銀の悪魔   作:suzumiya

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ヴェルニース

出発した頃には東で輝いていた太陽も西に傾きかけていた。

しかし、シルバーは気にもせず歩き続けているとヴェルニースに到着した。

視界の端にはトロッコの線路、詰まれた石ころがあちらこちらにあった。炭の臭いが微かにする。

店や民家が立ち並ぶ石畳の大通りでは熱狂的な様子で人が沢山集まって、演説するアルビノを囲んでいる。ザナンという国の皇子だ。

ザナンで彼女は半生を過ごし、数えきれないほどの人を射殺した。そして死刑囚になり運悪く脱国した国だ。

身柄を拘束され牢へぶち込まれる前、狙撃手を営んでいた頃、アルビノの皇子の抹殺依頼を引き受けていた事をシルバーは思い出した。

しかし、興味もなさそうに彼女は素通りした。

とりあえず食いっぱぐれないためにも稼ぐ手段を町の掲示板を見て参考にしよう。

シルバーが掲示板を探そうとしたところ、突然目の前を黒い人影が駆けていった。殺人鬼か。

あの演説よりは面白そうなので彼女は後をつけて人気のない通りへ出た。

濃い血の匂いが彼女の鼻をつくが慣れっこだと言わんばかりにすまし顔のままだ。

積み重なった赤レンガと街灯の下に、首の無い体と驚いた表情の男の生首、装備品が散らばっている。服装から考えて冒険者だろう。

遺品の中に風を帯びた短剣が鞘に仕舞われていた。ラーネイレの物と同じ物だ。

固定アーティファクトといって、物凄く貴重な物である。

自らの幸運に感謝しつつ、シルバーは例の短剣と金銭類を回収した。短剣は白い右手にしっくり収まっている。

試し切りも兼ねて討伐依頼を見つけよう。今度こそ掲示板を探して彼女は歩いた。

西の方に位置する雑貨屋の隣に掲示板はあった。色々なポスターでごった返している。

サラダが食べたいだとか護衛依頼だとか演奏してくれだとか、とにかく沢山あった中からどうにか目当ての物をシルバーは見つけだした。隣の雑貨屋の店主の依頼だ。

依頼の紙を受諾すると店主の元へワープした。魔法って素晴らしい。店内は洋服や装備、生活雑貨で溢れている。

シルバーの服装がみすぼらしいからなのか、店主は訝しげな様子で彼女をなめ回すように見てから声をかけた。

「そなたが冒険者か。依頼についてでおじゃるが、裏庭にモンスターが現れたのじゃ。全て討伐してくれれば報酬として1250gpと装備品を支払うでおじゃる。引き受けてくれるかのう?」

シルバーは首を縦に振った。

「どうもありがとう。早速裏庭に案内するのでついて来るでおじゃる。」

裏庭は歩いてすぐのところにあった。芝生が一面に広がり木々がまばらに生えていて、隅っこに申し訳程度の花が咲いている。

見渡すと二足歩行の犬の様な魔物、コボルトが3体、子供の様な体とそれに不釣り合いな中年の顔をした魔物のゴブリンが4体、どこからか紛れ込んだのかパンクな服の男とカラフルな衣装の大道芸人が居る。

魔物達は彼女に目もくれず木の実を齧ったり酒を飲んだりしている。

シルバーは気配を消して魔物の背後に近づき、そしてひと思いにコボルトの背中を刺す。

彼女に気づいたゴブリンが斧で叩き切ろうとしたが彼女はひょいとかわした。

ゴブリンの首を短剣で切り裂き血が吹き出てシルバーの手や手首を濡らす。付いた血を振り払いさっきのコボルトにとどめを刺してゴブリンを蹴り飛ばした。

彼女は欠伸を噛み殺しゆらゆら魔物の残党に向かった。コボルトとゴブリンが2体ずつ居る。

魔物達は一斉に襲いかかってきた。彼女は意図的に囲まれるように群れに割り込みのらりくらりと攻撃を短剣で受け止めたり避けたりしている。

傍から見れば遊んでいるようにも見える。突然彼女は短剣を手慣れた様子で振り回した。青い剣閃は紐を操っているようだ。

彼女の灰色のボロ服に赤い染みが付き、バタバタと魔物が倒れていく中、急所を外れた魔物が逃げて行った。

「銃があれば楽なんだけどな」

面倒臭そうにシルバーは魔物を早歩きで追いかけた。徒歩にも関わらず魔物が駆けていくよりも早く、すぐに追いついて背中を刺した。

どこかから小石が飛んできた。かわして小石が飛んできた先を目で追うと大道芸人が居て、逃げながら小石を投げつけ笛を吹いている。

小石は1回も当たらず瞬く間に彼女は大道芸人に近づき何回か連続で刺した。大道芸人は倒れカラフルな衣装が赤く染まっていった。濃い化粧で死に顔はよくわからない。

傷口を抉るかのように死体を踏んで最後の一人を探した。

それにしても短剣を使うのは何年振りだろうか、狙撃手をやる前はザナンの軍隊に居たがそこで使ったきりじゃないか。

シルバーは欠伸をして空を見上げた。血の匂いとそよ風が彼女を撫でて銀の髪をなびかせた。

 

【挿絵表示】

 

伸びをして最後の一人、パンクな服の男を見つけだし、抵抗させる隙も無く、喉に短剣を刺した。

倒れた遺体に彼女が目線をやると腰にホルスターが見えた。

シルバーの口角が上がる。そしてホルスターから拳銃を抜き弾が入っているか確認して、服のポケットにしまいこんだ。

喉の渇きを癒そうと彼女は近くの木から一つ林檎をもぎ取って口に運んだ。

なんであの時、水を汲んで飲んでしまったのか。全て終わりになったのに。

そんな考えが彼女の頭をよぎり苛々と齧りかけの林檎を放り投げさせた。


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