でろりんの大冒険   作:ばんぼん

1 / 69
プロローグ

 『輪廻転生』

 

 誰しも一度くらいなら耳にした事がある言葉。

 

 『死んだら魂となって再び現世に舞い戻る』

 

 っていう概念。

 中には信じている人もいるかもしれない。

 しかしながら俺は信じていなかった。

いや、俺だけじゃなく大半の人は信じていないんじゃないか?

 だってそうだろ?

 七十億を越える人々の中に前世を覚えている!って人がいないんだぜ?

 もしかしたら輪廻は繰り返されているのかもしれないが、肝心の記憶が無いなら転生に意味は無い。

 輪廻転生とは死に逝く人に僅かながらの安らぎを与える方便…こんな風に考えていたんだ…自身の身におこるまでは・・・。

 

 俺こと″でろりん″には前世の記憶があるんだ。

 といっても産まれた直後から、前世の記憶を事細かく鮮明に覚えていた訳じゃない。

 物心が付き始めた頃からこの世界とは違う世界で生きた自分の記憶を徐々に思い出しており、8歳を迎えた現在でもフとした拍子に思い出す事がある。

 ハッキリ記憶に焼き付いているのは、巨大な建造物が建ち並ぶ街、魔法とは異なる電気の力に依って動く機械の数々、そして、殺風景な病室で死を待つだけの自分。

 これくらいだ。

 

 そう。前世の俺は、病室で両親に看取られながら死んだんだ。

 何を成すことなく、人生を楽しむ前に、十六という若さで前世を去った。

 

 正確な病名は覚えていない、多分知らされなかったんだろう。

 だけど最後の瞬間は覚えている。

 俺の手を握り締め泣きじゃくり、しきりに謝る母親の姿。

 

 「丈夫に産んであげられなくてごめんね、ごめんね」

 

 俺はそんな母に笑顔を向けたつもりだが、一体どんな顔が出来たのか・・・唯一の心残りだ。

 

 まぁ、前世は前世。

 完全に終わってしまった事をクヨクヨ考えても仕方がない。

 大事なのは文字通り″第2の人生″と成った現世をどう生きるか?、だ。

 

 短かった人生の断片的な記憶と言えど、前世の記憶が有るのは大きなアドバンテージだ。

 俺はこのアドバンテージを活かし、この″ドラゴンクエスト″に準じた世界で力強く生き抜いてやろうと思っている。

 別に大それた事を企んでいるんじゃないんだ。

 俺の目的を一言で言うならば、長生きする!

 ただコレだけの事。

 少なくとも、親より先に死ぬ訳にいかない。

 あんな想いは二度としたくないし、させたくない。

 

 そんな訳で自重する事なく鍛練に励んだ俺は神童の名を欲しいままにしている。

 元より高い子供の成長力に大人並みの集中力と理解力、更には素質もあった様で、初級の魔法なら全てのモノが使えるまでになっている。

 中でもイオ系とは相性がよく、8歳にしてイオラ迄使いこなし、最近では未来の勇者との呼び声まで聞こえてくる。

 

 成長途上の為、無理な筋トレは控えているが、たゆまぬ努力の結果剣術においても同世代じゃ敵無しだ。

 多少のやり過ぎ感は否め無いが、最近まで魔王なんちゃらが暴れ回っていたし、生き抜く為にも強くなるに越した事はないだろう。

 幸い、俺達家族が暮らす″アルキード王国″は大した被害を受ける事なく、なんとかって勇者が魔王の討伐に成功しているし、俺の前途は揚々だ。

 魔王が死んだ今、ドラゴンクエスト的に考えて暫くの間、少なくとも百年は平和な日々が続くだろうし、15歳の成人を迎える迄は両親の庇護の元でじっくりと鍛え、それから何をするか決めようと考えている。

 

 決して裕福では無いが、両親と姉に囲まれて暮らす現世の俺は幸せだと言える。

 

 一つ欠点をあげるとするなら、″でろりん″って名前だな。

 この世界がドラゴンクエストに準ずる世界であるといえコレはちょっとないんじゃないか?

 でも姉の″ずるぼん″よりマシか。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。