でろりんの大冒険   作:ばんぼん

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 しかし、まぁ、アレだ。

 

 どう見てもマトモにやったら勝てないな……。

 

 メガンテによる細かなダメージの修復をほぼ終えているハドラーは、圧倒的な威圧感を持って″俺″を見ている。

 魔法力を消費するオート回復なら付け入る隙にもなるんだが、この辺りの事は原作でも語られておらずよく判らない。

 

 原作通りのハドラーならある程度の消耗で撤退したであろうが、このハドラーはどうだろうか?

 ″時間がない″との台詞から、このハドラーの体内に埋め込まれた黒のコアが体調に悪影響を与えていると想像はつくが、それがどう影響するのか全くの未知数になる。

 死ぬまで闘うのか?

 それとも適度に退くか?

 判断に迷う所だが、後者に賭けてやるしかない。

 

 黒のコアの誘爆も恐いが製造法的に考えて″まだ″大丈夫だろう。

 百年単位で魔力を蓄積する黒のコアだ……ハドラーの体内で魔力の供給量が多くなったとしても、臨界時期はそう変わらない。

 

 そもそも魔法を使わずに殺り合える相手ではない。

 

「はぁ…やるしかねーか」

 

「ま、待てよっ……お前、ホントにアイツと一人で殺ンのかよ!?」

 

「そ、そうだよ! アストロンが解けるのを待って3人で闘えばっ! アイツだって先生の弟子と闘いたいなら待ってくれるよ!」 

 

 渋々ハドラーに向かう俺を二人が呼び止める。

 

 憎まれ口を叩いても、勝ち目の無い闘いに身を投じる人間を黙って見過ごす事は出来ないらしい。

 やはりダイは勇者で、ポップの根も善人の様だ。

 しかし、いくらダイの申し出が正しく、ありがたいとしても受け入れる訳にはいかない。

 

 この2人こそが俺にとっての″切り札″であり、それは即ち世界にとっての切り札にもなる。

 今はまだ未熟に過ぎない2人だが、そう遠くない未来に俺を大きく越えて強くなる。

 そう信じて、今は俺が闘う時だ、と言ってやれないのが辛いところでもある。

 

「馬鹿がっ……フザケタ事を言ってんじゃねーよ! お前等の力を借りたら100の力が80に落ちるっつーの。足手まといは邪魔なんだよ」

 

「な、なんだとぉ!?」

 

「良いからお前等は黙ってソコで固まってろ。万一アストロンが解けても加勢はノーサンキューだからな」

 

「で、でも!」

 

「ほっとけよ! 一人で勝てるってんならやらしてやれよっ」

 

「あん? あんなバケモンに勝てる訳ねーだろ?」

 

「じゃぁ、どうして闘うのさ!?」

 

「例え勝てなくても俺は負けない……知ってるか? 敵を倒すダケが勝利じゃない……ってな? それに、俺が勝てなくても、いつかきっとアイツを倒せる勇者は現れる!」

 

 それは、お前だ! とも言えない俺は、ちんぷんかんぷんといった面持ちのダイ達に背を向け、上げた右手をヒラヒラさせる。

 

「もう良いのか?」

 

 空気を読んで待っていたハドラーは、俺と対峙すると答えも聞かずに闘気を高めていく。

 

「時間がねぇのに悪かったな? いくぞ! ベギラマ!」

 

 待っていたハドラーに、問答無用で先制となる熱線を右手で放つ。

 

 卑怯と言うことなかれ。

 先手をとってこっちのペースに、いや、罠にハメなきゃどう足掻いても勝てないんだ。

 ここから先はマトリフから学んだ冷静さが何より重要になる。

 

「ほぅ? 人間にしては高度な呪文を使いおる……腐ってもアバンの弟子を名乗るだけはある」

 

 アバンの時と同じ様に右手のひらで受け止めたハドラーは、少しだけ感心を覚えたらしく、その険しい表情に薄い笑みを浮かべている。

 俺に興味を持つのは望むところだが、攻撃自体は全くのノーダメージと言って差し支えが無いだろう。

 魔法力を消耗させられたかも怪しいレベルだ。

 

 だが、気落ちする事はない。

 アバンのベギラマも容易く防がれていた様に、元々ハドラーは炎に対する耐性が高く、ベギラマ程度では効果が無いと解っていた。 

 これは、撒き餌だ。

 

「あん? 腐ってないっつーの! 行けっ、ストラッシュアロー!!」

 

 俺の実力を測ろうとしているのか、攻撃を仕掛けてこないハドラーにアバンストラッシュの構えから″海波斬″を放つ。

 

「あの野郎っ、アバンストラッシュを!?」

 

「違う! アレは海波斬だ!」

 

「ふんっ! 小癪な真似をするではないか……しかし、その太刀筋、紛れもなくアバンのモノよ! ・・・ならばっ、手加減無用! 行くぞ、強欲モノ!」

 

 3人が三様の感想を漏らすも、肝心の斬撃はハドラーの振るった腕に容易く掻き消さた。

 俺をアバン流の使い手と認識したハドラーが″カッ″と目を見開いて剣を出現させると、肩にある甲殻の様なモノを展開させて一直線に飛んでくる。

 

 流石に速い!

 

 だが、かわせる!

 

「受けるかぁっ、くらえっヒャダルコ!」

 

 トベルーラの応用で真横に飛んだ俺は、自分が元居た場所に右手を向けて氷結呪文を唱える。

 

 馬鹿正直にハドラーの剣を受けるつもりは無い。

 午前のアバンも言っていた……相手の得意な土俵、ハドラーならば接近戦、そんなモノに合わせて闘う必要などないのである。

 まぁ、二つの極大呪文を操るハドラー相手の場合、中距離以上も安全地帯と言えないんだけどなっ。

 

 ・・・コレ、なんて無理ゲー?

 

 格上相手との闘いはマトリフ相手に慣れているとはいえ、アレは所詮特訓だ。

 死ぬかもしれない特訓であっても、殺す気は互いになかった。

 

 ハドラーの放つ殺気がプレッシャーとなり、避けるだけでも消耗が激しい。

 

「小賢しい真似を……アバンから聞かされておらぬのか? オレの炎は地獄の炎……この程度の呪文では凍り付いてなどやれぬわ!」

 

 ハドラーの左手に産み出された火炎が、凍ることなく氷結呪文を蒸発させていく。

 

「そうかよっ! だったらこれで、どうだ! ヒャダイン!!」

 

 勿論、これが通じる相手でないのも承知の上だ。

 本命を叩き込む為にはその前段階が重要であり、それなりに本気を示す必要があるだろう。

 必殺の一撃を喰らわせる為には、必死に中距離での魔法の撃ち合いに持ち込もうとしている……そう思わせる事が不可欠だ。

 

「むぅ? やりおる……だが、オレの炎を凍らせるには及ばん! メラゾーマ!」

 

 いとも容易く氷結呪文を蒸発させたハドラーは、その炎を用いてメラゾーマを唱えた!

 

 てか、炎が黒いんですけど?

 これで炎が竜を形取っていれば、あの技名を迷うことなく付けただろう。

 

「偉そうにっ! 炎は炎で消えると知れ! メラゾーマ・ダブル!!」

 

 両の手にそれぞれ産み出した二つの火球を、ハドラーの放った黒いメラゾーマに向けてぶん投げる。

 

 三つの火球がぶつかり合って一瞬、火力を増したかと思うと徐々に鎮火していく。

 

 火は酸素が無ければ燃えない。

 不思議パワーが源であっても、前世の物理法則を完全に無視した現象は起こせないのである。

 例え大魔王であろうとも真空状態ではカイザーフェニックスは放てまい。

 

「面白い真似をっ! 超魔爆炎覇!!」

 

 燃え残る炎を突っ切ってハドラーが姿を現す。

 

「掛かった! 猛虎破砕拳!!」

 

 左腕で脇を絞めて待ち構えた俺は、迫るハドラーの顔面目掛けて魔法力を乗せた渾身の一撃を放つ。

 

 突進速度は初撃で体感済みだ。

 コレで仕留められるなら良し、仕留められなくともタイミングを掴めれば万事オーケーだ。

 

「甘いわっ! ふんっ!」

 

 咄嗟に身を低くしたハドラーが超魔爆炎覇をフェイントに、剣の″腹″で俺の左籠手を下からいなす。

 それと同時に俺のみぞおちに激痛が走る。

 

「ぐはっ……また、ボディかよ……イオラ!!」

 

 破砕拳は不発に終わり、ボディにハドラーの左拳がめり込んでいる。

 剣が″本物″で、爪を出されていれば正直ヤバかった。

 

 空いている右手で自爆紛いのイオラを放ち爆風に紛れて距離を取った俺は、腹に右手を当てベホマを唱え立ち上がる。

 

「ほぅ……厄介な真似をするではないか? ベホマを使う卑怯モノとはな……アバンもトンだ曲者を育てておったか……イオラ!」

 

 イオラの直撃も意に介さないハドラーの、イオラと唱えつつ出現した三つの光球が俺に迫る。

 

「当たるかぁっ!」

 

 

 籠手を着弾点に向けてガードしつつ″サイドステップ″で身をかわす。

 ベホマを使いつつトベルーラは出来ないらしい。

 

 くそっ……大地に眠る力強き精霊たちよ……今こそ俺に力を貸せ!

 

「遅いわ!」

 

 俺の着地点に剣を構えたハドラーが迫る。

 

「しつこいっつーの! ベタン!!」

 

 回復を中断し宙へと逃れた俺は、右腕を降り下ろして詠唱を破棄しておいた″ベタン″を放って足止めを試みる。

 今の内に痛みだけでも和らげないと、元より低い成功率の裂光拳は決まりそうにない。

 距離を取って着地した俺は、懸命に回復を計る。

 

「どうして″あの時″の力を出さないんだよぉ!」

 

「バカッ、そんな力なんかねぇに決まってるだろ! おい、テメェ! 何時まで逃げ回ってんだ!?」

 

 重力に捕われるハドラーを挟んだ向こう側で、固まったままの二人が揃って勝手な事を言っている。

 あんな力を使ってしまえば1分でガス欠を起こすし、ハドラーの得意な接近戦など論外もいいとこだ。

 

 それは兎も角、アバンはどんだけ念入りにアストロンを掛けてんだ?

 アストロンさえ解けりゃぁダイ達を抱えて直ぐにも逃げられる。

 ハドラーの興味が俺に向いた今、キメラの翼で逃げても何の問題もない。

 

「……不可思議な真似をしおる。それに引き換え、あの小僧の未熟な事よ……貴様の狙いにも気付かぬとはな?」

 

 重力を増した中を悠々と歩くハドラーは、チラリと背後を振り替えると気になる事を言い出した。

 

「なん……だと?」

 

 完璧に驚いてみせた俺は、その間も必死に回復を続ける。

 

「このオレが気付かぬとでも思ったか? 貴様はカウンターを狙っておる……その右の拳でな! 思い返してみるがよい……貴様が咄嗟に使うのは全て右の手よ。察するに貴様は右利きであろう?」

 

「…それが、どうしたっ」

 

「にも関わらず、貴様は左の手で攻撃した!」

 

「左手で殴りたかったんだよっ」

 

「強弁するか……それも良かろう……だがっ! オレは今から必殺の一撃を放つと宣言してやろう……貴様はこのチャンスに乗るしかあるまい?」

 

 俺を″ビシッ″と指差したハドラーがニヤリと笑っている。

 

 何故だ?

 何故こうも見事に狙いがバレる!?

 

「舐めやがって! 俺にカウンターを狙え、ってか?」

 

「左様……オレには呪文だけでも貴様を粉々に吹き飛ばせるだけの力はある……しかし、それではツマらぬのだ……正面から貴様の企みを打ち破ってこそ、オレは貴様にもアバンにも勝ったことになるのだ!」

 

「馬鹿な野郎だ……くだらねぇ感情論で勝利を不確かなモノにするのかよ? ・・・来なっ!! お望み通り必殺の一撃を喰らわせてやるよ!」

 

 こう言う俺も馬鹿かもしれない。

 残り少ない魔法力を駆使して逃げ回り、アストロンが解けるのを待つのが最善だろう。

 しかし、尽きかけた魔法力では何処まで逃げ切れるかも判らず、半ば読まれているなら、このチャンスに賭けるしかないのもまた事実。

 

「行くぞ! 超魔爆炎覇!!」

 

 黒い炎に身を包んだハドラーが、上段に剣を構えて一足跳びに迫り来る。

 

「そこだぁ! 閃華裂光拳!!」

 

 決まる!

 

 振り下ろされるハドラーの剣を黄金の籠手で受け止めて、一瞬だけ踏ん張れば俺の勝ちだ。

 

 俺は、迷わず右手を振り抜いた。

 

 インパクトの瞬間拳が眩い光を放つも、その直後。

 

「でろりーーん!!」

 

 俺は炎に包まれ宙に舞い、辺りにダイの絶叫が響いた。

 

 俺はその叫びを聞きながら、沸き上がる疑問を抑えることが出来ないでいた。

 

「ば、バカなっ……何故、裂光拳が…効いて、ない……?」

 

 自由落下に任せて落ちる俺は、眼前に左手を構えて″無傷″で仁王立つハドラーに疑念の視線を送る事しか出来なかった。

 







消費MPをざっくり公開。


レムオル+上空待機・10
ヒャダルコ+バギマ・20
黄金の爪の突撃+バイキルトモドキ・20
黄金の爪の突撃+バイキルトモドキ・20
ベホマ・30
ベギラマ・15
ヒャダルコ+逃げ・10
ヒャダイン・10
メラゾーマ・ダブル・30
破砕拳+バイキルトモドキ・30
イオラ・10
ベホマ・30
ベタン・30
裂光拳・3


最大MPは300位になりますね。

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