偽から出た真   作:白雪桜

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第 七 十 話 現世での再会・Part2

「……ええと……」

 

(私、何でここに居るんだっけ……)

 

 “彼等”の拠点である結界を張られた廃工場を前に、朔良は記憶の中の出来事に意識を向けた。

 

 

 

 時は先週に遡る。

 

 藍色に広がった湖面。純白の桜吹雪が舞う中、中心に同色の桜が咲いている。文字通り湖面の中に、逆さの形で。

 幻想的だが、この場に居る二人に景色を楽しむ気などなかった。

 

「破道の三十三、“蒼火墜”!」

 

「啼け、紅姫!」

 

 朔良の放った破道が、喜助の斬撃が相殺される。

 

「縛道の六十ニ、“百歩欄干”!」

 

 喜助の目の前に数多の光る棒が出現し、一直線に飛んでくるのを瞬歩で躱す。そのまま上空高くへ移動し、右手を大きく振りかぶる。

 

「“天譴”!」

 

 掌中にあった花弁が刀に変化すると同時に、同じ形の巨大な刃が出現した。朔良が腕を振り下ろせば、その動きに合わせ巨大な刃も地面へと叩きつけられる。

 もうもうと土煙が上がる中に降り立ち“天譴”を消した瞬間、真後ろの死角から赤い斬撃が飛んで来た。

 

「“斬月”!」

 

 手にしたのは朔良自身の身長よりも長い大刀。本人と同様に背負う形で盾のようにして斬撃を防ぎ、そのまま振り抜く。

 

「月牙天衝!」

 

 疾駆する白い斬撃は、先刻受けたそれより大きなもの。霊圧の動きで躱されたことを察知しーー殺気を消して卍解を解除した。

 土煙が収まった後、朔良と同様に始解を解いた喜助が歩いて来る。

 

「どうしたんスか?」

「こっちのセリフです」

 

 片手で帽子の鍔を上げつつ投げかけられた問いに対し、珠水を鞘に収め、じとっと喜助を睨んで答える。

 

「私にだけ卍解させて、自分は見せる気ゼロとかズルいでしょう」

「あ、やっぱり気付いちゃいました?」

「当たり前ですよ」

 

 あっさり認めた師に、肩を落として溜め息を吐く。

 そう、彼が使っていたのは始解のみ。朔良もよく知る、ただの“紅姫”だ。そのままではいくら喜助といえど、“伽藍神珠水(がらんのかみしゅすい)”にいつまでも対抗できる訳がない。

 

「やっときー兄様の卍解が観られると思ってたのに」

「まあ、アタシも他の人に見せたことはないっスね」

「つまり無差別系か特異系ってことですか」

 

 話の流れに乗ってさらりと核心を突けば、びしりと固まった。図星らしい。本日二度目だ。

 

「……えーと?」

「誤魔化しは必要ありません。って言うか無理ですよ」

「……そうっスね。しかし、今までのやり取りでそこまで推察するとは」

「判りますよそれくらい」

 

 今この勉強部屋で恋次と修行しているチャドはパワー型だ。その相手をする訳だから、相応の圧というものが必要になる。喜助の卍解がそれに向いていないのであれば、白哉や一護のような直接攻撃系や、冬獅郎のような攻撃鬼道系ではないということだ。無論、東仙のような幻覚系も外れる。加えて誰にも見せたことがないと言った。つまり見せられないか、見せ辛いもの。ここまで揃えば、自ずと選択肢は限られる。

 

「お察しの通り、特異系っス」

「やっぱりですか。で、見せては頂けないんですね?」

「見せられるようなものじゃないんで」

 

 ここまで拒否されては仕方ない。潔く諦めることにし、その場に尻餅をつくようにして座り込んだ。

 

「あー疲れる……」

「随分負担の大きい卍解みたいっスね」

「判りました?」

 

 彼の言う通り、伽藍神珠水は朔良自身に多大な負荷を掛ける。卍解そのものが、と言うよりは。

 

「正確には、卍解の霊圧に私の身体が耐えられないんですけどね」

 

 朔良の霊圧は強大だ。ただの魂魄でなくなった日ーー言うなれば“始まりの日”に与えられた力は種として根付き、確かに芽吹いた。土壌は良かったのだろう、しかし器が小さ過ぎた。

 小さな花壇に大樹となる木の種を植えても、やがて成長したそれは定められた範囲からはみ出し、花壇を呑み込んで押し潰す。

 大きさを、抑えなければ。

 

「これでもなるべく卍解の霊圧と力を抑えて、私自身の肉体への負担を少なくしているんです」

「工夫してるんスねえ」

「と言っても、代わりに精神力がガンガン削られていきますが」

「あの技では、でしょう?」

 

 流れるような指摘に、思わず目を瞠った。

 

「……気付きましたか」

「なんとなくっスけど。やっぱりそうでしたか」

「ええ。お察しの通り」

 

 片膝を起こし、鞘に戻した珠水を左手で軽く地面に突き立てる。

 

「“桜花鏡乱(おうかきょうらん)”。それがあの技の名前です」

 

 朔良の、内なる世界を表現したかのような鏡の湖面と、その中心に咲く純白をした一本の桜の木。無数に舞う花弁が他の斬魄刀へと変化し、複数の力を同時に扱えるーーそれが伽藍神珠水の能力だと、朔良の卍解を知る誰もが思っているだろう。けれど、朔良自身は一度もそれを肯定したことはない。

 複数の力を同時に扱える、その点は間違っていない。だがそれは何も、あの湖面と桜の木である必要はない。あれは卍解そのものの形ではなく、技のひとつにすぎないのだ。

 とは言え。

 

「他の形を使えない以上、同じようなものですけどね」

「使えないんスか?」

「厳密には使えます。ですがさっきも言った通り、私の身体が耐えられません」

 

 そもそも、珠水の能力は物真似だ。何かを模倣しなければ自身を表すことができない。つまり、元より決まった形は存在しない。始解の時は刀という元々の形があったが、卍解は力が解放される代わりに別の姿を取らねばならないのだ。

 複数の能力が使用できて、朔良にも負担の少ない形。行き着いたのが、内なる世界を模倣して表すことだった。

 

「ですがそれは、今まで君がほとんど一人で考えてきたことっスよね?」

「そうですね。海燕さんに鍛錬の相手をしてもらっていましたが、それだけですし」

「じゃあ、もっと色んな強い人達と卍解を使って修業したら、良いアイデアが浮かぶんじゃないっスか?」

「……はい?」

 

 突然ニコニコと満面の笑みを見せてきた師。……猛烈に嫌な予感がした。

 果たして、それは当たった。

 

「いい機会っス。平子サン達の所に行きましょう」

 

「…………はあああぁ!?」

 

 開いた口が塞がらないとはこのことか。あまりの爆弾発言に素っ頓狂な声が出た。

 

「何寝惚けたこと言ってるんですか!? 耄碌するには早いでしょう!」

「相変わらずズバッと言うっスねえ……」

「そもそもあの人達は今、一護の修行中で……」

「あーもしもし平子サン? アタシっス〜」

「ちょ……!?」

「黒崎サンはどうっスか? ……まだ始めたばかり? それはそうっスね。では一段落着いたら教えて下さい。朔良が皆さんに会いに行くので」

 

 さっさと携帯電話で約束を取り付けてしまった喜助に絶句する。ややあって我に返り、詰め寄った。

 

「きー兄様!」

「嫌っスねえ朔良。そんなに大声出さなくても聞こえますよお」

「のらりくらりとしてないできちんと答えて下さい! 私がどんな顔して会いに行けると……!」

「いずれは会わなきゃいけない。君程聡明な()が、判っていない筈がないっスよね」

 

 ひゅっ、と息を呑む。図星だった。

 藍染の正体が隠されていた間は会えなかった。当然だ、平子達は尸魂界から追放されていたのだから。

 だが真実が明らかになった今、他の死神はともかく朔良だけは会わねばなるまい。何しろ百年前の“あの夜”、藍染達の凶行の現場に居合わせた者の中で、尸魂界に残れたのは朔良一人なのだから。

 しかし何たる荒療治。必要なことだと判っているが、強引過ぎる。重ねて言う、必要なことだと判っているが。

 

「こういうのは早い方がいいっスよ?」

「重々承知してます! ですが……」

「でもさっきの電話、本気で止めようと思えば止められましたよね? それが答えじゃないっスか?」

 

 ぐうの音も出せない。珍しい。

 

「ということで〜、平子サンの連絡待ちましょうね〜♪」

「……きー兄様、やけに楽しそうですね」

「そりゃそうですよお。いつも“正論の刃”で誰が相手でも容赦なく叩き斬る君が、今はまるで反論できない。いやあちょっと爽快でーー」

「成程、よく判りました。ところで先日隠し撮りしていた夜姉様の写真、誰に渡すつもりなんですか?」

 

 びしり、と音が鳴った気がする。言わずもがな、喜助が動きを止めた音だ。実際に鼓膜が震えた訳ではないけれど。

 

「隠密機動ですか? 砕蜂先輩のご

機嫌取りに使えそうですよね。それとも女性死神協会? ああ今は丁度乱菊が来てましたね。写真集制作に一役買えば貸しを作れる。彼女達の持つ情報って、案外馬鹿にできませんし」

「…………」

「夜姉様はああいう人ですから、写真そのものは嫌がりませんけど……盗撮まで許容するほどお人好しじゃありませんよね?」

「調子に乗ったっス。スイマセン」

 

 あっさり頭を下げた喜助。勝った。

 

「……まあとにかく、貴方の言うことは尤もですから。今はあの人達の返事を待つことに……」

「…………」

「って……どうしました?」

「……何でっスかねえ……」

「え?」

「こういう論戦、アタシも苦手じゃないんです」

 

 苦手じゃないどころか、得意分野だろう。

 

「でも何でっスかねえ……君には出会った時から、勝てた試しがないんスよ」

「何だ、そんなことですか」

「はい?」

「だって、昔からよく言うじゃないですか」

 

 にっこり笑う。

 

「口じゃ女には敵わないって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーそんな遣り取りをして。

 ぽかんとした師の表情が面白かったなあと、若干の現実逃避を行いつつ、今に至るという訳である。

 

(早い方がいい……きー兄様の言う通りなんだよ。言う通りなんだけど……!)

 

 強力な結界の前で先程からずっと、自問自答しつつ右往左往しているのが現状だ。頭では判っていても踏ん切りがつかない、というのが正直な所でーー

 

「……どーしよう」

「そろそろええか?」

「わっきゃあっ!?」

 

 たまたま建物に背を向けていたタイミングで声を掛けられ跳び上がる。聞き覚えのあるそれに恐る恐る振り返れば、黒髪三編みでセーラー服を着た眼鏡の女性ーー矢胴丸リサが立っていた。

 ……結界から出て来たことにも気付けないとは、我ながら余程切羽詰まっているらしい。

 

「……何頓狂な声出しとんねん」

「……あーいやあはは……し、失礼を……」

「まあええわ。ほな、行くで」

「え」

 

 問答無用とはこのことか。反論する間もなく、また逃げる気も流石になく。文字通り首根っこを引っ掴まれて連行されたのだった。

 

 

 

 ――その後。

 

 平子真子。

 猿柿ひよ里。

 矢胴丸リサ。

 有昭田鉢玄。

 六車拳西。

 鳳橋楼十郎。

 愛川羅武。

 九南白。

 

 嘗て隊長、副隊長を務めた仮面の軍勢(ヴァイザード)八人に囲まれ、正座で対面することとなった。無論、珠水は腰から外し傍らに置いてある。正確にはまだ七人、だが。

 

「おーいひよ里―。一旦切り上げてこっち来―い」

「今行くわ。ほな一護、ちょっと休憩や。向こうの方行っとき」

「あ? いきなり何だよ。っつーかアレ、何で朔良が……」

「大事な話や。あんたは口挟むんやない」

「……判った」

 

 今の今まで斬魄刀で打ち合っていた一護とひよ里。突然の中断に不満を述べる一護だが、真剣な様子のひよ里を目にし、素直に頷いて離れていく。彼が会話が聞き取れないくらいの場所まで行ったことを確認し、彼女もこちらにやって来た。これで全員だ。

 

「取り敢えず……久しぶりやな、朔良ちゃん」

 

 真っ先に口を開いたのは平子だ。他の面々が立っているのに対し、彼一人は朔良の正面で片膝を立て座っている。

 

「……お久しぶりです。そして……初めまして」

 

 半数は顔見知り、半数はほぼ初対面となる為、そう答えた。

 

「さて……色々話したいことはある、けど何から話したらええんか……俺らも結構考えたんや」

「……はい」

 

 視線を逸らしたくなるものの、自分にその資格は無い。平子の目を真っ向から受け留める。告げるのだ、百年前からずっと言わなければならなかった言葉を。

 

「……申し訳――」

「スマンかったな、朔良ちゃん」

 

 ――紡ぎかけた謝罪は、謝罪で遮られた。何を言われたのか理解できず、数秒は固まっていただろう。思考が追いついた所で、下げた頭をそのままに目を瞠る。

 

「君があの現場に居ったて喜助に聞いたんは、ついこの前や。この百年、君が俺等に対してどういう思いやったかは察するわ。せやけどな、それを踏まえた上で、俺らは満場一致で決めたことがあるんや」

 

 頭上げ、と言われて、そっと目線を戻していく。朔良を再び真正面から見据えた彼は、一息に言い切った。

 

「最初に謝るのは俺らの方。絶対に君から先には謝らせへんてな」

 

 思いも寄らぬ言葉だった。何と答えるべきか、普段雄弁な口は回らず、間抜けにも開け閉めを繰り返すのみ。そうしている間に、今度はリサが発言する。

 

「あの日のことはあんたのせいやない。あたしらが弱かっただけや」

「ま、そーいうことだな。君が居たことに気付かなかった俺らの方に問題があるって」

「それにあの頃の君は、やっと始解を使いこなせるようになったくらいの実力だったって聞いたよ。それじゃ仕方ないさ」

「むしろ、よく感情的になってあの場に飛び出してこなかったと、その判断力を褒めてもいいくらいだぜ」

「あっれー? 拳西がやっさしーい! めっずらしーい! もしかしてこの子拳西のタイプー!?」

「あ゛あ゛!?」

「まァまァ……しかし、皆サンの言う通りデス。朔良サン、誰も貴女を責めるつもりは――」

「ちょ……ちょ、ちょっと待って下さい!?」

 

 漸く事態に理解が追いつき、堪らず声を上げた。無意識に膝立ちになりながら身体の前で両手を開く。

 

「私は……貴方がたを見殺しにしました! 当時の実力がどうであれ、それは変わりません! そもそもな話……」

「グダグダやかましいわ!」

「たっ!?」

 

 スパーン! と小気味良い音が鳴る。ひよ里に平手で頭を引っぱたかれた音だ。ジンジンする患部を両手で抑えてクエスチョンマークを幾つも浮かべ、仁王立ちする彼女を見上げる。

 

「うちらが恨んどるのは藍染達や! あんたのことは何とも思っとらん。勝手に背負うんやない!」

「……な」

「ひよ里、その言い方は無いやろ。朔良は朔良なりに、ずっと苦しんで来たんやで」

「そないなこと判ってんねん! せやけど、こいつの方が全然判っとらん!」

「落ち着けって。えーと……朔良ちゃん、言いたいことあるんだろ?」

「あ、はい……」

 

 愛川羅武に促され、話すべき内容を脳内で纏め直す。――怒りを買う覚悟の上で。

 

「……そもそも私は、あの時皆さんを助けに行ったのではありません。当然ですよね、皆さんが居てどうにもならないことなら、私に何ができた訳もなかったんですから」

 

 判りきったことだ。しかし頭で理解していても、感情がついてこないということはままある。きっと朔良もその類だったのだと、彼らは受け取ったのだろう。

 けれどそうではない。朔良が行動した理由はそんな、可愛らしいものではなかったのだ。

 

「私はただ……自分が知る為にあの場へ行きました」

 

 今一度膝を正し、述べる。強かでえげつない、そして浅ましい己自身を。

 

「藍染が危険であること。私は……以前から判っていました。無意識的に、ですが」

「それで人懐っこい君にしては珍しく、アイツに近寄らんかったんか」

「はい。“あの夜”、瀞霊廷で藍染を見た時、途方もない違和感を感じました。鏡花水月の存在を知らずとも、あれは本物ではないと直感したんです」

「そりゃまた……凄いな」

「馬鹿をやったのはここからです。私は珠水を使い、無理を通して瀞霊廷を出ました。その時はただ、居ても立っても居られないだけだと思っていました。でも違った」

 

 後になって自覚した。

 

「藍染の危険性を、あわよくばその力の一端を。直にこの目に焼き付ける為だったんです」

 

 その“後”とは、卍解を習得した時――記憶の全てを、思い出した時。

 

「……もっとずっと幼い頃、私はあの男に会っていた」

 

 だから、理解していた。記憶は無くとも、その危険性を。

 

「あの男が、私に興味を持っていることも判っていた」

 

 だから、知らなければならなかった。己自身の為に。

 

「判っていたんです。きっとあの男は、余程のことがない限り私を殺しはしないと」

 

 とても顔を上げていられず項垂れる。

 

「卍解習得のその時まであの男と出会っていたことを思い出せなくとも、無意識下で判っていた。だからあんな、無謀な行動が取れた」

 

 軽蔑されるのは当然だ。行動の全てが、自分自身だけの為だったのだから。

 

「だから……申し訳ありませんでした」

 

 両手を揃えて地面に付き、深々と頭を下げる。永遠とも思える沈黙が続――

 

「いや凄いよそれ」

 

 ――かなかった。

 

「…………は?」

 

 思わず顔を上げ、呆けた声が出てしまったのは悪くないと思う。それくらい驚いた。

 鳳橋楼十郎の発言に、周囲も頷く。

 

「記憶ないのにそこまでの行動ができる辺り、あたしは感心するでホンマ」

「しかもあの年齢で、デスヨネ」

「少なくとも俺はできねえよ」

「同感だな。相当肝が据わってやがる」

「えー? 拳西はアッタマ悪いから無理なの、はじめっから判ってるよー?」

「あ゛あ゛!?」

「拳西……いちいち反応すんなや。……まあつまり、」

 

 平子の右手が伸ばされ、頭に乗る。

 

「君がえげつないのは、小さい頃から知っとったことや。今更そないなことで君を責めたりせえへん。大体、誰にも明かせん秘密を抱えたまま百年間、アイツらの近くで一人堪えとったのは事実やろ?」

 

 ぽんぽんと、子供をあやすかのように。

 

「君も十分苦しんだ、それでもうええ。あの時負けた俺等に、何も言えることはないんや」

「で、ですが……」

「あーもー! いい加減うっさいわ!」

「っ!?」

 

 今度は生易しい音はしなかった。

 ドゴッ! と脳天に落とされた踵落としにより顔面から、地面にめり込む勢いで突っ伏した。

 

「あんたホンマに面倒なくらい生真面目やな! もうええて言うとるやろ! うちらが気にしてへんのやからあんたも気にすんなや! それでもまだ言いたいことあるんやったら全部喋りィ! その度にうちが引っぱたいたる! 何しとんのや! さっさと起き……」

「いや待てひよ里」

「何やラブ!」

「……こいつ、意識あるか?」

「……え」

 

 拳西の一言に、蹴られた体勢からピクリともしない朔良に全員が一瞬固まる。直後、凄まじい勢いでリサが死覇装の襟首を引っ掴み、抱き起こす。その瞬間、ぴゅーっと噴き出す赤い液体。

 

「額! 額切れとる! ザックリいっとるで!」

「はあ!? 何で……ってここ石あるじゃねえか!」

「うわあ……こりゃ砂で隠れてたな。結構尖ってるし、砕けてんぞ」

「それどころじゃないでしょ! 女の子の顔に傷なんて!」

「ハッチ急ぎィ! 治療や! 朔良ちゃんの顔に傷でも残した日にゃ、喜助に何言われるか判らんで!」

「ハイデス!」

「……この程度で気絶するて……朔良脆いなァ……」

「何言うとんのやひよ里ィ! オマエのせいやぞコレ!」

「ハア!? うちはいつまでもぶつぶつ言うて暗い朔良に喝入れたっただけや!」

「だからて何も頭切るほどやるこたないやろ!」

「不可抗力や!」

「ウルセーぞオメーら! 治療の邪魔だ! 喧嘩すんならよそでやれ!」

「拳西の声の方がうるさーい」

「あ゛あ゛!?」

「……何かもう、収拾つかなくなってきたね」

「取り敢えず、少し離れて治療させようぜ」

「賛成や」

 

 

 

 ……こうして。

 なんやかんやとひと騒動ありつつも、朔良は無事(?)仮面の軍勢となった彼等と再会を果たし、和解することができた。互いに謝罪を受け入れ、朔良の方はひよ里からの踵落としで手打ちということに。

 そして朔良も此処で一護と共に、彼等と修行に励むと決めた。

 自らの、卍解の強化。その目的の為に。

 

 藍染と戦う――その為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー良かった……傷痕残らなくて」

「流石だなハッチ」

「恐縮デス」

「綺麗に消えとるわ、一安心やな。朔良カワイイもんな」

「どうもご心配をおかけしました……」

「にしても朔良、ホンマに美人になったな」

「え? あ、はい、それはどうも……?」

「昔からカワイイ()やったから見どころある思っとったけどな、その通りやった」

「ん……?」

「ちょっとリサ……?」

「地面に倒れて埃っぽくなったやろ。向こうに温泉あるんや。あたしが案内したる」

「はい……?」

「ついでに一緒に入ったるわ」

「え!? いや結構で……」

「遠慮しなや。ほな行くで」

「いや、ちょ……!? 此処に来た時みたいに引き摺らないで下さい!?」

「おい待てリサ!」

「それはダメ! 一線越える気!?」

「自重して下サイ!」

「大丈夫や。何もせえへん。見るだけや」

「「充分ヤバいって!」」

 

 ――結局。

 騒ぎを聞きつけた平子達が喧嘩途中ながらも駆け付け、久南白を除いた六人がかりで説得に当たり事なきを得た。

 しかしこれ以降、リサと朔良を二人きりにしないよう周囲が気遣うようになったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 あけましておめでとうございます! 白雪桜です。

 去年の内に投稿したかったものの、達成できませんでした……ので! 年明けのちょっと余裕がある間に書き上げてしまうことにしました! 無事投稿出来て我ながらほっとしてます(^^)
 実は大晦日まで出勤してまして……いや本当は休みなんですけど、いわゆる休日出勤で……。短時間でしたが、ちょっとグロッキー気味だった白雪桜です(-_-;) 明日まではのんびりします。

 今後もできる限り執筆していきたいと考えております。恐れ入りますが、温かい目で見守って頂ければ幸いです。
 今年の冬は寒いので、皆様どうかご自愛くださいませ。
 では。

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