ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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第27話 「ルミアーナの少女」

 コリン・クリービーが襲われ、今は医務室にいる。このニュースは、いまや学校中で知らない人はいないだろうというほどに広まっていた。襲われないためにはどうすればいいのか、といったようなことが、あちこちでささやかれる。

 とくに1年生などは、数人のグループで移動するのが普通となっていた。なにしろ、同じ1年生のコリンが襲われている。そのコリンと「妖精の魔法」のクラスで隣合わせの席だったジニー・ウィーズリーも、すっかり落ち込んでいた。そんなジニーを励まそうと、フレッドとジョージがあれこれやってみるのだが、あまり効果はなさそうだった。

 学校中に、そんなおかしな空気が流れるなか、パーバティはマクゴナガルに呼び出しをうけた。ふくろう郵便で届けられたそれには、アルテシアには気づかれないように、との添え書きがされていた。もしこの呼び出しがなかったなら、ハーマイオニーとともにドラコ・マルフォイを問い詰めるという計画を実行するため、校内をうろうろしていただろう。だが、肝心のドラコが1人にならないのだ。計画では、ドラコが1人のときを見つけ、どこか空き教室にでも連れて行って問い詰める。そうしたいのだが、いまだに実施できないでいる。

 なぜ、ドラコは1人にならないのか。秘密の部屋の怪物を怖がってクラッブとゴイルを離さないでいるのだとするパーバティの考えは、ハーマイオニーが否定した。襲われるのは、スリザリンの敵。すなわち、純血ではないものと考えられるからだという。実際、ホグワーツの生徒たちの間では、そんなふうに考えられていた。

 それはさておき、パーバティはマクゴナガルの部屋を訪れる。この部屋を訪れるのは、初めてというわけではない。

 

「ああ、よく来てくれました。あなたに話しておきたいことがあるのです」

「アルテシアのことですか、それとも妹が何か」

「ああ、そうでした。妹さんにも来てもらえばよかったかもしれませんね。あとで、あなたから話しておいてください」

「それは、かまいませんけれど」

 

 机を挟んで、向かい合わせに座る。マクゴナガルに対すると、とたんに緊張してしまうという生徒は多いが、パーバティはさほどでもない。アルテシアと一緒に、何度も話したりしているからだろう。ついでに言うなら、グリフィンドール生に嫌われているスネイプのことも、それほど嫌ってはいないのだ。これも、アルテシアの影響なのだろう。

 

「先日、アルテシアを話をしました。あなたが、どんなにアルテシアのことを心配しているか、言っておきました」

「あ、ええと。それで、アルテシアはなんと?」

「もちろん、あなたをことを気にかけていますよ。とにかくアルテシアがいま、何を考えているのか。それを聞き出したので、あなたにも伝えておこうと思ったのです」

「ほんとうですか」

 

 パーバティの表情が、かがやいた。だが、それも一瞬のことだった。すぐに、元に戻ってしまった。そのことを、マクゴナガルはいぶかしく思ったらしい。

 

「どうしたのです?」

「なんとなく、予想はつくんです。きっと、あたしのせいなんだろうなって」

「あなたのせい? なぜです?」

 

 まさかパーバティがこんなことを言い出すなど、マクゴナガルは予想していなかったのだろう。そんな、意外そうな顔をしていた。

 

「ホグワーツでアルテシアと友だちになれて、すごくうれしかったんです。だから、クリスマス休暇で家に帰ったとき、親に話しました。母も、喜んでくれていたんです。あたしが、アルテシアの名前を言うまでは」

「名前を出したら、ようすが変わったのですか」

「クリミアーナには、近づかないようにと言われました。あの家と付き合ってはいけないと」

「近づくな、とは、どういうことです?」

「クリミアーナ家からホグワーツに入学する、ということがとても意外だったようです。ましてやその人と友だちになるなんて、母も叔母も、想像もしていなかったんだと思います」

 

 このあたりの事情を、もちろんマクゴナガルは何も知らない。アルテシアも、話してはいないのだ。

 

「そのことはもちろん、アルテシアも知っているのですね」

「あたしは何を言われても、どういうことになっても、アルテシアと友だちです。友だちでいたいんです。でも」

「でも?」

 

 マクゴナガルがそう言ったのは、パーバティがそこで言いよどんだからだ。その続きをうながそうとしたのだろう。

 

「でも妹のパトマは、母や叔母たちには賛成して欲しかった。反対されたままではイヤだったんです」

「あぁ、なるほど。覚えていますよ、あなたがた姉妹がケンカしている時期がありましたが、それが原因なのですね」

「そうです。アルにも心配かけてしまって、アルテシアが叔母さんと会うことになったんです」

「それで、どうなったのです?」

 

 アルテシアと、パーバティの叔母が会ったのは、新学期の始まる日のこと。だが、その詳細をパチル姉妹は知らないのだ。叔母さんからの手紙はもらったし、アルテシアからも話を聞いてはいるのだが、それが全てではないと、パチル姉妹は思っていた。そのことを、正直に告げる。

 

「そうですか。事情は、よくわかりました。ですが、いまあなたに聞いた話とアルテシアから聞き出した話とを考え合わせると、感想は一言につきますね」

「ひとこと、ですか」

「そうです。つまりあなたたちは、悩まなくてもいいことに悩んでいるのです。わたしのような年齢ならいざしらず、若いあなたたちが、過去のことにとらわれる必要などないでしょう。ましてや、そのとき何があったのかはっきりしないのです。はっきりしているのは、あなたたちにはなんの責任もないということだけ」

「それは… そうなんですけど……」

 

 そんなこと、改めて言われなくてもわかっている。きっとパーバティはそう言いたかったのだろう。もともとパーバティは、母や叔母から何を言われてもアルテシアと友だちでいるつもりでいたのだ。だがパドマはそうではないし、アルテシアも過去のことをを気にしている。であるがゆえに、こうなってしまったのだ。

 

「でも、そんな簡単には割り切れないんです、先生。パドマも、アルテシアも、あたしも」

「そうかもしれませんね。ともあれミス・パチル。アルテシアは、あなたたちをずっと守っていくつもりなのです。その決意は変わらねど、もしものときにはどうするのか。そのあたりのことで宿題を出されているようです。おそらくはあなたの」

「叔母ですか。叔母が、アルテシアに何か言ったんですね」

 

 ここでマクゴナガルは、アルテシアに聞いたことを話して聞かせる。本当は、最初にこの話をするつもりだったのだが、少し遠回りとなってしまった。パーバティは、しずかにその話を聞いていた。

 

「解決策ではありませんが、あなたがアルテシアに分からせるのも、1つの方法だと思いますよ」

「どういうことですか」

「あなたが、頼りになるのだと示すことです。もしものとき、保護されるだけの存在というのは、あなたも望まないでしょう」

「それは、もちろんです」

「でしたら、そうすべきです。少しは状況もよくなるはずです」

 

 具体的にはどうしろというのか。パーバティの聞きたいのは、そこだろう。マクゴナガルも、そのことはわかっている。たとえば、と前置きした上で、言葉を続ける。

 

「アルテシアは、まだまだ魔法が苦手だといえるでしょう。あなたのほうが上なのですから、もしものときには頼っていいのだと示すのです。守られる存在なのではなく、2人は共に力を合わせていく存在なのだとわからせればいいのです」

 

 それはもちろん、杖を使っての魔法ということだろう。このときパーバティが思い出したのは、去年のハロウィーンの日のこと。学校内に入り込んだトロールを前にしたアルテシアは、浮遊呪文の使用をパーバティに訴えてきた。だがパーバティは、その意味に気づいたものの、出遅れた。ロンが、その呪文でトロールを倒したのだ。

 あのことが、あの件が、頼れない存在だとアルテシアに思わせたのかもしれない。そんなことを、パーバティは考えた。

 

 

  ※

 

 

 それから数日。パーバティは、マクゴナガルの提案のことを考えていた。ドラコを問い詰める計画のことは、すっかり忘れていたといってもいいだろう。そんなパーバティの目の前で、掲示板に羊皮紙が張り出される。すぐにちょっとした人だかりができるが、パーバティはその最前列に近いところで、その掲示をみつめる。

 

「『決闘クラブ』だって! 決闘の練習なら悪くないかもな」

「しかも今夜が、その1回目だぜ」

 

 シューマス・フィネガンとディーン・トーマスが、そんなことを話し合っている。ハリーとハーマイオニーが、その人だかりの中に顔を見せる。

 

「近々、役に立つかもしれないよ」

「え! スリザリンの怪物と決闘なんかできると思ってるの?」

 

 そのすぐ横で、ロンも興味津々で掲示を読んでいた。

 

「たしかに、役に立つかもしれない。僕たちも行こうよ」

 

 そんな声は、もちろんパーバティにも聞こえていただろう。パーバティは、しばらくの間、その掲示を見つめていた。

 そして、その夜。決闘クラブの開始時刻である8時、大広間には、ハリーたちやパーバティ、アルテシアなどのグリフィンドール生だけでなく、ドラコ・マルフォイなどのスリザリン生も来ていた。

 

「さあ、みなさん、集まって。みなさん、私がよく見えますか! 私の声が聞こえますか!」

 

 ギルデロイ・ロックハートが舞台に登場した。続いて、スネイプも。ロックハートが観衆に手を振り、「静粛に」と呼びかける。

 

「ダンブルドア校長先生から、この小さな決闘クラブを始めるお許しをいただきました。自らを護る必要が生じた万一の場合に備えて、みなさんをしっかり鍛え上げるためにです。近ごろの学校の状況を考えるに、きっとお役に立つでしょう」

 

 パラパラと、生徒たちから拍手が起こる。ロックハートは満面の笑みを振りまいた。

 

「では、助手のスネイプ先生をご紹介しましょう。訓練を始めるにあたり、模範演技をするのに協力していただきます」

 

 それから、魔法使いの決闘のやり方について説明がされ、いよいよ模範演技。そのようすを、パーバティは食い入るようにして見つめていた。

 

「1、2、3」 そんな合図の直後、スネイプが叫んだ。

 

「エクスペリアームス(Expelliarmus:武器よ去れ)」

 

 目も眩むような赤い光。スネイプの杖から出た光が、まっすぐにロックハートを襲う。次の瞬間には、舞台から吹っ飛び、後ろ向きに宙を飛んで壁に激突。スネイプの圧勝だったが、ロックハートは、よろめきながらも起き上がり、壇上へと戻ってくる。

 

「いや、さすがですね。ともあれ、模範演技はこれで十分でしょう。これからみなさんのところへいって、2人ずつ組にします。実際にやってもらいますよ。スネイプ先生、お手伝い願えますか」

 

 スネイプとロックハートは、生徒のなかを歩き、2人ずつの組を作っていく。やがて、スネイプがアルテシアのところへやってくる。

 

「ほう。ミス・クリミアーナ。おまえがここにいるとは思わなかったぞ」

「スネイプ先生。さきほどは、見事なお手本でした」

「相手に問題はあったが、役に立つ魔法だ。しっかりと覚えておけ。コツがあるのだ」

 

 スネイプは、少し早口ではあるが、ざっとこの魔法について説明する。そんなことをするスネイプなど、めったに見ることはできないだろう。そんな貴重なる講義を聞いたのは、アルテシアとその相手に指名されたパーバティの2人だけ。いかにも残念なことであった。

 他には、ネビルとジャスティンとが組となり、ハリー・ポッターは、スネイプによってマルフォイと組まされることになった。ハーマイオニーは、スリザリンの女子、ミリセント・ブルストロードが相手。

 

「では諸君、いいかね。相手と向かい合い、そして礼」

 

 ハリーとマルフォイは、わずかに頭を傾けただけ。ハーマイオニーはかすかに会釈をしたが、相手はそれを無視。アルテシアとパーバティは、それぞれちゃんと礼をした。

 

「杖を構えて! 3つ数えたら開始ですよ。1、2、3」

 

 ロックハートが声を張り上げた。その瞬間、大広間のあちこちで歓声があがった。

 ハリーとマルフォイは、互いに呪いをかけあって収拾がつかなくなっており、スネイプが、なんとかその呪いを終わらせた。ハーマイオニーのほうは、ミリセントからヘッドロックをかけられており、痛みで目に涙を浮かべている。これなどは、魔法使いの決闘とはいえないだろう。

 そんなこんなで、大広間中のあちこちで小さな騒動が起きていた。そんな状況なので、そのときアルテシアとパーバティがどうしていたかなど、誰も感心を寄せてはいなかったのだろう。もしかすると別の理由があるのかもしれないが、スネイプとロックハートの模範演技のようにして、パーバティの魔法がアルテシアをはじき飛ばしたことには、誰も気づかなかったようだ。

 

「さてさて、もう一度、決闘のやり方をご説明したほうがいいようですね。誰か、モデルになってくれる組はありますか?」

 

 そのロックハートの声に答えたのは、スネイプ。

 

「マルフォイとポッターがいいと思うが、どうかね?」

「それは名案! では、2人とも壇上に上がって」

 

 誰もが注目の、この戦い。スネイプがマルフォイの方に近づいて、何事かささやく。そのマルフォイがニヤリとしたことに、ハリーは不安を覚えたが、ロックハートが頼りになるはずもない。

 

「では、始めましょう。3つ数えたら開始ですよ。1、2、3」

 

 スネイプの耳打ちは、サーペンソーティア(Serpensortia:ヘビよ出よ)の呪文であったようだ。ヘビの出現に騒然となるなか、パーバティは、もう1人の女子生徒の力を借りて、アルテシアを抱きかかえるようにして大広間を後にしていた。

 

 

  ※

 

 

「わざと、なんでしょうけど、つまらないことをしたものですね。おかげで、早まってしまいました。それが、よかったのか悪かったのか、わたしにはわかりませんけど」

「あなたは誰? どうしてここに? なにをしてるの?」

 

 ここは、深夜の医務室。各寮では、誰もが眠りについているという時間だ。アルテシアも医務室のベッドで寝ていたのだが、誰かがいる気配に、目を開けたところである。

 

「アルテシア・ミル・クリミアーナさん、ですよね。わたしは、ルミアーナの者です」

「えっ!」

 

 あわててアルテシアは、体を起こす。

 

「お姿は、何度か拝見していますよ。離れたところからですけど」

「あなたは、ルミアーナ家の人なんですね? ルミアーナって、もしかして」

「はい、そうです。よかった、この名はまだ、あなたのなかにあるのですね。それとも、最近、なにかで知ったとか?」

「クリミアーナの系図のなかに、その名があります。クリミアーナに住んでいたのだと思いますが、いまはどちらに?」

 

 ルミアーナを名乗ったのは、体つきなど、ほぼアルテシアと同じくらいに見える少女だ。年も似たようなものなのだろう。ホグワーツの制服であるローブを着ている。たぶん1年生だろうとアルテシアは思った。どこか見覚えがあるような気はするのだが、はっきりとは思い出せなかった。

 

「敬語なしでいいですよ。あなたより年下ですしね」

「ああ、うん。ありがとう。すこしずつね」

「疑問なんですけど、パーバティ・パチルの魔法を防がなかったのはなぜです? あれがもっと危険な魔法だったなら、一晩医務室で過ごすくらいでは済まなかったかもしれないのに」

「まさか、見えてたの? 騒ぎにはしたくなかったから、それなりの処置をしたのに」

「たしかに。あのスネイプ先生も気づかなかったくらいですからね。でも、わたしには無駄ですよ。こんなわたしでも、ルミアーナの魔女ですからね」

「ああ、なるほど」

 

 この少女も、同じことができるのだ。ならば、その対処法も知っていておかしくはない。アルテシアは、そう考えた。だがそうなると、この少女はすでに魔法が使えるということになる。14歳くらいでそうなるのが普通なのだが、すいぶん早い。

 

「せっかくなので、いろいろお聞きしたいと思ってるんですけど」

「わたしも、聞きたいことがあります」

「でしょうね。一番気になるのは、名前を言ってはいけないあの人と魔法書のことなのでしょ? それとも、ルミアーナの過去について、でしょうか?」

「そうだわ、思い出した。わたし、あなたと前に会ってる。ダイアゴン横町のマダム・マルキンのお店で」

「はい。でもあのとき、あいさつするわけにはいかなかったんです。一緒にいたのは母ですよ」

 

 あれは、アルテシアが2年次の教科書を買いにダイアゴン横町を訪れたときのこと。マダム・マルキンの店を訪ねたとき、母親らしき女性と一緒に店に入ってきたのだ。あのときは、ほんのわずか同じ店の中にいただけで、会話もなかった。

 

「でも、どうしてルミアーナからホグワーツへ。ここの魔法とは、全然違うでしょう」

「同じ質問をあなたにするつもりだったんですけど。でも、いいです。先に答えますけど、あなたがホグワーツに入学したからですよ。そんなの、なにをいまさら、だと思うんですけどね」

「そうかな。役立つことはあると思うよ。変身術とかね。魔法史の授業も、大好きなんだけど」

 

 わざわざ深夜に人目を忍んでやってきた、この少女。どれくらいさかのぼればいいのかわからないが、過去に何らかの関係があったルミアーナ家の魔女であり、もしかすると、例のあの人に力を貸したかもしれない家の人物。そんな相手であるのに、それなりに話がはずむのがアルテシアには不思議だった。

 

「あと、正直に言えば、チャンスだったってこともありますね。正当なる血筋のお嬢さまが、クリミアーナの家をでたんですから、わたしにとっては、まさにチャンス到来なんですよ。おかげでこうして、話ができるじゃないですか」

「あの家にいたなら、会うつもりはなかったってこと?」

「というより、会えなかったでしょう。このことがなかったら、たぶんわたしは、あなたの存在すら知らぬまま大人になってました。知らなければ、何もないのと同じです。この学校にいるからこそ、会えるんです」

「そういうことなら、もっと早くに来てくれてもよかったんじゃない? 入学してからずいぶんたつよ」

 

 それができるのに、そうしなかった。もちろんそこには、ちゃんとした理由があるのだろう。その少女は、ここでにっこりと笑顔を見せた。

 

「あなたのことを調べていました。どんな人なのか、それが知りたかったんです。知らなければ、何もできません。あなたという人がわかるまでは、話もしないつもりでした」

「聞いてもいいよね、そのわけを」

「いいですけど、教えませんよ。本当はまだ、あなたと話をするつもりじゃなかったんですから。早くてもクリスマス休暇に実家に戻って母と話をしたあとくらいから。そうなるはずだったんです」

「じゃあ、ここに来ちゃダメじゃない。お母さまにしかられるんじゃないの。大丈夫?」

 

 言い方によっては、相手を怒らせてしまうことすらできそうなセリフだが、アルテシアのそれは、相手を心配してのものだった。

 

「それ、本気で言ってるんですか。あたしは、あなたの品定めをしていたんですよ。そのためにホグワーツに入学したとは思わないんですか。あなたがどの程度なのかを見るために、それを母に報告するために、そのためだけに入学したとは思わないんですか」

「もちろん、ありのままを見てもらってかまわないわ。隠そうとも思ってない。その結果、どんな評価をされたとしても、それはそれでいい。だってわたしは、クリミアーナの娘だから」

 

 いったい、その少女はどう思ったのか。表情に、ほとんど変化はない。強いて言うなら、唇の端が、少し動いたくらいか。

 

「わたし、これで寮に戻りますけど、最後に1つだけお知らせしておきます」

「何?」

「あなたがパーバティ・パチルのみごとな武装解除呪文を受け、気を失ったあとのことです。なにがあったのか、ご存じないと思うので」

「ああ、そうね。そういえば、パーバティはどうしてるかしら。また、心配かけちゃったな」

「そう思うんなら、あの魔法を防げばよかったのに。わざと受ける必要が、どこにあるんです?」

 

 その疑問に、アルテシアは答えなかった。軽く笑って見せただけ。ルミアーナの少女も、同じような笑顔を返す。

 

「まあ、いいです。ともかくあの後、ドラコ・マルフォイとハリー・ポッターが、全員の前でもう1度対決しました。ドラコ・マルフォイは、サーペンソーティアによってヘビを出現させました。ところがそのヘビが、生徒を襲おうとしたのです」

「それで、どうなったの?」

「ハリー・ポッターが、そのヘビをおとなしくさせました。ヘビ語によって」

「ヘビ語? ヘビの言葉ってことよね。それってまさか」

「そうです。ハリー・ポッターは、ヘビと話ができる。ご存じですか? スリザリン寮のシンボルがヘビなのは、サラザール・スリザリンが、ヘビと話ができたから」

 

 どうやらアルテシアは、返事ができなかったらしい。それとも、ルミアーナの少女がすぐに話を続けたから、返事しなかっただけなのか。

 

「スリザリンの継承者は、ハリー・ポッター。学校中に、そんなうわさがひろまっています。ハリー・ポッターはスリザリンの子孫。例の襲撃事件も、彼の仕業ではないのか、と」

「わたし、ちがうと思うな」

「さあ、どうなんでしょうか。クリミアーナの子孫が誰で、ルミアーナの子孫が誰か。この質問にならはっきりと答えが出せるんですけどね」

 

 2人が、顔を見合わせる。お互い、軽く笑みをみせたところで、ルミアーナの少女の姿が消えた。自分の部屋に戻ったのだろう。そういえば、どこの寮なのか聞かなかったなと、アルテシアは思った。

 だがそんなことは、いずれわかるだろう。それよりも、ハリーのことが気にかかる。彼はどうしているのだろう。それに、パーバティはちゃんと寝ているのだろうか。あの少女の言葉がよみがえる。よかれと思ってしたことだが、どうやら、決闘クラブでのことは失敗だったようだ。

 ベッドのなかでそんなことを思いつつ、アルテシアはゆっくりと目を閉じた。

 


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