しいわ。

 感動をしっかりと味わいながら通路を抜けると、視界に飛び込んできたのは大きめのリングと、その奥に見える相手側のゲート。

 

『先に現れたのはリナ選手!! 一階で見せた超能力により、残りの試合全て、ここまで不戦勝にて登って来た神の僕!! 今日はその力の本当の姿を見る事が出来るのか!!』

 

 観客の大きな声と胡散臭い解説が響く中、反対側のゲートが開き対戦相手が現れた。

 

 ……あれって独楽の人じゃないかしら。

 

 その相手は、どこか見覚えがあった。

 

『そんなリナ選手の相手はギド選手!! 4戦して3勝1敗とまずまずの戦績です!!』

 

 そう言えば、コイツを含めてあの三人って初心者狩りがメインだったわね。

 

 リングに上がって、思い出した。

 

「ここまでは、お嬢ちゃんも分かっている通り、一般人の戦い。だがここからは念での戦い……女だからと言って手加減はしな──」

 

「審判さん、早く始めて下さい。時間が惜しいです」

 

 どうでもいいので、話はスルーに限る。

 

 長々と聞いてもいいけど、勝敗が決まっているなら早く終わる事に越した事はない。

 

「ポイント&KO戦!! 時間無制限!! 一本勝負!! 始め!!」

 

 審判が開始の合図を切った。

 

「調子に乗ってると痛い目に会う事を教えてやろう!! 戦闘円舞曲(戦いのワルツ)!!」

 

 ギドが杖を横にし、その上に独楽を10個出したかと思うと、その独楽を地面に設置した。すると、独楽がそこそこの速度で私の周りを囲みに来る。

 

 そして、ガキィィィン──っと甲高い音を響かせ、私の背後でぶつかった独楽の片方が私目掛けて飛んで来る。

 

「……ま、こんなものよね」

 

 私は、平然と受け止めた。

 

「な、何!?」

 

『なな、なんと!! リナ選手はごく普通にギド選手の独楽を受け止めたぁぁぁ!!』

 

 本来、驚かれる事でもないと思うのだけれど……やっぱり、この程度のレベルね。

 

「だ、だがその程度で勝ったと思うなよ!! 全独楽発射!!」

 

 私の余裕に怒ったのか、ギドは開始そうそうだと言うのに全ての独楽を出してきた。

 

「な、何故だ!! 何故当たらない!!」

 

 回避しながら念を纏う物体の数を感じ取ると、独楽の個数が55個。恐らくこれがギドの最大かつ限界なんでしょうね。

 

 ただ、これだけの数をあの服の中に隠し持っていたとなると、かなりミステリアスね。始めの独楽の出し方もそうだけど、間違いなくマジシャンとか曲芸師? になった方が儲かると思う。

 

 独楽を簡単に操れるんだし、わりと人気が出るんじゃないかしら。

 

 戦って名誉や富を得たいのはここに来た頃からの夢なんでしょうけど、残念ながらそれが叶う事は永遠にないでしょうし。

 

 まあ、この事を伝える理由もないし、もう終わりにしましょうか。

 

 飛んで来る独楽全てを、手刀で叩き落とす。

 

 初期ゴンの"練"ですらノーダメージに終わった威力。特に能力は必要ないし、"練"だけで普通に無傷で全て叩き落とせる。

 

 もっとも、独楽自体の耐久度もそんなに無いみたいで、少し力んで落すと、手が触れた時点で砕けてしまうけど。

 

 ……あ、キルアのヨーヨーみたいな特殊合金で作ったら威力が上がりそうね。

 

「で、まだ続けるかしら?」

 

 リング上に残った独楽が一つになったので、一応聞いておく。

 

「……俺の負けだ」

 

「勝者、リナ選手!!」

 

 観客や解説が盛り上がる中、私はただ無言で自室に戻った。

 

 そして、帰って来た時の様にベッドに寝転んで、さっきの試合を思い出す。

 

 ……全然、面白く無かった。 

 

 私の心を満たしていたのは、虚無感だった。

 

 当然と言えば、当然の結果よね。

 

 蟻と巨像。天と地……もはや、それ以上の実力差がある相手と戦って勝利する。これに、何も面白さが無いのは誰にだって理解出来る。

 

 今回は私が上だったけど、もし逆の場合でもそう感じる。

 

 この試合で、ギドの士気が無くなっていないといい。悔しさで、もう一度私に挑むぐらいの気概があればいい。馬鹿で、偶然だと言い張って現実を認めなければいい。

 

 まあ、初心者狩りを専門としている彼なら、もう理解してるはずだし、こんな所で諦めはしないはず。

 

 これで戦いを辞めるなんて言い出して、ゴンの成長の妨げ? にならないといいけど……そうなったら、私が手伝いましょう。

 

「あーあ……9勝が遠いわね」

 

 主に、私のモチベーション的な意味だ。

 

 分かってはいた事だけど、残り9勝するまでこんな一方的な試合……だけにならない事を祈るけど、多分一方的よね。

 

 カス……何とかが、いたはずだけど、彼も彼で弱いし。ヒソカが遊んでなければ、どうせ瞬殺のレベル。

 

 とりあえず、フロアマスターが強い事を祈りながら戦いを続けましょうか。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 第二戦。2月10日。相手は能面の男だった。

 

 見えない左手とか言われていても、それが見えないのはあくまで一般人だけで……大きくなったり、伸びたりしたけどオーラを纏った私の拳一発で打ち勝ち、相手の降参により勝利。

 

 第三戦。2月12日。流れ通りで車椅子の男。

  

 相手は私の強さを警戒してか、始めから鞭を持ち、なんたらかんたらで鞭を振りながら私に迫って来た。

 

 ただ、警戒しながらも電撃を仕込んである鞭を過信してか、顔にどこか余裕を持っていた。

 

 私は電撃に耐性があり効かないので、キルアと同様の方法で勝とうか考え、情報が漏れるのもアレだったので、鞭を適当に弾いて相手の真正面に移動。

 

 相手が気づいた頃には、鞭を取り上げ場外に捨て、車椅子をこかして相手を転落させた状態に。そしてそのまま車椅子を取り上げて勝利。

 

 第四戦。2月15日。まさかのカスなんとか。

 

 戦うと思っておらず、一瞬だけ驚いたけど試合開始。

 

 ヒソカのリベンジにだけ燃えているのか、能力を見せようとして来なかったので少し挑発。

 

 女性だからと笑顔で受け流され少しイラついたので、私の最高速を持って相手の背後に回って首に強打する。

 

 そしてあっさりと勝利。どうやら、反応出来なかったらしい。

 

 第5戦。2月20日。両刃剣を持ったおっさん。

 

 試合が始まると──「俺の獲物は良く斬れるぜ」と言われたので──「だからどうしたの?」と返して、剣を奪って粉々に砕いて終了。

 

 どんな能力か少しだけ気になったけど、泣き崩れている姿を見てどうでもよくなったのでスルー。

 

 第6戦。2月22日。2m50㎝ぐらいのデカい大男。

 

 強化系の能力者で、地面を砕くなどそこそこのパワーを持っており、一瞬ウボーと重なったけどそこまでのスピードは持っておらず。

 

 触るのが嫌だったので、オーラを飛ばしたり、相手が砕いた元地面の石をぶつけて勝利。

 

 第7戦。2月25日。カストロリベンジ。名前覚えた。

 

 今回は能力を使ってくれたが、そもそも私の回避速度に追いつけず空振りばかり。

 

 確かにお互い近い状態で回避していれば、私でもダブルに当たってしまう。ただ、距離を取れば怖くない。

 

 カストロも能力がばれた事に気づきつつも、周りの観客などにばれてヒソカとの再戦時に情報が知られる事を恐れたのか、終始重なったまま攻撃をしてくる。

 

 それじゃ流石に余裕過ぎたので、回避と同時に後ろに回り、右でミドルキック。

 

 前回と違って反応出来たのかダブルでガードした様子だけど、元々それを込みでオーラを込めて蹴っていたので、本人もろとも巻き込んで場外の壁に叩きつけた。

 

 意識が無くなった様で、勝者はもちろん私だ。

 

 恐らくヒソカはカストロに対して始めから本気で行くつもりはなかった。カストロのダブルは"凝"で見る事で不自然なオーラの塊を確認できるから。

 

 本気なら、始めから"凝"を使ってカストロの動きを確認してから動いたはず。まあ、使っても使わなくても結果は同じなんでしょうけど。

 

 そして、2月26日。街に繰り出した私は、天空闘技場受付の列に並んでいるゴンとキルアに遭遇した。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「あら、2人もここに来たのね」

 

 自分で言ってて、なんて白々しい挨拶。そろそろかなと思ってたけど、まさか今日だったなんて。

 

「リナさん!! 久し振り!!」

 

「もう一度ぐらいは会う気がしてたけど、このタイミングかよ。てか、なんでゴンたちと一緒にいなかったんだよ?」

 

「絶対にキルアを取り返すって、ゴンたちを信じてたからよ」

 

 建前だと用事があるって事で行かなかった。

 

 本当の理由は、私がいたら未来が変わるかも知れないのが怖くて行かなかった……これを素直に伝えるのは問題でしょうし。

 

「嘘臭い」

 

「酷くない?」

 

 ある意味で嘘だから間違ってないけど、バッサリは酷い。

 

 自分の行いを考えてみても、キルアには特に何もしてないし……実力隠してる事で信用ないのかしら。

 

「リナの本気を見せてくれたら考えを改めるよ」

 

 やっぱり、そこだった。

 

「キルアが私に追いついたら考えるわ」

 

 でも、考えを改めて貰わなくていいので上から言っておく。

 

 視線がぶつかり、軽く火花が飛び散る。

 

 これで少しはやる気になってくれるといいけど、約一名。ゴンだけは全然気づいてないわね。

 

「はあ……分かった。今、どこら辺にいるんだよ?」

 

 そして不利を悟ったのか、キルアが先に折れた。

 

「200階」

 

 付け加えると、後3勝でクリアなんだけど、そこは黙っておく。

 

「おしっ!! 追いついてやるから覚悟しとけよ!!」

 

「なんか良く分からないけど、俺も追いつくよ!!」

 

「ええ、待ってるわ」

 

 手をひらひらと振りながら、その場を後にする。

 

 外に出た目的は息抜きだったけど、これだけでかなり楽になったわね。

 

 ……そう言えば、ヒソカも来てるはずよね。見かけたら声を掛けましょうか。

 

 いや、私が声を掛けられる方が早いかしら。

 

 試験中は接触なかったけど、それは恐らく私の実力を読んだから。試験内で戦って本気で命の削り合いになるのを避けたんだと思う。

 

 ヒソカは自分が負けると考えてないでしょうけど、それでも一応は天秤に掛けたんでしょう。

 

 試験で、もし死んで団長のクロロと対戦やゴン、キルアの成長を見る前に人生を終えるのか。勝って結果オーライになるのか。

 

 確かに殺人鬼で戦闘狂だけど、そういった計算は誰よりもしている。

 

 まあ、襲ってきたら返り討ちなのは間違いないわね。

 

「うーん……今日はどこに行こうかしら」

 

 天空闘技場があまりもぬるいので、ほとんど暇だけど暇な日は適当にご飯を食べ歩いている。何度かまずい物や、流石に食べれない物に当たったけどそれもいい思い出。

 

 それと、この辺りに良く顔を出していたり、知る人は天空闘技場の有名人という事もあり、かなりこの辺りに詳しくなった。

 

 今では知っている店の方が多く、飲食店に至っては行ってない店の方が少ない。

 

 もちろん、詳しいのは天空闘技場の周辺だけ。少し遠出するともうどこか分からないけど。

 

 一応、ウイングの自宅も知ってる。立ち寄る意味は無いので一回も訪ねてすらない。

 

「ん? こんな所に焼鳥屋があったのね」

 

 ぶらぶらしていると、少しややこしい道の先に焼鳥屋を発見。良い匂いなので間違いなく美味しいはず。今日のお昼ご飯……夕ご飯? はここで決定ね。

 

「いらっしゃい」

 

 店に入ると、中々厳つい店長がぶっきらぼうに挨拶してきた。

 

 頭に所々黒く汚れた白いタオル。トップスとボトムスはタンクトップとズボン。両方とも黒色で、腰の位置に黒いエプロン。

 

 絵に書いた様な屋台のおっさんだった。キャラの濃さでは、ノブナガといい勝負かもしれない。

 

 ……オーラが見えるので念使いなんだろうけど、気にする事でもないわね。

 

 開店して直ぐなのか、ただ普通に人か入ってないのかわからないけど、どうやら私だけの様だ。

 

「おすすめはあるかしら?」

 

「ふむ……アイツ以外に来たのが久々でな。おすすめなら全部という事になるが」

 

 後者のようね。

 

 確かに、ここってかなり分かりにくいし……地元民でも余裕で知らないんじゃないかしら。

 

 むしろ、店長の言ってたアイツって誰だかわからないけど、その人しか来てない様だしこれは確定ね。 

 

「メニュー次第ね……全部で何種類?」

 

「焼鳥なら8種類。米系が8種類。おつまみ系が8種類。その他が8種類だ」

 

 8って数字に、なんかこだわりでもあるのかしら。

 

 ……そういえば、店の名前は八夜(ヤヤ)だったわね。店長さんの名前かしら。ジャポン語なのと、店長さんの顔立ちがジャポン系だから納得は出来るし。

 

「それじゃ、全部頂くわ。順番は任せるわ」

 

「ほう……分かった」

 

 どれだけ食べても別に太りはしないので、カロリーなんて気にしないでいい。

 

 これで不味かったらお話しにならないけど、まあ大丈夫そう。

 

 幾度となく食べ歩き、もはや趣味になりそうなレベル。なおかつ、貰った才能のお陰で何となくで店のレベルが分かる様になっていた。

 

 ……きっと、無意識でメンチを意識していて、食に対して興味が湧いて来たのかも知れない。

 

 そして、ほどなくして一品目が出てきて、次々に腹に納めていく内に全てのメニューを食べ終わる。

 

「腹6分目って所かしら」

 

「アイツ以外にここまで食べる奴がいるなんてな……追加はあるかい?」

 

「焼鳥をもう1セット。聞いちゃ駄目ならごめんなさい。アイツって誰なのかしら?」

 

 店長の手が止まり、こちらを向いて視線が合う。

 

「娘だ」

 

 一瞬、聞いちゃいけなかったかと思った。

 

「歳は?」

 

「16だ。今年の12月で17になる」

 

 そう言いながら、手際良く焼鳥8本を焼き始める。

 

「へえ……同い年ね」

 

「嬢ちゃん、それで16か。家の娘にもその落ち着きが欲しい所だ」

 

「逆に苦労するわよ?」

 

 それにしても、同い年で活発系……少し会ってみたいわ。店長が念使いだし、娘も念使いの可能性もある。これは興味が湧くわね。

 

「アイツには少しどころか、黙ってる方が俺は楽だ」

 

 すっごい渋い顔……そんなにうるさいのね。

 

「機会があれば会ってみたいわ」

 

「今日は確か……天空闘技場に行ってるな。そろそろ飯を食いに来ると思うが」

 

 それなら、待っていようかしら。

 

 天空闘技場で女の子なんて……見た事ないと思ったけど、情報なんて仕入れてないし、そもそも知らないわね。

 

 店長の言葉を察するに、100階以上にはいるみたいだから、それなりなのかしら。

 

「なら、来るまでは居させてもらうわ」

 

「そうか……ほらよ」

 

「ん、ありがとう」

 

 全てが焼き終わった様で、グレーの長方形皿に乗せて目の前に置かれた。もも、皮、ささみ、つくね、ねぎま、ハツ、レバー、セセリの順だ。

 

 どれから食べようか考え、腕時計で一度時間を確認する。

 

 まだまだ、時間はあるわね。

 

 ゆっくり食べる事を決め、とりあえずレバーから食べる。

 

 味の方は追加を余裕で頼むほどのレベル。美食ハンターからすればどのぐらいのレベルかは分からないけど、私は胸を張って紹介できる。

 

 機会があればメンチとか誘ってみたいけど……メンチならこれ以上の物をいっぱい食べてるでしょうね。

 

「あ、聞きたかったんだけど……娘さんの実力ってどのくらい?」

 

「俺より強いな」

 

 即答って事は、店長が師匠なのかしら。

 

「念使いとして?」

 

「ああ」

 

 なるほど……店長自体の実力が分からないから推測は難しいけど、オーラから考えると独楽よりは絶対に強いわね。ただ纏ってる"纏"から、かなりの力強さを感じる。 

 

「200階クラスなの?」

 

「いや、今は確か──」

 

「ご飯食べに来ましたよ!!」

 

 店長の言葉を遮ったのは、何かが爆発した様な大きさの音。勢い良く開いた引き戸が端まで行ってぶつかった音だ。

 

 そして、その音の次に少しうるさいけど元気な声。

 

 どうやら、娘らしい。

 

「お前は何でいつもそうなんだ……他に客がいる」

 

「えっ!? お父さんの店にお客様!?」

 

 親子の仲良い会話が聞こえて来る中、私はただ冷静に娘の身体を観察していた。

 

 解くと恐らく腰は越える長さのピンクのサイドポニー。髪留めは普通のゴムで色は黒だけど、髪のボリュームであまり見えない。

 

 そんな彼女の顔立ちは、かなりというか私にも匹敵するレベルで、先程の元気な声が出しているとは思えない。可愛いより、綺麗の部類。

 

 薄いピンクのふんわりブイカットブラウスに黒いホットパンツ。それに黒のオーバーニーハイソックス。ブラウスの丈でホットパンツがチラチラとしか見えず、オーバーニーハイにより絶対領域が大変な事になっている。

 

 どちらかと言えば、前の世界の女性の恰好に近い。

 

 ……そして、私は気づいてしまった。恰好や容姿は問題ないけど、彼女の障害になってる物体に。

 

 あれは、許せないわ。即刻排除ね。

 

「……ひっ!? なんか、あのお客さんから凄いオーラが……」

 

 椅子から立ち上がり、目標に接近。

 

 メンチを助けた時よりも早く。カストロを倒した時よりも早く。

 

 怒りにより肉体の限界を超えて出た最高速度は、ぶっちゃけ自分が一番驚いているけど、とりあえずは障害の排除からね。

 

「え? 後ろ!?」

 

 そして、障害に向けて手を伸ばし、力加減を間違えない様に爪を使って切断する。

 

 ボンッ──という音と共に、彼女のボトムスがちぎれんばかりに膨らみ、正面からはガッツリと谷間が姿を見せていた。

 

「うん。良い仕事したわ」

 

「きゃあぁぁ!!」

 

 私が切断したのは、彼女の胸を押さえていた"サラシ"だった。

 

 何処か不自然な姿勢かつ、重心が少しずれていたのでそこから気づく事に成功した。

 

「な、な、ななななな何ですか!? いきなり!?」

 

 凄く動揺してらっしゃる。

 

 ただ、その問いかけを無視して改めて彼女の胸を見る。

 

 ……あれ、もしかしなくても私より大きいわね。メンチより身長が小さいのに、胸は同じくらい。凶器ね。

 

「悪を成敗したのよ」

 

「悪!? このサラシが悪だったんですか……って、何でそうなるんですか!?」

 

 彼女、声自体は大きいけどこの位は普通ね。観客の方がうるさいわ。

 

 店長的にはこれがうるさいんでしょうけど。

 

「気にしないでいいわ」

 

「気にしますよ!!」

 

 これが彼女、ヤヤとのファーストコンタクトだった。

 




やっと新キャラです。念能力等お楽しみに~。

お気に入りが900を越え、驚きを通り越して焦りました。
皆さんの期待に答える様に頑張ります!!

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