『……き………』
「ぁ………………?」
『起き…………』
「なん、だ……?」
『起きろ!!』
「ッ!?」
どこを見ても真っ黒な世界。
全て同じ色だから距離感がつかめない。
何もない場所から聴こえてくる声。いや、そもそもこの空間自体がこの声の正体なのだろう。
頭の中に直接声が聴こえてくるからだ。
「誰なんだ?」
頭の中に響く声に問いかけてみる。
『俺が誰かなんてどうでもいいだろう?』
いや、どうでもよくはないだろ。
『どうでもいいからどうでもいいんだろ』
結構重要だぞ?全………く…………?
「なんで心を読んでるんだよ!?」
『あぁ?今更かよ………』
身体の奥底に響いてくる重低音の声で話しかけてくる。
「それより、ここはどこだ?」
今、一番気になっていることだ。
こいつが誰なのかは教えてくれないしな。
『ここはお前の心の中さ。全く、どれだけの闇を抱えれば………、って俺が居たらしょうがねぇーわな』
なんのことかわからないけど、ここは俺の心の中らしい。
俺の中の闇がこの色を生み出してるということも。
そりゃ、あんなことがあれば闇も抱える。
『そんな小せぇことでこんな黒くなるか』
「………お前は知ってるのか?」
『カカカ、どうかなぁ。俺はお前に一つだけ言いたいことがあんだ』
「なんだよ」
『神に、
………………、何を言ってやがる。
そんなの決まってんだろ。
「欲しいさ………実悠を、学校の奴らを見返すことができるなら、何でも欲しい」
『カッカッカッ!気に入った、俺の力を
◇◆◇◆◇
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ!」
日も沈み、暗闇と静寂に包まれている部屋。
尋常じゃないほどの汗を流しながら息を整える。
先程の夢─というには些か現実味を帯びていたが─の中で聴いたあの声が頭の中でリピートしている。
また、恐怖も感じている。
それはそうだ。人は誰しも、己の中に己ではない別のモノがあると知ったら恐れるであろう。まぁ、高揚感を覚える人間もいるかもしれないが。
とにかく、慎哉は恐れている。
「クソッ!………ツいてない日だ」
あんなことがあり、悪夢をみる。
常人であったら発狂しかねない程だが、慎哉にとってはとるに足らないことだった。
「とりあえず、腹減った」
睡眠というのはかなりのエネルギーを使う。
昼寝をした後にだるさを感じる人はいないだろうか。つまり、エネルギーが足りていない証拠だ。
「けど、妙に引っかかるな………」
先程の夢のことを考えながら階段を降りる慎哉。
その慎哉の背後から忍び寄る気配。
「お兄ちゃん!
「うわっ!?」
突如後ろから飛び込んできたのは、慎哉の妹の
この家は共働きのため、家事などは基本的に逢未が行っている。そのため、夕飯ができたときにでも呼びに来たのだろう。
魘されてたと知っているなら気を使って欲しい。
「別に、何でもないよ」
「そうなん?ならいいけどさ、何かあったら直ぐに言ってね?」
この通り、心配性な妹だ。齢12にして母親のような奴である。
そんな年下の母親のお節介に対し、
「はいはい、わかってるよ。あと、腹減った」
と、適当に返事をする。ついでに夕飯の催促も欠かさない。