玄関ホールは、大賑わい。参加資格は定められているものの、ゴブレットに選ばれてしまえば選手になれるということが、わかってしまったからだ。重要なのは、参加資格ではなくエントリーすること。
とにかく、ダンブルドアのひいた年齢戦を突破し、名前を書いた羊皮紙をゴブレットに入れてしまえばいいのだ。そうすれば代表選手にエントリーされるし、ゴブレットが選んでくれたなら、選手になれる。それが、魔法契約による強制参加のメリットだ。
だがもちろん、デメリットもある。強制であるがゆえに、途中リタイアは認められないことだ。その点をどう考えるかは人それぞれということだろうが、とにかく玄関ホール、とくにゴブレットが設置されたあたりは人だかりとなっていた。
どうやれば、年齢線を突破できるのか。そんなことをしてまで、エントリーする意味はあるのか。そんなことまでして、誰がエントリーするのかなど、話題には事欠かない。
「もう、誰か名前を書いていれたのかなぁ」
「ダームストラングの生徒は、全員そろって入れたらしいわ。けど、ホグワーツはどうなのかしら」
「ぼく、アンジェリーナが入れたって聞いたよ。クィディッチチームのチェイサーなんだ」
ロン、ハーマイオニー、ハリーの3人が、そんなことを話しながら玄関ホールを通っていく。どうやら、ハグリッドの小屋を訪れるつもりらしい。
話に出てきたアンジェリーナは、17歳になったばかりであり正式なエントリーとなる。その他には、ロンの双子の兄であるフレッドとジョージをはじめとして、年齢線の突破を試みて失敗した者が何人かいることが知られていた。
「なあ、誰が出場したら優勝できると思う? ホグワーツの代表選手には、誰がふさわしいんだろう」
そのロンの疑問は、誰もが思っていることなのかもしれない。どちらにしろ、各校の代表選手はこの日の夜に決まることになる。ハリーたちは、やはりハグリッドの小屋を目指しているらしい。そこからそんなに離れていないが、湖のほとりにはアルテシアがいた。ソフィアも一緒であり、ほかにもう1人の姿があった。
「こうして、会うことができるとは思ってなかった。あなたもそうでしょう?」
着ている服から、ボーバトンの生徒だと思われる。ここで所属をごまかすようなことをしても意味はないので、そうであることに間違いないのだろう。
3人が、ベンチに腰掛ける。真ん中がアルテシア、その左にソフィア。
「わたしは、ティアラ。せっかく近くまで来たんだから、ご本家にごあいさつを、と思ったので」
「そうですね。でもわたし、クローデル家のことは、まったくといっていいくらい、知らないんです。いろいろと教えてくださいね」
「あはは、それはあたしも同じだけど、そんなことする必要ある? どーせ今度の対抗戦が終わったら、もう会うこともないのに」
「そうでしょうか。こうしてお互いに知ってしまったら、元には戻れないはずですよ。会わなかったことにはできない」
互いに、互いの顔を、じっと見る。それぞれ、思うことはあるだろう。だが、そんな時間はわずか。ふっと笑みを浮かべ、ティアラが目を伏せた。
「まあ、そんなことはどうでもいいことよね。それより、本題。これを忘れたら、あたし、なにしにこんなところまで来たんだか、わかんなくなっちゃうわ」
「何しにきたって言うんですか。まさか、変なこと考えてませんよね?」
ソフィアの声だが、いつものソフィアらしくないのは、その目がずっと地面を見たままであることだ。いつだったか、パーシー相手に堂々と自分の主張を貫いたときとは、大きな違いだ。ティアラが、柔らかく微笑みながら、ソフィアを見る。だが、下を向いたソフィアと視線が合うことはない。
「なんだ、しゃべれるんじゃないの。ずーっと黙ってるから、もしかしてしゃべれなかったりするのかなって思ってた」
「ご心配なく。でも、なにをしに来たのかは、ちゃんと言ってください」
「言われなくても、言わせてもらうわよ。でもね、ルミアーナ。たぶん、あなたも同じことしたんじゃないかって思うよ。違う?」
だが、ソフィアは答えない。あいかわらず、下を向いたままだ。そんなことはおかまいなしに、ティアラは話を続ける。
「本家のお嬢さんがホグワーツに入学したって聞いたとき、あなたがどう思ったかは知らないわ。でもあたしは…… まあ、それはいいか。そんなことより、本題よね。お嬢さん、ストレートに言わせてもらうけど、わたしと勝負してもらうわよ」
「えっ」
さすがにソフィアも顔をあげた。だがティアラが見ていることに気づくと、すぐに下をむく。そんなソフィアを、アルテシアはいぶかしげに見ている。
「もしもし、お嬢さん。わたしの話、聞いてくれてるのかな?」
「ああ、ごめんなさい。もちろん聞いてるけど、勝負って? まさか、三校対抗試合で競い合うってこと?」
仮にそうだとしても、アルテシアには参加資格などない。まだようやく14歳。参加できるのは17歳なのだ。
「ああ、対抗戦のことはまったくの偶然。14歳になるのを待ってたら、ちょうどこんな絶好の機会になっただけよ。あ、14歳っていう意味、わかるよね」
「ええ。わかります」
「気兼ねなく、本当の実力で勝負したい。だから14歳になるまで待ってた。さすがは本家、やはり上だって思うことができるかどうか。それって、クローデル家にとっては大きな意味があることなの。どうぞ、これ用意してあるから使って」
差し出されたのは、1枚の羊皮紙。それをアルテシアが受け取ると、今度は羽根ペンとインクだ。それをベンチに置く。
「あらかじめ書いておいてもよかったんだけど、さすがにね。ほら、もしかすると自筆じゃないとダメなんてこともあるかも。いまここで書いて」
「あの、これって」
「そうよ。対抗戦にエントリーしてもらいます。あたしも用意してあるのよ、ほら」
もう1枚の羊皮紙。そこには、すでにティアラの名前が書かれていた。これを一緒に、ゴブレットへと入れに行こうというのだろう。
「でもティアラさん、わたしは14歳。ゴブレットの周りには、ダンブルドア校長の年齢線が引かれていて、近寄れないようになってるんですよ」
「そんなの知ってるけど、それがなにか問題なの? とりあえずは、名前を書いた羊皮紙をゴブレットに入れるだけ。あんなの、どうってことないはずよ。このベンチに座ったままでもできる、簡単なことでしょ。それともまさか、まさか、できない?」
「そうね、できないわ。してはいけないことだから」
ティアラが言うのは、名前の書かれた羊皮紙を、ゴブレットのなかへと魔法により転送してしまうこと。そんなこと、アルテシアには簡単なことだ。ソフィアにもできるだろうし、きっとティアラにも可能なはずだ。
「まさかそれ、本気で言ってる? もしそうなら、考え方を変えないといけなくなるわ。なるほど、原因はそのあたりにあるのかしら」
「え?」
「ああ、気にしないで。でも、できないってことになると、困っちゃうんだけど。ええと、どうしようかな。さすがに、無理強いはできそうにないし」
「一番いいのは、あきらめて帰ること。そうするべきですよ、ティアラさん」
そう言ったのは、ソフィアである。
※
大広間は、満員と言ってよかった。なにしろボーバトンとダームストラングの生徒たち各10人、あわせて20人も増えている。それだけでも、けっこう窮屈に感じるものだ。
教職員テーブルのほうも、カルカロフとマダム・マクシーム、それにルード・バグマン、バーテミウス・クラウチの各氏が増えている。玄関ホールに置かれていた“炎のゴブレット”は、今は教職員テーブルの校長の席のあたりに置かれている。
まずはハロウィーンのパーティーとなったが、いつものような盛り上がりとはならない。誰もが代表選手の選考結果に心を奪われ、早くパーティーが終わるようにと思っているのだから、盛り上がるはずがない。そして、お待ちかねのときがやってくる。ダンブルドアが席を立つ。
「生徒諸君、どうやら代表選手が決定したようじゃ。名前を呼ばれた者は、大広間の一番前へと来るように。別室にて最初の課題についての説明があるのでな」
ダンブルドアが杖を取り、大きくひと振り。とたんに大広間を照らしていたろうそくの多くが消え、大広間が薄暗さに包まれる。おかげで“炎のゴブレット”のきらめきがいっそう目立ち、青白い炎が目にしみるようだった。誰もが見つめる中、杯の青い炎が突然赤くなり、火花が飛び散った。そして次の瞬間。
炎のなかから羊皮紙が1枚飛び出した。宙を舞いハラハラと落ちてきたそれを、ダンブルドアがつかみ取る。
「まずはじめは、ダームストラングの代表選手じゃ」
ダンブルドアの、力強いはっきりとした声が大広間に響く。
「ビクトール・クラム」
おおーっ、という声。そして、大広間中が拍手と歓声で埋め尽くされる。そのビクトール・クラムは、スリザリンのテーブルに座っていたが、すぐに立ち上がると指示されたとおりに前の方へと歩き出す。
そのビクトールの姿が別室へと消えたところで、ふたたびゴブレットの炎が赤く燃えあがる。その炎に巻き上げられるようにして、2枚目の羊皮紙が飛び出す。その羊皮紙も、ダンブルドアの手元へと舞い落ちてくる。
「2人目の代表選手は、ボーバトンのフラー・デラクール!」
ビクトール・クラムのときと同じく、歓声が沸き起こる。フラー・デラクールは、優雅に立ち上がると長い髪を揺らしながらレイブンクローとハッフルパフのテーブルの間を歩いてくる。
「あれ? たしか、ティアラとかって名前だよね。代表にはなれなかったみたいだね」
「エントリーしなかったのかもしれないけどね」
フラー・デラクールを見ながら、アルテシアとパーバティがささやきあう。そんな2人の後ろに、話題としていたティアラが姿を見せた。
「あたし1人が参加しても、なんの意味もないからね。それより、その人は誰です? なぜその人がわたしの名前を知ってるのかしら」
「ああ、わたしが話したんです。パーバティ・パチルよ。わたしの大切な友人」
急に鋭さを増した目で、ティアラがパーバティを見る。パーバティは、にっこり笑って会釈してみせた。
「よろしくね」
「なるほど。なるほど、なるほど」
ティアラの目は、じっとパーバティにそそがれている。パーバティも同じだ。そんななか、三度“炎のゴブレット”が赤く燃え上がる。ホグワーツの代表選手が決定したらしい。宙を舞う羊皮紙が、ヒラヒラとダンブルドアのもとへ。
「お嬢さん、別の部屋で少し話がしたいんだけど。もちろん、そのご友人とやらいう人も一緒でかまわないわ」
「いいけど、ソフィアも呼ぼうか?」
「いえ、あの子はいないほうがいいわ。場所はお嬢さんにおまかせします。わたしはよく知らないので」
ホグワーツのなかは詳しくはない。そういうことだろう。アルテシアがパーディをみる。パーバティがうなずいたとき、ちょうどダンブルドアが3人目の代表選手を告げた。
「セドリック・ディゴリー!」
セドリックは、ハッフルパフの生徒だ。たちまち、わっと大歓声がわき起こる。そんななかでは、数人の生徒がその姿を消したとしても、気づかれることはない。だれもが、ハッフルパフのテーブルから教職員テーブルのほうへと歩いて行くセドリックに注目していたからだ。
そのセドリックへの拍手はあまりにも長々と続き、選手選考の締めくくりができないほどだった。だがその大歓声が、突如、途切れる。すでに選考は終えたはずのゴブレットの炎が、またも赤く、勢いよく燃え始めたのだ。そしてそこからはじき出されるかのように、羊皮紙が宙に舞った。
※
「やっぱり、できるんじゃないですか。ひょっとしたら、なんて思ったりもしたけど、そんなはずないよね。安心したわ」
それはパーバティを含めた3人を、よく放課後に利用している空き教室へと移動させた魔法に対して言ったのだろう。だが同時に、ティアラに試されたのではないか、という思いも抱かせる。ふと、そんなことを思ったアルテシア。だがそこに、とくに悪意のようなものは感じられなかった。言葉どおりに気にしてくれていたのだろう、ということしておく。
「ティアラさんは、どうしてエントリーしなかったの? 名前を書いた羊皮紙は用意してあったはずなのに。代表になれる自信はあったんでしょ」
「自信はあっても、お嬢さんが参加しなけりゃ意味ないでしょ。わたしだけ代表として課題に取り組んだって、なにしてるんだかわかったもんじゃないわ。お嬢さんと競い合ってこそでしょ。ほんと、残念」
「それは申し訳ないなって思うけど、わたしたちが競い合うのに、どんな意味があるの? そんなことより、ゆっくりと話をしたほうがいいと思うんだけど」
アルテシアは、そう思っている。だがもちろん、ティアラにもティアラの考えがある。どう折り合いをつけるかは、これからの話し合いで、ということになるのだろう。それはともかく、アルテシアのティアラに対する口調が最初の頃から変わってきているようだ。同じようなことがティアラのほうにも言えるような気がするが、はたしてそのことに、本人たちは気づいているのかどうか。
「意味はありますって、もちろん。ルミアーナのあの子だって、たぶん同じようなことをしたはず。勝手な想像ですけどね」
ティアラの視線には、軽く首を傾けただけ。とくに返事はしなかった。たしかにソフィアも、同じようなことを言っていた。そのことをアルテシアは、思いだした。
「まあ、いいわ。あの子にとっては満足のいく結果だったんでしょうからね。でもね、お嬢さん。わたしにはわたしの思いがあります。ルミアーナの判断を、そのまま受け入れるつもりなんてないし、それじゃ意味がない。どうあっても、競ってもらわないとね」
「でも、どうするの? もう、代表選手は決まったわよ。ええと、誰だったっけ?」
その発表の場にいたはずのアルテシアだが、覚えていないらしい。そばにいるパーバティを見たが、パーバティもわからないようだ。2人ともに苦笑いしつつ、ティアラに目を戻す。
「あきれますね。他校はともかく、自分たちの代表くらいは覚えなさい」
「ごめん、ごめん。で、誰だったっけ?」
「もしかして、あたしをからかおうとか、してませんよね? ま、そうじゃないって思っておくわ。ちなみにボーバトンの代表は、フラー・デラクール。ヴィーラの血を引くだけあって、さすがに美女なんだけど、それだけ。魔法の腕はあたしのほうが上です」
「でも、ティアラさんもそうだと思うけど、わたしたちの魔法は少し違うわよ。比較しづらいだろうし、比べても仕方ないんじゃないかな」
「ちがうわ。クローデルが上でないとダメなのよ。あたしは、あたしの魔法に誇りを持ってる。少なくとも、ボーバトンでは誰にもまけてないし、ルミアーナよりも上なはずですっ」
魔法力が、上か下か。ティアラはそのことに、こだわりを持っているようだ。それは、アルテシアと魔法競技で競いたいということからもうかがえる。だがなぜ、とアルテシアは思う。
「方法は、わたしが考えます。なにも、対抗試合の場でみんなの注目のなか競い合う必要なんてない。あたしは、あたしの力をあなたにわかってもらえばいいし、あなたの力が判断できればそれでいいんだから」
「どういうことかしら、それって。どういう意味?」
「そんなこと、別にいいじゃないですか。話したくなったら話すわ。その時は、あたしが決める。それより、いまごろは第一の課題が発表されてるころだって思うんですよね」
それはそうだろう。3人は、各校それぞれの代表選手が発表されたところでこの空き教室へと移動したのだ。ゆえにその後、大広間で起こったことをアルテシアたちは知らない。3人の移動後、大きな問題が起こっていることを、まだ知らないのだ。
「とにかく、その課題のもとで、あたしとお嬢さんとで同じように競ってもらいます。課題の内容がわかり次第にね。もしくは代表者のすぐあとで、ということでもいい。もちろん、審査員なんていらない」
ティアラが、パーバティを見る。その厳しい目に、パーバティは思わず目をそらす。
「審査員なんて、いらない。他人の評価なんて、どうでもいい。どちらの勝ったかなんて、本人が一番よくわかる。そうですよね?」
「え、ええ。でもわたしたちが競い合う必要なんて、ないと思うんだけど。それよりこうして、いろいろ話をしましょう。そのほうがわかり合えるし、近道だと思うわよ」
「なんの、なんの近道だと言うのですか。クローデル家を受け入れてくれるとでも。500年前のこと、なかったことにしてくれるって言うんですか」
500年前? 500年前といえば、グリフィンドール塔に棲むゴーストが処刑された頃へとさかのぼる。そのとき、クリミアーナでは大きな騒動が起きている。そのとき、当時の人たちはみな、ばらばらになったとされている。
「500年前って?」
「ごめんなさい、忘れてください。言うつもりなんてなかった。聞かなかったことにして」
「でも、ティアラさん」
「いいんです。とにかく、勝負してさえもらえれば。課題の内容が分かったら、わたしから連絡します。それまでお元気で」
その言葉を残し、ティアラの姿が消える。空き教室から、自分たちの馬車へと移動したのだろう。あの巨大な馬車には、各自の部屋くらいはあるのに違いない。それは、ともかく。
「ねぇ、アル。いまの人、ティアラさんだっけ。結局、どういう人なの?」
「クリミアーナの最初のご先祖と一緒にいた人だったと思う。ソフィアもそうだけど、500年前のクリミアーナでの騒動のときから離れてしまったって聞いてるわ」
「ああ、そういえばそんな話、聞いたね。首なしニックが生きてた頃のことだよね」
「うん。その原因とか背景なんかはわたしにはわからない。サー・ニコラスに教えてもらったことくらいしかね。でもあの言い方だと、ティアラさんのクローデル家には、その頃のことが伝わってるみたいだね」
「あたしもそう思うけど、なんでクリミアーナではわからないの? 魔法書とか残ってるんだから、そこに書いてあってもよさそうなもんだけど」
たしかにそうなのだし、アルテシアも、そのことを知りたいとは思っている。だが、こだわるつもりはなかった。大事なのは、過去よりも今。大切なのは、これからなのだ。
「でも、勝手なこと言わせてもらうなら、あたしって、とってもラッキーだよね」
「え?」
「だってさ。三校の対抗戦よりもスゴそうな気がする。それを、あたしは見られる、かもしれないんだよね」
冗談で言ってるのだろうが、そのうちのいくらかは本気なのかもしれない。パーバティも、魔女だ。クリミアーナの魔法に興味がないはずはないし、アルテシアが本気で魔法を使うところは見てみたいはずだ。
「でも、どうするつもりなんだろう。対抗戦の課題と同じことができればいいけど、準備をするのが大変じゃないかな」
「それは、あたしたちが心配しなくてもいいんじゃないの。あのティアラさんがなんとかするでしょ」
「手伝いとか、したほうがいいのかしら」
「おや、やる気なんだね、アル。でも大丈夫? あの人、なんだか自信たっぷりって感じだったけど」
パーバティの言うとおりだった。ティアラにしても、自信があるからこそ挑戦してきたのだろう。その挑戦を、アルテシアは受けるつもりだった。
「大丈夫、わたしは勝つよ。魔法に勝ち負けを持ち込むなんておかしなことだってわかってる。でもこれは、避けては通っちゃいけないことなんだって思う。絶対に負けちゃいけないって気がするんだ」
「どういうこと?」
「さあ? そんな気がするだけだよ。でもここで負けたりしたら、あの人とはもう会えなくなるんじゃないかな」
そんなアルテシアを見ながら、パーバティは思う。アルテシアにそのつもりがあるのなら、どうしても必要になるものがあるのだ。いったいあれをどうするのか。そのことをずっと気にしていたのだが、まさにいまが、そのことを持ち出すいいチャンスではないのか。
「そうなると、校長室のにじ色が必要なんじゃないの」
「うん、そうだね。校長が返してくれるまで待つつもりだったけど、そうも言ってられなくなってきたかな」
「ソフィアに頼んでみようか。きっとあいつ、大喜びでやってくれると思うけど」
「いいえ、ソフィアには頼めない。これは、わたしがやる」
「どうして?」
ソフィアには、頼めない。パーバティの言うように、頼めばすぐにも実行してくれるだろう。だが、ソフィアにやらせることはできない。これは自分でやるべきことなのだと、アルテシアは、自分に言い聞かせる。
「だって、校長室に忍び込んで無断で物を持ち出すことになるのよ。そんなこと、ソフィアにさせていいはずがない。そんなのは、わたしがやればいいのよ」
「でもさ。そもそも校長が返さないのがおかしいんじゃないの。アルテシアのだってわかってるのに」
「そうだけど、持ち出したりすればすぐにばれる。そのときソフィアが校長先生にとがめられるのは、わたしには耐えられない」
「だったら、同じ物を作って入れ替えておけばいいんじゃないかな。校長はあれがなにかわかってないんだから、気づくはずないと思うよ。アルなら作れるでしょ。うまくやれば、寮の部屋からでもできるんじゃないの」
そんなことまでするつもりなど、アルテシアにはなかった。あれは、自分のものなのだ。だがパーバティの言ったことに、ちょっとだけ心が揺れるアルテシアであった。
※
アルテシアたちが寮に戻ると、大騒ぎとなっていた。なんと、ホグワーツの代表選手は2人だというのだ。その名前を覚えてはいなかったが、ハッフルパフのセドリック・ディゴリーが選出されたところまでは聞いていた。その後のことは、ティアラと話をしていて聞いていない。2人目が選出されたことなど知らなかったのだ。
アルテシアとパーバティが、顔を見合わせる。2人の目の前では、まるでパーティーのような大騒ぎが、談話室いっぱいに繰り広げられていた。
「ポッターが代表選手だって。ならさ、アルがエントリーするっての、アリだったんじゃないの」
「いえいえ、どういたしまして。でもなんでだろ。あそこには近づけなかったはずでしょ。どんな方法使ったのかな」
「やっぱり、興味、あるんだ」
「そりゃ、あるよ。でも、その方法に、だからね。参加したかったとかじゃないから」
それは、本当だろう。そんなアルテシアと同じ思いを持った人は多かったらしく、聞こえてくる声は『どうやったんだ』といったたぐいのものが多かった。そして、それに対するハリーの答えは、これだ。
『ぼく、エントリーなんかしてないんだ。本当だ』
ハリーは、そう叫んでいた。何度も何度も、その声がグリフィンドールの談話室に響いた。
ずいぶんと間が開いてしまいましたが、続きの話をどうぞ。
なかなか、書く時間がとれなくてこんなふうになってしまいました。今回、代表選手が決定されましたが、これは原作どおりですね。もしかすると、アルテシアが代表になる、なんて思ってた人がいるかもしれませんが、そうはせずに別のパターンでの競い合いという形になります。わたしとしては予定どおりなんですが、さて、どうなりますやら。
ティアラさんとの競い合いのために、どうしてもアルテシアには必要となるものがあります。いよいよ、その奪還作戦開始? となるのかな。