ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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第28話 「スリザリンの継承者」

 一晩を医務室で過ごし、アルテシアは、ようやく寮へと戻ることを許された。マダム・ポンフリーの手をわずらわせるつもりなどなかったのだが、なぜか、こうなってしまったのだ。このことに、アルテシアは若干の疑問を感じていた。

 なぜ、手当をしてもらわねばならなかったのか。もちろん、それが必要かどうかの判断はマダム・ポンフリーがするのだから、そのことを問題視するつもりはない。気になっているのは、医務室で目を覚ましたということだ。それほど、パーバティの魔法に威力があったからなのだろうけれど、まさか気を失うとは思わなかった。模範演技のときのロックハート先生のように、その場で起き上がれるはずだったのだ。

 

(わたしが、弱すぎるんだろうな、きっと。制服にも、保護魔法が必要かもしれない)

 

 それにもっと、体力もつけないと。廊下を歩きながら、アルテシアは考える。ともあれ今回のことで、また心配事が増えてしまった。ハリー・ポッターのこと。パーバティのこと。そして、あの少女。だがもちろん、それが自分のせいであることを、アルテシアは自覚している。ただ思い悩むだけでは、心配事が解決することなどないからだ。そんなことは分かっているのだが、ではどうすればいいかとなると、答えは容易には導けない。それこそ、思い悩む必要があるだろう。だがもう、悩んでいられるときはすぎた。そんな気がしていた。

 さしあたっては、見舞いには来なかったパーバティが、いまどうしているのか。それが一番の気がかりであった。ハリーのことは、まだいいのだ。根拠のないうわさ話はいずれ消え去るしかないのだから、しばらく待てばいい。

 

(でも、本当にそうだったら)

 

 仮にハリーが、本当にスリザリンの後継者であったとすれば、もちろん話は変わってくる。だが、そんなことはないはずだと、アルテシアは思っている。もしそうなら、スリザリン寮に属することになっていたはずだと思うからだ。あの組み分けには、そういう意味合いはあったはずだと、アルテシアは思っている。あの組み分けは、人によって所要時間がまちまちだった。それには、そういう理由があったはずなのだ。

 

「アル!」

 

 突然、名前を呼ばれた。あの声と、呼び方。これは、パーバティだ。周囲を見回す。

 

「医務室に迎えに行くところだったの。昨日、マダム・ポンフリーがそう言ってたから」

「ありがとう、パーバティ。もう、平気よ。どこも痛いところはないし」

 

 そう返事をしつつ、パーバティのようすをうかがう。アルテシアを病室送りにした、そんなことを気に病んだりしているのではないか。もしそうなら、それは自分のせいであることを、正直に話してわびるしかない。よかれと思ってしたことなのだと。

 

「そう、よかったわ。まさか、あんなにうまくいくとは思わなかったの。でも、ホント、びっくりしたんだから」

「ごめん、いつも心配かけてばかりで。パーバティ、いろいろ教えてね」

 

 パーバティは、とても嬉しそうな顔をしていた。きっとなにか、話したいことがたくさんあるのだろう。そんな感じがした。

 

「スネイプ先生と話をしたの。あの娘は、アルのことだけど、あの娘は寝不足だったのだろうって」

「え? 寝不足」

「マダム・ポンフリーも、そう言ってたよ。一晩ゆっくり寝させれば大丈夫だから、朝、迎えに来なさいって。ただ寝てるだけだからって」

「あ、ああ。そうだね。うん、よく寝たのかも」

 

 なんだか、妙な話になっていた。おそらくは先生方が、うまくパーバティをなだめてくれたのだろう。実際は、深夜に訪問者があったりしたので、寝ていた時間は、いつもよりは少ないかもしれないのだけど。

 

「そうだ、パーバティ。医務室で思ったんだけど、制服のローブに保護魔法を」

「まって、アル。あたしに先に話をさせて。あたしはね、アルとほんとうの友だちになりたい。そう思ったから、決闘クラブで、絶対にアルに勝ちたかったんだ」

「わたしは、パーバティと友だちだよ。ホグワーツ特急で初めて会って、湖のところで一緒にボートに乗って。そのときからわたしは」

「ええ、そうよね。でもね、アル。これからは、いっしょに力を合わせていけるようになりたいの。アルは、あたしを守るって言ってくれた。とっても嬉しいことだけど、あたしもあなたを守るよ。協力しようよ。どちらか一方からだけ、なんてダメだと思う。そんなのは、やめようよ。それって、寂しいことだと思うよ」

「パーバティ」

 

 もしかすると、そういう考え方は、アルテシアのなかにはなかったのかもしれない。クリミアーナにとっては苦手な、というか欠けていた考え方なのだろう。アルテシアは、その目を大きく見開いてパーバティをみていた。

 

「覚えてる? ボートに乗るとき、泣いてたよね。あのときのアルは、あたしを頼ってくれてた。あのときのままでいいよ。いまだって、これからだって、そうしてくれていいんだよ。守ってくれるのは嬉しいよ。でも、一方通行じゃつまんないし、さびしいよ。それって、一緒じゃないと思うんだ。あたしは、アルと一緒にいたいんだから」

「うん。うん。そうだね。そうだよね」

 

 ぽろぽろと、こぼれ落ちる涙。なぜ、涙があふれてくるのか。なぜ、自分は泣いているのだろう。その理由はわからなかったが、1つだけ言えることは、パーバティが教えてくれたということだ。パーバティはいま、なにかとても大切なことを教えてくれたのだ。だから自分は泣いているのだろう。そしてそこにこそ、これまでずっと考えてきた答えがあるのだ。きっと、そうだ。

 アルテシアはそう思っていた。

 

 

  ※

 

 

 その日の天気は、大吹雪。その雪のため、マンドレイクに靴下をはかせ、マフラーを巻く作業をしなければならなくなった。この作業は、薬草学のスプラウト先生でなければできない厄介な作業であるらしい。なにしろいまは、マンドレイクを一刻も早く育てねばならないとき。マンドレイクが十分に育てば、薬をつくり、ミセス・ノリスやコリン・クリービーを蘇生させることができるのだ。

 そんなわけで、グリフィンドールとハッフルパフ合同の薬草学の授業は、休講となっていた。アルテシアは、ちょうどいい機会だとばかりに、図書館を訪れる。もちろん、パーバティも一緒だ。

 

「えっと、ヘビ語に関する本だよね? そんなのあるのかなぁ」

「知りたいのは、ヘビ語がどんなものなのかってことなの。実際に聞くことができればいいんだけど」

 

 それをハリーにお願いするのは、さすがにはばかられた。ハリーは、このことをかなり気にしているようなのだ。ロンやハーマイオニーがなだめてはいたが、あれでは、そのうち精神的にまいってしまうだろう。

 

「あたしも、そのときいなかったからね。ハーマイオニーには聞いてみた? ウィーズリーは?」

「まだ。あの2人は、ハリー・ポッターと話してたから。いまは、ハリーの相手をしてもらってたほうがいいと思うんだ」

「なるほどね。でも、ヘビ語なんて調べて、意味があるの?」

「ほんとは、秘密の部屋のことをなんとかしたいんだけどね。でも、こんな気持ちになれたのは、パーバティのおかげよ」

「どういうこと?」

 

 ヘビ語に関する本があるのかどうか、書架に並んだ本の背表紙にあるタイトルを目で追いながらの会話だ。

 

「わたし、優柔不断だよね。自分でもそう思うんだ。あれこれ悩んでるだけで、なんにも決められない。パーバティとのことだって、ナディアさんに言われたこととかずっと考えてて、ほかのこと、なんにもやれてなかったと思うんだ。でもパーバティのおかげで、決めることができた」

「そりゃ、よかったわね。けど、何を決めたのか言いなさいよ。ないしょ、なんてナシだからね」

「わかってるけど、クリミアーナの名にかけて、決めたことは絶対に守る。優柔不断でなかなか決められないけど、いったん決めたなら、絶対に守る。そのこと、パーバティに言っておきたいの。ありがとう、パーバティ」

「なんか、よくわかんないんだけど。けど、とりあえずこんなもんかな。言語関係の専門書らしきものが3冊と、動物に関する本が1冊。きっと、ヘビのことも載ってるでしょ」

 

 ほかにも、アルテシアがピックアップした本が3冊。それらをもって、閲覧用のテーブル席に移動しようとしたところで、数人の生徒が入ってくる。それまでは、アルテシアたち以外、誰もいなかったのだ。

 

「ハッフルパフの人たちだね。ま、向こうも休講だからね」

「そうだよね」

 

 そのハッフルパフ生は、アルテシアたちがいるのに気づかなかったらしい。話し声が途絶えることはなかった。

 

「じゃ、アーニー。あなたは、絶対にハリー・ポッターだっていうのね?」

 

 金髪を三つ編みにした女の子。その声が、はっきりと聞こえた。

 

「そうだよ、ハンナ。きっと、そうなんだ」

 

 その、少し太めの子がアーニーなのだろう。そのときアルテシアが、右手の人差し指と中指とで、自分たちの座るテーブルをノックでもするように、コツコツと2回。もちろんそれは、パーバティに気づかれる。

 

「アル、あんた、何かしたでしょ。だめだって、そっちの魔法は。マクゴナガルに怒られるよ」

「大丈夫よ。わたしたちを見えなくしただけだから。あの人たちの話、聞いておきたいの。きっと、役に立つ」

「趣味悪いわよ、盗み聞きなんて。あ、ごめん。そういうことなら、声、大きかったよね」

「ううん、それは大丈夫。普通に話しても問題ないよ」

 

 たしかに、そのアルテシアの声も、いつもどおりのものだった。声も聞こえなくしているのだろう。本のページをめくる音も、問題ないようだ。そんなわけで、アルテシアたちがいることに気づかないハッフルパフ生の話が続く。

 

「壁に書かれた言葉を覚えてるかい」

「『継承者の敵よ、気をつけよ』でしょ」

「そうだよ。きっとポッターは、フィルチとなんかあったんだ。だからフィルチの猫が襲われた。コリン・クリービーは、なにかとポッターの写真を撮りまくって、嫌がられてた。だから、クリービーはやられたんだ」

「でも、ポッターって、悪い人には見えないわ。それに『例のあの人』とのことはどうなるの?」

 

 どうやら、ハンナと呼ばれた少女は、納得できない様子。だがアーニーは、返事に困ったりはしなかった。

 

「たしかにポッターは『例のあの人』に襲われて生き残った。そのときなにがあったのかは誰にもわからないことだけど、あの人の呪いに打ち勝ったんだろ。そんなことができるのは、強力な『闇の魔法使い』だってことさ。スリザリンの継承者だから、そんなことができたのさ」

「でも、信じられないわ」

「いろんな事実が、あいつだと言ってるんだよ。よく考えてみなよ。ちゃんとつじつまはあうんだ」

「あたしが聞いた話では、スリザリンの継承者って、アルテシア・クリミアーナらしいわよ。そんなこと言ってる子がいるのよ」

 

 そのとき、アルテシアの手が止まった。それまでページをめくっていた手が、ピタリと。それはパーバティも同じであり、その目が、アルテシアに向けられる。

 

「あいつは、ちがうだろ。怪しいのはポッターだ」

「1年生の子が言うには、アルテシアの実家はすごい昔から続く魔女の家らしいの。でもこれまで、誰もホグワーツには入学していない。なのに突然、アルテシアが入学してきた」

「まさか、秘密の部屋を開けるためにってこと。でも、去年はなにもなかったでしょ。それは?」

「様子見してたってことかもな。でもあいつの魔法は、たいしたことないぞ。スリザリンの継承者って、もっとこう」

 

 ふいに、その声が途切れた。つられて、アルテシアとパーバティが視線を向ける。そこでは、ハッフルパフの生徒たちがまるで石にでもなったかのように、固まっていた。そこに、ハリー・ポッターが顔を見せたからだ。

 

「ぼく、ジャスティン・フィンチ・フレッチリーを探してるんだけど、どこにいるか知らないかい?」

 

 いったいハリーは、いつここに来たのか。話を聞いたのか。聞いたとしたら、どこから。これは、ハッフルパフの生徒だけでなく、アルテシアたちも知りたかっただろう。ハリーには、まったく気づいていなかったのだ。

 

「あ、あいつになんの用があるんだ?」

 

 アーニーの声は震えていた。ほかのハッフルパフ生からは、まったく声がない。

 

「決闘クラブでのヘビのことだよ。ぼくは、襲わせようとしたんじゃない。ヘビをおとなしくさせただけなんだ。そのこと、ジャスティンにわかってほしいんだよ」

「僕たちみんな、あの場にいたんだ。何が起こったのか、ちゃんと見ていた」

「だったら、ぼくが話しかけたあとで、ヘビがおとなしくなったのも見ただろ。襲わせたんじゃないことくらいわかるだろ」

 

 アーニーは、顔色を青くしながらも、言い返すのをやめなかった。

 

「僕が見たのは、キミが蛇語を話しているところだ。キミが、ヘビをジャスティンの方に追い立てたんだ」

「追いたてたりしてない! ヘビは、ジャスティンに触れることなくおとなしくなったじゃないか!」

 

 ハリーの声も震えていたが、こちらのほうは怒りやいらだちのせいなのだろう。

 

「僕の家系は、9代前までさかのぼれる魔女と魔法使いの家系だ。つまり僕は純血なんだ」

「だから、なんだよ。それがどうした。マグル生まれだから襲ってるっていうのか! 純血だから襲うなっていいたいのか!」

「キミは、一緒に暮らしているマグルを憎んでるんだろ。そう聞いたよ」

 

 興奮度も上がってきたのだろう。声が大きくなっていた。さすがにこの大きさでは、司書のマダム・ピンスが、気づかないはずはない。たちまちハリーは、図書館の外へと出されることになり、ハッフルパフの生徒たちも、マダム・ピンスからのお小言のあとで、図書館を後にすることとなった。

 残されたのは、アルテシアとパーバティ。お互い、顔を見合わせるだけ。何を言っていいのかわからなかったらしい。だが、いつまでもそうではなかった。最初に口を開いたのは、パーバティ。

 

「あんた、スリザリンの継承者だったんだね」

「あ、うん。ばれちゃったみたいだね」

 

 そう言い合って、クスクスと笑いあう。だがもちろん、笑いごとではない。アルテシアをスリザリンの継承者だとしている者がいるということなのだ。しかも、具体的な説明とともに。

 ハリー・ポッターのこともあるし、パーバティだって、疑いの目をむけられたことがある。このことはつまり、できるだけ早く真相を解明する必要があるということだ。2人は、そう思った。それが、無用な疑いを解く一番の近道になるのだから。

 

 

  ※

 

 

 図書館を出た2人は、ハグリッドに出会った。外は雪だからだろう、頭巾をかぶり、厚手のオーバーを着ているためか、廊下の幅いっぱいであり、その横を通り過ぎるのにも苦労しそうなほどだった。

 

「ハグリッドさん、こんにちは」

「おお、アルテシアじゃねえか。授業時間なのにこんなところにいるのは、おまえさんも休講ってことだな」

「そうなんです。でもよく知ってますね」

 

 ハグリッドの手袋をした大きな手には、ニワトリの死骸らしきものがあった。それに気づいたパーバティが、目をそむける。

 

「さっき、ハリーにあったからな。そこのお嬢ちゃん、これはな、狐の仕業か吸血お化けかは知らんが、ニワトリが襲われとるもんでな。校長に見せて、ニワトリ小屋の周りに魔法をかけるお許しをもらおうと思っちょる」

「そ、そうですか。でも、誰がそんなことを」

「それを知りたいのは、こっちも同じだ。ひどいことをしやがる」

 

 廊下ですれ違うのに苦労したが、ハグリッドとはそこで別れる。2人は、このまま寮に戻るつもりだった。だが、廊下を数匹のクモが、おそらくは全速力であろう速さで移動してくるのが目に入った。どうやら、この先にある階段を降りてきているらしい。次々と、クモが階段を降りてくる。小さなクモではない。普通に立っていても、床を這うクモがはっきりと見えるほどの大きさのクモが、何匹も階段を降りてくるのだ。

 

「なんだろう、これ。ぜったい、おかしいよね?」

「わからないけど、この階段を上がってもいいのかどうか、微妙だよね」

 

 この上で、なにかが起こっている。2人ともに、そう感じていた。階段を上がって確かめるべきであることも、わかっていた。でもその一歩が、なかなか踏み出せない。なにかしらの不可思議な空気が、その階段を上がらせてくれないのだ。言いしれぬ恐怖のような、まるで近づくな、とでも言われているような、そんなものが、2人の足を止めていた。

 それでも、その場から離れることはできなかった。この階段は、寮へと戻る最短のコースではない。そんな、妙な雰囲気を感じているのなら、廊下を戻って別の階段を上がればいいようなものだが、そうすることも、2人にはできなかった。それができていれば、すくなくとも、このあとの騒動に巻き込まれずにすんだかもしれないのだが。

 

「でも、行くよ。いいよねパーバティ」

「スリザリンの継承者としては、ほっとけないってところだね。わかった、つきあうよ」

「あはは、また、そういうことを。そうよ、スリザリンの継承者の言うことは聞きなさい」

 

 もちろん、冗談である。おかしな雰囲気を感じていたからこそ、気持ちを落ち着かせる意味での冗談だ。だが、それがまったく別の、第三者が聞いたとなれば、冗談では済まない。

 階段の中ほどまで上ったときだった。

 

「聞いたぞ。おまえがそうだったのか。また誰か、襲ったんじゃないだろうな」

 

 その声には聞き覚えがあった。さきほど、図書館でハリー・ポッターと口論をしていたアーニーとかいう男子生徒。みれば、あのときのハッフルパフの生徒たちが、そこにそろっていた。

 

「ち、ちがうよ。いまのは冗談だから」

「うるさい。この上の廊下になにもなければ、それを信じてもいい。けど、なにかあったら」

 

 勇敢にもアーニーは、アルテシアとパーバティの横をすり抜けるようにして、階段を駆け上った。ほかのハッフルパフの生徒たちも、その後に続く。そして、そこで起こっていたことを、みた。

 

「これは……」

 

 その廊下の先に、誰かが倒れていた。アーニーたちは、こわごわ近づいていく。倒れていたのは、ジャスティン・フィンチ・フレッチリー。そして、その横に、なぜかハリー・ポッターが、ほうけた様子で、かたわらに座り込んでいた。ジャスティンの向こう側には、ほとんど首無しニックが、ふわふわと宙に浮いていた。ニックもジャスティンも、その表情は同じ。なにか、とんでもなく恐ろしいものをみたときのような、そんな恐怖の色に染まっていた。そして、ハリー・ポッターは。

 そのハリーに、みんなの視線が集まろうとしたときだった。どこから来たのか、空中で一回転したビープズが、大声で叫んだ。

 

「襲われた! また襲われたぞ。生きてても死んでても、襲われる。みんな危ないぞ、逃げろ! おーそーわーれーたー!」

 

 そこにいる人には、とてつもない大声に聞こえただろう。そくざに近くの教室のドアが開き、授業を受けていた生徒たちが、ぞくぞくと廊下に出てくる。生徒だけではない、教師たちも。

 

「静かに。静かにしなさい」

 

 マクゴナガルも、そこにいた。声をからして自分の教室に戻るように命令するが、その通りにする生徒は少ない。現場から少し距離を置いて、取り囲むように居並んだ。だが、静かにはなった。誰もが、成り行きを注目しているのだ。

 

「先生、現行犯です。ハリー・ポッターは現場にいました。それに、自分がスリザリンの継承者だと白状したやつがいます」

 

 無視したわけではないのだろうが、マクゴナガルは、そう言ったアーニーのほうを見ようともしなかった。倒れているジャスティンと、そして首無しニックを調べている他の先生たちのようすをみている。だが調べるまでもなく、過去の事件と同じことが起こっているのはあきらかだった。

 

「これまでと同じですな。ひとまず、ジャスティンを医務室に連れて行きましょうぞ」

 

 フリットウィック先生の声。ジャスティンは、フリットウィック先生と天文学科のシニストラ先生が医務室へと運んだ。次なる問題はニックをどうするかだが、とりあえず、通行の支障とならないようなところへ移動させるしかないだろう。

 

「先生、わたしがサー・ニコラスを」

「そいつです、先生。自分がスリザリンの継承者だと、そう言ってました。ちゃんと聞きました」

「おだまりなさい」

 

 だが、マクゴナガルは厳しい口調でそう言った。その視線は、ビープズへ。ビープズは、上の方からニヤニヤと意地の悪そうな笑いを浮かべ、成り行きを見ていた。

 

「ビープズ、どこか、ほかのところへいきなさい」

 

 さすがのビープズも、ベーッと舌を出してみせるのは忘れなかったが、その姿を消すしかなかった。さて、この場をどうするか。しばし、マクゴナガルは考える。無意識だろうが、その視線がアルテシアにむけられる。

 

「先生、このことは、わたしに任せてくれませんか。しばらく時間をいただければ、必ず解決してみせます。お願いします」

 

 だがもちろん、マクゴナガルが同意するはずがない。ふらふらとハリーが立ち上がり、マクゴナガルのところへやってくる。

 

「先生、ぼくじゃありません。やったのは、ぼくじゃありません」

「いいえ、先生。犯人はそいつらだ。ハリーは現場にいたし、アルテシアは白状したんです」

 

 ほかにも、なにか言いたそうな数人の生徒を前に、マクゴナガルは途方に暮れた様子だった。

 

「わかりました。アーニー・マクミラン、ハリー・ポッター、アルテシア・クリミアーナ。3人は、わたしについてきなさい。詳しく話を聞きます」

 

 どこへ行くつもりなのか、マクゴナガルは3人を連れて歩き出す。当然のようにパーバティがついて行こうとしたが、それはマクゴナガルが明確に拒否した。

 




 週2回くらいを目標にしてますが、このところは1回が精一杯になってますね。
 それに。この欄にも書けてなかったし。秘密の部屋も中盤戦。これからどうなっていくのやら。ポリジュース薬は作らないことにしました。作ってもよかったんですけどね。
 ともあれ、アルテシアの悩みも、その1つが解決したようです。これで、行動がより積極的となることでしょう。
 これからも、どうぞよろしく。

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