でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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どきっ! 会話だらけの説明回。









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「足止めは俺達でやる! 正面は俺、へろへろは右、ずるぼんとまぞっほは左に回れ! その間にノヴァは闘気を高めてハイパーなオーラブレードで奴を叩き斬るんだ! マリンは万一に備えて後方で待機っ」

 

 千載一遇とはこの事だ。

 

 ハドラー親衛騎団、兵士″ヒム″……オリハルコン製のチェスの駒を元に、ハドラーによって産み出された禁断の戦士。

 オリハルコンのボディを活かした近接戦闘能力は作中においても屈指であり、経験を積めば闘気に目覚める始末に負えない存在へと昇格する。

 ヒム個人には一対一を好む傾向はあったが、元がチェスの駒だけに親衛騎団の連中とのチームワークに優れ、集団戦でこそ真価を発揮する。

 

 つまり、昇格前のコイツが単体で現れたなら、仕留める又と無いチャンスになる。

 ついでにオリハルコンも美味しく頂く……そう、オリハルコンはついでだ。

 オリハルコンさえ有ればシャハルの鏡の大量生産だって可能である。

 鏡を十枚用意すればカイザーフェニックスを最低でも十回は弾ける。

 

 絶対にこのオリハ…もとい、チャンスは逃さん!

 

「おいおい……こっちはやり合う気がないってのに、喧嘩っ早い野郎だな?」

 

 殺気を高ぶらせた俺が近づくと、ヒムは肩を竦めてお手上げのポーズをとる。

 

「襲撃しといて今更イモ引いてんじゃねぇ! 行くぞっ、へろへろ!」

 

「おう!」

 

「まぁ、そう慌てずとも良かろうて……どうしたのじゃ? お主らしくもない、いやに積極的ではないか?」

 

 へろへろは二つ返事で応じてくれたものの、チョビ髭を触るまぞっほが飄々とした様子で探りを入れてくる。

 

 今はそんな腹の探り合いをしている場合じゃないというのに……打ち明け話を後回しにしてきた″ツケ″が回ってきたか?

 コレが終わればまぞっほに、ある程度の事情を話した方が良さそうだ。

 

「んなもん当たり前だろ? オリハルコンだぞっオリハルコン! あの量見てみろよ? アレだけ有れば何だって作れる!」

 

 ヒムを指差した俺は、オリハルコンの有用性を訴える。

 打ち明けるにしてもここじゃ不味いし、今は兎に角、ヒムを倒すのが最重要課題だ。

 他の親衛騎団がやってくれば戦況は一気に悪くなるし、バランが来ればヒムは撤退するだろう。

 今、ここで倒さないとダメなんだ……でないと俺は、コイツを殺せなくなる。

 

「オリハルコンとな? それは厄介な相手じゃわい……金属生命体かのぅ?」

 

「ほぅ? 一目で見抜くとはな……如何にも、オレはハドラー様の禁呪法により生を与えられた親衛騎団が一人、ヒム! 以後、お見知りおきを……ってな?」

 

「あん? テメェはチェスだろうが!? テメェにゃ囲碁も″以後″もねぇんだよ! 多勢に無勢、馬鹿はここで死にやがれ!!」

 

 胸を張ったヒムが堂々と名乗りを上げているが、そんな事は最初から知っている。

 俺は……コイツが熱い心を持つ″悪″でない事さえも知っている。

 属する勢力が違う……たったそれだけの理由で闘わなくてはならない。

 下手に問答を重ねると″情″が生まれ殺り辛くなる……殺るにはハイテンションの今しかないんだ。

 

「すいません、でろりんさんは黙っててくれますか? ・・・ヒムとか言ったな? お前は何をしに来たんだ?」

 

 変なテンションを見かねたのか、俺を制したノヴァが一歩前に出てヒムと問答を開始する。

 

 出鼻を挫かれた俺は、「お、おぅ?」と間抜けな言葉を発し、ノヴァの問答を見守る事となった。

 

「あいさつだよ、挨拶。ハドラー様が気にかける″でろりん″って野郎がどんなモンかと、そのツラを拝みに来てやったのさ」

 

「勝手な事をっ……貴様のせいで何人の兵士がっ」

「おっと、言い掛かりは止してくれ。オレは挨拶に来たんだ……良く見てみろ……どいつもこいつも生きてるだろ? 魔王軍は夜襲の様な卑怯な真似などせん!」

 

 軽く告げるヒムにノヴァが明らかな苛立ちをみせるも、ヒムの弁明通り周囲で地に伏す兵士達は「うぅ」と小さく呻いており息絶えてはいない様だ。

 

 ヒムを早急に片付ける新たな理由が出来た。

 

「夜襲が卑怯だって!?」

 

 ノヴァが大袈裟に驚いている。

 

 これが情報を引き出す為の演技だとすれば、相当なタヌキだ。

 俺も見習わないといけない。

 

「そうとも……我等魔王軍は、偉大なるバーン様の名と太陽の下で正々堂々と戦うのだ!」

 

 ヒムが握った拳を突き出して堂々と宣言する。

 

「バーンの名と太陽の下で……?」

 

 ノヴァが困惑の表情を浮かべおうむ返しに呟いているが、これは演技じゃなさそうだ。

 人の立場でモノを考える限り、このヒムの発言は誰にも理解出来ないだろう。

 

 しかし、大魔王の意思を知る俺には判る。

 バーンですら認める偉大なる″力″、太陽の下で魔界の民を闘わせる……馬鹿げた話だがこれがバーンにとっての正義なんだろう。

 夜襲の無い理由がコレだとすれば、夜間は魔王軍の襲撃に備える必要が無くなる……尤も、切羽詰まれば建前よりも実利を優先するのも大魔王だ。

 完全に備えを解くわけにもいかないが、夜間は安心とみて良い……のか?

 

「貴様等人間には解らぬ事よ……さぁ、これでオレの用は済んだんだが・・・見逃しちゃくれねぇよなぁ?」

 

 何処か嬉しそうにヒムが語っている。

 

「当たり前だ! オリハルコンは頂く!!」

 

 そうだ……オリハルコンだ。

 俺が闘うのはバトルマニアでハドラーに忠節を尽くす熱い男ではない。

 

 俺は、オリハルコンの塊を手に入れるんだ。

 

「襲ってくるならしょうがねぇなぁ……良いぜ、掛かってきな!!」

 

 建前を口にしたバトルマニアは、本音を表情に浮かべると両拳を握り締めて構えを取る。

 この地に集う人々が戦闘開始を固唾を飲んで見守り、周囲が一瞬の静寂に包まれる。

 

 その時!

 

「いけませんよ、ヒム。ここは我等が闘うべき場所ではありません」

 

 よく通る女の声が周囲に響き渡った。

 

 見るとヒムの頭上に腕を隠した蒼白く輝く女性″アルビナス″が浮いていた。

 

「だ、誰だっ!?」

 

 聞くのもバカバカしいが、一応、お約束とバカリに叫ぶしかない。

 

 てか、その意味の解らない瞬間移動は止めてもらいたい。

 恐らく″リリルーラ″の応用だろうが、コイツら石の中に転移したらどうするつもりなんだ!?

 

「私はアルビナス。ハドラー様の親衛騎団を束ねさせて頂くモノです」

 

 表情を崩さないアルビナスがヒムの隣に並び立つと、周囲で好奇の目を向ける人間に然したる興味も示さない様相で、淡々と自己紹介を終えた。

 

 くそっ……厄介な奴が来やがった。

 

 ハドラー親衛騎団・女王″アルビナス″……チェスにおける最強の駒を元にハドラーによって産み出された禁断の戦士にして、禁断の愛に生きる女。

 その高過ぎる戦闘能力を隠すように、普段は腕を仕舞い込んでいるも、ひと度本気を出して腕とボディを魅せて闘えば、そのスピードは作中においても、一、二を争うチートな存在だ。

 アルビナス本人は自らを駒と呼び感情等無いが如くに振る舞っていたが、どうみてもハドラーに惚れており、作中において″報われない度″は想い人であるハドラーと一、二を争う。

 

 戦力的に考えてなんとかしてやりたいが、何気に頑固なアルビナスが、人間である俺の言葉を聞くとも思えない。

 ハドラーの秘密を喋った瞬間、ソレを手土産に大魔王の元へ連れ去られ、助命嘆願される未来しか見えない。

 

「ねぇ? さっきからハドラー、ハドラーって誰の事よ?」

 

「ハドラーと言えば、アバン様に敗れた魔王ハドラーの事かしら?」

 

 いささか緊張感に欠ける女性陣が、当然の疑問を口にしはじめる。

 

「聞き捨てなりませんね……私達はアバン抹殺の功績により、ハドラー様が大魔王様から賜ったオリハルコンを元に産み出されているのです。ハドラー様がアバンに敗れた等と戯れ言を……事実は全くの逆ではありませんか」

 

 刺すような視線をずるぼん達に向けたアルビナスが、不快感を隠そうともせずに不都合な事実を告げる。

 

 てか、コイツラ……今日産まれたなら生後0日でこの自我か?

 流石に禁断の術なだけはある……全くもって意味が解らん。

 

「嘘を言うなっ! アバン様がハドラーに敗れただと!?」

  

「嘘も何も、勇者アバンが死んだ事はそこにいる強欲者が知っているハズです。何故、報告されていないのでしょうか?」

 

「そんなっ!? アバン様が……?」

 

「アンタっ・・・今日、何処に行ってたのよ?」

 

 アルビナスの言葉にノヴァは怒り、マリンは絶句して固まり、ずるぼんが疑念の目を俺に向けたまま鋭い質問をぶつけてくる。

 

「だからっ、修行だよ! 修行!」

 

 我ながら苦しい言い訳だが、この場ではコレ以外に言い様がない。

 なんとかして会話を打ち切らないと泥沼にハマり込んでしまう。

 

「妙な話ですね? 何故、隠すのでしょうか? あなたの師であるアバンの死は隠してはいけない出来事ではありませんか?」

 

 ダメだコイツ……早くなんとかしないと。

 

「えっ…? アバン様が貴方の師……?」

 

「ちょっとアンタ、何時の間にアバンと会ってたのよ?」

 

「アバンが師とな? 初耳じゃわい……お主の師は兄者と老師だけではなかったのじゃな?」

 

「流石リーダーだぜっ、だけど、勇者の弟子と黙ってるなんて水臭いぜっ」

 

「ばっ……余計な事を言ってんじゃねぇっ」

 

「不可解ですね……強欲に名声を求めし者が″勇者の弟子″である事実をお仲間にも隠されていたご様子。 それに老師と兄者ですか……なるほど、貴方の使う不思議な魔法や体術はその者達から授かったのでしょうか? 何者か判りませんが調査の必要がありそうです」

 

「なっ…!? させるかっ! ここでテメェもブチ殺す!!」

 

 なんだ、こいつ?

 鋭すぎんだろ? ホントに0歳児か!?

 

 恨みは無いが、なんとしても倒しその口を封じなくてはいけない。

 2人の親衛騎団……厳しい戦いになるが数はこっちが勝っている。

 

「なるほど……″でろりん″とは思いの外直情的な性格をしている様ですね……しかし、そうであるなら尚更解せません」

 

「おい、アルビナス? 何をブツクサ言っている? こうまで言われて黙って引き下がるのか?」

 

「……いいでしょう。大魔王様とハドラー様の意に沿いませんが、この者は危険な様です……災いの芽はここで摘み取り勝利を持って弁明致しましょう。ヒム、あなたは″でろりん″の相手をお願いします。その他は私が引き受けます」

 

 どう考えたのか俺を危険と判断したアルビナスが、ボディを顕にした本気モードに姿を変える。

 

「まぞっほっ! バランを呼びに行ってくれ! ノヴァはへろへろを盾に隙を伺って攻撃! 他の連中は下がってろ!!」

 

 剣を抜いた俺はヒムを牽制しつつ、アルビナスへの対応を叫ぶ。

 下手に近くで見物されて死人が出ようモノなら余計な負担が増える。

 

「やる気の様ですね……では、行きますよ! 災い燃え尽きるべしっ、サウザントっ」

 

 アルビナスが天にかざした右腕に、目映いばかりの光球を産み出そうとしたその瞬間、

 

『フィンガー・フレア・ボムズ!!』

 

 呪文を唱える声と共に五つの火球が、″アルビナス達″に迫る。

 火球を避けようともしない2人に直撃すると、火柱上げて燃え上がる。

 

 アルビナスが産み出そうとした″サウザント・ボール″にも誘爆したのか、熱風が周囲に吹き荒れる。

 

「随分なご挨拶ですね……フレイ兄さま?」

 

 炎の中から平然と姿を現したアルビナスが、炎の半身をたぎらせて歩みよるフレイザードに声を掛ける。

 

 その容姿も精神性も全く似ていないが″ハドラーに産み出された存在″という意味でコイツらは兄妹になる……原作ではあり得なかった光景に、自分がしでかしてきた影響の大きさを改めて思い知る。

 

「オレの獲物を掠め取ろうってのか!? どういう了見だっ!!」

 

「兄貴よぉ、そう怒んなって……熱くてかなわねぇ。 大体、コイツは″でろりん″だ。アンタが狙っているマタロウじゃないぜ?」

 

 フレイザードの燃える指先を眼前に突き付けられたヒムが、面倒そうに炎の腕を押し退ける。

 オリハルコンだけあって耐熱性がハンパない。

 

「なんだとぉ〜っ!? おいっ、テメェ! 嘘つきやがったのか!?」

 

 ギョロ目を向いたフレイザードが振り返って俺を睨む。

 

「ん? あぁ、敵に本名教えてやる程迂闊じゃねぇよ」

 

 てか、コイツ、何しに来やがった? ヒム達だけでもヤバいのに、フレイザードまで加われば最早俺達に勝ちの目はない。

 オリハルコンだなんて浮かれている場合じゃなく、逃げる算段を整える必要が有りそうだ。

 

「ふざけやがって!! ・・・おい、引き上げるぞ」

 

 ギョロ目を閉ざし高ぶる炎を収めたフレイザードが、引き上げを提案する。

 

 理由は判らないが渡りに船とはこの事か。

 

「しかし、フレイ兄さま。この者は危険です。災いは断つべきです」

 

「バーン様の御力も知らねぇガキがっ……コイツが危険だろうがバーン様の前では無意味! あの方が無闇に殺すなと命じたら駒は黙って従いやがれ! 主に逆らえばどんな手柄も手柄にならんわっ!」

 

 待て、なんだそれは?

 

 予想外の言葉に冷や汗が吹き出る。

 

 手柄に拘るフレイザードらしい引き上げ理由だが、何故俺が殺してはイケない対象になっている?

 しかも大魔王直々のご指名ってなんだ?

 目を付けられているのは覚悟の内だが、大魔王は一体何を企んでいる?

 

「だがよぉ……アッチが襲ってくるんだ、仕方ねぇだろ? 反撃までは禁じられてねぇ」

 

 口答えするヒムが更に意味の判らない事を言っている。

 俺から攻撃を仕掛けた場合は、殺される危険があると言うことか?

 

「はぁ? 今更、誰が襲うかっ。お前等みてーなバケモンと5対3で闘えねぇっつーの! 用が済んだならササッと帰りやがれっ」

 

 手首をスナップさせた俺は、″シッシッ″とヒム達を追い払いにかかる。

 

 謎は残るが命有っての物種だ。

 

「て、テメェ!? 汚ねぇぞっ! 形勢不利になったらイモ引くのか!」

 

「うるせーよ。覚えとくんだな? 闘いに汚いもクソもねぇ。より有利な状況で戦闘を行うのは立派な戦術なんだよっ。敵が有利な状況を捨てて引き上げるのを止める訳ねーだろ」

 

「なるほど、覚えておきましょう……ヒム、帰りますよ」

 

「だがよぉ……ここまできて手ぶらで帰れるかよっ」

 

「手ぶらでは有りません。噂に違わぬ見当違いの強欲振り……ハドラー様に良い土産話が出来ました」

 

「でろりんっ!! テメェは俺の獲物だっ! せいぜい頑張って殺されにやって来い!」

 

 思い思いの捨て台詞を残して、嵐の様にやってきた3兄妹は、嵐の様に去っていくのであった。

 

「ふぅ……なんとかなったな?」

 

 額を拭い振り返った俺を待っていたのは、ジト目を向ける4人の姿であった。

 

「なってないわね」

 

「そうね。今まで好きにさせてあげたけど、何処で何をしてきたのかキッチリ話してもらうわ」

 

「アバン様が亡くなられたのは本当ですか!?」

 

「流石リーダーだぜっ、大魔王も注目してやがるっ。ガッハッハッ」

 

 一難去って又一難とはこの事か。

 

 こうして俺は、まぞっほと共に駆け付けるバランを待って、アルキード城に連行されたのであった。

 












説明会のハズがキャラ多すぎてカオスになりました。

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