「G・Iへようこそ」
ドアが開いた先に、一人の美少女が。
分かっていたけど、とても可愛い。
「……何か?」
「いえ、進めて頂戴」
いけない。いつも通り目で侵してしまったわ。
これから暫くはヤヤの為に時間を使おうと決めたのに、まだまだ駄目ね。
「それでは、ゲームの説明を──」
「知っているから、問題ないわ」
エレナの言葉を遮り、発言する。
「そうでしたか。では、ご健闘をお祈りいたします。そちらの階段からどうぞ」
「ええ、またね、エレナ」
「はい……え?」
美少女の驚いた顔。今はこれで満足だわ。
階段を降り、草原に出た。
順番はヤヤと一緒に最後にして貰ったから、ここで待っていればいずれ来るでしょう。
「さて……」
G・Iでの目標は大体三つ。
まず、ヤヤの超強化。これに関しては、途中でビスケに投げる予定。
師事するに、私以上に適切な人材だから。
手元を離れてしまうのは悲しいけど、ヤヤ強化の為には仕方がない。
次に、ホルモンクッキーの獲得。
G・Iの中にいる24時間限定で、性別が変わるアイテムだ。
個人的には女のままで良いんだけど、ヤヤに初体験は男の方が良いか聞いた結果、出来ればと言われたので決断した。
どちらにせよ、私である事には変わりないし、本当は嫌だけどヤヤのお願いなら仕方がない。
最後は、検証。
G・Iには色々なルールは存在するし、カードの効果は大体異常だ。
私の具現化能力が、念を消去する能力である為、恐らくスペルだろうが何だろうが消せてしまうはず。
どこまで消せるのかもちろんの事、そんな人間がいた場合の運営。ゲームマスターたちの対処を見たい。
また、それ次第での裏技も試す。
これについては、ある程度は予想出来ているけど……さて、どうなるかしら。
「リナ」
「ええ、来たわね。じゃ、早速街に向かいましょうか」
目的地は、とりあえず正面の街で良い。
ゴンたちとあるタイミングで合流する必要もあるし。
「凄いね、この世界」
「まあ、事前に説明した通り現実世界にあるどこかの島だけれど」
それを念を駆使して造りあげた、ゲームマスター陣の発想が。
G・I内の全てが、念で説明出来たとしても、この規模である訳で。
本当、どれだけの苦労があったのかしら。
「……ん、何か来たね」
へえ、こんな感じなのね。
スペルでの移動にて、空からプレイヤーが来る風景って。
凄い、感動した。
光が地面に付き、霧散した先には一人の男が。
スキンヘッドでそこそこガタイが良い。
「おお、かなりの上玉じゃねえか」
卑しい視線を感じ、さっとヤヤの前に出る。
「これは個人的に手に入れたいねぇ……俺が手取り足取り教えてやるから、一晩どうだ?」
「キモイので嫌です」
私が言う前に、ヤヤが言ってしまった。
まあ、いいけど。
「ふんっ、そう言ってられるのも今の内だ」
男はバインダーの一番最後のページにカードをセットし、何か操作をしている。
多分、名前を確認しているのでしょう。
「リナちゃんと、ヤヤちゃんか」
「え、何で名前が」
「そういうカードがあるのよ」
「へぇ、そうなんだ」
とりあえず、コイツは第一生贄になって貰いましょう。
◆ ◆ ◆
こいつら、なんで動揺しねえんだ。
茶髪の方はカードを知っていてもバインダーを出さねえし、攻略組じゃねえのか?
桃髪の方は、どこからどうみても初心者だが……付き添いなのか。
まあ、どちらにせよ、こんな上玉は逃しちゃおけねえ。
ここは、しっかり"追跡(トレース)"を発動しよう。
その後で、解除する代わりに身体でも要求すりゃ、儲けもんだ。
「あんまり怖がっていないみたいだが、これで攻撃してやる。追跡──っ。か、っ!?」
声が出ない?
◆ ◆ ◆
「で、喉を潰せば、バインダーを閉じれなくなるのよ」
「なるほど。それでカードを奪えば、殺さないでも良いんだね」
「ええ。無駄な殺生は意味ないから……まあ、どちらにせよ、コイツは殺すけど」
卑しい視線だけで、ギルティ対象だし。
とりあえず、星剣で喉は裂いたので、次に脚を切り落とす。
「──っ!?」
指輪をしている右手を切り落とすとどうなるか分からないので、一旦、左手を。そして、バインダーを掴んでから、念を放出して男を転がした。
後で、どの程度、バインダーを持ち主から遠ざけると消えるのかも検証しましょう。
「そんなに持ってないけど、最初の生贄だし気にしなくていいわね。ブック」
左手の小指につけた指輪から、バインダーを呼び出し、必要そうなカードを移して行く。
全部で指定ポケットが15種類。スペルを中心に、フリーポケットが35箇所埋まった。
残念ながら、ホルモンクッキーはない。
最初から、上手くはいかないわね。
「このゲーム簡単だね」
「いえ、正攻法じゃないからそうでもないわよ? 警戒されたら終わりだし。まあ、私の実力ならって話よ。もちろん、相手がスペルを唱える前に奪うって手もあるけど、それぞれに攻撃範囲があるし……色々と検証しないといけないわね」
知識と現実は確かな差が存在する。
漫画を読んで知っていても、それがどこまで適用されているか分からないし。
それに、基本的に一緒だと思うけど、そこまで正確に覚えている訳でもないので、ここからが大変だ。
何より、私たちを監視している視線は遠くにあるので、これでヤバイと思われて近づいても来ないでしょう。
わざわざ闇討ちするのも、拷問するのも面倒なので、これでしばらくは何もして来ないはず。
そんな阿呆がいれば、容赦なく殺すけども。
「それにしても、ヤヤも大概、狂って来たわね」
「え?」
「奪えば簡単なんて、外道も外道じゃない」
「変身中に攻撃しないのはアニメの中だけって、リナが教えてくれたし。それと、死んだ方が負けってのも」
確かに、教えたわね。
「それもそうね。じゃ、後はサクッと検証しましょうか」
這いずって逃げようとしている男の右手を落としてみる。
目の前にあったバインダーは、そのままだ。
「なるほど」
恐らく、大天使の息吹等、回復する手段があるからでしょう。
持ち手が消し炭にならない限り……となると、指輪の耐久値は無限なのかしら?
念を込めて、指輪を攻撃してみる。
腕は粉々になったけど、どうやら、無事みたいね。
「……そうなると、相手の攻撃に対して指輪でガードできそうね」
もっとも、線の攻撃に限る。
「じゃあ、防具も兼ねてるんだ、これ」
ヤヤが右手を顔の前に掲げ、小指につけた指輪をじっくり見ていた。
「極端な使い方になるけど、悪くないわね。じゃあ、次はバインダーを離してみましょうか」
男のバインダーを持ったまま、離れてみる。
30mに差し掛かった辺りで、バインダーが煙と共に消失した。
特に意味はないけど、一応は設定されてたみたいね。
「それじゃ、改めて街に向かいましょうか」
ヤヤの元に向かい、進行方向を指差した。
「うん……あ、リナ。この人どうするの?」
「その内、勝手に死ぬでしょう? だから放置よ」
「それもそっか。生まれ変わったら、善良になれますように」
ヤヤが手を合わせ、男にお祈りしていた。なんて優しい子。
◆ ◆ ◆
街に到着した私たちは、とりあえず飲食店へ。
そう、キルアとゴンが向かった飲食店だ。
聖地巡礼とまでは言わないけど、一度は行って見たかった。
どうやら、二人は既にここを出て……いえ、皿洗いしてるわね。
さらっと無視して、奥の席に座った。
「いらっしゃいアル。注文は決まっているカ?」
ああ、これも漫画通りの店員だ。いえ、店長かしら?
生物的に何かわからないけど、相変わらず変な見た目ね。
「チャレンジカルボナーラが二つで」
「おお!? 女の子で挑戦は珍しいアル。大丈夫アルか?」
「ええ」
「分かったアル」
キッチンに謎生物が消え、直ぐに両手に大皿を持って、帰って来た。
異次元レベルの早さね。
どんっ。と置かれた皿には、2000gはありそうなカルボナーラの山。
見た目は現実の物と相違ないけど、味はどうでしょうね。
「お待たせアル。30分以内に完食すればお代はタダ!! さらに、ガルガイダーをプレゼント!! では、スタートアル!!」
「すっごく大きいね、リナ。頂きます」
「どうぞ。私も頂きます」
フォークでパスタを巻き取り、一口。
うん、普通のカルボナーラだ。
特に驚きもないほど、普通の。
「ごちそうさまでした」
「早っ!?」
店員さんが驚くのは無理もない。
ヤヤは基本的に早食いで、大食らいだ。
私が感動している間に、完食位は訳ないでしょう。
まあ、それにしても開始30秒で無くなる速度は異常でしょうが……可愛いので良し。
「お嬢ちゃん、化け物か何かアルか」
「そうですか? 普通に頂きましたけど。あ、ドリンク頂いても? ソーダを二つ」
「普通……アイよー」
店員さんがまた厨房に消える。
「ヤヤ、後はあげるわ」
その隙に、ヤヤに皿を渡す。
「あ、うん、分かった。頂きます」
そして、文字通り秒で無くなった。
掃除機で吸い込んだみたいに。
「お待たせ──あいや、もう終わったアルか!? 2分も経ってないアルよ!?」
「ええ、ごちそう様」
大体はヤヤが食べたので、申し訳ないけど。
ただ、普通のカルボナーラをあんな量は食べれない。
滅茶苦茶美味しいなら、食べ切るのもやぶさかじゃないのだけれど。
◆ ◆ ◆
食事を済ませた後、二人に声を掛けずに交換ショップへと足を向けた。
「いらっしゃい」
あごひげの、大体ゴリラみたいな店員だ。
「ブック。このカードを全部買い取って頂戴」
スペルは移動系と複製(クローン)、交信(コンタクト)以外不要なので、纏めてとりあえず売却。
「30枚、合計84万ジェニーだ。問題ないか?」
「結構よ」
意外と高く売れるのね、スペル系。
「ブック。はい、これはヤヤに」
お金カードを受け取り、ヤヤに半分を渡す。
「ありがとう……奪ったお金だから、なんとも言えないけど。ブック」
「自力で稼いだのと変わらないわ。ゲイン」
「リナに声を掛けた時点で地獄だもん……本当、ご愁傷様だったね。ゲイン」
「即死してないだけ、幸運ね。さてと、今度はマサドラに向かうのだけど……ヤヤの特訓がスタートするわ」
スペルを使えば一瞬で迎えるけど、それだと修行にならない。
ジンがゴンの為に作ったとはいえ、活用はさせて貰いましょう。
もっとも、ヤヤにとって道中のモンスターなぞ、基礎能力で敵はいないのだけれど……弱点を見極めるのは別問題。
まあ、それでもそこまで苦戦はしないでしょうが。
「ついに?」
「ついに、よ。道中のモンスターを倒して進んで貰うわ。基本的に手出しはしないから、頑張りなさい」
「分かった。どんな敵が出て来るか、楽しみだよっ」
ヤヤはぐっと両手の拳を握り、言葉通りに楽しそうに笑みを浮かべている。
もちろん、私も楽しみだ。
劇中で見れなかったモンスターがいるはずだし。
「とりあえず、ショップで色々と生活用品を揃えるわ」
「了解」
私はふともものホルダーに付いている、念縄と通常拘束具しか持っていない。どうせ、お金も携帯も役に立たないし。
着替え等の最低限の生活用品は、ヤヤが大きめのリュックなので、そこに入れてもらっている。
決して荷物持ちではない。役割分断だ。
「こんな所ね」
適当に必要そうな物資を購入し、またヤヤに渡しておく。
そして、あっさりと森を抜けて岩石地帯に。
出会うと意味もなく面倒なので、呪いの一族には出会わない様に進んだ。
「さて、とりあえず頑張りなさい」
「うん。真っ直ぐ進むだけで遭遇出来るんだよね?」
「ええ、間違いなく」
相手の強さを見極めて、襲ってくるモンスターは恐らくいない。
基本的に、モンスターはそういう存在でしょう。
バブルホースだけは逃げの一択みたいだけど。
「あ、荷物は預かっておくわ」
「了解。ありがとう、リナ」
この笑顔、プライスレス。
荷物を受け取り、さくっと降りて真っ直ぐ進む。
『グォォォ』
早速、現れた。
大小、得物が様々なサイクロプス。
弱点は言うまでもなく、その大きな目ではあるけど、さて。
「じゃ、行ってきます」
サイクロプスが姿を表した瞬間、ヤヤは既に愛槍を手にしていた。
どうやら、戦闘勘は鈍ってないらしい。
「猪突猛進!!」
今や、私の瞬間最高速度に匹敵する、ヤヤの猪突猛進。
あくまでも真っ直ぐ進む事に関しての速度だけど、その修業歴から考えれば、私に匹敵するというのはヤヤ自身の才能が目に見える形で分かる。
ズドンッ。
鈍い音。
サイ……巨人の頭部がなくなり、倒れた後に煙と共に消滅した。
破壊力のキャパオーバーかしら。
まあ、弱点を小突いて死ぬなんて、そっちの方が変な話しだから、正しいのは正しいのだけれど……。
ヤヤの攻撃、あそこまで強かったのね。
意外と、ヨークシンで私が色々やっている間も、修行は欠かさなかったらしい。
纏っている念の力強さが、出会った頃より確実に大きいから。
「ふぅ、こんな所かな?」
時間にして、約一分。
合計15体の巨人は、既に全てがカード化していた。
「お見事。上出来よ」
「あからさまな弱点があったし、巨人は余裕だったよ。ちなみに、リナなら何秒?」
ここでどれくらい掛かる? というより、何秒と訊いてくる所が、ヤヤの力量が高い証拠。
全く、私がその力量判断に至ったのは、5歳の頃だって言うのに。
「3秒くらい」
「あはは、だよね……やっぱ遠距離攻撃持ちはずるいなぁ」
「遠距離というか、近距離だわ」
私のは、あくまで剣が大きくなっているだけなので、厳密には近距離攻撃である。
もちろん、相手からしたらそんな事は関係ないのだけれど。
「よし、カードも回収出来たし、次の敵に……え?」
岩山と並ぶ大きさの気持ち悪い爬虫類?
私はもちろん存在に気付いていたが、そこまで気が回ってなかったヤヤは固まっていた。
巨人との、余裕での戦い。気を張る意味もないけど、それはそれ。
まあ、もっとも……。
「せいっ!!」
また、鈍く低い音。
爬虫類がその大きな身体に穴を開けてから、消滅した。
そりゃ、そうよね。
いくら耐久性を設定していようが、それ以上の攻撃力があれば貫ける。
基準はゴンのパンチ。それで倒せなかったとして、ヤヤはそのままモンスターを倒せる。それだけの攻撃力を持っているといえば簡単だけど……多分、正解じゃないわね。
ヤヤの純粋な破壊力自体はそこまで高くない。
ただし、貫通力というか攻撃力に関しては、一級のプロハンターであっても、並べるかどうかのレベル。
もちろん、プロハンターがヤヤに、だ。
「もしかして、モンスターって弱い?」
「いいえ、ヤヤの攻撃が弱点なんてお構いなしに貫くだけよ」
「あ、そうなんだ。何か、悪いことしちゃったかなぁ……」
回収したカードを見つめながら、そう呟くヤヤ。
うーん、これじゃ修行にならないわね。
「まあ想定外だけど、悪い事ではないわ。まずはこの岩石地帯のモンスターをコンプするわよ」
「うん、了解!」
何種類いるか知らないし、遭遇次第ではあるけど……就寝前には終わりそう。
まだ、夜になるには早い青空。
星が出る頃になったら、改めて今度について考えましょう。
「あ、発見。デストロイ!!」
……ゾーンポテチ生活中に、どれだけのアニメを見ていたのでしょう、ヤヤは。
言動が時々怪しいヤヤを眺めながら、愚かにも私に攻撃してくるモンスターを消滅させ続けた。