体育館へ続く渡り廊下、一歩が重く感じる。実悠は大丈夫だろうか、本当に追い返せるのだろうか。そんな心配をしてしまう。
そして気付く。
ササガワのことを。あいつの近くにいる男を。
「 クソが 、あいつは大丈夫に決まってる」
そう自分に言い聞かせて体育館へ向かう。それでも頭から離れない。
そんなことを考えていると生徒指導の教師が近付いてきた。
「奥斑!相手側に氷属性の奴がいるらしい!お前確か『獄炎』だよな?」
氷属性………、俺の『獄炎』とは相性が悪い属性だ。
「はい、そうですけど………」
「よし、手伝ってくれ!」
願ってもない、戦況の確認もできるし、多少なりとも実悠の手助けができる。未練たらたらだが仕方ない。
またとないチャンスに俺は、
「はい!もちろんです!」
◇◆◇◆◇
校庭に出てみると非現実的な光景が広がっていた。『聖剣』同士がぶつかり火花を散らす。これが戦場なのか。
兄が見ている光景もこれに近いのだろうか。そんなことを思いつつ、俺は魔法を放つために詠唱を始めた。
「楔は焔、代償は血。この世の全てを灼き尽くさんほどの地獄の火炎を以て、灰燼となせ!」
『獄炎』はその名の通り地獄の炎、罪人を裁くためにある。自分が敵と認識した人物に関係するありとあらゆるものを灼き尽くす。
俺の『獄炎』は敵の氷属性の魔法をあっという間に溶かし尽くしてしまう。そして、術者にも炎は燃え広がる。
死にはしないが重度の火傷ぐらいはできるだろう。
そのとき、遠くの方から爆音が聴こえた。
何の音だろうか、そんなことを思いながら近付いてみると、実悠が敵と戦っていた。
「あんたたちは一体誰なのよ!?」
「貴女に教える必要はないわ、私たちに付いてくるなら別だけど」
どうやら敵の中心的な存在らしい。
何故かというと、敵は聖剣『リジル』を扱っていた。
「付いていく?そんな馬鹿なこと、あるわけないでしょ!!」
「そう?ならば、聖剣『アロンダイト』だけでも貰っていくわよ!!」
"名前付き"の『聖剣』同士の争い。きっとこんな近くにいたらただじゃすまないだろう。
しかし、何故か離れられない。
いや、理由ならわかっている。実悠に勝ち目がないからだ。
実悠と敵の女の実力は明らかだろう。テロ紛いのことを起こすことかできるほどの『聖剣』使いと、剣の扱いにおいて素人では、圧倒的に後者が不利だ。
「そんなこと、させるわけないでしょ!!」
そう言いながら『アロンダイト』を振るう。しかし、敵はいとも簡単にそれを避ける。そして実悠の頭の上から『リジル』を一閃、それを『アロンダイト』て受け止めるが完全に押されている。
「ほらほら!貴女がソレを持っていても豚に真珠よ!!」
「誰が豚かぁ!!」
キレるところがずれている気がするがまぁ置いといて、感情的に動いた実悠は、ただでさえ悪い太刀筋を一層悪くなる。
このままでは実悠が負けてしまう。
「実悠!頭を冷やせ!!」
とっさに叫んでしまう。叫んでから気付いた。俺、今めちゃくちゃ危ない!
「慎哉!?」
俺に気付いた実悠が驚きの表情をあげている。そして、それは敵も同様だった。
「あら?可愛い子ねぇ………、一人ぐらい大丈夫よね」
「一人ぐらいって………、慎哉に何するつもり!?」
ん?襲われると思ってたんだけどなんか話してんな………。
「何って、美味しくいただくのよ、貴女にはまだ早いかしらね」
クスッと笑う表情がとても魅惑的で、一瞬クラッときてしまった。しかし、そんな状況じゃない。
「慎哉!早く逃げて!!」
実悠にそう言われ、一目散に逃げ出す。
「逃がさないわよ!」
うしろから追いかけてくる女。
「慎哉!危ない!!!!」
どうして俺は、あそこで叫んでしまったんだろう。
敵に自分の存在を、バラしてしまったのだろう。
そんなことしなければ、こうはならなかったはずなのに。
俺を庇うように、実悠が女に斬られることも、なかったはずなのに。
すいません。
今日はいろいろあって忙しかったので一話だけです。