拝啓 初夏の風が吹き始め、暑さも増してきた今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。僕はいま、絶賛追いかけ回されております。聖剣『アロンダイト』を手に持った幼馴染の稔原実悠に、殺す気で追いかけられています。
さて、何故この状況に陥ったかを簡単に説明しますと、
「聖剣が出ない→やる気がないから→窮地に陥ればあるいは→サクッと殺っちゃお☆」
こんな感じです。
これからも長く、平和に暮らしてください。 敬具
お父さん お母さん 兄貴 妹
奥斑慎哉
という感じで実家の家族に手紙を送ろうかと思っております。なんでかってね、これ本気で死にそうなんです。だってほら!女の子がしちゃいけないような顔で追いかけてきてますもん!
「待てゴルァァァァァァァァァ!!」
「だ、誰が待つか!死ぬ!死んでしまう!」
「潔く死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「俺が『聖剣』を手に入れるためじゃねぇのかよ!!?死んだらもともこもねぇーだろが!!!!」
「だったら『聖剣』だして反撃しろ!!」
あの生徒指導の教師と別れてから数十分。未だに『聖剣』が出そうな気はしない。もしかして、無能なんだろうか………。
そんなことを考えながら逃げ続けても埒があかず、抵抗を試みるも"名前付き"の『聖剣』に対抗する手段なんて"名前付き"の『聖剣』ぐらいであるため、慎哉にはどうすることもできない。
「クッソ!なんかねぇーか!?」
「ほらほら、もっと早く逃げないと死んじゃうゾ☆」
いつもとキャラ違いすぎんだろ!
「一回止まってくんねぇーかな?」
なーんて淡い期待を抱いてみるも、
「無理っ☆彡」
という具合に流れ星付きで却下される。本当に死にそうなんだかどうしたもんか。
逃げながら考えていたら後ろからの殺気がなくなっていることに気付き振り返る。
すると、さっきまで俺を追いかけていた実悠が一人の男子生徒に絡まれていた。
あいつ、たしか実悠の次に精度の高い『聖剣』を持ってる奴だな。
何を話しているのか近付いてみると、
「この間の件、考えてくれたかな?」
この間の件?なんなんだ、いったい。
「えっと」
「あんな『聖剣』も出せないようなクズと一緒にいると君の評判も悪くなる。そんなの僕は耐えられないんだ。僕と一緒になった方が君のためにも、この学校のためにもなるんだ」
それは俺のことか?ってかこれって所謂告白ってやつか?そうなのか?
「慎哉のこと何も知らないくせに」
「知ってるさ、誰でも出せるはずの『聖剣』を出せない落ちこぼれのクズ、ってね」
クズクズうるさいな、さっきから。
「それは違う!」
「違わないさ。早く僕を選んでくれ。僕の方が君を幸せにできる」
………………。
「そんなの………」
「なぁ~にしてんの?」
「………………チッ」
露骨に舌打ちしやがって………。
「もしかしてお邪魔だった?」
「そんなこと」
「あぁ、大事な話の最中なんだ。どこか行っててくれないか?」
………………ムカつくけど、こいつの言うことはごもっとも。その方が、実悠のためになるんだからな。
「OK、邪魔者は退散するさ」
「あっ、慎哉待って………………」
「さぁ、続きを話そう」
………………………………。
こんな感情、生まれて始めてか?わからないけど、とりあえず、邪魔者は退散といくしか。
◇◆◇◆◇
家について一息、今頃隣の幼馴染さんはリア充か。べ、別に悔しくなんかないんだからねっ。
………………自分でやってて気持ち悪い。
本当にこれでよかったかなんて知らないけど、少なくともあいつと学校の評判はいいだろ。
あ、かばん学校に忘れた。けど、今出歩く気はおきない。
そりゃ、そうだろ。初恋の、十二年間の片想いも今日で終わり。
いくら俺が男だといっても、こういうときくらい泣いても悪かないだろ。
あぁ、不条理だ。なんで俺には神の加護ってのが無ぇのかな。
昔っからとことん神様ってのに嫌われてる。
道を歩けば自転車に轢かれ、公園で遊んでりゃブランコの留め具が外れる。自転車に乗ればブレーキが壊れて壁に突っ込むし、誕生日なんてまともに迎えた試しがない。
どれも小さいことだが、学校やらを休むほどの怪我をしないから学校へ行かなきゃならんし、家族皆、俺の誕生日は祝ってくれない。
けど、今回のは辛い。
だからこそ、俺は思ってしまう。
言葉が漏れてしまう。
「神様なんかクソくらえだ。いなくなっちまえ」
少し長めにしました。
本当に少しですがw