TS転生だとしても、絶対に諦めない。   作:聖@ひじりん

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18話『G・I-初日-』

 

「G・Iへようこそ」

 

 ドアが開いた先に、一人の美少女が。

 

 分かっていたけど、とても可愛い。

 

「……何か?」

 

「いえ、進めて頂戴」

 

 いけない。いつも通り目で侵してしまったわ。

 

 これから暫くはヤヤの為に時間を使おうと決めたのに、まだまだ駄目ね。

 

「それでは、ゲームの説明を──」

 

「知っているから、問題ないわ」

 

 エレナの言葉を遮り、発言する。

 

「そうでしたか。では、ご健闘をお祈りいたします。そちらの階段からどうぞ」

 

「ええ、またね、エレナ」

 

「はい……え?」

 

 美少女の驚いた顔。今はこれで満足だわ。

 

 階段を降り、草原に出た。

 

 順番はヤヤと一緒に最後にして貰ったから、ここで待っていればいずれ来るでしょう。

 

「さて……」

 

 G・Iでの目標は大体三つ。

 

 まず、ヤヤの超強化。これに関しては、途中でビスケに投げる予定。

 

 師事するに、私以上に適切な人材だから。

 

 手元を離れてしまうのは悲しいけど、ヤヤ強化の為には仕方がない。

 

 次に、ホルモンクッキーの獲得。

 

 G・Iの中にいる24時間限定で、性別が変わるアイテムだ。 

 

 個人的には女のままで良いんだけど、ヤヤに初体験は男の方が良いか聞いた結果、出来ればと言われたので決断した。

 

 どちらにせよ、私である事には変わりないし、本当は嫌だけどヤヤのお願いなら仕方がない。

 

 最後は、検証。

 

 G・Iには色々なルールは存在するし、カードの効果は大体異常だ。

 

 私の具現化能力が、念を消去する能力である為、恐らくスペルだろうが何だろうが消せてしまうはず。

 

 どこまで消せるのかもちろんの事、そんな人間がいた場合の運営。ゲームマスターたちの対処を見たい。

 

 また、それ次第での裏技も試す。

 

 これについては、ある程度は予想出来ているけど……さて、どうなるかしら。

 

「リナ」

 

「ええ、来たわね。じゃ、早速街に向かいましょうか」

 

 目的地は、とりあえず正面の街で良い。

 

 ゴンたちとあるタイミングで合流する必要もあるし。

 

「凄いね、この世界」

 

「まあ、事前に説明した通り現実世界にあるどこかの島だけれど」

 

 それを念を駆使して造りあげた、ゲームマスター陣の発想が。

 

 G・I内の全てが、念で説明出来たとしても、この規模である訳で。

 

 本当、どれだけの苦労があったのかしら。

 

「……ん、何か来たね」

 

 へえ、こんな感じなのね。

 

 スペルでの移動にて、空からプレイヤーが来る風景って。

 

 凄い、感動した。

 

 光が地面に付き、霧散した先には一人の男が。

 

 スキンヘッドでそこそこガタイが良い。

 

「おお、かなりの上玉じゃねえか」

 

 卑しい視線を感じ、さっとヤヤの前に出る。

 

「これは個人的に手に入れたいねぇ……俺が手取り足取り教えてやるから、一晩どうだ?」

 

「キモイので嫌です」

 

 私が言う前に、ヤヤが言ってしまった。

 

 まあ、いいけど。

 

「ふんっ、そう言ってられるのも今の内だ」

 

 男はバインダーの一番最後のページにカードをセットし、何か操作をしている。

 

 多分、名前を確認しているのでしょう。

 

「リナちゃんと、ヤヤちゃんか」

 

「え、何で名前が」

 

「そういうカードがあるのよ」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

 とりあえず、コイツは第一生贄になって貰いましょう。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 こいつら、なんで動揺しねえんだ。

 

 茶髪の方はカードを知っていてもバインダーを出さねえし、攻略組じゃねえのか?

 

 桃髪の方は、どこからどうみても初心者だが……付き添いなのか。

 

 まあ、どちらにせよ、こんな上玉は逃しちゃおけねえ。

 

 ここは、しっかり"追跡(トレース)"を発動しよう。

 

 その後で、解除する代わりに身体でも要求すりゃ、儲けもんだ。

 

「あんまり怖がっていないみたいだが、これで攻撃してやる。追跡──っ。か、っ!?」

 

 声が出ない?

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「で、喉を潰せば、バインダーを閉じれなくなるのよ」

 

「なるほど。それでカードを奪えば、殺さないでも良いんだね」

 

「ええ。無駄な殺生は意味ないから……まあ、どちらにせよ、コイツは殺すけど」

 

 卑しい視線だけで、ギルティ対象だし。

 

 とりあえず、星剣で喉は裂いたので、次に脚を切り落とす。

 

「──っ!?」

 

 指輪をしている右手を切り落とすとどうなるか分からないので、一旦、左手を。そして、バインダーを掴んでから、念を放出して男を転がした。

 

 後で、どの程度、バインダーを持ち主から遠ざけると消えるのかも検証しましょう。

 

「そんなに持ってないけど、最初の生贄だし気にしなくていいわね。ブック」

 

 左手の小指につけた指輪から、バインダーを呼び出し、必要そうなカードを移して行く。

 

 全部で指定ポケットが15種類。スペルを中心に、フリーポケットが35箇所埋まった。

 

 残念ながら、ホルモンクッキーはない。

 

 最初から、上手くはいかないわね。

 

「このゲーム簡単だね」

 

「いえ、正攻法じゃないからそうでもないわよ? 警戒されたら終わりだし。まあ、私の実力ならって話よ。もちろん、相手がスペルを唱える前に奪うって手もあるけど、それぞれに攻撃範囲があるし……色々と検証しないといけないわね」

 

 知識と現実は確かな差が存在する。

 

 漫画を読んで知っていても、それがどこまで適用されているか分からないし。

 

 それに、基本的に一緒だと思うけど、そこまで正確に覚えている訳でもないので、ここからが大変だ。

 

 何より、私たちを監視している視線は遠くにあるので、これでヤバイと思われて近づいても来ないでしょう。

 

 わざわざ闇討ちするのも、拷問するのも面倒なので、これでしばらくは何もして来ないはず。

 

 そんな阿呆がいれば、容赦なく殺すけども。

 

「それにしても、ヤヤも大概、狂って来たわね」

 

「え?」

 

「奪えば簡単なんて、外道も外道じゃない」

 

「変身中に攻撃しないのはアニメの中だけって、リナが教えてくれたし。それと、死んだ方が負けってのも」

 

 確かに、教えたわね。

 

「それもそうね。じゃ、後はサクッと検証しましょうか」

 

 這いずって逃げようとしている男の右手を落としてみる。

 

 目の前にあったバインダーは、そのままだ。

 

「なるほど」

 

 恐らく、大天使の息吹等、回復する手段があるからでしょう。

 

 持ち手が消し炭にならない限り……となると、指輪の耐久値は無限なのかしら?

 

 念を込めて、指輪を攻撃してみる。

 

 腕は粉々になったけど、どうやら、無事みたいね。

 

「……そうなると、相手の攻撃に対して指輪でガードできそうね」

 

 もっとも、線の攻撃に限る。

 

「じゃあ、防具も兼ねてるんだ、これ」

 

 ヤヤが右手を顔の前に掲げ、小指につけた指輪をじっくり見ていた。

 

「極端な使い方になるけど、悪くないわね。じゃあ、次はバインダーを離してみましょうか」

 

 男のバインダーを持ったまま、離れてみる。

 

 30mに差し掛かった辺りで、バインダーが煙と共に消失した。

 

 特に意味はないけど、一応は設定されてたみたいね。

 

「それじゃ、改めて街に向かいましょうか」

 

 ヤヤの元に向かい、進行方向を指差した。

 

「うん……あ、リナ。この人どうするの?」

 

「その内、勝手に死ぬでしょう? だから放置よ」

 

「それもそっか。生まれ変わったら、善良になれますように」

 

 ヤヤが手を合わせ、男にお祈りしていた。なんて優しい子。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 街に到着した私たちは、とりあえず飲食店へ。

 

 そう、キルアとゴンが向かった飲食店だ。

 

 聖地巡礼とまでは言わないけど、一度は行って見たかった。

 

 どうやら、二人は既にここを出て……いえ、皿洗いしてるわね。

 

 さらっと無視して、奥の席に座った。

 

「いらっしゃいアル。注文は決まっているカ?」

 

 ああ、これも漫画通りの店員だ。いえ、店長かしら?

 

 生物的に何かわからないけど、相変わらず変な見た目ね。

 

「チャレンジカルボナーラが二つで」

 

「おお!? 女の子で挑戦は珍しいアル。大丈夫アルか?」

 

「ええ」

 

「分かったアル」

 

 キッチンに謎生物が消え、直ぐに両手に大皿を持って、帰って来た。

 

 異次元レベルの早さね。

 

 どんっ。と置かれた皿には、2000gはありそうなカルボナーラの山。

 

 見た目は現実の物と相違ないけど、味はどうでしょうね。

 

「お待たせアル。30分以内に完食すればお代はタダ!! さらに、ガルガイダーをプレゼント!! では、スタートアル!!」

 

「すっごく大きいね、リナ。頂きます」

 

「どうぞ。私も頂きます」

 

 フォークでパスタを巻き取り、一口。

 

 うん、普通のカルボナーラだ。

 

 特に驚きもないほど、普通の。

 

「ごちそうさまでした」

 

「早っ!?」

 

 店員さんが驚くのは無理もない。

 

 ヤヤは基本的に早食いで、大食らいだ。

 

 私が感動している間に、完食位は訳ないでしょう。

 

 まあ、それにしても開始30秒で無くなる速度は異常でしょうが……可愛いので良し。

 

「お嬢ちゃん、化け物か何かアルか」

 

「そうですか? 普通に頂きましたけど。あ、ドリンク頂いても? ソーダを二つ」

 

「普通……アイよー」

 

 店員さんがまた厨房に消える。

 

「ヤヤ、後はあげるわ」

 

 その隙に、ヤヤに皿を渡す。

 

「あ、うん、分かった。頂きます」

 

 そして、文字通り秒で無くなった。

 

 掃除機で吸い込んだみたいに。

 

「お待たせ──あいや、もう終わったアルか!? 2分も経ってないアルよ!?」

 

「ええ、ごちそう様」

 

 大体はヤヤが食べたので、申し訳ないけど。

 

 ただ、普通のカルボナーラをあんな量は食べれない。

 

 滅茶苦茶美味しいなら、食べ切るのもやぶさかじゃないのだけれど。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 食事を済ませた後、二人に声を掛けずに交換ショップへと足を向けた。

 

「いらっしゃい」

 

 あごひげの、大体ゴリラみたいな店員だ。

 

「ブック。このカードを全部買い取って頂戴」

 

 スペルは移動系と複製(クローン)、交信(コンタクト)以外不要なので、纏めてとりあえず売却。

 

「30枚、合計84万ジェニーだ。問題ないか?」

 

「結構よ」

 

 意外と高く売れるのね、スペル系。

 

「ブック。はい、これはヤヤに」

 

 お金カードを受け取り、ヤヤに半分を渡す。

 

「ありがとう……奪ったお金だから、なんとも言えないけど。ブック」

 

「自力で稼いだのと変わらないわ。ゲイン」

 

「リナに声を掛けた時点で地獄だもん……本当、ご愁傷様だったね。ゲイン」

 

「即死してないだけ、幸運ね。さてと、今度はマサドラに向かうのだけど……ヤヤの特訓がスタートするわ」

 

 スペルを使えば一瞬で迎えるけど、それだと修行にならない。

 

 ジンがゴンの為に作ったとはいえ、活用はさせて貰いましょう。

 

 もっとも、ヤヤにとって道中のモンスターなぞ、基礎能力で敵はいないのだけれど……弱点を見極めるのは別問題。

 

 まあ、それでもそこまで苦戦はしないでしょうが。

 

「ついに?」

 

「ついに、よ。道中のモンスターを倒して進んで貰うわ。基本的に手出しはしないから、頑張りなさい」

 

「分かった。どんな敵が出て来るか、楽しみだよっ」

 

 ヤヤはぐっと両手の拳を握り、言葉通りに楽しそうに笑みを浮かべている。

 

 もちろん、私も楽しみだ。

 

 劇中で見れなかったモンスターがいるはずだし。

 

「とりあえず、ショップで色々と生活用品を揃えるわ」

 

「了解」

 

 私はふともものホルダーに付いている、念縄と通常拘束具しか持っていない。どうせ、お金も携帯も役に立たないし。

 

 着替え等の最低限の生活用品は、ヤヤが大きめのリュックなので、そこに入れてもらっている。

 

 決して荷物持ちではない。役割分断だ。

 

「こんな所ね」

 

 適当に必要そうな物資を購入し、またヤヤに渡しておく。

 

 そして、あっさりと森を抜けて岩石地帯に。

 

 出会うと意味もなく面倒なので、呪いの一族には出会わない様に進んだ。

 

「さて、とりあえず頑張りなさい」

 

「うん。真っ直ぐ進むだけで遭遇出来るんだよね?」

 

「ええ、間違いなく」

 

 相手の強さを見極めて、襲ってくるモンスターは恐らくいない。

 

 基本的に、モンスターはそういう存在でしょう。

 

 バブルホースだけは逃げの一択みたいだけど。

 

「あ、荷物は預かっておくわ」

 

「了解。ありがとう、リナ」

 

 この笑顔、プライスレス。

 

 荷物を受け取り、さくっと降りて真っ直ぐ進む。

 

『グォォォ』

 

 早速、現れた。

 

 大小、得物が様々なサイクロプス。

 

 弱点は言うまでもなく、その大きな目ではあるけど、さて。

 

「じゃ、行ってきます」

 

 サイクロプスが姿を表した瞬間、ヤヤは既に愛槍を手にしていた。

 

 どうやら、戦闘勘は鈍ってないらしい。

 

「猪突猛進!!」

 

 今や、私の瞬間最高速度に匹敵する、ヤヤの猪突猛進。

 

 あくまでも真っ直ぐ進む事に関しての速度だけど、その修業歴から考えれば、私に匹敵するというのはヤヤ自身の才能が目に見える形で分かる。

 

 ズドンッ。

 

 鈍い音。

 

 サイ……巨人の頭部がなくなり、倒れた後に煙と共に消滅した。

 

 破壊力のキャパオーバーかしら。

 

 まあ、弱点を小突いて死ぬなんて、そっちの方が変な話しだから、正しいのは正しいのだけれど……。

 

 ヤヤの攻撃、あそこまで強かったのね。

 

 意外と、ヨークシンで私が色々やっている間も、修行は欠かさなかったらしい。

 

 纏っている念の力強さが、出会った頃より確実に大きいから。

 

「ふぅ、こんな所かな?」

 

 時間にして、約一分。

 

 合計15体の巨人は、既に全てがカード化していた。

 

「お見事。上出来よ」

 

「あからさまな弱点があったし、巨人は余裕だったよ。ちなみに、リナなら何秒?」

 

 ここでどれくらい掛かる? というより、何秒と訊いてくる所が、ヤヤの力量が高い証拠。

 

 全く、私がその力量判断に至ったのは、5歳の頃だって言うのに。

 

「3秒くらい」

 

「あはは、だよね……やっぱ遠距離攻撃持ちはずるいなぁ」

 

「遠距離というか、近距離だわ」

 

 私のは、あくまで剣が大きくなっているだけなので、厳密には近距離攻撃である。

 

 もちろん、相手からしたらそんな事は関係ないのだけれど。

 

「よし、カードも回収出来たし、次の敵に……え?」

 

 岩山と並ぶ大きさの気持ち悪い爬虫類?

 

 私はもちろん存在に気付いていたが、そこまで気が回ってなかったヤヤは固まっていた。

 

 巨人との、余裕での戦い。気を張る意味もないけど、それはそれ。

 

 まあ、もっとも……。

 

「せいっ!!」

 

 また、鈍く低い音。

 

 爬虫類がその大きな身体に穴を開けてから、消滅した。

 

 そりゃ、そうよね。

 

 いくら耐久性を設定していようが、それ以上の攻撃力があれば貫ける。

 

 基準はゴンのパンチ。それで倒せなかったとして、ヤヤはそのままモンスターを倒せる。それだけの攻撃力を持っているといえば簡単だけど……多分、正解じゃないわね。

 

 ヤヤの純粋な破壊力自体はそこまで高くない。

 

 ただし、貫通力というか攻撃力に関しては、一級のプロハンターであっても、並べるかどうかのレベル。

 

 もちろん、プロハンターがヤヤに、だ。

 

「もしかして、モンスターって弱い?」

 

「いいえ、ヤヤの攻撃が弱点なんてお構いなしに貫くだけよ」

 

「あ、そうなんだ。何か、悪いことしちゃったかなぁ……」

 

 回収したカードを見つめながら、そう呟くヤヤ。

 

 うーん、これじゃ修行にならないわね。

 

「まあ想定外だけど、悪い事ではないわ。まずはこの岩石地帯のモンスターをコンプするわよ」

 

「うん、了解!」

 

 何種類いるか知らないし、遭遇次第ではあるけど……就寝前には終わりそう。

 

 まだ、夜になるには早い青空。

 

 星が出る頃になったら、改めて今度について考えましょう。

 

「あ、発見。デストロイ!!」

 

 ……ゾーンポテチ生活中に、どれだけのアニメを見ていたのでしょう、ヤヤは。

 

 言動が時々怪しいヤヤを眺めながら、愚かにも私に攻撃してくるモンスターを消滅させ続けた。

 

 

 


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