なんだかマンネリになってきたな、そう思う俺の視線の先には俺の家がある。
ところどころにゴミが落ちてる荒野の中心部、円形にゴミが落ちていないエリアにある俺の家はもはや城と言った方がいいかもしれない規模だがあくまで俺にとってはただの家だ。ヒマだから拾ったゴミを使ってごく潰しの相棒と面白おかしくやってみたらなんだか一つのアートみたいな感じになってしまっただけだ。ちまたでは化け物が住んでいるとか言われているが俺みたいな操り人形ぐらいしか住んでないのに何を言ってるんだかわからない。
「帰ったぞごく潰し!」
俺が呼ぶとてっぺん近くの赤い縁取りの丸窓から紫銀の暗黒騎士が転がり落ちるように降りてきた、というか転がり落ちた。せめて悲鳴の一つでも上げればいいのに必死に声を出さないように押さえている感じが何とも痛々しくて残念に思える。あれでロイヤルナイツの一体の名前が種族名に入っているんだから世の中は不思議だ。
「お、おかえり・・・ピノッキモン」
「わざわざ出迎えにくんなって言ってんだろが、まったくどんくせぇ」
どんくさいくせに俺が投げつけたビニール袋は簡単にキャッチする。俺もそうだがこの馬鹿野郎もやっぱり腐っても究極体ということなんだろう、俺は持ってくるだけで重労働だったのに軽々と持ち上げて立ち上がるし、まぁいくら力があっても相棒は基本的にただのごく潰しなんだけど気に入らない。
七色に塗った歪んだ鉄骨の階段を上がって中身をくりぬいてすかすかにした元々は重厚な木の扉を開けて中に入る。我が家ながら何とも混沌とした内装だ、俺が適当に組み合わせたり貼り付けたり打ち込んだりしたからって言うのもあるが相棒の色彩感覚がお伽噺みたいな鮮やかな色だらけなせいがほとんどだ。
「でも・・・私、本当何の役にも立たないし・・・せめて、何かやれたらなぁって・・・」
でかい騎士がうじうじしているところを見せてどうしたいのか。というかしゃがんでいても俺よりもでかいのが本当ムカついてくる。
「何かしたいってんならとりあえず縮め、だから家がこんなでかくなんだよ」
「ご、ごめんなさい・・・」
骨組みを作ったのは八割方俺だから八つ当たりなわけだけど反論しようとしないこいつも悪い。もう少し自己主張しても俺はいいと思う。それだけの力がある、だがこいつは自信も勇気も怒りも持たないかのような聖人君子ぶりだ。カオスデュークモンといえばその名前だけで畏敬の念を抱かせるほどの種族だ、だけどこいつは図体の小さな俺よりもよっぽど小心者で他人と関わりたがらない。
「あーもう、そうすぐへこむな。ほら、ペンキ買ってきたんだから塗ってないところ塗るぞ」
このゴミ以外何もない荒野は逆に言えばゴミだけはある。でもペンキとか色を塗れるような都合がいいものはほとんどないしあっても腐ってたり乾いてたり使えないから別に用意するしかない、あくまで日用品とかを買いに行くついでだけど。こいつはこれぐらいしかやることが無いんだからペンキ分ぐらいは余分に稼いでやって買ってきてやるぐらいはしてやらんことも無い。
「わぁ、いっぱいある・・・これだけ買ったら高かったよね」
鎧で覆われているのにぱあっと顔が明るくなって高かったよねで一気に逆に傾いた。
「申し訳なさそうな顔すんな、素直に喜んどきゃいいんだよ、まったく」
買った日用品の三倍ぐらいしか金はかけてない、ちょっとクズ鉄組み合わせて作った人形売ってくれば百体ぐらいですぐに稼げる。精々半月もあれば十分、暇を持て余してる俺にとっちゃなんの苦でもない。
「で、でも・・・ピノッキモン時々寝ないでずっと人形作ってるし、無理してくれたのかと思ったら・・・」
「全然無理なんかしてねぇよ、まったく俺が好きで作ってる人形なんだから楽しいに決まってるだろうが」
俺の身体は基本的に木で作られているわけだし時々油を注してるから徹夜ぐらいじゃそこまで疲れない。まぁちょっとは疲れるがせいぜいフルマラソンを完走するぐらいの疲労度だからさして支障はない、本当心配されることなんて無い。
「好きなら、その、何で売るの?」
「・・・そりゃあれだよ、作るまでが楽しいんだ。まったく・・・芸術はグランデスビッグバンって言葉もあるだろ、発想が出て作るまでがグランデスビッグバンなんだよ」
正直くず鉄を集めて接着したりするときに少しミスったりするとイライラするけど?全然何作ればいいのかわからなくて頭抱えて悩んだりとかするけど?そんなことは些細なことだ、コキュートスブレスぐらいしかストレスを感じることはない。
「だいたいこういう時に言う言葉はちげぇだろ、まったく」
別にお礼の言葉が聞きたいわけじゃない、喜んでもらえればいいというかなんというかそもそも俺はあくまで買い出しのオマケで買ってきたわけだし気まぐれというか金が余ったから買って来てやっただけというか、お礼を言われればそりゃ嬉しいかもしれないけど聞きたいというわけじゃない。
「ピノッキモン。あ、りがとう・・・」
相棒は少し照れたような感じで言う。やっぱりカオスデュークモンらしくない感じだ、まぁ嫌いな訳ではないがそういう感じのは幼年期とかがするやつだろ普通。
「・・・どういたしまして、まったくでかい奴がそういう感じで言うと気持ち悪くて仕方がねぇな」
とっとと塗り始めろよと言って背中を押してやるとまた嬉しそうな感じではけを取りに小走りで行った。俺の全力疾走と並ぶぐらい早いけどあいつにとっては小走りだ、マントで飛んだりもするし本当無駄にハイスペックでムカついてくる。俺じゃなくてあいつが買い出しすればずっと早く終わるだろうに他と関わりたくないって言うんだから仕方がないけど。
「じゃあ俺、人形作ってるからな!」
そう叫んで置いて自分の部屋に入る。他の部屋は極彩色だが俺の部屋は静かな灰色だ、さすがに寝る場所は落ち着きが欲しいということで白色に塗ったのだが鉄粉やら楠美やらで気が付いたら全体がグレーになってた。まぁこっちのほうが落ち着くからいいのだが微妙な金属光沢があるせいでどことなく相棒の鎧っぽい感じがある。夜になると空の青暗さが映ってよりそれらしく見える。まぁ今は昼だからそうでもないが。
さて、どんな人形を作ろうか。今日買い出しに行ったついでに人形を売ったらサンゾモンとかいうデジモンが子供向けのを五十体程大量に発注してくれた。学校を経営しているとかで安く玩具を提供して欲しかったんだそうで値段がもう少し高くてもこの頑丈さなら十分に安いとか言っていた。
とりあえず幼年期向けとして考えて、やっぱりロイヤルナイツとか七大魔王とかの奴とかそういうのがいいだろう、学校なわけだし創作よりも多分勉強になってくれる。
姿形がわかる有名なデジモンてきとうに模倣して作っていこう。材料はいくらでもあるし、道具だって今日買い足した。足りないのは具体的なイメージぐらいだ、ものすごい致命的だけど。そもそもロイヤルナイツとか七大魔王とかオリンポス十二神族とか四大竜とか四聖獣とか身近にいるようなデジモンじゃないんだから資料でもないと作れない。
まとまった金はまぁあるし売れそうなゴミだってあるから売って金でも作ればプロマイドぐらいは手に入るだろうけどそれはつまり今日はもう何もできないということだ。
適当に何か作るかとも思ったが全部元がゴミだから二つ同じものを作るのは難しい。ほとんど不可能だとすら言っていいかもしれない、初めて発注された仕事なわけだし妥協しないで頑張って定期的に納品できるようにしておきたい、そうできなくても不足が出たらピノッキモンにとなれば他にも買い手がいっぱいつくようになるだろう。多分。
仕方ないから色塗ってる様子でも眺めて一日過ごしてよう、飽きたら一眠りして起きたら寝てる間ににあいつが作ってくれた飯食って油さしたり汚れ拭き取ったりして、明日に備えて相棒の色になった部屋でゆっくりご寝よう。
で、ふと思い出す。そういえば相棒はカオスデュークモンだ、その姿はロイヤルナイツの一体であるデュークモンと色味が違うだけな筈だ。じゃあ相棒をモチーフに作れば注文に相応しいそれができる。
そういえばなんで俺は今まであいつのことを作ろうと思わなかったんだろうか、街で見かけたデジモン達は許可を得ることも無く手当たり次第に作って来たのになんでか作ってない。
扉へ向かっていた足をUターンして作業台の前に座る。あいつの姿は毎日毎日飽きるほど見てる、実際に飽きたことは何故か無い訳だが、とにかく瞼の裏にすぐ浮かぶほどだから特に資料なんかいらない。
ナットとか螺子とか鉄板とかすでに丸く加工されていたり薄く加工されていたりそういう金属系のやつでそれぞれのパーツのパーツを作って、木を削った部品とかでそれをつなぎ合わせる。螺子は使うけど接着剤とかは使わない、すぐ外れるし金属も付けられるようないい接着剤はけっこう値段が張るから元が取れない。
部品が見づらいなと思ったら日が落ちかけていた。デュークモンはそれなりのでき、後はデュークモンのトレードマークの真紅のマントを付ければだいたい完成、色は付いて無いけど今までも付けてないしまぁいいだろう。
「ピ、ピノッキモン?その、ご飯できたよ?」
ちょうどいいタイミングで相棒が呼ぶ声が聞こえる。こいつの飯を作るタイミングは何故か俺の腹が減るタイミングにぴったり合う、時々夜食も作られてたりするしこいつには俺の未来が見えているのかと思うぐらいだ。少し気持ち悪いがまぁ長いこと一緒にいるしそんなもんなんだろう。
「おー、ちょうどひと段落ついたし行くわ」
どれだけ疲れても変わらず軽い体を持ち上げ食卓まで行こうと歩いていって部屋の扉に手をかけて、ふと机の上の二体の人形も持っていくことにした。金属とか木のごみは俺のところに置いておくが布とかはあいつのところに置いてあるからそれっぽいのを探してもらう必要がある。
「きょ、今日は食用サボテンステーキと、に、肉の脂身の辺りを、こうね?カッリカリに焼いて・・・あとデジタケも一緒にしたスパゲッティ」
自信作だと嬉しそうに笑っている。匂いだけで美味しいんだろうなということがわかってくるぐらいで俺はすぐに食卓に乗ってサボテンを切って口にいれた。少し粘りがあるサボテンの味自体は薄いがかけてあるソースがサボテンの微かな甘みを殺さないように旨みを追加してくれる。
「いつもながらお前は飯作るのだけはうまいな」
新しく塗られた箇所も極彩色で訳が分からない、とりあえず明るい色ならいいだろうと縫ってるんじゃないかと思うぐらいだ。
「そ、れは、ピノッキモンにお世話に、なってるから・・・なにかできたら、いいなって・・・」
スパゲッティ―を行儀悪くすする。カリカリのベーコンの食感がアクセントになって食が進みそうな感じがある。
実は俺には美味いというのがわからない、元はわかっていたのだがどこかのタイミングで味覚とそこを繋げる回路が壊れたらしく旨みだって感じるのに美味いというのだけわからない。今ではだいたい味覚の構成でどんなものが美味いのかはわかるがそれでも本当にわかっているというわけではないと思う。
でも不思議とこいつの作る飯は美味い、なんでかはわからないが味覚と関係なく美味いとデジコアが認識してる。
「じゃあこれに使うから赤と紫の布があったら持ってこい、こっちの方は色塗りもやってくれ」
「えと、これって・・・私?」
二体のデュークモンの人形、一方は俺史上最高のできでもう一つはそれなりのでき。
「あぁ、こっちだけな。もう一つは発注された人形だから赤色の布でデュークモンにする・・・ニヤニヤ笑うな気持ち悪い」
「うん、でも・・・ピノッキモンが私を作ってくれるなんて初めてだから、嬉しくて、その、ありがとう」
わざわざ言わなくていいんだよ馬鹿、そう咄嗟に口に出してしまったがなんとなくこっちも嬉しい気分になってきた。今日の飯は一段と美味いかもしれない。