目を開けると、白い世界に居た。周りを見渡しても白。上を見ても白。下を見ても白。
「なるほど、これはアレか、アレなんだな」
そう自分一人で納得してみるが、一向にここの主が出てくる気配はない。
まあそもそも、気配を感じるなんて芸当は俺には無理な話だけど。
「さて、仮にここがその空間だったとして、なんで俺はここにいるんだろうか」
腕を組んで、思い出そうとする。
「……あーうん、なるほど。頭が痛い。割れる様に痛い」
とりあえず、諦めた。続けても、どうせ思い出せそうに無いし。
それに、思い出せなくても一つだけ確実な事がある。夢ではない。
「ところがギッチョン!!」
「お、お前はアリ……いや、このノリはやめておこう」
「なんですか、なんですか!! ノリ悪いなー」
どうやらここの主らしき、それっぽい恰好をした女の人が出てきた。
開口一番の言葉にノリを合わせなかった事に不満を感じてらっしゃるのか、少し不機嫌な感じだ。
しかし、まあ、あれだ……かなり、可愛い生き物だな、うん。
神様って言ってもちゃんと五体満足だし、スタイルも中々……いや、かなり良いだろう。
顔は整っているし、髪は腰まである綺麗な金髪。
果たして肉体がちゃんと実体として存在しているのか、自由に容姿を設定出来るのかは分からないけど眼福なのは間違いない。
それと、これは俺の勝手な予想だけど、きっと純粋に違いない。神様だから貞操概念があるかはわからないけど、なんとなく下ネタに弱そうだ。
「今、もの凄く貞操の危機を感じたんだけど」
「ははは、気のせいだ。で、現状を教えてくれ」
どうやら、貞操概念はあったらしい。がばっと身体を抱きしめている。
「うーん、気になる……けどまあ、話を進めようかな」
……というか、読心術とかないんだな。
「君はね、半分死んでいるんだよ」
そんな事を考えていると、衝撃……でもない事を言われた。
「半分……というと、脳死?」
「現実的とは少し違うんだよね。文字通り、半分死んでいるんだ」
文字通りの半分?
「まさか、真っ二つにされて、半分体がないとかじゃ?」
まあ、そんな事あり得るわけ──
「凄いね、正解だよ」
まじか、恐ろしいな。というか、どうやったらそう死ねるんだ。いや生きてるのか。
「いやいや、おかしいだろ。現実的に考えてもどうやってその状況にならないはずだ」
「まあ現実的にはならないよね」
現実的にはならない……なるほど、そういう事か。
「世界は、非現実な世界。つまり、魔法などの存在が確立してしまったのか」
「凄いね、君って賢いんだ」
なんか、褒められた。素直に喜んでいいのだろうか。
「まあ一般よりは、って程度……いや、あんた神様なんだから俺の事くらい知ってるだろ?」
「神様なんていっぱいいるんだよ。それに君は、元々私の担当区域の人じゃないんだよね」
なるほど、神様にも十人十色が当てはまるのか。
意外と言えば意外だが、自分に起こってる現実的にはありな話だな。
「じゃあ、なんであんたが俺の所に?」
「上司から流れてきたの、多すぎて」
「なるほど」
世界が急に改変。恐らく神様のもっと上がいきなりそうしたから、上司が把握する前にこの事態が起こった。つまりは、死人が多すぎたのか。
「なら、なんで俺の記憶がないんだろうか?」
「え、本当?」
「ああ……勝手な予想だと、死に方があまりにも酷かったから消してくれたんだろうけど」
「うん、かなり酷いね」
やっぱりな。でも、そうなると困ったな。
覚えているのは、どうやら俺は変人……いや、変態の部類に入っている事だけだ。
さっきから、神様の胸に触りたくてしょうがない。なんとか抑えているけど……記憶が消えて無かったら、間違いなく触っているはずだ。いや、揉んでいる?
……とりあえず、この事は置いといて本題に戻ろう。
「俺はどこの世界に行けばいいんだろうか?」
「そこまでなんだね……うーん、どうしようかな。思い出したい?」
「いや、無理に思い出して頭痛が酷くなるのは遠慮したい」
正確には、神様が酷いと感じるレベルの思い出を、わざわざ思い出すのは精神的に持つ気がしないからだが。
ただ、自分の事だけは思い出したい。
本当にさっきから、本能と理性? らしき物が戦っている。天使の囁き対、悪魔の囁き的な。
「あ、じゃあ、死ぬ瞬間以外を思い出す感じでどう?」
その提案を聞いて、ピンと来た。そして、悪魔の囁きが勝利した。
「いや、なんとかなりそうだ」
行動は迅速だった。
目標を捉えると、目から脳へ。脳から首、肩、腕、手のひらへと伝い、対象をキャッチした。
「え?」
いや、キャッチというよりは、ゲットだろうか。
「ふむ、なんか思い出せそうな気がしてきた」
神様が唖然としているなか、俺は冷静に集中し手を動かし続ける。
「ちょ、ちょっと待って……ぅん、ひぁ、ん、ん……」
感触はマシュマロ……いや、別の物に例えるのは失礼だろう。
「いやぁ、だめぇ……ンっ!! ふぁ、あっ……」
まさに、おっぱいだ!!
「あ、あ、あ、あ、あのさ」
「なんだ?」
「なんで、君は平然と私の胸を揉んでるのかな!?」
なんで……なんでだろう? しいて言えば、悪魔の囁きが勝ったからだろうな。
「……気のせいだ」
とりあえず、誤魔化した。
「気のせいじゃないよ!! 私もちょっとノってあげたけど!! 普通、神様にそんなことする!?」
「……」
手を放す事はせずに、手を止めて考える……が、直ぐにやめた。
彼女が神様じゃなくても絶対に触るからだ。
「答えは、あんただから触った。以上だ」
というわけで、手の動きを再開する。
「いやいや、かっこよく言えば許されるとでも!? まあ、顔は好みだし、声はかっこいいし……そ、それに触り方も……って、何言わせるのよ馬鹿!!」
「ぐふぅ!! 思い出した!!」
俺の頬に、ビンタが炸裂した。さっきの頭痛より痛かった。
だけど、そのお陰で"俺"を思い出す事に成功した。
「このタイミングで!?」
「ああ、ありがとう。おかげで何が好きだったかも思い出したよ」
ちゃんと死に際も思い出したけど……思ってたより、酷く無かった。
「な、なんだか複雑なんだよ。でも、役に立ったな……ん? いや、私だけ一方的に被害受けてるよ!?」
「大丈夫、ナイスおっ──ぐはぁ!!」
「それ以上言ったら、次は容赦しないんだからね」
「い……いえっさー」
魔法弾らしき物が鳩尾に入ってなかったらまた言う所だった。
「よろしい。で、君はどの世界に行きたいのかな?」
にしても、可愛い顔してやる事はえげつないな……いや、俺が悪いんだけどな。手加減してくれたっぽいし。
普通に考えて、神様の攻撃食らってダメージだけで済む訳ないし。
「えーとだな、死ぬ直前に読んでいた本が『HUNTER×HUNTER』だからその世界で」
他にも行きたい世界はあるが、女の子がいっぱいいる所として、G・I編に出て来た恋愛都市がある事だし。
それに──
「そんな簡単に決めて問題ない?」
「無問題だ」
唯一俺が読んで、買ってる漫画だしな。
もちろん、ゲームはするけど……ギャルゲー系ばっかだしな。セーブとロードが出来ないとツライ。
「それなら、その世界にするね。じゃあ特典は? 三つだけど」
何が良いだろうか。正直なんでもいいと言えばなんでもいいしな。
「とりあえず、体をあの世界に最高水準で適応出来る体にして、二歳の時に転生させてくれ」
「了解。あ、それで一つかな」
「あ、二つだと思ってた……」
得したな……けど、そうなるとどうしようか。能力、念に一つ使うとして……時間貰おうか。簡単に決めすぎるのも、あれだし。
「他の二つは時間が欲しい。能力にかなりかかるだろうし」
「わかった、じゃあ決まったら呼んでね。それまで他の子も対応してるから」
「ありがとう」
そう伝えると、神様は一瞬で姿を消した。初めて、神様っぽいと思った。
……さて、神様も居なくなったし、ゆっくり考えよう。
まず、何をしたいかだけど……G・I編に行く。これは絶対条件。
後はそうだな……旅団のマチに会いに行くのと、ネオンに会いに行く為にかなり戦闘力がいるか。
つまり、女の子とキャッキャウフフをしようと思うと、使える念じゃないと絶対にダメな訳だ。
「うん、時間がかかりそうだ」
◆ ◆ ◆
──そこから、俺の念が決まるまでかなりの時間を要した。
「ナイスお──」
「こらこら、何て呼ぼうとしたのかな? 次は容赦しないって言ったよね?」
「じょ、冗談だって」
まさか顔面に飛んで来るとは思ってなかった。てっきり下に飛んで来るもんだと思っていたので、油断した。
「で、決まったんだね」
何時間経ったかは分からないけど、本当に時間が掛った。本当に使える念かは分からないけど……かなり優秀なはずだ。きっと。
「ああ。残りの二つ、まずは一つ目だけど……あの世界にある念、っていう能力の指定」
「うん、了解。説明は無くても大丈夫。イメージを持ったままでいてね」
なるほど、そんなのでいいのか……便利だな。いやまあ、当然なのかも知れないけど。
「残りの一つもかなり悩んだけど、才能かな」
「才能?」
「うん。あらゆる物に対しての才能。そつなくこなせるとか、一を聞いて十を知り、十を体感し百を感じれる……的な」
「なるほど」
最後のは完全に造語だけど、イメージ的には合ってるんだよな。
「死が直ぐ近くにあるあの世界で、優秀な能力は合っても使いこなせないなら意味がないし……と思って、戦闘経験とか戦闘に役立つ物がいいかなとか考えたけど、それだと曖昧過ぎて想像出来なくてさ。それなら、パソコンに勝る優秀な脳と考えて、結果的に才能に落ち着いた……って感じだ」
「よ、よく考えてるんだね。他の人たちは、はーれむ? とか何とか言って、直ぐに決めちゃってたけど」
ハーレムか……自分で作ればいいしな、うん。
うん?
「うん。じゃねえよ!! あっちの世界でこの容姿が受けなかったらモテないじゃないか!!」
「!?」
何故、気が付かなかった……このままだと、容姿だけだと普通よりは少しモテる程度の俺が、女の子にモテる訳がないじゃないか!!
「困った……」
「それは大丈夫。特典とは別に、おまけで修正しとくよ」
目の前の神様が、女神に見えた。いや、元々女神か。
「じゃあ、そのイメージを持ったままでいてね。これから君を送るから」
そう言うと、俺の足元に魔法陣的な物が出てきた。
なんか、あっさりしているな……まあ他にも人がいっぱいいるし、対応は早くないといけないのか。
じゃあ、さっきは何であんなに漫才? してたかって言われたら、俺がボケてたしな。真面目に進めると、こんなにもスムーズに終わるんだな。
「10秒後に送られるよ」
「了解……あ、ちょっとこっち来てもらっていいか?」
「ん? いいよ」
俺は咄嗟に思い付いた事を実行する為に、元々近くにはいたけど、神様を更に近くに呼んだ。
「で、どうしたの?」
「近くで言おうと思ってさ、改めてありがとうって」
「あ、うん。どういたしまして」
後、5秒くらいだな。
「本当に助かった。それじゃ次に会うときは死んだ時かな?」
「君の担当が私になったらだね」
「じゃ、担当になってくれよ。それじゃ──」
そう言って、俺は最後にもう一度。それが辺り前の様に手を伸ばし、神様の胸を揉んだ。
「ナイスおっぱい!!」
「ちょ!?」
そして、俺の意識はなくなったが、残ったのは至福な感触だった。
◆ ◆ ◆
「まあ、最後くらい……って、最初もそうだけど。でも、まあ次に会ったら責任とって貰おうかな、なんせ初めての相手だし」
そして主人公の知らぬ所で、死後の未来が確立されてしまったのであった。
◆ ◆ ◆
「リナ?」
「成功したみたいだな、無事に」
「あ、あなた!! リナがいきなり変な事を!!」
あれ、驚かれたって事は……まだ、あんまり話せない時期なのか。
「なんて言ったんだい?」
「成功した、なんたらかんたらって」
「ははは、まさか。まだ二歳だぞ」
「でも、確かにそう言ってた気がしたんだけど……そうよね、今日で二歳ですもんね」
なるほど、まだ二歳か。確かに言葉をしっかりと話せる時期じゃないな。
「おれ、にさい!!」
なので、少し馬鹿らしく、片言らしく言ってみる。
「……」
「……」
すると何故か身構えられた。
あれ、まだこんなに話せないのか?
「にさい」
「そ、そうよリナは二歳ね」
よし、これならいいんだな。
話す感じは合ってるから、次はどれだけ動けるか試すか。
赤ちゃんは平均的に一年前後で立つ事が出来るらしいから、二歳だとわりと動く程度かな?
そう思い、腕を回したり、歩いてみる。
「この子、元気が余ってるのかしら?」
「そうかも知れないな、今日はそういう日なんじゃないか?」
そう言って、恐らく母らしき人が机に座って父らしき人と話始めた。
こっちに視線がない事を確認した俺は、とりあえず座ってから立ってみる。少しぐらつくが可能。
次は走ってみる……これも余裕だけど、少し息があがるというか疲れるな。
「あら、あの子走ってるわ……外に連れて行ってきますね」
「あ、なら俺も行こう。仕事は一段落ついているしな」
「おそと? いくー」
ちょうどいい、走れるだけ走ってみよう。
そう思い時間を確認すると14時となっていた。どれぐらいで動けなくなるか挑戦だ。
そして近くの公園に連れられ、草の茂る広場に来た。
「良い時間になったら帰るわよ。わかった?」
「うん」
そして走ろうとした時に気が付いた。むしろ、なぜ気が付かなかったのか。
なんだ、この服? ひらひらして、動きにくいじゃないか。おまけに色がピンクだし。
……ピンク? ひらひら?
「……」
う、嘘だろ。
「あの子、いきなり固まってるわね。どうしたのかしら」
「ちょっと行ってくるよ」
なんで、ないんだ?
「どうしたんだリナ?」
「あの、俺って女?」
「……」
「……」
そして舞い降りた沈黙。
それは、色々な意味で否定できない現実を語っていた。
◆ ◆ ◆
と、そんな事があってから二年が経ち、四歳だ。現在、暦は5月10日。
誕生日は4月10日にあるので大体一ヶ月経ったぐらいだ。
「本当に、いつからこうなったのかしら」
「生まれた時から」
そもそも、名前で気づけよって話だったんだけど……本当に馬鹿だ。
「そうよね、それはそうよね」
もう、諦めた……訳でもなく、とりあえず言葉づかいだけは抵抗してみている。
ただ、やはりどこか前の持ち主の女が反応して、時々そちらに揺らぎそうになるのだが。
「だけど、負けない」
「そうね、頑張って言葉づかいは直しましょう」
「もう無駄だけどな」
そう言って、公園に逃げた。もうこの流れは何度もしているので、母も追いかけて来ない。
「さて、今日も特訓だわ…………特訓だ」
くそう、いつか勝ってみせる。
とりあえず、準備体操してから走り込み。それが終わり、次は腕立て伏せなどの筋トレ。数千回で限界を感じる。
いくら最高水準でお願いしても、多分これが限界なのだろう。身体発達の。
「……よし、次は念だ」
他人の視線が怖かったので、いつも公園の中と言っても人の来ない森林地区で特訓している。時々動物、リスや熊が来るが今では友達になった。
そうして、念の訓練をしている内に日が暮れそうになったので家に帰った。
◆ ◆ ◆
そしてそこから更に数年経ったある日、16歳になった誕生日の日にふと頭にある予感がよぎった。
「なるほど、今年が始まりの年」
「ん? たしかに16歳だから色々始めれる歳だけど?」
「だよね……私、やりたいことがある。ちょっと待ってて」
母の返事を聞くより早く、部屋に戻ってハンター試験応募カードを取り、母の元に戻る。
「これは……ハンター試験応募カード!?」
「うん。私、ハンターになりたいんだ」
「……と、驚いてみたけど特に反対はしないわ。好きにしなさい」
……いや、まあうん。
「ありがとう、ママ……でも、本当にいいの?」
ちなみに、もうすっかり女として馴染んでしまい、男だった頃の垂れ流していた情熱はもう薄れている……はずよね。
未だに可愛い女の子等を見ると興奮して手は出るけど、昔の私だと間違いなく……うん、酷い人間だったわ。
「いいわよ。どうせ反対しても行くんでしょ?」
「え、うん」
「ほらね」
流石は母。こちらの考えは読まれていた。親が強いと言うよりは、本当に母は強し。父はかなり鈍いし。
「これっていつなの?」
「来年直ぐだから、後一年はあるよ」
「そうなのね。じゃ、条件があるわ」
「うん、何?」
「連絡とお金。お金はしっかりと送りなさい。お金はしっかり送りなさい」
……そしてこの母、中々に現金なのよね。言葉づかいもしっかりと矯正させられたし。本当はもっとおっかない人なんだと、何となく思う。
今では、仕草や服装と言った、何もかもを叩き込まれたし……。
一応過去として、前の自分の記憶もあるけど、殆ど忘れている。覚えているのは、この世界のある程度の設定と自分の前の世界の行動、神様との会話ぐらい。
何故か、女として矯正……調教? されている記憶は殆どない。いや、思い出せないが正解。
「わ、わかった」
「後は……死なないで帰ってきなさい。一年に一回、必ず」
「……ありがとう、ママ」
色々と騙して生きて来たけど、やっぱりこの人は私の母ね。人生では二人目になるけど、どっちも選べないわね。
「いいえ。パパには内緒にしておくから、絶対にハンターになりなさい」
「うん」
こうして、現金な母の元、無事? にハンター試験を受けることが決まった。