魔剣伝説   作:夢雨麻

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第三振

 翌日、学校へ行こうにも気分が重く身体が動かない。昨日のこともあるし、何より朝目覚めたら隣で兄が寝ていた。

 いや、訂正させて貰おう。

 

 全裸の兄が俺の隣で、恍惚な表情を浮かべて寝ている。

 

 

 

 

 

         ○●○●○

 

 

 

 

 

 寝覚めの一発を食らい腰が抜けてしまった俺は、妹の助力もあってようやく支度を終わらせることができた。

 

「ったく、何回目だよ。そろそろやめてくんないか?兄さん」

 

「ん、すまんな。だが、仕方ないだろう。誰しも睡眠欲には勝てん」

 

(かず)にぃはいっつもそうなんだから」

 

 和にぃこと、奥斑和騎(おくむらかずき)は奥斑三兄弟の長兄である。

 彼は大学一年で、大学に通いながら『聖剣』を扱う「聖剣騎士団」に所属している。

 「聖剣騎士団」の主な仕事は、各国のトップやそれに準ずるもの、及び国事などにおいて警備を一任されている一つの自警団だ。

 

「あぁ、そうだ。今日は気を付けろ」

 

「ん?またなんか事件か?」

 

「いやな、ほら、なんて言ったっけあの娘」

 

「もしかして、実悠さん?」

 

「そうその娘。なんか狙われてるらしくてな。今日は俺たちがここらへんに誰もいないんだが、もしかしたら、な」

 

「大丈夫だろ、聖剣『アロンダイト』の所持者だぜ?」

 

「しかし、万が一もあろう。なにせ、剣は素人だろう?」

 

 稔原実悠は、聖剣『アロンダイト』の所持者ではあるが、剣は触れたこともなかったのだ。

 名前はいいが、実戦ではたいして使い物にならないだろう。

 

「いざとなったら、慎哉。お前の得意な『獄炎』で奴らを焼き払え」

 

 この世界には『聖剣』の他に、魔法も扱っている。魔法を扱うには魔力が必要となる。様々な属性に分かれて、個人によって魔力傾向も違ってくる。

 俺の魔力傾向は、「獄炎」。

 普通の「火」とは違って、極めて火属性が強いため、「獄炎」に分類している。

 ちなみに、逢未は「深緑」、和綺は「雷光」である。「深緑」は、「獄炎」と同様に緑属性が強いからである。

 そして、極稀に「雷光」といった、二属性に長けた魔力傾向が現れる。この場合、雷属性と聖属性の二つが等しく強いため「雷光」となっている。

 魔力傾向に沿っていればいるほど、魔法の威力や精度は上がるが、必ずしもその属性魔法しか使えないわけではない。

 現に、俺は「獄炎」でも「聖光纏」という防御系の魔法を使える。

 そして、小さい頃から魔法は扱えるため、俺は必死に魔法を鍛錬し、魔法なら学校でも上から数える方が早い。

 下手な『聖剣』使いよりは強い、自信はある。

 

「けどさ、相手が『聖剣』使いだったら時間稼ぎにもならないぜ?」

 

「ふむ………、しかし慎哉の学校にはキリストが………いや、先生たちが何とかしてくれるさ」

 

「?キリストがどうしたんだ?」

 

「忘れろ、覚えていても為にならん」

 

 忘れろと言われると余計忘れられなくなるのが人の性。しかし、深く追求するのはやめておく。

 そして、時計を見ると既に登校すべき時間になっていた。

 

「やべ、遅刻しちまう!」

 

「え!?もうそんな時間!?私も遅刻しちゃう~!」

 

「慌てん坊め」

 

「兄さんも仕事の支度しろ!!」

 

 こんな風に、一日が始まる。

 

 そして学校へ行き、昨日のことを引きずりながら一日を過ごす。

 

 家に帰ってきたら逢未と遊んで、兄さんの帰りを待つ。

 

 もしかしたら、今朝みたいなことになるかもな。

 

 そんな日常が続くと思っていた。

 

 少なくとも、このときの俺は。

 

 兄さんの注意なんて忘れてしまって。

 

 今日も変わらぬ一日を、と思っていたのに。


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