ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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 第3話のお届けです。感想いただいた数名の方をはじめ、読んでいただいてる方に、その感謝を込めてのお届けです。
 感想のなかで『女子』という言葉に、注目が! なんか気に入ったので、また使ってみようと思いました。
 今回は、ホグワーツ特急。主人公にお友だちができるようです。でもそのまえに、ダンブルドアさんのお話を、お聞き下さいませ。



第3話 「ホグワーツ特急」

 その朝、マクゴナガルはホグワーツの校長室を訪れていた。ダンブルドアにアルテシアのことを報告するためである。ダンブルドアの意向どおりにというべきか、ともあれアルテシアは今日、ホグワーツ行きの特急列車に乗ることになった。その切符も渡してある。

 それにしても、とマクゴナガルは思う。今回のことは、とても貴重な体験であった。昨日も、買い物を終えた後『姿くらまし』であの家に戻ったのだが、アルテシアを送り届けるだけでは終わらなかった。あの広いクリミアーナ家の庭ではすでに宴席の用意がされており、いつのまにか、近隣の住民たちも集まっての『お祝い』に参加していた。魔法学校入学という“修業の旅”の祝いだという。

 あきらかにマグルである人たちと同じテーブルに着き、魔法を話題に盛りあがる。そんな経験は、もう二度とできないのに違いない。

 

「どうやら、無事に入学してくれることになったようじゃな」

「ええ、必要な物も買いそろえ、ホグワーツ特急の切符も渡しておきました」

「なによりじゃ。お茶でもいかがかな?」

「いただきましょう」

 

 もちろん、このまま帰るつもりはない。この機会に、アルテシアの入学についてのダンブルドアの意向を確かめておきたいのだ。なにしろアルテシアは、今夜、このホグワーツに来るのだから。

 

「それで、アルテシア嬢はどんなようすだったかの?」

「気になりますか」

「なに、簡単にはいくまいと思っていたのじゃよ。これまで、クリミアーナ家からホグワーツに入学した魔女はいないのでな」

「そのことですが、ダンブルドア。ミス・クリミアーナは、自分たちの使う魔法は少し違うのではないかと言ってました。いわば異端の者をなぜホグワーツは受け入れるのか、そこで魔法は学べるのかと気にしていましたよ」

「ふむ。なるほどの」

 

 そういった事情をダンブルドアが知らぬわけがない、とマクゴナガルは思っている。それに問題は、もう1つある。

 

「ご承知でしょうが、ミス・クリミアーナは、まだ魔法が使えません。クリミアーナ家歴代の魔女たちの例でいけば、13歳から14歳ごろその力に目覚めるのが普通だそうです。なのにいま、入学させねばならない訳があるのでしょうか」

「もちろんじゃよ、それでいい。れっきとした魔法使いでありながらも、魔法が使えない。なぜか。なぜ魔法が使えないのか。どうやって魔法力を得るのか。どういう過程を経て魔法使いとなっていくのか。どんな魔法を使うのか。それらを知りたいとは思わんかね」

「それはつまり、ミス・クリミアーナが魔女として成長していく過程を間近でみるため、ということですか。そのために入学させるのだと」

「そうじゃよ、ミネルバ。わしらは知らねばならぬのじゃ。ヴォルデモートは、決して滅びたわけではないのじゃからの」

 

 ミネルバと呼ばれることに、抵抗はない。だがいま、マクゴナガルの気持ちはざわめいていた。いったい、なにがそうさせるのか。むろん、ヴォルデモートの名前が出たからではない。それだけは違うとマクゴナガルは思った。

 ちなみにヴォルデモートとは、かつて、魔法界を限りのない恐怖の色に染めあげた人物のことである。その名前を言ったら殺されるという噂が広まり、間接的に『例のあの人』や『名前を言ってはいけないあの人』などと呼ばれることがほとんどだ。その配下の者たちはデス・イーター(死喰い人)と呼ばれ、悪事を重ねたという。ヴォルデモートはいま、行方不明となっている。10年ほど前に魔法族であるポッター家を襲撃した際、ハリーという名の赤ん坊を殺すことに失敗し、そのときより行方が分からなくなっているのだ。

 

「校長先生は、『あの人』は死んだのではなく戻ってくるとお考えなのですね」

「さよう。あやつはいま魔法力を失っておるだけじゃ。ふたたびその力を得れば、かならず戻ってくる。じゃがはたして、あやつはその力をどうやって得るのかのう」

「まさか、クリミアーナ家がそれに関与すると」

「そうではない、ミネルバ。あの家が直接的にヴォルデモートを支援する、などとはわしも思わんが、可能性は考慮すべきじゃと言うておるのじゃよ。彼女が気づかぬまま利用されるかもしれんしの」

「し、しかし」

「よいかな、ミネルバ。あの家では、先祖の持つ魔法力、その魔法を子孫へと受け継ぐということがごく普通におこなわれておるらしい。いかにして、そのようなことが実現できるのか。アルテシア嬢がどういう過程を経て魔法使いとしての力を得るのか。これは、重要なことじゃとわしは思うし、それがためにあの娘が狙われたとしても不思議ではないのじゃからな」

 

 ダンブルドアの言いたいことはわかる。向こう側にとられてしまう前にこちら側で、ということだ。こちらの監視下に置くことでの保護、という意味もあるのだと思いたい。だが、素直には賛同できない。なぜなら、あの家でアルテシアと会ってしまったからだ。

 マクゴナガルは思った。そういうことであれば、アルテシアをあの家から連れ出さないほうがよかったのだ。おそらくアルテシアは、あの家にいたほうが安全だ。あの不思議な家にいたほうが、きっとホグワーツにいるよりも安全なのだ。だがそれを口に出すことはしなかった。しないほうがいいと思ったのだ。

 ヴォルデモートが自らの復活のためアルテシアを狙う、そんなことが本当に起こるとは思えなかった。ダンブルドアは可能性があると言うが、もしそうだとするなら、ホグワーツに連れてくることでその可能性を高めてしまったのではないか。

 

「ミネルバ、どうにかしたのかね?」

「ああ、いえ。そういえば、ハリー・ポッターも入学してきますね」

「おお、そうじゃの。ハリーも今年の新入生じゃ。いずれは彼も、ヴォルデモートに狙われることになるじゃろうがな」

「では、2人ともに注意をせねばなりませんね」

 

 ダンブルドアは、満足そうにうなずいてみせた。

 

「そうじゃな。じゃがハリーのほうは、少なくともヴォルデモートが魔法力を回復するか、あるいはその目途をつけるまでは心配なかろうと思う。他の先生方の目もあるし、セブルスにも頼んである。もちろんわしも気にかけておくからの」

「セブルス・スネイプ先生ですか」

「さよう。マクゴナガル先生には、アルテシア嬢のことを頼みたいのじゃ。同じ女のほうが都合がよいこともあろうしの」

 

 言われなくとも、アルテシアへの注意を怠るつもりなどなかった。彼女のことは自分が引き受けねばならない。そうする責任があるのだ。なにしろ、あの家からアルテシアを連れ出したのは、ダンブルドアの指示があったにせよ、自分なのだ。ハリーのことも気になるが、ダンブルドアの言うように、スネイプ先生に任せたほうがよいのだろう。その分、アルテシアに目を向けることができるのだから。

 そのアルテシアと、そしてハリー・ポッターはいま、ホグワーツ特急に乗るために移動中であった。

 

 

  ※

 

 

 キングス・クロス駅の9と4分の3番線に、紅色の蒸気機関車が停車していた。プラットホームの上には『ホグワーツ行特急11時発』との表示があり、車体にも金文字で「ホグワーツ特急」と書いてある。

 間違いない。確認を終えたアルテシアは、連結された車両の中ほどよりも後ろ側に乗り込む。まだ早い時間のためか、車両内に乗客の姿はない。おかげで、どのコンパートメントも自由に選ぶことができる。

 アルテシアは、その車両の前方にある4人席のコンパートメントを選んだ。窓際の席に座り、ホームに目を向ける。人影は、まばら。発車まで1時間以上あるとなれば、こんなものだろう。

 まだ制服は着ていない。クリミアーナ家の公式衣装である、白いローブ姿のままだ。袖のまわりが赤く染められ、裾のところも下5センチくらいのところに、こちらは青い色の線がぐるりと一周している。

 少なくとも学校に着くまでは、制服には着替えないつもりだった。マダム・マルキンのおかげで生地こそ同じエウレカ織りなのだが、母マーニャの手作りローブには、さまざまな保護魔法がかけられているからだ。本質的にはクリミアーナ家を守っている魔法と同じで、着ている者を守ってくれるのだ。この安心感は、なにものにも代えがたい。制服ではなく、このローブで学校生活を送りたいものだが、学校指定の制服があるので許可はされないだろう。となれば、制服に同じ保護魔法をかければいいということになるが、これもいまの時点ではムリ。すでに母は亡くなっており、いまだ魔法が使えない自分が残されているだけなのだから。

 発車まで、とくにすることがなかった。早く来たのは、キングス・クロス駅がアルテシアにとって初めて訪れる場所であるからだ。なにか不都合があったとき、時間に余裕があるというのは、心強いもの。クルッとコンパートメントを見回すと、となりの空いた席に手をかざす。

 

「フラクリール・リロード・クリルエブン。光の精たちよ。わたしの本をこの手に」

 

 キラキラとした小さな輝きが、その手の下に渦を巻くようにして集まってくる。そして、次の瞬間には黒塗りの本がそこに現れた。その本を、なにごともなかったように手に取り、開く。いまのは、いわゆる呼び寄せの魔法によるものなのだろうか。まだアルテシアは、魔法が使えないはずなのだが。

 ともあれアルテシアは、発車までその本を読みながら過ごすことにしたらしい。ちなみにこの本はクリミアーナ家伝来の魔法書。クリミアーナ家で、アルテシアがいつも読んでいるものだ。先祖の誰かが残した本であり、こうして読むことで魔法を学び、魔法力を得る、ということになっている。誰か、と記したが、それを知ることができるのは、おそらくはそれを読んだ人物だけではないか。

 いつものように本に集中していたつもりだったが、どこか勝手が違っていたらしい。コンパートメントの戸が開けられる気配に顔をあげる。普段なら、パルマに本を取り上げられるまで気づきもしないのに。

 顔を見せたのは、栗色の髪をした女の子。おそらくはノックもしたのだろうが、そちらは気づかなかったようだ。

 

「ねえ、ここ一緒にいい? それ、教科書じゃないみたいだけど、何の本?」

 

 言いながら、コンパートメントのなかへと入ってくる。まさか、本に興味を持ってこのコンパートメントを選んだわけではないのだろうが、その視線はじっとアルテシアの本を見つめている。席を立ち、笑顔で出迎える。

 

「どうぞ、席なら空いてるわ。わたしは、アルテシア・クリミアーナ。今年からホグワーツに入るの」

「クリミアーナ!? いま、クリミアーナって言ったわよね?」

 

 たしかにそう言ったが、ここで驚かれるのには違和感がある。いぶかしみながらも、席をすすめ、向かい合わせで座る。どちらも窓際だ。まだホグワーツ特急は発車していないが、それも間もなくだろう。窓から見えるホームには、たくさんの人が歩いている。

 

「ごめんなさいね、突然に。でもね、わたしが驚くのもムリはないのよ。あなただって、わたしの立場だったら、きっと驚いてたに違いないもの。だってわたし、クリミアーナ家のこと知ってるのよ。わたしの家からはそんなに遠くないんだから」

「そ、そうなんだ。じゃあ、これまでに会ったこととかあるのかしら」

 

 そんなはずはないが、と思いつつも聞いてみる。と同時に、うまく魔法書から彼女の興味がそれてくれたことを心の中で感謝する。なにしろ彼女とは初めて会ったのだから、魔法書のことはまだ伏せておきたかったのだ。だがもし彼女がクリミアーナ家の近くに住んでいるのなら、魔法書についても知識があるかもしれない。むろん、クリミアーナ家のことを知っていても不思議ではない。

 

「会ったことはないわ。クリミアーナ家だって、見たことないんだけど、でもね、古い本に載ってたの。とっても歴史のある家なんでしょう? その本には場所も紹介されてて、それによれば、ウチからそんなには離れていないの。まだ行ってみたことないんだけど、そのうち機会があればって思ってるの」

「その本って、いま持ってる?」

「いいえ。去年の今ごろだったけど、移動図書館が廻ってきたことがあったの。そこの本だから、返さなきゃいけなかったのよ。でも、内容はバッチリ覚えているわ」

 

 では、どんな本にどのように紹介されていたかはわからない、ということになる。目の前の彼女にどれほどの記憶力があるのかは知らないが、現物を見ることができないのは残念だった。クリミアーナを知る人はごく限られた人たち、それもクリミアーナ家周辺の住民たちに限られると思っていたが、魔法界では、意外と知られているのかもしれない。少なくとも、本に記載されるくらいには。

 それはさておき、それまでアルテシアが読んでいた本がいまこのコンパートメントのどこにもないことに、彼女は気づいているのだろうか。べつにアルテシアが隠したわけではない。あの本は、所有者がいま読める状態にあるのかどうか、読むつもりなのかどうかを判断することができるのだ。ゆえにいまあの本は、クリミアーナ家の書斎にある特別な本棚に並んでいる。先ほど、アルテシアの手元へやってきたのは、本がアルテシアの呼びかけに答えたということだ。あの本には、そんな仕掛けもされているのである。

 

「それにしても、これは偶然とは思えないわ。コンパートメントにしても、他にも空いてるところはいくつもあったのに、ここを選んだのも不思議といえば不思議だし、そこにたまたまクリミアーナの人がいて、同じ新入生だなんて」

「そ、そうね」

「運命的な出会いってところね。あの本が会わせてくれたんだと思うわ。あなた、お名前は?」

 

 とっくに名乗ったはずなのだが、彼女の記憶には残らなかったらしい。これでは彼女の記憶力も疑わしくなってくる。いや、そんなことはないはずだ。いままでクリミアーナという名前で盛りあがっていたのだから。ちなみに、アルテシアが読んでいた本のことは彼女はすっかり忘れているらしい。

 

「わたしの名前は、アルテシア。アルテシア・ミル・クリミアーナ」

 

 印象に残りやすいようにと、そんな言い方をしてみる。もしこれでも覚えてくれないとしたら、運命的な出会いというのも、怪しいものだ。

 彼女がようやく『ハーマイオニー・グレンジャー』だと名乗ったところで汽笛の音が聞こえ、ホグワーツ特急が動き出す。そしてまもなく、コンパートメントのなかは、4人に増えていた。4人席なのだからあたりまえではあるが、ホグワーツ特急が動き始めてまもなく、パーバティ・パチルとパドマ・パチルの双子の姉妹が空席を求めてやってきたのである。ちなみに、パーバティのほうが姉だ。

 途中、車内販売で買ったものを食べながら、女子4人によるおしゃべりが続いた。

 

 

  ※

 

 

「僕はマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」

 

 ノックもなしに戸が開けられ、男の子が3人入ってくる。その真ん中にいた青白い感じの子が、叫ぶように名乗った。両脇の2人は無言のままだが、どちらもガッチリとした身体で力もありそうだった。

 そんな突然の乱入者に、アルテシアたちのおしゃべりは中断。全員が、マルフォイたちに目を向けている。

 

「ああ、こいつはクラッブで、こっちがゴイルさ。ハリー・ポッターがいるって話を聞いてね。だったらご忠告もうしあげようかと思って来たんだ。でもこのコンパートメントじゃなさそうだな。女が4人か」

 

 その4人のなかで最初に金しばり状態から脱したのは、アルテシアだった。席を立ってあいさつしようとしたのだが、ハーマイオニーが、それを押しとどめるようにして身を乗り出す。

 

「その女の子ばかりの部屋のドアを突然開けるなんて、失礼だと思わない? まずノックするべきでしょう」

「なるほど。だが礼儀うんぬんを言うのなら、まず名乗ったらどうだ。ぼくは、そうしたぞ」

「なんですって」

 

 一気に空気が重くなる。どちらの言い分にも理があったためか、事態はにらみあいに突入。その重い空気を振り払おうとでもいうのか、アルテシアはハーマイオニーとドラコの間に割り込んだ。

 

「わたしの名前は、アルテシア。アルテシア・ミル・クリミアーナよ、よろしくね」

 

 スッと手をだし、握手を求める。だがドラコは、その瞬間、さきほどの女の子たちのような金しばり状態に落ち入っていた。いったいなにがそうさせたのか。ともあれアルテシアは、その手を、そのままパチル姉妹のほうへ向けた。

 

「こちらは、パーバティ・パチルとパドマ・パチル。みてのとおりの双子の姉妹よ。そしてこちらが、」

「ハーマイオニー・グレンジャーよ。どうせ、名前なんて覚えてくれるつもりなんてないんでしょうけど」

 

 そんな嫌みな言葉がきっかけだったのかどうか、ドラコはようやく金しばり状態から脱出。ずっとアルテシアへと向けられていた視線が、ハーマイオニーを見る。

 

「だ、だまれ。おまえの名前なんか、どうでもいいんだ。それよりいま、なんと言った?」

「わたし? わたしがどうしたって?」

 

 ふたたびドラコの視線は、アルテシアへ。いまやアルテシアとドラコは、その他の5人から注目を集めていた。いったいなにがどうしたのか。

 

「たしかいま、クリミアーナと言っただろう?」

「言ったよ。それがわたしの名前だからね。わたしは、アルテシア・クリミアーナ」

「なんと、こんなところでクリミアーナ家の人に会えるとは。光栄だ。ぼくはドラコ。ドラコ・マルフォイ」

「わたしの家のこと、知ってるの?」

 

 ドラコの差し出した手は、握手のためだろう。だが、それに応えようとしたアルテシアの手は、パーバティによって止められる。

 

「ちょっと待って。そのまえに、マルフォイから話を聞くべきよ」

「え?」

「なぜクリミアーナ家を知ってるのか、話してくれるよね、マルフォイ」

 

 すでにドラコは、このコンパートメントに入ってきたときのような落ち着きを取り戻していた。口調も、元通り。

 

「いいだろう、話してやるからよく聞け」

 

 アルテシアにではない。パーバティとパドマ、そしてハーマイオニーに対してだ。

 

「魔法族といっても、いろいろだ。昔からの純粋な魔法族だけじゃなく、マグルとの混血やマグル生まれの者がいる。キミたちの家がどうかは知らないが、マルフォイ家はもちろん純血だ」

 

 これもまた、アルテシアにではなく、パーバティとパドマの姉妹とハーマイオニーに対しての言葉らしい。ドラコの言葉が続く。

 

「クリミアーナ家は、先祖代々、優秀な魔女を生み出してきた名門の家だ。ぼくは、そう聞いている。ホグワーツを創設したサラザール・スリザリンたち4人の魔法使いに匹敵するくらいの歴史を持つ家だってね。それだけじゃないぞ」

「待って、マルフォイさん。それ、どこで聞いたの?」

「ドラコでいいよ。ぼくもアルテシアって呼ばせてもらう。いいだろう?」

「それはいいけど、でもクリミアーナの歴史をなぜ? もう誰も知る人なんていないと思ってた。なのになぜ? どこで聞いたの? なぜあなたは、それを知ってるの?」

 

 意外な話の成り行き、と言っていいだろう。パーバティたちは、口を挟むのも忘れて、話に聞き入っている。ちなみにクラッブとゴイルは、このコンパートメントに姿を見せたときからひと言もしゃべっていない。話を聞いているのかも疑問だ。

 

「大丈夫だよ、アルテシア。キミの家は魔法界とは少し距離を置いてきたようだけど、これからはぼくが力になる。ぼくがいろいろと教えてあげよう」

 

 ドラコが、ふたたび握手を求めて手を差し出してくる。アルテシアは、その手に応じるしかなかった。今度は、パーバティが止めてはくれなかったのだ。

 

「いや、キミに会えて良かったよ。ハリー・ポッターにも同じ忠告をしなきゃいけないので、ぼくはこれで失礼するけど、学校で会えるさ。同じ寮になれるといいな」

 

 意気揚揚といった感じで、ドラコがコンパートメントを出て行く。アルテシアは、疲れたようすで椅子に座り直した。パドマが話しかけてくる。

 

「大丈夫?」

「ありがとう、平気よ。ちょっと、驚いただけ」

「あの、ドラコってやつ。マルフォイ家でしょ。気をつけた方がいいよ」

 

 パドマたちが言うには、マルフォイ家の当主であるルシウス・マルフォイは、かつてはデス・イーター(死喰い人)と呼ばれる人たちのなかにいたらしい。でもそれは悪い魔法使いにあやつられていたからであり、そのことで罪に問われることはなかったらしいが、よくないうわさがあるのは確からしい。

 

「それはそうと、さっきのマルフォイの話だけど、私も実は、クリミアーナ家のこと聞いたことあるんだよね」

「えっ、本当に」

「うん。なにかで名前を聞いたことがある。ま、それだけなんだけど。ねぇ、ハーマイオニーは・・ あれ? ハーマイオニーがいない」

 

 そういえば、彼女の姿がない。ドラコが来たときには間違いなくいたのに、どこへ行ったのか。いつからいなかったのか。

 

「おおかた、ハリー・ポッターでも見に行ったんじゃない。あの子、好奇心強そうだし」

「だろうね。すぐ戻ってくると思うけど、興味あるなら行ってみる?」

 

 正直に言うと興味はなかった。だがドラコの話しぶりなどから、それに関することは知っておくべきだと思った。

 

「ね、パドマ。ハリー・ポッターって、どういう人なの?」

「ハリーはね・・」

 

 どこまで正確なのかはわからない。しょせんは噂話だからね、との前置きで、ハリー・ポッターについての話がはじまった。

 




 今回は学校に着くのかと思いきや、もう少しかかるようですね。しかも、物語はまだまだ動き始めるといったところまでいってません。先の長い物語なのに進行が遅くてすみませんが、気長におつきあいいただければと思います。
 主人公は、クリミアーナ家のことは誰も知らないと思っていたようですが、意外と魔法界では知られているようです。そのことが、役に立つのか立たないのか。ダンブルドアさんのお言葉は、マクゴナガル先生の考えに少なからず影響を与えたようですが、さて。
 次回のメインは、やっぱり『組み分け』でしょうね。はたして主人公は、どこの寮に入るのか。もはやバレバレのような気もしますが、あれこれ想像してみると楽しいかも。ではでは。

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