ハイスクールD×D ~転生した大導師~   作:尾尾

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第6話

 

  戦争が始まって長い年月が経過した。人間より長い寿命を持つ天使、堕天使、悪魔達にはそれが数ヶ月なのか、それとも数年なのかもう分からなくなっていた。お互いに引く事が出来ないままズルズルと長引き、犠牲者のみが増え続けてゆく。天使、堕天使陣営は多くの幹部を失い悪魔陣営もルシファーを除く魔王達を討ち取られていた。

  アレイスターも母を失った日から変わった。いや、変わったというのは間違いだ。正しくは"戻った"であろう。

  あの日からアレイスターには一切の容赦がなくなった。すこし前であれば撤退してゆく敵ならば態々手にかける事なく見逃していたが今では逃走兵だろうが関係はない。敵兵ならば容赦なく皆殺しにする。慈悲は無くただひたすら作業の様に淡々と敵兵を殺す様は味方であるはずの悪魔達からも恐れられていた。しかし、それでも友であるサーゼクス達だけはアレイスターから離れる事はなかった。

  終わりの見えない泥沼化した戦争にある日、突如として転機が訪れる。二天龍と称される赤龍帝ドライグ、白龍皇アルビオンが争いを始めたのだ。何処ぞの竜が喧嘩をするのなら何も問題はなかった。しかし一部の者を除けば最強である二天龍の争いである。いくら本人達にその気がなかったとしてもその争いに依る余波は各陣営に多大な被害をもたらしていたのだった。そうなってしまえばもう戦争どころでは無い。結果として一旦戦争は休戦となり、各陣営のトップによる対二天龍の会議が開かれる事となった。

 

 

  ♢

 

 

「いままで散々戦ってきたのにこうして顔を合わせるなんて変な感じだな」

 

「あぁ、まったく厄介な時に暴れてくれるもんだぜ。あの二天龍共は」

 

  悪魔からは魔王ルシファーが、堕天使からは総督アザゼルが、そして天使からは聖書の神がそれぞれこの会議に出席していた。

 

「それで、お二方は何か案があるのでしょうか?」

 

「そんなもんあったらここには居ねーよ」

 

「俺もなんも思いつかんわ。戦争で頭脳担当が死んじまいやがったからな。俺は基本的に労働担当なんだよ」

 

  アザゼルが聖書の神に悪態をつく。脳筋であるルシファーも具体的な案を持っていなかった。そこへ聖書の神がある提案をする。

 

「ともかく二体を同時に相手にするというのは無謀です。分断して各個撃破を狙うというのが最善でしょう」

 

「まぁ確かにそれはそうだが……」

 

「分断させる役目は我々天使が引き受けましょう。残る皆さんは待ち構えて分断した二体を仕留めて下さい」

 

  聖書の神が自信満々に自らの案を説明する。確かに二天龍を分断するというのはよい考えであった。しかしここである事にアザゼルが気付く。

 

「おい、ちょっと待て。分断させるのはいい。だが此方の戦力も二つに分けなきゃなんねーぞ。それだといまの俺らの戦力じゃ二天龍を倒せるとは思えねぇ」

 

「確かにアザゼルの言う事は最もです。しかし二天龍を一人で相手どる事ができるかもしれない者がいるでしょう?お二方も心当たりがあるはずです」

 

「────金色の魔人か」

 

  聖書の神の言葉にアザゼルは一人の悪魔が思い浮かぶ。アレイスターだ。アレイスターはどの悪魔とも一線を画す存在である。アザゼルも戦争中その力は嫌というほど味わってきた。もしかすると二天龍をも凌駕するかもしれない。そう思えるほどの力だった。

  だがそれに反論するのはルシファーだ。

 

「てめえ、まさかアレイスターに一人で戦わせようって言うんじゃねーだろうな?」

 

  ルシファーの言葉にははっきりと怒りの感情が込められている。それもそのはず、聖書の神の作戦は普通に考えれば死ねと言っているようなものだ。ルシファーからすれば、そのような事は到底認める事はできなかった。

 

「それが最善だと私は思います。他の案があるならどうぞご提案を」

 

「ぐっ!」

 

  そう言われると反論する事が出来ない。ルシファーは肝心な時に死んだ頭脳担当の魔王と回らない自分の頭が憎かった。

 

「異論はない様ですね。それでは細かい所を詰めて行きましょうか」

 

  ルシファーの握りしめた拳からは悔しさと不甲斐なさのあまり血が流れ出ている。結局何も思い付く事は無く聖書の神の案を採用するしかないのであった。

 

 

  ♢

 

 

  戦争が一時休戦となり僅かな間ではあるが冥界に平和が訪れる。しかしそれは再び二天龍が暴れ始めれば崩れ去ってしまう儚いものであった。

  そんな中アレイスターは一人、今は静まり返っている戦場を歩いていた。辺りには深く戦争の爪痕が残されている。その光景はまさに地獄。損傷が激しくどの種族か分からないため放置されている死体、抉れた地面、おびただしい血の痕跡。そのほとんどがアレイスターによって作り出されたものであった。

  確かに母を殺した原因である聖書の神は憎かった。だが全ての天使が憎いかと言われれば別にそういう訳でもない。自分がその気になれば全て終わらせる事ができるのに実際にやっている事はただ漠然と目の前にいる敵を殺すだけ。無限回廊に捉えられていた時ならばこんな事を考えはしなかった。大十字クロウ以外の全てに興味がなく邪魔をするのなら排除する。それが大導師マスターテリオンであったはずだ。

  だが今はどうだ?アレイスターの行動は全くチグハグな物であった。

 

「アレイ君」

 

「セラか……」

 

  自らを呼ぶ声を聞き、そちらへと振り向いてみればセラフォルーが佇んでいた。どういう訳かセラフォルーの顔は今にも泣き出しそうな表情をしている。

 

「何故そんな顔をしている」

 

「だって……だって……あんまりだよ!アレイ君はこんなに頑張ってるのに!どうしてみんな……」

 

  母は殺され、仲間の悪魔達からは受け入れられることはない。残る父も復讐に取り憑かれアレイスターと久しく会ってはいなかったら。友人達から見たアレイスターはもしかすると焦燥している様に見えたのかもしれない。

 

「余は元より孤高。セラ達も余と共に居ればまた小煩い奴らに色々言われるだろう」

 

「そんな事言わないで!!!」

 

  アレイスターの突き放す様な言葉にセラフォルーは大声をあげた。セラフォルー達は戦争で多大な戦果を挙げてきた。本人達が由緒ただしい貴族出身である事もあり悪魔達からは英雄扱いされているたのだ。

  一方、アレイスターは絶大な戦果を挙げつつも一部を除きまるで腫れ物の様な扱いをされていた。

  次期魔王と称されるセラフォルー達がそんなアレイスターと共にいるのは貴族達にとって当然面白くない。それゆえ幾度と無くアレイスターと距離を置く様に言われていたがセラフォルー達がそれを受け入れる事は無かった。

 

「私はアレイ君とずっと一緒に居たい!!!だって……だって私はあの時から!「おう、ここに居たのか。お前ら」え?」

 

「いや~、何処にも居なかったから探しちまったよ、ってセラフォルー?どうした?」

 

  「知らないっ!魔王様の馬鹿!」

 

「へぶっ!」

 

  勇気を振り絞ってアレイスターへと告白しようとした所に絶妙なタイミングで魔王ブロックが入る。本人に悪気はないのだがセラフォルーにとってはたまったものではない。せっかくの機会を邪魔されたセラフォルーはルシファーにビンタをした後恥ずかしさのあまり走り去ってしまうのだった。

 

「災難であったな魔王よ」

 

「いつつ……一体何だってんだよ」

 

「ふふ、いささかタイミングが悪かったようだ。それで?余に何か用か?」

 

「すまねぇ!俺が不甲斐ないばっかりに!!」

 

「……何やらよく分からんが顔を上げよ。王がそうやすやすと頭を下げるものではない」

 

  ルシファーがその場で勢い良く土下座をする。他の悪魔がその光景を見ていたらきっとまた騒いでいただろう。しかしこの場にはアレイスターとルシファーしかいない。

  ルシファーは顔を上げて対二天龍作戦をアレイスターへと説明する。アレイスターはそれを顔色一つ変える事無く聞く。ただ発案者が聖書の神だと聞いた瞬間だけはスっとアレイスターの目が細まった。

 

「魔王だなんだっていっても結局最後にはお前に頼りきりになっちまう。俺は駄目な王だ」

 

「気にするな。二天龍程度、大した障害では無い。それよりも余が一匹仕留めている間にそちらがやられる方が心配だ」

 

「ああ、お前が言うと本当に大した事のないように聞こえるよ。ただ、気をつけてくれ。俺は聖書の神が何か企んでる気がしてならないんだ」

 

「無論だ。それにあやつにはしかとその身に報いを受けて貰わねばならん」

 

  三大陣営の存亡はほぼアレイスターにかかっているといっても過言ではない。

  作戦決行は明後日。平和を願う者、計略を張り巡らす者、復讐を望む者。様々な想いが渦巻きながら三大陣営は束の間の平和を過ごすのであった。

 

 

  ♢

 

 

  作戦決行当日、強大な戦力であるサーゼクス達四人も駆り出された。

 

「いよいよか。無事成功するといいのだが……」

 

「それよりもアレイ君が心配だよ!たった一人で二天龍を相手にするなんて!」

 

  セラフォルーの意見は最もだ。四人は誰一人としてこの作戦に納得している者はいない。しかし現状、自分達にできる事は無いためアレイスターを信じるより他がなかったのだ。

 

「よう!お前ら緊張してないか?」

 

「「「「魔王さま!」」」」

 

「いいって、いいって。楽にしな。それよりも悪かったな。本来ならこんな作戦にお前らみたいな若者を参加させたくなかったんだが……」

 

「それだったらアレイ君はどうなんですか!!!」

 

「あぁ、耳が痛いな」

 

  セラフォルーの言葉にルシファーは苦虫を噛み潰した様な顔になる。ルシファーとしても苦渋の決断であった。だが、守らなければならない民達がいる。

  この中で最も自分の無力さを嘆くものは間違いなくルシファーであっただろう。

 

「来たぞ!!二天龍だ!!!」

 

  その時一人の伝令が声を上げた。天使による分断が上手くいったらしい。遠目でその姿が確認できた。

  赤い、そして圧倒的な大きさ。赤龍帝ドライグだ。

  必死に逃げる天使達を悠々と追いかけながら空を飛ぶその姿はまるでわざわざお前らの作戦に乗ってやったんだぞとでも言いたげであった。

 

『お前らか。俺とアルビオンの邪魔をしてくれた奴らは』

 

  辺りにドライグの声が響き渡った。空と大地が震えている。さすがは二天龍、まさに圧倒的な存在感だ。

 

「よく言うぜ。てめー等が勝手に暴れてんじゃねーか。迷惑してるのはこっちだっつーの」

 

  アザゼルが負けじと言い返すがそれにドライグは一切取り合わない。その態度にアザゼルは激しい苛立ちを感じる。

 

『お前らは地面に這いつくばるアリの事を気にするのか? まぁこっちもいつまでも邪魔されても迷惑だ。だから今日ここでお前らを蹴散らしてやろう!!!』

 

  ドライグが巨大なブレスを放った。

 

『boost!boost!boost!boost!boost!』

 

「くっ!総員退避ーッ!!!」

 

  ドライグの能力によってただでさえ巨大なブレスはさらに勢いを強める。もはやまるで小さな太陽のようだ。

  ルシファーが慌てて退避命令を出すが直後、自陣が大きく火柱をあげる。

 

「何という一撃だ……」

 

  サーゼクスは今の一撃を見て呆然とする。まさに桁違いの威力だ。今ので全軍の一割程度が持っていかれただろうか。

 

「ッ! 各自分散してかかれ!纏まってると一気にやられるぞ!」

 

『ははははは!さぁ逃げろ逃げろ!まだまだ始まったばかりだぞ!』

 

  こうしてあまりに絶望的な戦力差の三大陣営対二天龍の戦いの火蓋が切って落とされる。

  戦いの結末は三大陣営の壊滅か?それとも……

  

 

 

 




ドライグが無双している一方でアルビオンは……
まぁそれは次回という事で。

聖書の神を少々悪役にしすぎたかもしれません。
キリスト教の方にはこの場でお詫びを。
どうか創作物のなかということであまり気にしないで欲しいです。

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