異世界で 上前はねて 生きていく (詠み人知らず) 作:岸若まみず
時計塔級造魔の起動試験のその後、お義兄さんはそのまま我が家に泊まっていた。
明日からは俺の今季の査察をやるため、これからトルキイバに数日残留するらしい。
「おっかぁ!」
「ばぁ~!」
「いつの間にやら喋るようになったか。子供の成長というものは早すぎて目眩がするな」
軍服を脱いでくつろいだ格好になったお義兄さんは、リビングに安楽椅子で膝に双子を乗せながらそうつぶやいた。
ノアとラクスもすっかり懐いているし、なんだか季節ごとに王都で流行りの子供服なんかを送っていただいてしまっていて、お義兄さんには頭が上がらないのだった。
「すいません、この間はまた子供達の服を頂いてしまって」
「気にするな、うちのがやったことだ」
「うちのって……じゃああれはお姫様からの
俺がますます頭を下げるのを見て、お義兄さんはフンと鼻を鳴らした。
「あれも降嫁した身であるし、甥と姪への贈り物だ、下賜品とは言わん」
「そうだよ、親戚なんだからそんなにかしこまってちゃあ駄目だ」
そらお二人みたいにロイヤルな身分の出なら割り切れるだろうけど、俺なんか平民出だぞ。
先祖なんかテンプル生まれ山道育ち悪そな奴はだいたい手の者な山賊だし。
「そういえばお前の送った酒だが、なかなか気に入っているようでな、王都では手に入りにくいから時々でいいから送ってほしいと言っていたぞ」
「えっ! それって王室御用達って事じゃないですか!」
「そう思うならもう少し値段を上げろ、姫様を安酒飲みにさせる気か?」
お義兄さんは冗談を言ったような顔をして渋く笑っているが、全然冗談になってねーよ!
たとえリップサービスだったとしても、姫様に褒められてノーリアクションは問題だろ。
姫様には毎月送って、値段倍にしよ……
「酒って、ローラ・ローラかい?」
暖炉の近くで編み物をしていたローラさんが振り向いてそう聞くと、お義兄さんはノアとラクスの頭を撫でながら頷いた。
「そうだ、甘ったるい酒だが婦女子には人気があるようでな、うちにあったものも半分ぐらいは人にやってしまったようだ」
「毎月箱でお送りしますよ」
「ま、それもいいんじゃないかな? ノアとラクスにも色々頂いてしまっているわけだし」
なんだかお歳暮のお返しを決めるような軽いノリで話が進んでるけど、普通に考えて日常生活に王族が絡んでくるって凄い状況なんだよな。
こういう家庭で育ったうちの双子はどういう人間に育つんだろうか……?
ハイソでタカビーな感じに育ったらどうしよう……
まぁでも、元気に育ってくれるなら、それでもいいかな。
お義兄さんに抱きつくようにして眠るノアとラクスの姿を見てから、俺はなんとなく窓の外を眺めた。
窓の外の透き通った冬の空には、横に一本線の入ったこの世界の満月が、子供達を見守るように浮かんでいたのだった。
ウマ娘やりたすぎてスマホを買い替えました