川神四姉弟   作:炎狼

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第4話 千「娘が出来ました」 十「姪が出来ました」

 早朝、東の空が白み始めた時千李は布団から抜け出し極楽院の中庭で拳を振るっていた。と言っても誰か対戦相手がいるわけではなく、脳内で作り出した仮想の敵とのイメージトレーニングだ。

 

 その姿は流麗であるようだが精悍な雰囲気を孕んでいた。拳の一発一発、蹴りの一発一発を放つごとに木々の葉が揺れ溜まった朝露が地面に落ちる。

 

 すると千李は動きを止め息を整えた。同時に千李の体から薄っすらと気があふれ出す。千李はそのまま溢れ出る気を腕に集め呟くように告げた。

 

「……気獣発動」

 

 瞬間、腕に収束していた気が地面に落ち形を形成していく。数秒の後落ちた気は狼の姿へと変貌を遂げた。狼は本当に命があるように精巧に形作られており、時折犬がするように耳の後ろを掻く仕草をしていた。

 

 それを見た千李はしゃがみこみ狼の頭を撫でる。狼もそれが心地よいのか、それとも主に撫でられたことが嬉しいのか目を細め、千李に身体を摺り寄せる。その行動が可笑しかったのか千李は微笑を浮かべる。

 

 ひとしきり狼を撫で終えた千李は立ち上がり、

 

「よし、それじゃあそろそろ戻ってもらおうかな。お疲れ様」

 

 言うと同時に狼は天を仰ぎながら吠えるような素振りを見せた後、千李の中に溶け込むように消えたいった。頷きそれを確認した千李は一度大きく伸びをすると、

 

「さてっと、軽くシャワーでも浴びてこようかな」

 

 そのまま千李は極楽院の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 川神院では百代と一子が千李と同じように鍛錬を行っていた。それを鉄心とルーが見守っていると、ルーが鉄心に問うた。

 

「総代、やはり今日行うのですカ?」

 

「うむ。そろそろモモも限界じゃろうからな。ここらで一回息抜きとして戦わせるのもいいじゃろう」

 

「確かニ、最近の百代は戦いに餓えていましたからネ。ですガ……周囲への被害は大丈夫でしょうカ」

 

「その辺は問題なかろう。わしも結界を張るからな」

 

 二人が話しているのは、今日行われる予定の千李と百代の対決についてだ。以前まで、すなわち千李がまだ日本にいる時ならば百代はそこまで戦いに餓えることはなかったのだが、最近は強者と戦うことがめっきり少なくなってしまい。若干鬱憤のようなものが溜まってしまっているのだ。

 

 そのため今回、千李が帰ってきたのを気に戦わせてみる。と言うことになったのだ。無論ただ単に戦わせると言うわけではなく、千李の実力の把握も兼ねている。

 

「十夜にも知らせておきますか?」

 

「知らせんでも二人が戦えば出てくるじゃろう」

 

「あァ……なるほド」

 

 鉄心の返答にルーは微妙な表情だ。まぁ確かに二人が戦えばそれなりに大きな音がすることは間違いないだろう。十夜もそれに気付き出てくるかもしれない。

 

「しかしまぁ千李もよくあそこまで丸くなってくれたもんじゃわい」

 

 髭を撫でながらしみじみと言った様子で呟く鉄心に対し、ルーもまた静かに頷いた。

 

「もし千李も昔のままの性格じゃったらワシ一人では止められんからのう」

 

「本当ですネ。昔の千李は今の百代以上に戦いに餓えていましたかラ」

 

「あの時は凄まじかったのう。もしあのまま成長すれば……十夜はもしかすると今も引きこもっていたかもしれんのう」

 

 遠い目をしながら呟く鉄心は深く溜息をついた。ルーもまた同じように遠い目をしている。すると、二人の後ろから修行僧が駆けて来た。

 

「鉄心様! 千李様からお電話が」

 

「うむ。ではちと行くかの。ルーや後は頼んだ」

 

「ハイ。わかりましタ」

 

 鉄心は川神院の中に消え、ルーは鍛錬にはげんでいる百代と一子を見守った。

 

 

 

 

 

「ふぁ……。あー、よく寝た」

 

 十夜は大あくびをしながら布団から抜け出した。髪は多少寝癖がつき所々がはねている。

 

「……腹減った……。台所で適当に探すか」

 

 寝巻きから私服に着替え十夜は部屋から出た。部屋から出ると、十夜はまっすぐ台所に向かうが途中鉄心の声が聞こえた。十夜は気付かれないように息を潜めそちらに耳を傾けた。

 

「うむ。……ああ、わかった。では昼ごろにな、……わかっておる、言いやせんよ。ではの」

 

 どうやら電話をしていたようで、受話器を置く音が聞こえた。

 

 ……誰からだろ? 千姉からとか?

 

 そんなことを考えていると、

 

「十夜。そこにおるんじゃろう?」

 

 いきなりかけられた声に十夜は思わず飛び上がってしまった。そしておずおずと顔を出すと鉄心は小さく溜息をつき、

 

「まったく……盗み聞きとは関心せんぞ?」

 

「それはまぁ……スイマセン。それ今の電話って千姉?」

 

「ああ。昼ごろに帰ってくるらしい。お前は朝食か? ならばさっさと済ませてしまえ」

 

「うん、わかった」

 

 鉄心の指示に従い、十夜は朝食をとりに向かう。しかし、鉄心は再度十夜を呼び止めた。

 

「十夜。朝食を済ませたらワシのところに来い」

 

「? 了解」

 

 首を傾げながらも十夜は朝食をとりに向かった。

 

 

 

 

 

 

「こういうことか……」

 

 そう呟く十夜は縁側で茶を啜りながら鉄心と将棋をさしていた。

 

「たまにはええじゃろう? テレビゲーム以外にもこういった昔ながらのゲームも」

 

「まぁそうだけどさ。でも珍しいよね、じーちゃんが俺を誘うなんてさ」

 

「なぁに孫の中で出来そうなのはお前ぐらいだからのう。モモや一子はこういうチマチマしたもん苦手じゃろ?」

 

 駒を動かしながら言う鉄心は微笑を浮かべている。十夜はそれに苦笑いで返しつつ駒を進める。

 

「そういえばさ、さっきの千姉からの電話なんだったの?」

 

「ん? まぁ詳しくは話せんな。何せ千李に口止めされておるからの」

 

「口止めって……まーた何かたくらんでるのか千姉は……」

 

「さてな、それは千李が帰ってきてからのお楽しみじゃな」

 

 お茶を一口含みながら鉄心は告げる。

 

 ……まったく、千姉も結構サプライズ的なもの好きだからなぁ。変なことじゃなければいいけど。

 

 肩を竦めながら十夜もお茶を啜った。すると鉄心が、先ほどよりも神妙な面持ちになり十夜に問う。

 

「十夜。お主はもう武術の道に進むことはせんか?」

 

 片目だけを薄っすらと明け、半眼で十夜を見据える鉄心に十夜は全身に緊張が走った。飲み掛けで少しだけ口に含んでいたお茶を何とか嚥下した十夜は小さく告げた。

 

「今は……まだわからない。……だけど、このままじゃいけない気もするんだ」

 

「そうか……。変なことを聞いてすまなかったな。少し気になっただけじゃからあまり気にするな」

 

 そういうと鉄心は駒を動かし、

 

「ホレ、王手」

 

「あっ……。まさか作戦?」

 

「違う違う。偶々じゃよたまたま。さて、モモたちの様子でも見てくるかの。つき合わせて悪かったな十夜。また頼むぞ」

 

「暇だったらね」

 

 鉄心は盤面の駒を片付け、鍛錬をしているであろう百代たちの元に行った。

 

 一人残された十夜は先ほど鉄心が聞いた言葉を思い返していた。

 

「もう武術はやらないのか……か。考えてはいるけど……どうにもなぁ」

 

 困惑の表情を浮かべながら十夜はその場を後にした。

 

 因みに、鉄心は十夜に将棋で勝った後、小さくガッツポーズをしていてこう呟いていたらしい。

 

「ルーには負けるがまだ十夜には勝てる……!」

 

 と。

 

 

 

 

 

 午前十一時半ごろ、千李は川神駅前に立っていた。しかし、彼女一人だけではなく彼女の背中には極楽院から預かってきた瑠奈がいた。

 

 瑠奈は小さく寝息をたてており、千李の背中にしがみつきながら眠っていた。

 

「流石に疲れちゃったか……。まぁしょうがないわよね」

 

 クスリと笑いながら千李は瑠奈が落ちないように背負いなおす。その衝撃で瑠奈が一瞬眉をひそめるが起きる事はなかった。

 

 それを確認した千李は、安堵したように息をつくと瑠奈を起こさないようにゆっくりと歩き出した。

 

 

 

 

 

 特に誰にも見つかることはなく、千李は川神院に到着した。

 

「ただいまー。ジジイーいるー?」

 

「うむ、おるぞ」

 

 千李が言うと、奥から鉄心がやって来た。彼は千李の背負っている瑠奈に目をやると、

 

「その子が例の子か?」

 

「ええ。今は疲れて眠っちゃってるけど……起こしましょうか?」

 

「いいや、寝かせておいてやれ。ゆっくりさせてやらんとな」

 

 千李の問いに鉄心は右手を出しそれを制す。千李もそれに頷くが、

 

「んぅ……ふぁ~」

 

 鉄心の考えとは裏腹に、瑠奈はゆっくりと起きた。

 

「あら、瑠奈起こしちゃった? まだ寝ててもいいのよ?」

 

「ううん、だいじょうぶもういっぱいねたから」

 

 瑠奈は言うと千李の背中からおり、辺りを見回した。それを見た鉄心が声をかける。

 

「こんにちわじゃな。君が瑠奈でいいかの?」

 

 いきなり声をかけられ、瑠奈は一瞬あたふたとするがすぐに頭を下げながら。

 

「こ、こんにちわ! 伊達瑠奈です!! お、おせわになります!!」

 

「ホッホッホ、元気が良いのう。一子が来たときを思い出すわい」

 

 瑠奈の挨拶に鉄心は昔一子が川神院にやってきたことを思い出し微笑を浮かべる。鉄心はそのまま瑠奈の頭に手を置き優しくポンポンと軽めにたたく。

 

「さて、ではそろそろモモ達も帰ってくることじゃし。準備だけ整えておけよ千李」

 

「りょーかい。じゃあ瑠奈、お部屋に行きましょうか」

 

「うん!」

 

 二人は千李の自室へと向かった。

 

 千李の部屋へと向かう途中、十夜が部屋から出てきた。

 

「あ、千姉。おかえり……ってその子は?」

 

 やはりというべきか十夜は千李の傍らにいる瑠奈に気付き千李に問う。

 

「あ、この子? 私の娘」

 

「こんにちわ、伊達瑠奈です。よろしくおねがいします」

 

「あぁ、これはご丁寧にどうも……って、は? 娘? 誰の?」

 

「だから私の」

 

「ああ、千姉のね……なるほど」

 

 十夜が納得したようだったので、千李と瑠奈はそのまま部屋に向かう。

 

 が、

 

「え!? ちょ、ちょっと待って!? ま、マジで言ってる?」

 

 無論納得するわけがなく、十夜は千李を呼び止めた。

 

「マジもマジも大マジよ。というわけで、細かい説明はジジイから受けてねー。私はちょいと準備があるから」

 

 千李はそういうと、瑠奈を小脇に抱えスタコラとその場を去って行った。残された十夜は口をあんぐりと開けたまま、

 

「なんじゃあそりゃあ……」

 

 気の抜けた声しか出なかった。

 

 

 

 

 

 暫くすると、百代と一子がランニングから帰ってきた。千李も舞台上で腕を組みながら百代を待っていた。舞台の下にはルーに肩車をされている瑠奈の姿が見られた。勿論その姿に気付かない百代と一子ではなく、すぐさま千李に聞いてきたが千李はそれを軽くあしらう。

 

「まずはそれよりも、さっさと決闘終わりにしちゃわない?」

 

 千李が言うと、百代は口角を吊り上げながら、

 

「それもそうだな。話は後でも出来るし」

 

 百代は若干気になっているようだったがすぐに千李に向き直り舞台に上がってきた。同時に鉄心も舞台上に上がり、百代と千李の真ん中に立つ。

 

「ではこれより、川神千李対川神百代の試合を開始する。勝負は一本勝負、どちらかが参ったと言うか気絶をすればそこで終了でよいな?」

 

「ああ」

 

「ええ」

 

 二人は頷きながら返答する。それを確認した鉄心は腕を掲げ一気にそれを振り下ろした。

 

「始め!!」

 

 掛け声とともに鉄心は舞台から飛び退きそして結界を張る。ほぼ同時に千李と百代は駆け出しこれまた同時に蹴りを放った。二人の姿はまるで鏡を見ているようにそっくりだった。

 

 蹴りと蹴りがぶつかり合い凄まじい衝撃が発生する。二人はその後それぞれ飛び退くと構えを取る。すると百代は嬉しそうに笑った。

 

「久々だなぁ姉さんとこうして戦えるのは」

 

「そうね、一年前私が旅に出る前にやったぐらいだもんね。それにさっきの蹴りからもわかったけど……えらく腕を上げたじゃない。足だけど」

 

「フフッありがとな。けどまだまだこんなもんじゃないぞ!!」

 

 言った百代は先ほど以上の速度で詰め寄ってくる。それに千李は小さく笑みを浮かべながら、

 

 ……まったく、生き生きしちゃって。

 

 焦ることはなく冷静に百代が放った拳を受け止めた。

 

 

 

 

 

 舞台の下では一子にルー、そして彼に肩車をされている瑠奈の姿があった。するとそこへ、

 

「な、何今の音!?」

 

「あら、十夜。居たの?」

 

「最初っからいるって……。つか、これは一体全体どういう状況なんだ? 何で千姉と姉貴が戦ってんだよ」

 

「まぁ百代の息抜きだネ。十夜も気付いていたかと思うけど……最近百代は少しイライラしていただろウ? だから総代が決めたんだヨ」

 

 ルーの説明に十夜は頷くが、舞台上で行われている戦いに目を白黒させている。何せ武術をやっている一子も目を凝らしているが、十夜と同じように目をしきりに動かしている。ルーでさえ時折察知できないほどだ。武術に暫く触れてさえいない十夜にこの戦いが理解できるはずがなかった。

 

 すると、一際大きな音が聞こえた。

 

 みなの視線を追うと、千李と百代が拳をぶつけ合っていた。二人の表情は互いに笑ってはいるものの、微塵の手加減すら感じられなかった。

 

 それを見た十夜は全身に悪寒が走るのを感じた。まるで全身の毛が全て逆立つような気持ち悪さに駆られ、十夜は自分の身体を抱いてしまった。

 

 今十夜は目の前で行われている闘争に、純粋に恐怖を感じていた。そして思い出される過去の嫌な記憶。思い出したくもない辛い過去。しかし、

 

「おにいちゃん、だいじょうぶ?」

 

 そんな十夜の様子が心配になったのか、瑠奈はルーから降り十夜を見上げていた。それを見た十夜は口の中に溜まってしまったつばを嚥下し、しゃがみながら瑠奈に告げた。

 

「大丈夫だ。ちょっとかっこ悪いところ見せちゃったな」

 

 瑠奈の頭を撫で、十夜は立ち上がると、自分の顔を数回叩いた。そして改めて二人の試合を見つめる。

 

 ……何ビビってんだ! こんな小さな子にまで心配かけて、情けないぞ俺!!

 

 気合を入れなおした十夜の目には強い光が宿っていた。

 

 

 

 

 

 舞台上で百代と戦いながらそんな十夜の様子を見やった千李は、小さく微笑むと百代の攻撃を受け止めその勢いを殺さず百代を放り投げた。

 

 しかし、百代はそれにすばやく反応すると華麗に着地し千李に向き直った。

 

「さてっと、じゃあそろそろ終わりにしましょうか百代。アンタもいい加減満足したんじゃない?」

 

「ん、そうだな。ちょっと物足りないけどまぁ十分か。じゃあ姉さん、次で最後にしてやるぞ」

 

「あら、随分と強気じゃない。アンタが一度でも私に勝ったことがあったっけ?」

 

「フフッ。確かに今まではそうだった。だけどなこの一年で私も成長したんだ、もう前までの私じゃないぞ?」

 

「そう、じゃあやってみましょうか」

 

 そういう千李は拳に気を集中させる。百代も同じように気を溜める。

 

 二人の間に沈黙が流れる。それは一瞬だが妙に長く感じさせる物だった。しかしそれは百代によって破られた。

 

「川神流! 星殺し!!」

 

 咆哮とともに打ち出された極太のビームが千李を目掛け突っ走る。勢いもかなりのものであっという間に千李に着弾し、爆発を起こす。

 

「どうだ姉さん。結構きいただろう」

 

 百代が聞くが千李からの返答はない。百代は怪訝そうな表情をするが、次の瞬間、後ろからとんでもない殺気が襲い一気に彼女の顔を蒼白に染める。

 

 同時に百代は後ろに向き直ろうとするが、時既に遅く百代が振り向き終わった頃には千李の拳は百代の胸を確実に捕らえていた。

 

「……牙狼穿(がろうせん)

 

 その拳は百代の胸を抉る様に放たれた。その衝撃は凄まじく、いつもであれば瞬間回復を使いすぐさま直すのだが、その余裕すらなく百代は意識を奪われた。

 

「はい。お終い」

 

 千李が言うと、百代は舞台に仰向けに倒れた。

 

「勝者! 川神千李!!」

 

 鉄心が言うと、張られていた結界が解かれ、千李は百代をおぶり一子たちの下へ行った。

 

「千姉様! モモ姉様は?」

 

「大丈夫よ。ちょっと気絶してるだけだから、五分もすれば目が覚めるわ」

 

 心配そうに駆け寄ってきた一子の頭を撫でながら千李が告げると、一子はホッと胸を撫で下ろした。

 

「十夜も大丈夫?」

 

「え、うん。一応は……この子が励ましてくれたし」

 

「そう。おいで瑠奈」

 

 千李が言うと、瑠奈は十夜の元から駆け出し千李に抱っこされた。その様子を見ていた二人は、思い出したように千李に聞いた。

 

「そうだ、千姉様! その子は誰なの?」

 

「そうそう。俺もそれが知りたい。娘だって言ってたけど本当なのか?」

 

「わかったってば、外じゃなんだから中で話しましょう。よっと」

 

 千李はそのまま百代を担ぎ、川神院の中に入った。

 

 その後、目を覚ました百代を含めた3人に千李は瑠奈の説明を始めた。それを聞いた三人は快く納得したようでそれぞれ嬉しそうにしていた。特に百代と一子はかなり嬉しいようだった。十夜も嫌がることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 十夜は瑠奈のことを思い出しながら、

 

「あー……まさかこの歳でおじさんになるとは……人生ってわからないもんだなー」

 

 しみじみといった様子で呟く十夜だが、不思議とその顔は笑みをこぼしていた。

 

「そういえば瑠奈って……武術できるのかな? まっ明日にでも千姉に聞けばいっか」

 

 肩を竦めながら十夜は布団に潜った。


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