「あん?アーシアとフリードじゃん。なにやってんの?外で見張っとけって言ったっしょ」
堕天使が眉を釣り上げながらそう言った。
「そんな…… ミッテルトさん、どうして…… !?い、いゃぁぁぁぁぁ!」
「あーあー、こんなにしちゃって。こいつは純真なアーシアちゃんにはインパクトが強すぎるっしょ」
室内を見回したアーシアの目に貼り付けにされた遺体が飛び込んできた。当然、そういったことにあまり耐性のないアーシアは大きな悲鳴を上げる。するとすかさずフリードが一体何処から取り出したのだろうか、大きなブルーシートを広げ遺体に覆いかぶせた。
「あ?何やってんだよフリード」
「うるせぇぞ、誰に向かって命令してんだ?俺に命令していいのは二人だけなんだよ。殺すぞ。」
「ひっ!」 「ッ!」
突如、フリードから強烈な殺気が放たれる。フリードは先ほどまで飄々としていた人物だとは思えないほど別人のように様変わりしていた。
自分に対して放たれた殺気でも無いにも関わらず、イッセーはその瞬間自分の死を感じ取った。もろに受けた堕天使、ミッテルトは溜まったものでは無いだろう。現に顔を蒼くさせ歯をカチカチと鳴らしている。
「さて、そんじゃあそろそろお仕事でもしますかねぇ」
「なっ!」
ミッテルトからフッと視線を外したフリードは何処からともなく光の剣を取り出しイッセーと相対する。何時の間にか雰囲気は元に戻っていた。
「隙あり!ちぇりゃあ!」
「がぁっ!」
変な掛け声と共にフリードが一誠へと斬りかかる。その斬撃は剣術という点でみればあまりに適当でお粗末な一撃であった。しかし、アーシアに注意を向けていたイッセーはワンテンポ反応に遅れてしまう。
せめて致命傷だけは避けねばならないと思い必死にイッセーは身体を捻る。その結果、咄嗟の判断が功を奏したのか、フリードの剣はイッセーの腹部を薄く切るだけに留まった。
「ハァハァ、た、助かっ……グァァァァ!」
薄く切られただけ、そう思っていたイッセーを強烈な痛みが襲う。何事かと傷口を見てみればジュウジュウと音を立てて身体をとかしていた。
「あれあれ~?もしかして助かったと思っちゃった感じ?残念でした~ この光の剣はエクソシストの標準装備、そして悪魔くんには効果抜群の必殺武器なのさ~」
「そんな……イッセーさんが悪魔?」
ビュンビュンと光の剣を振り回しながらフリードは愉快そうにそう述べた。アーシアはフリードのその言葉に目を大きくして驚く。信じたくはないが現に光の剣のダメージを受けているその姿はイッセーが悪魔であるということをアーシアに伝えていた。
「ほんじゃあとどめと行こうかねぇ」
「待ってください!」
激痛に身をよじらせているイッセーにとどめをさそうとフリードが歩み寄る。しかしアーシアが手を大きく広げ、その行く手を阻んだ。
「ん~、どうしちゃったのかな?アーシアちゃん。もしかして悪魔くんを庇っちゃう系なの?」
「イッセーさんは良いお方です!どうか見逃してあげてください!」
「うーん、アーシアちゃんの言う事はなるべく聞いてあげたいんだけど…… こいつばっかしはそうもいかないんだよね」
「悪魔にだって良い人はいます!」
「悪魔にだって良い人はいる……か。なるほど、その通り。そいつは真理だ。この世には良い悪魔だっているし、糞みたいな神父だっている。だけどな、アーシアちゃん。仮にこの悪魔くんが良い人だったとしても、はいそうですかと簡単に見逃す訳にはいかないんだよ」
「っ!そんな!」
「ふ~、一つ話をしようか。昔あるところに一人の悪魔がおりました。その悪魔はまだ力も弱い下級悪魔でした。そこにある日、一人の神父が訪れます。その悪魔を見つけた神父は当然悪魔を滅しようとしました。完璧に滅せられようとした時、その悪魔が必死に神父に命乞いをしたのです。神父はここで一つのミスを犯してしまいます。悪魔に情けを掛けて見逃してしまったのです。さて、この悪魔はその後どうなったのでしょうか」
「……神父さまに感謝して改心したのではないのですか?」
「ぶっぶー!外れー。正解は人々の害となる残虐非道の悪魔になったでしたー!ちなみに、この悪魔が結局討伐されたがエクソシストにもかなり大きな被害が出たらしいよ。今の話は昔からエクソシスト達に伝わる有名な話さ。もう分かっただろう?今は善良でもこの後どうなるか分からない。だから悪魔は見つけ次第殺す。それが俺たちエクソシストの仕事なのさ」
「それでも!それでも私は!」
「分かってるさ、アーシアちゃんならそう言うってな。だから今は……」
「うっ!」
「少しばかり眠っててくれ」
フリードは手刀を一発、ストンとアーシアの首にあて崩れ落ちたアーシアを優しく抱きかかえた。
「さて、それじゃあ今度こそ……」
「やらせないよ」
フリードが再びイッセーの方へ振り向いた瞬間、部屋の中心に魔法陣が出現し複数の人影が躍り出た。
「お~っと!ここに来て悪魔の団体様御一行の到着か~!」
「悪いね、彼は僕らの仲間でさ。こんな所でやらせる訳にはいかないよ」
「あん?悪魔の癖にそういう事気にしちゃう系なの?あ!もしかしてあれか?モーホーか!悪魔のモーホーとかマジないわー」
「下品な口だ。はぐれエクソシストをやってるのも納得だよ」
「あらあら、困った神父さんですわ……プッ」
木場はフリードの口の悪さに顔を歪ませる。他の眷属の面々も同様だ。ただ一人朱乃だけは意外とノリノリで普段あれだけ嫌っている神父のふりをしているフリードを見て吹き出しそうになっていた。
「イッセー、ゴメンなさいね。まさかこんな事になるとは思わなくて…… でも安心しなさい。もう大丈夫よ」
「は、はい。うっ、痛たた…」
「っ!イッセー!貴方怪我してるじゃない!」
「あ、すいません……そ、その……切られちゃって……」
イッセーは苦笑いで誤魔化そうとしたがリアスは憤怒の表情をフリードに向けた。リアスからは怒りのあまり紅い魔力が漏れている。
「ずいぶんと私の可愛い下僕をかわいがってくれたみたいね?」
「おいおい、そんなのはただの挨拶じゃないの。本番はこれからっしょ。なんたって獲物がこれだけ増えたからね。俺っちがまとめてフルボッコにしてやんよ!」
シュッシュッと声を出しながらその場でフリードはシャドーボクシングの様な動きをする。相手を完全にバカにした態度にリアスの我慢もそろそろ限界の様だ。
「もういいわ!ここで貴方を滅ぼしてあげる!」
「っ!待ってください部長!ここに複数の堕天使が向かって来ています。負けるつもりはありませんがこの場で戦うのは賢明ではありません」
リアスが自慢の滅びの魔力を発射しようとした瞬間、朱乃が慌ててそれを止める。
「…………イッセーを回収しだい帰還するわ。準備を」
「はい」
リアスはフリードを一睨みした後悔しそうにしながら帰還命令を出す。一方のフリードはヘラヘラと笑いながらもこちらへと攻撃を仕掛けてくる素振りはなかった。
「待ってください部長!あの子も一緒に!」
「無理よ。この魔法陣は私の眷属しかジャンプ出来ないわ」
「そんな……」
「あら?もう帰っちゃうの?バイビー!」
イッセーとしてもこのままアーシアをおいて行くのは心残りではあったが、先ほどのフリードの様子からそこまで酷い事はされないだろうと思い後ろ髪を引かれる思いで部室へと帰還したのだった。
♢
「レイナーレ様、もうすぐでミッテルト達の所へと到着します」
「全く、あの子達にも困ったものね。ただでさえドーナシークがアンノウンに殺されているというのに。特にアーシアはこれの完成には不可欠な存在。逃がすわけにはいかないわ。そう、私が至高の堕天使になるためにはね……」
レイナーレはそう言って愛おしそうに手に持つ本を撫でる。その禍々しい本の表紙にはこう書かれていた。
『金枝篇 血液言語版』
保存していた全データが吹っ飛んで完璧にやる気をなくしていました。
久々なので今回は酷いできです。文字数も少ないしマステリ様もでてこないし……