魔剣伝説   作:夢雨麻

3 / 15
第二振

 『……き………』

 

 「ぁ………………?」

 

 『起き…………』

 

 「なん、だ……?」

 

 『起きろ!!』

 

 「ッ!?」

 

 どこを見ても真っ黒な世界。

 全て同じ色だから距離感がつかめない。

 何もない場所から聴こえてくる声。いや、そもそもこの空間自体がこの声の正体なのだろう。

 頭の中に直接声が聴こえてくるからだ。

 

 「誰なんだ?」

 

 頭の中に響く声に問いかけてみる。

 

 『俺が誰かなんてどうでもいいだろう?』

 

 いや、どうでもよくはないだろ。

 

 『どうでもいいからどうでもいいんだろ』

 

 結構重要だぞ?全………く…………?

 

 「なんで心を読んでるんだよ!?」

 

 『あぁ?今更かよ………』

 

 身体の奥底に響いてくる重低音の声で話しかけてくる。

 

 「それより、ここはどこだ?」

 

 今、一番気になっていることだ。

 こいつが誰なのかは教えてくれないしな。

 

 『ここはお前の心の中さ。全く、どれだけの闇を抱えれば………、って俺が居たらしょうがねぇーわな』

 

 なんのことかわからないけど、ここは俺の心の中らしい。

 俺の中の闇がこの色を生み出してるということも。

 そりゃ、あんなことがあれば闇も抱える。

 

 『そんな小せぇことでこんな黒くなるか』

 

 「………お前は知ってるのか?」

 

 『カカカ、どうかなぁ。俺はお前に一つだけ言いたいことがあんだ』

 

 「なんだよ」

 

 『神に、聖なる物(クソ野郎共)に勝てる力が欲しいか?』

 

 ………………、何を言ってやがる。

 そんなの決まってんだろ。

 

 「欲しいさ………実悠を、学校の奴らを見返すことができるなら、何でも欲しい」

 

 『カッカッカッ!気に入った、俺の力を()()しよう!!』

 

 

           ◇◆◇◆◇

 

 

 「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ!」

 

 日も沈み、暗闇と静寂に包まれている部屋。

 尋常じゃないほどの汗を流しながら息を整える。

 先程の夢─というには些か現実味を帯びていたが─の中で聴いたあの声が頭の中でリピートしている。

 また、恐怖も感じている。

 それはそうだ。人は誰しも、己の中に己ではない別のモノがあると知ったら恐れるであろう。まぁ、高揚感を覚える人間もいるかもしれないが。

 とにかく、慎哉は恐れている。

 

 「クソッ!………ツいてない日だ」

 

 あんなことがあり、悪夢をみる。

 常人であったら発狂しかねない程だが、慎哉にとってはとるに足らないことだった。

 

 「とりあえず、腹減った」

 

 睡眠というのはかなりのエネルギーを使う。

 昼寝をした後にだるさを感じる人はいないだろうか。つまり、エネルギーが足りていない証拠だ。

 

 「けど、妙に引っかかるな………」

 

 先程の夢のことを考えながら階段を降りる慎哉。

 その慎哉の背後から忍び寄る気配。

 

 

 「お兄ちゃん!(うな)されてたけどどったの??」

 

 

 「うわっ!?」

 

 突如後ろから飛び込んできたのは、慎哉の妹の逢未(あみ)。現在、中学一年である。

 この家は共働きのため、家事などは基本的に逢未が行っている。そのため、夕飯ができたときにでも呼びに来たのだろう。

 魘されてたと知っているなら気を使って欲しい。

 

 「別に、何でもないよ」

 

 「そうなん?ならいいけどさ、何かあったら直ぐに言ってね?」

 

 この通り、心配性な妹だ。齢12にして母親のような奴である。

 そんな年下の母親のお節介に対し、

 

 「はいはい、わかってるよ。あと、腹減った」

 

と、適当に返事をする。ついでに夕飯の催促も欠かさない。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。