ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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第30話 「チェックメイト」

 ハリー・ポッターは、急いでいた。このことを、誰かに話したくて仕方がなかったからだ。

 誰に? 何を? そんなことは決まっている。ハーマイオニーとロンだ。あの2人に話をして、なにか気の利いた返事でもしてもらわないと、きっとぼくは、おかしくなる。そんなことを思いつつ、ハリーは、寮の談話室をめざして廊下を走る。

 得てしてこういうときは、スネイプあたりに出くわして『廊下を走ってはいけない』などととがめられ、寮の得点を減らされたりするものだが、このときは、なんの邪魔もはいらなかった。

 もちろん到着した談話室では、ジャスティンと首無しニックが一度に襲われた事件のことが、あちこちでささやかれている。すでに死んでいるゴーストまでもが石にされたことで、生徒たちの不安感は増しているのだ。そのことはきっと、クリスマス休暇に実家へと戻る生徒の数にも影響を与えるのに違いない。おそらく今回は、いつもの年よりも多くなるのだろう。

 そんななか、ハリーは、ハーマイオニーとロンを見つけると、部屋の隅へと引っ張っていった。

 

「ああ、ハリー。ついさっき、マクゴナガルが来ていたわよ」

「なんだって」

「キミとアルテシアは、校長室にいたんだろ。でも2人が襲撃犯だってわけじゃない。誤解しないように。なんて言ってたな、たしか」

 

 ロンの声は、明るかった。そんな調子の声だった。そしてその声は、ハリーの耳に心地よく響く。どうやらマクゴナガルは、わざわざ談話室まで状況を説明しに来たらしい。それで少しは生徒たちも落ち着いたし、ハリーに対する視線もやらわいだのではないか。

 

「そんなことより、ハーマイオニー。キミ、ソフィアって1年生を知ってるだろ?」

「え? ソフィア。さあ、どうだったかしら。でもそれがどうしたの?」

「そいつは、ホグワーツ特急でキミと会ってるらしいんだ。しかもそいつ、アルテシアの親戚かなにからしい」

「え、そうなの。親戚?」

 

 いや、そうじゃないとハリーは、首を振る。あのとき、親戚だなどとは言ってなかったはずだ。

 

「違う。そうじゃなくて、なにかの知り合いらしいんだ。けどソフィアって、なんかおかしいんだよ」

「おかしいって、どういうことだい?」

 

 そこでハリーは、ソフィアと会ったときのことを話して聞かせる。その場にはアルテシアもいたのだが、そのことも含めてだ。

 

「たしかに、妙なところはあるわね。でもきっと、アルテシアがなにか知ってるはずよ。それに、その魔法だけど」

 

 そう言ったのはハーマイオニーだが、その言葉は、そこでふいに途切れることとなった。そこにパーバティが来たからだ。

 

「ポッター、ちょっといい? アルテシアはどうしたの? 一緒に戻ってきたんじゃないの? まさか、まだ校長室だとか」

「ああ、あいつは、マクゴナガルのところだよ。これからのことを相談するとか言ってたけど」

「そうなんだ。けどよかったね。疑いは晴れたんでしょ。あたしたちが襲撃犯だなんて、とんでもないわ」

 

 だが、ハリーとロン、そしてハーマイオニーは、その言葉に乗ってはこない。パーバティが来るまでに話していたことのほうに、興味があるからだ。すぐにも、その話を続けたいのだろう。べつにパーバティに聞かれても問題ないはずなのだが、3人とも、話そうとはしなかった。

 

「どうしたの、みんな」

 

 さすがに、おかしな空気を感じたようだ。ハリーたちとしては、ここで話をやめてどこかへ行ってほしかったのだろうが、パーバティは、それならばと話題を変えてきた。

 

「クリスマス休暇は、みんな、どうするの? あたしはアルテシアのところに行くことになってるの」

「え! パーバティ、それ、ほんとなの。クリミアーナに行くの?」

 

 この話題は、ハーマイオニーの好奇心をみごとに刺激したらしい。

 

「うん。もう、アルと約束した。休暇中は、ずっとクリミアーナよ」

「うわ、あたしも行きたい。休暇中ずっとはムリだけど、あたしの家からはそう遠くないはずだから、帰りに寄ることはできるはずよ。パーバティ、あたしも行くわ」

「ええと、それならアルテシアにお願いしてみてもいいけど、本気なのよね?」

「もちろんよ。出発はいつ? どうやっていくの? ああ、そうか。ホグワーツ特急に乗るのは同じよね」

 

 興奮しているのは、ハーマイオニー1人だけ。そのことに笑ったロンを、ハーマイオニーがにらみつける。

 

「なによ、失礼ね」

「キミ、言ってることムチャクチャだぞ。まずアルテシアに話をしてOKをもらってからだろ、喜ぶのは」

「大丈夫よ。パーバティが行けるんだから、あたしも行っていいのに決まってる。ああ、今から楽しみだわ」

「せいぜい、断られないように祈ってやるよ」

 

 ハーマイオニーの鋭い視線が、またもロンにむけられる。この目は怖い、怖すぎる。そんな視線を向けられたのが自分でないことに、ハリーはあきらかにほっとした様子だし、パーバティのほうは、こんな雰囲気はまずいと思ったのだろう。ふたたび話題を変えた。

 

「そうそう、ハーマイオニー。さっきなんだけど、マルフォイに聞いてみたよ」

「え? なにを?」

「スリザリンの継承者のこと。アルテシアがそうじゃないかってことで、校長室に連れて行かれたでしょ。これはマズイと思って、マルフォイを問い詰めたのよ」

「それで? それでどうなったの」

 

 この話題には、ハリーたち3人ともが、大乗り気だった。最初からこの話をすればよかったと、パーバティは苦笑い。

 

「結果から言うと、スリザリンの継承者はマルフォイじゃないわ。じゃあ誰なのかも、マルフォイは知らないみたい」

「ウソだ。一番怪しいのはあいつだ。違うとしても、何か知ってるはずなんだ」

「そうだよ、パーバティ。キミは、あいつにからかわれたんだよ。そう簡単に本当のことを言うもんか」

「そうかもしれないけど、あたし、マルフォイにアルテシアが校長室に連れて行かれたこと、話したのよ。スリザリンの継承者だと疑われたからだって話したの」

 

 そんなことを言ってもよかったのかどうか。ハリーとロンは、そんな疑問を持ったが、ハーマイオニーは、なるほどとばかりに2度ほどうなづいてみせた。

 

「それ、いい考えね。ドラコは、なぜかアルテシアには好意的なのよ。みんなもそう思うでしょ。そのアルテシアの疑いを晴らすために誰がスリザリンの継承者なのか教えてくれって言ったのなら」

「そう。まさにそうなんだけど、マルフォイは、誰が継承者なのか知ってたならすぐにもダンブルドアに証言するけど、残念ながら知らないんだって」

「あいつが、そう言ったのか」

「そうよ、ウィーズリー。ウソなんかじゃないと思う。マルフォイは、アルテシアのことでウソなんか言わないわ」

「さあ、それはどうだかな。けど、あいつが知らないとなると、もう手がかりがないぜ。どうすりゃいいんだ」

 

 両手を広げ、お手上げといった感じのポーズを見せる、ロン。だが、パーバティの話には、まだ続きがあった。

 

「そうでもないわよ、ウィーズリー。マルフォイは、いくつか教えてくれたわ。知ってる? 秘密の部屋は、50年前にも開かれたことがあるらしい。そのときは、女子生徒が1人犠牲になってるそうよ」

「犠牲にって、死んだってことか? 石になったんじゃないのか?」

「死んでるそうよ。思うんだけど、石になってるのはなにか幸運なことがあったからで、本当なら死んでたはずなんじゃないかしら」

「待って、パーバティ。それ、ドラコが言ったの? 石になったのは幸運だってドラコが言ったの?」

「いいえ。あたしがそう思っただけなんだけど」

 

 それってきっと、解決のためのヒントになる。ハーマイオニーは、そう断言した。

 

 

  ※

 

 

「パルマさん、ただいま」

「おかえりなさいまし、アルテシアさま。お元気そうでなによりです。おやおや、お友だちがご一緒なんですね」

 

 クリミアーナ家の玄関に飛び込んでの、アルテシアの第一声がそれだった。その声に、玄関へとやってきたパルマが答える。アルテシアの後ろには、一緒にクリミアーナへとやってきたパーバティとハーマイオニーがいた。

 

「こんにちは。あの、よろしくお願いします。パーバティ・パチルです。去年は妹がお世話になりました」

「あらま、もちろん覚えてますけども、違う人なんですか。あたしゃ、おんなじ人かと」

 

 くすくすと、アルテシアが笑う。実に楽しそうに、パーバティをパルマに紹介する。

 

「あのね、パルマさん。この人は、パドマのお姉さんのパーバティ。双子だって話したでしょう」

「そりゃあ、覚えてますけどね。けどね、アルテシアお嬢さま。どこが違うんです? 違うとこなんて、ねぇでしょうに。同じ人なんでしょう。あたしをからかうおつもりなんですね」

「違うってば。そっくりなだけよ。それからこっちが、ハーマイオニー・グレンジャー。ホグワーツの寮では同じ部屋なのよ」

「おぅ、そうですか。かしこそうなお嬢ちゃんですね。さあ、みなさん。とりあえず、中へどうぞ。お疲れになったでしょう。さあさあ、どうぞ」

 

 通されたのは、応接室。そこでハーマイオニーとパーバティは、一息つく。やがて、パルマがお盆に飲み物を載せて、やってくる。

 

「アルテシアさまは、着替えてからくるそうです。少しお待ちくださいね」

「はい。ありがとうございます」

 

 2人の前に、その飲み物が置かれる。2人は軽く頭を下げたが、パドマは、そのままじっと、パーバティを見ていた。

 

「あの、なにか?」

「ああ、いいえ。すみませんね、どうしても、去年の人と同じに見えてしまって。でも、違うんですよねぇ」

「ええと、双子なので。よく、そっくりだと言われますけど」

「でしょうねぇ。けどアルテシアさまは、どうやって区別してなさるんですかねぇ。こればっかりは、あたしにはわからねぇですよ」

 

 そう言って部屋を出ようとしたのだが、ハーマイオニーが呼び止める。

 

「すみません、ちょっとだけ、いいですか」

「いいですよ。なんですかね?」

「アルテシアって、パーバティとパドマをちゃんと見分けているんでしょうか。あたしは、正直言って、外見だけだとわかりません。話し方とか、声とかで判断してるんですけど」

「そうなの、ハーマイオニー。ちゃんとわかってるんだと思ってた」

 

 だが、そうではなかったらしい。無言で2人が並んでいたとき、どちらがパーバティかを見分けることができる確率は50%だと、ハーマイオニーは自慢げに言った。それには、パルマも笑い声をあげた。

 

「ごめんなさいね。でもアルテシアさまは、ちゃんと見分けてなさいますよ。たぶん出会った人の全員を覚えていなさると思いますね。お母上もそうでしたけど、クリミアーナ家の人には、そういうところがあるみたいですね」

「そ、そうなんですか」

 

 思わず驚きの声をあげたところで、アルテシアが応接室へと戻ってきた。学校のものとは違う、クリミアーナの白いローブに着替えている。

 

「なんの話? ずいぶん楽しそうだけど」

「あ、あのね、アル。わたしとパドマが2人で並んで座っていたとするでしょ。いまは、隣にハーマイオニーがいるけど」

「え? なにそれ。それがどうしたの?」

「そのとき、どっちがあたしで、どっちがパドマかを見分けることができる確率は、どれくらいかしら?」

 

 いったい何を言っているのか。その表情からは、まったくの意味不明であることは読み取れるが、それでも返事をした。

 

「どんな答えを期待してるのか知らないけど、100%に決まってるでしょ。どっちがどっちかなんて、ひと目見れば十分よ。あ、なるほど。ほんとは顔を隠してるんだよとか、そういう引っかけ問題なのね」

「ううん、違う。そうだよね、100%に決まってるよね」

 

 相変わらず訳のわからないアルテシアだが、それでも2人の前に座った。

 

「部屋は、どうする? 一緒でも、別々でも、お好きなように用意ができるけど?」

 

 いろいろ相談の結果、それぞれが個室でということになった。ホグワーツではいつも寮で同じ部屋に寝起きしているとあって、こんなときぐらいは別々で、ということになったのである。

 

 

  ※

 

 

「おはよう、アル。早いね、あたしも早起きしたつもりだったんだけど」

「あ、おはよう、パーバティ。どう? よく眠れた?」

 

 出会ったのは、クリミアーナ家の中央をつらぬく廊下。この左側に、パーバティが泊まった部屋がある。アルテシアの部屋は右奥だ。

 

「うん、ぐっすり寝たよ。ハーマイオニーは?」

「まだ寝てるんじゃないかな。朝ご飯は、どうする? すぐに用意できるけど」

「ありがとう、もちろんいただくけど、アルテシアはもう済んだの?」

「ううん、まだ。そのまえに散歩に行くつもりだったけど、一緒に食べようか」

 

 そう言って食堂のほうへ行こうとしたのだが、パーバティが引きとめる。

 

「散歩に行こうよ。森とか、案内してよ。パドマが言ってたけど、アルは毎朝、散歩してるんでしょ。おじゃまじゃなかったら、一緒に行きたい」

「ほんと! 一緒に行ってくれるの?」

 

 そこまで喜ぶとは、パーバティも意外だったようだが、ともあれハーマイオニーもまだ寝ているのだからと、連れだって散歩に出た2人であった。

 そんな調子で始まったクリスマス休暇も数日が過ぎた。アルテシアとパーバティは、いつも一緒にいて話をしていた。これまでのことや、これからのこと。なかでも『秘密の部屋』に関することは、念入りに話を積み重ねていった。

 そのときハーマイオニーはどうしていたかというと。

 

「ずっと書斎から出てこないんだけど、大丈夫なのかなぁ」

 

 パーバティが心配しているのは、実家に帰らなくてもよいのか、という点である。そもそも、このクリミアーナ家の訪問は、ハーマイオニーにとっては、突然の話であったはずなのだ。自分でも、せいぜい数日の寄り道だと言っていたくらいなのだから。

 

「あの調子だと、学校始まるまで出てこないんじゃないのかなぁ」

「始まっても、あのままだったりしてね」

「あはは、ありえるよね。でも、アルはいいの? あそこには、クリミアーナ家の大切な本があるんでしょ。魔法書とかさ」

「そうだけど、平気だよ。ほんとうに好きな人に読んでもらえるんなら、本も喜ぶんじゃないかな」

 

 それはそうだろうが、ハーマイオニーのそれは、やりすぎの感があった。なにしろ、部屋を出てこないのである。しかたがないので、食事もパルマがお盆に載せて持って行き、夜には布団を運んだりもしているのだ。いったい、トイレはどうしているのだろう。書斎にトイレはないし、アルテシアとパーバティは、ハーマイオニーがトイレに行くところを1度も見たことがない。

 

「アルは、書斎の本は全部読んだの? って、そんなわけないか。あんなにあるんだもんね」

「そうでもないよ。ほとんどは読んでると思うよ」

「へぇ、そりゃすごいや。ハーマイオニーもそうなりそうな気がする。きっと、全部読むまで出てこないよ、あれは」

 

 そのパーバティの心配は現実化するのかどうか。アルテシアたちがそんな心配をしているころ、ホグワーツのグリフィンドール寮の談話室では、ハリーとロンが、チェスで対戦しながら話をしていた。

 

「いまごろ、アルテシアたちはどうしてるかなぁ。来年は、ぼくらも行けるかなぁ」

「クリミアーナ家にかい? そうだな、行ってみたいよな」

 

 チェスの腕は、ロンのほうが上だ。なのでハリーは連戦連敗なのだが、さしあたってすることもないのか、チェスを続けていた。

 

「なあ、ロン。アルテシアって、どこかおかしいって思わないか」

「おかしい? アルテシアがか。どんなふうに?」

「どこがってわけじゃないんだけど、よく考えてみると、やっぱりおかしいって思うんだ」

「たとえば、どんなことだい?」

 

 盤上では、ちょうどハリーのナイトが、ロンのビショップにとられたところだ。

 

「ドラコと親しいだろ。いや、親しいってほどでもないんだけど、普通に話ができてる。ドラコのやつが悪口言わないのは、アルテシアだけだ」

「そうだけど、それはドラコのほうの問題だろ。アルテシアは、誰とだって普通に話すぜ」

「魔法にしても、最初は使えなかったのに、使えるようになったじゃないか」

「ああ。でもそれは、勉強したからだろ。けど、そんなに上手だとは思えないな。ぼくの杖がまともだったなら、ぼくのほうがうまいと思うぜ」

 

 ロンの杖は、ウィーズリーおじさんの車で空を飛んでホグワーツへ来たときの騒動で折れてしまっていた。だがその杖がまともだったしても、ロンよりはアルテシアのほうが魔法はうまいんじゃないか。ハリーは、そう思っていた。もちろん、口にはだせないことけれど。

 

「ぼく、あれがわざとだったとしたらって考えてみたんだ」

「どういうことだい。わざと使えないふりをしていたって? なんのために? ぼくはそんなこと考えたこともないけどな」

「ぼくもだ。ぼくだってそんなこと思ってもいないんだけど、もしそうならって考えてみたんだ」

「それ、考える意味なんてないだろ。それで、どうなったんだい」

 

 それはハリーも自覚していたらしい。というか、思ってもいなかったことを考えるのは難しかったようだ。

 

「よくわからなかったんだ。こういうことは、ハーマイオニーが考えるべきだと思ったよ」

「だろうな。けどキミ、それはつまり、アルテシアはわざとじゃなかった。そういうことになるんじゃないか。そうだろ」

「そうだよ。そして、こう思ったんだ。あいつは、なぜ魔法が使えないのにホグワーツに来たんだろうって」

「ああ、それはたしかに不思議だな。けど、学校が許可したからだろ。それにあいつは、何代も続く魔女の家系だぜ」

 

 もちろんそれを、ハリーも否定したりはしない。でも、気になるのは仕方がない。

 

「ドビーのこともあるんだ。ドビーが危険だって言ってたのは、秘密の部屋のことだろ。たしかにいま、危険なことになってる。そのドビーが、アルテシアには近づくなって言ったんだぞ」

「ああ、そうだったな」

「思うんだけど、ドラコは純血主義だ。それって、家が闇の魔法使いだったからだろ。父親は死喰い人だったんだ」

 

 もちろんそれは、ロンも知っていた。だが、そんなことはいまさらだ。改めて言うことじゃない。ロンはそう思っているので、何も言わずにハリーを見ただけだ。

 

「クリミアーナは、どうなんだって思ったんだ。何代も続く魔女の家系なんだろ。その魔女たちが闇の側だったとしたらって」

「なんだって」

「だからドビーは、近づくなって言ったんじゃないかな。ドビーは、そのことを知ってるんだよ」

「いや、だからって」

「ドラコは、間違いなく家の影響を受けてる。じゃあ、アルテシアは? どうなんだろう」

 

 アルテシアは、いいやつだ。ハリーは、そう思っている。そのことを疑うつもりはないのだが、いろんなことを考えているうちに、こんな考えに行き着いてしまったのだ。それにもちろん、自分がヘビ語を話せるということがある。コリンやジャスティンを襲ったりはしていないが、自分だってもしかすると、闇の側となにかの関係があるかもしれないのだ。

 

「仮に家がどうだろうと、ぼくなら、気にしないな。だって、アルテシアは、いいやつじゃないか。ハーマイオニーも言ってたけど、あいつには世話になってる。なにかよっぼどの証拠でもない限り、疑う気にはなれないよ」

「それは、ぼくだってそうなんだ。でも、気になるんだ。なんだか、マルフォイたちのほうに近いって思わないか」

「思わないって、言ってるだろ。それにハーマイオニーは、とっくにそんなことは考えてると思うぜ」

「え?」

 

 ロンの言うことが、すぐには飲み込めなかったらしい。ロンが、すぐに言葉を続ける。

 

「いいか、ハリー。ハーマイオニーがいま、どこにいると思う? クリミアーナだぞ」

「そんなこと、知ってるさ」

「ぼくらが考えつくことくらい、ハーマイオニーなら、とっくに考えついるはずだろ。だからハーマイオニーは、クリミアーナに行ったんだ。クリミアーナがどんなところかを調べるのは、きっと図書館に行くよりも、直接クリミアーナ家に行ったほうがてっとりばやいんだ。そうは思わないか」

「なるほど。たしかにそうだ」

「だろ。さっき、キミは自分で言ったじゃないか」

 

 何を言ったっけ? そんな表情となったハリーに、ロンが笑いかける。

 

「こういうことは、ハーマイオニーが考えるべきなんだ。ぼくらにわからないことは、あいつが考えればいいんだよ」

「それは、そうだけど」

「いま、ハーマイオニーはクリミアーナだ。続きは、あいつが帰ってきてからでいいさ。いまのぼくらには、待つことも必要なんだ」

 

 なかなか、うまいことを言う。ハリーは、そう思わずにはいられなかった。ロンが人差し指を立て、それをハリーに示した。

 

「ハリー、1つ言っておくけど」

「なんだい」

「次の一手で、ぼくの勝ちだぞ。チェックメイトだ」

 


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