周辺には雑草が一面に生え、白っぽい十字 の墓石が立ち並んでいる。
墓石と細い影と緑のコントラストが美しい。
間を縫って進んでいると、墓の前で立ち尽くしているラクダ色のローブを着た男性の後ろ姿が彼女の視界に入る。
親切な人なら声を掛けるだろうが、彼女にはそんな親切心も同情心も残っていない。
今回の件だって暇つぶし程度にしか彼女は考えていないだろう。
ひたすら北東へシルバーは進んでいく。墓地から少し離れたところに盗賊の砦に通じている階段がある。
階段を下りていって彼女は木製で2m前後の高さの扉に差し掛かった。
扉を勢いよく蹴り飛ばして開けると盗賊の男が片手で足りる程、出てきた。
藁が隅に山積みにされていて、酒瓶や樽、ランタンが乱雑に置いてある。
「敵襲だ!カモが来たぞ!」
盗賊の一人が叫び、さらに盗賊が影からわらわら様子を見にきている。
「あいつは女か?上玉がこんなところに一人で来るもんじゃねえぞ。犯されてえのか?」
もう一人の無精髭の盗賊はシルバーの顔を品定めするように見て言った。
そして距離を縮め、彼女の胸元を揉みしだき、
「貧相な胸してんなあ、」
台詞を残したコンマ2秒前にシルバーは無精髭のこめかみに銃口を突き付け、引き金を引く。
「遺言はこれでおしまいか?」
乾いた銃声が響き渡る。血が噴き出し倒れこむ死体の顔面を蹴り、言った。
「冥土の土産には貧相な胸でちょうどよかったかもな。」
ヘラヘラ笑い、最初に声を上げた盗賊の胸元を撃つ。
別の盗賊が激情して襲いかかるも拳銃で受け止め、空いている片手で短剣を手繰り刺した。
「あ、あ、あ、逃げろおおお!!」
最初のふざけた空気は恐怖で張りつめ、逃げるか殺されるかの瀬戸際に彼等は立たされている。
目に映る全ての敵に彼女は銃を乱射するも、1発だけ頭を掠めて外れる。
「腕が鈍ったな。」
舌打ちをして、煙草に火を付ける。
ふと、弾が外れ、まだ生きている盗賊が近づいてくる。
「お願いだ、もう何も悪さはしねえから見逃してくれ。」
突如、命乞いをし始めた。まだ若いザナン訛りの男だ。
シルバーは男の頭を踏みつけ、見下した目で見ている。
「どうでもいいよ、そんなの。」
頭を跳ね上げて銃を撃つ。声は低く感情は無い。血が跳ねて拳銃を汚した。
「おい、最初の威勢はどこに行った?私はまだ一歩もここから動いちゃいないぜ。」
空いた手で煙草を持ち、誰もいない部屋で銀髪は笑っている。
久々の命がけの射撃を楽しんでいるようだ。
そして残党の死骸を数えながら、薬莢が散らばり血の臭気と煙が立ち込める砦を歩き始める。
砦の中には小部屋が2つあった。どちらも扉は閉められている。
一番奥の扉を開けると40代前後の残党の男が一人、しゃがんでいた。
悟りきった顔でシルバーを見つめている。
「死ぬ間際に見る顔がべっぴんさんでよかった。」
男は何も抵抗せずに笑っている。抵抗したところで力量は目に見えているからなのか。
「どうも、少しは抵抗してくれないと面白くないんだけどな。」
シルバーは男の胸元を撃ち、吸殻を捨てた。倒れていく男を尻目にもう片方の部屋に進む。
手前の部屋には残党が一人だけ立っていた。
「命だけはどうか助けてくれ。」
彼は酷くおびえていた。これからどうなるか彼には察しがついている。
「命は、狙わないでやるよ。」
彼女は口元をゆがめて逞しい脚に銃口を向ける。
銃声と共に生暖かい血が垂れる。男は足元から崩れ壁に背を付けた。
苦痛で咽び泣きはじめる男の鳩尾を思いっきり蹴る。
一瞬白目を向き、呼吸が荒くなる。
「もういっそ、殺してくれ。」
男は息も絶え絶えに彼女の顔を見上げる。
「すまないが、私は約束は守る主義なんだ。」
鼻で笑ってシルバーは小部屋を去った。
このやり取りを最後の一人の盗賊は聞いていた。
樽と壁の影で小さくなって息を殺し、事が早く済んで自分が助かる事だけを願っている。
足音は近づいてきている。残党が隠れている場所に着々と。
「みーつけた。かくれんぼは楽しかった?」
耳元で彼女が囁く。銀の髪が残党の肩に触れる。
「あ、悪魔が。」
台詞を言い終わらないうちに彼女は残党を撃った。
砦を歩き回り、全ての盗賊を殺したか確認するとシルバーは階段を上がり、煙草に火をつけて夜空を見上げた。
気がつけば濃紺の星空は曇りかけていた。