ハリー・ポッターと魔法の本   作:Syuka

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 第11話を変更していますが、それはハーマイオニーの宣言のときうしろにアルテシアがいたのに気づかなかった、という部分をより不自然でなくなるようにと修正してみたものです。あまりうまくはないですが、そういうことです。では、12話をどうぞ。



第12話 「過去を求めて」

 たぶん、そうだろうとは思っていた。でも、この予想ははずれて欲しかったなと、閉じられた研究室のドアを見ながら、アルテシアは思う。

 研究室で寝起きをしているなどと思ってはいなかったが、この研究室以外にいそうな場所など思いつかなかったのだ。スネイプ先生の部屋はどこなのだろう。

 いないのだから、ここにいても仕方がない。おそらくは魔法による施錠がされているであろうドア。いまのアルテシアであればそれを突破することもできるはずだが、そんなことをしても意味はない。目的はそんなことではない。

 スネイプと話がしたかったが、引き返すしかなかった。とにかくハリー・ポッターたちが言うように、トロール騒動を引き起こしたのがスネイプなのかどうか。アルテシアは、それを聞いてみるつもりだった。マクゴナガルからの情報では、スネイプは無関係だ。だが、なにか知っていることはあるはず。それを、聞いてみたかったのだ。いまなら、あのトロール騒動のときのお礼のついでということで、その話題に触れることができるだろう。

 だが、ものは考えようだ。これですぐに寮に戻ることができる。寮を抜け出してきたことを、パーバティに気づかれずに済むだろう。なにしろ今は、校内をうろついていると叱られることになる時間帯なのだ。余計な心配はかけたくない。

 だが、階段を登っているときにふと思いつく。なにかと話題の4階のあの部屋を見ておく必要があるのではないか。いまがそのチャンスではないのか。せっかく寮を抜け出したのだ。その正確な場所はしらないが、とにかく。そう思って、顔をあげたとき。

 

「ここで何をしている」

 

 スネイプだった。ここでスネイプと出会ったのは、幸運だったのか、それとも不運か。ともあれ、アルテシアは頭をさげた。

 

「スネイプ先生、どうもありがとうございました。トロール騒動のとき、わたしを医務室まで連れて行ってくれたそうで、感謝しています」

「ほう。いまごろそんなことを、な」

 

 それには、2つの意味がありそうだった。すなわち、時間と日付。こんな時間にか、ということであり、あれから何日も経っているぞ、ということだ。アルテシアも、瞬時にそのことを察する。

 

「あの、先生。遅い時間だということはわかっています。でも、教えていただきたいのです。あのとき、なにがあったのでしょうか」

「なんだと」

 

 意外だったのだろう。さすがのスネイプも、わずかに表情を変化させた。すくなからず驚かされたらしいが、それも一瞬。

 

「それを聞きにきたというのか」

「そうです。あのとき気を失ってしまって、スネイプ先生が医務室まで連れて行ってくださったことは、あとから聞きました。なぜトロールなんかが、あそこにいたんでしょうか」

「それを、吾輩に聞こうというのか」

「だめでしょうか」

 

 さすがにムリがあったかな、とは思う。でも、なにか知っているはずなのだ。ほんのわずかでも、聞かせてほしかった。

 

「よかろう。吾輩もおまえと話をしたいと思っていた。だがマクゴナガル先生が目を光らせているから、遠慮していた。そのおまえから、こうして来てくれたのだ。吾輩の研究室へと招待しよう」

 

 そのままアルテシアの横を通りすぎ、地下への階段を降りていく。アルテシアもその後に続くが、どうしても急ぎ足にならざるをえない。大人と子どもの歩調の差と言ってしまえばそれまでだが、スネイプもいつもよりは早足であるようだ。

 スネイプの研究室には、さまざまなものが置かれていた。どれも魔法薬の調合に使うものなのだろうが、それらに目を奪われていては話が進まない。

 

「紅茶なら用意できるが、必要か?」

「いえ。それよりあらためてお礼申し上げます。あのときは、本当にありがとうございました」

「そのことは、もう忘れてしまうがいい。それより、なぜトロールがいたのか、ということだったな」

 

 アルテシアは提供された椅子に座っていたが、スネイプは立ったままだった。当然、アルテシアを見下ろす形となる。

 

「およその事情について、おまえはマクゴナガル先生から聞いているはずだ。そのうえ、何が聞きたいのだ」

「たしかにお聞きしましたが、それが全てではないような気がするんです。もっと情報が欲しいんです。正しい判断をするために」

「おもしろいことを言うヤツだ。ちなみにおまえはどのように判断しているのだ。野生のトロールが学校に迷い込むなどあり得ないこと。当然、誰かが引き入れたということになるが」

「それがスネイプ先生だといううわさがあります。でもわたしは、そうは思わないんです」

「ほほう。そう判断した理由に興味があるが、そんなことはいい。ともあれ吾輩からは、トロールのことはなにもかも忘れてしまうべきだと忠告しておこう」

「そうでしょうか。同じようなことは、もう起こらないのでしょうか。そうであればいいと思ってはいるのですが、そういうことにしていいのでしょうか」

 

 そんなアルテシアの返事に、スネイプはほとんど反応を示さない。さきほどのように驚いた様子もみせなければ、微笑んだりもしなかった。

 

「それでよい。おそらくおまえは、マクゴナガル先生からもそう言われているはずだ。すなおに言うことをきけ」

「でも、先生。この件には続きがあるような気がします」

「だとしても、校長がなんとかするだろうし、吾輩も気をつけておく。それでいいな」

 

 もう少し食い下がってもよかったのかもしれないが、マクゴナガルに聞いた内容とも食い違いはないし、この件からは手をひくようにと言われているのも事実だ。となれば、納得するしかない。アルテシアはうなずいてみせた。

 

「では吾輩からも、いくつかおまえに尋ねたい。だが忘れないうちに、グリフィンドールから5点減点しておこう。いちいち理由を説明はしないが、それでかまわんな」

「は、はい。すみません」

 

 寮にいるべき時間に、そうしなかったというのが減点の理由だろう。スネイプのことだから、いくらでも理由を見つけ出すことはできるのだろうけれど。

 

「吾輩はクリミアーナ家のことなどなにひとつ知らなかったが、いろいろ調べてみて、いくつか判明したことがある」

「そ、そうですか」

「クリミアーナ家は魔女の家系であり、おまえが魔女であることはわかった。おまえが魔法を使えないのも納得した。だが不思議なことにこれまでクリミアーナ家は魔法界とは常に距離を置いてきている。そのことに、吾輩は興味を持った。その理由を、おまえは知っているのか?」

「いえ、そこまでは」

「そうか。では、こんな話はせぬほうがいいのかもしれんな。寮に戻れ」

 

 突然の、打ち切り宣言。アルテシアには、意外でしかなかった。クリミアーナ家が、魔法界とは常に距離を置いてきた理由。アルテシアも知らないその理由を、スネイプは知っているというのだろうか。そのようなことを、どうやって調べたのだろう。それが不思議だった。このことは調べることができるのだ。それも、意外であった。

 

「あの、スネイプ先生」

「寮に戻れと言ったはずだが」

「でも、先生。そんなこと、どうやって調べたんですか。教えてください」

「戻らねば、さらに減点するぞ。それでもいいのか」

 

 教えてくれるのなら、減点されても仕方がない。だが、減点だけされて放り出されるのは本意ではない。おとなしく戻るべきか。パーバティの顔が頭に浮かぶ。もう、気づかれているだろう。

 

「わかりました。でもスネイプ先生。その理由をご存じなら、いつかわたしに教えてください。お願いします」

 

 頭を下げ、研究室をでるアルテシア。研究室のドアを閉じるとき、スネイプはひと言だけアルテシアに告げた。

 

 

  ※

 

 

 『太った婦人』の肖像画。グリフィンドール寮への入り口でもあるその絵に、ご本人は不在であった。ちょっとしたお出かけなのだろうが、戻ってくるまで談話室へは入れないことになる。つまりが、閉め出されたわけだ。

 仕方なく、アルテシアはその横に座り込む。戻ってくるまで待つしかない。いや、それともこの空間と寮の自分のベッドのなかとを入れかえてしまおうか。部屋のなかのことはよく知っているので、すぐにイメージができる。そうすれば、パーバティにはベッドで寝ていたといいわけもできるし、とそこまで考えて、いや、それはダメだと首を振る。それではパーバティにウソをつくことになってしまう。相手がパーバティでなくとも、ウソはダメだ。場合によっては言わないこともあるにせよ、ウソだけはダメだ。

 やはり、待つしかない。

 

『理由は知らんが追放されたようだ』

 

 スネイプが、ドアを閉じるまぎわに言った言葉だ。その意味するところを、アルテシアは考える。追放、それが魔法界と距離を置く理由なのか。さすがのアルテシアも、そのあたりのことは知らなかった。もしかすると『追放』という厳しい言葉ではなく、仲違いや行き違いによる分裂といったとらえ方をするべきことなのかもしれないが、そういうことなら修復は可能であるはず。だが当時の人たちはそうすることをせず、それがそのまま今日まで続いてきた。それは、なぜだ。スネイプの言うことは本当なのか。本当にクリミアーナは魔法界から『追放』されたのか。

 これまで、そんなことを考えてはこなかった。そんなことに思いが到らなかったことは反省すべきかもしれないが、『追放』されたなどと思いたくはない。もしそうなら、クリミアーナはなんのために魔女の血を受け継いできたのか。その思いを受け継いできたのか。違う、絶対に違う。なにかほかに理由があるはずだ。

 自分にできることは何か、何をすればいいのか。ものごころついてからというもの、いつも、そのことを考えてきた。それが、クリミアーナの娘だからだ。誰もが自然に呼吸するかのように、クリミアーナの娘はそのことを考える。そして、行動する。いま、自分がしなければいけないことは何か。

 ごそごそと、なにか音が聞こえた。見れば、肖像画に『太った婦人』が戻ってきていた。目のあった婦人が軽くウインクしてきたところで肖像画がパッと前に開き、その後ろにある壁の丸い穴から人が出てくる。

 

「アルテシア、こんなところで何してるの!」

 

 最初に出てきたのは、パーバティ。彼女はアルテシアを見つけるなり、そう言った。続いて出てきたハーマイオニーが、そんなパーバティをなだめる。

 

「落ち着いて、パーバティ。たぶん『太った婦人』がお出かけしてて、閉め出されちゃったんだと思うわ。あたしにも経験あるもの」

「合い言葉を忘れたのかもしれないよ。ネビルは、何時間も寮に入れなかったことがあるんだ」

 

 その次はハリー・ポッター。そして、ロンも。

 

「とにかく、談話室に戻ろうぜ。それとも、このまま外にいてなにかいいことでもあるってのか」

「そ、それはそうね。とにかく戻りましょう。話はそれから」

 

 談話室には誰もいなかった。ベッドに入る時間は過ぎていたのだ。だからこそ、アルテシアがいないのに気づいたのだろう。パーバティはアルテシアの左手をしっかりと掴んでいた。

 

「で、どこに行ってたんだい」

 

 口火を切ったのはロンだった。アルテシアは、みんなの前で頭をさげた。

 

「心配かけてごめん。スネイプの研究室に行ってた」

 

 それぞれに、驚きの声と表情。アルテシアの行き先に、誰もがびっくりしたわけだ。

 

「な、なんだってそんなとこに?」

「呼び出されたのか、あいつに」

「ううん、違うよ。トロールのとき助けてもらったお礼だよ。まだ言ってなかったから」

「そんなことで、あんなとこまで行ったのか。こんな時間に」

 

 スネイプにお礼など言う必要はない。それが、ロンとハリー、そしてハーマイオニーの考えだった。ハーマイオニーなどは、クィディッチの試合でハリーの箒に呪いをかけたのはスネイプに違いないと考えており、おもわずそのことを言ってしまったくらいだ。

 そんな話をする予定ではなかったから、ハリーたちはあわてた。だが、言ってしまった言葉は戻らない。

 

「そんなことがあったのね」

 

 パーバティはもちろん、知らなかった。なぜなら、その試合を見ていない。それがスネイプの呪いによるものだとしても、なぜそんなことをせねばならないのか。それがわからなかった。

 

「スリザリンに勝たせたいからだろ。シーカーは真っ先に狙われるんだ。あいつは、スリザリンの寮監じゃないか」

「そんなことで・・ 落ちたら死ぬかもしれないのに」

「でもハリーは、落ちなかっただろう。最後はちゃんとスニッチを捕った」

 

 そんな話のなか、アルテシアはずっと黙っていた。そのためなのかどうか、パーバティが、勝手に外出などさせないと言いだし、そのときは一緒に行くことを了承させられる結果となった。

 

 

  ※

 

 

 今日の朝食の席には、グリフィンドール寮のゴーストである、ほとんど首無しニック(ニコラス・ド・ミムジー・ポーピントン卿)も姿を見せていた。彼自身はなにか食べるわけではなかったが、生徒たちの食べる姿は、見ていて楽しいものらしい。

 そのニックのもとへ、アルテシアが近づいていく。パーバティはラベンダーと談笑中であり、ハーマイオニーはいつもの3人で頭をよせあって何事か話し合っていた。

 

「サー・ニコラス。聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」

「おう、これはこれは。もちろんですとも」

 

 了承が得られたところで、パチンと指をならす。アルテシアとしては、ニックとの会話を周囲の人に聞かれたくなかったのだろう。魔法族でのマフリアート(Muffliato:耳ふさぎ)とほぼ同じもので、パチンとなったときの音が余韻として残り、周囲の人に会話が聞かれにくくするというものだ。

 

「ねぇ、ニコラス。あなた、わたしのことを“姫さま”って呼んだことあるわよね。あれって、誰のこと?」

「おやおや、やはり気になられるようだ。いつかは聞きに来られるのではと思ってはいましたがね」

「心当たりは、あるの。たぶんわたしの」

「ご先祖さま、ということでしょうな。まだこの首が、こうなる前のことですからね」

 

 そう言って、首のあたりをピタピタと叩いてみせる。

 

「わたしね、ご先祖のことを調べてみようかと思っているの。クリミアーナの歴史が生まれたころまでさかのぼることになるかもしれないけど、知る必要があると思うんだ」

「なるほど。それでわたしに知っていることを話せというのですね」

「ええ。おねがいよ、サー・ニコラス。遠い昔になにがあったのか、それを知りたいの」

 

 ほとんど首無しニックに限らず、クリミアーナ家のことを知っている人からは、話を聞いてみようと思っていた。幸いにもそんな人は皆無ではないようだし、まずは情報集めだ。いったいクリミアーナ家の過去になにがあったのか。セブルス・スネイプにできたことなら、自分にもできるはずだ。きっと、スネイプと同じだけの情報は得られるのに違いないのだ。

 加えてアルテシアには、クリミアーナ家の娘としての知識がある。その知識と合わせれば、より正確なことがわかるだろう。

 

「つまり、あなたにそっくりである、その姫さまについて話せばいいのでしょうな。このわたくしのことよりも」

「その人って、わたしに似ているの?」

「ええ、似ていますとも。そっくりというか、わたくしのふるぼけた記憶がいまも正しいとするのなら、あの姫さまはあなたですよ。いや、あなたがあの姫さま、というべきなのか」

「どっちでもいいけど、その人は何をしてたの? 名前は?」

 

 ニックからは、すぐに返事が返ってこない。きっと、思い出そうとしているのだろう。

 

「どうしたの、サー・ニコラス」

「いや、お名前が、さて、なんでしたか。いつも姫さまとお呼びしていたもので」

「じゃあ、名前を聞いたことなかったのね」

「いえ、お伺いしたことはございますよ。ですから、そのうち思い出すでしょう。ともあれその人は、その城の女主人。その地域一帯を治めるご領主さまでした。わたくしも、ずいぶんとお世話になったものです」

「ご領主・・」

「はい。もう何代も続いた魔女の家系でもありました。あのころは、各地で争いごとなどもありましたからね。でもあの方は、ご自分の領地をしっかりと守っておられた。姫さまを慕い集まってくる人たちを守っておられたのです」

 

 自分の持つ知識を総動員して考える。その城は、たぶん今のクリミアーナ家と同じ場所にあったはずだ。そして治めていたという領地は、なにかとアルテシアの面倒をみてくれる人たちが住んでいる地域一帯なのだろう。もちろんその広さはずいぶんと違うのだろうけど。あの家が建てられたのはいつだったのか。記憶ではあの家は、クリミアーナの歴史の始まりとともに、その初代当主を慕う者たちの手で建てられたものであるらしい。

 

「知っていることはそれくらいですかねぇ。あの城に立ち寄ったときはいつも歓迎していただきましたよ。わたくしがこうなってからはお会いする機会もなくなりました。姫さまはいま、どうされているのか」

 

 そこでニックは、はっと思い出したようにアルテシアを見た。

 

「わたくし、いま気がつきました。あなたですよ、姫さま」

「え? なに」

「そっくりですって。いいえ、とんでもない。あれはあなたです。わたくし、ヘンなことを言ってますね。そのこと、自覚してますけどね」

 

 ゴーストも笑うのだ。もちろん怒るし、悲しみもするのだろう。だが、いまの言葉はどういう意味か。

 

「ありがとう、サー・ニコラス。またなにか思い出したら教えて」

「お安いご用ですとも、姫さま。これからはアルテシア姫とお呼びしますが、かまいませんよね?」

「ダメよ、さすがにそれはおかしいでしょう」

「そうでしょうか。ともあれ、名前を思い出せるようにわたくしの記憶をひっくりかえしてみましょう」

 

 パチンと、もう一度指を鳴らす。見た目には何の変化もないが、アルテシアの魔法が終わりを告げた。そのことに、誰も気づくことはなかった。パーバティはあいかわらずラベンダーと話をしていたし、ハーマイオニーたち3人の密談も続いていた。

 




 アルテシアの過去というか、クリミアーナ家の歴史的なものについては、実は第1話でやろうかなと思っていたものです。クリミアーナ家というものを分かってもらってから物語に入るつもりでいたんですが、思い直して、入学案内からお買い物、そしてホグワーツ特急というノーマルなパターンにしたものです。そのほうがよかったとは思っていますが、ホントにそうか、と自分に問いかけるわたしがいたりします。

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