ドラマとか漫画とかで良くある、大学の授業部屋の様な部屋にて皆が前に集まり、私を含む8名がハンターとして認定された。
そのすぐ後にゴンがイルミにキルアの居場所を聞き、会長が話の終わりを悟り解散の合図を出した。
そして、そのタイミングで私は数時間振りに口を開いた。
「あの、一つ言わせて欲しいわ」
「おお、やっと意識が戻ったか。で、なんじゃ?」
そもそも意識はあったという言葉を飲み込み、本当に伝えたい一つの言葉を声に出した。
「私って不幸な美少女よね」
『……』
部屋の空気は、穏やかだった。
……始まりは、5日前の事だった。
◆ ◆ ◆
私は、会長に面談の呼び出しを受けたので、指定された部屋に向かった。
「ん、来たな……ま、座ってくれ」
部屋に入ると、机の前に座敷があり、そこに座れと指定された。断る理由はもちろんないので、素直に座る。
「さて、いくつか質問させて貰おうかの」
「……スリーサイズとかは答えないわよ?」
一応、会長の性格を考えて釘を刺して置く。
まあ、聞かれても絶対に答える事はないし、そもそも目測で測られてる可能性はあるけど。
「是非聞きたい所じゃが……真面目に話を進めようかの」
本当に残念な顔してるわね。これは少し悪い事をしたかしら。
「で、まず。どうしてハンターになりたいのじゃ?」
「そうね…………そうねえー……」
ヤバイ。理由がない。そう言えば、特に理由がない。ぶっちゃけ、この先の明確な目的すら決めてない。
「えーと……」
どうしよう、言葉が出て来ないわね。嘘を言おうにも本当の理由がないし、そもそも本当の事を言おうとも何も考えてない。
会長の反応を窺うと、私の言葉を待っているのか、この状態に気が付いているのか分からないけど、何も言って来ない。
「その……」
思わず、さっきから同じ様な言葉で話を繋げてしまうが、残念ながら答えは出て来ない。
えーと、ゴンはジンを探す為。レオリオは一応、金の為。クラピカは……あ、そっか。別に理由はいらないのね。
「なりたい理由は特にないわ」
てっきり、理由が必要とか思ったけど、キルアも何となくで受けたんだし別に必要なかった。
あーなんだ、すっきりしたわ。悩んで損ね。
……そう言えば、母にお金頼まれていたっけ。ならそれでも良かったかしら。
ぶっちゃけ、私の個人資産は生活に困らない程度あるし、母もあるはずなのよね。それなのにお金を送れってのは生存確認じゃないかと思う。
「なるほど。では、おぬし以外の9人の中で一番注目しているのは?」
9人? あ、もう合格者が決まったのね。
試験終了にはもう少し時間があるみたいだけど、それぞれに監視員がついてるから大体決まっているのね。
「……いないわね」
ただ、少し考えてみたけど、答えが出なさそうだったのでそのまま口に出した。転生者だし、注目と言われても特に注目する相手はいない。
それに、私の目的は未定。しいて言うなら女の子だけど、9人の中に女の子はいない。……落ちた中にポンズがいるはずなんだけど、残念ながら出会いのチャンスは無かったわね。
それにあの子に近づいて触ろうとしたら蜂が出て来るだろうし、刺されても問題はなさそうだけど刺される事は決して良い事じゃない。
もちろん、全て殺してしまえば問題はないけど別にそこまでする理由はない。非常に残念なのは間違いないのだけど。
「ふむ……最後の質問じゃ。9人の中で一番戦いたくないのは?」
「……うーん」
こっちは、かなり難しい。
戦いたくないと言えば、全員戦いたくない。ヒソカかイルミ相手だと念での戦いになるので不毛だし、その他だと話にならない。
いやまあ、戦う事は嫌いじゃないし、かなり鍛えてはいるけど生きる為の力だ。
そう言えば確か、クラピカはこの問いに理由があればなんとやらって答えてたっけ。
……うん、面倒だしそんな感じでいいかしら。
「私自身の危機を感じない限り誰とも戦いたくないわ」
「なるほどの……うむ、ご苦労じゃ。もう暫く暇を満喫しておくれ」
「ん、了解」
ま、こんなものよね。この面談で最終試験がどうなるか気になりつつ、そこから部屋に戻ってまたごろごろと暇を満喫した。
数時間後、ゴンたちと再会して思わず泣きそうになったり。その時にキルア奪還には参加しないと決めていたので、試験終わりの何となくの予定を伝えたり。メンチにちょっかい出して軽く怒られたり。その事を会長に報告してメンチの焦る様子を見てみたり。
色々としている内に最終試験当日になっていた。
そしてかなり広い部屋に私を含む全員が集められ、会長の横には布を被ったトーナメント表らしき物。どこになったか期待と不安を胸に秘めながら、会長が最終試験の内容を発表すると共に、その布が払われた。
「……ん?」
『!!』
あれ? ……私の見間違いよね。うん、きっとそう。
私の番号は400番。その数字がトーナメント表の一番上にある様に見えるのはきっと幻覚だ。
通常、トーナメントとは勝った者やチームが上に進んで行く。下にいればいるほど戦う数が多く、上にいればいるほど戦う数が少なくて済むシード権が存在する。
シード権とは、前回の大会などで優勝した者や2位、3位といった好成績を収めた者が有利になるシステムで、予選免除の待遇を越え、いきなり準決勝の位置から始まったりするシステムだ。
会長はこのシステム、トーナメント方式を最終試験に反転させ取り入れ、負け進んだ者が上に上がるトーナメントを作った。すると、一番上に行くにつれて合格が遠くなり、戦いのチャンスは少なくなっている。
で、この私の目が逝かれておらず、幻覚でもないとしたら私の番号は一番上にあるのは間違いない。
確かに私は会長に言った──『私自身の危機を感じない限り誰とも戦いたくないわ』と。
だけど、三次試験が終わってから暇を満喫しすぎて、ちょっとムシャクシャしていた私はかるーく相手を捻って遊んで憂さ晴らしをしようなんて考えていた。
その考えが悪いと言うなら仕方がない。この状況が神の采配によるものなら仕方がない。戦うチャンスが一度しかなくても仕方がない。
だけど、だけど……結末を知るこの私にとって、つまりこれは……。
「ん? どうかしたのか、リナさん」
「…………」
クラピカの声が、遠く聞こえたのは間違いなはず。
◆ ◆ ◆
そんな感じで、私のハンター試験が終わった訳だけど、何か一言だけ言いたくなったので口を開いた。
なんかピリピリしていた空気が穏やかになったけど、きっと憐れみの空気のはず。決して──『何言ってるんだコイツ』なんて空気じゃないわよね。
「そうじゃの、不幸じゃったかもしれん」
「でしょ!! そうよねー、やっぱりそうよね。私は最初から思ってたのよ……ジョニーが三回回ってワンと鳴いた時から、ジョニーの前世は絶対に犬だったのよ。確かに性格は猫っぽいけど、間違いなくその伏線は最終回に繋がっていたわけ。最後にあんな展開になるとは思っていなかったけど、いい物語だったわ」
「何の話じゃ」
「ごめん、本当にごめん。最近、頭がちょっとおかしいの」
本気で謝った。
三次試験の電流クイズの時に薄々気づいた事だけど、どうやら私は情緒不安定? になる事がある人間らしい。
予想外の事。明らかにおかしい事。イライラする事があると、元の人格の影響か、何故か記憶にない幼い頃の影響かは分からないけど、その場合にちょっと性格が変になる。
自分で口に出しといて全く何の内容か分からない所を考えると、これこそ私の前世の記憶なのかも知れないけど……まあ、あり得ないわね。
「それは大変じゃの」
「全くよ……」
ただ、メインイベントは残っているので、その為の地獄だった。暇という試練だと考えるならお釣りが出るかしら。
約束は胸だけ……ただし、当初の予定通り堕とせば合理となる。抵抗されると少し厄介だけど、私的には抵抗してくれる方が楽しい。嫌だ嫌だと言いながら、私のテクニックでメンチが段々と……うん、完璧なシナリオだわ。
一番困るのは女性経験豊富な事だけど、ノーマルだろうし可能性は極めて低いはず。ただ、メンチほど可愛ければ男性経験はあっても可笑しくないのよね……嘆かわしい。本当に嘆かわしい。決まってないけど嘆かわしい。
まあ、男性経験があった場合でも確実に堕とせると思う。今まで堕とせなかった子はいないし。
今回は一体、何時間耐えてくれるかしら。しぶとそうだけど、素質はありそうだからそんなに時間は掛らないと思うし……ふふふ、楽しみだわ。
「……あ、誰もいない」
思考にキリが付いたので俯いていた顔を上げると、部屋には誰一人残っていなかった。別に問題ないけど、声くらいかけて欲しかった。
……なんか一瞬、声は掛けたぞって声が聞こえたのは気のせいよね。
「とりあえず、メンチを探しましょうか」
見つけた後は、私の借りている部屋でいいわね。
ふふふ、ふふふふふふ……今からぐらいは、このテンションでも問題ないわね。どうせ誰にも迷惑かけないし。こういう所を考えるとソロの方がいいのよね。少し寂しい気がするからそこは嫌だけど。
ああ、なんか考えてたら虚しくなって来たわね。早く人肌で暖まりましょう。待っててねメンチ。
時間が惜しいので"円"を使う。どうやら、ゴンたちは名前を思い出せない三角帽子と会話中。メンチはサトツさん、ブラハと共にどこかに向かう模様だが、まだゴンたちの近くにいる。
無いとは思うけど、私との約束を破るつもりかしら。
確かに講義中はメンチがいたにも関わらず視線は真正面をぼーっと眺めてただけだし、目はきっと虚ろだったと思う。しかも、その後に前に集合した時も途中から反応が消えていたと思うので、ワンチャンス逃げれるとか思ったのかも知れない。
……ま、ないかしら。でも、ちょっとのお茶目を許してもらいましょう。
私は後ろからメンチを襲撃するべく、少し急ぎ遠回りでメンチの背後に向かった。
◆ ◆ ◆
「色々ありがとうサトツさん」
「いえ。あ、ゴン君」
ゴンがサトツの声に戻ろうとした足を止め、振り向く。
「いや……体に気を付けて」
「うん!! じゃあね」
体調を気遣うサトツに元気よくゴンが返事と手を振り、仲間の元へ戻っていく。
「…………」
サトツは今さっき自分が言おうとしていた内容に、自分で驚きながらゴンの背中を見送った。
そして、ゴンたちの背中が遠くなっていく中、メンチたちの視線を感じたサトツはぽつりと語り始めた。
「不思議な子ですね。どうも肩を持ちたくなってしまいますよ」
サトツの正直な気持であった。
「んふふ。今サトツさん、やばかったでしょ?」
その様子に気づいていたメンチが、少し笑いながら聞いた。
「ええ、うっかりしゃべるとこでした……ハンター試験がまだ終わっていない事を」
その言葉は、先程サトツがゴンに言ってしまいそうになった言葉だった。今は終わったが試験官としての立場と、一応は一般のタブーに近い話と考えて飲み込んだのだ。
サトツは、言葉を吐き出せた事でメンチが聞いてくれた事に対して少し感謝した。
ただ、何故かそこで会話が続かず、サトツは疑問を抱えながら振り向いた。
「メンチさんは?」
「え? ……あれ?」
その問いかけに、メンチと同じくサトツの後ろにいたブハラもその事態に気付く。
メンチが忽然と姿を消していた。
この一瞬の間に一体何があったのかと、二人がこの異常事態に敏感になり直ぐに周りを警戒する。
それと同時に、警戒して初めてやっとメンチのいた場所に手紙らしき物がある事を二人が気づいた。
「……罠ではなさそうですね。ただの手紙です」
"凝"を使い危険性がないと判断したサトツがその手紙を拾い、開けて内容を二人で確認する。
『お宝は美味しく頂くわ。ちゃんと身体は返すし安心して。ばーい、謎の美少女』
誰の犯行か直ぐに思いついた二人だったが、それ以上の驚きでその場を動けずにいた。
「あの子の実力は、もしかしなくてもとんでもないものですね」
少し低いトーンでサトツが言った。
「俺とサトツさんの二人に気づかれず、かなり手練れのメンチが何かしらのアクションを起こす暇もない……」
「まさに神業と言った所でしょう。あの子があれで殺人鬼だったのならと考えると、想像するだけで死を感じますね」
サトツは身震いはしなかったが、思わず生唾を飲み込むほどには犯人、リナに恐怖を感じた。
もっとも、恐怖を生み出したのは自分の心であり、リナでは無かった為に直ぐに霧散していった。
「……ガールズハンター」
ブハラがポツリと呟いたこの言葉が、いずれリナの代名詞になる事を……二人だけが薄々と勘づいていた。
◆ ◆ ◆
「い、一瞬何事かと思ったわよ!!」
「ごめんなさい。つい、やりたくなって」
無事に作戦が成功し、メンチを驚かせる事に成功した。
誰にも気づかれない様に細心の注意を払い、絶を使ってメンチに接近。そして、大胆かつ慎重に集中しながら、自分が出せる最高速を持って捕獲。
この時、メンチが暴れない様に両手を後ろに回して捕獲専用のロープで縛り、脚も同様に足首を縛って部屋に連れ込んだ。
メンチがヒソカほど腕が立つなら無抵抗では済まなかったけど、やはり美食ハンター。腕はいい方だと思うけど、私には敵わない。
「普通、つい人を攫うかしら……」
「生憎、普通じゃないし」
「……そうだった」
そもそも、普通の人間ならハンター試験なんて受けないと思うけど。人も攫わないし。
「で、早速始めていいのかしら?」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!! こっちにだって……その…………心の準備とか、覚悟とか、心構えとかいるんだからっ!!」
か、可愛い。とても年上には見えない。今の反応だけで襲いそうになったけど、危ない危ない。
「全部一緒よね」
でも、からかっておく。
「……ああもう!! こっちは緊張してんのよ!! それ以上言うなら触らせないわよ!!」
「一生玩具になりたいのなら止めないわ」
「ごめん」
ああ、ぞくぞくする。メンチいじめるの楽しいわ。
さっきの言葉は本気だったし、その熱意が伝わって良かったわ。そのお陰でメンチが涙目だし。
あ……このままだとヤバイわね。メンチの可愛さで待っている間に一回ぐらい余裕かも知れない。
「冗談よ」
「ほ、本気だったじゃない!! どれだけ怖かったと思ってんのよ……ぐすっ」
…………うん、決まった。今決めた。もう無理、我慢できない、頂きます。どうせ、このまま待っていても同じ事になるだろうし。早ければ早いほどいい。
今はもう試験も終わったので、時間はたっぷりある。1日でも1週間でもそれ以上でも問題ない。
「ごめんね、メンチ」
謝りつつ、ベッドに座って後ろを向いてしまったメンチをそのまま抱きしめる。
「……謝るのはいいんだけど、もう始める気じゃない」
「うん」
指摘された通り、その状態からもうスタートした。
ただ、抵抗する様子ではないのでこのまま初めてもオッケーって事なんでしょう。
「あ、その前に一応聞いておくんだけど……」
「ん?」
揉み始めて、思い出した。大事な事を聞いて無かった。忘れてたのは間違いなくメンチの可愛さのせいだ。
「好きな人や彼氏。それに、男性経験は?」
「…………いないわよ。後半もない」
「そっか、良かった」
一度、ちょっと強く抱きしめる。ちょっとふて腐れちゃったメンチが、また可愛い。
「なんでそんな事聞いたのよ。そりゃ、経験がないのは美食ハンターとして色々やってきて、忙しかったのもあるし、良い出会いは無かった事もないけど恋になる以前の問題で、あたしがハンターってのもあったし」
い、言い訳まで可愛いとか本当に反則じゃないかしらこの生娘。
一応生きてる年数は私の方が上だし、転生者として知っているつもりではあったけど……。
まじで舐めてた。鬼可愛い。やっぱり魅力的なキャラクターだった。
スタイルはもはや言う意味のなさを感じるほど素晴らしい。胸、腰、尻。どれを見ても、素晴らしい。軽く触った肌の質感も、しっとりすべすべ。ハードワークなハンターには思えないし、そこらのモデルや女優など目も当てられない。
実際、生娘である様には思えないほどの美少女、美女。絶対に街中で声を掛けられた事はあるだろうし、食べに行った店先や店でも声が掛ったはず。
それなのに断り続け、恋人や好きな人はいないと来た。これはまさに運命じゃないかしら。絶対に、私と出会う為に生娘であったに違いない。
原作だと知る事のない領域だけど、これは本当に楽しい。
……そう言えば、昔の唯一のオタク友達は転生したいってずっと言ってたわね。多分、理由は私と違うはずだけど、今ならわかる気がする。
「そ、そういうアンタは──」
「リナ」
ついでに抱きしめる力を強くして、名前を催促する。
「リ、リナはどうしてそうなったのよ」
「どうしてって言われたら……まあ色々あるんだけど」
本当に色々ありすぎて困るけど、どれがいいだろう。質問の範囲があまりにもブラックな領域だから答えにくい。転生者で、そもそも男だったはずだから、とでも言うのだろうか。
実際、言っても私の人生には問題ないだろうし、あの女神からも禁止されてないから問題ないはず。でも、それはそれで他の問題が生まれるし。
……とりあえず、適当に答えましょうか。
「元々は、私は男の子として生まれて来るはずだった。で、生まれてみれば女の子だった訳で……恋愛感情の回路が男のままなのよね」
「なるほど。整形とか、性別転換とかする気なかったの?」
……そんなの、あったんだ。
思わず口に出しそうになったけど、何とか出さずにすんだ。
そう言えば、この世界って元の世界より文明進んでたっけ。
「無かったわ。両親に悪いから」
そんな事も知らないのに、言ってしまったら設定と矛盾……はしないけど、疑われるわね。
「でも、女の子同士だと色々不便じゃない? って、あたしってば何言ってんだろう」
なんで、メンチはこういう反応するのかしら。危うく自我を失う所だった。
「愛があれば大丈夫」
まあ、それでも苦労はした。
なんせ持ってる知識が男の知識……チェリーだったので役に立つ情報なかったし、全然違ったけど。それに、初体験が女でなんて思わなかった。
「そういうものなのね。料理と似てるわ」
「料理?」
メンチに劣るだろうけど、料理は私も出来る。ただ、似てるかしら。
「決して美味しくなくても、不器用だったとしても……あたしの為だけに本気で作ってくれた料理なら、どんな物でも食べられると思うから」
…………ヤバイ、理解出来ない。あんまり似てない。
「そ、そうね」
とりあえず、合わせてみよう。
「うん、なんかアンタの事。少しだけ理解できた気がする」
あれ!? 話ってこれで終わり!?
なんかもう少し広げて、似てる所を言うんだと思ってたんだけど……まあ、気にしない方向にするしかないわね。
「よし、ここまで来たなら覚悟できたわ。遠慮なくやっちゃって」
こ、これはやりにくい。けど、許可が完全に下りたし始めるしかないわね。
「それじゃ改めて始めるわね……まずは服の上から──」
◆ ◆ ◆
「いい、朝日ね」
「……」
カーテンを開けてそう言うと、先程まであった反応が無かった。
振り向いてベッドにいるメンチに視線を向けると、どうやら寝てしまった様だった。
「まあ、しょうがないわね」
時計を見ると朝の7時半。メンチを部屋に連れ込んでから、軽く時計が一周していた。
どうしようかしら、私は完全に目が冴えてるし全く眠たくない。とりあえず事情をブラハとサトツさんに伝えるとして、メンチが起きるまで隣で起きてないといけない。
ただ、それだと一つの問題が生まれてしまう……。
この状況に、この私が数時間なんて我慢できる訳がない!!
確かに、小一時間ぐらい……も無理そうね。想像しただけでもう手が出そうになったわ。
一応、反応が無くなるまで遊んだ責任感からゆっくり寝て欲しいとは思うけど、流石にこの状況は毒だわ。
生まれたての姿、通称全裸。無防備な状態、通称無抵抗。部屋に充満している魅惑の空気、通称二人分の匂い。聞くだけで興奮する吐息、通称寝息。ベッド周りに転がるメンチの服、通称お宝。何とも言えない状態になっているベッド、通称事後跡。
……まあ、興奮する理由はいくらでもあるのだけど。簡単に言えば、いつでもオッケーなのよね。主に私の準備的な意味で。
「よし、シャワー浴びてから報告ね。その後に朝食でいいかしら」
それにしても、本当に楽しかったわ。
私も一切服を纏って無かったので、そのままシャワールームに入って汗を洗い流す。
一番楽しかったのはやっぱりあそこね。胸だけだと思ってた時のメンチの反応。
邪魔になるだろうから腕時計を外していたのが失敗だった。いつもなら何となく流れがきそうならスイッチを押してたんだけど、バックの中に仕舞っていた。
一応、記憶には鮮明に残ってるけど……やっぱり残念ではある。
「楽しかったわ、メンチ」
シャワールームから身体を拭いて出て来て、メンチの寝顔を見てそう伝える。なんか、メンチの顔を見た瞬間に伝えたくなった。本人はまだ寝てるし聞こえてないだろうけど。
私はバッグの中から白いロングワンピースを取り出してそれに着替える。
さて、向かいましょうか。
本来ならこのままメンチの寝顔や色々を堪能したかったけど、しょうがないわね……うん、しょうがないわね。
別に、涙なんて出てないんだから。
「それじゃ、行って来るわね。ゆっくり休んで」
もう一度だけ寝ているメンチに声を掛け部屋を出る。それと同時に"円"を使ってホテル内にいるはずの二人を探す。
「三階……ね」
三階のエレベーター付近の部屋にいたので、エレベーターに乗って三階へ。確認した時に起きている事は知っているので、部屋の扉をノックして待つ。
「やっぱり、リナさんでしたか。メンチさんは……」
「部屋で寝てるわ。一応それを伝えておこうと思ったの。もう子供じゃないし問題はないと思うけど」
部屋から出てきたのはサトツさんだった。部屋の奥からブラハの視線があったので、手を軽く振っておく。
「そうでしたか。この後はどうするつもりで?」
「朝食と適当に運動かしら。メンチが起きるまで時間を潰そうと思うわ」
メンチの携帯電話にメモを残してるし、それで気づくはず。
「なるほど、行ってらっしゃいませ」
「うん」
サトツさんにも手を振って食堂に向かう。
朝食を適当に済ませた後は、サトツさんに伝えた通りに外で適当に運動と念の鍛練。自分一人だと出来る事は限られるけど、実戦経験が訛ってないか心配だ。
そして、鍛錬を続けて数時間。時刻は16時。携帯が震えたので、内容を確認するとメンチからだった。
少しホテルから遠い所で鍛錬をしていたので、全速力でホテルに戻り、部屋に戻る。
「ただいま!! それと、おはよう」
「おはよう。寝ちゃったんだ、あたし」
「むしろ、長く持った方よ? 全力でやってないけど、それでもかなり」
敏感じゃないとかじゃなくて、ただ単純に精神力が高かった。むしろ、感度で言えばかなり上だったし。
「なんか悔しいわ」
「メンチが望むなら、リベンジの機会もあるわよ。ただし、他の女の子で練習したら怒る」
「そうは言うけど、これからもリナはいっぱい体験するんでしょ……なんか、それはそれで嫌だ」
…………。
「かはっ!!」
「ちょ、大丈夫!? 凄い鼻血の量よ!!」
あまりの可愛さに、死ぬところだった。血は吐けなかったけど、これは鼻血だけで死ねそう。ドクドクとかなりの量で流れ出てる。
「大丈夫よ」
全然大丈夫じゃないけど。駄目だ、あの生物は危険すぎる。まともに相手してたら萌え死ぬ。
とりあえず、血は止めておこう。興奮のしすぎで血管が切れただけだし。
「それならいいけど……って、さっきの言葉は忘れて。リナがそうなのは知ってるし、あたしも料理を止められたら大変だから……」
って、言いながら少し泣きそうなこの生物は、本当に私を殺しに来てるんでしょうね、きっと。
今まで、確かに可愛い子はいたけど……メンチに匹敵するのは、今までで一人しかいないわね。
「そうね、厳しいけど……メンチが言うなら、かなり減らすわ」
「本当っ!?」
むしろ、こっちこそ本当!? だと言いたい。止めろ的な意味で。
その髪を下した状態で迫りながら、喜んだ最高の顔で言われてしまったら、こっちも素直に頷くしかなくなる。
「もちろん」
こっちの世界に目覚めてくれたのはいいけど、これはこれで……うーん、贅沢な悩みね。
「でも、注意をしておくと。メンチと"約束"はしたけど、簡単にその覚悟だけは決めないで」
「十分、分かってるわよ。リナの考えも理解したし……なんか、そういう男前な律儀な所みると、一瞬男なんじゃないかって思うわ。大体は変態だけど」
……そうなんだ。私って根が男だし、昔の考えのままだけど、まさかそんな思考してたとは。別に注意する事でもないけど。
「変態で結構」
でも、確かに思い返してみればどこか男前な所が多いっけ。昔の自分の時は、男で変態だったから周りからの評価はゴミみたいなものだったけど、唯一幼馴染が近くにいてくれたし。そう言えば、元気だろうか。
まあ、心配してみても、その幼馴染に殺さ……半殺しにされたんだけど。
魔法が確立して、幼馴染がどうしよう? って泣いてる時に調子に乗ったら体の半分が消し炭だったから、今思い出すと凄い体験した。アイツの能力も割かし凄そうね。
「で、リナはこれから天空闘技場に向かうのよね?」
「そうなるわ。目標が少し出来ちゃったから」
本来はマチがヒソカの修復と召集をしに来たところを襲撃するつもりだったんだけど、原作に触れてみたいって考えに変わったから、それで是非参加してみたい。
もちろん、マチは襲撃する予定。
「それじゃあ、次に会うのは……あたしが覚悟決めた時ね」
「うん。急がなくていいし、ゆっくりね」
ただ、一つ言わせて貰うと、そろそろ我慢できそうにない。早く着替えてくれないかな。
「大丈夫。あたしもやりたい事とか、新しい自分を見つけれたし……料理もそういう視点で見て進もうかなって。ここは素直に感謝するわ。ありがとう、リナ」
「……」
うん、もう無理。
「ん? どうかし──」
メンチの笑顔のお礼攻撃に、我慢の限界が来たので私は第二回戦に進む事にした。
もちろん、私が天空闘技場に向かったのは、翌日の事であった。
文字数が初めて1万超えました。そのせいで誤字脱字あるかも知れません。
皆さんにお願い。
作品をよりよい物にする為に、感想やご意見待ってます。
感想ページが嫌いでしたら、個人メッセージでも構いません。
折角、ネットという環境にハーメルン様というサイト。これを生かさずして、なんと勿体ない事かと思ったので。
では次の話もお楽しみに!! ……して頂けるとありがたい。