デジタルワールドの美味しい物語。   作:へりこにあん

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魔女のスープの物語。

迷いの森。デジタルワールドに数ある森の一つで、ありとあらゆるものが迷い込んでくる。迷った者達の終着点とも言われていてその内部には多種多様な外来デジモン達のみからなる奇妙なコミニュティが作られているとも・・・

 

私はそんな森の中央、静かな泉のほとりに一つの小屋を建てて暮らしている。いわゆるこの森の主とかさらには何故か処刑人とまで言われる立場だがあんまりそういう器でも柄でもないと私は思っているので言われる度に否定しているんだけど一向に収まらない。

 

「ねークロスモーン、ご飯まだー?」

 

下半身が煙になっている獣のデジモンが私の金属で覆われた体をコンコンと叩きながら聞く。

 

「後三十分ぐらいかな、バクモン。」

 

私はミドリデジタケの石突を爪で切り落としながらお釜の方の火加減を気にする。ここの近くではみんなパンを食べるが私は大陸出身じゃなくて遠い島の出身でその時からパンよりも米を食べている。といっても森の中で米は手に入らない、なじみの商人が月に一度大量のお米を格安でくれる。この前聞いたらロイヤルナイツのデュナスモン様がこの森を優遇しているらしい、彼は唯一この森の出身で私とも面識がある。もう手の届かない人になっちゃったけど私のことを友人扱いしてくれる。

 

「じゃあ、今日の夜ご飯はなーにー?」

 

バクモンが私の金属製の翼によじ登りながら手元を覗きこんでくる。まぁ流石にこれくらいで体勢を崩したりしないけど体勢を崩すデジモンは崩すのでやめてほしい。

 

「よじ登るのをやめたら教えてあげるよ。もうやっちゃだめだからね?」

 

「はーい!で、なーにー?」

 

私の翼から飛び降りてバクモンは私を見上げる。もう少し強く言わないとまたやるかもしれないけど怒るのは得意じゃない、楽しくないから。

 

「ミドリデジタケの肉炒めとデジタケの炊き込みご飯。」

 

この森の泉で取れる魚も選択肢にはあるのだけれど毎朝ご飯と焼き魚なので昼と夜は焼き魚にならないようにしている。ただお米以外はこの森の中で取った物だけでやりくりするようにしているので自然とデジタケやミドリデジタケ、オレンジバナナ、あとニッコリンゴにデジジャコ、デジナマズ、デジコイぐらいを使うことになる。

 

調味料もあまり潤沢じゃないのが少し辛いところだ、故郷にはあった味噌か醤油が欲しい、塩か醤油かだけでも味や香りは変わって来るのに。というわけで一年と少し前になじみの商人から聞いた魚醤とかいう調味料を作ろうとしてできた時のことを考えて一か月ごとに一つずつ容器を増やしているのだけど・・・せっかくだし今日つかってみようか。

 

「わーい!僕炊き込みご飯大好きー!」

 

調味料もケチったデジタケのだし任せの薄味炊き込みご飯だけどバクモンはとても喜んではしゃぎまわっている。少しやっぱり使おうか・・・と思ったところで大事なことを思いだした。濾す作業をやってない、固形物を取り除いた液体が魚醤、まだ濾してないから使えなかった。

 

「とりあえず他の子達も呼んできて、さっきも言ったけど後三十分ぐらいだから。」

 

「はーい!」

 

バクモンがふわふわと浮きながら小屋から出て行く。他の子達と言うのはここに迷い込んできたデジモン達だ。少し前に何人か独り立ちしていったので今いるのはバクモンを入れても五人なのだけれど一時期は二十人超えてたこともある。

 

デジタケを爪で裂きながらちょっと色々と昔のことを思いだす。自然と頬が緩むような感じになるのは何故だろう。

 

「・・・気持ち悪いですよ、一人で笑うの。やめた方がいいです。あと女々しいです、料理してる姿がしっくりきすぎてます。」

 

「うーん、でもやっぱりいい思い出はニヤニヤしちゃうんだよ。ウィッチモン。」

 

箒に乗った赤い装束の魔女、ウィッチモンは私に向けて箒を突きつける。彼女は七年前に独り立ちしていったデジモンでもともとウィッチモンの状態で迷い込んできたのだけれど彼女はバクモンみたいな進化前の小さい時に風に運ばれて迷い込んだデジモンじゃない、異世界から迷い込んだデジモンだ。

 

この森は異世界ともつながりやすい。異世界から迷い込んでくるデジモン達にこの世界で暮らすか元の世界に戻るかを選択してもらう。ウィッチモンはこの世界で、特にこの森で暮らすことを選択した変わり者だ。だいたいは元の世界に帰ることを望むというのに、というかウィッチモン以外ここに来たデジモン達は皆帰って行ったというのに。

 

「だからってニヤニヤは気持ち悪いです。あと女々しいです。」

 

ウィッチモンは宙に浮いた状態から私を見下ろして辛辣なことをウィッチモンは無表情で言う。私は無表情に見えてしまう種族だけどウィッチモンはわざと無表情を作ってる。

 

「まぁそれで私が悪く思われてもどうでもいいし女々しくても気にしないよ。ところでウィッチモンはよく私の表情わかるね、よく無表情で怒ってる見たいって言われるのに。」

 

本当に不思議なのだ。バクモンもわからないし私自身泉に映して見ても違いが判らないというのになんでわかるのだろうか。

 

「・・・ここにいた時、散々クロスモンの顔、見てたからですよ・・・でも、深い意味は無いですからね。勘違いとかはしないで下さい。本当に違いますから。絶対そういうのじゃないですから。」

 

何故か少し必死なウィッチモンだが深い意味ってどういうことなんだろうか、勘違いとかもよくわからないしそういうのってどういうのだろう。

 

「ウィッチモンは家事全般手伝ってくれてたもんね、確かに私の顔を見る機会は多かったようなきがする。」

 

私がそう言うとウィッチモンはその金属の外殻にはやっぱり感覚通ってないんですね。とか言って魔術で浮かせていた大なべを私の頭の上に落した。

 

それを私は普通に片手でキャッチしたのだけれどそれも気に入らなかったみたいでウィッチモンは無表情のままだった。

 

「ところで今日は一緒に食べてくんだよね?」

 

ウィッチモンは鍋を持ってくるときはだいたいその中身はスープだ。私があまりスープを作らないので時々みんなの分も持ってきてくれる。

 

「クロスモンがスープを作らなくてかわいそうだから持ってきただけです。」

 

私がスープを作らないのは鍋を倒して火傷する子が時々出るからなのだけどそこは置いておく。

 

「まぁまぁたまには一緒に食べようよ。ウィッチモンがいた方がみんなも私も嬉しいし。」

 

そう言うとウィッチモンは少しだけ考えるような感じで私の顔色を窺った。多分笑顔だと思うのだけど変な顔してたらどうしよう。

 

「・・・なら仕方ないですね。たまには一緒に食べてあげます。それとお釜、火から離して蒸らさなくていいんですか?焦げは美味しいですけど焦げすぎはまずいですよ?」

 

そういえばと急いでお釜をかまどから外す。これで後に十分ぐらい蒸らせば炊き上がり。このタイミングに合わせて炒め物を作って、そのまま土鍋をはめていた場所にウィッチモンから貰った大なべを置く。やっぱり若干冷めてしまっているから温め直さないといけない。

 

「本当にありがとうね、ウィッチモン。やっぱり魔法って便利なんだね。」

 

「まぁ私は特に水と風の魔法に精通してますから。でも誰でも覚えようと思えば覚えることはできます、こっちの世界のデジモンでも少しだったらできますし・・・教えませんけど。」

 

ウィッチモン達にとってこっちの世界では主に高等プログラム言語と呼ばれる魔法はウィッチェルニーと言われる異世界から来たデジモン達にとっては生きるための術だ。私達が奪っていいものじゃない。

 

「教えてくれなくてもウィッチモンが時々来てくれればいいよ。ところで炒める時手伝ってくれる?僕の腕は二本しかないから一度に全部炒められなくて・・・」

 

はいはい、本当にクロスモンは仕方ないですね。ずっと来てあげますよと言ったウィッチモンは何故かヘビーイチゴみたいに真っ赤になってその状態のまま風の魔法で私が炒める分まで一気に炒めだした。

 

「わーすげぇ!フライパンが浮いてるぜー!!」

 

どうやらバクモンがみんな連れて来たらしくてバクモンと一緒に薄い紫色の獣型のデジモンと緑色の皮膚の人型のデジモン、青いカブトムシのようなデジモン、そして歓声を上げたのが背中に何本も刃が付いた黄色いデジモンだ。

 

「ウィッチモンさん・・・こ、こんばんは。」

 

「久しぶりですね、ガジモン。クロスモンを落とし穴に嵌める作戦は成功しましたか?」

 

おずおずと話し掛ける紫色のデジモンにウィッチモンは視線を合わせて問いかける。ちなみにフライパンはふったままである、魔法って本当に便利。

 

「ううん・・・あ、あれからね、一週間で二百七十三回掘ったけど全部はまんなかった・・・ギザモンが全部はまったけど。」

 

「俺以外誰も引っかかってないのかー?」

 

さっき歓声を上げたデジモンがガジモンに聞く。ギザモンは今週毎日泥だらけになって泉に私の手で放り込まれた。終いには放り込まれるのが楽しくなって自分からハマりに行って放り投げろーと言っていたのを覚えている。

 

「・・・となると次の作戦です。何が何でもクロスモンを泥だらけにしましょう。」

 

「う、うん・・・」

 

ウィッチモンに頭をぽんぽんとされてガジモンはこくこくと頷く。内容がもう少しいいことだったら私も普通に喜べるのに。

 

「なぁなぁクロスモーン。今日も泥だらけだぞー!!」

 

「はいはい、わかったわかった。そーれっ!」

 

ギザモンの背中の刃を持って上段に上げ、窓から外の泉に向かって放り投げる。おーと言う歓声を残してギザモンは泉の中に落ちる。自分で飛びこんでくれないかなーと思うけど成長期のギザモンだと窓から泉までは飛びこめない。

 

「・・・クロスモン。これって私のせいですか?」

 

「・・・間接的には、そうかもしれないけど。まぁもともとギザモンは水中と陸上を行き来するデジモンだから気にすることはないよ。」

 

つい私はバクモン達にそうするようにウィッチモンの頭をぽんぽんと撫でてしまった。これは間違いなく怒られる。

 

「あ、ごめん。」

 

「・・・何を謝ってるんですか?子ども扱いはいただけませんけどフォローいれてくれたのはむしろ・・・あれです。」

 

少し顔をそむけて何かをごにょごにょとウィッチモンが言ったのだがやっぱり悪いことをしたという気持ちは収まらない。

 

「いや、どろどろのギザモンを触った後の手だったから・・・」

 

勿論私の手にも泥が付いていたわけで、ウィッチモンの帽子にも泥が私の手の形にべっとりと付いてしまっている。

 

「・・・こんなものすぐ落ちます。気にしません。」

 

ウィッチモンが指を鳴らすと帽子は指先から溢れ出た水で洗われて風がその水を吹き飛ばして元通りどころか元よりもきれいになった。

 

「次はクロスモンの番です。手を出してください。」

 

「いや、私は泉で洗ってくるからいいよ。」

 

「ダメです。泉の水には水生生物の糞とかも混じっています。ギザモンはいいですけどクロスモンはダメです。」

 

私はそれはギザモンが少し可哀想だよと言いながら手を強引に掴まれて洗われた。なんでか少しウィッチモンが嬉しそうだったけど少しだけでも成功したからだろうか。

 

「じゃあ次は他のみんなも洗ってあげてよ?」

 

「・・・仕方ないですね。シャーマモンからこっちに来てください。」

 

呼ばれて緑色の皮膚の人型のデジモンがウィッチモンの前に出る。ウィッチモン、よかったじゃん成功してと言ってにやりと笑ったシャーマモンはウィッチモンに全身もみくちゃに洗われて目を回した。多分手だけでも泥だらけにできたことを喜んでいたのだろうけど、照れなくてもいいだろうに。

 

「・・・ウィッチモン、照れなくてもいいのにね。コカブテリモン。」

 

私は何か手伝うことある?と聞いてきた青いカブトムシのデジモンに皿に盛ったご飯を渡しながらそう言ってみた。

 

「クロスモンのにーちゃんついに気づいたの?」

 

コカブテリモンはものすごく驚いたようでご飯を落としかけながら私の顔を心配そうに伺う。私はそんなにおかしな発言をしたのだろうか?

 

「でも私を泥だらけにして洗うのってそんなに楽しいのかな?・・・で、気づくって何に?」

 

「にーちゃんはもう少し乙女g・・・もがもが。」

 

「早く運びましょう、コカブテリモン。それと喋りながら運ぶと唾が入りかねません、やめるべきです。」

 

大きな手でコカブテリモンの頭部ごと口を覆ったウィッチモンはそのままコカブテリモンごと小屋の外のテーブルの方へと運んでいった。

 

「・・・?」

 

ウィッチモンはよくわからない行動をとる。やはりデジタルワールドに来て数年経つとはいえまだこっちの文化になじみ切っていないのかもしれない。それとも逆に私がこの森に籠ってるせいだろうか。

 

そういえばと思い出す。何時から私はこうなったのかと。過去の私はもっといろいろ弾けたクロスの名に相応しいデジモンだった。迷いの森はこの世界の玄関、異世界からのデジモンや物が月一ぐらいで迷い込んでくる。今と同じように私はこの森にはいたわけだけどその役目は保護と自立の支援、機関の手続きじゃなくて・・・

 

――プルルルルルルルルル・・・

 

小屋の中に設置された黒電話がなる。商人が来るのはもう少し後だしこの森のどこかに迷い込んだものがあったのだろうか?それともまたウィッチモンのスカウトか。

 

高等プログラム言語のある程度なら学べば使えるその素晴らしさが云々とか言ってウィッチモンを誘うデジモンはそれなりに多い。どこから情報が漏れたのかと言えばデュナスモンがチラッと話してしまったらしい。どうやら私のことをふ抜けたとか牙の抜かれただとか表現されて如何にすごいか、どんなデジモン達に慕われているかと言う話をして、その中で振れてしまったのが広まったと。

 

私のせいでもあるわけだからデュナスモンと二人で謝ったのだがそしたらじゃあお詫びということでこの森に住んでていいですよね?また守ってもらいますからとだけ言って許してくれた。

 

どうやらウィッチモンはここに永住するつもりなのでこういう話はそもそも聞かない方がいいような・・・でも仕事かもしれない。

 

ということでたっぷりと迷った後で出た。

 

「はい、もしもし。」

 

『遅いぞクロスモン。』

 

「あー、クラヴィくん?どうしたの?仕事?」

 

電話の相手はクラヴィくんことクラヴィスエンジェモン。六枚の羽を持つ金色の鍵を持った天使型のデジモンで異世界へと通じるゲート、ゼニスゲートを管理してる。デジタルワールド内でもだいたいの場所にゲートと言う空間の穴を開けて瞬間じゃない瞬間移動をすることができるデジモン。私が保護したデジモン達や物を元の世界に送る時にいつもお世話になっている。

 

『それどころじゃないんだ。近くの村で孤児院経営してるエンジェモンから連絡があって迷いの森にブレイクドラモンが向かってるらしい。このままだと森が無茶苦茶になるかもしれない、俺もゲートの使用申請が通ったらすぐ駆けつけるからそれまでにスクラップにしなくてもいいから機能停止に追い込んでくれ。』

 

「わかった。ちょうどごはん時だったんだけど・・・終わらせたらクラヴィくんも食べていく?」

 

『いただく。ウィッチモンのスープがあったら尚良し。』

 

「タイミングよくいるよ。」

 

『おしっ!じゃあ早く終わらせないとな!』

 

――ブツッ

 

クラヴィくんが回線を切ったのを確認して僕はウィッチモンの方に向き直る。

 

「ウィッチモン。ちょっとお仕事入っちゃったから先食べてて、五分で戻ってくるから。」

 

「・・・まぁいいです。五分と言いつつ三十分ぐらいかかるんでしょうけどそれまで何とかやっておきます。」

 

ウィッチモンは世話を押し付けられて不機嫌そうだったがそれでも引き受けてくれた。

 

「行って来ます。」

 

ひらっと手を振る。

 

「精々頑張って行ってらっしゃい。先に全部食べておきます。」

 

ほんの少しだけ笑ったウィッチモンに見送られて私は生体金属クロンデジゾイトで覆われた翼を羽ばたかせて一気に上空に上がった。バクモン達からも行ってらっしゃいという声がかかったのを聞いてさらに高く、森全体が見渡せるほどの高度にまで上がる。するとそれは簡単に見つかった。森の淵の方、迷彩柄に深緑色と目立たない配色なのにあまりにも大きくて意味を成してなかった。

 

幸先いいかもしれないと思いつつ僕は急降下しながらまっすぐブレイクドラモンに向かって行った。

 

ブレイクドラモンの姿はとても生物とは言い難く、パッと見で目以外に生身の残るところが見当たらない。

 

――グォォオォオォォォオォォォォォオオォオオォオオォォオオオオォォォオオ

 

口の中も生身だったみたいだけどそれよりもどうやらこの咆哮が僕を見つけたからのものであることが大切だ。まっすぐ向かってるのだから見つからないわけがないのだけれど意思がなさそうな割には早く見つかった。センサーも内蔵されているのかもしれない。

 

久しぶりの戦闘だ。あまり楽しい行為じゃないから乗り気じゃないけど仕方がない。

 

正面からツッコめば自然その攻撃は迎撃に向かう。ブレイクドラモンの腕に当たるだろうアームが私に向かって真っすぐ伸ばされる。

 

それを受け止めて体全体で押し込む。頭部の操縦席らしい部分をどうにかすれば何とかなりそうな気がするから無駄なことはしない。私にはあまり際立った攻撃は無いから単純に頑張る。

 

力ではどうやら加速していた分私に分があるようだけどやっぱりそう簡単には決めさせてくれなくて尾の先に付いたドリルで横から私を攻撃してきた。せっかくなので力を抜いてアームを引いてドリルが当たるようにするとガリガリと言う音と共に簡単にアームの先がバラバラになる。

 

アームを失ってこっち側に攻撃しにくくなったからかもう一本の尾のドリルに背中の三本のドリルもにゅうっと触手の様に伸びて私を襲う。これはプログラミングされている動きなのかドリル同士がぶつかること無く私を追い詰めていく。これは少しまずいかもしれない、当たり所が悪かったら死ぬかもしれない。五分で戻れるか怪しくなってきた。

 

「ふっ。」

 

覚悟を決めて空中で加速して一気に頭部を狙う。喰らっても頭さえ潰せれば森は守れる。ブレイクドラモンが死んで光の粒子にならなくても機能停止させればクラヴィくんが回収してくれる。

 

迫りくるドリル。一瞬バラバラに砕けたブレイクドラモンのアームが脳裏をよぎるが怖さを吹っ切るために逆に加速する。一本、二本、三本、四本、あと一本避ければ届くというところで避けきれない位置にドリルがやってきた。

 

「ていっ。」

 

クロンデジゾイトで覆われた腕はドリルが当たっても砕けなかった。反対の腕でドリルを下から弾いて上げ進路を確保する。やっぱり壊れないだろうなとは思ってたけども実際試すとなると少し怖いものがあった、昔みたいにはいかない。

 

ブレイクドラモンの頭の上に着地してみると何かレバーのようなものが生えていたがどれをどう動かせばいいのかわからない。停止スイッチぐらいあってくれればよかったのに全く見当たらない。

 

頭の上でのんびり考えていると後ろからドリルの回転する音が聞こえてきた。まさかこの状況で私を攻撃するつもりか?

 

私が急いで飛びあがるとそのほんの数秒後にはブレイクドラモンの頭に五本のドリルが刺さって頭を前衛的なオブジェへと変化させる。

 

「うわ・・・」

 

そう声が出た後にはブレイクドラモンは事切れて死んだ証の光の粒子になって天へと昇って行った。

 

「・・・お前、早すぎだろ。せっかく許可取ったのに遊びに来ただけじゃん俺。」

 

上を見上げるとクラヴィくんがあきれた様子で私のことを見下ろしていた。

 

「じゃあその分ゆっくり食事しようよ。今ならまだ冷めて無い筈だよ。」

 

「お前処刑人が復活したと思えばそんなに食事好きなのか?それともウィッチモンが好きなのか?」

 

私と同じ高さにまで下がって来ながらクラヴィくんがやっぱり呆れたような調子で言う。

 

「もう私は処刑人じゃないって言ってるのに・・・で、なんでウィッチモン?」

 

今もそう言う風に呼ばれてるけれどそう呼ばれてたのは十年も前のことだ。

 

「・・・いや、いいや。早く行こうぜ。」

 

クラヴィくんが虚空に鍵を差し込んでゲートを繋げる。私達はそれを通って私の小屋の上空へと出ると花にデジタケと魚介だしのいい香りが鼻をくすぐった。匂いだけで美味しいということがわかる。

 

ただ、それ以上に少し嫌な気配があるのを感じた。

 

「おやおや、処刑人様のお出ましですか・・・」

 

ウィッチモンと色合いが少し似た悪魔が私の姿を確認して昔のあだ名を言った。

 

そしてその腕の中にはウィッチモンがいて黒い石像になったバクモンが転がっていて他の五人は黒い石像の近くで怯えていた。

 

「・・・クラヴィくん、お願いしていいよね。」

 

「りょーかーい・・・」

 

クラヴィくんが少し離れたところの地面に着地して空に向かって鍵を突きだして捻る。空にゲートが開き同時にバクモン達の下にもゲートが開いてクラヴィくんのところに全員集まる。

 

「ゼニスゲートの鍵までいるとはとても敵いそうにはありませんね・・・まったく世の中思うようにはいかないものです。この前は暴食の魔王様に強制退化させられ、今度は虎の子のブレイクドラモンまで出したというのに計画はぐだぐだ、正直辛いです。」

 

フェレスモンは芝居がかった口調でそう言った。

 

「とりあえずウィッチモンを置いていってよ、私は怒るのはあまり得意じゃないんだ。今なら見逃すから。」

 

私は今どんな表情をしているだろう。ウィッチモンはフェレスモンにも怯えているけどそれ以上に私に怯えているように見える、きっとそれはそれは恐ろしい顔をしているに違いない。十年前まで表に出る程に抱いていた黒い気持ちがまたどくどくと溢れ出ている。十年前よりも強く思っているといっても過言じゃない。

 

「・・・そうはいかないのですよ。蠅の魔王に仕返しする気でいましてね、高等プログラム言語はそのために必要なんです。高等プログラム言語さえ教えてくれればすぐに返しますよ、美しい石像にして。」

 

ウィッチモンの顔がより一層の恐怖に歪む。最初に会った時と同じ表情だ。

 

あの時、ウィッチモンが来た時にこの世界に来たのはウィッチモンだけじゃなかった。なんとも形容しがたい化け物も一緒に現れた。それまで生まれた島を滅ぼした異世界のデジモンを憎んで異世界から来るデジモン達を無差別に排除する仕事をしていた私の視界の中でウィッチモンは島にいた無力なデジモン達と重なった。

 

もうすでに大分弱った化け物だったけれど元はロイヤルナイツクラスだったんじゃないかと思う程の強さでウィッチモンを庇いながら戦った結果私は死にかけた。ウィッチモンが拙い治療を施してくれなかったら死んでいた。そして処刑人だった私は死んだ。

 

異世界からのデジモンと言うだけで嫌悪感を抱く理由にはならないと知って、それまでただ殺すだけだったデジモン達を保護した。デュナスモンに連絡を取ってクラヴィくんを紹介してもらって送り返した。適当に追い出していた普通に迷ったデジモン達に居場所を作った。

 

次第に故郷にいた時のように表情にはでなくてもとりあえず笑えるようになった。

 

「それで許すとでも思う?本当に私を怒らせないでよ・・・」

 

生体金属クロンデジゾイト、生体とあるだけありそれは生きた金属、宿主と同調しその堅さを増したりもする。よって宿主の状態と言うのは大きく影響する。

 

――ギギギ・・・

 

翼を広げると金属の羽の一枚一枚が丸みを無くしより鋭利に凶器となり得る形へと変わっていく。それはつまり私がフェレスモンを殺したいという気持ちを多分に持っているということになる。

 

「いいんですか?あなたが大切にしているウィッチモンの命は私の手の中にあるのですよ?この美しい肌、傷つけたくはありません。」

 

フェレスモンが左手の爪でウィッチモンの頬をつーっと撫でる。

 

そういえばいくら格上とはいえウィッチモンは簡単に捕まるだろうか?そうか、バクモンを石像にして人質にしたのか、壊されたくなければとかそういうことを言って。

 

「・・・怒るのは得意じゃないって言ってるのに、手加減できなくなるんだよ・・・」

 

ウィッチモンが小さく口をパクパクと動かす。助けてなのか制止の言葉なのかはわからない、ただその瞳から一筋涙が流れたのが目に入って、私の中で何かがちぎれた。

 

「お前がウィッチモンを殺したら私はお前を殺す。十字の名にふさわしく磔刑のように両手両足の動きを封じて散々に苦しめ散々に辱めて殺す。羽と四肢を捥いであえて最低限の止血だけして次第に失血死していく様を嘲笑いながら殺す。」

 

そこからはもう何を言ったかも覚えていない。クラヴィくんが話し始めてすぐにバクモン達をどこかに追いやって自分自身もいなくなったことだけは辛うじてわかった。

 

怯えの色が見えたフェレスモンの腕の中でウィッチモンがぼろぼろと涙を流しているのを見て私は我に返り今にも飛び立たんとしていた。まだ怒りは収まらないし殺したい気持ちはとめどなく湧いてくるものの視界はクリアになった。

 

「・・・消えろ。今すぐ消えろ!!」

 

私が叫ぶとフェレスモンはこれが最後のチャンスなのだと悟ってウィッチモンを投げ捨てるようにして離れてから逃げた。ウィッチモンを投げ捨てたという事実にまた何かがおかしくなる。

 

「ミスティック・・・」

 

口の中に白い光線が集まる。あらゆるものを灰塵に化す攻撃の乏しいクロスモンの唯一攻撃に特化した必殺の一撃、それを私はフェレスモンに放とうとして、ウィッチモンが止めてと言ったような気がしてその方向を変えた。

 

「・・・ブレイク!!」

 

それはフェレスモンの右の羽を灰にするだけに留まってそれで終わった。フェレスモンは墜落したけれど死にはしないだろう。

 

私はスーッと胸の内に黒いものが戻っていくのを感じてほっと溜息をついた。とりあえずは大丈夫だ。一度こっち側に戻ってきてしまえばもう一度来ても最初からすぐに追い出せる。

 

「・・・大丈夫?ウィッチモン。」

 

立ち上がって服に付いた土埃を風の魔法で落とすウィッチモンに近寄りながらそう声をかけるとウィッチモンはかなり不機嫌な無表情だった。

 

「私は大丈夫です。特に害も与えられてませんし誘われ方は無粋でしたがデートのお誘いみたいなものです。」

 

ウィッチモンはそう言ったけれどもやっぱりかなり不機嫌そうで世代を超えて少し萎縮してしまう程の迫力があった。

 

「強いて怖いものがあったとすればクロスモンです。クロスモンはいつもみたいに女々しいぐらいでちょうどいいんです、最初会った時みたいにただの獣みたいなクロスモンは嫌いです。今の女々しいクロスモンの方が・・・その、あれです。どっちかと言えばですけど・・・好きです。」

 

何故か途中から語気が弱くなって顔も赤くなって箒を持ってもじもじとした感じでウィッチモンは言った。やっぱり普段言わないようなことを言おうとすると照れるんだろうか。

 

「そうだね、私も今の私の方が好きだよ。ありがとう。」

 

やっぱりその外殻は神経通ってないんですね。と言ってウィッチモンは盛大にため息を吐いた。確かにクロンデジゾイトと直接つながっているわけではにけど生体金属のクロンデジゾイトは私に感覚をちゃんと伝えてくれる。そういうことを説明するとウィッチモンはクロンデジゾイトじゃなくてクロスモン自身に通ってないんですねと言って箒で私を小突いた。痛くは無いけどこそばゆい。

 

「ところでバクモン・・・大丈夫でしょうか。」

 

私を小突きつつ顔を曇らせながらウィッチモンが言う。黒い石像にされたバクモンはクラヴィくんが連れて行ったままだ。

 

「大丈夫、クラヴィくん達天使型のコミニュティ-になら回復方法もあるはずだよ、連絡待ちだね。」

 

「・・・」

 

ただやっぱりウィッチモンの表情は晴れない。本当は少し怖かったのかもしれない。怯えていなくなってくれたkらいいけど先にウィッチモンを石にして運ぶとかされていたら間に合わなかったかもしれないしその後のことは想像したくもないだろう。私だって想像したくない。

 

「・・・ウィッチモン、またここに住む気、ない?」

 

とりあえず話題を変えようと思って一番最初に出てきたのはそんな言葉だった。でも考えてみれば悪くないかもしれない。

 

「え?なんですか・・・急に。女々しい方がまだましとは言いましたけど、自立もできないのはどうかと思いますよ?」

 

「いや、そうじゃなくてさ。ウィッチモンに傍にいて欲しいなって思って・・・」

 

そう言うとウィッチモンの無表情が崩れて顔は今までにないぐらいに真っ赤に、視線がきょろきょろと動いて嬉しそうな驚いたような感じでそわそわしだした。

 

「・・・その、それはあの、あれですか?その、えっと・・・あの・・・」

 

箒を風の魔法でぶんぶん振りながらもじもじするウィッチモンはなんだか普段のウィッチモンとは思えなかった。

 

「またこういうことがあった時に傍にいれないのは嫌だから。今日も同じ家にはいたわけだけど、別々に暮らすよりは守りやすいかなって・・・」

 

「・・・ですよね。クロスモンは目もありませんし神経通って無いんですね?そもそもデジコアちゃんと稼働してるんですか?思考プログラムのところに欠陥でもあるんじゃ・・・」

 

それと今日気づいたことがある。私の中でウィッチモンが捕まっているのを見た時、私は故郷を潰された時よりも怒りが溢れていた。まだ殺された訳でもなかったのに自制すらできないほどに。つまりこれが示すのは・・・

 

「後、もしかしたら私はウィッチモンのことが好きなんじゃないかなって思って。」

 

それだけウィッチモンのことが大切だってことで。相手を殺すのも厭わないぐらいまでになってるならそれはもう友情とかじゃないんじゃないかなと思って。そしたら恋愛感情かもしれないという結論になった。

 

「・・・」

 

ウィッチモンは何を言おうとしてたのかわからないけど口をパクパクさせて箒をグルングルン回転させて顔を再度真っ赤に染め上げてた。

 

「えっと、ウィッチモンは私なんか嫌いだろうから、デュナスモンとかクラヴィくんの方にいてもらう方向でもいいんだけど・・・」

 

慌てて言うとウィッチモンは我に返ったように箒の動きを止めて帽子を目深に被って顔を隠した。

 

「・・・やっぱりクロスモンは神経通ってないみたいです。というか気が付いて提案したわけじゃないんですね?私は、ずっとその、アピールしてたじゃないですか。その、えっと、好きだって・・・」

 

「その、それはオッケーって、こと?」

 

「それ以外にあるわけないじゃないですか・・・遅いです、遅すぎます。クロスモンはもう少し私のこと見てくれるべきです、もっと見てください。私ばっかり見てると少し寂しかったりもするんです・・・」

 

「う、うん。」

 

帽子で顔を隠したまま私に飛びついてきたウィッチモンはなんだかとても可愛くて、私は抱きしめるべきかどうか迷って抱きしめようと手を伸ばした。

 

「おーい!!バクモンが治ったぞー!!」

 

その時に後ろからクラヴィくんの声がしてウィッチモンは私を突き飛ばすようにして距離を取って、私も驚いた上に押されたせいで転んで地面に仰向けになった。

 

「クラヴィスエンジェモンのにーちゃん、人の恋路を邪魔する奴にはスレイプモンがビフロストって諺があるんだぞ。」

 

見上げるような形になった私に覆いかぶさるようなクラヴィくんの足元にいたコカブテリモンが脛に肘を入れた。

 

「知らん。俺スレイプモンと知り合いだし、あの人博愛主義者だし!」

 

「クラヴィー、最低だねー。」

 

バクモンはクラヴィくんの頭によじ登ってガンガン殴りつけてる。コカブテリモンと違って遠慮が無い、全力だ。私がなまじ堅いから力加減が分からなくなってる。でもクラヴィくんはそこまで堅くない、ブレイクドラモンよりも柔らかい。

 

「痛っ痛っ・・・黙れガキ共。俺はデューク先輩みたいに親友が結婚秒読みみたいなことをぐちるためにわざわ三大天使様経由で俺を呼び出すような感じにはなりたくないんだよ!」

 

「大人気ねぇ通り越して情けねぇ。ギザモン、乗れ。」

 

「おーっ!」

 

シャーマモンが棍棒でクラヴィくんの足を払って、そこにダメ押しとばかりにギザモンがぶつかる。

 

「お、おぉっ!?」

 

そして後ろによろけたクラヴィくんが視界から一気に消える。何事かと思って立ち上がって見てみると爪をちょっと土で汚したガジモンといつの間にか深く深く、クラヴィくんがすっぽりハマるぐらいに掘られた穴と腰で折れてザリガニみたいな形になったクラヴぃくん。と、おまけにギザモン。

 

「えと・・・その、や、やっぱりよくないと思うんです。」

 

もじもじと言うガジモン。一週間で二百七十三回落とし穴掘っただけのことはある。ギザモンも結局はまってるけど。

 

「くっ・・・羨ましいんだよコノヤロー!幸せおすそ分けしろー!!」

 

クラヴィくんが何とか出ようともがく。しかしゼニスゲートが関係してない時のクラヴィくんはかなり非力だ、具体的に言うと私の三分の一ぐらい。ブレイクドラモンにあっさり押し切られるぐらいだ。

 

「・・・ならおすそ分けしてあげましょう。」

 

いつの間にか復活したウィッチモンが私を押しのけて箒の柄を落とし穴の方へと向けた。

 

「アクエリープレッシャー!」

 

全力で放たれた水の魔法がクラヴィくんの仮面を正確に狙って注がれる。全身クロンデジゾイトで覆われた私でもちょっと恐ろしい光景である。仮面は歪んでいるし溺れそうだしでとても可哀想だ。ギザモンは喜んでるけれど。

 

「今幸せですか?そうですか幸せですか!じゃあもっとどうぞ!遠慮はしなくていいですよ、いくらでも出せますから!!」

 

「ウィッチモン、落ち着いて!」

 

流石にクラヴィくんが可哀想だったのでウィッチモンを羽交い絞めにして引き離す。最初は邪魔しないでくださいと言っていたウィッチモンだったけど次第にもじもじしだして大人しくなった。

 

「クロスモンだいたーん。」

 

「後ろから抱き着くなんて普通できないよなー。にーちゃんすげー。」

 

「あ、ごめん・・・」

 

バクモン達にからかわれて慌ててウィッチモンを下ろすとウィッチモンは上機嫌で早く食事にしましょうと私の手を取り、五人を風の魔法で持ち上げてテーブルにつかせた。やっぱり魔法って便利だ。

 

「さてと、少し冷めちゃったかもしれないけど・・・」

 

もうすでに六人分並んでたご飯やスープを見ながら自分の分もよそう。クラヴィくんの分は用意しようか迷ったけど食器だけ出しておくことにした。

 

「私が温めます。火の魔法は苦手ですけど・・・」

 

ウィッチモンが集中した様子で箒を振るうとご飯やスープから湯気が立って美味しそうな匂いが強くなる。

 

「じゃあ、食べようか。」

 

「あ、あの・・・ウィッチモンさん、クロスモンの隣、座らなくていいの?」

 

ガジモンが席を立ってウィッチモンの服の裾を引っ張る。ウィッチモンがその手を洗ってやりながら私の方を見たので私は少し恥ずかしいなと思いながら頷く。

 

ウィッチモンは私の隣に座ってガジモンはウィッチモンの席だった席に座る。ガジモンもみんな嬉しそうにニコニコ笑っていた。

 

「じゃあ、今度こそ・・・」

 

「「「「「「「いただきます。」」」」」」」

 

七人で言って一斉にご飯やスープや炒め物に手を付ける。何から食べるかは少し性格が垣間見えて楽しい。

 

「あ、そういえば今度ウィッチモンに手伝って欲しいことがあるんだけど来てくれる?」

 

「何言ってるんですかクロスモン。今日から私ここに住むんですから来るも何もないじゃないですか、やっぱりデジコアが働いてないんじゃないですか?で、何をするんですか?」

 

私は魚醤とについて簡単に説明し、濾す必要があるということを説明した。ウィッチモンなら魔法で簡単に濾せるんじゃないかと思ったのだ。

 

「それだったら濾すまでも無いです。液体だけ部分だけ操って取り出せば大丈夫・・・今日の炊き込みご飯、しっかり味してますね。」

 

ウィッチモンが炊き込みご飯を食べて少し微笑む。

 

「ミドリデジタケの内何個かは先に出汁取って、勿体ないから炒め物に・・・このたまごスープもやさしい味だね。ほっとする。」

 

私とウィッチモンは顔を見合わせて少し笑う。それを見てコカブテリモンとシャーマモンがニヤニヤ笑ってガジモンとバクモンが嬉しそうにしてギザモンはそもそもこっちを見ずに炒め物に夢中だった。

 

「ちくしょうこの馬鹿夫婦め!」

 

なんとか這い上がってきたクラヴィくんが律儀に体を泉で洗ってから空いている席にどかっと座って自分の分の炊き込みご飯と炒め物、スープを取って食べ始めた。

 

「・・・そこそこ美味いのが余計に腹立つ。」

 

「そこそこと言うなら食べなくても大丈夫です。ギザモンにでも上げてください。」

 

「まぁまぁ、みんなで食べた方が美味しいから。」

 

「くそっ・・・嫌なやつだったらよかったのに・・・」

 

クラヴィくんも入れて八人で囲む食卓はいつもよりも騒がしく、いつもよりも楽しく、いつもよりも幸せだった。


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