TS転生だとしても、絶対に諦めない。   作:聖@ひじりん

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17話『蜘蛛との決着』

 

 

「ねえ、ヤヤ。生まれ変わるとしたら、何になりたい?」

 

 ホテルの自室に戻り、風呂に入ってから私は、ソファーで横になっているヤヤに問いかけた。

 

「……どうしたの、急に」

 

「参考程度に訊いておこうと思っただけね。それ以上の理由は特にないわ」

 

 肩に掛けた白いタオルで髪を拭きながら、ヤヤの視線を誤魔化す。

 

「ふーん、そっか。私は生きているって思えるなら、何でもいいかな」

 

「そう、強いのね」

 

「強いって言うより、そんなアリもしない可能性? の事を考えるのが苦手だから、分かり易く楽な想像をしただけだよ」

 

「ふふ、そう」

 

 結局、マチの洗脳は、直前の問答により断念した。

 

 覚悟が足りなかったというか、なんというか。

 

 どうやら私は、人としての何かを、どこかに落としてしまったらしい。

 

 そもそも、持っていなかった可能性も否定できないけど。

 

「改めて訊くけど、何かあったの?」

 

「うーん、何もなかったわね。しいて言うなら、無駄な取引をさせられた位ね」

 

 興が冷めたと言えば、それだけなのでしょう。

 

 自分の虜にしてから手を出す。

 

 本来の手段はソレだった気もするし、無理矢理も可能であればしてきた。

 

 ただ、いつの間にか手段が目的になっていた……それとも。

 

「ふーん、リナでも失敗する事あるんだね。どんまい」

 

 毒されたか。

 

 転生を願って、その目的とは既に外れている。いや、外されているが正しいかしら。

 

 記憶の改ざんも、普通の家庭に生まれていればされなかった。

 

 ヤヤとの出会いも、記憶が正しければ起きなかった。

 

 見えない意思。

 

 私が私単体で関わる者に関して、色々な一線を越えれない様になっている気がする。

 

 そうしないと、今日みたいに見境がなかったのか。

 

 既に、死んでいたか。

 

「ほんと、困ったわ。ヤヤに助けて貰おうかしら」

 

「私で力になれるなら、どんどん頼って」

 

「……えぇ、ありがとう」

 

 護る物が多すぎると、どこかできっと、何かを失ってしまう。

 

 きっと、そうならない為の救済処置だったとして……。

 

 感謝する先は、あの神様なのかしら。

 

 男で人生を進めなくて済んだって事も。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「で、怖気づいた上で、能力の使用を辞めてしまったと」

 

「そうなるわね。ごめん、シャーロット。お願い損になってしまったわ」

 

「いえ、問題ありません。ただ、どうして辞めてしまったのですか?」

 

「簡単に言えば、気が向いた。かしら」

 

「やらない方向に、ですね。なるほど」

 

 言葉を多くすれば、そこにマチとしての価値がないから。

 

 自分の物ではあるが、自分の物でない感覚。

 

 どこか、気持ちの悪い感情が働いていた。

 

 言葉を交わさなければ、そのまま続行していたけど……結果、良かったのかも知れない。

 

 自分の見つめ直す反省。いや、反省というより価値観の修正か。

 

 行動原理が、気の向くままとなっていたから。

 

 その異常。私からすれば、許容範囲ではあったはずなんだけれど。

 

「とりあえず、全員に埋め合わせは考えているから、シャーロットも考えておきなさい」

 

「ふふっ、気にしなくてもよろしいのですが。分かりました、とびきりの我儘をご用意しておきます」

 

 それから少しの時間、他愛ない話をしてから電話を切った。

 

 さて、これからの目標は……。

 

 ゾーンポテチをしていたヤヤを一度見る。

 

 うん、ヤヤの育成かしら。

 

 もっとも、私が教えるに基礎的な限界が来ているので、ここは彼女にお願いしましょう。

 

 まあ、面識がないので、少し前途多難かも知れないけど。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「で、何もかも予定通りになった訳ね」

 

「ああ、感謝する、リナさん」

 

 今後の計画を考えていた時、クラピカからの連絡が入った。

 

 蜘蛛の団長を確保し、ゴンとキルアが攫われた。これから、その交渉を行うので、集まって欲しいと。

 

 私が三人と恋バナをしていた頃、三人を覗いて他の団員が動いていた訳だけど、結果的には変わってないみたいね。

 

 ヒソカの目的を叶えてあげる為に、私はクラピカ陣営の居場所を、あらかじめ伝えていた。

 

 ベーチタクルホテルにいる、と。

 

 もちろんクラピカと示し合わしており、参加した団員は誰か分からないけど、ゴンとキルアが掴まってしまう未来は一緒のようだ。

 

 多分、流れも一緒なのでしょう。

 

 これが抑止力による物かは分からないけど、まあ、私が出来る手助けは終わり。

 

 蜘蛛にとっても、クラピカにとっても。

 

「で、0時にリンゴーン空港に来てくれると思っているの?」

 

「……ああ、念の鎖は、リナさんの言う通りパクノダには刺さなかった。ただ、それで旅団がどう動くか決まっていないが、リナさんの存在があれば、無下にはしないだろう」

 

 ふむ、これで誰も死なずに済むわね。

 

 事前に女性に何かしら手は出すなと忠告しておいたけど、ここまで上手く行くなんて。

 

 後は、パクノダとヒソカがゴンとキルアを連れてこれば安泰かしら。

 

「ま、妥当ね。じゃあ、それまで私は……」

 

 クロロの元に歩み──

 

「ぼっこぼこね」

 

「大体、お前のせいだと思うが」

 

「ええ、違いないわね」

 

 鎖で身体を縛られ、顔面は腫れあがっている。

 

 なんとも無様な姿。

 

 これも、記憶通りだ。

 

「それより、結局三人は解放したのか」

 

「まあ、考えの違いでね。マチは一度確保したけど、返したわ」

 

「意外だな。どうしてそうなった?」

 

「んー」

 

 理由は、凄く単純だけど、説明は難しい。

 

 何せ、これからの歴史をかき乱したくないのと、私の欲望が天秤に乗せて負けた結果だから。

 

 そりゃ、欲望に任せて動き回っても良かったけど、その徒労が目に見えずとも簡単だった。

 

 洗脳してしまったマチは、マチであってマチでない。

 

 身体だけ欲しかった……のも多少あるけど、もうそれはマチ個人ではないから。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「で、とりあえず洗脳を始めるけど、何か言いたい事はあるかしら?」

 

「そうだね……アンタは、何がしたい」

 

「マチと色々?」

 

「じゃあ、それはあたしじゃなくても良い話じゃないか。なぜ、あたしに拘る」

 

「確かに……そうね」

 

 アクア、ルー、シトリンを見て思い直す。

 

 そういえば、何故こうも焦って手を出そうとしているのか。

 

 確かに、護る為にはマチを洗脳する必要がある。

 

 だけど、その結果、得られるのはマチという身体だけ。

 

 想いの無い身体なんて、特に価値はない。

 

 そうでないと、想いを持って生み出された三人の意味は皆無だ。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 念とは、魔法の力。

 

 ただ、魔法よりも圧倒的に利便性がある。

 

 アクア、ルー、シトリンの三人は、シャーロットの念能力によって生み出された。

 

 パクノダに説明した通り、念の概念は異常だ。

 

 その事を知っている私は、高い具現化系の資質を持ち、なおかつ美少女である人間を探した。

 

 それが、シャーロット。発端は大体、五年前の話である。

 

 元の生まれから世界について。そして、念の全てを伝え、協力を得た私はシャーロットの資質を育て三人を創造させた。

 

 "愛玩人形舞踏会(ラブドール・ワルツ)"

 

 一番プラチナ。二番アクア。三番エメ。四番ルー。五番シトリン、の五人を、こうである。という詳細設定をそれはもう隅々まで設定し、イメージさせて造り上げる能力。

 

 容姿、言動、身長、体重。そして、それぞれの"超"能力を。

 

 なんでも斬れる剣。は、概念的に難しい。それはイメージが出来ないから。

 

 ただし、イメージが出来てしまうなら、それを念能力として収める事が出来るのではないか。

 

 そう考えた私が、研究を兼ねて検証した。

 

 結果は大成功だ。

 

 共通項目は、超能力。いわゆるサイコキネシスや発火。瞬間移動と多岐にわたるが、五人それぞれに得意分野がある。

 

 それに加えて、念を必要としない事。

 

 一度発動してしまえば、シャーロットが意図的に解除しないと消えない。つまり、念で創造はしたが、それぞれが単独行動が出来る生命と言っても過言ではない。

 

 理論は簡単で、術者から独立して生きれる様にイメージしたから。

 

 そのイメージ設計には、元世界のアニメという知識や、この世界での意識。それを根本からシャーロットに叩き込み、足りないイメージが無いまで知識を教え切った。

 

 シャーロット自身のイメージ習得には、四年の歳月が掛っている。

 

 先に念という存在を教え、その概念の考え方を教え、四年。

 

 そりゃもう、簡単ではなかった。少しでもイメージがぶれると発動できないから。

 

 むしろ、下手に発動してしまうと、ゴミみたいな能力になっていたはず。

 

 まあ、本当に色々と頑張った結果、念性質のブレイクスルーが出来たのだけど。

 

 一番苦労したのは、イメージの為にアニメを自主制作した事かしら。

 

 念の概念を教え込むより、果てしない苦行だった。

 

 何せ全120話にも及んだ。

 

 途中、イメージの為という事を忘れる程に、血肉を注いでいた気がする。

 

 その仮定で、スター・ディスティニーという会社が出来た位に。

 

 本当、長かった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「うん、洗脳は止めましょう。解放するわ、マチ」

 

「は?」

 

 私は、既に恵まれている。

 

 これ以上、何かを欲望だけで求めるのは、恐らく破滅への道。

 

 手に収まらない物が増えてしまうと、結局、どこかで破綻してしまうはず。 

 

 そうなった時、私にはきっと選べない。

 

「いつでもいいかなと思って」

 

「そんなにあたしは甘くないよ。もう二度とアンタの前には現れない」

 

「でしょうね。まあ、機会があればでいいわ」

 

 心が手に入らないなら、ある意味で、もう良い。

 

 もちろん、遊びたくはあるけど……次の機会でも良いでしょう。

 

 まずは、私のヤヤを優先しないと。

 

 確実に、ヤヤは私のモノなんだから。

 

「変な奴」

 

「違いないわ」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 そして、私はマチとお別れした訳だけど、やっぱり意外に見えてしまうわよね。

 

「ま、気が向いたって事にしておいて」

 

「そうか」

 

 クロロは笑みを浮かべ、壁に背を合わせて目を閉じた。

 

 多分、興味がなくなったのでしょう。

 

「来たか」

 

 クラピカの呟きで、私は窓の外を見る。

 

 しっかりと、パクノダと人質二人がいた。

 

 円で探ると、直ぐ近くにヒソカもいる。

 

 逆に、ヒソカ以外はいないので、問題なしね。

 

 じゃあ、私は帰宅しましょう。これからの為に。

 

「後は頑張りなさい」

 

「……分かった。ありがとう、リナさん」

 

 頭を下げたクラピカを見て、私は手を振ってからホテルへと帰宅した。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 9月10日。これからの予定を決めた私は、ヤヤと共に選考会場に来ていた。

 

 バッ……テリー? か、なんかの、グリードアイランド選考会。

 

 落ちるはずもないので、私は気楽に待機しているのだけれど……。

 

「大丈夫かなぁ……ねえ、大丈夫かなぁ、リナ」

 

 ヤヤは物凄く緊張している。

 

「何度も言うけど、ヤヤなら緊張するだけ無駄よ」

 

 何度言っても緊張しているヤヤにこそ、無駄かも知れないけど。

 

「だって、プロのハンターが試験官なんでしょ」

 

「その試験官よりも強いヤヤが、落ちるはずないわ……って、いい加減にしないと、脱がせるわよ」

 

 面倒になって来たので、殺気も込めてヤヤだけを威圧する。

 

「う、分かった」

 

 しゅんと肩を落とすヤヤ。それがまた、可愛い。

 

「分かった、分かったから!!」

 

 ……どうやら、また出していた様ね。

 

 ヤヤから視線を外すと同時に、壇上に黒スーツのおっさんが出てきた。

 

『皆さん、お待たせいたしました。それではこれより、グリード・アイランドプレイヤー選考会を始めたいと思います』

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「あのー、お二人はまだですか?」  

 

「え?」

 

 気が付けば、私とヤヤ以外がいなくなっていた。

 

 興味が無さすぎるのも、考え物ね。

 

「今から行くわ。ほら、ヤヤも行くわよ」

 

「う、うん」

 

 して、まだ緊張してるのね、この子。

 

「二人同時でも構わないわよね」

 

「わわっ」

 

 ヤヤをお姫様抱っこし、"隠"で不可視にした剣を取り出す。

 

「いえ、決まりなので──えっ?」

 

 返答は特に聞かず、司会役の声を背で訊いておく。

 

「見せなくてもいいわね?」

 

 壇上に向かって跳びつつ、空中で剣を操作し、シャッターを細かく切り落とす。

 

 そして、あごひげに声を掛ける。

 

 約二秒。

 

 司会者はもちろん、あごひげも理解していないでしょう。

 

「……は?」

 

 まあ、シャッターが切り落されていて、急に女子二人が現れたら、そりゃそうなるでしょうけど。

 

「じゃ、そういう事で」

 

「ズルして、ごめんなさい」

 

 謝らなくてもいいのに、ヤヤは律儀ね。

 

 扉を抜けて、ゴンとキルアの元へ向かう。

 

「お疲れ様、リナさん、ヤヤさん」

 

「さっきの金属音、どう考えてもシャッターが発生源だよな。切り落としただろ?」

 

「凄い音だったよね。細切れ?」

 

「ええ」

 

「私は何もしてないけどね……」

 

 こうして、無事にグリードアイランドの参加権を手に入れた。

  

 

 


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