デジタルワールドの美味しい物語。   作:へりこにあん

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汚物達とのバーベキューの物語。

 

何ともでかい壁だ、真っ白なよくわからんが綺麗な石でできた壁。中は真ん中が高くなっている地形みたいで、二重三重になっている城壁がよく見える。真ん中には礼拝堂みたいな建物がある。確かここは天使達の集まる国だったか、俺たちのいる場所とは真逆の場所だ。

 

ただまぁ、こういう囲ってる国ほど俺達の目当てのゴミ捨て場は外にあって色々やりやすい。この中を綺麗に保つためにゴミは全部外に集めているんだろう。かなりの広さがある。二度場所を変えてるが端が見えない。要らないものはゴミとしてる可能性もある、気に入らない。

 

「おいレアモン、ここで止まれ!」

 

俺の下でどろどろの腐ったヘドロみたいな体を引きずる失敗サイボーグは俺の呼びかけにも答えず止まらない。むしろ速度を上げてるぐらいでその背中に組んだ荷台がみしみしと音を立ててる。

 

「この、止まれっつってんだろうが!」

 

一発小突いてやるとレアモンは一瞬ふらっとした後でレアモンと似たヘドロの山に突っ込んで止まった。全く以って反応の鈍い奴だ、脳味噌まで腐りかけてたのは伊達じゃない、途中の町でなけなしの金で脳味噌だけでもちゃんとサイボーグ化してもらってよかった。サイボーグ化とか一部機械化するのは不具合が起きると本当に辛い。飛べなくなったり撃てなくなったりで済めばいいが体に変な指令が出て痙攣したりする。

 

「アニキ、やっぱりこいつこのままだと楽園に行く前に脳味噌おっ死んじまうんじゃねぇかなぁ、残ってる部分サイボーグにしたけど腐った部分が戻ったわけじゃないし」

 

黄色いう〇こみたいな野郎がそんなことを言う。それを聞いて緑色のナメクジを趣味悪くしたような化け物とその色違いの黄色いのもそうだそうだと言ってくる。

 

「うっせぇぞスカモン!ヌメモン!ゲレモン!その金をどう工面するってんだこのゴミ共!」

 

俺が一発ずつ小突いてやるとやっと馬鹿どもは黙った。レアモンの再手術だって一体どれだけの金がかかったっていうのか、俺がゴミ捨て場から金目の物見つけて売って、一体いくつの町や小国を練り歩いたことか。まぁ足になったのは俺じゃなくてレアモンなんだけども。

 

「アニキだってゴミじゃねーか!ゴミ箱入ってさ!」

 

「うっせぇ油虫!そのテカテカの羽にう〇こ塗り付けんぞ!」

 

ゴキモンって名前の黒光りするやつにそう言ってやるとへいへいへいと頷いてその場のゴミを漁り始める。

 

「ここらへんは新しいゴミみてぇだからな、もしかしたら食い物も混じってあるかもしんねぇ!よく見て探せ!」

 

おーと馬鹿どもが威勢よく返事をする。まぁこいつらも実際わかってんだ。金がねぇと旅はきつい。俺達みたいな弱っちいデジモンは狩りして食って行こうとしてもそうそう狩れねぇ。基本的に町に入るのすら嫌われちまう。

 

ゴミ箱一つにう〇こ一つ緑と黄色のナメクジが一匹ずつに油虫が一匹、そして死にぞこないのヘドロのサイボーグが一つ。みんなまとめて汚物だなんだと言われるデジモンだ、嫌われるし疎まれるしどんだけ清潔にしてようがそれは変わらない。ここに至っては街の中に入ることすら拒否された、汚物に尊厳はねぇと言わんばかりだ。

 

「アニキ、良いもん見っけた!金属だ!」

 

小一時間経つとスカモンが何かを見つけて俺のところに持ってきた。どうやら食器の類らしいそれを適当にボロ布で拭いてみる。機械のメンテナンスなんかもできなきゃいけなかったから金属系や機械系にはそこそこ強い。貴金属に強くなったのは汚物になってからだけど。

 

「黒ずんじゃいるがこいつぁ銀だな、悪くねぇ。よくやったじゃねぇか」

 

鍋を取り出してレアモンからそこそこ距離を取る。あいつはガスが常に出てるから引火すると死んじまう可能性もある。少し離れた場所で容器に入った廃油に火をつけてその上で水を沸かす、鍋の中の水も前のところで買った水だ。綺麗な水は汲めればいいけどそうそう手に入らない、結果的に買うことになる。

 

沸いた湯の中に粉を入れて食器を放り込む。これで銀が元通りになる、不思議だが粉自体は割とありふれたものだ。食用にすらなっている。

 

「アニキ、こっちにも金属のやつ見っけた!」

 

さらに一時間ぐらい経つとヌメモンやゲレモンも銀らしきものを見つけてきた。資産家が一斉に処分したのかもしれないし、こういう類のごみが集められるゴミ捨て場だったのかもしれない。

 

「お前らもいいペースじゃねぇか。しかし……もっと再利用とかすればいいのによ、もったいねぇ。食物ならともかく銀製品なんて安くもねぇだろうに」

 

俺達は旅しながらいろんなと場所のゴミ捨て場やら裏町やら、場合によっちゃ街の外で野宿やらさせてもらってたがこれだけゴミの中から金になるものが見つかるのも珍しい。

 

そんな風に思ってると使えそうな少し曲がった鉄の棒を見つけた。先端には曲がった標識がついていて、それも塗装された鉄の板らしい。レアモンの背中の荷台の補強に使えるかもしれない。

 

その鉄の棒があった下から車輪が覗いているのが見えた、確かゴムをつけて使うタイヤとかいうタイプのやつ。パッと周りを見る限りゴムらしいものはないがまぁ使えるだろう。

 

「おいゴキモン!こっち来い!作業が楽になるぞ!」

 

レアモンの荷台に車輪をつけて背中に乗せずに後ろにつければ大分負担も減る筈だ。幸い材料はゴロゴロ転がってやがる。

 

「ゴキモン!ゴキモン!おいゲレモン呼んでこ……いねぇのか、じゃあ……」

 

周りを見ると誰もいやしない。全くあいつらはどこに行ったんだか、まぁ熱心に探しに行ったんだろうが、迷子になりそうな勢いで離れていかれちゃ困る。

 

「レアモン、ここで待ってろよ。な?」

 

レアモンが小さく顔を動かすと、機械が擦れ合う音がかなり大きくする。首のパーツが錆びてきてやがる、後で油を注してやんなきゃいけないだろう。

 

全くしょうがない奴らだと探しに行くと、集まって騒いでいるバカ共を簡単に見つけることができた。

 

「おい!サボって何やってやがる!」

 

俺の声を聞いても何か囲んでたものを見ては俺の方を見て、囲んでたものを見ては俺の方を見てとかなり困惑しているようだ。何か珍しいものでも見つけたのか、

 

それとも大きすぎて運ぶ手段でもなかったか?

 

囲んでたものを見ると俺はつい真顔になった。

 

「こいつ、死にかけてねぇか?」

 

黒い影みたいなデジモン。目玉が幾つも付いてなかったら生き物っぽい影かシミかにしか見えねぇようなデジモン。明らかにその目玉に力はなく、ほとんど閉じかけているのを無理やり開けているように見える。

 

「そうなんだよアニキ!」

 

「助けてぇんだよアニキ!」

 

「どうすりゃいいんだよアニキ!」

 

「触れねぇんだよアニキ!」

 

「お前ら落ち着け!そして黙れ!」

 

騒ぐバカ共を黙らせてまずは本当に触れないか確かめる。触ろうとしても確かにその下のゴミしか触れない、本当に影そのものみたいだ。

 

「ゴキモン!レアモンと荷物全部持って来い!」

 

こいつが影でも何かの上に乗りさえすればそれごと移動はできるかもしれない、触ろうとしても触れないやつだ、揺れてもそんなにダメージにはなるまい。

 

「おい、聞こえてるか。聞こえてたら瞬きでもなんでもいい、返事しろ」

 

俺が呼びかけると目玉が一つ瞬きする。それを見ておぉとどよめくゴミ共を睨みつけてもう一回そいつに視線を向ける。

 

「今助けるからな、俺達にできることはあるか?あるなら瞬き一つ、ないなら二つしてくれ」

 

瞬きは一つ。とりあえずできることはあるらしい。

 

「怪我したって感じじゃねぇな、弱ってるって感じか?」

 

瞬き一つ。

 

「普通にものを食ったり飲んだりはできるか?」

 

瞬き二つ、やっぱり実体のないタイプらしい。実体のないのに、できることがあるってことは……

 

「お前は寄生するタイプのやつで、俺達の誰かに寄生して栄養を分けてもらえれば助かるかもしれない。そういうことか?」

 

瞬き一つ。

 

「よし、俺に寄生しろ。触ってればできるか?」

 

瞬き一つ。俺はすぐに影の上に手を置く。すると俺の影の中に溶け込むようにしてその姿が消えた。と同時に急激に力が抜けていく。

 

このバカ共にやらせなくて本当に良かった。ゴミでも俺は一応完全体、こいつらとの体力の差は比べるべくもない。

 

「あ、り、が、と、う」

 

俺の口が勝手に動いてそんな言葉を作る。

 

「礼なんかしなくていいぜ!アニキは助ける代わりにいっぱい働かせてくるからな!」

 

「本当に人使い荒いもんなアニキ」

 

「俺もよぉく怒られるもんな。手がないんだから引きずらずに運ぶなんて無理だっての」

 

「一回廃材で貝殻作って俺の背中にくっ付けてなんで進化しねぇってキレたこともあったぞ」

 

「それ言うなら俺もだ、食い方が汚ぇって怒られる」

 

「スカモンの食い方は本当に汚ぇから仕方ねぇよ、食ってる分よりこぼしてる方が多いだろ」

 

バカ共が好き勝手言い始めるが力が抜けすぎてまともに怒鳴ってやることもできない。後で殴ってやろうかと思ってるとゴキモンがレアモンを連れて走って来た。こっちだこっちと手を振るバカ共に突っ込んで跳ね飛ばしてその動きを止める。ざまぁみろ。

 

「アニキ!連れて来たぜ!」

 

「おぅ、よくやった。とりあえず食物よこせ、こいつに吸い取られて死ぬほど腹減った」

 

「何言ってんだアニキ、そいつに喰わせなきゃ意味ねぇじゃねぇか?頭の中までゴミになったのか?」

 

「察せ油虫!こいつは俺に寄生したんだ、俺の食った分から栄養取るようになってんだよ」

 

ゴキモンは今ひとつよくわかってなさそうな顔してなけなしの食料を荷台から降ろした。

 

バカ野郎めと悪態を吐いて食おうとしたらスカモンに顔面殴られた。

 

「なんでアニキが食うんだよ!」

 

「お前は俺にこいつが寄生した一部始終見てただろうがバカう○こ!」

 

おい、今の流れならわからないふりしてアニキに一撃喰らわせられるぞとか話し出したヌメモンとゲレモンを睨みつけて、今度こそと乾燥させた小麦の塊を口に含み、唾液でふやかしながら食う。正直まずい。粥にすれば良かったが鍋も使ってるし仕方ない。

 

「丁度いいしお前らも飯にすんぞ、ほれ、デジタケぐらいなら生えてんだろ、探して来い」

 

やっぱり人使い荒いだなんだと文句を言いながらバカ共が散っていく。自分もと動き出すレアモンを引きずって止めて鍋の中身を空ける。洗って使いたいとこだが水を買うのも金がかかるから布でふき取るぐらいにしておく。まだ何もしないよりはマシだ。

 

俺の影が形を変えて目の前にさっきの姿を作る、どうやら俺の影と同化したらしい、心なしか丸くなったのは栄養とりすぎて太りでもしたのかもしれない。

 

「なんだ?手伝いたいって感じか?」

 

瞬き一つ、手伝いたいみたいだ。

 

「でもお前実体ないのに何もできることねぇだろ、それにさっきまで死にかけてたんだ、元気になってからでいいんだそういうのは……そういや帰るとこはあんのか?」

 

帰るとこがあるのならその方がいい、世の中には好んで寄生デジモンを受け入れて痩せようとかする金持ちもいるらしいから、そういうこともあるだろう。

 

瞬き二つ、ないらしい。まぁ寄生デジモンもやっぱり嫌われやすいデジモンだ。

 

「おぅ、悪いこと聞いた……なんかお前、薄くなってないか?」

 

丸く、色も薄くなってきているように見える。俺が寄生対象として良くなかったのかもしれないのかと思って慌ててそう聞いてみるがそうじゃないらしい。

 

となると、後は死にかけたときによく起こることと言ったらあれだ、退化と進化。

 

「退化すんのか?」

 

瞬き二つ。

 

「進化すんのか?」

 

瞬き一つ。

 

そして白くなった影が実体を持って立ち上がり、卵に似た形を組んで行ったかと思うと俺の影の中から抜けて白い卵になり、その卵がびしびしとひび割れて翼みたいな耳みたいなのが二つ出て、卵の中からピンクと白のヌイグルミみたいなのが出てきた。

 

「お前わりと可愛い感じになるのな、びっくりしたぞ」

 

そう声をかけるとぱたぱたと耳か翼かわからんものを動かして俺に向けて飛んで張り付いた。俺はゴミだから手になんかつくぞと耳みたいなのを引っ張って剥がす。思ったよりべたつきが付いてない、肌がツルスベっとしているからか。

 

「結局言葉は話せねぇのか?」

 

俺が聞くと首を縦に振った後、でも物は持てると言うように足元のゴミを一つ持ち上げた。じゃあデジタケでも取ってきてもらうかと思っていると、その持ち上げた紙クズからキラリと光るものが落ちてきたのを見つけた。

 

なんだと思って摘み上げるとどうやらそれは金のリングに宝石もはめ込まれたもので、かなりの大金になるのは間違いないものだった。

 

見つけたこいつは、お手柄だやったーとでも言うようにピョンピョン跳ね回っていたが、流石にこれは綺麗すぎるし、歪んでもなく傷ついてもない、年期は入っているがむしろ大事にされていたように見える。それが何かの紙の中に混ざっちまって一緒に捨てちまったんだろう。

 

「こいつぁ、多分間違えて捨てちまったやつだろうな。明日にでも街に持ってくことにするぞ。イニシャルまで彫られてんだ、なくしたやつは困ってんだろ。よく見つけたな」

 

そいつはこくこく頷いて、俺の手から受け取ると他のやつとは別の場所に置いた。誰かが大事にしていたものだと言ったからか、一度置いた場所のごみを退けて、木の板みたいなのを持って来て、ハンカチみたいな布を敷いてそこの上に改めて置いた。

 

それから大体一週間、ルミナモンというらしいそいつはすっかり俺の近くが定位置になりつつある。頭のわっかは発光させることができるみたいで集合するときに非常に都合がいいし、スカモン達より手先も器用だったから、仕分けだったり分解だったりを手伝ってもらった。

 

「そろそろここともお別れだ。積むもん積んだな?」

 

おぉと返事が返ってくる。大分長居しちまったが売れそうなものもたくさん集めたし、荷台も新調、次の街にサイボーグ系の技術があればレアモンももう少しマシにしてやれる。

 

「なぁ、ルミナモン、お前はこのまま俺達に付いてきていいのか?どこ行っても俺達は嫌われるぞ?」

 

一週間の内に何度か聞いたがやっぱりルミナモンは首を振る。これだけまだ使えそうなものがゴミとして出るぐらい物が溢れている国ならルミナモンは豊かな生活が送れるといくら言っても話を聞かない。

 

「……ついて来たくなったらいつでも言えよ?よし、バカ共!出発だ!」

 

俺が声をかけるとおぉとバカ共から返事がくる。じゃあ行くかと荷車の上だったり、レアモンの背中の上だったりに登る。俺もよじ登るとルミナモンも一緒に登り、俺の頭の上に乗る。

 

「降りろ」

 

頭の上を手で払うとルミナモンはふわっと浮かび上がって少し頭の上に着地しようとするかの様に旋回した後、何かを見つけたらしく後ろを指差しながら俺の頭を叩き始めた。

 

なんだなんだとレアモンを止めて振り返ると国の方から茶色っぽい鎧のデジモンがこちらに向けて手を振っていた。

 

「おーい、君達。少しだけいいかな?」

 

獣っぽい形の鎧だが、背中には翼が生えていて天使の様にも見える。国の中のデジモンか、ゴミを持ってたらまずかったのだろうか。

 

「私はドゥフトモン。君達にお礼を言いに来たんだ」

 

何かしたかと考えると指輪のことぐらいしか思い当たらない。それよりもなんか聞いた名前な気がする。まぁ、種族の名前だ、他にいてもおかしくはないのかもしれないが。

 

「君達のおかげで私の友人は救われたんだ。盗まれ、犯人は捕まったものの返ってこず、もう二度と手元には戻ってこないだろうと思っていたところに君達が指輪を届けてくれた。彼女はとても嬉しそうだったよ」

 

俺の手を握って振り回すドゥフトモンに俺は戸惑う。天使じゃなくても聖騎士となそんな感じのデジモンだろうに汚物デジモンの俺の手を躊躇なく握ってきている。こんなの初めてだ。そういう感じの種族に触るのは久しぶりだ。

 

「本当にありがとう、君みたいな素晴らしいデジモンに会える機会はそうない。嬉しく思うよ」

 

あまりにべた褒めされるから軽く後ずさりすると、ずずいと後ずさりしたよりも距離を詰めてくる。

 

「いや、見つけたのは俺じゃなくてこいつだから、こいつに言ってくれ」

 

俺がルミナモンを指差すと、ルミナモンは身振り手振りで倒れてみたり、起き上がったり、なんだりした後に俺を指差す。

 

「君に恩返ししたくて頑張ったし、持って行く様に決めたのは君だって言ってるね。そう照れなくていいんだよ」

 

いやいや待てと言おうとするとスカモンが出てきて喚き出す。

 

「そうだそうだ!俺達のアニキはすげぇんだからな!俺達みーんな行くとこないのをアニキが拾ってくれてなぁ!」

 

「おい!」

 

「そうそう、レアモンだって暴走したくないのにしてたのをアニキが止めてなぁ!」

 

「あれは俺の方に突っ込んできたからだって何度も……」

 

「俺もゴキモンに進化した途端に追い出されて盗みなんかもやったがアニキが全部代わりに代金払ってくれて一緒に謝って殴られてくれたんだぜ?」

 

「それもお前をこき使う為の先行投資ってやつで……」

 

「それで金なくなって、貯めたと思ったらレアモンがやばいってことでレアモンの為に使うのに一切迷いもしねぇんだ!」

 

「足がなくなったら困るんだって……」

 

そして最後にレアモンがブオォと一声鳴く。

 

「お前に至っちゃ何言ってるかもわかんねぇぞポンコツがぁっ!」

 

スカモン、ヌメモン、ゴキモン、ゲレモンと叫んだ順に一発ずつ殴り、ルミナモンにもデコピンして、レアモンには体の上で一回ジャンプしてやる。

 

そしてドゥフトモンに向き直るとドゥフトモンはフフフと口元に手を当てて笑っていた。

 

「やっぱり君はいい男だよ。一応入国審査官からは二体と聞いていてね、こんなものを用意したんだ。残念ながら出来合い品で君達のサイズに合わせることはできていないが、チェーンも用意したから首にかけてくれるといいと思う」

 

無理矢理手に押し付けられるもののありがたいが要らないと俺が言うと、ルミナモンの首に俺に渡したのと同じ銀色のリングのついたチェーンをかけて、長さを調節したと思ったら余ったところの鎖を二本の指でいとも容易く引き千切る。裁縫糸を切るみたいな感じでルミナモンやスカモン達は気づいてもない。ただありがとうありがとうと口々にお礼を言うだけだ。

 

手の中のチェーンを見るがこれは銀か、切れなくはない、切れなくはないがルミナモンに一切衝撃を伝えずにできるかと言われたらできるわけがない。俺は汚物デジモンだが完全体の中で特別非力ってほど非力じゃない、究極体か、にしてもかなりこいつは強い。

 

「いいね。淑女らしさが一段と上がったよ、君達もそう思うだろ?」

 

ルミナモンにやんややんやとバカ共が騒ぎ立て、レアモンは自分にも見せろと鳴いて抗議する。全く、こいつの正体もわからないのに呑気なもんだ。明らかに尋常のデジモンじゃない。

 

聖騎士か大天使かで、強い、そんなの三大天使かロイヤルナイツか……そう考えてロイヤルナイツの一体にドゥフトモンがいたのを思い出す。こいつ、ロイヤルナイツじゃねぇか。

 

そして改めてリングを見るとこっちは銀じゃない、プラチナだ。あのリングについてた宝石は希少なグリーンマラカイトではあるが小粒もいいところ、プラチナのリングの方が値段は上だ。こんなの二つあればそこそこの財産になるし、なんなら、レアモンの体を全身きっちりサイボーグにすることだってできる。

 

「さすがにお礼にしても高すぎるだろ。百bit拾ってもらって一万bit渡すような事をするのは意味がわからない」

 

ドゥフトモンをバカ共とルミナモンから引き離してそう聞くと、確かにそうだと頷いた。

 

「でもね、あの指輪は彼女や私にとっては物としての価値以上に思い出の品としての価値が高いんだ。幾ら長く生きることができても三百年も前のことはきっかけがないとなかなか思い出せなくてね、あの指輪はそのきっかけになるものなんだよ。金ではもう手に入らないものだ」

 

ロイヤルナイツの立場からしたらこんな金ははした金って事でもあるんだろう。そしてきっとその彼女とか呼ばれるデジモンに取っても金は惜しむものじゃないらしい。

 

「それともう一つ職業上の理由でそれは持っていてくれた方が有難い。それがあれば私は大まかな位置が知れる」

 

「天下のロイヤルナイツがちびっこをストーキングかよ」

 

「ルミナモンは特殊なデジモンだからね。触られただけで幸運が舞い込むデジモン。例えば穴だらけのテロ計画や異世界へのゲートを開くとか、そういった危険で半ば博打の様なものをルミナモンは博打ではないものとする事ができる。ね、危険だろう?」

 

少し振り返るとルミナモンがくるっと回ったりしながら指輪を見せびらかし、バカ共がやんややんやと喝采している。とてもそんな能力を持っている様には思えない。

 

「それに君もだよ。ガーべモン、君の心がルミナモンを産み出した、ルミナモンを生産できるデジモンと考えられたら君も狙われる可能性はゼロじゃない」

 

「……いつから見てたんだよ。それに、俺達はルミナモンに進化したすぐ後に指輪を拾ってんだ。見てたなら何故来なかった?さっきのは作り話か?」

 

「彼女に呼び出されて向かったら偶然君達がシェィドモンを助けようとしているのを見かけてね。シェィドモン自体非常に危険なデジモンだ、本人に罪はないが……宿主の精神の悪いところを反映してしまう性質の所為で悪の権化の様になっていく。殺そうかどうか判断を迷っていたらルミナモンに進化したものだから驚いたよ。危険ではあるがマーキングに使えそうな物も持ってなかったし、その気になれば君達の足取りを辿ることも容易いからと一旦保留して私は私情を優先させた。正直君達を観察しながらも頭の中は指輪のことで一杯だったんだよ」

 

そんな都合のいい事があるのか。流石におかしいだろという目を向けるとドゥフトモンはだから危険なんだよと言う。

 

「ここで、こうしてお礼を受け取る幸運に恵まれたのは遡れば私が指輪のことで頭がいっぱいになって判断を躊躇していたりしたからだ。しかしその時ルミナモンはシェィドモンだった、ルミナモンのもたらす幸運は時を超えて、因果をねじ曲げるのかもしれない。もちろん、その分誰かが不幸になるという意味じゃない、例えば元々は一ヶ月前に解決するはずだった指輪の紛失が、全て一ヶ月後にずらされて君達に幸運をもたらしたのかもしれないという事だ。強いて不幸になったデジモンを挙げるとすればそれはロイヤルナイツに尋問される事になったコソ泥ぐらいだ」

 

そうなると確かにルミナモンの能力はすごい力を持っている事になる。本来はロイヤルナイツに摘発されるはずだったのを捻じ曲げるとかもあり得るのだろうし、触った相手の幸運の為にさっきドゥフトモンが言ったようなスケールの大きすぎる事が成功してしまうかもしれない。

 

「……ルミナモンをロイヤルナイツで保護するってのはできないのか?」

 

「できるよ。私でもいいけど……クレニアムモンがいいかな、守りに長けているし、居所も安定している。ただ、君達みんながそれを望むならね?ここに私が来た、強引にでも保護しようとする様なロイヤルナイツだっているだろうに私が来た。ルミナモンが触れた君の所に。それは意味があるんじゃないかと思うんだよ、そう思わないかい?」

 

ドゥフトモンが俺の頭の上に視線を向ける、つられて俺も上を見上げるとルミナモンが顔面に着地し、後ろからスカモンが、左右からヌメモンとゲレモンがぶつかってくる。

 

「アニキはわかってねーよ。保護されても幸せかもしれねぇけどアニキといた方が幸せなんだよルミナモンも、俺達もさぁ、アニキのそういうとこ俺どうかと思うんだ」

 

ゴキモンがそんな事を言いながら隙間からビスビス殴ってくる。

 

「どうやら決まったみたいだね。ところで君達は肉と魚だったらどっちが好きかな?」

 

俺が馬鹿共を蹴散らしている様子を眺めながらそんなことを言う。それに馬鹿共が一斉に肉と答えるとドゥフトモンはよろしいと答え、ちょっぴり胸を張った。

 

「ロイヤルナイツが一体ドゥフトモンから君達へ、個人的な感謝と友好のあかしにバーベキューを準備させてもらいたい。出発は一日送らせてもらうことになるけど、どうかな?」

 

俺が断ろうとする前に口をルミナモンが塞ぎ、馬鹿共が一斉に喜びの雄叫びを上げる。ここまで喜ばれたらもう俺だって流石に止めてやるわけにはいかない。

 

あれよあれよという間に準備が始まり、転がっている看板とかの中からでかいのを探して表面を削ったり掃除したりして鉄板を用意し、石を拾って窯を組み立てたり。ドゥフトモンの指示の元で汚物デジモンが生き生きと動き回るのは不思議な気持ち悪さすらある。こいつらこんなにできるやつらだったか?そして俺も手伝おうとするとドゥフトモンに止められ、馬鹿共に止められ、ルミナモンに止められ、レアモンが叫び声をあげだす。

 

夜になる頃にはすっかり準備も整い、ドゥフトモンが大量の食糧を持ってくる。余ったら持っていくといいと言いながらロイヤルナイツであるドゥフトモン自らが火を起こし、肉を焼き野菜を焼き、果てはパエリアを作り出す。

 

陶器の皿に肉だ野菜だと彩りよく盛って一体ずつに差し出すその姿に威厳は一切ない。生まれたばかりの頃とか汚物になる前に向けられて以来の気安い優しさ。

 

「……ありがとよ」

 

俺がドゥフトモンにそう言うとルミナモンが俺の口元に肉を無理やり突きつけて食わせようとして来る。仕方ないからその肉を食ってルミナモンにもありがとうと言えば急に上機嫌になる。感謝されたかったらしい。

 

そんな感じで少し経ち、それなりの量を詰め込んだところでドゥフトモンの手から箸だトングだといったものを奪う。

 

「お前食ってないだろ。ここからは食う側に回れよ」

 

「……ありがとう。でもパエリアだけは私が見よう、焦げ付かせてしまうと台無しになるからね」

 

馬鹿共は美味い美味いと言いながら食い、ありがとうありがとうと盛ってやるたびに言う。それをドゥフトモンはじーっと見ている、なかなか気持ち悪いしさっさと食えよと思う。

 

「肉が冷めちまうぞ」

 

そう言いながら新しい肉を追加してやる。古いのから食って全部ちょっと冷めた感じで食うのは少しだけ残念だ。

 

「気遣いありがとう、ただ、嬉しいし楽しくてね。つい眺めてしまった」

 

何が嬉しいのかわからないと俺といつの間にかに俺の頭の上にいたルミナモンが首を傾げるとドゥフトモンは楽しそうに話し出した。

 

「立場上憎まれ口を叩かれることも多くてね。なんでもっと早く来なかったとか、被害をもっと減らせなかったのかとか、完璧にやっても当然だと言われることも多い。それを不満に思うわけじゃないが、君達は小さなことでもすぐ喜んで、ありがとうと言ってくれる。それがとても嬉しいんだ」

 

天下のロイヤルナイツが当たり前に感謝されるだけで喜ぶとか一体どんな状況にいればそうなるんだか。

 

「いつもありがとうな」

 

俺が言うとドゥフトモンが一瞬キョトンとなり、その後で無理してそんなこと言わなくていいよと笑い出す。

 

「おい馬鹿共!もう一回ドゥフトモンに感謝しとけよ!」

 

「パエリアできたのかいアニキ!」

 

「マジで!パエリア楽しみ!」

 

「パーエリア!パーエリア!」

 

パエリアコールをしだす馬鹿共に煩いぞ黙れと一喝する。

 

「ロイヤルナイツってのは国とか関係なく首突っ込んでくれやがる!そのおかげで旅してるデジモン相手だからとアコギ過ぎるやり口でやってる奴らも野盗みたいな奴らも色々と牽制されてんだ!」

 

アニキ、よくわかんねーという声が全員から帰ってくる。

 

「つまりだ、ドゥフトモン達のおかげで俺達はまともに旅する事が出来てるってことだ馬鹿共!感謝しやがれ!」

 

ありがとうありがとうと馬鹿共が繰り返し、ドゥフトモンコールを始める。それをぽかーんと見ていたドゥフトモンは俺と目が合うと少し恥ずかしそうに頬を掻いた。

 

「なんか催促したみたいになったね」

 

「いいだろ、催促したって。あいつらが言われたから感謝してるのは確かだけどよ、嘘言ってるわけでもねぇんだ。気分悪いか?」

 

俺が言うとルミナモンもドゥフトモンの前でぶんぶんと腕を振ったりしながら何やらドゥフトモンに伝え出す。大方お陰で俺達に会えたとか、そんなとこだろう。

 

「いや、最高だね。これがルミナモンの力かと少し戦慄してるよ。君達に会ったのが私だったのは意味があった。私がルミナモンに触れたから、この素敵な出会いをくれたんだろう」

 

ドゥフトモンがおもむろに立ち上がり、パエリアの鍋に手をかける。

 

「さぁ、できたよ!お待ちかねのパエリアだ!」

 

ドゥフトモンコールが一気にパエリアコールに変わる。その様に俺とドゥフトモンは苦笑しながらパエリアを皿に盛っていく。すでにできているものだからドゥフトモンも俺も含めて全員で談笑しながらパエリアを食う。

 

ただ楽しく、ただ美味く。俺達の囲むバーベキューにあるのはそれだけだった。


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