翌日、学校へ行こうにも気分が重く身体が動かない。昨日のこともあるし、何より朝目覚めたら隣で兄が寝ていた。
いや、訂正させて貰おう。
全裸の兄が俺の隣で、恍惚な表情を浮かべて寝ている。
○●○●○
寝覚めの一発を食らい腰が抜けてしまった俺は、妹の助力もあってようやく支度を終わらせることができた。
「ったく、何回目だよ。そろそろやめてくんないか?兄さん」
「ん、すまんな。だが、仕方ないだろう。誰しも睡眠欲には勝てん」
「
和にぃこと、
彼は大学一年で、大学に通いながら『聖剣』を扱う「聖剣騎士団」に所属している。
「聖剣騎士団」の主な仕事は、各国のトップやそれに準ずるもの、及び国事などにおいて警備を一任されている一つの自警団だ。
「あぁ、そうだ。今日は気を付けろ」
「ん?またなんか事件か?」
「いやな、ほら、なんて言ったっけあの娘」
「もしかして、実悠さん?」
「そうその娘。なんか狙われてるらしくてな。今日は俺たちがここらへんに誰もいないんだが、もしかしたら、な」
「大丈夫だろ、聖剣『アロンダイト』の所持者だぜ?」
「しかし、万が一もあろう。なにせ、剣は素人だろう?」
稔原実悠は、聖剣『アロンダイト』の所持者ではあるが、剣は触れたこともなかったのだ。
名前はいいが、実戦ではたいして使い物にならないだろう。
「いざとなったら、慎哉。お前の得意な『獄炎』で奴らを焼き払え」
この世界には『聖剣』の他に、魔法も扱っている。魔法を扱うには魔力が必要となる。様々な属性に分かれて、個人によって魔力傾向も違ってくる。
俺の魔力傾向は、「獄炎」。
普通の「火」とは違って、極めて火属性が強いため、「獄炎」に分類している。
ちなみに、逢未は「深緑」、和綺は「雷光」である。「深緑」は、「獄炎」と同様に緑属性が強いからである。
そして、極稀に「雷光」といった、二属性に長けた魔力傾向が現れる。この場合、雷属性と聖属性の二つが等しく強いため「雷光」となっている。
魔力傾向に沿っていればいるほど、魔法の威力や精度は上がるが、必ずしもその属性魔法しか使えないわけではない。
現に、俺は「獄炎」でも「聖光纏」という防御系の魔法を使える。
そして、小さい頃から魔法は扱えるため、俺は必死に魔法を鍛錬し、魔法なら学校でも上から数える方が早い。
下手な『聖剣』使いよりは強い、自信はある。
「けどさ、相手が『聖剣』使いだったら時間稼ぎにもならないぜ?」
「ふむ………、しかし慎哉の学校にはキリストが………いや、先生たちが何とかしてくれるさ」
「?キリストがどうしたんだ?」
「忘れろ、覚えていても為にならん」
忘れろと言われると余計忘れられなくなるのが人の性。しかし、深く追求するのはやめておく。
そして、時計を見ると既に登校すべき時間になっていた。
「やべ、遅刻しちまう!」
「え!?もうそんな時間!?私も遅刻しちゃう~!」
「慌てん坊め」
「兄さんも仕事の支度しろ!!」
こんな風に、一日が始まる。
そして学校へ行き、昨日のことを引きずりながら一日を過ごす。
家に帰ってきたら逢未と遊んで、兄さんの帰りを待つ。
もしかしたら、今朝みたいなことになるかもな。
そんな日常が続くと思っていた。
少なくとも、このときの俺は。
兄さんの注意なんて忘れてしまって。
今日も変わらぬ一日を、と思っていたのに。