TS転生だとしても、絶対に諦めない。   作:聖@ひじりん

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ひっそり、ゆっくりととですが、実はプロローグなどを細かい点修正しています。

読み直してみると、そこに気が付くかも。


9話『vsヤヤ』

9話『vsヤヤ』

 

 

 

『さあ、本日のメインイベント、リナvsヤヤ選手!! 圧倒的な強さで敵を瞬殺してきたリナ選手に対抗するのは、200階に上がって初対戦ヤヤ選手!!』

 

 今日は一段と観客が多いわね。

 

 柔軟体操で身体を柔らかくしながら、観客を観察していた。

 

『二人とも、200階の闘士では数少ない女性の闘士!! さらに、その容姿は恐ろしく整っており、スタイルも抜群!! ぶっちゃけ、女として勝てる要素が一ミリたりとも感じられません……』

 

 ヒソカを発見した。

 

 見られる事は私にとって何の問題もないけど、これはこれで少し恥ずかしい。

 

 もっとも、能力を使う気はないし見られてもリスクは無い。

 

 観察をほどほどに終えて、視線をヤヤに向ける。

 

 私と同じ様に身体を動かしており、その表情は少し硬い。緊張しているのは誰にでも理解出来た。

 

「……大丈夫?」

 

 対戦相手といえど、今回はただの練習試合の様なもの。ヤヤがどう考えているかは完全に捉える事は出来なくても、命までは掛けてないのは分かりきっている。

 

 だからこそ、私はヤヤを鍛えてあげる程度の考えしかない。

 

 ヤヤも決して、私との実力差が読めないはずは無いし、勝てるなんて考えていないはず。

 

「な、なんとか大丈夫です……ここまで注目されるのが初めてで、少しだけ緊張してるだけですから」

 

 ふんわりと笑顔。

 

 ただ、その笑顔に言葉以上の緊張が籠っているのに気づいていないのはヤヤ本人だけ。

 

「そ、そう」

 

 思わず、言葉がつまり苦笑いになってしまったけど、恐らく気づかれていないわね。

 

 緊張する事は何もないのだけれど……ヤヤの性格ならしょうがないわね。流石に、戦闘が始まってみても同じ様子なんて事はないでしょうけど。

 

 仮にも念使い。ヤヤはあわよくば勝とうと思っているでしょうし、私が舐めた真似をすれば問答無用で命を取りに来るはず。

 

 主に、ヒソカの様な戦い方だけど、あれはいくらなんでも舐めすぎよね。

 

「両者、もう問題ないか?」

 

 お互いストレッチが終わったタイミングで審判がそう聞いて来る。

 

「いいわよ」

 

「は、はいっ」

 

 そもそも、準備すらいらないという言葉は飲み込んだ。

 

「では、ポイント&KO制!! 時間無制限!! 一本勝負!!」

 

 へえ……あの指輪って槍になるのね。凄いわ。

 

 審判が試合のルールを発表している中、ヤヤが右手薬指にはめている指輪に息を吹きかけると、一瞬の内に槍がヤヤの右手に掴まれていた。

 

 柄の長さは2m程で、先端の槍頭は三又になっていてシンプルとはかけ離れた形状、デザインになっている。

 

 一言で言うならイカツイ。殺傷能力はかなりありそうで、突きはもちろん、裂く事も余裕のはず。

 

「開始!!」

 

「先手は頂きます!!」

 

 審判がその場から離れるよりも早く、矛先を地面すれすれに向け槍を構えたヤヤが良いスピードで突っ込んで来る。 

 その表情に緊張の色は一切なく、しっかりと戦う者の顔だった。

 

「えい」

 

「えぇ!?」

 

 そして、その突進を足を掛ける事で失敗に終わらす。

 

「きゃぁぁぁ!!」

 

 自身の速度、反射神経を越える私の速度、突然失うバランス、不恰好な体勢。

 

 全てがヤヤにとっての許容範囲外だった様で、そのままゴロゴロと地面を転がってリングアウトした。そこそこ、大きな音が耳に届いた。

 

「ダ、ダウン!! 1ポイント、リナ!!」

 

 審判のその言葉に、観客がワァァァ──っと盛り上がる。

 

『な、何が起こったのか一瞬分かりませんでしたが、どうやらヤヤ選手がこかされた様です!!』

 

 ぱっと見だと自爆した様に見えたのかしら。

 

「な、なんて戦法……でも、まだまだやれます!!」

 

 ヤヤがリングに上がって来て、先程と同じように槍を構える。 

 

「今度は、本気で行きますから……油断しないで下さいね」

 

「っ!?」

 

 少し冷ややかなトーンで言われた言葉を聞いた後、私はヤヤが動いた瞬間にその場から離れた。

 

「今のをかわせるんですね」

 

 距離を取り、私が真っ先に捉えたのは先ほどまでヤヤが居た場所。

 

 石版が、ヤヤが初動で踏み込んだ個所からヒビ割れていた。

 

『は、早すぎます!! これがヤヤ選手の全力なのかぁぁぁ!!』

 

「なんとかね」

 

 ギリギリまで言わないものの、かなり危なかった。

 

 ヤヤの最高速度が最初に見た速度の少し上ぐらい、と考えていた為に反応がほんの少しだけ遅れた。

 

 油断していたから仕方がないと言っても、完全に私の落ち度。少し考えを改めないといけないのと……アレがどんな能力かを見極めないといけないわね。

 

 "凝"が出来なかったのが少し痛い。

 

 ただ、あの速度で来ると分かっているなら対処は余裕。まだまだ、私が有利ね。

 

「このまま、突き進みます!!」

 

 ヤヤが、同じ速度で突っ込んで来る。

 

 続けて、槍のリーチになった所で連続突き。

 

 私は、片目だけの"凝"でヤヤを見ながら、その全ての突きの回避、時に弾きながら、能力について考察を始める。

 

 ……多分、ヤヤは強化系。初めは槍を取り出した所から具現化系と考えたけど、どうやら間違っているわね。

 

 槍は単体でオーラを纏ってない事から、あれは実物の物と判断するけど指輪になっていた原理は今の所不明。ただし、あれが他者の能力で作られた物なら十分にあり得るので、恐らくこれが有力。

 

 そして、気になるのがこの速度。どうやら槍の方にも速度の強化が付いているので、迫って来た速度、槍を繰り出す速度に影響してると考える。

 

 "凝"で詳しく見る限り、迫って来た時と槍の速度にオーラが付いてこれているので、絶対にヤヤ純粋の速度じゃない。

 

 上記を踏まえて強化系だと判断すると、次は何を強化しているか。妥当な所は全体的な自己強化……と考えるのが普通だけど、どうにも違うわね。

 

 まだまだ未熟なヤヤのオーラ技術で、この攻撃速度とダッシュの速度にオーラが付いてこれないはず。これはさっきも自分で結論付けているし、この選択肢はなくなる。

 

 ……うーん、中々に難しいけど、とりあえず試しましょうか。

 

 私は、ある一つの考えから、ヤヤが槍を突き出した瞬間に右斜めに回避する。

 

 位置的には先程まで回避を続けていた槍の矛先のリーチではなく、柄で叩けるリーチ。

 

「もう気づかれましたか……」

 

 迎撃にと振られた槍を、右手で受け止める。

 

 私の予想通り、軽々と受け止める事に成功した。 

 

「まだ正解かは分からないけど、とりあえずは倒れてね?」

 

「え? って、またですか!?」

 

 少し苦い顔をしているヤヤに右足で足払いをして、今度は左に体勢を崩してこかす。

 

「ダウン!! リナ、ポイント2!!」

 

 そして、ヤヤは槍の柄を私が力を入れて掴んでいる為、体制を整える事が出来ず倒れる。

 

 瞬時に槍から片手でも離せばダウンにはならなかったはず。

 

 もっとも、手を離したらそのまま力づくで槍を奪って壁にでも突き刺したけど。まだそこに気が付いている分、見込みはあるわね。

 

『ヤヤ選手の怒涛の攻撃が続いていたと思いきや、リナ選手は涼しい顔して対処し、現在2対0。このまま同じ調子でやられてしまうのか!?』

 

 実況により場が温まる中、槍から手を離して距離を取る。

 

 本当なら追撃するのがセオリーだけど、今はこれでいい。

 

「で、私の予想だと……ヤヤの能力は強化系。強化しているのは、突進力といった所かしら」

 

「……正解です」

 

 突進は、本来の意味じゃなくて、呼んで字の如くの突進。突き進むの意味。

 

 だから槍の突く速度と、ヤヤの踏み込みの速度が速くなった。

 

 この予想を正確にしたのは、先程のヤヤの動き。

 

 全体的な速度を強化していたなら、柄で叩く時の速度も速くなっている事が当然なはず。

 

 それを確かめる為にわざと柄のリーチに踏み込んで、能力の実態を確かめた。

 

 確かに、槍は突く方が圧倒的に強く、そのリーチを活かしやすい。ただ、それだけで勝つことは難しい。時に薙ぎ払い等の動作を入れる事により、自身のリーチをキープして優位に立つ事が可能になるから。

 

 それなのに、突き一点で攻撃して来る当たり、その辺りに能力の制約があると予想した。

 

「ですが、能力を読まれた所で私が不利になるとは限りません」

 

「その通りね」

 

 これが、強化系の強み。

 

 今回はただ純粋に私の体術が勝っていた為に、一発も当たらなかったけど、並の念使いならもう蜂の巣になっていたはず。

 

 "凝"をしながら攻撃をかわすのも、余裕があったからこそ出来た。

 

 普通なら、隙を見て"凝"で確認し、その他は常に"堅"で戦うべき。いくら自分の防御力に自信があっても、一撃でも喰らえば死に繋がる猛攻なのは見て分かる。

 

 能力を読めたからと言って、突進以外のモーションを取らせて動こうにも槍の使い方は一流。普通に戦っても体術で勝ってなければ、また連続突きのコースになる。

 

 さらに付け加えると……あれが能力の全てではない所。

 

 これからの動きは何となく予想は付くものの、余裕で対処する事は難しくなる。

 

「では、行きますよ!!」

 

 今は私があえて防戦一方の動きをしている為に、ヤヤの回避行動は見ていない。

 

 戦闘というなら、その半分も実力を確認できていない。

   

 槍頭に柄の方にも刃がある事から、本来の動きはもっとエグイはず。

 

 柄が鮫肌の様になっていなかったのが、幸いと言えば幸いで……恐らくそこがヤヤの優しい性格が表れている部分でもある。

 

 私なら間違いなく付けている。

 

 ぶっちゃけ、槍を掴んだのは冷や汗ものだったし。

 

「私も攻撃に移りたいんだけど……全力を出せないのよ。それでもいいかしら?」

 

「涼しい顔して攻撃を避けてるリナさんに言われると、少しだけイラッとしますけど……それでお願いします」

 

 なら、許可も貰ったし使いましょうか。

 

 ヒソカが見ているし、メディアに残るのは嫌だけど、見られて困る能力でもないのよね。

 

 だからと言って、ここまで隠してきた手の内を公にするのは……うん、素直に使いましょうか。

 

「っ!?」

 

 能力を発動し、ヤヤの槍を右手で掴んで地面に叩きつける。

 

 ぶつかった衝撃で石版が砕け、小さいクレーターの様に変化し、辺りには煙幕が生まれる。

 

「大丈夫? 加減はしてるけど」

 

 煙の中のヤヤに声を掛けて、反応を待つ。

 

 叩きつけた感触はあっても、ヤヤの悲鳴等は聞こえなかったから、しっかりガードしたはず。ヤヤの念での防御力なら、本当に悪くて重傷、普通で軽傷レベル。

 

「ギリギリでしたが……一応」

 

 煙が晴れた所で、少しふらつきながら立ち上がり、再度槍を構えた。

 

「ダウン&クリティカル!! 3ポイント、リナ!!」

 

『こ、今度は本当に何が起こった!? いきなり煙が生まれた事しか理解できませんでした!! これがリナ選手の本気なのかぁぁぁ!!』

 

 実況と観客がさらにうるさくなる。

 

 毎回毎回、一度シーン──っとなってから、その反動の様に盛り上がるこの流れ。かなりやりにくい。

 

「で、このまま棄権してくれるとありがたいのだけど……まあ、しないわよね」

 

 ヤヤの目には、まだまだ戦意が籠っていた。どちらかといえば、最初の頃よりも強い。 

 

「それで全力でないリナさんの動きには驚きですけど、諦めるのは嫌ですから」

 

 あー……しっかりと戦士ね。なんか申し訳なくなるわ。

 

 こっちは少しだけ真面目に戦ってるフリをして物凄く揺れる胸と、ホットパンツからチラッと見える下着を、能力の観察と半々で戦っているだけなのに。

 

 もっとも、観客には早すぎて残像レベルでしか見えていないはずだから、この姿を一人……いや、ヒソカは見えてるわね。後でお金とか請求してみましょう。

 

 はあ……その純粋無垢で真っ直ぐな視線が痛いわ。

 

 とはいえ、真面目に戦う事は難しいし、棄権してくれるのが一番でも棄権はない。

 

 攻撃をかわしながら考える事じゃないけど、何かいい方法はないかしら。

 

 こういう事を考えると、本当に人間操作とかヒソカのバンジーガムの様な拘束系の能力が…………拘束?

 

 あ、その手があったわ。これなら素直に棄権してくれるわね。問題を挙げるとしたら前以上に警戒される恐れがある事だけど……そこを上手くやれば無問題。

 

 ヤヤの猛攻を回避しながら、プランを組み立てて行く。

 

 数秒で悪魔のプランが完成した。

 

「本当に棄権はしてくれないのね? 今からなら、酷い目に合わなくて済むわよ」

 

 早速、一つ目の手順を踏む。

 

「自分に負けたくないですから!!」

 

 無事に、一つ目をクリア。これで大義名分? を手に入れた。

 

「それなら、しょうがないわね……嫌でも棄権して貰うわ」

 

 何の問題も無く動けるので、直ぐに実行に移る。

 

 まず、ヤヤの方向に突っ込み、抱きしめる。

 

「えぇ!?」

 

 次に背中に手を入れて、ブラの背中ホックを外してブラを抜き取る。  

 

 もちろん、観客に見られない様に私の下着と肌の間。通称下着ポケットに挟んでおく。

 

「え、え? ちょ、ちょっと待って下さい!!」

 

 ヤヤがあたふたして、槍を落とした所で場外の壁まで蹴り飛ばし、ヤヤの背後に回る。

 

 やっと現状を理解したヤヤに対して拘束用ロープを2つ、胸の谷間から取り出して腕と足に取り付ける。

 

「な、何ですかこれ!?」

 

 膝かっくんから、正面に回って地面に寝転ばせ、腕を上に移動させて手ごろな岩でワイヤー部分を抑える。

 

「ど、どうなって!?」

 

 最後の拘束用ロープ。地面や壁に打ち付ける用を2つ取り出して、ヤヤのお腹と足を地面に拘束。力一杯、杭の部分を殴って深く固定する。

 

 暴れられると困るので、7㎝にした剣を取り出して、"隠"を使い見えなくし、ヤヤを傷つけない様に肌にぺちっ、と当てる。

 

 これで力が入らなくなるはずなので、ヤヤの地面拘束が完成した。

 

『……一体、何が起こったのでしょうか。今回の試合、何もかも理解が及びません。実況として申し訳ありませんが、この試合は謎すぎます!! 解説できません!!』

 

「ふぅ……」

 

 恐らく、10秒にも満たなかったわね。上出来、上出来。

 

 ヤヤのお腹に座って、一息付く。

 

「ふっ!! はぁ!! やぁ!! って、なんで力が!?」

 

 頑張ってもがいている姿が可愛くて、本来の目的を忘れそうになるけど、ここは我慢。

 

「だから棄権してって言ったのよ」

 

 残酷かも知れないけど、これが今は一番。戦いのセンスなどは理解したから、これ以上戦うのが無駄だった。

 

「で、でも……まだ私は戦えます!!」

 

「いや、この状態からは絶対に無理よ」

 

 戦うもなにも、抜け出す事が不可能な時点で勝敗は決まっている。

 

 仮に抜け出せても、さっきの状態が続くだけで結果的にまた同じ事になる。

 

 だから諦めて貰うのが一番なんだけど……どうにも、まだ心が折れてない様ね。

 

「た、確かに微動だにしかしかませんけど……何とか、方法を思いつけば」

 

 心が折れないのは戦闘での強みでもあるから問題ないけど、現状把握はしっかり出来るべきなのよね。

 

「まあ、諦めないのは結構よ。でも……審判さん、カウントよね?」

 

「はっ、そうでした」

 

 そして、カウント0の声が響き、勝負が決まった。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

「ん、お疲れ様」

 

「……お疲れ様でした」

 

 ヤヤを拘束から解除し、別々のゲートから出て改めてヤヤに会いに向かった。

 

 ボロ負けだったのが悔しいのか、椅子に座って肩を落としているのは落ち込んでいる様に見える。

 

「結局、一度も攻撃が当たらない……どころか、何もできませんでした」

 

 実際は、ヤヤがもう少し本気なら一矢報いる事ぐらいは出来たはずなのよね。

 

 恐らくは、念での対人経験の少なさと、自分の能力の把握。上手な使い方を理解していないだけで、今回はそもそも負けしか結果が無い試合だった。

 

 それでも、私に能力を一つ使わせた事は凄いのだけど。

 

 まあ、ヤヤからすれば使わせたというより、使ってくれたが正解かしら。

 

「でも、これで自分の実力に気づけたでしょ?」

 

 とりあえず、落ち込んでいる姿を見るのはちょっとだけ辛いので、フォローを始める。

 

 そういえば、どうしてヤヤは対戦を申し込んできたのかしら。

 

 自分の実力を知りたかったっていうのが一番でしょうけど……うーん、聞きましょうか。

 

「そうですね……けど、まさかここまで歯が立たないなんて思ってませんでした」

 

「その理由は追々説明してあげるわ。それよりも、ヤヤは何で私と勝負をしたの?」 

 

 質問すると、ヤヤの顔が段々と赤くなり、それに気づいたのか俯いてしまった。

 

 そ、そこまで聞いちゃいけない理由があったのかしら。

 

 内心驚きながら、答えを待つ。

 

「そ、その……たくなくて」 

 

「ん?」

 

 ぼそぼそっとで、聞こえなかったのでもう一度聞く。

 

「ま、負けたくなかったんです!! 同い年の女の子に!!」

 

 顔を真っ赤にして、私の目を見て返って来た言葉は、少し理解に苦しんだ。

 

 えーと、つまりは……私に勝ちたかった。いや、負けたくなかった。だから、勝負を挑んで……何か違うわね。

 

 同い年の女の子に負けたくなかった。ヤヤの言葉はこうだから……。

 

 私より、上だと証明したかった?

 

 やっとここで、一つの言葉が頭に浮かんだ。

 

「負けず嫌い?」

 

「……」

 

 ここでの沈黙は、もう答えよね。

 

「なるほど」

 

 ぷるぷる震えてるヤヤの両肩に手を置き、思った事を口に出す。

 

「可愛いわね」

 

「っ……」

 

 身体をビクッと動かし、また肩が震える。

 

 恥ずかしさと悔しさ……ね。

 

「え?」

 

 座っている状態のヤヤを抱きしめて、私の胸に顔を埋める。

 

 全く、なんて可愛い生き物なのよ。これはもう決定ね。

 

 この娘は、絶対に手元に欲しい。

 

 元から仲間にスカウトするつもりだったけど、スカウトどころがどんな手を使ってでも仲間にしましょう。

 

 メンチは仕事上一緒にいるのが難しいから、定期的に会おうって事になってるけど、ヤヤなら大丈夫。

 

 それに間違いなく、イレギュラー()が生み出したイレギュラー(ヤヤ)。自然な流れなんでしょう。

 

「誇りなさい。ヤヤはいずれ私に追いつくわ」

 

 だから、今はただ泣き止んで貰いましょう。

 

「今回はヤヤが弱かったからじゃなくて、私が強すぎたから。ヤヤの才能は決して並じゃないし、実力もかなりある。能力は優秀だし、この先もっともっと強くなるわ」

 

「本当……ですか?」

 

「ええ。ヤヤが強くなりたいのなら、私が特訓してあげる。ヤヤがレシピを知りたいのなら、私は教えてあげる。ヤヤが望むなら、私はそれに応えてあげるわ」

 

 目的の為とはいえ、これが私の本心。

 

 さらに優しく、少し強く抱きしめる。

 

「……お願いします」

 

「ん、任された」

 

 なんか最近、私って男前じゃないかしら。

 

 この落ち着きと優しさ、それで男でイケメンなら今頃はハーレムを築いていたわね。

 

 今でも目指してるとは言っても、私はほぼ完全に女だし、男に戻りたいとも思わない。それに、誰でも良い訳じゃない。

 

 もっとも、目標のハーレムは皆で仲良くだから……遠い未来になりそうね。

  

 そしてそのまま、ヤヤが泣き止むまで抱きしめ続けた。

 




主、今月から専門生になりました。

UP速度等に、もしかしたら影響が出るかも知れませんが、まあ大丈夫でしょう。


専門の関係で、オリジナルを書く予定なので気が向いたら挙げたいと思います。

あ、専門は小説コースです。

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